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2014.07.12
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カテゴリ: 読書案内
【新田次郎/武田信玄 林の巻】
20140712

◆宿命のライバル、信玄と謙信が川中島にて決戦
現代はとりわけ合理的なものの見方、考え方が尊重される。
いかに無駄をなくすか。
一分一秒の短縮が成功へのカギとなっている世の中である。
何事にも優先されるのは、スピーディーであること。
プロセスはショートカットされ、結果ありきの現実。
しかし現代人は、そのおかげで多大なる恩恵に預かっているのだから文句は言えまい。
戦国の世にあって、一国をおさめる主ともなれば、その感覚は過去も現在も変わりはない。
その証拠に武田信玄も、時間には大変うるさかった。
たとえ愛妾と同衾中であったも、使者衆が駆け付けた際には、必ず知らせねばならないことになっていたとのこと。

著者は、信玄を次のように捉えている。

「晴信(信玄)は勝れた戦術家であったが、その根底に、時間に対する徹底的な尊重感があった。時間を失うことが国を失うことになるというのが彼の哲学であった」

さすがに名将・信玄である。
時間だけは、人の力ではどうにもできないことを知っていたのだ。

さて「林の巻」では、甲斐の国主となった晴信の愛妾であり、諏訪頼重の息女でもある湖衣姫が、労咳のため亡くなる。
さらには、同盟国である駿河の今川義元が上洛の軍を発すものの、桶狭間の戦にて信長に敗れてしまう。
後半においては、いよいよ越軍の長尾景虎(後の上杉謙信)と川中島の決戦に臨む。
一冊の中に山場となるくだりが、これでもかこれでもかと押し寄せて来るため、まるで飽きない。

「林の巻」のあらすじはこうだ。
晴信の目下の気がかりは、越後の長尾景虎であった。
山本勘助の情報によれば、佐渡の金山を握った以上、景虎の国力は今や日ノ本一ではないかとのこと。

晴信はそれを絶対阻止せねばならない。
なぜなら、晴信の意志こそ、甲信の平定であり、京の都を望むことだったからだ。
長尾景虎は、朝廷から関東管領職の内命を受けていた。
鶴ケ岡八幡宮にて上杉家の家督を相続することを誓い、ここに上杉政虎が誕生する。
そんな政虎が一万三千を率いて、いよいよ春日山城を進発した。

越軍の本隊は異常な速さで善光寺に集結していた。
信玄は慌てた。
向かうは川中島である。
夜を日についで川中島へ急がねばならない。
こうして合戦の火ぶたが切られようとしていた。

巻末に寄せられたあとがきに、面白いエピソードが載せられていた。
新田次郎がこの『武田信玄』を連載し始めてまもなく、「早く川中島合戦を書いてくれ」という読者の要望があったそうな。
じっくりと史実に基づき、ペンを進めている著者にとっては迷惑な話だったかもしれないが、一読者としてその気持ちはよく分かる。
私も川中島の戦を早く読みたいクチだったからだ。
川中島の、辺り一面に霧が立ち込める場面なんて、ワクワクする。
霧の向こうから粛々と敵が迫って来るような緊張感が、なんともたまらないのだ。
この霧を上手に利用することで勝負が決まるのだから、甲軍も越軍も気象の変化に関する情報には物凄い力の入れようだったと思われる。
ちなみに著者・新田次郎は、元気象庁職員なので、この川中島の霧についてはずいぶんと心を砕いたのではなかろうか。

宿命のライバルでもある信玄と謙信が、川中島にて対峙するくだりは、誰が読んでも胸が躍るし臨場感に溢れていて申し分ない。
勝敗は、前半・越軍優勢、後半・甲軍の巻き返しだ。
さて、皆さんはどちらに軍配をあげるでしょうか?

『武田信玄』新田次郎・著 [吉川英治文学賞受賞作品]


20140705
コチラ


20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.134)は新田次郎の「武田信玄 火の巻(第三巻)」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.07.26 04:26:18
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