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児童向けハイファンタジー作品の第2巻を読んだ。〇ストーリー東の国境紛争は落ち着きを見せたものの,シャンドラ国は南の樹海へと進軍をすることを決める。その部隊に幼馴染の兵士アルと,好意を寄せている村の娘・ニーナが加わることを知り。トトは鳥人の友人・ジュライと共に,部隊を追う。彼らをトカゲ族,沼の精霊が待ち受け,さらにその先には樹海の魔女が控えている。果たして,トトは友人たちを救い,シャンドラ国に平和をもたらすことが出来るのだろうか?-----------講談社からの出版されているファンタジー作品だし,二木真希子の装幀なので長いシリーズなのではないかと思っていた。実際表紙にはローマ数字で「トトの冒険I」「トトの冒険II」と表示されている。当然,「V」くらいまでは続くのかと思っていたら,あっさりと2巻で終了してしまった。いろいろ欠点はあっても,これから良くなると期待していたのに。残念だ。-----------舞台となっているシャンドラ国は,北を海,残りの3方を蛮族のいる樹海や荒れ地に接している要塞国家だ。ごく一部の人々が魔術を扱うことが出来,彼らは国を守り,そして貴族として搾取をしている。歴史上の武士や騎士階級を魔術師に置き換えたような設定で,無理はないのだが,第1巻からこの状況が意図的に作られ,魔術師の支配を安定させるために,様々な欺瞞があることが明らかになる。既に第1巻の終わりで,ある秘密は明らかになってしまった。物語はさらに加速をし,密約をした樹海の魔女との戦いと,貴族層としての魔術師の没落に向けて進む。もっと寄り道をしながら,徐々に国のこと,周辺の蛮族と言われている人々のことなどが分かってくるのかと思っていたが,加速が止まらなかったようで,第2巻で語ることが無くなってしまった,という印象だ。-----------第1巻もトトはたった1人で王城に乗り込んで,友人・ジュライを助けたが,この2巻でもたった4人の少年少女が500年間樹海を支配した魔女の王国を崩壊させてしまう。500年もあれば,人間側でも支配体制の矛盾に気付いた人もいるだろうし,強力な軍隊が組織出来て樹海に進軍出来た時代もあったと思う。それを凌いできたシャンドラの体制や樹海の王国なのだが,トトと仲間たちの前にあっさりと敗退してしまう。トトは強い魔術の才能を持っているという設定だが,それにしても2つの国を破ってしまうほどのものとは思えない。主人公たちを補強するために,遠方からの味方とか,伝説の武器でも出してくればいいのに,いつも通りの服装の少年少女が,500年間続いた国を打ち破ってしまう。物語のバランスが取れていないので,読んでいて展開の強引さが気になる。せっかく丁寧に作られた本なのにもったいない。-----------作者はあとがきの中で,「みなさんの脳細胞を最大限に使って,続きを想像してみてください」と述べているが,本来もっと長いシリーズのはずが,あまりの内容に打ち切られたと想像されるので,このセリフはないなあ。足元ときちんと固めないから,物語が育たなかったのだと思う。残念。
2017.06.30
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近藤史恵のフランス料理ミステリー〈ビストロ・《パ・マル》シリーズ〉の第3冊目を読んだ。○ストーリー〈パ・マル〉に来ていた女性客は,フランス時代にシェフ・三舟と一緒に修行をしていたことがあった。彼女は腰を痛め引退し,実業家として3つの店を経営するほど成功していた。一緒に来ていた2人は,女性スタッフだけで運営するフレンチの人たちだった。その1人,新人パティシエールの岸部は化粧と香水を止めるように言われる。間もなく岸部は「マカロンはマカロン」というメッセージを残して行方不明となってしまう。その言葉と行動の真相とは?------------下町の商店街にある小さなビストロ〈パ・マル〉を舞台にしたミステリーだ。無口で無骨なシェフ・三舟,気配りのスー・シェフ・志村,女性ソムリエの金子,そしてギャルソンの〈ぼく〉・高築の4人で店は切り盛りされている。町中のビストロらしく,提供されるのはフランスの田舎料理が基本で,名物は田舎風パテ,豚の血を使ったソーセージ・ブーダン・ノワール,豆の煮込み・カスレなどだ。店で起きた小さな謎に〈ぼく〉や志村が気付き,それを三舟が解く,というパターンだ。日常ミステリーとも言えるが,毎回料理が紹介されるので,フレンチを食べたくなって仕方がない。三舟たちの謎解きは,基本は優しい結末を迎えるが,中にはひじょうにビターなものもある。3冊目となると,全体的にマイルドではあったが,それでもブラックなものもあった。甘いだけじゃ楽しくないので良い。------------「タルト・タタンの夢」(2007年),「ヴァン・ショーをあなたに」(2008年)で,レギュラーメンバーの過去は紹介されているので,8年ぶりの3冊目なのに淡々とシリーズが展開されただけだった。この辺りで長編だったり,〈パ・マル〉を離れたフランス旅行編とかがあったりすると,変化があって良いのだけれどなあ。とは言え,展開される日常ミステリーは上質で,十分楽しめる。大人の上品なミステリーだ。オススメできる。------------各編について簡単に感想を述べる。「コウノトリが運ぶもの」:〈パ・マル〉の近くに出来た自然食品店〈AB〉の女性オーナー・安倍は,来店した際に「フランス料理と和解をしに来た」とつぶやく。彼女は乳製品アレルギーで,幼い頃より苦労をしてきたという。彼女が自宅にあるコウノトリ柄の陶器の鍋について話した時,三舟はある提案をする。・・・冒頭からなかなかチカラの入った短編だ。ゲストの現在と過去を描いて見せて,ほろりとさせる。見事!三舟の推理はちょっと鋭すぎる?「青い果実のタルト」:〈パ・マル〉でブルーベリーのタルトを要望する客が数名いた。調べると,ブログで店を紹介した人がこれを食べたと写真付きで書いていたのだ。問題は店ではブルーベリー・タルトは過去も現在も出していないことだった。その真相は?・・・三舟は,ブログの作者に写真とは異なるタルトを提供するのだが,それくらいでは皮肉になっていない気がする。怒っていてこれならば,三舟ってけっこうぬるいキャラなのかも?ちょいビター。「共犯のピエ・ド・コション」:中学1年生の息子を持つ女性が,口下手で大人しい教師の男性と再婚をする。2人が仲良くなれるかが心配されたが,フライドチキンのバレルをきっかけに2人は打ち解けたようだった。息子の肉嫌いも解消され,記念に訪れた〈パ・マル〉でフランス版・豚骨までも頼むようになる。だが出てきた料理を見た時,息子は?・・・伏線はいろいろあったけれど,気付かなかった。意外性のあるミステリーだし,雰囲気も暖かくてよい。「追憶のブーダン・ノワール」:独身男性の常連・犬飼が,婚約者を連れてきた。犬飼は,豚の血で出来たソーセージ,ブーダン・ノワールを2人分注文する。だがシェフの三舟が取った行動とは?・・・なかなかヘビーなテーマを扱っていて,とても考えさせられる。確かに日本人ってこういうところあるよなあ。「ムッシュ・パピヨンに伝言を」:〈パ・マル〉に初めて来た洒落ものの西田は,出入りのパン屋の試作品・ブリオッシュ・サン・ジュニを見て,イタリアでの思い出を語る。その話を聞いた三舟が出したアドバイスとは?・・・さすがに出来過ぎだろう,という短編。ラブだねえ。「マカロンはマカロン」:〈パ・マル〉に来ていた3名の客は,女性ばかりで運営することを目指したフレンチのスタッフだった。その1人,新人パティシエールの岸部は化粧と香水を止めるように言われ,「マカロンはマカロン」というメッセージを残して消えてしまう。果たして真相は?・・・一見ビターのようだけど,料理人が匂いをするものを避けるのは当たり前らしいので,ちょっとワガママだよなあ。微妙だ。「タルタルステーキの罠」:「タルタルステーキはあるか?」という確認をしてから〈パ・マル〉に来た客。彼女たちのうち1人は妊娠中で,タルタルステーキなどの生肉は避けるべきだった。けれども別の人物から一口勧められて,妊婦の女性も食べてしまう。この計画は何のためだったのか?・・・すわ殺人未遂?というほどの緊迫感があった短編なのだが,結末は当然だが別。謎解きにはロジックの破綻は無いのだが,ひどく気疲れをしてしまった。先行きが思いやられる。「ヴィンテージワインと友情」:〈パ・マル〉ではワインの持ち込みは許可しているが,”抜栓料”を取る。6人の若い人が食事を予約したが,そのメンバーの1人の女性が高いワインを6本持ち込んだ。彼らの食事は少しずつ不自然な部分があった。後日,店を1人で訪れた女性に三舟が伝えたこととは?・・・はっきりとは書かれていないが,この女性は三舟たちのアドバイスを受け入れなかったような気がする。だいぶ嫌な気持ちになるけれど,味のある短編だった。ビターというより酸っぱい。
2017.06.29
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小路幸也のデビュー作品を読んだ。〇ストーリー〈僕〉の息子はひとの顔が”のっぺらぼう”のように空白に見えるようになってしまった。それを知った〈僕〉の兄は,すぐさま現れ,長い長い物語を語り始める。それは30年前,子供だった〈僕〉たちが暮らしていた〈パルプ町〉で発生した事件の物語だった。幼い〈僕〉が知らない間に,〈パルプ町〉で起きていたこととは?----------物語は大きく3つの部分で構成されている。1つ目はごく短い導入部で,語り手・凌一の息子・彰が”のっぺらぼう”症候群を起こす。ここからは,凌一の兄・恭一が語る30年前の〈パルプ町〉の物語となる。これが本編なので,全体の9割以上を占めている。2つ目は,昭和30年代の〈パルプ町〉を舞台にした小学生の日常が描かれる。クワガタを採り,社宅の同級生たちと秘密基地で遊び,学校の怪談に怯え,バスで大きな市の百貨店に行く。そして3つ目は,”のっぺらぼう”症候群を起こしていた恭一が体験する殺人事件だ。実態は自殺や病死なのだが,人間の心や身体の弱さを利用して,それを引き起こしている謎の人物がいる。恭一は新しく出会った仲間と共に,その存在と対峙する。----------レトロで懐かしさを呼び起こす2つ目の要素は,細かいディテールを書き込んでいるし,恭一の回想録という手法もあり,ひじょうによく出来ている。それと比べると,3つ目のダークファンタジー的な要素は,未消化で上手く伝わってこない。暗い虚無感にとらわれた人間は〈違い者(タガイモノ)〉になり,それを見つけて厚生あるいは駆除するのが〈解す者(ゲスモノ)〉らしい。だが恭一は,どちらとも異なる〈観察者〉になったらしい。〈違い者〉と〈解す者〉だけであれば二元の対立構造で単純なのだが,〈観察者〉の存在がきちんと伝わってこないので,もやもやしたまま終わる。しかも導入部の息子・彰も〈観察者〉となるワケで,最初の謎かけが分からないまで終わる。----------物語の舞台を現代においていたら,ただのラノベファンタジーになってしまっただろうから,そこを30年前に設定したのは正しい判断だと思う。おかげでしっかりした存在感のある空間が生れ,ファンタジー要素が入り込んできても,作品が薄っぺらくならなかった。悪しきものの正体が,人間に憑依する悪意のかたまり,という部分は,村上春樹の「羊をめぐる冒険」の影響もあるような気がした。あちらは1970年代がノスタルジーの対象だが,こちらはさらに過去となっている。----------ミステリーだと思っていたら,ロジカルな説明も無しに犯人が判明し,結局動機も手順も不明なまま終わる。森博嗣を読みなれていなければ怒り出すところだ。(褒めてないけど)さすがはメフィスト賞受賞作品だ。(褒めてないけど)小路幸也がこうした作品でデビューしたということを知ることが出来たのが収穫かな?
2017.06.28
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北森鴻の美しい骨董業〈冬狐堂〉こと宇佐美陶子の連作短編集を読んだ。○ストーリー-----------店舗を持たない骨董業,”旗師”の女性を主人公にした〈冬狐堂シリーズ〉の第3作目だ。これまでの「狐罠」「狐闇」は長編で,主人公・宇佐美陶子は謀略から命がけで身を守るような状況にあった。この作品は4編の短編集であり,さすがにそれほどは危険な状態にはならず,一編一編を落ち着いて楽しむことができる。扱われる美術品は,萩焼,埴輪(はにわ),友禅,そして円空仏と,小品だがバラエティに富んでいる。北森鴻の作品を読んでいると,まるで自分が宇佐美陶子たちと同じような美術鑑賞の玄人のような気分になれるし,少なくとも知識と美術品への愛着が増える。短編集という構成は「孔雀狂想曲」の骨董業〈雅蘭堂〉にも似ているが,主人公が時々見せる業の深さ,凄みはやはり〈冬狐堂〉独特のものだ。-----------前作「狐闇」が北森鴻作品オールキャストのような空気があったので,今回は他のシリーズからのゲスト出演はない。わずかに間接的な協力が語られるだけだ。まあお祭りパターンを毎回するワケにはいかないので,適正な判断だと思う。どの短編にも美術品に対する気付きが盛り込まれていて,素人とはいえ美術ファンなので律せられる気分になる。ミステリー要素を覆い隠してしまうような,業や情念が語られるのだが,美術品を中心に展開されると不思議とすんなりと説得されてしまう。いつまでも読んでいたくなるシリーズだ。オススメだ。-----------各編について簡単に感想を述べる。「陶鬼」:宇佐美陶子に陶器について教えてくれた骨董業・弦海礼次郎が,萩焼の名品を壊したのちに自殺をしたという。不審に思い山口県に飛んだ陶子は,弦海がその名品を遺した名工・久賀秋霜の兄弟子であったことを知る。作品の破壊と自殺の真相とは?・・・正直〈冬狐堂〉でなくても成立する短編で,かなり穏やかに終始する。冒頭の短編としてはこれくらいがよいと思う。北森鴻の作品では頻繁に山口県が舞台になると思っていたら,作者の出身地だった。「「永久笑み」の少女」:遺跡から工芸品を掘り出す〈掘り師〉・重松徳治が,美しい笑みを浮かべた埴輪を持ち込んだ。重松は自分の技術を継承した孫娘・綾子の失踪に関して,作家・町沢泰之を疑っていることを伝える。そして重松が死亡した時,宇佐美陶子は・・・これもまた小品だが,〈掘り師〉だけが見ることのできる世界が描かれていて印象的だ。でもちょっと人が簡単に死に過ぎじゃない?「緋友禅」:宇佐美陶子がたまたま立ち寄った銀座のギャラリーでは,久美廉次郎という作家の友禅の技法を用いた独特の緋色のタペストリーが展示されていた。陶子は作品全てを購入することを伝えるが,半月後事故死をした久美の元には作品は1つもなかった。そして半年後,別の作家が久美の作者として注目を集め始めていた。宇佐美陶子は・・・素直に勧善懲悪で驚いた。もっとドロドロしているかと思ったし,作品の秘密も想像ついてしまう。残念。「奇縁円空」:故人の骨董品の鑑定に赴いた宇佐美陶子は,円空仏の逸品を発見する。鑑定のためにそれを銘木屋・大槻に見せた彼女は,大槻の不思議な反応に気付く。後日,陶子は,大槻が人を刺して逃亡中であることを知り驚く。事件は30年前の,北条鬼炎という〈木地師〉が起こした円空の贋作〈鬼炎円空〉の事件へとさかのぼる。陶子がたどり着いた山奥の小屋では・・・この本の後半を使った中編で,なかなかチカラが入っている。「狐罠」で登場した銘木屋で贋作師の大槻が再登場するが,枯れた風だった前回と異なり,人まで刺してしまう熱い行動をとる。文章の量も,作品内部で流れる時間も,この短編集で一番分厚いものとなっている。いかにも〈冬狐堂〉の作品で,登場人物が全員裏がありそうだ。面白い。
2017.06.27
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東野圭吾が自ら転機となったと語っている作品を読んだ。〇ストーリー日本でも代表的な企業・UR電産で新社長となったばかりの須貝正清がボウガンの矢で殺害される。ボウガンは,先代社長・瓜生直明のコレクションの一部で,事件は瓜生家・須貝家の親族たちが遺産の美術コレクションを譲り受けようと集まっていた日に起きた。事件の捜査に呼び出された刑事・和倉勇作は,瓜生家の人々と因縁があった。先代社長の長男・瓜生晃彦とは幼馴染で小学校から高校までライバルだった。また晃彦の妻・美佐子は,勇作の元恋人だった。さらに勇作は幼い頃に知人の女性が不審死をするという事件を経験しており,その裏には瓜生家が動いていた。この事件により明らかになる宿命とは?----------初期作品から東野圭吾を読んでいると,最近のずっしりとした人間模様を描く東野圭吾との作風の違いに驚く,ということは何回も書いてきた。最近読んだ加賀恭一郎シリーズの「眠りの森」も美しい作品だったが,今回の作品が一番それ以降の”僕らが認識している東野圭吾”が生まれた転機だというのは,読んでいてもひしひしと感じた。ミステリーの謎解きが作品の要素であるのはもちろんなのだが,それよりも瓜生家の運命に捕らわれていく勇作,晃彦,美佐子,そして多くの人々の生き様が中心になっていて見事なドラマが出来上がっている。----------事件の裏には戦後の動乱期に行われた医療実験があり,それが人々の運命を変えていく,という辺りは,ちょっと作り込み過ぎという気もした。和倉勇作と瓜生晃彦が小学校から高校までずっとライバルであり続ける,という状況もリアリティが薄い。瓜生家・須貝家の一族の愚かな言動はテレビドラマのパロディのようだ。ほんの一歩間違えれば安っぽいサスペンスになるところを回避して,見事に重厚にまとめあげているのに感心した。抑制された淡々とした表現と物語の流れのおかげだろう。----------”あの東野圭吾”が完成された瞬間の作品と言っても良いだろう。もっとも初期作品から読んでくると感慨があるけれど,期待いっぱいでこの作品を読むと,さすがにアラが目立つかも知れない。悪くない佳作だ。
2017.06.26
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静岡県藤枝市の旧東海道の岡部宿に珍しい〈水琴窟〉があることを知り,聞かせてもらった。場所は岡部宿の歴史資料館にもなっている,旅籠屋柏屋(かしばや)だ。静岡駅から路線バスで途中寄り道をしながらたどり着いた。まずは柏屋の建物を見せてもらう。弥次喜多の実物大人形があったりして,なかなかライブ感があるし,係の人が詳しく説明をしてくれる。店は繁栄していたらしく,書の作品も複数あるし,香時計の実演も見せてもらった。さて中庭に出ると,池の近くに〈水琴窟〉はあった。地上には鹿威しの半分みたいなものがあり,その足元が砂利敷きになっていて,1か所だけ丸い金属の穴がある。用意されている1m程度の長さの竹を手に取り,片方を穴に,反対を耳に当てる。すると,小さい音の連なりが聞こえてきた。自然の音のようで,音階もあり,流水の音も聞こえ,とひじょうに幻想的だ。題名が思い出せるのは,北森鴻の「闇色のソプラノ」だけだが,複数の作品に登場しており,いつか聞きたいと思っていたので,これで夢が達成できた。
2017.06.25
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石持浅海が書いた,殺し屋が主人公という珍しい連作短編集を読んだ。〇ストーリー----------主人公が殺し屋というミステリーだ。主人公は本業があり,副業として殺し屋も営んでいるという設定だ。作品の中では優秀な殺し屋ということらしいが,射撃が天才的でも,格闘技のプロでも,神がかったハッカーでもない。依頼されたターゲットについて地道に調査を行い,1人になる瞬間を待ち,襲って逃げる,という地味な仕事人だ。例によって石持浅海作品なので,不自然な設定で物語は進む。それぞれの短編の読みどころは,”なぜ対象は狙われるのか?””なぜ依頼者はキャンセルをしてきたか?”など,ミステリーで言うところの〈なぜ?〉〈ワイダニット?〉となっていて,殺し屋の仕事の部分は付け足しみたいなものになっている。----------仕事の流れは,依頼者→最初の仲介者→2人目の仲介者→殺し屋→ターゲット,となっていて,それぞれが1人前の人物としかコンタクトを取らないので,安全という設定だ。請負仕事での,元請け,下請けでフツーにある流れなのだが,石持浅海としては画期的だと思ったらしく,やたらと鉄壁の機密保持だと表現していたが,フツーだし,定点監視をしておけば簡単に分かりそうだ。また仕事の値段も650万円で,よく分からないけれど高い気がした。外国人を雇えば1/3で片付けてくれそうな気がする。----------様式美のつもりなのか,各編で本筋から離れた繰り返しの表現が多いが気になった。そこそこ刊行されている作品は多いのだけれど,いつまで経っても上手くならない作家だ。----------各編について簡単に感想を述べる。「黒い水筒の女」:ターゲットの女は保育士だが,定期的に水筒の水を家の近くの夜の公園に捨てていた。そこから〈ぼく〉が推理したこととは?・・・推理が飛び過ぎていて,ついていけない。あと殺しの手順が,ずさん過ぎて偶然への準備が全くなしなので驚いてしまった。「紙おむつを買う男」:ターゲットの若い男は,一人住まいなのに定期的に紙おむつを購入する。それはなぜか?・・・この推理はまだロジカルだった。ただし,他にもやり方があるだろうとは思った。「同伴者」:仲介者の場に現れた依頼者は,母親同伴だった。そこから見えてきたこととは?・・・昨今は会社の就職面接にも付き添おうとする親がいるらしいので,少しも不思議だと思わないが?それより,殺し屋は仕事請けるのかい!!「優柔不断な依頼人」:ターゲットはベンチャー企業の社長だった。だが依頼,キャンセル,が2回も続き,最後には?・・・殺し屋に仕事を依頼するという物語としては,一番説得力があった。「吸血鬼が狙っている」:ターゲットの女性に,吸血鬼の咬み跡を付けて殺してもらいたい,という依頼があった。・・・読んでいて,咬み跡なのか,吸血鬼に襲われたと思わせたいのか,よく分からなかった。死ぬんだから,咬み跡関係なくない?「標的はどっち?」:ターゲットの女性は紹介通りの仕事場にきちんと存在した。だがその女性と部屋をシェアをしている女性も同じ名前だった。果たして本当のターゲットは?・・・もちろんあり得ない状況なのだが,ミステリーとしては面白い。「狙われた殺し屋」:依頼されたターゲットは〈ぼく〉だった。謎を解くために,〈ぼく〉は依頼を請けることにする。そして時間は迫り・・・いや,どう考えてもあれが依頼者だろう。盛り上がらないまま終了だ。
2017.06.24
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ベストセラー作家・東野圭吾のブラックユーモア短編集を読んだ。〇ストーリー大型客船から無人島に漂着した人々は,助けが来るまでその島で暮らすことになる。だが島には電気もなく全く娯楽がなかった。たまたま彼らの中には過去の大相撲の取り組みのラジオ放送を全て記憶していて再生してくれる老人がいた。人々は老人が語る大相撲の放送に夢中になり,そして・・・----------以前,東野圭吾の「あの頃の誰か」という短編集を読んだが,マジメで有名なこの人が短編ではしばしば脱力系の小説を書いていることを知って少し驚いた。「浪花少年探偵団」のイキのいい大阪弁から分かるように,東野圭吾は大阪出身だ。チカラの入った長編ばかりを書いていると,どこかで息抜きをしたくなるに違いない。ただし「〇笑小説」と銘打って,すべてユーモア小説だという設定も,なんだか逆に疲れる気がする。同じ大阪出身の本格ミステリーのエース・有栖川有栖も,よく脱力するユーモアを作品に混ぜるのだが,通常のミステリーでそれを投げ込んでくるのは一枚上だと感じた。シリアスかユーモアなのか,最後まで読まないと分からない方が,個人的には面白いと思う。この「〇笑小説」は4冊刊行されているので,人気はあるのだろうけれど,どういう人がターゲットなのか,もう1つよく分からない。----------各編について簡単に感想を述べる。「鬱積電車」:通勤通学の人々で混雑する電車の中は,人々の不満と我慢が溜まりに溜まっていた。爆発寸前のその空間に・・・僕も電車通学通勤を何十年も続けているが,日本のラッシュアワーは本当に非人道的だ。ただ,それを小説で追体験したいとは思わないけれど。「おっかけバアさん」:倹約して暮らしていた勝田シゲ子は,譲り受けたチケットで,役者の杉平健太郎の公演に行き,その別世界に夢中になってしまう。シゲ子の公演通いはエスカレートし・・・うーん,リアル過ぎて笑えないと思うな。「一徹おやじ」:一徹な父は,息子・ユウマをプロ野球選手にするために,小学校前からウサギ跳び,鉄下駄,プロ野球選手養成ギプスで鍛え上げる。努力が実り中学,高校,そして大学と有名選手となるユウマだが・・・「巨人の星」のパロディは大量にあるので,だから何,という感じ。「逆転同窓会」:巣春高校は学区の変更がきっかけで優秀な生徒が集中した十五期という時代があった。面倒見がよい人がいた関係もあり,その時の担任たちは同窓会を続けていた。ある時,せっかくだから生徒たちを呼ぶことになったのだが・・・この短編はワンアイディアだけなのだけれど,ちゃっかりブラック視点で面白いと思った。「超たぬき理論」:少年の頃,和歌山の田舎に行った若山一平は,タヌキが空を飛ぶのを見る。その体験をベースに,彼は一生をかけて超常現象のすべてをタヌキに関連付けて体系化する。・・・東野圭吾は理系ですなあ。「無人島大相撲中継」:大型客船から無人島に漂着した人々は,電気も本もなく何日も過ごすことになる。だがたまたま彼らの中には過去の大相撲の取り組みのラジオ放送を全て記憶していて再生してくれる,徳俵という老人がいた。徳俵の相撲放送は大人気となり・・・これもキレイにブラックな落ちがついて良い。「しかばね台分譲住宅」:しろかね台では価格の下落が住民たちの悩みの種となっていた。そんな中,その真ん中で刺殺死体が発見されてしまう。そこで住民たちが決定したこととは?・・・ブラックではあるのだけれど,使い古されたネタで先も読めてしまうのが残念。あと長い。「あるジーサンに線香を」:身内がおらず孤独に生きていた老人は,医者に協力を乞われ,ある実験に協力する。その驚きの実験とは?・・・笑えないし,ブラックでもない。パロディとしては三流だ。「動物家族」:中学2年生の肇は,家族も級友たちもすべてが動物に見える。タヌキの父,スピッツの母,ハイエナの兄,猫の姉。肇のストレスは溜まり,ついに・・・もう一捻りが欲しかった。
2017.06.23
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森博嗣の〈Xシリーズ〉の6作目を読んだ。○ストーリー〈SYアート&リサーチ社〉の小川令子は,上村恵子という女性から人探しを依頼される。彼女は鳥坂という男性と結婚したはずだったのだが,その男に預金を持ち逃げされてしまったのだ。鳥坂のマンションに出向いた小川は,彼を探している女性が他にもいることを知り,この男が結婚詐欺師であることを確信する。だが鳥坂は死体で発見され,さらに〈SYアート&リサーチ社〉は事務所閉店の危機を迎える。------------もうミステリーじゃないだろう,と言われていた〈Xシリーズ〉が,この巻で完結だそうだ。このシリーズは10年かけて6巻で完結,〈Gシリーズ〉は12年かけて10巻でも未完。これまでの森博嗣のシリーズ作品は,それぞれ10巻で完結していたので,どうも座りが悪い。それにしても〈S&Mシリーズ〉が2年,〈Vシリーズ〉が3年で10巻を刊行して完結したことと比べると,刊行のペースは格段に落ちている。その上,申し訳ないが,ミステリーとしては内容が超薄味,という印象なので,森博嗣ファンとしては長い間,飢餓状態に置かれている。もうほとんど即身仏だが。------------さて,例によって謎めいた存在のオーナー・椙田は〈SYアート&リサーチ〉の経営から身を引くことを宣言する。また事務所を手伝ってくれていた真鍋瞬市と永田恵理子たちも,就職を決めて離れることになる。小川令子は,この事務所にいた5年間を,さらには以前の会社の10年間を振り返り,たった1人となっても事務所を引き継ぎ経営を続けるか,このまま解散するかどうかの決断をしようとする。そうしたシリアスな展開もあり,結婚詐欺という事件を追っていることもあり,森博嗣作品とは思えないほど,普通の人の気持ちに沿った描写されている。事務所での,小川令子,真鍋瞬市,永田絵里子たちの仲の良いやり取りも,今となっては懐かしくほっとさせられる。けっこうキツイこと言い合っているけれど,この3人は仲が良かった。真鍋瞬市は,森博嗣の男性キャラクターでは,小鳥遊練無は別格とすると,抜群に話しやすい相手だ(・・・ということがようやく分かった)。------------シリーズ最終巻にふさわしく,最後にはシリーズ読者へのサプライズプレゼントが待っている。確かに,あの人物,急に頭が冴えだしたと思ったら,そういうヒネリか!〈Gシリーズ〉は最新刊で,〈Wシリーズ〉へとつながる未来へと行ってしまったので,〈G〉と〈X〉が合流した新シリーズが始まるのだろうか?〈Wシリーズ〉は面白いけれど,完全にSFなので,現代を舞台にしたシリーズはあった方がうれしい。ミステリーであることは諦めているけれど。もういろんな謎は解けなくても良いので,”環境小説”的に定期的に森博嗣ワールドを覗き見ることが出来れば,それでいいや。------------不満が多かった〈Xシリーズ〉で,正直大した進展もなかったけれど,〈Vシリーズ〉っぽいのんびりした部分は好きだった。
2017.06.22
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北森鴻の医療ミステリーを読んだ。〇ストーリー新宿のホームレス村に〈エビス〉という男に連れられた〈トウト〉という少女が現れ,彼らの女神のように扱われるようになる。一方,サイエンスライターの相馬研一郎は,かつての師であった帝都大解剖学教室の吉井教授が刺殺されたことを知り,調査を開始する。そして相馬は,自分のライバルで吉井研究室を継ぐと目されていた九条昭彦が〈エビス〉と呼ばれホームレスになっていることを知る。吉井教授,九条,彼らの運命を狂わせてしまった禁断の実験で明らかになったこととは何なのか?事件を追う相馬を,別の男たちがまた追う。この事件の決着は?---------久々に北森鴻の作品を読み終え,うなった。ストーリーの構成,スピードの緩急も見事だし,筆力も確かで安心して読める。だがこの作家には人が抱える様々な闇を描いて見せる能力がある。しっかりとした作品を書く実力派は他にも大勢いるが,このプラスアルファこそが北森鴻の魅力だと思う。---------ミステリーとして始まった作品は臓器移植問題を正面から取り上げている骨太の展開となる。ポイントは脳死が本当に人間の死の判断基準として間違いがないか,というところだ。こうした固いテーマを扱いつつ,実験のシーンがおどろおどろしかったり,物語はサスペンスとして読みやすいので,飽きることなくページを進めることが出来る。〈トント〉という少女の予言めいた不思議な言動だったり,研究一本鎗だった吉井と九条の変化だったり,時尾保という怪しい製薬会社の男の存在,こうしたちょっとした毒が,作品に魅力を与えている。圧巻はラストの新宿中央公園での対決だろう。誰が誰を脅し,誰が手玉に取ったのか,このシーンには鳥肌が立った。---------やはり北森鴻は他の作家にない”ツヤ”がある,ということを再認識した作品だった。最も,もっと素晴らしい作品があるので,この作品はパスしても良いかも知れない。
2017.06.21
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加賀恭一郎が登場する東野圭吾の〈加賀恭一郎シリーズ〉第2作目を読んだ。〇ストーリー日本有数のバレエ団である高柳バレエ団の事務所で男性が死ぬ。この人物は深夜に事務所へ窓から入り込み,驚いた女性団員が花瓶で殴ってしまったというのだ。正当防衛が認められることが濃厚だったものの,団員は警察に拘留される。だが1週間後,高柳バレエ団の演出家・梶田がリハーサル中に劇場で殺されたことで,事件の謎は深まる。そして徐々に悲劇が明らかになり・・・----------東野圭吾の作品は,有名になった作品をいくつか読んでいた。今回,初期作品から順番に読んでいると,どうも技巧的で違和感があった。〈新本格ミステリー〉ほど大袈裟ではないが,いかにもミステリーという不自然さがある。現在の東野圭吾の人気を支える,しっかりしたリアリティ,人間描写の細やかさは陰に隠れてしまっていて,ありがちなミステリー作品という印象が強かった。だが,この作品に至り,これぞ東野圭吾作品!と感じた。ミステリーとしての完成度は下がったかも知れないが,小説としては確実に磨きがかかっている。----------やはり主人公・加賀恭一郎の存在が大きいと思う。いろんな意味で魅力的な男性で,強さも弱さも持っている。ストイックなワリには女性へ紳士的なアプローチを平然と行ってしまう図太さも持っている。こうしたキャラクターを中心に据えることが出来れば,安定した物語が構築できる。初期作品には,”近しい男性を喪った女性”という設定の主人公が多かったが,それから離れることが出来たのも良かった。「卒業」では大学生で,ヒロインの視点から描かれていた加賀だが,この作品は刑事となっていて,彼の視点で物語の多くの部分が進む。「卒業」執筆の際に,どこまでプランがされていたかは不明だが,刑事・加賀恭一郎としてはこれが最初の作品になるワケだ。----------題名の「眠りの森」は,まずはバレエ作品の「眠りの森の美女」を現し,次には世間から離れてバレエの舞台の成功のために努力し協力する団の関係者たちのソサエティを示していると思う。この作品の魅力は,バレエ団という世界に切り込んで行き,事件も物語もそこゆえに成立する,あるいは発生するというギリギリのバランスの中で出来上がっていることだと思う。この構成にするために,どれだけバレエを研究し,どれほど試行錯誤をしたかと思うと作者の努力に圧倒される。----------さらにこの作品は,悲しい恋愛の物語でもある。大きな悪意を持っていた人がいたワケではないのに,少しのきっかけで全てが悪い方向へと行ってしまう。東野圭吾のターニングポイントではないだろうか?
2017.06.20
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逃亡する少年少女たちを追う探偵を描いた打海文三の長編を読んだ。〇ストーリー10年前に集団自殺により崩壊したカルト宗教集団があった。だが生き残り親戚に保護されたはずの8人の子供たちは,徐々に姿を消していた。そこに注目したルポライター・高森夏子に雇われ武井隆治は調査を始める。だが武井たちが迫ろうとしていた少年少女のグループを追っている者は別にもおり,そして殺人事件までも起きていた。その先に待ち構えていたのは?-----------またもや〈アーバン・リサーチ社〉という調査会社のメンバーが登場するハードボイルド長編だ。いつも通り,主人公は武井という調査員で,これまでと異なる人物だ。それでも鈴木ウネ子,佐竹,寺西などが登場して,主人公たちをサポートをしてくれる。主人公が続けて登場するのではなく,サブキャラが毎回同じという不思議な連続性を持つシリーズだ。-----------初期作品から順番に読み進んできて徐々に分かってきたが,打海文三の作品はけっこう破綻している。物語の流れはどんどんと変わっていくし,語り手も継がれていく,しまいには物語のジャンルまで変わってしまう。普通だったら腹を立てて読むのをやめてしまうのだろうけれど,この作家は実に人間描写が上手いので,つい説得させられて読み進んでしまう。ジャンルにこだわらないのが本当の作家なのかも知れないが,ハードボイルドを読むつもりが純文学というパターンが続くと,説得されつつも,ちょっとなんか違う気もしてくる。-----------この作品も主人公はライターの高森夏子と思わせて,早々に調査員・武井隆治へと移る。さらにそこから逃亡生活を送る少年キムと少女エルへと移りかける。物語は打海文三の作品としては,かなりハードな部類で,多く人が傷付けられ,さらに命も落とす。それでありながら,登場人物たちの淡い気持ちの触れ合いが優しく描かれる。このアンバランスさが打海文三なんだろうなあ。-----------批判をしようとすれば,いくらでも欠点がある作品だ。例によって武井隆治は女性に好意を持たれっぱなしだし,その上,多様な才能に溢れている。少年少女たちはどう考えても不可能なことを実現している。それでも実際に読んでみると,どうしてもこの作品を擁護したくなる世界観がある。打海文三,卑怯と感じるほど,ストーリーテリングが上手い。独特の酩酊感を味わうことが出来る。万人にオススメは出来ないけれど,はまったら離れられない。
2017.06.19
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姉が友人とバス旅行に行く予定がある。関西から来る人もおり,バスターミナルで待ち合わせとなるので,下見に行くというから同行した。バスタ新宿とは,新宿駅から甲州街道を挟んだ反対側の線路の上に建設されたバスターミナルだ。JRの駅からは直結しているとはいえ,新南口という間違えた時にしか下りないので,1年前に開業したのに僕も一度も足を踏み入れたことがなかった。せっかくなので,僕も見学をしたくなり,一緒に行くことにした。-----------行く前に公式サイトをのぞいてみると,どうもチグハグな感じがある。最近の空港みたいに,日本の土産物だったり,ちょっとおしゃれなショップがあるかと思って調べてみたのだが,施設設備のコーナーに堂々と〈飲料自動販売機〉が並んでいる。この施設は,テナント入居に入札を行ったのに,その後条件を一方的に変更して辞退されたりなど,お役人っぽい運営体質が批判されたけれど,この不親切で愛想のないサイトは,まさに役所みたいだ。-----------新宿駅について甲州街道を渡ると施設の目の前だ。路面が2Fということらしくて,エスカレータを一層上ると3Fとなっている。だがこのフロアは降車専用になっていて,ロータリー以外ほぼ何もない。さらに一層上がると4Fでインフォメーションカウンター,待合室,券売機,コンビニがあり,ようやくターミナル駅という空気になった。新しくて明るいから救われているが,どうも華やかさがない。空港はともかく,電車,地下鉄の駅,船のターミナル,道の駅,どの旅客施設も,訪れる人,そして見送り出迎えの人が時間を過ごすことが出来るように構成されている。土産物の店一つ,カフェ一つもないなんて,どうかしていると思う。-----------その後,ドンキホーテをのぞこうと思ったら,まだ開店していなかった。なのでルミネに寄って折り畳み傘を買った。家の近くまで戻っていたら雨が降り始めていたので,さっそく使うこととなった。
2017.06.18
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〈嫌ミス〉の旗手・真梨幸子の長編サスペンスを読んだ。〇ストーリー神奈川県の名門私立女子校・蘭聖学園の89期卒業生の大崎多香美が事故死をする。その後,同期の漫画家・柏木陽奈子が事故に遭う。その事故の調査を依頼された同じく卒業生の弁護士・松川凛子は,彼女たちに届いていた〈6月31日の同窓会〉の招待状のことを知る。それは学園での「学校の怪談」の1つで,悪いことをした生徒は〈6月31日の同窓会〉に呼び出され,お仕置きをされるというのだった。調査を続ける内に,凛子にも招待状が届き,やがて彼女は学園に隠されていた秘密を知る。そして・・・----------湊かなえがベストセラー作家になってしまった結果,〈嫌ミス〉を離れ,感動できるサスペンスミステリーへとシフトしている気がする。その隙をついて真梨幸子が〈嫌ミスの女王〉になるかと思いきや,なかなかそうなる様子がない。もっと頑張ってもらいたい作家だ。----------この作品の舞台は,名門女子校だ。もっとも主人公たちは10年も前に卒業をしていて,それぞれ社会人になっている。けれども彼女たちは,今でも学園時代の人間関係やルールに縛られている。学園では中学と高校で,3年間ずつクラス替えがないので,人間関係が濃密になり,どうしてもそれが卒業後まで永続してしまう。さらに主人公の1人・松川凛子は,中学と高校の進学の際に生じるごく数名の編入生の1人だ。この小学校から9年間学園で暮らしていたメンバーの中に入らざるを得ないのだから,編入生たちのストレスはひじょうなものだったと思う。頻繁に挿入される学園時代の彼女たちの逸話からも,内部生と編入生のぎくしゃくした関係がうかがえる。----------時間軸が,現在から学園時代に戻るのはまだ分かりやすいのだが,現在の中で,意図的にエピソードの順番がずらされて語られている。さらに例によって驚くほど多くの登場人物が次々と現れて,ほのめかすようなセリフを言って,内心考えていることや過去の逸話はなかなか分からない。最後まで読めばサスペンスとしての整合性はあるのだが,それで”なるほどね!”とスッキリすることはない。逆にいろいろと読者に対してアンフェアじゃないの,という気持ちが出てきてしまう。せっかくいろいろと凝った構成にしているということは,かなりプランをして執筆をしているのだから,もう少しミステリーのカラーを強くしてくれてもよいと思う。----------登場人物を少なくして,リアリティを増やし,ミステリーカラーを強める。大変勝手ながら,個人的にはそれをお願いしたい。
2017.06.17
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東野圭吾の〈少年探偵団〉連作短編集を読んだ。〇ストーリーしのぶ先生のクラスの生徒・福島の父親が堤防で死体で発見される。この男は,定職につかず妻から金をせびっては遊んでいるクズ男だったので,あまり同情されない。だがやがて妻が疑われるが,彼女にはアリバイがあった。果たして事件の真相は?----------東野圭吾版〈少年探偵団〉はタイトルの通り,大阪の下町が舞台だ。元気な少年たちと,もっと元気な担任の竹内しのぶ先生たちが,危険な事件に挑む。時代設定は作品が発表された1980年代末期のはずなのだが,登場する人々の言動がベタなので,戦後なのではないかと錯覚してしまう。さすがの大阪人でもここまでコテコテじゃなかっただろう。きっとノスタルジーを込めて執筆されているのだと思う。とにかく「せや」「あかんねん」「しょむないな」みたいな浪花弁がずーっと続く。浪花の世界にどっぷりと浸れる。----------コミカルな〈少年探偵団〉ストーリーなのだが,短編で毎回殺人事件が起きる。にぎやかに事件を追いかけているが,実はかなりシリアスな状況だったりするので,現代ではモンスター・ペアレントが団体で抗議に来るだろう。しのぶ先生に惚れている若手刑事が,小学生相手に事件の情報をぺらぺらと述べてしまうのも,喜劇っぽい。今の時代なら,即更迭だろう。----------実は5年前のTBSのドラマを観ていて,なかなか楽しんでいた。多部未華子のしのぶ先生,小池徹平の新藤刑事,山本耕史のエリートサラリーマン・本間とキャストも上手くはまっていた。ドラマだからコメディ仕立てなのかとも思ったが,原作も完全にコメディドラマだった。両方楽しめる。でもあの頃は,まさか自分が東野圭吾作品を読破しようとするとは思っていなかったなあ。----------各編について簡単に感想を述べる。「しのぶセンセの推理」:しのぶが担任の生徒・福島の父親が堤防で死体で発見される。この男は,定職につかず妻から金をせびっては遊んでいるクズ男だったので,周囲の人は残された母子の心配だけをする。だがやがて捜査の方向は妻に向かい,しのぶは?・・・シリーズの要素が詰まっていて,最初の短編から勢いがある。浪花の町,子供たち,事件。きちんと謎解きにつながるひらめきがある。「しのぶセンセと家なき子」:しのぶのクラスのヤンチャな2人・田中と原田がゲームソフトのひったくりに遭う。その犯人を2人と追い詰めたしのぶは,捕まえた少年が,他の殺人事件現場から消えた子供であることを知る。少年がそこで目撃したのは?・・・浮浪少年ってのも戦後っぽいなあ。それがゲームを盗むというのは不自然だけど。事件は意外と複雑で,どっちに転んでもあまりハッピーにならなそうな流れになる。「しのぶセンセのお見合い」:教頭に勧められ,相手の顔とホテルの食事に釣られてお見合いをすることになったしのぶ。だがお見合いの当日,見合い相手・本間の会社の社長が工場で撲殺される。しのぶに惚れている新藤刑事は,恋敵の本間を重要参考人にしようとするが,真相は?・・・終わってみればシンプルな短編だった。重要な部分は,本間の登場による,しのぶを中心にした三角関係の成立だろう。「しのぶセンセのクリスマス」:男女4人がクリスマスパーティを開く予定だったのだが,女性の1人がマンションで手首を切った状態で発見され,凶器は見つからなかった。さらに彼女を刺したと思われるナイフが,ある店のクリスマスケーキの中から発見される。果たしてのこの不可能犯罪の真相は?・・・ちょっとトリッキー過ぎるし,偶然の要素が強過ぎる。コメディパートはひじょうに冴えていて面白い。ミステリー部分は,うーん。「しのぶセンセを仰げば尊し」:しのぶのクラスの田中は珍しく風邪をひいてアパートで寝ていた。そこで中庭に落ちてきたのは3階の朝倉奈々の母親だった。アパートは施錠され,チェーンもかかっていたが,母親は誰かに突き落とされたと主張し,しのぶに調査を依頼する。一方で,新藤刑事は女性の殺人事件を追っていた。2つの事件の裏には?・・・しのぶの調査,新藤の捜査,しのぶの変な行動,そして卒業式,と盛り沢山の短編だ。ミステリーもサスペンスもある。あっという間に最後の短編となり残念だ関西弁が大丈夫ならばオススメだ。
2017.06.16
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女性探偵のハードボイルドシリーズとしては大傑作の〈葉村晶シリーズ〉の最新作を読んだ。〇ストーリー猛暑が続く東京の住宅街にあるミステリー専門書店。葉村晶はそこで店員と探偵を兼ねていた。ある1週間,ご近所から次々と,彼女へ調査依頼が舞い込む。運良く,順調に調査を片付けていく葉村だが,この一連の仕事の裏にはある計画が進行していた。そしてついに・・・----------2014年の長編「さよならの手口」に続き,2016年に短編集「静かな炎天」が登場した。若竹七海は現在寡作なので,〈葉村晶シリーズ〉を次に読むことが出来るのはずっと先だと思っていたので,続けて発表されたのは実に喜ばしい。珍しく発表が続いても,やはり葉村晶はそのままだった。お人好しで,けれども相手のことを冷静に観察していて,調査は少しの容赦もなく行い,ひどく不運であちこちケガをしている。短編は,ハードボイルドとは呼びづらいものもあるが,葉村晶の生き方がハードボイルドだ,とファンなら思うので,やはりハードボイルド作品だろう。(笑)----------さて,運の悪さだけならばよいのだが,書店店長の富山をはじめ,多くの人が葉村晶に無理なお願いをする。それが連続する状況は基本的にはコミカルなのだろうが,あまりにも続くのでさすがにカリカリ来てしまった。ブラック企業的な指示を出す上司,それをいくらでも受け入れる葉村。何なんだろうこの状況。ここまで来ると怒りを覚える。コメディ要素のパターン化にしても笑えない。他のパターンを探すべきだろう。----------葉村晶は京王線の仙川に住んでおり,中央線,ないし井の頭線の吉祥寺にある書店まで徒歩やバスで通勤している。それ以外にも,仕事や依頼で都内をあちこち回るのだが,高田馬場が東の外れで,あとはほとんど新宿から西側のエリアだ。僕は生まれ育ったエリアなので,楽しみながら読むことが出来たが,あまりこのエリアに詳しくない人には,ちょっとツライと思った。----------短編「血の凶作」の最期の2行は謎だ。これが隠されていた犯行を示唆するのか,ただの世間話なのか,読者の間でも解釈が分かれているようだ。----------各編について簡単に感想を述べる。「青い影」:アルバイト先の吉祥寺の書店に徒歩で向かう途中,葉村晶はダンプカーとバスの衝突から始まる多重事故に遭遇する。事故処理を手伝い,目撃証言も行った彼女に,後日警察から連絡が来る。警察に寄せられていたのは事故に巻き込まれて死亡した若い女性の母親から,娘の青いバッグが消えてしまったという相談だった。そこで葉村は,事故現場から堂々と歩み去った女性の姿を思い出す。そして彼女が突き止めたのは?・・・タイトな短編だが,困った人をついつい助けてしまう葉村晶の優しさと,調査に手を抜かない頑固なところが良く出ている。また終わり方も実に良い。素晴らしい。「静かな炎天」:葉村晶が勤めている書店は吉祥寺の住宅街にあり,どうしても隣近所の家庭の事情まで詳しくなってしまう。8月の猛暑の中,なぜか近所から彼女に調査の依頼が続く。その裏にはある計画が進行しており・・・前の短編でもそうだったが,葉村晶がネットを利用しての調査を見事にマスターしている。これにより時には昔の同僚に頼んでいたデータ調査も自分1人でこなしてしまう。ますます孤独になっているような印象を受けるのは僕だけだろうか?緊迫のクライマックスの後の展開は,まあ若竹七海だから良いとするか。「熱海ブライトン・ロック」:35年前,短い期間,時代の寵児となった作家・設楽創は,サンダル履きの姿を最後に熱海で失踪をした。設楽の日記から見つかった新資料を元に,この失踪の謎に挑もうとする編集者がおり,葉村晶は調査を始める。やがて彼女は熱海にたどり着き・・・変人ばかり登場するが,葉村晶は着実に真相に迫って行き,小気味よい読後感がある。「副島さんは言っている」:葉村晶は元同僚の村木に頼まれ,星野久留美という女性について調査をする。彼女は古い家に住み込み,そこをリフォームして売却するという仕事を行っていた。美人の彼女は自分の仕事の進捗具合をネットに公開していた。だが彼女は仕事で使うハンマーで撲殺され,村木ともう1人が重要参考人として警察に追われていた。・・・電話とネットだけで事件を解決する女探偵・葉村晶。あくまでも短編の設定として狙っている状況だが,スピーディに物語は展開するので楽しめる。「血の凶作」:アパートの火事で死んだ男の名前は角田治郎,ハードボイルド作家・角田港大の本名だった。葉村晶は角田港大に依頼をされ,なぜこの男が彼の戸籍を使っていたのか,この男と彼は関りがあったのかを調査する。調査の過程で,バブルに踊らされた人々の悲哀が浮かび上がり・・・この短編は調査の状況が転々とするので,さすがにふざけ過ぎだと思った。登場人物が過剰で覚えきれない。その上,謎の最後の2行。もうギブアップだ。「聖夜プラス1」:アルバイト先の書店のクリスマスオークションで目玉となる『深夜プラス1』の初版サイン本を受け取りに行った葉村晶は,頼まれごとを繰り返し,1日中東京を動き回る羽目になる。さらに事件に巻き込まれ・・・書店店長の富山の傍若無人ぶりは,葉村晶が黙って言うことをきいているから止まらないのだと思う。この短編では,富山クラスの人物が何人も登場して,イライラが止まらなくなる。イライラの対象は,文句を言いつつ依頼を受けてしまう葉村晶に対してだ。なんかの宗教なのか?と思うくらい,他人のワガママをきいている。調査の時のスマートさはどこに消えたのだろう?これがこのシリーズの持ち味なのは分かるけれど,さすがにあざとくないか?!!
2017.06.15
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打海文三の青春小説を読んだ。〇ストーリー高校を休学した〈ぼく〉は,祖母と両親とが暮らすために建築されたものの,結局誰も住むことのなかった海沿いの〈Rの家〉で夏を過ごしにくる。だがそこには裸の若い女性と,怪しい中年男性がいた。彼らとゆるりとした奇妙な生活を始めた〈ぼく〉は,徐々に〈Rの家〉の完成直後に起きた母親の自殺の真相へと迫っていく。いくつもの犠牲を払いつつ,〈ぼく〉がたどり着いた場所とは?----------打海文三作品らしい,魅力的なキャラクター,瑞々しい文章,謎めいた状況が揃った佳作だ。哲学的な会話,登場人物の不自然な行動など,〈前衛的な純文学〉を目指したような技巧的な部分も目立つ。これまでの作品でも,ハードボイルドの枠に収まらず,純文学的な心の動きを追求した部分があったが,この作品はそれをさらに超えて,作者の書きたかった寂しい人々の魂の遍歴を最後まで突き詰めたという印象だ。打海文三作品でも,なかなか変わったカラーのものであることは確実だ。----------主人公の少年・リョウが,従姉たちと追求するミステリーは,彼の母親の自殺の真相だ。幻想的な事件について,捜査により次々に新しい情報が明らかになるものの,なかなか真相が見えてこない。我々も主人公の飢餓感に共感し,ついつい物語の先へと読み進めてしまう。ところが新しい情報は,必ずしも真相へと導かない。天才的な探偵が登場して事件をスパッと解決しないのはリアルなのかも知れないが,どの情報も同じくらい怪しいという状況はリアルを超え過ぎて,逆に何も分からない幻想的な世界観になってしまっている。ここでやはり思うのが,打海文三は純文学作品を書きたかったのだろうということだ。それがこの作品で一気に発揮されたと思う。----------高校休学のリョウとともに〈Rの家〉で暮らすのは,元風俗嬢の美しい娘・李花,そして不良中年の雅彦だ。彼らは自堕落な生活を送りつつ,少しずつ関係を深め,いつしかかけがえのない仲間へとなっていく。このアウトローな生活を彩るのが,リョウの父親の美由起,母の自殺の真相を知る理恵など,魅力的な女性たちだ。日常の時間から離れているのに,驚くほど濃密で鮮やかな時間・・・純文学だなあ。----------作品はひじょうに思わせぶりで,濃厚なのだけれどラストまで読んでも,ハードボイルドやミステリーのファンとしては,落胆を隠せなかった。あまりにも文学的なオープンエンドなのだけれど,結局文学に憧れたブンガクでしかないような,悲しさしか残らなかった。そりゃ,現実はミステリーのようにきれいな決着なんてつかないのは分かるけれど,もうちょっとなんとかなったはず。残念だ。
2017.06.14
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クリント・イーストウッドが監督主演をしたヒューマンドラマを観た。〇ストーリー妻を亡くした元フォード社作業員のウォルト・コワルスキーの隣家に,アジア人家族が越してくる。ただでさえ偏屈で,息子たちとも上手く関係を築けない彼は,朝鮮戦争に従軍した体験からアジア人に対して素直に接することが出来す,感じの悪い隣人を演じてしまう。だが家族の孫・タオが,ギャングの従兄たちに命じられてウォルトの愛車〈グラン・トリノ〉を盗もうとしたところを捕らえてから,彼はタオに仕事を与え,隣家の修理を手伝い,姉のスーたちと徐々に友情を育む。タオへの嫌がらせに対し抗議をしたウォルトへの報復に,タオの家は襲われ,スーはギャングに凌辱される。ウォルトは単身,ギャングたちの家へと向かい,そして??---------クリント・イーストウッド自身がマカロニ・ウェスタンの俳優として,男性至上主義のマッチョなキャラクターを演じてきたこともあり,この作品での元フォード社作業員,元朝鮮戦争従軍の男というキャラは見事にマッチしている。本人も,家族も,隣人たちも,彼が偏屈で,ワガママで,アジア人嫌いで人間嫌い,だと思っていたのに,最後にはあの行動をとる,という意外性がこの作品の魅力だ。主人公が嫌なヤツである,ということはベタな手法で述べられているが,彼が少年・タオの行動をきっかけとして,周りの人々への興味を再び持ち始める,という流れはひじょうに丁寧に描かれている。---------イーストウッドが象徴している中西部,南部に多くいるブルーカラーのアメリカ人が,あるところからアジア人移民の味方になる,という流れは,ある意味アイデンティティの崩壊だ。この点を,アメリカ本国ではどう受け止めていたのかが興味ある。アカデミー賞にノミネートされなかったらしいので,やはりアンビバレントな評価だったのだろう。もっとも,アジア人のタオやスーは,ウォルトが住んでいるデトロイトの自動車産業を崩壊させた日本人や韓国人ではなく,ラオス出身ということになっている。微妙に直接なコンフリクトを避けていて,なんだか男らしくないなあ。---------『ローガン』でも感じたが,アメリカの西部劇,日本の時代劇は衰退の一途を辿っているものの,その精神を踏襲した作品は今でも多く製作されている。『グラン・トリノ』でも,クリント・イーストウッドが演じるのは,きちんと自分の人生を生き,そして若手が自由に生きられるように無法者と対決をする西部劇のガンマンの精神だ。かなりクサイ正義感なのだけれど,これだけの大人物が正面から主張してくれると,やはり社会的に大きな影響があると思う。助けてくれる白人と自分で努力する有色人種がいて,双方幸せになる。『ジャイアンツ』でも描かれていたアメリカ社会の理想だろう。---------アメリカ社会がその理念を失いつつある今日,この映画を観てまたそこに立ち戻ってもらいたい。・・・って,リベラリストっぽいことを考えてみた。
2017.06.13
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東野圭吾のライトタッチの初期長編を読んだ。〇ストーリーパーティ専門の派遣アルバイトの小田香子は,更衣室として使われていたホテルの客室で,同僚の絵里が死んでいるのを発見する。その事件は絵里の自殺として処理されたが,不審に思った香子は隣人の若手刑事と協力しながら独自に調査を始める。やがて彼らは,事件の背景に宝石販売会社,イベント派遣業,不動産会社に関連した過去の事件が絡んでいることを知る。だが犯人たちの反撃により・・・?----------新書版のノベルで発表された作品だが,2時間サスペンスドラマ向けに書かれたと思われる。きっとミステリー作家に対して,こうした傾向の作品を書いてもらえないかと持ち掛けるのだろう。いくら初期とはいえ,東野圭吾とは思えない軽い世界観なので,だいぶ戸惑う。さらに主人公の女性がパーティ・コンパニオンで,自分の容姿を利用して玉の輿を狙っていると公言していることも驚きだ。現代から見るとこの女性の考え方が理解出来ないという部分もあるが,苦労をしてもじっと耐えるという東野圭吾作品の女性像とはだいぶ異なるのが大きい。パーティ・コンパニオンという言葉自体が今の人々に伝わるのかどうかも分からないが,クラブなどの座って接客する女性ではなく,立食パーティでお酌と会話のお相手をあくまでも立ったまま行う職業(のはず)だ。自分目当てにクラブに通ってもらった客と懇意になるのではなく,派遣されたパーティで出会った客に見初められる,というのが夢なのだから,この主人公はかなりの自信家だ。----------主人公は隣人となった若手刑事とは仲良くなるのに,一方で不動産会社や宝石販売店の重役ともデートを重ねる。この軽さにはゲッソリする。被害者となった同僚の絵里や,事件に関わる他の女性たちの方が,味方も敵も含めて自分の愛を基準に真っ直ぐに生きている。主人公だけがダメな人間だ。他の作品を読んでいると,東野圭吾は真面目な人だと感じるが,この作品を最初に読んだら,軽い考えの人物だと思ったに違いない。----------この作品のもう1つの欠点は,ミステリーとしての弱さだろう。最初に起きる密室での毒殺事件の謎解きは,〇〇を〇〇で〇〇したというトリックだ。まさかの小学生レベルトリックを堂々と作品で出してくるとは?バイプレイヤーから次々に出されるトンデモ謎解きの1つだと思って読んでいたら,これが真相ということになっていて,卒倒しそうになった。そこに至るまでの流れだったり,人物入れ替えなどはきちんとしているのに,ここだけ手抜きとは残念だ。----------東野圭吾の「殺人事件は雲の上」もバブルの空気が漂うミステリーだったが,連作短編集ということもあり,コメディミステリーとして楽しむことが出来た。この作品は,軽い主人公,実は重い過去,手抜きトリックと,いろいろとバランスが悪い。東野圭吾にも作品は多いので,次に期待しよう。
2017.06.12
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異世界文明とのコンタクトを描いたSF映画を観た。〇ストーリー世界の12の地点に宇宙船と思われる物体が到着する。来訪者と意思を交わし,その目的を知るため,米軍は言語学者のルイーズ・バンクスと数学者のイアン・ドネリーを抜擢する。彼らを急がせる政府を押さえ,ウェバー大佐と彼らは時間をかけて,来訪者と意思の疎通が出来るようになる。だが来訪者が伝えた内容に”武器”という言葉があったため,政府は混乱する。そしてそれまでなんとか連携が出来ていた世界の12の拠点での協力研究体制は途絶え,一部の国家が宇宙船に攻撃を仕掛けようとする。その状況を打開するために,ルイーズたちが取った手段とは,これまでの常識を超えていた。そして?----------『インターステラー』の際も思ったが,よくもまあこんなハードなSFを映画化したものだ。重いテーマの作品となるので,製作陣を説得するのに苦労しただろう,ということがまずある。次に,SF作品なので,これまで映像化されていない状況を画面に出して,それを観客に説明し,納得してもらわなければならない。説明ばかりになったら観客は飽きてしまうし,途中を略し過ぎたら理解してもらえない。見たことのないモノをリアルに見せなければならない。これはひじょうに困難だ。ハリウッド映画はバカな映画ばかりだ,と悪口も言われるが,定期的にこうした挑戦的でありつつ,エンターテインメントでもある作品が製作されるので,あなどれない。----------この映画では,さらにもう1つの常識破りが行われるが,これはストーリー上のことなので,映画としてのテクニックは日常的なものだ。ただしこの概念を観客に納得してもらうのは大変だったと思う。僕は,やや饒舌過ぎたと感じた。あまりにも〇〇のイメージの挿入が多くて,ホラー映画になりかけていると思った。最後には脚本のチカラで畳みかけて来るのだが,上映後「あれ,分かった?」と会話している人が数人いたので,なかなか物語を伝えるバランスは難しいものだ。----------作品の主なキャストは,エイミー・アダムス,ジェレミー・レナー,フォレスト・ウィテカーと,3人とも好きな俳優だ。ロードショーを流すつもりだったのを,友人が褒めていたのと,出演者が良さそうなので週末に観ることにした。ルイーズ・バンクス教授を演じるのがエイミー・アダムスだ。この映画の特徴の1つがリアリティだが,驚くほど老けメイクで,身体もがっしりしている印象で,とても『魔法にかけられて』のお姫様を演じた人とは思えない。『ナイト・ミュージアム2』『Her』『マン・オブ・スチール』と,けっこうコンスタントに出演作を観ていた。熱演ではないが,実に着実に演技をしていた。相棒のイアン・ドネリー博士を演じるのが,ジェレミー・レナーだ。今では〈アベンジャーズ・シリーズ〉を含め,人気俳優の仲間入りだが,下積みの長い渋い俳優だと思う。米軍のウェバー大佐を演じるのがフォレスト・ウィテカーだ。ルイーズとイアンを急かしつつも,一方で政府側を押さえ,きちんとサポートしている有能な人物として描かれていた。この俳優も,サミュエル・ジャクソンのように色んな作品にちょこちょこ出ている。SFアクション,サスペンスもの,ヒューマンドラマ,なんでもこなせるのがスゴイ。----------ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品は『複製された男』は個人的に受け入れられなかったが,今回はひじょうにすっと心に入ってきた。今後の作品も楽しみだ。
2017.06.11
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突然親戚を喪った女性が,その謎を追求するという打海文三の長編を読んだ。〇ストーリー永井万里子は憧れていた叔父が殺されるところを目撃してしまう。真相を探るために,彼女はかつて叔父と母親と親友だった男に調査を依頼する。そこから見えてきたのは,生まれつきの詐欺師だった叔父と,彼が出会った悲しい男の人生だった。〈アーバン・リサーチ社〉,マフィア,警察の三つ巴の中,きちんとトラブルを押さえ,関係者に安心をもたらすのは誰なのか?-----------打海文三のハードボイルド作品の多くが,〈アーバン・リサーチ社〉という調査会社の調査員たちをメインのキャラとして描かれている。ただ面白いのは,ある程度は登場人物は重なるものの,主人公は毎回異なる人物であり,シリーズとしては,ゆるいつながりとして設定されていることだ。この作品では,主人公・万里子が調査を依頼する相手が,〈アーバン・リサーチ社〉の元調査員・真船だ。「時には懺悔を」では佐竹,「されど修羅ゆく君は」では鈴木ウネ子と野崎,と調査員が登場していたが,今回も別の人物だ。打海作品では,調査員が行うのは仕事と個人の両方に密接に関わる問題であることが多いので,同じ人物でシリーズ化は難しいのかも知れない。この作品では,サービスなのかも知れないが,過去の主人公たちが”カメオ出演”的に顔見世をする。それだけだけど読者はちょっとうれしい気持ちになる。-----------この作品で評価が難しいのが,主人公が一定しないことだ。詐欺師の叔父を持つ万里子を語り手として,物語は始まるのだが,途中から彼女が調査を依頼した元探偵の真船が主人公ポジションになる。中盤以降は真船が調査を自主的に進め,万里子には詳細も知らされない,という状況になる。確かに予想以上に事件の状況は複雑となり,真っ直ぐな性格で活動的という万里子の手には負えないということは分かる。けれども,それを理由にして依頼者かつ最初の主人公である彼女に状況を知らせず,ワガママな依頼人扱いをする真船のことは,あまり好きになれない。万里子だけでなく,魅力的な女性たちが何人も登場したのに,それを活かし切れていない印象を受けた。物語の中心をどこに置くか,がきちんと出来ていないと感じた。-----------この作品では3人のクズ男が登場する。1人目は誰にも好かれ,誰をもだました生まれつきの詐欺師である叔父。2人目は女衒から成り上がり,既存のルールに縛られずに成功した病んだ男。そして3人目が周りの事情を無視して自分のルールを押し通し,その反動で幻覚を見るほどのノイローゼになる探偵,つまり後半の主人公だ。最初の2人は,弱さが愛おしさに変換するというポイントがあるので,女性たちがいろんな理由で放っておけなり,一緒にぐずぐずと落ちていく,あるいは成り上がりに協力するということが起きるのは分かる。最後まで理解出来なかったのが,オッサン主人公対して,女性主人公,彼女の母親,成り上がり男の娘,と,次々にイイ女が好意を持ち,行為を要求することだ。この幻覚オッサン,それほど仕事出来ないのに。-----------打海文三作品,そして〈アーバン・リサーチ社〉関連作品という枠組みに収まっていることもあり,打海文三ファンは外せない作品ではあると思う。いろいろと思うところはあるが,キャラクターの魅力に殉じて赦すことにしようと思う。・・・われながら傲慢な言い方だが。
2017.06.10
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東野圭吾が初期に発表したレトロな味わいがする長編ミステリーを読んだ。〇ストーリー所有者に不幸をもたらすというピエロ人形が,竹宮家の飾り棚に陳列された。そこから竹宮家では,2代目経営者,その夫と愛人,さらに過去の問題も明らかにされる。そんな中,次々と連続殺人事件が発生する。果たして真犯人はどこに潜んでいるのか?-----------変わった形の屋敷に住んでいる会社経営者の一族。その複雑な血縁関係と関係者たち。屋敷の見取り図と登場人物一覧リスト。上品な人々たちなのだが,裏では会社の経営権を狙っており,いろいろと隠さなければならないこともある。家を守りたい人,家に恨みを持っている人,自分の罪を隠したい人,なんとか事件を収めたい人,真相を知りたい人,様々な思惑が入り乱れ,物語は展開する。どこからどう見ても,エラリー・クイーンなどの大時代的な本格ミステリーの作風で,そうしたレトロ感も楽しめるのだが,別の視点に立てばひじょうに冗長で読むのに苦労するという作品とも言える。-----------作品には,屋敷の一族,使用人,会社の重役,いろいろな意味で一族と関りがある人,と多少関係性が重複しつつもいくつかのグループに分類される。珍しいのは,主人公が1年ほど外国で暮らしていたとは言え,明確に屋敷の一族に含まれる人物だということだ。本当のレトロミステリーであれば,一族の人々は等しく疑い深く神経質な気質で,主人公は外部から来た人という設定になるのがセオリーだからだ。主人公が屋敷に戻った時点で,最初の事件は起きており,彼女の目の前で,次となる連続殺人事件が始まる。不思議なのは,主人公は探偵では無いということだ。彼女は,屋敷の一族の人なのでその資格は無いのかもしれない。けれども,じゃあ誰が探偵なのか,という問いに対して答えられないのが,この作品の欠点だろう。〈悲劇のピエロ〉人形を設定し,〈ピエロ〉の視点の描写をヒントとしてところどころに挿入する仕掛けは面白いが,自分は事件の謎に肉薄しているのに,一族であるという理由で波風を立てるのを控えるという行動を取る主人公には参ってしまう。-----------割を食ったのが,探偵役だ。前半の物語を進めていた刑事は,典型的な想像力に欠けた役人と化し,中盤に物語を進めていた一族と関りがある青年は退場し,そして実に思わせぶりに登場した〈人形師〉は,主人公にアドバイスをいくつかくれるだけの仕事だ。レトロならレトロで良いと思うのだが,別の”パズル”要素を入れたことで,物語が複雑になり,反面,ただでさえ多い登場人物たちの動きがずさんな描写になった気がする。-----------主人公だけでなく,登場する女性たちが意思は強そうで,本心は明かさないタイプとして描かれている。キャーキャー言うだけのキャラクターなどは不要なので,ひじょうに殺伐とした雰囲気に成りかねないが,登場人物1人1人は,それなりにいそうな設定となっており,楽しめた。-----------今回読んだ講談社文庫版の表紙はイラストレーター・宇野亜喜良のものだ。エッチングのような表現で,独特の境地にいる宇野だが,表紙ではチカラの抜けたコミカルな表現になっている。面白い。-----------この作品の本当の読み応えは,終盤の数ページだ。そこから何が見えてくる恐ろしさこそが作者が狙ったことだろう。うーん,どう転んでもこれではアンハッピーな結末だ。売れっ子となった今とは比較が出来ない,ぎこちない仕上がりの作品だ。次回作に期待しよう。
2017.06.09
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〈嫌ミスの女王〉湊かなえの「これでもか!」というほど嫌な気持ちにあふれた短編集を読んだ。○ストーリー夭折した高校教師だった父親を礼賛し,母親は〈私〉にも地元で教師になるように働きかけ続けた。母親の反対を押し切り,都会に出て,女優として成功した〈私〉にも母親は支配をつづけようとする。〈私〉は自分の生い立ちを語る番組で,いかに自分の母親が束縛の激しい〈毒親〉であったかを語ってしまう。その反響の中で,母親は-----------いつまでも若々しくて美しい女性が増え,娘とべったりの〈友達母娘〉なども流行となっている。その一方で問題となったのが,いつまでも娘を支配しようとする〈毒親〉の存在だ。〈嫌ミス〉にぴったりのテーマに湊かなえが正面から取り組んだのがこの短編集だ。多くの短編で,主人公は1人娘,あるいは姉妹だ。母親は自己を投影する相手として娘を扱ってしまうために,愛はいつしか毒となり,蓄積してしまう。主人公たちは30才前後となり,知識も経験も身につき,そして悲劇は起きる。-----------〈嫌ミス〉といいつつ,ミステリー要素はほとんどなく,事件の状況も冒頭から明らかにされている短編も多かった。むしろ”嫌な気持ちになるサスペンス”,〈嫌サス〉だったかもしれない。ミステリー作家として驚くほど売れているけれど,なんか違う気がする。-----------各編について簡単に感想を述べる。「マイディアレスト」:〈私〉は母親に厳しく育てられ,地元で暮らし,男性の友人など出来ないまま30代になってしまった。反面年の離れた妹は,自由奔放に育ち,妊娠してデキ婚で実家に一時里帰りをしていた。〈私〉はストレスが溜まり,飼い猫のノミ取りをするのだが・・・母親は不公平なのだけれど,親も人間なので好き嫌いあるんだよね。それにしても可哀想な女性だ。妹ガサツで嫌い。「ベストフレンド」:シナリオライターの新人賞に選ばれた〈私〉は,自分が優秀賞で,最優秀賞はぱっとしない見た目の女性であることに嫉妬する。懸命にプロット企画を出し続ける〈私〉と異なり,彼女は遅筆で作品も仕上げない。けれども彼女の作品はなぜか評価され,映像化される。海外の賞まで受賞した彼女を空港で出迎えた〈私〉の手には?・・・おお,貴重なミステリーだ。湊かなえの実体験だろうか?売れなくてイライラするシナリオライターの日常と嫉妬が生々しく描かれる。「罪深き女」:同じアパートで数年間暮らしていた少年が無差別殺傷事件を起こした。彼の生い立ちを知る〈私〉は,自分の行動が彼を事件に走らせてしまったのではないかと悩む。・・・なかなか細かく書かれているのだけれど,情報が不足していて,オチもオチだし,何なのかなあ?「優しい人」:「あなたは優しい子だから」と言われ続け,人が嫌がることを我慢してこなしてきた〈私〉。そんな〈私〉のカラをある男性は破ってくれた。だがもう1人の男が現れ・・・同じ物語を2つの面から描いていく。細かいけれど,ちゃんとオチがあるので,読みことが可能。○○描写はもうなんとかしてくれ,とは思ったけれど。主人公の主張を裏付けるものが見つかるといいのだけど。「ポイズンドーター」:母親の反対を押し切り,都会に出て,女優として成功した〈私〉に,親友から同窓会の報せが届く。〈私〉は自分の生い立ちを語る番組で,いかに自分の母親が束縛の激しい〈毒親〉であったかを語ってしまう。その反響の中で,母親は・・・いよいよタイトル作品だ。それだけあって主人公がしっかりしていて他の短編とは雰囲気が違う。内容は,うーん,いろいろ思わせっぷりなんだけど・・・薄い。「ホーリーマザー」:都会に出て女優となった友人が母親をなじる作品を書いた。母親を知る自分の義母が書いた手記を,〈私〉は女優となった友人に読ませるのだが・・・前の短編を受ける形の短編。オセロという言葉があったが,母親側の視点で語られるエピソードが,まったく別の印象を与えるのが面白い。で,主人公の〈私〉の立ち位置は何なんだろう?これが実に残念だ。
2017.06.08
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西尾維新の人気シリーズ〈化物語〉の第22巻を読んだ。○ストーリーあの事件の頃から5年が経過し,〈僕〉・アララギ暦は大学を卒業し,警察官となった。キャリア研修の一環として故郷の直江津署に赴任した〈僕〉は,怪異を取り締まる〈風説課〉に配属される。新しい同僚と出会う一方で,かつての友人たちとも再会し・・・-------------〈化物語〉も長大なシリーズとなっているので,これから手を出す人はなかなか決心がいると思う。この作品は,いわゆる第4シーズンの最終巻にあたり,次から第5シーズンが始まるらしい。これまでの21冊は,ごく一部の例外を除き主人公たちが高校3年生である1年間の中で物語が進行していた。この最新巻だけ,いきなり5年間時間が飛び,主人公たちは大学を卒業し就職している。これには驚いた。第5シーズンになった際にそれを行うならともかく,既往のシーズンの最終巻でそれとは???さすがは西尾維新だ!・・・いや,どうだろう?大したことないか・・・-------------語り手は久々に主人公・アララギ暦だ。4つの短編で,4人の新しいキャラクターが紹介され,怪異現象と思われる事件に取り組む。ある意味,第1巻に戻ったような安定感がある。変化球の多かったシリーズ後半と比べると,安定し過ぎていてやや食い足りない気さえする。そこを補うのが,これまでのシリーズヒロインが順番に登場することだ。最もなぜか八九寺真宵と千石撫子の代わりに,忍野扇と老倉育が登場している。安定していて,このまま続けることも可能な設定だが,さすがにこれだけでは飽きられてしまうと思う。次のシーズンとなる次巻でどんな展開が準備されているのか,楽しみだ。-------------各編について簡単に感想を述べる。「ぜんかマーメイド」:直江津署に配属となったアララギ暦が調査するのは,謎の連続水難事件だった。溺れかけた子供は,謎の手につかまれたとも言っているらしい。これは新たな怪異の予兆なのか?暦とペアを組むのは,人魚のチカラを持つ周防全歌だ。・・・いきなり警察官になっているという主人公の姿がイメージできない。妹と2人暮らし,神原駿河と再会,という辺りはいつも通りの展開でホッとする。最後の事件の解決方法はちょっと理解が難しかった。「のぞみゴーレム」:母校・直江津高校の生徒たちが下校中切りつけられるという事件が発生する。犯人の姿がなく,制服だけを切り,身体には一切の傷を残さないことから,直江津署はこれがカマイタチなどの怪異ではないかと調査を始める。暦とペアを組むのは,ゴーレムのチカラを持つ兆間臨だ。・・・シリーズの舞台だった直江津高校があっさりと登場し,そこで忍野扇と再会。小粒な短編。「みとめウルフ」:人道的なボランティアとして有名となった羽川翼は,今では国境紛争を解決する国際的な重用人物となっていた。羽川は一時帰国をするが,完全警護の状態でホテルに缶詰めとなっている。だがなぜか彼女は,アララギ家に現れて,懐かしい一晩を過ごす。彼女はどうやってホテルを抜け出したのか?そしてその目的は?今回紹介される同僚は人狼のチカラを持つ再埼みとめだ。・・・羽川翼,もう1人の妹とも再会だ。この巻で一番の驚きが,5年間での羽川翼の変化だった。その状況があまりにも孤独で,ぐっと来てしまった。再埼みとめの一言でわずかに救われる短編だ。この巻で必読の短編となっている。「つづらヒューマン」:海外在住の恋人・戦場ヶ原ひたぎと電話で大ゲンカをしてしまったアララギ暦の直江津署での2ヶ月の研修ももうすぐ終わる。手続きで役所に行った暦は,幼馴染の老倉育と再会し,ひたぎとのことを相談する。彼が選んだ道とは?今回紹介される同僚は人間のチカラ(?)を持つ甲賀葛だ。・・・毒舌の老倉育,毒舌の戦場ヶ原ひたぎとも再会だ。ストーリーの流れは,驚くほど前向きで〈化物語〉シリーズとも,西尾維新作品とも思えない展開だった。まさか別人が書いている・・・ワケないよな。
2017.06.07
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月村良衛の長編ハードボイルド小説を読んだ。主人公は2人の女性だ。〇ストーリー群馬県みなかみ町に住む中学1年生・秋来祐太朗は,幼馴染の神田麻衣と一緒にいた時に,事件に巻き込まれ,謎の武装グループに拉致される。犯人グループは某国の特殊部隊だったが,彼らは追ってくる祐太朗の母・秋来律子と担任・渋谷美晴の2人に次々に制圧される。主婦と女性教師のコンビの正体は?彼女たちは2人の少年少女を救うことが出来るのか?そしてこの事件に関わる過去からの因縁とは?----------日本ののんびりした日常生活から,ハードボイルド小説の世界へと移行するにはなかなか工夫が必要だ。月村良衛の作品でも,「黒警」「黒涙」のようにマフィアと警察,「土漠の花」のようにPKOでアフリカに派遣されている部隊,〈機龍警察シリーズ〉のように警察の特捜部隊,という設定があるからこそ,主人公たちは暴力で支配された世界と接することになる。どれだけマスコミが喧伝しようと,世界的な基準で言えば日本社会は驚くほど平和だ。そこから,テロの世界へと物語を展開できる流れが,どれほどスムーズに読者を納得させるかが作家のテクニックになってくる。----------この作品では,少年少女が暮らしていた近くに某国の人物が潜んでおり,彼らはその拉致事件に巻き込まれた,という流れで,歴史的な背景や状況はなかなかよく出来ている。不思議なのは,そうした部分はリアリティを大事にしているのに,そこから先は,偶然に次ぐ偶然でぐいぐいと押していくことだ。たまたま少年の母親は,かつて公安の特殊部隊のエースだった。たまたま少年の担任の女性教師は,体育大卒で格闘に精通していた。たまたま,テロリストのリーダーは,〇〇と因縁があった。「槐(えんじゅ)」も少年少女がテロに巻き込まれる作品だったが,なぜかヒロインとテロリストに因縁があった。今回も,申し訳ないが,同じアイディアの別バージョンという印象が強い。日本の日常と隣り合わせのテロという作品が,作り物っぽくなる危険があるのは分かる。けれども,それへの解が,ここまで突飛だと,さすがに扱いに困ってしまう。ハードボイルドに適度な息抜きのシーンはあってもよいが,必須ではない。これではバランスが良くない。----------ヒロイン・秋来律子以上に謎の存在なのが,女性教師の渋谷美晴だ。彼女は新宿で刑事をしている分かれた恋人がいて,その人物は警察をゆるがす秘密を持っているという。そして彼女はかつてロックバンドのボーカルだったという。「新宿鮫」のヒロイン・青木晶は,体育大出身の武闘派ではなかったと思うのだが・・・???----------実はこの「ガンルージュ」の刊行をきっかけに月村了衛を知り,評判が良いのでどうせなら発表順に読もう,と決心した。そうした記念碑的な作品なのだが,残念ながら意外な肩透かしに終わってしまった。かなり近い設定の別バージョン作品とも言える「槐」の方が,少年たちの成長が感じられる分だけ,優れている気がした。今回の作品は,楽しめる部分はあるのだから,リアリティなどは気にせずに,もっと自由にやってくれた方が中途半端さが消えて,大化けしたかもしれない。まあ,作家も執筆を続けていく中でこうしたモノもある,ということで。(涙)
2017.06.06
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毎年行っている〈東京おもちゃショー〉に行ってきた。---------週末のことになるが,7時過ぎに家を出て,お台場のビッグサイトに向かった。週末の東京は夏を先取りしたような天候で,朝から日差しが強かった。駅に着いたのは,8時過ぎだ。ビッグサイトへと足早に進むが,さすがにこの時間なのでよほどのマニアックな人々だけが来ている。とは言え,ほとんどは家族連れだ。僕も幼かったころの甥姪を連れてきたことがあるので,懐かしく思い出した。---------〈東京おもちゃショー〉は,東京に住んでいない時期には行けなかったが,それを除くともう20年以上通っているとはずだ。ポケモンブーム,カードゲームブーム,平成仮面ライダーの人気,プラレールの復活,プラネタリウム,アクアリウム,そしてドローン・・・玩具を切り口にした世の中の流行をここで見聞きして来た。今年参加して,一番ショックだったのが,会場がビッグサイトの西ホールではなく,東ホールだったことだ。西ホールを貸し切って,上下のホールで展示を行い,真ん中のスペースでイベントを行う,というのが20年間の伝統だったと思うのだが,それがとうとう途絶えてしまった。東ホールを数ブロック抑えたイベントなんて,毎週のように開催されている。〈おもちゃショー〉は,そんな普通なレベルになってはならないと思う。そんな,大袈裟な心配をしているのは僕だけだと思うが。---------行ってみての感想は,やはり薄味だった,ということに尽きる。超大手ブースのバンダイとタカラトミーの両方で配っていたのが,紙製のサンバイザーだ。ウルトラマン,ドラゴンボール,プリキュア,ポケモン,トミカ,とひたすらバイザーをもらった。今さらドローンも話題にならないし,電車系での目新しいものもない。またプラネタリウムなどの高級志向の玩具もない。かすかにチカラがあるのは,コンスタントな人気の幼児・幼女向けの食べ物系玩具とシルバニアファミリーだ。またぶれずに独特の路線を続けているアメコミフィギュアのホットトイズのコンパニオンは今年も色っぽかった。今年も清水建設は参加を続けてくれていたが,今後の〈おもちゃショー〉の進むべき道については不安を感じてしまった。幼児向け,技術向け,高級志向向け,マニア向け,いろいろあってどれが正解と言うこともないのだけれど,どれであってもパワーが感じられないものは,2年ほどで途絶えるのがいつものパターンだからだ。---------さすがにイベントそのものが途絶えることはないとおもうのだが,子供向けの予算は削られないという神話もとうとう陰ってきたことを感じさえる開催だった。うーん,残念。
2017.06.05
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〈空のF1〉とも呼ばれる〈レッドブル・エアレース〉世界シリーズの第3戦が千葉の幕張で開催された。今回のレースの話題の1つが,〈零戦里帰りプロジェクト〉の一環として,ゼロ戦が飛ぶことだ。もちろん規格が異なるし,なにしろ時代が70年違うので,ゼロ戦はレースには参加しない,あくまでもエキジビションである〈展示飛行〉という名称で会場を飛ぶ。もっとも,どういう形で参加するのか,そしてそのお披露目はいつなのか?という情報が直前まで明らかにならなかったので,行くかどうかひじょうに迷った。僕自身は,ゼロ戦だけが目当てなので,飛んでいる姿が少しだけでも拝めればそれで良かったのだ。-----------〈エアレース〉はこの土日だけで,土曜日は別のところに出かけていた。チャンスは日曜日のみとなったが,ゼロ戦の〈展示飛行〉が,土曜日の夕方と日曜日の昼時というスケジュールが発表された。これなら行ける,ということで日曜日の0時半の〈展示飛行〉を目指して幕張を目指した。海浜幕張駅に11時頃着いたが,駅の構内が大混雑で,人気のほどがうかがえた。もっとも一度,駅を出てしまえば,人はばらけたので,ひょっとしたら他のイベントとも重なっていたのかも知れない。僕が目指すのは,海浜幕張公園内で,イベント会場には入らずに,飛行機が見える場所だ。同僚が前年にたまたま通りがかった際に,見えたと言っていたし,レースではなくわずか20分程度のゼロ戦の姿だけが目当てなので,さすがに入場料はもったいない。見えそうな場所は公園で3つあった。見浜園から渡ってくる陸橋の上,メインのゲートの手前の階段,そして公園の芝生の一角だ。陸橋には警官が詰めているし,階段の部分は日よけが無いので,芝生の端っこで待った。階段の所には人がいたけれど,芝部の方は隣にテントを持ってきた家族連れがいただけだ。もっと人がびっしりいると思っていた。-----------11時からのレスキューヘリや,その後の曲芸飛行はワリと近くを飛んだのに,時間になってもゼロ戦の姿が見えない。このまま1時間半を無駄に過ごしたか,と心配を始めたところ,10分ほど遅れでゼロ戦が登場。さすがに通りがかりの人たちもカメラを向けていた。飛行は4周程度とかなり控えめだったが,これがゼロ戦のエンジン音,こうやって飛んだんだ,となかなか感慨深い。政治的思想から批判をしている人もいるようだが,これが日本で作られたのは事実なのだから,それが日本に戻って空を飛ぶことはひじょうに夢とロマンを感じる。ありがとう!
2017.06.04
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〈Xメン〉のスーパーヒーローの1人,ウルヴァリンの最終作を観た。〇ストーリー10年後の未来世界では,〈Xメン〉は壊滅し,ミュータントたちは絶滅しようとしていた。テキサスとメキシコの国境付近で,ジェームズ・ハウレットという男がリムジンの運転手をして,ある廃工場で車いすの老人を介護しながら,ひっそりと暮らしていた。その彼を〈トランシジェン社〉で働くという女性は〈ウルヴァリン〉と呼び,1人の少女・ローラの逃亡を手助けするように依頼をする。仕事を断るハウレットだったが,社の警備部隊に強襲されたことで,結果的にローラを,ノースダコタ州にある〈エデン〉という救済の地を目指すことになる。だが彼はまだ,ローラの秘密を知らなかった。それは?-----------マーベル社のアメコミを映画化したものは,20世紀フォックス配給の〈Xメン〉系,ソニー配給の〈スパイダーマン〉,ユニバーサル・ディズニー配給の〈アベンジャーズ〉系があった。〈スパイダーマン〉がリブートされ〈アベンジャーズ〉系となることで,大きく二分されている状態となった。〈Xメン〉系では,〈Xメン〉映画が6本あるが,単独主人公の映画は今回の作品を含めウルヴァリンのものが3本,そして残りはデッドプールのものが1本だ。またすべての〈Xメン〉映画でもウルヴァリンは登場しているので,実質ウルヴァリンがこのシリーズを牽引してきたと言える。しかし,それを演じてきたヒュー・ジャックマンも48才,他人に言われる前に有終の美を飾ろうということだろう,この作品にてウルヴァリンを引退するということだ。-----------映画の舞台が少し未来に設定されていることは聞いていたが,登場したローガンの姿に驚いた。しわが目立ち,片足を引き摺り,喘息のように息が苦しそうだ。不老不死に近い,反骨精神のキャラが,すっかりと老け込んでいる。まるで『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンである。(笑)きっと途中で何かが起きて,びびびっと若返る,と思っていたが,その期待は外れた。ローガンは〈オールドマン・ローガン〉のままで,映画を終える。アメコミの世界なので,あっさりと復活させる可能性もゼロではないのだけれど,わざわざ引退のために映画を1本作ったのだから,これで本当に終わりなのだろう。-----------個人的には〈ドクターX〉の老衰した姿に衝撃を受けた。『スタートレックTNG』のピカード船長で有名となったパトリック・スチュワートの見た目は,リアル過ぎてはらはらしてしまった。またその引退のきっかけも痛々しい。アクションシーンも,相手の身体を切断し,ツメを顔に貫通させる,と容赦のない描写ということで,”R指定”を受けているが,ヒーローたちの老いを描いていることも”大人向け”だと感じた。-----------「え,ここで寄り道しちゃうの?」という展開にはちょっとイライラした。追っ手が迫っているのではなかったの?まあ,見せ場が出来たから良いけど。-----------下手すると,〈Xメン〉世界を終わらせてしまうかも知れないほど,救いのない作品だった。万人にオススメ出来る内容ではない。大人向けで良かったけれどね。
2017.06.03
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作家で刑事,という驚きの探偵が登場する,中山七里の連作短編集を読んだ。〇ストーリーある出版社の編集者が死体で発見された。彼はやり手として,会社からは評価される反面,複数の作家からは恨みを買っていたという。どうして彼は恨みを買っていたのか?また容疑者の自称作家たちに,警視庁は〈作家刑事〉の毒島をぶつける。毒に満ちた毒島の言葉で,容疑者たちは???-----------中山七里の小説のパターンの1つが〈お仕事小説〉であることは以前述べた。「スタート!」では映画業界,「ヒポクラテスの誓い」では監察医,「セイレーンの懺悔」ではテレビ業界をテーマにして作品を展開している。今回の作品は,タイトル通り出版業界が舞台だ。ある意味,中山七里による身内の業界暴露小説だ。照れもあるのかも知れないが,いつも以上にコミカルで毒にあふれた作品となっている。「中山七里作品史上,最毒」というコピーも伊達じゃない。-----------主人公は若手刑事の高千穂明日香だ。本来一緒に仕事をする相手は,検挙率ナンバーワンを誇る犬養隼人なのだが,この作品では,刑事でありながら作家という不思議な肩書の毒島とコンビを組むことになる。犬養隼人は,中山七里の作品でレギュラーを張るキャラクターなのだが,今回はサブキャラ扱いだ。せっかくのメインクラスのキャラを活用しない,というのも中山七里作品の特徴の1つではあるけれど。代わりに明日香のバディとなるのは,作家として出版業界に精通した毒島だ。一見温厚な毒島は,笑顔のままで容疑者を追い詰め,彼らが激情のあまり犯行を自白してしまうという流れとなる。そんなバカな?・・・でも半分はコメディだからなあ。-----------連作短編集を通じて,作家志望,新人作家,新人賞受賞者,中堅作家と,容疑者たちのステータスが徐々に上がっていく。最後には出版業界を超えて,映像化をする組織として,「スタート!」「切り裂きジャックの告白」「セイレーンの懺悔」でも扱われた帝都テレビのスタッフが登場する。どんどんと短編がインフラしていくようなので,この先は別に読みたくない気持ちだ。-----------各編について簡単に感想を述べる。「ワナビの心理試験」:ある出版社の新人賞では下読みをした担当が,落選の理由に感想シートを付けて連絡をしていた。感想に反発した数名の応募者が,出版社に強く抗議をしていた中で,その担当者が刺殺死体で発見された。警視庁はこの状況に対応できる専門家として作家で刑事の毒島を動員する。彼のパートナーとして選ばれたのは,経験の少ない高千穂明日香刑事だった。そして?・・・犬養隼人とコンビを組んでいた明日香は,事件の事情から謎の〈作家刑事〉と組むことになる。作家を目指す人々の執念に驚く一方で,一見温厚に見える毒島の毒に対しても,明日香は驚く。出版業界について内部をしる刑事としての毒島の存在は貴重だと思うが,彼を忌避する犬養の行動はよく分からないし,経験の少ない女性刑事を担当にあてがう理由もよく分からない。小説としては機能するのだけどね。「編集者は偏執者」:出版社の編集者が殺害された。彼はやり手として,会社からは評価される反面,複数の作家から恨みを買っていたという。容疑者の自称作家たちに会った毒島と明日香は?・・・毒島だけでなく中山七里も敵を作りそうな勢いで毒が吐かれているので驚く。ミステリーとしては,うん,まあ,うん。「賞を獲ってはみたものの」:ミステリー新人賞の授賞式で,ベテランから歴代の受賞者までが顔をそろえた。そこで若手たちに苦言を述べたベテラン作家・桐原が死体で発見される。・・・これはさすがに殺されても仕方がない気がする。そんな伝統要る? 「愛瀆者」:人気ミステリー作家・高森京平のトークショーとサイン会が池袋で開催された。だがそこには以前から有名だった彼の特殊な傾向を持つ女性ファン3名が参加していた。高森は翌日死体で発見される。果たして?・・・最初の短編の傾向に戻って異常な容疑者たちの状況に呆れる。まあそれで終わるけど。「原作とドラマの間には深くて暗い川がある」:毒島の人気作品をドラマ化する企画が進んでいたが,テレビ局側は勝手に次々と改変を加えていた。それを止めようと編集者と毒島は局側にクレームを入れるが,その晩にテレビプロデューサーが殺されてしまう。毒島は容疑者となる?!・・・これまでと異なる流れで,毒島が捜査に参加できない状況となる。コミカルで面白いとは思うが,出版業界からテレビ業界の話になってしまった。
2017.06.02
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東野圭吾の初期作品の特徴が顕著に表れた長編を読んだ。〇ストーリー大学を卒業したまま就職せず,それを両親には大学院に進学したと偽って,近くの繁華街の店でアルバイトをして暮らす光平。だが彼の周りで,謎の連続殺人事件が起き,彼の恋人まで刺殺されてしまう。全てを断ち切るために,光平はこの事件を解決しようとする。そして・・・-----------東野圭吾は言うまでもなく,発表する作品のすべてがヒットし,さらに映像化される大人気のミステリー作家だ。気付いた段階ではあまりにも人気作家だったので,逆に避けてしまった僕だが,その波がだいぶ落ち着いた今になって,初期作品から順番に読もうとしている。そうしたプロセスで驚いたのが,初期の東野圭吾と,いわゆるベストセラー作家の東野圭吾の差だ。今では,どの時点から売れっ子に成長したのか?という点も興味で読んでいる。-----------この作品を読んで感じたのは,これまでの作品以上に1980年代後半という時代性を表現しているということだ。他のあ作品も,全体的には80年代のモラトリアムを反映していたが,この作品の主人公は両親に大学院進学を偽ってアルバイト生活を続けている。たぶん今の時代から見れば不自然だろう,というポイントが同じ時代を体験している僕からすると,いちいち痛々しく刺さりつつ,迫ってくる。もちろん基本のミステリーとしては,実に親切に物語が展開される。その流れでストーリーが語られ,そして意外な展開も語られる。ただ,登場人物の考えていることが,あまりにも1980年代のふわふわしている時代をベースにしているので,そこから生まれる怒り,虚無感,嫉妬なども,もう一つ東野圭吾が表現しようとしているコアとのギャップが否めない。-----------主人公は,大学を卒業したのに,通常の就職では自分のアイデンティティが認められないという懸念から,アルバイト生活をする。この主人公のメンタリティが80年代ではカッコ良い,でも現代では共感を得られないので,そこが既にマイナスだ。それをなんとかクリアしたとしても,年上の美女と恋人関係にあり,その人が死ぬと同僚の女性と関係を持ち,さらに死んだ女性の妹と恋人になる,という女性関係の積極性は,ミステリーでは見たことのないレベルで,呆れてしまった。これは80年代へのオマージュなのだろうか?-----------最後まで読むと,物語の重層的なエピソードに圧倒されるが,他方,それで片付けられたくない気持ちが残る。過去の事件は,そこまで登場人物たちを縛るのか?事件と現代の事件はどうしてそこまでシンクロしたのか?佳作であることは間違いない作品なのだが,意外と外連味もあり,大きな世界へとつながる可能性を持っている。まだまだ東野圭吾の作家性の秘密は見えないけれども,どんどん読んでみようと思う。
2017.06.01
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