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逢坂剛の大河ドラマ〈イベリア・シリーズ〉の最終巻,第7作の上巻を読んだ。○ストーリードイツの敗戦の後,日本へ新型特殊爆弾の投下が行われ,ついにポツダムの無条件降伏が受理される。ヨーロッパに赴任していた日本人たちは,順次,アメリカへと送還され,必要以上に戦争行為に加担したかどうかで審判される。民間人かつ,ペルーとスペインの国籍を取得していた北都昭平は,当面当局の追求から逃れることが出来ていた。だが恋人のイギリス諜報部員・ヴァジニアが拉致されたことを聞き,自分が拘束される危険をおして敵地・ロンドンへと渡る。そこでは?・・・------------第二次世界大戦のヨーロッパを舞台にした大河ドラマ〈イベリア・シリーズ〉の最終巻,第7作の上巻を読んだ。これまでの巻の繰り返し部分があるので,それを飛ばして読むと,だいぶサクサクと読むことが出来た。ドイツが敗れ,続いて日本が敗れた状況のヨーロッパについては,フランスやドイツはいろいろな作品で描かれてきたが,スペインなど中立国で何が起こったのかについては分かっていなかった。それをさらっと描いてしまう逢坂剛は大したものだと思う。敗戦と国交断絶ということが起きると,その国に駐在していた大使館員と民間人が犯罪者のように移送されたという事実には驚いた。現在に至るまで国連において,日本は敵性国家として認定されているが,その不公平がいつから始まったのかを考えるのにも役立つ描写だ。------------さて,主人公・北都昭平は,ある意味で長きにわたった任務が終わったわけだが,身分と国籍を偽ってスペインにいた関係で,簡単には元に戻れないようだ。もっとも彼は日本に係累がいるようにも思えないし,諜報部員なのに本国に報告する相手がいたようではない。これはかなり設定上の矛盾点なのだが,もう今さら良いだろう。とすると,北都は日本に帰る必要性はないので,イギリス人の恋人・ヴァジニアとつつましくヨーロッパのどこかで暮らせばよいと思う。------------この最終巻は,珍しく読者のそうした気持ちを先取りして,キム・フィルビーとの確執を整理するために帰国したヴァジニアを描き,拉致された彼女を捜索するために,敵地ロンドンに北都が降り立つまでを描く。さすがに最終話に至っては無駄でイライラさせられる展開は少ない。上巻を読んでいる限りでは,大河ドラマの終盤が楽しめている。このままの空気で,15年越しの大団円を楽しませてもらいたい。
2017.05.31
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高楼方子(たかどの ほうこ)の〈ピピンとトムトムシリーズ〉の第2作を読んだ。〇ストーリーピピンの住むアパート〈ドレミファ荘〉の人々は4階に住む男性ジジルさんの扱いに困っている。彼は日によって優しい紳士だったり,怒りっぽい怖い偏屈だったりする。日によって気分が大きく変わる「ひがわり病」と推測されるジジルさんの原因を探るために,ピピンと親友のトムトムは,少年探偵団を結成するのだった。-----------大人の心も動かす深い作品を書く一方で,子供向けのライトで楽しい作品も書くのが高楼方子の特徴の1つだと思う。ヨーロッパを思わせるトムトムとピピンたちの小さな町は,少しずつ新しいキャラクターを増やしつつ,今回もお洒落で優しい。新しいキャラクターは,トムトムたちのクラスメートの少女・マド,化粧品店のきれいなお姉さん,そして〈ドレミファ荘〉4階の変人・ジジルだ。素直なマドを傷つけないように,という気持ちでトムトムとピピンは,”ジジルさん問題”に取り組む。-----------”ジジルさん問題”は迷惑であり,それが主人公たちの活躍で解消されたことは大きい。とは言え,前作の終盤で見られた,全ての登場人物にそれぞれの幸せが訪れるという大団円は,今回は発動しなかった。皆が感じていたここ2ヶ月のイライラが解消されただけだ。残念だが,第1作と比べてスケールが小さくなったことは否めない。岡田淳の〈こそあどの森シリーズ〉が楽しめるのは,作者の驚異的な才能もあるが,最初からある程度のレギュラーキャラクターを用意しておいたことがあると思う。〈ピピンとトムトムシリーズ〉は町の中で展開されているので,いくらでも登場人物を増やすことが出来る状況だが,あまり行き当たりばったりでそれをせずに,きちんと有機的に進めてもらいたいと願う。-----------多少批判的なことを述べてしまったが,さすがは高楼方子作品,安心の出来だ。
2017.05.30
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今とてもホットな話題となりつつある宅配便業界についてのレポートを読んだ。〇内容宅配便の生みの親・ヤマト運輸,運送業の全国統一を最初に成し遂げた佐川急便,ペリカン便の吸収合併を果たし第3勢力の日本郵便。日本の流通を左右する大手三社の成り立ちと今後の戦略は?そして各社の業績を乱高下させるネット通販の巨人アマゾンの次の手は?歴史と分析だけでなく,宅配ドライバー,路線トラック,物流センターに入り込み,実際に働くという身体を張ったルポも備えている。今や貴重なインフラとなっている宅配便について深く考えさせる一冊だ。-----------同僚に薦められて面白そうだったので手に取ってみた。僕が小説以外を読むのは数年に一度くらいなので,よほど気になったということだ。後から知ったが,筆者の横田増生は,アマゾンやユニクロの現場で実際に働いてレポートを書く,という日本のライターとしてはなかなか硬派の仕事人のようだ。-----------冒頭のヤマト運輸配送車,佐川急便路線トラックに同乗する”横乗り”レポートは,ごく普通のレベルだった。むしろその後に始まった,佐川急便,ヤマト運輸,日本郵便の成り立ちと現状を述べる中盤の部分の方が面白かったくらいだ。以前から気になっていた佐川とヤマトの社風の違い,会社戦略の差が,2社の成り立ちでよく理解できる。企業に媚びず,分かりやすくまとまっていて,スッキリと納得できた。-----------圧巻は,後半のヤマトの羽田クロノゲートでのアルバイトレポートと,各社のドライバーが過労であえいでいるという実情のインタビューだろう。ここで一気に普通の雑誌や新聞で読むことの出来る内容からレベルアップし,いろいろと差し障りの出る内容へとシフトしている。ただしこの筆者が偉いのは,職場で体験したことを問題と改善策を含めて語っていることと,それよりもそうした状況を生んでしまう顧客のニーズと過当競争にもきちんと目を向けていることだろう。企業が行ったミスをあげつらったり,内情を暴露するのは,朝日新聞や2ちゃんねる,そして総会屋でも出来ることだ。自分の体験をベースにして問題を浮き彫りにして,より大きな視点でその打開策を考えるとは,プロ意識を感じた。-----------3年がむしゃらに頑張れば家が建つ佐川急便,論理派で行政にも怯まない正しい企業ヤマト運輸・・・有名な企業イメージで,決して企業カラーと異なっていないけれど,今の時代実情はもう違うということは驚きだった。頑張っても報われない社会,にはなってもらいたくないなあ。送料無料のところで購入するのをやめようかなあ?ま,たぶんやめないけど。
2017.05.29
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天気が良いのに暑くない,という行楽日和だったので,姉と原宿に出かけた。目指したのは原宿の中心,明治通りと表参道の交差点,あのラフォーレも東急プラザもある神宮前交差点のすぐ裏手にある太田記念美術館だ。地下鉄から出て,千疋屋の角を入るともう美術館だ。----------入館すると,目立つのは1階の展示室の真ん中にある石灯籠と,小上がり,あるいは縁側みたいなわずかな畳敷きスペースだ。スペース効率を考えるとあまり望ましくないのだが,これを残して和風な空間を主張したかった気持ちはよく分かる。階段から上り,回廊状態になっているのが2階の展示室だが,両方を合わせても,上野の大手美術館の展示室1つ分くらいのスケールだ。前回来たのは20年以上前,この地でオープンした頃だったので,すっかり忘れているが,ひじょうに可愛らしい美術館だ。静嘉堂文庫と同じだが,展示室が企画展だけになって常設展の部屋が無いのは少し残念な気がする。----------さて企画展は,浮世絵でバイプレイヤーとして活躍している猫,子犬に始まり,馬・牛・鳥・虎などマイナーな動物が紹介される。そして風景画や美人画に描かれている,風物詩的な作品,その後は人間を狐や猫に置き換えたトリッキーな作品が続く。テーマ主体で作品を並べているので,作品制作の時代が幕末から明治中期まで行ったり来たりする。けれども,いつもと違ったモノサシで浮世絵を俯瞰するのは,なかなか面白い。十二支の動物の特徴を1つに集めた動物の図など,見たことのない発見もあった。----------原宿という土地の特徴もあり,べたべたするカップル,白人の旅行客などがいるのが,他の美術館とは異なる。けれども観光地にエアポケット的に生まれた日本伝統美術の展示館という不思議な状況を思えば仕方がないのかも知れない。----------企画展と同じくらい時間を過ごしたのが,地下の手ぬぐいショップ〈かまわぬ〉だ。姉も僕も欲しいものがいっぱいで,壁掛け用に加工してもらったりしていたので,長いこと待つことになった。その後,近場でお茶しようと思ったが,日曜日の原宿の人ごみに当てられて,家の最寄り駅まで帰ってから上島珈琲店で休憩をした。江戸,浮世絵,手ぬぐいという形で,現在まで文化を伝えているのが素晴らしい。これからは時々来ようと思う。
2017.05.28
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第1シーズン『勇者ヨシヒコと魔王の城』があまりにも面白かったので,その続編を観た。〇ストーリー勇者ヨシヒコが世界を救ってから100年後,世の中には再び魔物がはびこり,人々は絶望をしていた。人々は仏に祈願し,勇者一行を蘇らせてもらう。勇者たちは魔物を封印できるという,〈悪霊の鍵〉を探すための冒険の旅に出る。----------前作で面白さに圧倒され,時間を空けずに第2シーズンを観た。物語の設定は第1シーズン通りだ。『ドラゴンクエスト』の世界観と設定を借りた,ファンタジー特撮ドラマ・・・なのだが,まずは低予算,次にゆるーいテンション,という深夜ドラマのテイストで包まれている。『ドラクエ』のファンだったら怒ってしまう,という心配もあるけれど,作品への愛着がところどころに感じられるし,原作もけっこうゆるいノリなので,逆に応援してくれると思う。僕自身がそうだし。----------配役は,第1シーズンど同じだ。勇者ヨシヒコは山田孝之,戦士ダンジョーは宅麻伸,村娘ムラサキは木南晴夏,魔法使いメレブはムロツヨシ。やはりオリジナルキャストが揃うと,興奮するし安心する。ヨシヒコはマジメだけれど超天然,ダンジョーはもマジメだけれど時々エロオヤジ,ムラサキは毒舌のツッコミ,メレブはボケまくる。この4人のバランスがとにかく絶妙で面白い。あまりにも面白いので,もう永遠にこのままドラマが続いてもらいたいと思うほどだ。----------魔王と戦うための伝説の防具を集める物語だった第1シーズンに比べ,第2シーズンで探すのは悪霊の鍵だ。これが終盤まで,本物が見つからず空振りが続くので,今一つ盛り上がりに欠ける気がした。しかも最後に最後にやはり防具が要るというエピソードになって驚いた。この辺りちょっとシナリオがこなれていない気がした。最終話前後で展開されるエピソードも,第1シーズンでは驚きもあり,かつ流れ的に説得力もあったのだが,今回は何の説明もなく唐突に始まるので戸惑いしかなかった。----------魔物を仲間に出来る設定があったのに,ちっとも活かさないと思ったらこれかよ?的な,若干テンションが下がってしまった第2シーズンだった。とは言え,第1シーズンが満点を超える出来だったので,それから下がった第2シーズンであっても十分楽しめた。
2017.05.27
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大型スーパーに行くたびに,ちょっとした花の種や球根を買っていたのに,ずっと庭仕事はサボっていた。もちろん朝晩の水遣り,植木鉢の場所入れ替え,葉っぱの掃除などは毎日しているので,手入れはしている。けれども積極的に新しい計画は進んでいなかった。何しろ,去年のヒマワリは種を採取する前に台風で倒れてしまったし,ゴーヤは作っても家族にほとんど食べてもらえなかった。だがもう5月も終わりとなると焦りが生まれ,またなぜかヒマワリが数本自生して育ってきた。そこでさすがにやる気が出て,先週末に姉と一緒にホームセンターで花の苗を買って,一番目立つ花壇にアレンジをした。この週末は,爆発的に育ちつつあるセージを整理して,空けた場所に種を撒こうと思う。
2017.05.26
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北森鴻の童謡詩人・樹来たか子(きらいたかこ)をテーマにしたミステリーを読んだ。○ストーリー樹来たか子の作品に夢中になり,作品と作者を卒業論文のテーマにした女子大生・真夜子を主人公としている。図書館で調査をしていた彼女は,郷土史家・殿村,老人・弓沢と出会い,一緒に研究を進める。だが彼らの近くで樹来たか子とそっくりの殺され方をした殺人事件,そして謎のひき逃げ事件が発生する。こうした現代の事件と並行し,過去の樹来たか子の自殺の検証も行われる。さらに土地の民俗学的な考察もあり,物語は重層的に展開する。------------天才童謡詩人・金子みすゞをモデルにしたミステリーだ。金子みすゞは,大正時代の山口県で暮らしていた女性で,多くの童謡を残している。彼女の才能に嫉妬した夫に作詞を禁じられ,放蕩を繰り返す夫と離婚をしたのに子供を奪われそうになり自殺をする。この部分は,すっかりそのまま樹来たか子の人生として再現されている。下関に旅行に行った際に,金子みすゞの記念碑がいくつもあったのを思い出す。その後,東日本大震災の際に「こだまでしょうか」のCMのため,金子みすゞはさらに有名となった。------------女子大生・真夜子を主人公としている。現代パートでも事件が起きているが,樹来たか子の自殺をめぐり,様々な考察が繰り返される過去パートも挿入される。それ以外にも土地では不思議な事件が頻発し,オカルティックな噂と,それを民俗学的にひもとこうとする主人公たちの調査が繰り返される。------------歴史的な事象や遺物が,現代の人間に影響を与え事件の要因になる,という流れは,北森鴻の傑作シリーズ〈蓮丈那智シリーズ〉や〈冬狐堂シリーズ〉に似ている。歴史と民俗学をベースにした考察は知的な好奇心を満足させるし,物語に奥行きを与えている。ただ,こうした後のシリーズと比べると,あまりにも複数の要素を盛り込み過ぎていて,肝心の物語の流れを阻害しているし,偶然,あるいは因縁の要素が強過ぎる気がした。この物語の舞台となっている東京の架空の市・遠誉野(とよの)の縁起についても,ものものしく語り始めたわりには未解決のままとなっている。終盤のミステリー部分の畳み掛けも含めて,やや気負い過ぎではないかと思った。後のシリーズへの成長過程と考えれば良いのかも知れない。------------ずっと以前に死んでいる樹来たか子を中心に,複数の人が通常と異なる状態になり,事件と調査は続いたが,終盤にほとんどの人が,ほっとして穏やかになっているのが救いだった。
2017.05.25
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阪神淡路大震災をテーマにした湊かなえの連作短編集を読んだ。〇ストーリー女子大生・雪絵は,独りでトンガに来る。彼女は,かつてここで海外協力隊で赴任していた女性の足取りをたどってここまで来た。〈あの場所〉を探して,困った状況になった彼女を助けてくれたのは?---------阪神淡路大震災に人生を翻弄された女性たちを描いた連作短編集だ。なのだが,ほとんどの作品の舞台はトンガであり,また彼女たちが引き摺っている過去も,極端な性格の人物が原因であり,必ずしも震災がトリガーではない。例によって何も事前情報を得ずに読み始めた僕からすれば,トンガを舞台にした退屈な短編集でしかない。---------受動的な女性たちを主人公にすることは,震災という避けようのない不幸に直面する人間を描くには一定の正統性があるのかも知れない。だが,物語をトンガで描く必然性は,なかなか説明がつかない。僕自身もまだまだ東北大震災が関連すると,どうしても感傷的な判断が入り,ニュートラルな判断が出来ない。ただ阪神淡路大震災について,他人が感傷的になっているのは,申し訳ないけれど露骨に感じてしまう。震災での体験と,元からの人間関係の問題がゴッチャにされていて,スッキリしない所に加え,無理やりトンガに舞台が移り,人生リセットみたいなことを語られても戸惑う。震災をベースにした,私のファンタジー読んでください,と言われているような違和感ばかりを感じてしまった。きっとこの作品の印税の一部は寄付金になっているのだろう。気持ち悪い。---------僕が作品に求めるのは面白さだ。作者が金持ちのボンボンで苦労知らずだろうと,不幸の連続で苦しい生活を送った人だろうとどうでもいい。作品と,現実の事件が重なっていて,そこで共感を望まれるのも好きではない。阪神淡路大震災の時に僕はアメリカで暮らしていたし,日本にいたとしても東京在住なので出来ることは少なかったと思う。同じように,太平洋戦争の時代の作品をいつまでも感傷的に扱う一部の人々がいるが,その作品は客観的に面白いのか?面白くないのか?という視点で語ってもらいたい。親戚のオジサンのつまらない話を,彼が体験したからと延々と聞かされる。さらにそれをいい話だと無理やり共感を求められる。そんなことはどんな読者にも体験してもらいたくない。面白い話を,心が打たれる物語を読みたい。それを書くのはどんな人物でも,物語の背景はどんなフィクションで構わない。時代を言い訳にしてウェットな設定に頼っている小説は,本当に小説なのだろうか?僕が読みたいのは誰かの思想ではなく,誰かがそっと伝えたい物語だ。---------各編について簡単に感想を述べる。「楽園」:女子大生・雪絵は,独りでトンガに来る。彼女は,かつてここで海外協力隊で赴任していた女性の足取りをたどってここまで来た。〈あの場所〉を探して,困った状況になった彼女を助けてくれたのは?・・・尚美,理恵子,杏子とキャラクターは揃う。だがどうしても主人公・雪絵のあまりにも不自然な苦労に共感が出来ない。そんな人なのに,やたらと他人に好かれているのも不自然だと感じてしまい,この作品を読む気持ちが薄らいだ。ただ他の短編で,雪絵の甘さが批判されているのは一応評価する。「約束」:海外青年協力隊のメンバーとしてトンガの女子校で教師をしている理恵子に,日本から婚約者が訪れる。・・・せっかくトンガでの生活があったのに,うじうじと日本の人間関係に引きずられる理恵子は何なんだろう?おまけに婚約者は表面は優秀で,2人きりになると束縛をするDV男。何が言いたいのか分からない。「太陽」:せっかく大学まで行った杏子は,妊娠をきっかけに学校も辞め,シングルマザーとして暮らすこととなる。ある事をきっかけに,彼女は小学校の頃に体験した震災の際に,自分を元気付けてくれた青年を探してトンガに行く。・・・この主人公に共感する人がいたら,教えてもらいたい。命を大事にと言いつつ,言い訳だらけで不幸の拡大再生産をしているだけのメスだ。「絶唱」:作家となった千晴は,トンガの尚美宛てに手紙を書く。・・・震災で壊れてしまった日常を描きたいのか,震災という状況にあえてとどまるべきということを述べているのか,どちらなのかまったく分からない。さらに言えば,この主人公誰?これって連作短編集じゃなかったの?
2017.05.24
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東野圭吾の初期長編を読んだ。〇ストーリー女流ミステリー作家〈あたし〉の恋人でフリーライターの川津が殺害される。不審に思った彼女は,彼の取材資料を手に入れるが,それは盗まれてしまう。明らかになってきたのは,彼が1年前に参加したクルーズツアーの参加者たちが,次々に命を奪われているということだった。〈あたし〉は,真相に迫るために新しいクルーズツアーに参加する。だが・・・---------世の中には2時間サスペンスドラマという枠組みがある。テレビのエンターテインメントとしては優れているが,ミステリーに慣れていない視聴者にも理解できるようにと,謎解きや出演者の演技はひじょうに分かりやすいものになっていることが多い。この作品に寄せられている感想は,「まるで2時間サスペンスドラマのようだ」というものがいくつもある。僕自身も同じ印象を持った。ネガティブな意味も,ポジティブな意味も含めて,2時間サスペンスドラマのような作品だ。---------物語は,ア)ある事件,から始まり,イ)遺された資料の盗難,を経て,めでたくウ)過去の事件について語ることを避けようとする関係者たち,という流れとなる。そこまではリアリティがなんとかあったのだが,エ)何度も侵入される主人公のマンション,オ)1年前の事件を再現するようなクルーズ,カ)それに参加する主人公,となってくると,明らかに通常のメンタリティとかけ離れた人々の物語になってくる。それもそのはず,この作品は,極限状況にある人々の行動についてのディベートをもとに作成されているからだ。その状況と行動について語りたいがために,延々とその周りにストーリーを構築した,という状況に近い。そうしたガチガチの無理をしているから,登場人物たちの行動が不自然でも,強引に物語は先に進む。果たして,元となったディベートでの人間行動の是非は?そして,そこか発生した事件は読者の共感を得るのか?---------結果は,少なくとも僕から見れば,非道な行動,そしてそれをベースにした歪んだメンタリティの事件,ということになる。登場人物たちも,傲慢で,相手によって態度を変えるイヤな人が多い。それによって,主人公や読者をミスリードしようとしているのだろうけれど,イヤなヤツであっても,おかしい人物とまでは言えない。不自然な設定なのに,ところどころろマダラに感傷的なリアリティが混ざっている,という手に負えない状況だった。---------若さゆえの駄作とも言えるけれど,正直,2時間サスペンスを狙って書いたのではないかと邪推している。絶対,それ狙いの企画ってあると思う。でも残念ながら,これまでの東野圭吾作品とはレベルが違う。読む価値はないと思う。オススメは出来ない。
2017.05.23
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『VERY』に連載された,子育てをテーマにした辻村深月の連作短編集を読んだ。〇ストーリー会計事務所に勤める鶴峯裕の取引先の会社の社長夫人が,ある悩みを持ち掛けてきた。彼女は職場復帰をしたいのに保育園の受け入れ先が無く,いっそ極端な手段を取るべきかどうか?鶴峯夫婦は,自分たちの体験を語り,彼女の精神的な負担を和らげようとする。悩んでいる夫人とは一方に,この状況を利用して別の動きをする勢力があり・・・------------鶴峯家は夫が公認会計士,妻が起業した高級肌着ブランドの社長だ。これを前提に,”フツーの子育て話”が進む。うーん?この設定のどこが普通だろう?だが連載誌が『VERY』でセレブ指向が強い読者層で,上昇志向が強い辻村深月の作品なので,そう言う事で物語はひたすら進む。だから夫の年収1,500万円,妻の年収1,000万円+経費処理300万円が,想定される設定であっても,それで主人公たちが「僕たちフツーの夫婦で苦労しています」と言っても,オホホアハハと納得して読むことが,この作品への正しいアプローチとなる。まあ,セレブ指向の人はともかく,フツーの人にこの作品への共感は無理だろう。------------とは言え,そこはデビュー作を含め,同人誌っぽいミステリーの頃から辻村深月作品を読んでいた僕なので,この中から自分が読める部分を切り取ることは可能だ。5つの短編は,保育園ママ,ホカツ,入試,誕生日会,子供の発育,と,子育てをしている人ならば直面する問題を順番に並べているようなものだ。そのほとんどは『ママはぽよぽよザウルスがお好き』を初め,コミックやエッセイで語られた内容で,目新しさは正直薄い。ミステリー畑の作家が,自分が子育てをしたからと言って,訳知り顔でそのジャンルのノウハウ小説を書いている。微妙にゆるーい,日常ミステリーを絡めているのが,言い訳っぽくて余計にイライラする。・・・と,4つの短編までは我慢我慢で読み進んだ。すると最後にようやく生々しい感情が見える短編があり,なんとか我慢した自分が報われたという気分になった。多くの読者が,途中でギブアップしたと言っているが,最後の短編だけは雰囲気が違うので読んでみてもらいたい。いっそ,最初の短編の次に,最後の短編を読んで,終わりにしてもいいと思うくらいだ。------------背伸びをしつつも,基本的には自分の身の回りの世界を作品に反映してきた辻村深月としては,当たり前の帰結なのかも知れないが,とうとう自分だけでなく子育てを作品のテーマにしてしまった。気になるのは,これまで弱者の立場で,高校,大学,就職,親子の主人公たちの物語が語られていたのに比べ,この作品では堂々と勝者の立場のロジックが語られている。子育てのトラブルをテーマにしたミステリーは,加納朋子の〈セブンシリーズ〉を含め,世の中にいくつも存在する。辻村深月の作品が,子育て小説,ミステリー小説として,新しい価値観を提供しているか?と問われると,かなり否定的な立場を取らざるを得ない。『VERY』の信者,あるいは僕と違う立場の辻村深月の信者以外には,なかなかオススメは出来ない。------------各編について簡単に感想を述べる。「イケダン、見つけた?」:小さな会計事務所に勤める裕は,起業し仕事を持つ妻・志保と一緒に,保育園に通う4才の長女,2才の長男を育てている。そんな中,転園してきたママの怪しい噂が流れ・・・導入編とは言え,主人公家族の自己肯定が強くて当てられる。家をプロにクリーニングしてもらって,ママは取材前にプロにメイクしてもらって,それがフツーですかい?その上,生徒会長的なこともやっちゃうって,スーパーヒーローだよね。さすが『VERY』。「ホカツの国」:裕の取引先の社長夫人が,職場復帰をしたいのに保育園の受け入れ先が無くて困っていた。鶴峯夫婦は,自分たちの体験を語り,彼女の精神的な負担を和らげようとするのだが,この状況を利用して別の動きをする勢力があり・・・ひじょうに情報が豊かな短編ではあるのだが,その後の事件となる状況が,豊かな家庭でしか出来ない行動なので,ゲッソリする。さすが『VERY』。「お受験の城」:裕が偶然出会った大学時代の共通の友人・由衣は,有名幼稚園に娘を通わせていた。小学校受験に向けて準備万端のように見えた彼女は,ある時から幼稚園で孤立するようになる。その真相とは?・・・鶴峯夫婦,由衣,さらに友人1人,という構成で〈お受験〉を語らせ,ある謎について膨らませる,という意味ではさすがの筆力だ。でもだんだんとリアリティが無くなる。「お誕生会の島」:他の幼稚園から転園してきた少女の母親は,元有名モデルだった。鶴峯夫婦はなんとか,このわだかまりを解きたいと思うのだが・・・ミステリー要素としては一番大きかった短編かもし知れない。だが,その解答はほとんどファンタジーの世界で,さすがの『VERY』でもこれは「おかしい」となるんだ,というモノサシにしかならない。これまでギリギリ身近なネタだったのに,不自然な転園生を用いるあたり,ネタ切れということを感じる。母親の行動は,今ならば親たちのSNSでの情報漏洩を阻止するための,個人情報の保護が目的だと思ったけれど,そこまでは執筆の頃は問題では無かったのだろうか?「秘密のない夫婦」:外国出張中に不自然な行動があったという志保。それを知らされた裕が,考えた末に志保に問いただしたこととは?・・・うわ,理想的な旦那。相変わらず鼻につく作品世界なのだが,この短編だけは,ちょっとぐっと心に来た。まずは主人公・鶴峯夫妻の問題であり,彼ら(正しくは妻がだが)が悩んでいる現在進行形の問題であるということ。次にこれまでの短編の伏線を回収を,かなり薄味だったとは言え,行っている短編であること。そして,鶴峯夫妻と子供,というこれまでのテーマではなく,鶴峯夫妻と親という別の方向で,そして生々しいテーマを取り上げていること。ずるいと感じるほど見事なレトリック,そして心にぐっと刺さる普遍的なテーマ,これこそ辻村深月の作品だ。最後の短編で,ようやく本来の魅力を発揮してくれた。・・・でも掘り下げもタイミングも,遅い。ダメだろう。読むほどに枯渇を感じる。自分の身の回りを消費しつくした後に,この作家はどこに行くつもりだろう?
2017.05.22
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猛暑の週末となったが,六本木で開催中の美術展に行ってきた。-----------国立新美術館は乃木坂駅から直行できるので助かる。さらに駅のコンコースで美術展のチケットが購入できるのが大きい。今回のそのおかげで,行列を1つ並ばないで済んだ。ちょうど開場時間の10時に駅に着いたが,美術館に向かって歩く人が多い。さらに入館するとすでに数百人規模の行列が出来ている。現在,〈草間彌生展〉と〈ミュシャ展〉をダブル開催していて,両方とも大人気だ。僕が行った〈ミュシャ〉よりも〈草間彌生〉の方が人気のようで,行列は館内に納まり切らず,外部にも出来ていた。10時ですでに日差しはじりじりと照り付けていたので,大変だったろう。〈ミュシャ展〉は,それよりは楽とは言え,奥の階段,上のフロアの吹き抜けに沿った廊下がすべてに並ぶ必要があった。美術館にとっては素晴らしい状況だろう。-----------さていよいよ入場すると,大空間の展示室が3つ用意されていて,そこに「スラブ叙事詩」全20作が展示されていた。驚きの空間,驚きの作品スケール,とにかく大きい。大き過ぎて遠ざからないと何が描いてあるのか分からない。でも説明書きは絵の足元の壁に表示してある。また作品の大きさの関係で,20作の連作が,順番通りに並んでいない。こうした状況のため,僕も含めて観客は,前後左右にうろうろよろよろする羽目になった。双眼鏡を持ってきている人が数名いたが,あれは正解だ。-----------「スラブ叙事詩」は,中世,近世,現代を通じたスラブ民族の苦難の歴史を描いた歴史絵画だ。写実的な作品もあるが,ロマン主義的な空想的な手法も取り入れている。ただ20世紀の絵画作品としては,かなり時代遅れの感は否めない。そもそもスラブ民族と言われて,ピンとこない。ロシアを舞台にした作品もあるが,ほとんどは中央アジアを舞台にしているので,正直歴史について知識が欠けている。チェコスロバキアが成立し,その後,ボスニアの民族紛争が起きたことを考えると,なかなか悲劇的な作品とも言える。-----------圧巻の「スラブ叙事詩」の後に,サラ・ベルナールをモデルにしたパリ時代の版画ポスターが並ぶ。ミュシャと言えばこちらの”花と美女の版画”を想像する。僕も会場はこちらでゆるゆると始まり,「スラブ叙事詩」で終わるのだと思っていたら,順番が逆だった。まあ,でも圧倒された後なので,何やらリハビリのような効果があった気がする。これらの多くは堺市の所有だというのに驚いた。「ボスニア・ヘルツェゴビナ館・壁画下絵」という作品を観ると,本当に上手い人なんだと思う。ただこの作品は何やら天野喜孝を思い出させた。-----------開催はあと1週間なのでますます人気が出ると思うが,行ってみる価値は十分あると思う。双眼鏡を忘れずに。
2017.05.21
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『SP』『Border』のDNAを継ぐ刑事ドラマを観た。〇ストーリー吉永班長が率いる公安の特捜班は,現場捜査担当の田丸と稲見,爆破物担当の樫井,ハッキング担当の大山の5人で構成されている。既存の組織からはみ出した彼らは,テロ防止,政治家の特殊警護,潜入捜査など,通常の警察では対応できない事件に駆り出される。彼らは利用されるだけで終わるのか?それとも?----------「GO」の作者・金城一紀は,自著「フライ、ダディ、フライ」の脚本を皮切りに,刑事ドラマ『SP』の原案・脚本を担った。『SP』は映画化されるほどのヒットとなり,その成功のおかげだと思うが,『Border』,そして今回の『Crisis』の原案・脚本を手掛けている。『SP』は,変わった人物造形,ハードなアクション,厳しい状況の事件,自然光での撮影で,通常の刑事ドラマとは全く異なる空気を出すことに成功した。『Border』そして今回の『Crisis』も,その系譜を受け継いでいる。----------今回の作品が,これまでの2作と異なるのは,西島秀俊が演じる田丸,小栗旬が演じる稲見の2人によるツートップであることだ。有能だが単独で突っ走ることの多かったこれまでの主人公ではなく,このツートップのおかげで主人公たちがきちんと自分の内面を語るようになり,それによりチームの他のメンバーとの交流もきちんと描かれるようになっている。----------主人公チームは警備局長の鍛冶により形成されたようだが,この男がクセモノで何やら企んでいる節がある。この先どのような展開になるのか,目が離せない作品だ。今シーズン,イチオシのオススメだ。
2017.05.20
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仕事が立て込んでいた1週間だったが,早出出勤をして午後半休を取った。そして行ったのが,永田町の国立劇場・国立演芸場で開催されている〈5月中席〉だ。----------落語の真打の披露会を兼ねているのが〈5月中席だ〉。林家,春風亭,柳家,三遊亭,鈴々舎から,それぞれ1人ずつ真打に昇進した噺家がおり,そのお祝いで彼らが交互にトリを務めている。僕が観た日は三遊亭ときん(時松改め)がトリだった。それに関連し,師匠の三遊亭金時,大師匠の三遊亭金馬も登場していた。----------〈笑点〉のレギュラー・林家木久扇も出ており,この番組をあまり観ていない僕にしても,テレビに出ていた人という安心感は大きい。メインはほぼ80才の噺家が,元師匠の老いを真似る,というなかなかニッチでテレビではNGだろうというネタだった。三遊亭金馬・ときんの噺も別の意味でテレビでは好まれないだろうと思った。いずれも基本は古典なのだが,江戸時代と歌舞伎の知識を要求されるものなのだったからだ。濃い演技での噺は,ライブの場では面白いが,テレビでは上手く伝わらないと思う。----------もう何年振りというくらい久しぶりの寄席だったが,さすがは真打たちの話芸は安定して楽しめた。古典が江戸,とう時代は終わり,昭和が古典の一部となると,前振りなのか,本題なのか,見極めが出来ないというのも,なかなか面白い趣向だと思う。いい時代だと思うけどなあ。
2017.05.19
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音楽ミステリーで有名な中山七里の長編を読んだ。〇ストーリー東京の下町・葛飾で女子高生が誘拐され,その後,激しく暴行を受けた死体が廃工場で発見された。帝都テレビの報道記者・里谷と朝倉は,彼女が通っていた高校から下校する生徒に取材を行い,彼女をターゲットとしていじめていたグループにたどり着く。グループの言動から,彼らが犯人に違いないとしてスクープをした帝都テレビだが,その後,驚愕の事実が明らかになり・・・----------音楽ミステリーでデビューをした中山七里は,音楽家・岬洋介を中心とした音楽ミステリーを発表する一方で,悪徳弁護士・御子柴礼司を中心とした法廷ミステリーも発表している。独自のカラーの2つのジャンル以外でも精力的に作品を発表しているが,それらでよく見られるモチーフは,ある職業にフォーカスしていること,そこでの新人が迷いながら成長する姿を描いていること,そしてもちろん意外性に満ちたミステリーであることだ。この作品は,3つ目のグループに属する。今回の主人公の職業はテレビ局の記者で,報道局配属2年目の朝倉多香美は,局のエースと言われる男性・里谷とコンビを組みながら仕事を覚える。----------帝都テレビは,中山七里の別の作品「切り裂きジャックの告白」で,連続殺人事件犯人と警視庁管理官のテレビを利用した挑発合戦に加担し,社会からの信用を著しく失っている,という設定だ。まるでお台場の〇ジテレビのように,バブル時代からの同じ番組制作を続けていたために,局全体で人気と視聴率が下がり,じり貧の状態だ。その空気を払拭するためにも,骨太の報道でスクープを抜くことが求められ,主人公たちがそれに向けて動く,というのが物語の流れになる。----------ただし物語を通じて,中山七里がマスコミの横暴さ,傲慢さ,2面性に対して感じている不信,不満が,主人公の2人を利用して語り続けられる。エンターテインメントであるミステリー小説なのに,ミステリー要素は薄く,マスコミ批判のプロパガンダを読まされている気分になる。まだ犠牲者や容疑者の女子高生たちの心理に踏み込む部分があれば,現代の若者の冷血を語るという小説としての意義があったかも知れない。だが主人公の言葉を借りて「若者は分からない」と早々に諦めているので,まさに事件をテレビを通じて知るような,表面的なことしか伝わってこない。----------こうした欠点があるので,小説を読むという楽しみは味わえなかった。「スタート!」にも登場した,捜査一課の刑事・宮藤が登場し,独特の空気を振りまくのが,中山七里ファンとしては楽しめる唯一の部分だろうか?かなりの中山七里ファンでない限り,他の作品を読んだ方が良いと思う。オススメ出来ない。
2017.05.18
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木下半太お得意のジェットコースターサスペンスを読んだ。〇ストーリー居酒屋の40代女性店長と女子大生アルバイトの女子大生は,閉店後の店の業務用冷蔵庫に閉じ込められ,温度を下げられ続ける。その悪意に満ちた行動を行っているのは誰なのかを探るために,2人の女性は自分たちの罪を語り始める。だが,互いに人を騙そうとしていた2人は,それを超えた悪意が今回の計画の背景にあることを知る。無事に翌朝を迎えるのは誰なのか?----------限定された状況から,意外性に満ち満ちた驚きの展開を見せるのが木下半太の真骨頂だ。今回の作品はデビュー作「悪夢のエレベーター」に戻ったようだった。狭い空間の中に閉じ込められた主人公たちが始める,徐々にずれていく人間模様が面白い。読んでいてひじょうにワクワクさせられた。純ブンガクはもちろん,ミステリーやSFでさえ,”人間を描く”ことに苦心していて,ストーリーテリングの面白さが忘れかけている。そんな時代だからこそ,木下半太の強引なホラ話が実に爽快だ。----------今回の作品では,閉じ込められた2人の女性の視点で物語が語られる。表面上は同じ居酒屋の店長とアルバイトという関係の2人だが,裏では同じ男性をめぐって三角関係にあり,さらには・・・と次々に新しい事実が明かされ続ける。だが,登場人物の少なさなのか,キャラ設定がありきたりなのか,店の冷蔵庫という平凡な状況がいけないのか,物語の広がりが少なくて,木下半太の一番の持ち味である意外な展開が,ほとんど感じられなかった。登場人物たちが,それぞれ予想外の面を見せるのは,この作者としては当然の展開なのだが,職場での顔Aから,プライベートでの顔Bが見え,さらに1人の時の顔Cが見え,という程度では,ひじょうに勝手ながらファンはもう満足出来ない。まして1人の時の顔Cがフツーだったりすると,「何言ってんの,ホントはもっと腹黒いでしょ??」と疑ってしまう。本当に歪んでいるのは読んでいるこちらなのだけどね。----------"chapter three"の終盤で,彼女たちを閉じ込めていた犯人の姿が見え,別の事件も見え始める。そこは一瞬サスペンス的に盛り上がる。この作品の欠点は,終盤に木下半太作品としては定石通りのどんでん返しが待ち構えているものの,それが物語の時間軸のライブではなく,エピローグの中なので,緊張感が途切れている状況だということだろう。あまり作者自身でハードルを高くしないで,新しい展開を必死に探さずとも,これまでの作品で十分培われたテクニックでサスペンス作品であれば十分に成立すると思った。無理筋な展開よりも,定石通りの流れが良いと思う。----------久々の木下半太作品だったが,残念ながら不完全燃焼で終わってしまった。
2017.05.17
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東野圭吾の初期長編を読んだ。〇ストーリー1年前に,兄が不自然な死を迎えたペンション・〈まざあ・ぐうす〉,真相を探るためにナオコとマコトはそこに宿泊する。マザー・グースの詩に彩られたペンションで,1年前の事件を探る彼女たちは,2年前の事故,そして新たに発生した事故の謎解きもすることになる。果たして一連の事故が示すのは,陰に隠れた連続殺人犯の姿なのか?----------ナオコとマコトというコンビが,互いを補うことで物語を進める駆動力を発揮しているので,リーダビリティは申し分ない。兄を殺したかも知れない人々の中に自分たちから飛び込んで,調査を行うというサスペンスも本格ミステリーの読者の立場からすれば,孤立した雪山の別荘を想定してしまった。いつまでも孤立せず,複数の宿泊客が自由に出入りをしている白馬山荘では,暗号による謎解きと,密室殺人の謎解きが並行して行われる。印象としては,いかにも〈A〉という場に作品を設定しておきながら,作者がより得意の密室殺人〈B〉と,暗号解読〈C〉へと物語の流れをシフトした,というものだ。方向性を決めかねている初期の東野圭吾の状況がよく分かる作品でもある。----------主人公たちが良いキャラクターの割には,全体的にスッキリしない作品だ。まずはマザー・グースの詩を用いた暗号の謎解きがあるのだが,部分的に細かいワリに,ある所からは「そう解釈も出来るからOKだ」という蓋然性の低い説明で終わっていて,これが本当の正解なのか?とスッキリしない。また,それだけ難易度の高い謎解きなのに,実は多くの人が解いていて,それゆえに殺人事件も起きた,と言われても,最初の条件が無理筋なので,リアリティがない。単純に作者が物語をあるところに引っ張りたいからだ,と言われても否定できないと思う。基本的な流れが解決した後のエピローグで,あらためてスッキリしない要素が付け加えられていてゲッソリした。その〇〇を,そこに埋めるのはなぜ?そこから読み取れた謎解きは本当にそれ1つだけ?今回は,東野圭吾とは思えないほど,強引な流れが気になった。----------こうした小さな宿で,サークルのように仲良く親交を深める,というのも団塊の世代の発想なのだろうか?その少し下の世代の僕からすると,せっかくの旅行先なので,それは煩わしいという気持ちの方が強い。宿泊者同士の不思議な仲の良さは,実は裏に秘めた目的があったのだ!・・・と思っていたが,それほどではなかった。不自然な相互監視の目的は,気のせいということで説明されなかった。ちょっとアンフェアじゃないかな?既に述べたように謎解きももう1つカチッと響いてこない。読み終えた後でも,本当にこれが謎の真相だったのか,はっきりしない。ワリと近いので,暗号が無くても状況設定も説得力に欠けるという状況だ。もう少し何とかならなkったのだろうか?----------主人公・ナオコとマコトの2人,最低の登場をしつつ最後には協力的となった村政警部,この3人の魅力で,一応は読める作品になっていると思った。残念ながらオススメは出来ない。
2017.05.16
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打海文三の情感に満ちた短編集を読んだ。〇ストーリー妻と娘が出産のために実家に帰っている間,中村哲郎はかりそめの独り暮らしを楽しむ。彼は公園の野球場で,ワンピース姿でファウルボールをキャッチし,遠投で投げ返す不思議な女性と出会う。彼女に魅惑された哲郎は翌週にキャッチボールをする。さらに関係を深めようとした哲郎は,彼女の言うままに・・・-----------不思議な味わいに満ちた短編集だ。まずは全体的に魅惑的なエロティシズムに満ちている。基本は男性が主人公の短編で紡がれているが,どの短編でも主人公は女性から誘われ,多くの場合ベッドを共にする。登場する女性の多くは年上,それでなくても30代,40代で,身長は高く,体格が良く,腰と胸が大きい。・・・日本人の女性の対極にあるような女性像を毎回描いているのは,なんかの呪詛だろうか?さらになぜかスムーズに進んでいた短編の結末に,主人公の悲劇が待ち構えているのを知ると,各編に登場する妖艶な女性たちは,恐ろしい妖女にしか思えなくなる。-----------それまではブンガク的な味わいを持つ作品ということで片付けられるのだが,最終短編で,これまでの短編をつなぐ秘密が語られる。確かに,いくつかの短編で登場人物が重なり,ゆるいリンクが張られていたが,さすがに最後の最期で,連作短編集に変えようというのは,無理筋ではないだろうか?あちこちファンタジーのようになっているので,最後の最期で整合性を取ろうとしても難し過ぎると思う。きれいに謎が整理されることはないのだから,ミステリーのカラーを加えるよりも,退廃的な空気を持った現代のファンタジーとして,妖艶なままで終わった方が良かったと思う。残念だ。-----------各編について簡単に感想を述べる。「はしゃぎすぎてはいけない」:服部正幸は,大学教員である両親が短期海外赴任に行っている間,久々に実家に戻ることにした。離婚の調停を終え独り身に戻った正幸は開放感を感じ,また彼を誘ってくる女性も複数いた。ある女性から呼び出され,迎えに行った正幸は?・・・中盤まで男性的な視点ではあっても,のんびりとした展開だったのに,ラストの流れが衝撃的だ。ブンガク的に,そういう人生模様なのかな?とは思うけれど。「結婚式までカウントダウン」:婚約者の両親を伴った食事会をすっぽかした田島隆介は,住宅街にある画家のアトリエで,年上の女性と出会う。〈鳥〉と名乗る女性の魅力に負けた隆介は,彼女とホテルに行くのだが?・・・独特の魅惑的な空気で満たされている。主人公・隆介には少しも共感出来ないが,さすがに終盤の流れには驚いた。「お家へ帰ろう」:故郷に高校時代の先生が戻ったことを知り,沢口高志は自分の営業ルートにその町を加えるようにする。その町に行く途中で出会った女性・順子と怪しい関係になりつつ,高志は元先生への気持ちを募らせるのだが?・・・さすがに3つ目の短編も同じ流れだと,ちょっと辟易する。また年上女性?「街で拾ったもの」:エッセイマンガでカリスマ的な人気となった,アガタ美玲,担当編集員だったが彼女と暮らすようになった竹内康雄。2人が暮らす家に,田中佐知子という魅惑的な女性が加わった。それによって・・・主人公はサラリーマンではない。彼の恋人はサイコパスではない,という点では空気が違う短編だが。それにしても。「みんな我慢してるんです、と彼女は言った」:出産のために子供を連れて妻は実家に帰っており,中村哲郎は束の間の独り暮らしを楽しむ。彼は公園の野球場で,ファウルボールをキャッチし,投げ返す不思議な女性と出会う。彼女に魅惑された哲郎は?・・・ふぁ?何これ?心象風景???ひどすぎない?「ふたりのメアリー」:宮本俊一は中学生の時から生き別れだった妹と再会する。豊満な大人となって戻ってきた妹と,アートと映画の話をしつつ,俊一は悲劇へと突き進む。・・・またまた小説未満の心象風景だ。さらに,最後に取って付けたような事件。これって必要なの???「美しい年齢」:世界中をさまよっている若者・植田政人に,彼の恋人・大野靖子が殺人事件のトラブルに巻き込まれていることが知らされる。彼が出会った女性・森本茜は,桜沢礼子というアーティストが,これまで複数の殺人を犯し,かつそれを芸術作品に昇華しているという話を語る。帰国した政人は?・・・これからだろう,というところでキャッチボールをしておしまい。。。あ,そうですか。ゲッソリ。
2017.05.15
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マーベルのアメコミ原作映画の1つ,〈ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー〉の第2作を観た。〇ストーリー宇宙のトレジャーハンター,ピーター・クイルと仲間たち〈ガーディアンズ〉は,ソブリン星の貴重な動力電池を怪物から守るという依頼をこなし,彼らは報酬としてガモーラの妹・ネビュラを身を譲り受ける。だが帰ろうとする彼らをソブリン星の船隊が追ってきた,なんとロケットが動力電池の一部をくすねていたのだ。謎の人物の協力で,なんとかベアハート星へと不時着する〈ガーディアンズ〉は,それがクイルの父親だと知る。父親の星へ行くクイルとベアハート星で船の修理をするロケットとで,二手に分かれた彼らだが,それぞれを狙おうとする者が現れる。どうなる〈ガーディアンズ〉?-----------相変わらずハッピーなSF映画だ。〈アイアンマン〉や〈マイティ・ソー〉と同じ,マーベル原作の映画で,同じ世界観を共有していると言われているのが,あちらは(主に)地球を舞台にしたヒーロー物語,こちらはバリバリのスペースオペラだ。雰囲気はひじょうに前作に近く,次々とピンチが訪れ,主人公たち前科者チームが,1970年代から80年代のヒットソングを流しながら,バリバリと冒険する,というものだ。それにしても『アベンジャーズ』が映画公開されるためには,その前に5本を要したのと比べると,〈ガーディアンズ〉はたった1作で,しかも有名ではないメンバーでヒーローチームを作り上げているのは効率的だ。同じことを目指したDCコミックスの『スーサイド・スクワッド』が,製作者の意図に反してノリは悪いし,キャラ説明が多い素人っぽい映画だったことを考えると,この作品の脚本や監督がいかに手馴れているかが分かる。-----------『デッドプール』という異端児はあったものの,アメコミ映画ではどうしても正義を執行する主人公と,悪役との対立構造になってしまう。このシリーズは,そんな空気を軽く無視して,主人公たちが盗みを働いたり,相手をだましたり,また下品な言動をしつこく続けたりしている。そろそろアンチヒーローを,と思っていた観客に,きちんとそれを提供する。そのバランス感覚は,長年複数のヒーロー物語を展開してきたアメコミならではだと思う。これが単発の映画だったら,”何を今さらスペースオペラをやってるんだ”と思うところだろうけれど,マーベルの映画の1つだから行ってしまう。それが上記のように,きちんと他の作品の補完となっているあたり,繰り返しになるけれど,企画なのか自信なのか,とにかくそれの勝利だ。横綱相撲と呼んでもいい。まあ〈アベンジャーズ〉が横綱で,こちらは前頭という感じだけど。-----------〈ガーディアンズ〉第2作は,ソブリン星のアイーシャ女王,主人公・クイルの父親・エゴ,エゴの看護師・マンティス,という新しいキャラを導入している。登場早々に新しいキャラが,このちょっと変わったスペースオペラにフィットしているのが驚きだった。一方で,第1作から登場しているサブキャラの,クイルの育ての親の海賊・ヨンドゥ,ガモーラの妹・ネビュラ,そして暴れ者アライグマ・ロケットを掘り下げているのには,さすがだとしか言いようがない。いがみ合っていたヨンドゥとクイルは,育ての親子としての関係を再確認し,命を狙い合っていたガモーラとネビュラは姉妹も和解をする。まただいぶ意外だが,ヨンドゥとロケットも自分たちの歪みを理解し合い友情を築く。第2作という状況を利用して,新キャラの導入はある程度で制限し,既存キャラの掘り下げに努めた,というところだ。うん,シリーズもののバランスをよく分かっている。-----------〈ガーディアンズ〉第1作は,マーベルの他の作品を観ていなくても楽しめるスペースオペラ,というのが魅力だったけれど,この第2作になると,さすがに第1作を観ていないと楽しめないし,なかなか評価が難しい。マーベル映画をずっと観ている立場からすると,この能天気な雰囲気がスカッとして楽しめた。キモイ,カワイイ,取り揃えているし,いろんな人が楽しめると思う。オススメだ。
2017.05.14
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森博嗣の未来叙事詩とも言える〈Wシリーズ〉の第4巻を読んだ。〇ストーリーフランスの西海岸の修道院で見つかったのは,ハギリたちがチベットの奥地で調査していたものに似ていた。そこに調査に向かおうとする彼らに対し,妨害工作があった。彼らは発見された設備が,人類に攻撃を加えようとしていると判断し,調査を装いつつ機能を停止させるために乗り込むこととなる。だがその予定にずれが生じ?!-------------このシリーズはおよそ100年後の世界を舞台にしている。医学と工学は進歩し,人類は自分の身体の部分を更新しつつ長寿命化している。一方で人造人間・ウォーカロンは生体的に生成されるようになり,人類と区別が出来ないようになっている。また主人公・ハギリは毎回大きなトラブルに巻き込まれ,命の危機に陥る。それも暗殺未遂から始まり,調査先でのクーデター,調査施設への軍隊の攻撃,そして今回も謎のテロリストグループの襲撃と,いずれもひじょうに暴力的な状況さらされる。時代設定,主人公へのプロによる攻撃,この2つはこれまでの森博嗣のシリーズには無かった要素だと思う。もっとも〈Gシリーズ〉の「χの悲劇」はこの2つの要素を持っていた。やはりこちらは今回のシリーズのプロローグという位置付けの作品なのだろう。-------------今回の作品の舞台は,フランスのモンサンミッシェルをモデルにしたような島で,島全体が城郭都市のようになった修道院だ。チベットの奥地と比べると,それほど機密を保てそうもないのだが,作品の雰囲気が少し変わったのでそれはそれで良いのだろう。また人類と人造人間に差はあるのか?というシリーズテーマは,これまで肉体的あるいは精神的な差が語られてきたように思う。この作品から,それに加え知性と人工知能の差までが語られるようになった。分散型コンピュータウィルスのような行動を取る攻撃的な知能〈トランスファ〉が登場した。「攻殻機動隊」の読者にとっては慣れているものの,その描き方の緻密さはさすが森博嗣だ。-------------戦争というものの意義について,ちょっとした論説があって,なかなか考えさせられてしまった。また争いは,どちらも自己防衛を理由にするなど,毎回ながら読んでいて納得させられる。いろいろあったのに,犠牲になったのは〇〇〇の〇〇だけ。でも可哀相だったなあ。-------------ハギリの部下で護衛のウグイとアネバネが,登場したころはそれこそ人造人間のようであったが,少しずつジョークを言うようになっている。ちょっと変わり過ぎかなあ。
2017.05.13
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今はやりの言葉で言えば”ホワイト企業”に勤めているので,1時間以上残業をすることなどは,月に2回あるかないかだ。部下はいないけれど,一応管理職だ。なので残業しても残業代はつかない。また仕事はプロジェクト管理と企画開発の中間のような立場なので,平常時は明確な仕事のノルマは無い。それでも,いくつかのタイミングが重なると,片付けようと思っていた仕事が終わらないことがある。それがこの金曜日だった。淡々と仕事を続け,ここまでやっておけば,という区切りまで行ったところで帰った。たまにだけあることなので仕方がない。
2017.05.12
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米澤穂信の人気シリーズ〈古典部〉の短編集を読んだ。〇ストーリー日曜日に買い物に出た伊原摩耶花は,中学3年のクラスメートに再会した。近況を語る中で,現在の部活動を,折木奉太郎と行っていることを知らせると,クラスメートは見る見るうちに嫌悪感を示した。確かに,中3の際に奉太郎はあることを行って,学年中から総スカンを食らったのだった。だが,そのきっかけとなった事件を調べていく中で,摩耶花はあることを知るのだった。----------米澤穂信と言えば,日常ミステリーと青春物語の見事な融合だ。当初はラノベとして認識されていたが,意外とシリアスな内容が再認識され,次世代を担う本流のミステリー作家として,高く評価されている。とは言え,古くからのファンとしては,〈古典部〉〈小市民〉の2つのシリーズ作品の発表が,一番うれしい気持ちになる。それこそ高校時代の友人と再会するような気持で,無条件に手を取ってしまう。----------神山高校〈古典部〉の面々も,2年生へと進み,ぎこちなかった関係は,身内のくつろいだ距離感へと変化している。そこでさらに謎の多い,折木奉太郎の過去が語られ,伊原摩耶花,千反田えるの次の動きも見えてくる。ゆっくりとだが,確実に変化していく〈古典部〉の過去と将来が語られる。----------気になった点がいくつかある。まずは全体的に人間関係がトゲトゲしている。ミステリー要素があるので,最終的には話し合うことで情報を引き出し,語り合わなければならないのだが,それにしてもその前の過程のハードルが高過ぎて,読んでいるだけで心が折れそうになる。日常ミステリーって,ライトな調査なんじゃなかったっけ?わざとやってるよね。「連峰は晴れているか」の最期はまるで〈太刀洗シリーズ〉だった。この真面目さは頭では理解できるけれど,キリストではないので,実現は出来ない。考え方が極端過ぎる。「長い休日」と「いまさら翼といわれても」は,発表時期は全く異なるが,連続短編とも取れる構成となっている。ひじょうにキレイにまとまった前者の後に,全く逆にシリアスで陰鬱となってしまう後者で短編集を締める。これまで〈古典部〉の仲の良さをそこそこ感じさせていた作品が,一気に暗いムードで終わってしまった。もちろん何かを狙っているのだろうけれど,番外編短編集に近い場所でこれをやるのはちょっとバランスに欠けると思った。----------各編について簡単に感想を述べる。「箱の中の欠落」:奉太郎は里志に相談を受け,彼らが通う神山高校の生徒会長選挙で発生した不正に手段についての謎を解こうとする。・・・奉太郎と里志の友情こそ,古典部を存続させている大きな要素だと思う。やる気のないホームズと,やる気のあるワトソンとでも言うべき2人が,2人きりで事件を解決しようとする。いろんな意味で,地味で静かなのだが,男2人のそっけない雰囲気も,そもそも事件を解こうとする気持ちの暖かさもなかなか良かった。トリックは説明が冗長なワリには分かってしまうかな?「鏡には映らない」:伊原摩耶花は中学時代のクラスメートに再会したことで,折木奉太郎がいまだに中学の同窓生から軽蔑と嫌悪されていることを知る。だが,そのきっかけとなった事件を調べていくと?・・・ネタバレ防止のために内容についての言及は極力避けるけれど,好きな短編だ。とは言え,誰もが感じるだろうけれど,ちょっと調査の流れがスムーズに行き過ぎだし,また真相がこれまでのシリーズとは違い過ぎる。なんというか,とてつもなく〇い話過ぎた。(笑)「連峰は晴れているか」:神山高校の上をヘリコプターが通過する。それをきっかけに奉太郎は,中学時代の教師がヘリコプター好きだったという逸話を語る。だが,それがきっかけで見えてきたこととは?・・・「わたし気になる」奉太郎は面白いのだけれど,なんだか恐ろしく説教臭い気がした。そんなことを気にし始めたら,誰とも会話出来ないんだけれど。「わたしたちの伝説の一冊」:伊原摩耶花が所属する神山高校の漫画研究会の内紛は続き,読むだけ派と描いてみたい派に分裂していた。描いてみたい派が刊行しようとしている同人誌のために,摩耶花が準備していた作品の下書きノートが盗まれた。それは誰が,何のために行ったのか?・・・ミステリー要素はあり,ひじょうに緊張は高まるのだけれど,最後にまったく別の方向へと進む。ミステリーからリアルに方向転換なんて卑怯だよ!と思うけれども,これもまた〈古典部〉の魅力の1つだろうなあ。みんな,ちょっとずつ大人になる。「長い休日」:日曜日,朝早くから起きた奉太郎は,姉の分の朝食も作り,散歩に出かけ,近所の神社に参拝し,そこで出会った千反田えるが行おうとしていた祠の掃除を手伝う。その長い休日の中で,奉太郎はなぜ自分が〈省エネモード〉モットーで生きるようになったのかを語る。・・・中学生エピソードの次は,小学生エピソードか!この短編集は,奉太郎のキャラクターの掘り下げを頻繁に行うようだ。それにしても,この短編の奉太郎は,自分で言っている通り,ウキウキでいつもと違い過ぎる。ただ最後の1行は見事で,この短編のためだけに,この本を読んでもいいくらいだ。「いまさら翼といわれても」:市民会館で行われる合唱大会で,ソロを歌うはずだった千反田えるが行方不明になった。〈古典部〉の面々は手分けをして調査を行い,えるへと迫るのだが?・・・さすがはリアル系青春物語だ。前の短編と同様に最後の部分の数行で,それまでの謎や流れをねじ伏せてしまった。一方でこの終わり方は,これまでの他の短編での前向きな空気を一蹴してしまい,もったいない気がした。ヲイヲイだよ。
2017.05.11
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最近では一番のオススメ作家・月村了衛の長編を読んだ。〇ストーリー日本に潜伏中のウイグル人団体を,明日の朝まで保護し,アメリカ大使館員に引き渡せ・・女性ジャーナリスト・仁科曜子は,調査中に事件に巻き込まれ,中国政府が送り込む特殊処理部隊に襲われる。中国との政治的な取引で,日本の警察は全く保護をしてくれず,彼女たちを救ったのは,日本のヤクザと〈カーガー〉という謎の男だった。逃亡を続ける彼らと追っ手は,川崎で全面対決となる。翌朝に生き残ったのは?---------無口なプロと思わせていた〈カーガー〉が,滔々と自分の過去を語る。それに触発されたのか,武闘派ヤクザも自分の罪を語る。いや,さすがにそうした自分語りはちょっと置いておいて,中国の特殊部隊と戦おうよ。この世界では,誰もが自分の過去を語ることがルールなのだろうか?---------中国の〈新疆ウイグル自治区〉に対して批判的に切り込んで行くという,せっかくの大きな構成なのに,登場人物たちがそれに釣り合っていない,というのが正直な感想だ。また過去がそのまま現代につながる方式が安易過ぎてゲッソリした。登場人物の8割が過去編の人。無いわ。---------「土漠の花」でも,「槐」でも,主人公にひじょうに不利な設定をベースに,単独の長編を展開してくれた月村了衛の手腕はよく分かっているつもりだが,この作品ではどうしても擁護出来ない。まずは主人公ポジションが,ジャーナリストの女性・仁科と謎の男〈カーガー〉に分かれているのが良くない。物語の導入として,現実の我々に近い仁科がフォーカスされるのは当然だが,徐々に〈カーガー〉が主人公となり,仁科は申し訳程度に難民の少年と仲良くなり終わる,というモヤモヤ的な結末だ。他の長編では,主人公チームがいて,そのチームが巻き込まれる悲劇的な状況と,彼らがなんとかそれを打開する方策がバランス良く描かれていたと思う。倒れていく日本のヤクザ,守られているウイグル人団体・・・そのどちらにも属さない主人公たち。どうしたらこの作品が心に響く作品になるか?ワリと分りやすいとは思う。このままではダメなのは明解だ。---------月村了衛にもダメ作品はあったので,これがワーストというワケではないが,導入のハードっぷりから比べると,終盤のダメさ加減のギャップは過去最大だったと思う。せっかくのウイグル民族差別ネタを,この空振り長編で使ってしまったのは実にもったいない
2017.05.10
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〈日本のエラリー・クイーン〉有栖川有栖の長編を読んだ。〇ストーリー作家・有栖川有栖は,京都亀岡の別荘地にある大人気ホラー作家・白布施の家に泊まりに行く。だが翌日,その近くで女性の死体が発見される。有栖川は,親友の犯罪学者・火村を呼ぶが,女性はストーカー被害に遭っていたことと,容疑者が亀岡に来ていたことが分かり,事件は早々に解決する様相を見せる。だが,それから意外な発見があり,事件の謎は逆に深まっていく。そして火村は?-----------言うまでもなく,現在では貴重となった本格ミステリーの作品だ。しかもその正統な伝統をきちんと受け継ぐ,ロジカルな作品だ。登場するのは大人気シリーズの,犯罪学者・火村英夫と作家・有栖川有栖のコンビだ。それぞれの仕事で認められた30代の2人は,各地の警察から難事件への協力を依頼される探偵(と助手)でもある。このいつもの(年を取らない)2人が,少しずつ異なるアプローチで確実に犯人へと迫る。物語の緩急を含めて,さすがは有栖川有栖の作品だと思った。-----------一方で,不満が無いワケではない。ある事が起きて犯行エリアは一時的に通行不能となる。ストーカーがちょうどこのタイミングにここに現れる。・・・さすがに偶然では片付けられないレベルなので,どうしても作為を感じてしまう。また前作「鍵の掛かった男」と同じモチーフが扱われるのだが,前作ではそれが全体を覆った悲しみと結実していたのに比べ,今回は読者には幾重にも明かされない部分となり,いろいろとスッキリしない。本格ミステリーでありながら,事件の8割以上を解きつつ,残りは想像ください,というのは有栖川有栖としては初めてのパターンではないだろうか?事件の犯人と手段はきちんと解かれているのだが,その背景となった動機についてはとうとう曖昧なままだ。人間の行動の多くは論理的ではなく,その場の社会的な倫理に基づいているだけだ。けれどもミステリーは純文学ではないのだから,通常明かされない心の内面を,ロジックの補足として語ってくれても良いと思う。-----------一番盛り上がったのが,火村が「あんたが犯人だと思ってたよ」と宣言するシーンだ。正直ロジックミステリーとしては,必要以上に取っ散らかっていると思う。なので,半分以上犯人捜しを諦めていたが,終盤でのこのセリフは,さすがに一気に緊張を与える効果があった。とは言え,もっともっと整理出来た作品だと思う。もっと「鍵の掛かった男」系の過去バナシに行くか,現代のメロドラマにフォーカスするかして,もやっとした部分を減らしてまとめることは出来なかったのだろうか?-----------とは言え,何度も述べているように,最終的なロジックはきちんとしている。鉄壁かと言われるとさすがに違うと思うが。問題は,複数の謎がオープンのままだということだろう。ミステリーとしての決着への影響はなのだが,それでも人間として知りたいと思うのは,自然な心だと思う。-----------装丁は最近の有栖川有栖のパターン通り,黒を背景に細めの題名というものだった。それに加え,蝶と針をつなぐ意匠が美しかった。「狩人」と「夢」をきちんとイメージ化してくれていると思った。
2017.05.09
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大ヒットした深夜ドラマを観た。〇ストーリー謎の疫病に効く薬草を探すため,カポイの村の青年・ヨシヒコは冒険の旅に出る。彼の旅は,魔王を倒すためのものへと変わるが,戦士・ダンジョー,村娘・ムラサキ,魔法使い・メレブを仲間にして,徐々に伝説の防具も手に入れる。そしてついに魔王の島に渡った彼らが目にしたものとは?----------山田孝之主演のドラマを連休を利用して観た。ビデオ屋ではジャケットを観ていたが,例によってあまり情報を得ずに,その場の勢いで観ることにした。だがこれが面白い。確かに全体的には安っぽくて,お笑い芸人の番組のドラマコーナーみたいなノリだ。けれども,驚いたことにきちんと『ドラゴンクエスト』のオフィシャルパロディを取り込んで,少しずつ物語は進む。----------やはりヒットしたドラマは配役が素晴らしい。戦士・ダンジョーには,俳優・宅麻伸,村娘・ムラサキには怪演・木南晴夏,魔法使い・メレブにはあのムロツヨシ,そして主演は山田孝之だ。まあ,基本的にRPGファンタジーのパロディなので,ストレートな演技ではなく,いろいろひねったイロモノ的な演技が期待されるのだけれど,この4人は見事にそれをこなしている。もちろん毎回のゲストが豪華というのもあるが,それはお笑い番組で慣れた展開だ。それよりも『ドラクエ』のネタをベースにしつつ,ちょこちょことRPGドラマが実写で進展するのが新鮮だった。もちろんあの中世ヨーロッパの世界は再現できないので,モンスターは着ぐるみだし,町の代わりに時代劇の村セットだったりするのだが,それを押し通してしまう製作者側のメンタリティあるいは無謀さがこれまでは無かった。実に慧眼だと思う。----------終盤になれば,仲間それぞれの物語が語られ,それぞれ成長し,伝説の武具は集められ,いつの間にかきちんとRPGの手順は踏まれている。それでも意外な展開があり,それもまた面白いというのが,この作品の魅力だ。面白い物語は,洋画の大スペクタクルも1つのタイプではあるが,深夜放送の低予算であってもツボを押さえれば十分魅力的なコンテンツである,という教科書のような作品だった。なるほどこれはシリーズ化されるワケだ。キャラは魅力的だし,低予算だしね。でもこのままお笑い系のフォーマットに流れたらダメだと思う。----------次のシーズンを観るのが楽しみだ。
2017.05.08
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前々から行きたかった北斎美術館に姉と一緒に行った。-----------両国駅からぶらぶらと歩いて10分ほど,子供が喜びそうなワイルドな遊具がある公園の中に,銀色のアルファベットのNみたいな建物がある。それがすみだ北斎美術館だ。開館は9時半で15分ほど前に行った。行列は10人程度と予想よりはるかに少なかった。時間になり入館する。チケットを購入した後に,エレベータで4階まで上がらなければならない。微妙に不便で混雑や混乱が起きそうなデザインだ。今回は空いていたので4階のラウンジから,企画展示室に向かった。-----------入ってみて最初に驚いたのが,展示されている作品の小ささと色の少なさだった。広重の有名な東海道五十三次をどうしても思い浮かべてしまうため,ああした華やかな作品が並んでいるかと思ったが,モノクロの絵地図だったり,ガイドブック代わりの絵葉書程度の小さな版画だったりした。それに慣れてしまえば,各所の名品が繰り返し書かれていたり,大井川の渡りではラインダンスのように手をつないで一列になっている人がいたりして,ところどころでクスリとさせられる。美術展とは違ったが,旅の楽しさが伝わってくる企画展だった。-----------北斎と墨田区にフォーカスした常設展示室にも行った。企画展示室が明るい空間なのと比べて,全体的に暗い。いわゆるマルチメディアを多用しており,タッチパネルでの補足説明や,場所によってはゲームがある。悪くないバランスなのだけれど,もう少し展示作品が多くてもよかったと思う。また来たいと思わせるチカラは弱いなあ。-----------芥川龍之介の文学碑,勝海舟生誕の碑の脇を通ってから,吉良上野介の屋敷跡を訪ねた。近い場所に歴史が山ほど詰まっている。両国駅に戻って,改修された〈江戸NOREN〉でランチを食べた。以前の居酒屋〈はなの舞〉が10店舗ほどの寄り合い食事スポットになっている。今回は〈天ぷらひさご〉に行った。相撲の土俵はまだ残っていたが,相撲甚句は歌われるのだろうか?-----------休みもおしまいだ。
2017.05.07
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児童向けファンタジー作品の第1巻を読んだ。〇ストーリートトの住む国では,10才になる少年少女に試験を受けさせ,毎年魔術の才能がある者2人に国を守る魔術師になるための訓練を受けさせる。3年後,見習い魔術師となったトトは,東の国境を守る祖父で老魔術師のヨーゼフの元で修行をする。ヤギを育て,酒を造り,そして東の国境の反対側を支配する鳥人の少年・ジュライとも友人になるトト。だが一部の魔術師が裏切り,森の魔女と組んだため,祖父は命を落とし,ジュライは捕まってしまう。その時,トトは?-----------まず二木真希子の装幀に惹かれて手に取った。奥行きのあるイラストだけでなく,民族的な文様を惜しげもなく配置した装飾,そのまま〈守り人シリーズ〉だ。あちらは偕成社,こちらは講談社。良いのだろうか?立石彰はデビュー作「勇太と死神」でも,イラストレーターが〈シノダ!シリーズ〉の大庭賢哉だ。あちらは偕成社,こちらは講談社。ホントに良いのだろうか?まあ単純にイラストレーターに恵まれているということなのだろう。講談社の期待の星に違いない。-----------物語は魔術師が魔術を用いて国を守る一方で,選民として人々を支配する世界で展開する。どうやら魔術師は魔女との密約があり,人々をだまして現在の地位を保っているらしい。定期的に起こる侵略,それを収め,国を守る魔術師たち。人々は重い税を課され,魔術師たちを養っている。トトの国は四周を森に囲まれており,それぞれ異なる敵と対面しているらしい。今回の物語で語られるのは,東の国境の向こう側にいる鳥人だ。この世界では鳥人は,人間の背中から鳥の羽根が生えているらしい。これって天使では?他の国境ではどんな敵がいるのだろうか?1巻の終わりから,もう国の成り立ちを揺るがしかねない状態になっているのだけれど,この先大丈夫だろうか?-----------トトは王城に忍び込む辺りには,さすがにご都合主義が見えて困った。ところどころ物語の先を急ぎ過ぎているので,ゆっくりと世界を描くことも出来ず,内容が軽くなってしまっている。せっかくの講談社の期待の星ならば,もっときちんと作品を描かせないといけないと思う。-----------次の巻からの立て直しを期待する。
2017.05.06
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月曜日火曜日は出勤だったので,水曜日から休みに入った。連休も3日目にもなると,ブンカ的なことをしなければならない気がして,美術展に出かける。いつも通りの行動パターンだ。地下鉄で根津に行って,上野動物園の外側を回り,東照宮のぼたん苑の脇を通ってから上野の森に入った。目指すはレンガタイルの外装の東京都美術館だ。10時半と少し遅めの到着だったが,10分程度の行列で入館することが出来た。----------〈I 16世紀ネーデルランドの彫刻〉:15世紀,16世紀に制作された聖人の宗教彫刻だ。・・・16世紀という時代へ気持ちをタイムスリップするためのステップなのだろう。さすがに違和感を感じてしまう。〈II 信仰に仕えて〉:15世紀,16世紀のオランダの宗教画には,モチーフとは別に風景画の要素が込められる。・・・前のパートでは???状態だったが,ここに至って主催者の意図が分かる。ひじょうに教育的だし,親切だなあ。〈III ホラント地方の美術〉:オランダ絵画で有名なのは様々な寓意に満ちた風俗画だ。・・・正直,ようやく事前に想像していたオランダ絵画に到達して,ちょっと安心した。〈IV 新たな画題へ〉:ヨアヒム・パティニールの『ソドムとゴモラの滅亡』を中心にしたオランダ絵画が続く。・・・いよいよ今回の企画展に近いドラマティックな作品が提示される。中世的な宗教画の世界からリアルな世界への変遷が明らかになる。----------〈V 奇想の画家ヒエロニムス・ボス〉:15世紀オランダの天才的な画家・ヒエロニムス・ボスの足跡が,「放浪者」「聖クリストフォロス」を通じて語られる。・・・宗教画と風俗画を併せて描いて,それぞれで高いレベルに達した画家,というのがここでの印象だ。〈VI ボスのように描く〉:一大ムーブメントとなったボスの画風は,弟子たち,模倣する人々により,絵画,版画,様々なメディアで拡散する。・・・現代ではヒエロニムス・ボスの作品が好きというのは一部の好事家が語ること,という状況だと思うが,これが大きな流行だったということに驚いた。〈VII ブリューゲルの版画〉:ボス模倣という時代の要求を踏まえ,ブリューゲルが提示した版画作品が並ぶ。・・・ここに来て,企画展の主催者の綿密な計画が分かる。大きく納得する。----------〈VIII 「バベルの塔」へ〉:ブリューゲルの「バベルの塔」と,それに対する多角的なアプローチ。・・・言うまでもなくブリューゲルの傑作だ。作品の近くまで行けるけれども,歩き続けれなければならないラインと,その後ろからじっと見つめることの出来るラインに分かれる。さらには3倍に拡大された画像があったり,解析して3DCGに取り込んだムービーがあったりする。1つの作品だけで1つのフロアを使用しているという贅沢だけれども,納得のいく空間があった。----------たった1つの作品を観るために,美術館に足を運ぶことはあるが,どうしても企画展全体に冗長を感じる。この展覧会も,最初は同じような流れかと思ったが,ネーデルランドの宗教画,風景画,風俗画の流れを背景にして,この作品が成立していることを,懸命に説明してくれていて,とても親切だと思った。また,「バベルの塔」単体に対しても,拡大図,CGムービーなど多角的なアプローチを行っていて,「なるほど,もう一度観よう」と思わせる発見があった。----------少し大袈裟かも知れないが,美術展としての新しい可能性を見せてくれたのではないかと思う。ずっと展示が不得手だと思っていた東京都美術館がこうしたスマッシュヒットを出して来るとは!観客の誘導などは相変わらず前時代的,あるいは2世代前的な手法でダメダメなのだが,ひょっとしたら大化けなのかも?と思わせる企画展だった。----------CGには素直に感心したのだが,大友克洋と設計した「Inside Babel」については,きちんとした展示が無くて落胆した。フランチャイズの関係もあるのだろうけれど,今回の企画展を逃したら,どこで発表すると言うのか?おそらくバカな権利意識だけの人がせっかくの機会をつぶしている。----------赤煉瓦としっくいの楊重位置,そして圧倒的な描き込みを再確認するためにも,ぜひ行ってもらいたい。オススメだ
2017.05.05
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東野圭吾のサスペンス長編を読んだ。〇ストーリー強盗事件に居合わせた青年・成瀬純一は,子供を救うために代わりに自分が銃弾を受けてしまう。瀕死となった彼は,傷付いた脳に他人の脳の一部を移植することで一命を取り留める。快復し,自分の生活に戻り,恋人と再会し,仕事にも復帰した純一だったが,徐々に自分の性格が変わっていくことに気付く。絵を描くことに興味を失い,むしろ音楽に興味を持ち,前向きだが攻撃的な性格になった。純一は移植した脳に支配されてしまうのか?そしてこの手術に隠された大きな秘密とは?----------純一は脳手術を受けた後に,社交的でやる気にあふれた性格になる。それは良かったのだが,一方で他人への思いやりや忍耐が欠けるようになり,攻撃的な面が出てくる。これは命の危機を体験した結果なのか,移植されたドナーの脳の影響なのか,あるいは彼本人の生い立ちに原因が隠れていたのか?物語は基本的には純一の視点を元に,この疑問点を追いかけて進んでいく。----------とは言え,ドナーの正体などは簡単に想像がついてしまう。次に読者が惹きつけられるミステリーは,主人公・純一の性格変更の理由は,手術なのか,それとも別の理由なのか,というポイントだ。その真相は読んでみてのお楽しみだ。----------今時になって東野圭吾を古い作品から読んでいるが,残念ながらこの作品はこれまでで最低の出来だと思う。脳移植という科学的なネタと心の在り方という心理学的なテーマを扱っているが,どちらの扱いも中途半端で,いろいろ語ったワリには説得力があるものがない。主人公・成瀬純一は手術と入院がきっかけで性格が変わってしまうが,それで引き起こす事件の数々はあまりにも常軌から外れていて,到底許容できない。この主人公に最後まで共感を持ち続けるのには無理がある。ロジックの面からも心情の面からも深みが感じられない作品だ。せめて驚きの結末が待ち構えてくれれば・・・?うーん,どうなんだろう。
2017.05.04
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「時には懺悔を」に続き,打海文三のハードボイルド小説を読んだ。〇ストーリー不登校になっていた中学2年生の姫子は,かつて家族で住んでいた多摩の山村を訪ね,そこで阪本という青年に出会う。数日後,姫子を警察が訪ね,彼女は阪本がある殺人事件の容疑者であることを知る。姫子と女性探偵の老女・鈴木ウネ子は彼を救おうとするが,事件には大きな背景があった。そして・・・------------「時には・・」に引き続き,大手探偵社〈アーバン・リサーチ社〉に関連する人々を主人公にした物語だ。登場人物は一部重なるが,前者とは独立しているのでこの作品から読み始めても楽しめる。メインの主人公は,不登校の少女・姫子だ。思春期らしい攻撃性,思い込み,傷付きやすさ,一途さが描写されており,打海文三の筆力には驚かされる。さらにもう1人の主人公は60代の探偵・ウネ子だ。元結婚詐欺師で,まだまだ男を魅了する女性だ。どちらかと言うと西欧のキャラクターのような個性の強さだが,時に姫子を助け,時に出し抜きつつ,真相へと迫る。「時には・・」は中年の探偵を主人公にした,ある意味典型的なハードボイルドのフォーマットに沿っていたが,今回の作品はそれを離れ,魅力的な女性たちを活き活きと描いている。------------前作でも,典型的なハードボイルド物語から,児童誘拐の驚きの結末を描いた作者は,公園の死体から新種のカブの発見に至る植物学へと導いて見せる。以外な方向への緻密な書き込みが持ち味なのだろうか?だが姫子とウネ子が協力して導き出した手掛かりから見えてきた真相には正直落胆を覚えた。真犯人の生い立ちも不自然だし,何よりも主人公たちが救おうとしている阪本という男の行動が理解できない。阪本は優しいから,という描写があるが,複数の女性とずるずると関係を続けるのに,妙に正義感ぶる態度は,男の敵としか思えない。女の敵でもあるはずなんだけど?彼らが巻き込まれた事件を,懸命に大ごとにしようとするのにも無理を感じた。------------プロットだったり,阪本の行動は好きにはなれないのだが,ほかの登場人物たちの感情の動きは深みをもって描写されており,この作家の他の作品も読んでみたいと思わせる魅力がある。
2017.05.03
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B級ホラーと見せかけて,実は?という映画作品を観た。〇ストーリーデイナは大学の友人たちと森の中にあるキャビンで週末を過ごすことになる。はしゃぐ彼らはキャビンに地下室を見つけ下りてみると,そこには怪しげな古いものが並んでいた。古いノートに記されていたラテン語の文章を友人の1人が読みあげると,森から数体の死体が蘇り,彼らに襲いかかってきた。懸命に逃げる彼らを,別の人物が見ていた。果たしてこの事件には?-----------デイナは大人しい女性,『マイティ・ソー』のクリス・ヘムズワースが演じるのがリーダーの男性,それ以外には,リーダーの恋人の女性,マジメな男性,クスリをやっていてだらしない男性の5人が登場する。作品は殺人鬼家族が蘇って大学生たちを襲うB級ホラーとして始まる。そのストーリーラインをAラインとする。だが彼らを見ている人物がおり,物語は一気に謎めいてくる。複雑な状況であることは分かるのだが,観客は混乱するばかりだ。ここでは作品のジャンルはホラーから離れていくように思える。これをBラインとする。それで終わると思えた作品は,デイナが生き残るために頑張った結果,Cラインとでも呼ぶ驚愕の新しい展開を見せる。ある意味では作品は無事ホラーに戻って終りを迎える。-----------Bラインの辺りはいろいろとツッコミどころや無駄なおふざけがあり,やや弱いし,Cラインでのセキュリティの脆弱ぶりには呆れてしまうが,それでもホラー映画ファンを楽しませよう,驚かせようという製作者の気持ちは確実に伝わってきた。-----------内容の具体的な描写を避けているので,何がなんだか分からないかも知れないが,ネタバレを避けるためには仕方がない。だが,僕のようにB級ホラーだと思って,何も考えずに観ると,振り回され,驚き,呆れ,最後には大興奮することが出来る。いろいろと評価が分かれる作品のようだが,個人的には新しいタイプのホラーを提供してくれた作品としてオススメしたい。
2017.05.02
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東野圭吾のウィンタースポーツミステリーを読んだ。〇ストーリー日本のスキージャンプ界のエース・楡井が不思議な状況で殺害される。ジャンプの選手とコーチたちは,大会に出場するためにほとんどの行動を共にしていたので,容疑者はその中にいるとされ,警察は執拗な捜査を行う。だが彼ら全員にアリバイが成立し,捜査は暗礁に乗り上げてしまう。一方で,ある驚異的な計画が明らかになるのだが,それと事件の因果関係とは?そして?-----------東野圭吾らしい,真面目な犯人が真面目な理由で犯罪に手を染めてしまう作品だ。物語にスキージャンプという特殊な状況を持ち込んだこと,そして終盤に明らかになる計画の存在が,ミステリーとしては特異なものとなっていると思う。作者が好きなウィンタースポーツと,後に執筆をする〈探偵ガリレオ・シリーズ〉にも見られる科学的な要素が重なった不思議な作品となっている。-----------全体的な物語は本格ミステリーなのだが,いわゆる”奇想”の使いどころが”計画”の方にあり,事件のトリックではない,というのが東野圭吾らしい。一方で,綿密に登場人物たちの心の動きを描いているので,その部分のリアリティはたっぷりだ。その結果,スポーツノンフィクションとSFをツギハギしたようなバランスの悪い作品になってしまっている気がした。真面目に書いているのに不幸なことだ。-----------殺害される天才ジャンパーの楡井は,今で言うところのADHD的な,場の空気を読まない人物として描かれている。その彼が,犯人の仕掛けたメッセージに従ったのは何故なのか?その辺りがはっきりしない。また複数の選手を不幸な状況に追いやった根源である人々が,結局は罰せられないのもスッキリしない。何枚も出てくる図表が,ミステリーの謎解きに全く関与しないというのも,この作品がどこに軸足を置いているかを象徴しているようだ。オススメできない。
2017.05.01
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