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伊坂幸太郎の「グラスホッパー」の世界の新作を読んだ。〇ストーリーその業界でも有名な凄腕の殺し屋〈兜〉。結婚し,息子が出来てから,彼は殺し屋を引退し,昼間の営業職だけで暮らしていこうとしていた。だが,彼に殺しの仕事を依頼する〈医師〉は,なかなかそれを許さず,徐々に2人の気持ちは対立するようになる。そして・・・-----------〈アサガオ〉〈スズメバチ〉などの名前が出るし,「マリアビートル」で起きた事件が過去の事として語られるので,その後の物語だと思われる。世界観は共有しているものの,独立した連作短編集になっている。クールなアウトサイダーと思われていた殺し屋たちにも,日常や家族はいて,というちょっと変わった展開となっている。-----------主人公〈兜〉は,高い格闘能力を持ち,相手と正面からぶつかって倒すことを信条としているらしい。息子が出来たことで,これまでの生き方を反省し引退を決心する。家庭では恐妻家で,高校生の息子に心配されるほど妻に気を遣いながら生きている。妻を大事にしているということらしいが,個人的にはこの状況に反感を覚えてしまった。まあ,正々堂々でも,恐妻家でも,子煩悩でもいいのだけれど,殺し屋なんだよね?なんだか良い人っぽく描かれているのだけれど,依頼があれば誰彼構わず殺害してきた人なんだよなあ。このギャップが面白いのかも知れないけれど,最後まで違和感が拭えなかった。-----------伊坂幸太郎らしいとぼけた味のキャラクター,くすりとくるセリフ回し,わずかだけれど終盤に出てくる伏線の回収は健在だ。「グラスホッパー」のシリーズとしては,家族の登場で新しい雰囲気となっていて,今後どのような世界観になるのか,勝手ながら心配になってしまった。
2017.12.31
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12月の寒い時期に洗ったり拭いたりとバタバタするのは,正直あまり効率が良いとは思えない。けれども,日本人としてはずっとこの伝統があるし,新しい年を迎える前に出来る限り汚れを落とす,という気構えもあるのだと思う。日頃手の届かないベッド周りを掃除して,シーツとカーテンを洗濯した。共用部分では1階と2階のWCを磨き,キッチンの流しと換気扇を重曹を使って掃除した。庭では枯葉を集めて袋に入れ,ずっと気になっていたススキを刈り取って根っこから掘り起こした。ここは日当たりがいいので,来年は野菜を植える予定だ。これだけするのにはさすがに2日半かかっている。たぶん元旦か2日に筋肉痛が出るんだろうなあ。1年間お疲れさまでした。
2017.12.30
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仕事を終え,年賀状も出して,年末で上映が終わりそうなこの映画を観てきた。〇ストーリー地球文明は崩壊し,人類は異星人と一緒に移民先の星を探していた。蔓延する絶望感を払拭するために,主人公・ハルオが率いる部隊は,地球へと帰還し,人類を宇宙へと追いやった元凶・ゴジラとの対決を試みる。犠牲を払いつつも勝利したかに見えた時,そこに??-----------初の長編アニメーションとなるゴジラ映画だが,〈怪獣惑星〉とうたっているのに,怪獣映画ではなくSF映画だった。冒頭から地球は滅んでおり,地球奪還が物語の骨子となる。日常生活に怪獣が訪れて破壊をもたらす,というのが怪獣映画の基本だったのだから,その未来というか,バッドエンドというか,野生化した地球を人間が取り戻そうとするなど設定が逆転した世界となっている。東宝系の有名俳優が出演し,自衛隊が協力する,といういつものゴジラ映画では確かに実現できない思い切った世界観だ。-----------ではこれが目新しいかというと,「シオドアの騎士」と絵柄も世界観もそっくりだし,アニメ作品でありがちな”どこかで聞いたカッコイイセリフ”が流れるので新鮮味はない。この作品を観て驚くのは,怪獣映画は観るが,特撮作品・アニメ作品は観ないという変わった設定の人だけだろう。巨大な敵を倒すためのSF映画として割り切れば,特撮映画と異なりスピーディーな展開で楽しめる。ただでさえ,物理学上成立しないと言われている巨大生物を平気でスケールアップするのは,作劇的にはありだろうけれど,対比する人工物が無いこともあり,ひじょうに無駄な展開という気がした。-----------この作品の脚本は虚淵玄というゲーム・アニメ系の人だ。『シン・ゴジラ』も『ヱヴァンゲリヲン』の庵野秀明が監督だったことを考えると,日本の映画界を救うのは,アニメ・ゲーム系の人なのではないだろうか?虚淵玄作品はセオリーの捕らわれない”鬱展開”で有名だ。この作品もその作風通り,救いのないまま終わる。いつものゴジラ映画も,”ゴジラ海に帰る”で終わることが多かったので,まあこれもありかも知れない。-----------これで終わりなら個人的にアリだったが,タイトルロール後の案内があったので調べてみたら,アニメ版は全部で3部作の予定だという。ええっ?・・・劇場映画なら単体で完成させてもらいたいなあ。
2017.12.29
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28日なのか29日なのか,はっきりしなかった中国からの納品が28日の今日であることが判明した。今日納品が済めば,明日はもう出勤する必要がない。この辺りの感覚は外資系企業なので,自己責任だ。荷物が間違って僕のオフィスではなく,本社に発送されたのは昨日の時点で分かっていた。だから本社から社内便でこちらまで転送するように調整はしてあった。けれども肝心の荷物がなかなか本社に届かない。本社に荷物が届いたという連絡があったのが午後早い時間で,まずはホッとした。そこからこちらに転送する出来るのは,社内便の都合があり18時を回るということだったが,それで明日が休みとなるならば文句はない。18時過ぎまで待って,顔見知りの社内便ドライバーさんと一緒に荷物を納めた。待っている間に,集中して分析作業も出来たので,来年最初の企画書の準備も出来た。同じフロアの人は皆帰ってしまっていたが,これで僕の仕事納めは上々の首尾で完了のようだ。皆様,お疲れ様。
2017.12.28
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〈東京バンドワゴン〉の小路幸也の〈花咲小路シリーズ〉の第2巻を読んだ。〇ストーリー東京から2時間かかる〈花咲小路商店街〉出身の男・淳が刑事になって戻ってきた。彼は祖父母の経営する食堂〈あかさか〉の2階に住むことになるが,その代償に非番の日のたびに祖母から人助けを依頼されるようになる。従妹の奈緒,恋人の北斗,英国紳士のセイさん,彼の孫娘の亜弥,その夫の克己。多くの人に助けられながら,淳は〈花咲小路〉に馴染んでいく。だが彼が気になる女性・ミケさんには怪しい行動が目立つのだった。----------四丁目から始まった〈花咲小路シリーズ〉だが,第2巻になり一丁目となった。第1巻の最後で奇跡的な復活を遂げた〈花咲小路〉を舞台にしており,時間も直後らしく前巻の登場人物たちがそのまま再登場する。今回の主人公の仕事は刑事で,〈花咲小路〉の近くの警察署勤務なので祖父母の家に居候を始めたという設定だ。本来は商店街に属さない人物なのだが,祖父母がそこで食堂を経営していることと,祖母がいろいろと頼まれごとを聞いてくることから,商店街の人助けに奔走することになる。前巻の主人公たちとも協力して,なかなか楽しい冒険が繰り広げられる。----------前巻と異なり,非番の刑事が商店街の悩み事を解決する,という通常のドラマとして成立しているので好印象だった。章ごとに問題があり,それが解決される。祖父母と暮らす主人公ということもあり,どちらかというと〈東京バンドワゴン〉風の流れになっていた。全体を通して謎の存在となるのは,主人公が居候する〈あさくら〉の近くのアパートに住む女性・三家あきら,ことミケだ。さまざまな事件の場所に偶然のように現れる彼女は何者なのか?----------前巻が飛ばし過ぎだったので,この作品のように普通のフォーマットの方が,〈花咲小路〉の舞台背景とマッチしている気がした。このまま何巻でも書けそうな気がしたところで,最後の事件となる。この先がどうなるのかよく分からないけれど,どちらかというとこっちのパターンで進めてもらえると安心して読めるなあ。
2017.12.27
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東野圭吾のピリピリした緊張感のあるサスペンス長編を読んだ。〇ストーリー並木俊介は,妻・美菜子と彼女の連れ子の小学6年生・章太が参加している受験合宿に合流する。そこには並木家と同じように,他にも3組の夫婦と子供が参加していた。だが,そこに俊介の愛人・高階英里子が現れたことで,一気に緊張感が高まる。そしてその夜,事件は起きる。彼らは,ある理由から事件を隠蔽しようとするのだが・・・----------東野圭吾らしい隙の少ない長編だ。私立中学合格を目指す少年たち,息子たちのために親しく付き合い協力する親たち。塾の講師を招待して開催される別荘地での特別合宿。どこか歪んだ空気が漂う中で,事件が起きる。この作品が面白いのは,登場人物たちが犯人捜しや動機の解明をするのではなく,一致団結して事件の隠蔽を試みることだ。ミステリーの基本は,事件という混乱した状況から,推理によりロジカルに整理をすることで,平和な日常へと読者を回帰させることだと言われている。この作品は,事件という状況から,別の犯罪へと物語が進む不思議な作品となっている。----------東野圭吾作品は数も多く,バラエティにも富んでいるので,特徴を簡単に言うのは難しい。ミステリーのロジック,共感をしてしまう人間模様,そして端正な読みやすさ,の絶妙なバランスだろうと思う。東野作品の中には挑戦的な展開のものがあるが,今回の作品はその中でも”攻めている”方だろう。ここまでミステリーとして逆方向からアプローチすると,読者は不安になり,そして引っ張りまわされてしまう。それでも着地点が美しいのがこの作家の魅力だろう。憎いほどうまくまとめるなあ。----------登場人物たちの歪んだところにもきちんと説明がつき,最後には納得して終わることが出来る。人の歪みに理解を見せつつも,主人公はやはり常識的な部分に留まる。それが東野圭吾の限界でもあり,多くの人に人気がある理由でもあるのだろう。
2017.12.26
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今年のクリスマスは週末と微妙に重なっていて,天皇誕生日は土曜日と一体化し,クリスマスイブは日曜日だった。家族向けには日曜日だと思うが,カップル向けは土曜日から月曜日のクリスマス当日にかけて分散したようだ。----------僕だったら月曜日と火曜日に休みを取って,1泊旅行だろう。買い物をして,イルミネーションを観て,そして飲みに行き,カラオケまで行って宿に戻って寝る。これが実現したかどうかは,ご想像にお任せする。(ははは)
2017.12.25
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ここ数年は祭日の天皇誕生日前後を利用して年賀状を作っている。それが今年は祭日が土曜日に重なり,通常の週末と同じ休みだし,しかも先週の土日は2日とも休日出勤をしていた。月曜日は休んだものの,通常土日でこなす雑事で過ぎてしまった。ーーーーーーーーーーさて今週末になってみて工夫をして,土日は時間を使えるようにしておいた。それでも土曜日は雑事でつぶれてしまう。日曜日の今日,姪と話し合いながらまずはアップデートが溜まっていてなかなか起動しない共用パソコンの前に座る。ガチガチのフリーズじゃないのかと心配したが,何回か再起動の後に通常の起動状態になった。この段階では,「家でモノクロの宛名印刷をして,コンビニで1枚60円で裏面印刷」ないし「家でモノクロの宛名印刷をして,会社でこっそり裏面印刷」を覚悟していた。だが3年選手のプリンタが起動すらしないことを知り,いろいろな検討も消えた。ーーーーーーーーーー実は100枚購入してあった年賀はがきはインクジェット用で,コンビニ印刷にも,会社印刷にも適さないということで,交換をしなければならないかも,と心配していた。だが,そもそも起動しないならばプリンタの買い替えが必要だ。となるとさすがに新品では,宛名印刷だけでなく,裏面も出来るはずなので,交換の必要がなくなる。ーーーーーーーーーー通販サイトを調べてみたら,最近ではエ〇ソン,キャ〇ンなどの一流メーカーでも,メインの機器が5千円から7千円だ。それに比べて4色インクのセットが5千円するという,なんだか冗談みたいな世界となっている。プリンタはランニングコストがかさむ,って誰がどう見ても理解できる状況だ。とは言え,背に腹は変えられない。3年選手のプリンタを捨てる予定で,新しいプリンタを注文した。もうこちらもプリンタに対しては,消耗品という気持ちしかない。メーカーはプリンタカートリッジで収益を上げているし,サードパーティーのリサイクルカートリッジをシステムアップデートで締め出したから当面いいのかも知れない。けれども,ユーザーとしてはますます家庭にプリンタを持つ意義を失いつつあるし,もう煩わしいので年賀状もやめようと思っている。斜陽としか思えない産業なのに,ひどく分かりやすくユーザーをぼったくっている。先行きは短いと思うな。
2017.12.24
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友人の書道展が今年も北千住で開催される。ーーーーーーーーーー書道展に作品を出しているのは大学からの友人だ。以前は11月の忘年会をメインに年に2回会う程度だったが,ここ2年ほどは数人のグループで隔月ペースで美術展やら不思議スポットに一緒に出掛けている。相手がマメな人なので関係が続いていたが,自分もSNSなどのチカラでだいぶ活動的になってきて,同じように誘い合っている。SNSだけを見れば,人嫌いで出不精の僕があたかも活動的な人に見える。日常のごく一部を切り出して配信するシステムには良い面も悪い面もあるけれど,なかなかに不思議だ。ーーーーーーーーーーさて例年の書道展は午後遅い時間に行って鑑賞をし,その後待ち合わせをして食事をして帰る,というパターンだ。ところがSNSの中で,展示会のアナウンスがあり,僕が観覧をすると返信をしたところ,別の知人から一緒に行こうとのお誘いを受けてしまった。・・・で,その人とはみんながあまり一緒に行動をしたくないらしい。SNSで発信やレスをする以上は,そこから発生する”絡み”は覚悟しろ,という意見もあるだろうけれど,こちらとしては別に友達探しをしているつもりはないので,これまでと同等の親しさを求めているわけではない。ーーーーーーーーーー結果的には,金曜日にもともと年内消化で使い切れない有給休暇を午後に取り,さくさくっと北千住に行って,独りで観覧して帰ってきた。僕らの中でも「自分たち心が狭い」と言い合っていたが,一番逃げを打った行動を取った。だって天皇誕生日が土曜日で,貴重な年末直前の週末の時間を有効活用するという意味では,”誰とも飲みに行かない”というのが一番正しい選択だったんだよね。
2017.12.23
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ケント・ギルバートによる啓蒙本を読んだ。〇内容占領下の日本に対して実施された〈戦争への罪悪思想教育プログラム〉は70年を経ても変わらずに日本人を蝕み続けている。そして現在の韓国と中華人民共和国は,第二次世界大戦中は日本とは敵対する状況にはなかった。日本のマスコミが意図的に封印し,欧米のマスコミは把握していない事実を,日本とアメリカを知る著者が警鐘を鳴らす。-----------最近になってようやく語られるようになったのが,日本特有の自虐的な歴史観の問題だ。それは第二次世界大戦に至るのは日本の軍部の暴走があり,ドイツのナチと同じように間違った行動を取ってしまったので,未来永劫謝罪をすべき,というものだ。もちろん戦争において,日本の軍隊は様々な問題ある行動をしていて,それはきちんと反省をすべきだと思う。だが,それがベトナム戦争,ボスニアヘルツェゴビナ紛争,などで行われた問題行動と比べて,大きく逸脱していただろうか?戦争という行為は,国家間の暴力行為なので,どうしても汚くて問題ある行動が発生する。現代においてもそれは解消されていないのに,あたかも日本軍だけがそれを積極的に行ったように教育,報道するのはひじょうに偏った視点だと思う。残念ながら,僕を含めて日本人は,その偏りのままの教育を受け,マスコミ報道を聞いて育っている。-----------この著書は,どうして戦後の日本に偏った歴史観が定着したのか?韓国や中華人民共和国の歴史認識に問題はないのか?そしてそもそもどうしてアメリカは日本と大戦を始まるに至ったのか,ということについて一石を投じている。日本でタレントとして活動していたのだから,親日であることが普通だとは思うが,アメリカ人の作者がこの警鐘を鳴らしていることが効果的だと思う。-----------作者も論じているように,新しい視点を感情的に否定するのではなく,それをまず受けて止めて互いに一次資料を元にしたファクトで論じるべきだろう。それだけがフェイクニュースに対抗できる視点だと思う。なるほど,勉強しなければ!!
2017.12.22
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ベストセラー作家・東野圭吾の作品でも人気の〈加賀恭一郎シリーズ〉の4作目を読んだ。〇ストーリー人気作家・日高が友人の野々口に殺された。刑事の加賀は,野々口が残した手記を読みながら事件の真相へと迫ろうとする。やがて野々口が犯人として逮捕され,殺人の理由は彼が日高にあることを強要されていたことだとされる。一度はそれを信じた加賀だが,地道な捜査の末にたどり着いた場所とは?-----------〈加賀恭一郎シリーズ〉での加賀は;「卒業」では,仲間内の殺人事件を追求する大学生「眠りの森」では劇団で起きた殺人事件を捜査しつつ,劇団員へ好意を寄せる刑事「どちらかが彼女を殺した」では女性社員の殺人事件を冷静に追う刑事として登場していた。第3作では,どちらかというと第3者から描かれていた加賀だが,この作品では語り手が複数なので,1人称と3人称の両方の視点で加賀が登場する。加賀恭一郎は嫌いではないが,ストイック過ぎて自分については語らないので,この作品のように時々は外部から加賀を描写した方が魅力が増すような気がする。-----------〈加賀恭一郎シリーズ〉第4作を読んで驚いた。ひじょうに凝った構成となっている。容疑者であり彼自身も作家である野々口の手記の章,加賀が語り手である章,そして関係者へのインタビューの章と,複数の視点で物語は語られる。そこで展開されるのは,表面上見えていた事件,その裏にあったと思われる動機,さらに浮かび上がってきた秘密,そして・・・という二転三転する事件の真相だ。え?東野圭吾が?と戸惑うほどの,重層的な構成となっていて,語り口でも工夫しているので読み返しても,ミステリーとして破綻がない。凝っているゆえに不満の残った第3作と比べて,この第4作は成功していると思った。-----------この作品のテーマの1つは,根深い悪意の根源は何か?ということだ。悪意を持って,相手を陥れようとしたのは誰なのか?それは何故なのか?ミステリーでありながら,ロジックの世界の遊びに留まらず,人間の心理を描こうとするのは東野圭吾の作家としての良心だ。だからこそミステリーファンだけでなく,幅広く読者を獲得しているのだろう。その中でも,この作品はいわゆるリアリティではギリギリなのではないだろうか?-----------東野圭吾にしては挑戦的なミステリーだ。僕自身は翻弄されたので,ぜひ読んでみてもらいたい。
2017.12.21
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真梨幸子の人生の失敗をテーマにした長編を読んだ。〇ストーリー落合美緒は共働きで池袋のタワーマンションに住んでいた。だが不運が続き,退職し,埼玉の小さなマンション住まいとなり,地元のスーパーでアルバイトをするようになった。だがそのバイト仲間のイチハラが,マンションの隣家全員を殺害したとして逮捕されたことを知り,たまたま事件の晩に彼女に会っていた美緒は,事件を含めて人生の失敗を集めた本を企画出版することにとりつかれる。その情熱はやがて・・・-----------イマドキの真梨幸子作品に長編だった。〈イヤミス〉であるのはデビュー作から変わらない特徴なのだが,さらに最近は読者をはぐらかすような展開を続け,必ずしも「これが真相」という分かりやすい結末を提示しない,という結末となっている。結果的には,〈イヤミス〉独特の毒に満ちた人間模様が描かれ続け,それを耐え続けてもスッキリする結末には至らないという二重苦,三重苦の読書体験の提供になっている。-----------ミステリーでは,小説の中でも積極的に犯罪や暴力が描かれている。読者がこのジャンルを喜ぶ理由は,単純に謎解きとして知的なゲームを楽しむのと一方で,発生した事件による混乱の末に切れ味の良い論理により世界が整理されるという部分があると言われている。〈イヤミス〉がそれとマッチしていないのではないが,真梨幸子作品の多くは最後まで説明しないまま終わるので,通常のミステリーで存在する”スッキリ謎解き”が不在だ。それに加えて,〈イヤミス〉ならではの,畳み掛けるネガティブな感情が強力に襲いかかってくる。よく,平気でこの作家の作品をほとんど読破しているな,自分。-----------この作品は,真梨幸子のデビュー作「孤虫症」のスピンオフ的な続編となっているが,作中で「孤虫症」や作者のことが辛辣に批判される。メタ的なのか,違う意識なのかは分からないが,そこまで追い詰められているのか?と心配になってしまった。正直あまり売れてはいない真梨幸子が,メタ的でパロディのようなことをするって,ちっとも笑えなくて,こうした辛口批評が出来なくなるのでやめてもらいたい。-----------恐らくきちんとヒント通りに特徴を集めて,言動を追って行けば,真犯人にたどり着けるのだろうけれど,ダラダラと悪意が垂れ流されているだけの作品を読み返す気分には到底なれない。ネガティブで,また理解するのに手間がかかるということで,最近ではちっとも買いたくならないという作品ばかり出版しているのは,作家としてどうかと思う。リーダビリティは相変わらずなのだけれど,意図的に語り手が代わり,意図敵に情報が隠されているのに気付くと,ちょっとゲッソリしてしまう。
2017.12.20
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「戻り川心中」に圧倒されたので,連城三紀彦の同じシリーズを読んだ。〇ストーリー幼い頃〈私〉が郷里の薄野ですれ違った2人は,2日後心中死体で発見された。上京した〈私〉が知ったのは,それは書生だった男の日記の出版によって〈夕萩心中〉として有名な事件となっていたことだった。だが〈私〉だけが知るいくつかの情報と,調査によりこの事件の裏に潜んでいた史実が徐々に明らかになる。それは?-----------高校生の姪に「夜よ鼠たちのために」を教えてもらい,それをきっかけに連城三紀彦の作品を読む,というのもなかなか不思議な状況だと思う。なかなか乙であるのは我ながら認めるけれど。「夜よ・・」がミステリーとして完成度が高く,また戦前戦後の昭和を舞台にしていてレトロな空気感を持っていた。だがそこで知ったのは「戻り川心中」という連作短編集の方が,はるかに濃厚な世界観を持っているということだった。-----------今回の「夕萩心中」は題名から類推できるように,「戻り川・・」と同じシリーズに含まれる。明治末期,大正の色街を舞台の中心に据え,そこから広がる静かな世界観を背景にしたミステリー連作短編集だ。短編1編に驚くほどの濃厚な設定が盛り込まれているのは前作と同じだ。語り手,相方,知人のすべてにきちんとした過去が用意されているので,最初は不思議と思える行動を取られても,最後は説得される。上質なミステリーと薫り高い文学の融合が実現していた,という立証をだいぶ遅ればせながら実感できたいくつかの作品だった。-----------「戻り川心中」の5つの短編,そして「夕萩心中」で追加される予定だった5つの短編で,〈花葬シリーズ〉の10編は完成する企画だったらしい。けれども「夕萩」の3編を著した時に,作者・連城三紀彦は音を上げ,シリーズ打ち切りを決心したらしい。確かにミステリー要素を持ちつつ,歴史小説的な要素も備えた短編を,さらに花,色街,明治末期,誤解,と複数の共通モチーフまでも持とうとしたこのシリーズが,狙っていたレベルが高過ぎたのだと思う。後期とでも言うべき3つの短編では,ミステリーとしての要素はだんだんと無理筋になりつつあったが,歴史背景のある悲哀小説としては,迫力のある濃さを発揮し続けている。-----------書生,執事,文豪など,戦前までは存在していた肩書を懐かしんでのライトノベルが見受けられるが,このシリーズを読むと,そうした存在で醸し出そうとしている空気がいとも簡単に書かれていて,表面だけの薄っぺらい作品を一瞬で破壊してしまうリアリティがある。まだまだ明治や大正がそこにあり,手触りが感じられた頃の作家の世界観。とても大事だと思う。-----------残念なのは,「夜よ・・」と同様に,短編集の空気を壊しかねない作品が紛れ込んでいることだ。後期〈花葬シリーズ〉として5編の短編が書けなかったのは仕方がないとして,なんでユーモアミステリーを掲載したかなあ?文庫版で再編集して〈花葬〉だけまとめて1冊にした編集者の気持ちはよく分かる。-----------各編について簡単に感想を述べる。「花緋文字」:血のつながらない妹・三津と再会した〈私〉は,大学での友人・水沢と彼女が惹かれ合うことに戸惑う。やがてそれは三津の悲劇的な事件へとつながる。だがその背景に隠れていたのは・・・〈花葬シリーズ〉もいろいろあったが,ここまで語り手が〇〇なのは初めてだと思う。少しは伏線的に仄めかされていたとは言え,最後の最後に驚いた。ダークなのに美しい。見事だ。「夕萩心中」:幼い頃〈私〉が郷里ですれ違った2人が,上京した後も有名な逸話として語られていた〈夕萩心中〉の主人公たちだった。だがいくつかの情報から,〈私〉だけはその裏に潜んでいた史実を解き明かしてしまう。それは・・・文学的と言える空気に浸っていたのだけれど,途中から妙に現実的な要素が表に出て来てしまって困った。せっかくの表題作で,多層的に凝った構造となっているのに,行き着く先がそこでは救われない。困るなあ。「菊の塵」:明治末期の東京で〈私〉の通学路の家で元軍人の男が自刃した。〈私〉は男の妻を疑って捜査をするのだが,彼女に詰問される。・・・歴史小説としては顧みられていないニッチな部分を狙っているとは思うのだが,〈花葬シリーズ〉としてはチカラ不足を感じさせる。前の短編を含めて,パワーダウンでシリーズが終わったのは実に残念だ。「陽だまり課事件簿」:大都新聞社の厄介者ばかりが集まる資料部第二課では,仕事はあまりないものの,時間だけはたっぷりとあった。彼らの前に舞い込んできた事件とは?・・・「夜よ・・」でも最後に場違いな短編が収録されていたが,今回も全く同じパターンだ。編集者はいったい何をしたいのだろうか?花街が舞台のシリーズの巻末に,ユーモアミステリー。マイナス効果しか感じられない。
2017.12.19
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渡瀬警部と岬検事が共演する中山七里のミステリーを読んだ。〇ストーリー全く関係ないと思われていた2件の殺人事件に共通していたのは,復讐の女神〈ネメシス〉を示す署名と,被害者が殺人犯の家族ということだった。埼玉県警の渡瀬警部と東京地検の岬検事の努力にも関わらず,事件は正義の執行者の仕業として,マスコミに大々的に報道されてしまう。裁判の意義,死刑制度の是非を巻き込んだ大きな事件の驚きの結末とは?-----------相変わらず意欲的に作品を発表している中山七里のミステリーだ。主人公が埼玉県警の鬼警部・渡瀬と若手の古手川刑事,そして東京地検の岬検事ということで,いつもの中山ワールドだ。犯罪者あるいは神々の名前+名詞という題名の付け方で,また警視庁の犬養刑事のシリーズだと思っていたのだが,意表をついて埼玉の渡瀬警部を主人公とする作品だった。事件の責任者として奔走する渡瀬に協力をするのは,あの岬検事だ。最強警部と峻烈検事のコンビが成立した段階で,なんだか緊張感が薄れてしまった。それほど掟破りの主人公たちだ。-----------とは言え,読んでみるとこの2人のキャラクターはストレートに優秀だし,それぞれ警察と検察という大きな組織に所属しているので,主人公としての魅力には乏しい。やはり本来の立ち位置のように,主人公を追い詰めるあるいは敵対する存在の方が似合っている。警察や司法システムが大きく批判をされるのは作品でも語られているが,主人公たちは傷付かないという流れにはちょっと引いてしまった。-----------重いテーマを扱っているので,作品は長い。司法の正しさ,死刑制度の必要性と,簡単には答えが出ないことを,小説を通じて仮想の議論をすることはひじょうに有意義だと思う。テーマが重いためか,発生する事件は少な目だ。そしてさらなるラストは・・・うーん?これは必要だったのだろうか?-----------主人公たちの立ち位置の居心地の悪さだけでなく,ラストの展開もあり,もやもやした気持ちが残る作品となってしまった。うーん?
2017.12.18
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今シーズンでは個人的に楽しんでいた刑事ドラマの最終回を観た。〇ストーリー7年前の〈ロイコ事件〉で河合夫婦が殺害された。直後に焼身自殺をしたはずの犯人・横島は生きており,生き残った河合家の娘・ヒズミを殺そうとする。それを阻止しようとした弓神と羽生のコンビは,横島の手下に捕らわれてしまう。羽生が弓神に問い詰め,明かされた〈ロイコ事件〉の真相とは?-----------ハリウッド俳優の仲間入りをした浅野忠信と,若手俳優の中で独特の人気を得ている神木隆之介のコンビでの刑事ドラマが終了した。行動がいい加減なのに,するっと相手の気持ちの内側に入り込み,また他の人々が気付かない点を見抜き,次々と事件を解決する弓神を演じる浅野忠信。若手ながら出世を意識してポイント稼ぎに余念のない,ドーテイの羽生を演じる神木隆之介。刑事ドラマとしては異色の設定で,なかなか楽しめる展開だった。個人的には2人の上司・菅能を演じる稲森いずみも含めてお気に入りのキャスティングだった。-----------ただ終わってみると,残念ながら人々の記憶に残るほどのドラマとなったとは思えない。型破りの刑事と真面目クンのコンビ,というパターンはこれまでもいくつもあるので,その設定だけでは目立たない。ドラマのトーンとして,コミカルで行くのか,情感たっぷりで行くのかも,ぶれまくりだったのも歯切れがよくない。弓神のキャラクターはそれなりに立っていたが,真面目クンの羽生が,イヤミな優等生キャラとして成立していないのが大きな欠点だ。結果的に,スーパー刑事・弓神のドラマになってしまっていた。-----------シリーズを通した謎としてのヒズミというキャラクターも,山本美月の新境地という意味では重要だと思うが,なぜか天才的ハッカーという都合の良さで,冷静に考えれば物語のバランスを変えてしまう存在だった。またラスボスとして登場した横島を演じるのはオダギリジョーだ。正直,またオダジョーなの?と驚いてしまった。こうした独特の存在感がある俳優として貴重なのは分かるけれど,他で似たような配役で使われていたら普通は避けるだろう?そして最終回の事件が一番納得できないという悲しいオチ。どう考えても登場人物の行動も,目的も,達成できたことも,そしてつじつま合わせも含めて,無理スジだらけだ。なんだろう,この脚本。-----------せっかく魅力的な設定と配役があり,それなりの〈化学反応〉もあったのに,このラストではどこにもつながらないだろう。3ヶ月間楽しみにしていただけに残念だ。
2017.12.17
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今の会社は会計年度が暦と同じなので,12月が年度末になる,ということは以前も書いたと思う。今年も例年通り予算消化のための工事発注が目白押しだ。1月から3月の道路工事が地方自治体の予算消化工事として批判されるが,それと同じことが11月12月に起きている。発注先の施工会社は大変だと思うが,よく付き合ってくれている。こうした行為はいろいろと批判されるが,予算を消化しないと翌年度の予算が縮小されるし,今年度止まってしまったプロジェクトの代わりに来年度必須のプロジェクトを先行して実施できるし,放っておくと予算は没収されてしまうし・・・と今では年度末工事にひじょうに共感してしまっている。-----------そうしたこともあり今週末は2日とも出勤だ。さすがに月曜日は休みを取るので,7連勤止まりだが,さすがにかなりキツイ。打合せや電話などの邪魔がない状況でデスクワークを進めよう,なんて思っていたが,工事を3つくらい同時に進めているので,30分置きくらいに呼び出される。諦めて懐かしの現場監督モードになって週末を過ごす。デスクワーク?いつかできるでしょ?
2017.12.16
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部署の忘年会(2度目)が銀座の端っこであり,そこに向かった。いつも飲み会は開始前から乗り込んで飲み始めるタイプなので,だいぶ早めにオフィスを出て,乗り換えを避けて少し遠くの駅から歩いた。行き先が東銀座駅周辺という,人によっては評価が分かれるエリアだった。駅を降りて,大まかには首都高速のピット状になった道路に沿って店に向かう。戦前の雰囲気は皆無かと思えば,ほんの数軒たぶんそのままの建物もあったりして驚く。目的地直前になると,銀座の華やかさが流れてきて,一気に雰囲気が変わった。-----------クセモノ揃いの飲み会も終わり,クセモノなので2次会という話は一切出ずにそのまま解散となった。多くの人は東銀座駅から帰宅ということになったが,僕ともう1人は少し先まで歩いて便利な乗り換え駅から帰るということになった。そのまま晴海通りを歌舞伎座,元映画館,銀座四丁目交差点,有楽町マリオンと進み,新橋まで歩いてJRに乗るというそいつとは分かれた。-----------飲み会の直前に見えた景色もそうだったが,そのあと横断した中央通りもみゆき通りもひじょうに華やかで,ちょっとだけショックを受けた。別に過去が遊び人だったワケではないけれど,ずっと月に何回か銀座や新橋で飲んでいた・・・居酒屋だけど・・・ので,自分と今でも華やかな世界との断絶に驚いた。-----------これはクリスマスだけは形から入って華やかにデートをしなければ!!!
2017.12.15
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西澤保彦の7年ぶりの〈匠千暁シリーズ〉の短編集を読んだ。〇ストーリータックは大学講師の自殺を阻止するために取り壊し予定の校舎で見張りを続けていた。だが,彼が目にしたのはその講師の老人の墜落死体だった。自分の行動を悔やむタックだが,それでも知人たちの怪しい行動は見かけていた。この自殺事件の裏に潜んだ大きな陰謀とは?ーーーーーーーーーーーー〈匠千暁シリーズ〉はデビュー作「解体諸因」も含まれていて,西澤保彦の根幹となるシリーズだ。1995年から2005年までは8作が発表されたが,その後は現在まで2作とだいぶペースが落ちているのは残念だ。それでも今回の作品が2016年に発表されたのはひじょうにファンを安心させた。もっとこのシリーズを読むことが出来ればうれしい。ーーーーーーーーーーーーこのシリーズは匠千暁が主人公という短編集で始まりつつも,辺見祐輔が主人公の短編もある。やがてそれにタカチとウサコというタイプの異なる女性の飲み友達が加わり,1990年頃の脳天気な空気をまとうシリーズとなった。シリーズにはいろいろと驚きの仕掛けもあるのだが,それは読んでみてのお楽しみだ。シリーズに含まれつつも作品の時系列が前後するので,将来誰と誰の間で何が起きるかが多少分かっているのも,このシリーズの特徴だ。この作品は,これまで語られていなかった,メンバーの卒業,ウサコと平塚刑事の出会いと結婚という部分を描いているので,シリーズファンとしてはミッシングリンクが埋まるような喜びもある。ーーーーーーーーーーーー事件捜査の始まりに特殊過ぎる漢字の名前に戸惑い,その過程で倒錯した人間関係に当てられ,謎が解かれてもその妄執深さに辟易するという流れは,げっそりしつつもいつもの西澤保彦だ。この濃密な毒がいつの間にかクセになる。万人にはオススメできないが,ファンとしてはぜひとも早い段階で続編が読みたい。ーーーーーーーーーーーー各編について簡単に感想を述べる。「無間呪縛」:刑事・平塚総一郎の実家では,怪異現象がきっかけで20年以上もある部屋が元のままに残されていた。その陰惨な事件について捜査を依頼されたのは,大学を卒業したタックと,院生のウサコだった。彼らが解き明かした悲しい真実とは?・・・やや〈新本格ミステリー〉っぽい展開なので驚いたが,その後は西澤保彦らしいドロドロした人間模様が語られて終わる。こうでなくては!平塚刑事とウサコの出会い編ともなっている。「悪魔を憐れむ」:大学OBの知人から,恩師が自殺を実行しそうになっていると相談されたタックは,その現場を監視する。だが懸命な努力にもかかわらず,彼が目にしたのは講師の自殺死体だった。どうして講師はタックの監視の目を抜いて建物に入ったのか,そしてこの事態に隠された大きな企みとは?・・・中編のボリュームがあるのだが,その配分がやや間違っている気がする。前半はタックが講師の自殺を阻止するための行動,そしてそれが叶わなかった推理が語られるのだが,そこがかなり冗長だ。そして後半になり推理により心理的な攻防戦になる。表題作だけあって,なかなか驚きの展開となっている。普通のレベルのどんでん返しは読めたのだけれどね。「意匠の切断」:マンションで悦楽に浸っていた男女三人が殺害され,そのうちの2人だけが奇妙な切断死体として晒された。果たして犯人は?そして猟奇的な行動の目的は?・・・いや,さすがに無いでしょ?と思わせつつ,欲望,愛情,憎悪など人間の暗い部分を語る作者なので,ひょっとしたら?と説得されてしまうのが怖い。まあ,でもないな。「死は天秤にかけられて」:殺された男は,同じホテルの9階,7階,12階だけを行き来していた。彼の目的とは?・・・前半の2編が中編,後半の2編が短編で,明らかに尻すぼみの作品となっている。この短編もあまりにも状況が不自然なので,だから何?と思ってしまう。感情を移入する相手も作られていないし,失敗作だろう。
2017.12.14
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短編「さよなら『お父さん』」を書き直して長編とした東野圭吾の出世作を読んだ。〇ストーリー杉田平介の妻・直子と娘・藻奈美が乗ったスキーバスは運転手・梶川の居眠りで崖下に転落する。多くの乗客が命を落とした中,直子と藻奈美は危篤のまま存命していた。駆け付けた杉田の目の前で直子は絶命し,娘の藻奈美だけが生き残った。だが藻奈美の中に残っていたのは,なぜか妻・直子の意識だった?!夫と娘の身体に残った妻の意識,という不思議な生活が始まる。-----------文庫版で450ページ近くの立派な長編だ。けれども例によってひじょうに読みやすいし,短編版で読んだ内容とそれほど違わないのが不思議だった。こうした状況だと,短編を水増しして長編に仕上げ直した,と揶揄されるところだが,同じ始まり,同じ終わり方,同じ読みやすさなのに,密度は少しも薄まっていない。もちろん被害者団体の訴訟だったり,バス運転手・梶川側の事情だったり,妻・直子の実家だったりと,新しい要素は加わっている。それでもやはり杉田・妻・娘の日常のディテールが増えていることが,水増しを感じさせない要因だろう。-----------正直なところ,ワンアイディアの作品なので短編向きだと思っていたし,短編を先に読んだ自分のような読者には評価が厳しくなると思ったが,丁寧に良い部分もつらい部分も描き込まれた密度と,それなのに読みやすさを保っている筆力はさすがだと思った。この作品が低迷していた東野圭吾のブレークスルーとなり,ヒットメーカーへの転身の結果になったと聞き,なるほどと思った。起きている現象は医学的には全くロジカルではないだろうし,SFでも説明は苦しい。多少の謎解きはあるもののミステリーともサスペンスとも呼ぶほどの推理小説要素はない。ジャンルに分類すると難しいのに,独自の不思議な要素があり,それを中心として時にコミカル,時に泣ける人間模様が語られる,という規格外の作品だ。-----------短編版を読んでいた僕でさえ,電車の中で涙をこらえられなかった。作品の世界は小粒なのに,ジャンルを超えているし,心をゆさぶる。オススメだ。
2017.12.13
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映像化でも成功し人気を博している西尾維新の〈化物語シリーズ〉の第23巻を読んだ。○ストーリー大学に進学したアララギ暦は出身校・直江津高校の周辺で発生している怪異現象の解決に協力するために呼び出される。直江津高校では複数の女子生徒が誰かに血を吸われ,ミイラとなるという事件が発生していた。時を同じくしてアララギ暦を吸血鬼に化した張本人・〈アセロラ〉の師匠〈デストピア〉が来訪する。複数の怪異と,対策専門家が集まりつつある直江津市で,アララギ暦と仲間が取った手段とは?-------------〈化物語〉あるいは〈物語〉シリーズだが,この巻を読んで整合性が分からなくなりつつある。前巻では社会人となり地元に戻った主人公・アララギ暦が語られた。時間軸は飛んだものの久々にシリーズ主人公が語り手となった作品にファンとしては喜んでいたのだが,今回は時間が戻り大学生時代の主人公が語られる。高校生の主人公の不思議な体験がベースとなっていたシリーズなので,第4シーズンの最終巻でいきなり時間が4年間飛んだことは驚きだったが,第5シーズンでその空白を埋めるという流れになるとは思わなかった。まあ,読者をいかに裏切るか,を考えているフシがあるのが西尾維新だしなあ。-------------前巻で感心したアララギ暦が語り手となる流れは今回でも踏襲されていて,抜群の安定感はある。語り手がくるくると変わっていたしばらくの巻とは大きく異なり,読者と語り手の距離がゼロとなる安心感がある。と,前の巻への感想とほぼ同じことを述べるが,それでも主人公が未成年と社会人との差がここまで大きなインパクトを与えるとは自分でも驚きだった。-------------せっかくのアララギ主人公作品,吸血鬼フィーチャー作品なのに,エンディングに近付くほど,その輝きは失われて行く。今回の怪異のスケールは,登場するキャラクターと比較して釣り合っていない印象が強かったので,本来の展開は別だったのではないかと疑ってしまう。前巻と比べて異なる時間軸,物語の感触と,いろいろ疑ってしまう。-------------せっかく続いた主人公がきちんと語る作品だったが,ミステリー要素を導入するチャレンジばかりが目立ち,本来のシリーズの魅力がなおざりになっていた懸念を感じた。とは言え,次巻への期待は揺るぎない。
2017.12.12
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秋のテレビ番組はそろそろクライマックスだが,最初に終わったのが『重要参考人探偵』だ。〇ストーリーモデルのケイは,幼い頃から死体の第一発見者になってしまう。そのためにほぼ毎回重要参考人として疑われ,周り中から犯人だとみなされるものの,モデル仲間のイツキとシモンの協力と,彼の〈火事場のバカ推理〉で毎回切り抜ける。だが,その裏にはケイの生い立ちの秘密があり・・・ーーーーーーーーーーージャニーズタレントらしからぬ長身の玉森裕太が主人公のケイを演じている。仲間のイツキを演じるのも同じ事務所の小山慶一郎だが,設定のこともあり目立たない。むしろ光っていたのはシモンを演じる古川雄輝だ。天然のフェミニストキャラをふわふわと演じていて,主人公より目立っていた。ーーーーーーーーーーー金城一紀のドラマ『Crisis』でクールなハッカーを演じた新木優子が,ケイの元恋人で捜査一課の刑事の果林を演じていた。『Crisis』ではあれほど印象的なキャラクターだったのに,やはり普通のドラマに出ると魅力が半減する。『SP』の真木よう子,『Border』の波留,『Crisis』の新木優子,と一連のクールビューティー(古い・・・)の流れは素晴らしいと思うのだが,もう1つ個性が足りないという印象を受けた。ーーーーーーーーーーーシモンと並んで目立っていたのは,ケイたちのモデル事務所の社長・浪江を演じる滝藤賢一だ。これまで犯罪者を演じることが多かったが,今回はオネエキャラで,それが驚くほどはまっていた。犯罪者だけでなく,コミカルな演技も行けるんだ。さすが一流バイプレイヤー!ーーーーーーーーーーー深夜ドラマらしいガチャガチャした雰囲気が満載で,それで押し通したことが潔くて良かったと思う。まあそれ以上でも,それ以下でもないけれど,楽しめた。
2017.12.11
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映画『鋼の錬金術師』の来場者サービスで配布している第0巻を読んだ。〇ストーリー国家錬金術師の試験に合格したエドワード・エルリックは,東方司令部でこれから同僚となる錬金術師たちに紹介される。彼らの意外な優しさに驚くエルリック。その頃,同じ試験結果を待っていた男は・・・-----------この来場者サービスのためだけに映画に行こうかと思っていたが,姉が劇場に観に行くというので助かった。おかげで邦画で恒例となっている,説明過多のセリフ,50年間くらい進歩をしていない演技と演出,論理的に説明のつかないシナリオ,という頭が痛くなる体験をしないで済んだ。マンガ,アニメなど日本が世界でトップのコンテンツからの実写化はまだまだ続くだろうけれど,観る側もバカじゃないので,選択と集中が進むのは当然だ。それに対して原作ファンにアピールするプレゼントを用意して集客を図る,というのは卑怯かも知れないけれど,長い目では正解なのかも知れない。上手いものだ。-----------姉のおかげで入手した第0巻だが予想以上に薄く,30ページしかない。しかもその半分がインタビューで,コミック部分は15ページ分しかない。うーん,このために劇場に足を運んでいたら怒っているところだ。さすがに荒川弘も15ページでは大したストーリーを展開出来ない。作者好みの筋肉マッスルシーンがあるのは笑ってしまうが,大昔の第1巻などではまだ語られていなかったイシュヴァール内戦のことなどが紹介されているのは最新設定っぽい。そして〈ハガレン〉の中でも一二を争うウツ展開のあの人物が登場する。ヒキとしては,まあ無難だよね。-----------7年ぶりの「鋼の錬金術師」は短かったけれどもウキウキした。完全版を買ったファンは・・・ご愁傷様としか言えない。
2017.12.10
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東京メトロが主催している謎解きラリーの参加をした。-----------このイベントが去年も開催されていたのは駅のポスターで告知されていたし,会社のウォーキングイベントをしていた際に,人形町の駅の外で謎解きキットを片手に首をひねっている人が沢山いたのを覚えている。昨年年末に行った水道橋の〈TenQ〉での謎解きラリーが館内とは言え,なかなか楽しめたので,友人たちと〈地下謎への招待状〉に参加することにした。-----------まずはスタート駅の定期券売り場に集合して,2,000円で謎解きキットを購入した。これにはブックレット,謎解き用のシート数枚,封筒,それに東京メトロの一日乗車券が付いている。またそれらを収納できる手提げ型のフォルダーがついている。定期券売り場から構内の広場に行くように指示され,そこに行くと最初のミッションが与えられる。その答えは6つの駅名になっていてるので,一日乗車券を利用してそこへ向かう。向かった先で謎解き用のシートを利用して,クロスワード風のパネルに答えを書き込んでいく。6つの駅のうち,自分で3駅を選ぶことが出来る。とは言えスタート駅から数えると4つの駅を経由してようやく最初のミッションがクリアされる,というなかなか複雑な構成となっていた。-----------ところでキットは,銀座,新宿,上野,渋谷,池袋で購入できる。僕らは渋谷駅をスタート駅とし,10時に開始をした。最初のミッションをクリアするのに1時間。そこで早めに食事をして,第2ミッションを開始した。それを解き,第3ミッションの難しい謎に座り込んで挑戦する。駅が分割されていた第1ミッションと異なり,行き先が同じになることで同じ謎解きキットを手にした人が大勢現れ,同じ車両に3組も4組もいるようになる。そうなると正直,他のグループについていけばいいのだが,謎解きがだいご味なので頑張って解く。謎解きには購入したキットをいろいろな方法で使う必要があるし,途中で謎解きとは異なる変わったゲームもあるし楽しみながらゴールにたどり着いた。終了は3時少し前だったので,所要時間は5時間近くとなる。-----------さて謎解きクイズのレベルはそこそこ高かった。別に知識や計算の能力は必要ではないのだけれど,ひらめきが必要で,それが降りてこないとなかなか進まない。僕らは4人組だったから,そこそこ均等にひらめきが来たので,足踏みをしつつも楽しむことが出来た。参加者の半分くらいがカップルや親子連れの2人チームだったが,2人だけではひらめきの幅が少ないので,なかなか進まず険悪になってしまうのではないだろうか?と余計な心配をしている。-----------ネタバレをしない程度に書くと,移動する範囲はそれほど広くない。東京メトロと行っても西は地下鉄赤塚,北は北綾瀬,東は西船橋まであるのだが,まったくそんな遠方に足を伸ばす必要はない。頑張れば半日で十分終わると思う。リアルな街を利用した謎解きゲーム,なかなかオススメだ。
2017.12.09
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鯨統一郎の〈タイムスリップシリーズ〉の第10作を読んだ。〇ストーリー中国の三国時代に歴史を改変しようとする組織が侵入し,蜀の劉備玄徳に成り代わった。歴史を元に戻すために,タイムパトロールと相談した現代の女子高生・うららは,本能寺から織田信長を連れ出し,呉の孫権の代理として王にたてる。三国時代は未来人が率いる蜀に支配されてしまうのか,それとも信長が率いる呉が覇権を握るのか?そして魏の覇王,曹操の動きは?-----------〈タイムスリップシリーズ〉は,そこそこ書きやすいのだろう。また,NHKとのタイアップもあったおかげで,いつの間にか10作目となり,多作な鯨統一郎のシリーズの中でも最多となってしまった。今回の作品のレビューを読んでみると,〈作品設定がよく分からない〉という声がいくつか聞こえた。たしかに物語のキモである時間旅行の設定の整合性が怪しく,さらにこの作品ではほとんど説明がないという割り切りだった。これでは戸惑ってしまう読者がいても不思議ではない。僕でさえ,今回のタイムスリップに巻き込まれたのが,主人公・麓うららだけなのか,彼女の友人2人も含まれているのかしばらく分からなかったし,久々にシリーズを読むのでいろいろと設定を忘れていて分からないタイミングもあった。このシリーズを続けるつもりならば,もう少し初見の読者にも分かるような説明があってしかるべきだと思う。-----------作品のタイトルがすべてを表しているようでもあるが,今回は織田信長を中国の三国時代に連れて行って天下布武ををさせようという,二重三重のタイムスリップ物語となっている。鯨統一郎作品の中でも,ここまで無理のある設定は珍しい。それでもこのシリーズは,いつも通りのイキオイで突き進んでしまう。ただし,これまでは主人公・うららがそれを行っていたが,今回は信長を含め,三国志の英雄たちがノリノリでそれを行っていた。僕自身は三国志には詳しくないが,ファンの人は喜べるif展開なのではないだろうか?蜀が悪者になっている点は,多くの人には驚きだとは思うが。-----------すっかり当初の作品量産ペースが落ちてしまった鯨統一郎だが,このシリーズが楽しく書けそれがリハビリになるならば,それもよいと思う。誰に薦めて良いかどうか分からない作品だが,イキオイはある。
2017.12.08
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ジェットコースターサスペンスの旗手・木下半太の長編を読んだ。〇ストーリー離婚し娘を姑に助けられながら育てているビジネスウーマンの理々子。彼女は終電を逃した渋谷のバーで柴田という男と隣り合わせになる。そこで彼が恋人・明日香を刺殺した冤罪で服役していた〈極楽プリズン〉と,明日香が死ぬ運命を覆すために繰り返した過去へのタイムスリップの話を聞かされる。その奇想天外な物語はいつしか理々子にも関連をしてきて・・・ーーーーーーーーーちょっと犯罪めいた状況があり,それに加担していた人物が次々と危険な目に遭う,といういつものジェットコースターサスペンスとは違う展開となっていた。これまでの作品だとどれだけ危険な状況があっても,基本的な世界観はリアルだった。途中の解決策が脱力するようなシュールな展開であっても,まあそんなものかと赦せた。今回の作品では複数の登場人物に特殊な能力がある。その能力ですすっと事件の解決が来るほど物語は単純ではないとは言え,「あ,こんなルール違反ができてしまうんだ」という感覚があると,どうも作品のバランスが崩れる気がする。ーーーーーーーーーこの作品は面白いし,主人公たちの前向きな姿勢は悪くないと思うのだが,やはりいくつかの欠点が目立つ。まずは語り手が一定しないこと。渋谷のバーの謎の男・柴田,主人公・理々子,そして理々子の元夫と,作品の中で語り手が移り変わるので,前向きなテーマ以外に達成しようとされる目的が見えない。次にすでに書いたがファンタジック,あるいは超自然的なチカラが作品内部で描かれていることだ。このため登場人物たちの危機が生じても,あまり緊張感が保てなくなる。そして最後が,いろいろな展開があるのに多くのシーンで解決が語られないことだ。ベタでリアルなトラブルが発生して事件が起きるのだけれど,「これは運命」みたいな視点があり,その後に来るべき事件の解決には力が注がれない。ハチャメチャだけどリアルという木下半太ワールドから,そこそこ真面目だけれどリアリティがないという新しい世界観に変わってしまった気がする。ーーーーーーーーー相変わらず21世紀の作品なのに1990年頃のバブリーな空気を漂わせ,長編を楽しく引っ張る筆力は見事だと思う。次回作にも期待をしている。
2017.12.07
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北森鴻が生んだ骨董屋〈冬狐堂〉の最終作となる連作短編集を読んだ。○ストーリーあの孤高の〈冬孤堂〉が眼を患い,商売存続の危機にある。その彼女を陥れようと,様々な企みが仕掛けられ,陶子のところに,3回も買主から突き返されたといういわくつきの和人形が持ち込まれる。果たして,陶子はこの人形の謎を解き,彼女の評判を落とそうとする企みを覆すことが出来るのだろうか?-----------店舗を持たない骨董業,”旗師”の女性・宇佐美陶子を主人公にした〈冬狐堂シリーズ〉の第4作目だ。第1作,第2作は長編だったが,これに先立つ第3作と同じように今回も短編集だ。-----------前回も書いたが,〈冬孤堂〉の長編では作品世界の空気が張りつめ過ぎていて読んでいて疲れるので,短編集の方が気楽に読める。この作品は2005年発表でこれで〈冬孤堂シリーズ〉は終わってしまっている。けれども〈蓮丈那智シリーズ〉〈修復師・佐月キョウイチ〉などで,宇佐美陶子はこの後もゲスト出演をしているので,決して北森鴻が彼女の存在を忘れたわけではない。北森鴻ワールドのキャラクターとしてはずっと生き延びていたのだから,いずれヘビーな長編が執筆されただろうと思うと,作者の死が残念でならない。-----------今回の作品は,主人公・陶子の過去,そして病気が共通モチーフとなっており,さながら連作短編集のような様相を持っている。扱われる美術品は,雛人形,画集,切り子椀,洋人形で,これまでのシリーズからするとやや制作年数が若い物で占められている。主人公たちの過去につながるエピソードも豊富だが,やや語り過ぎという印象も受ける。それも踏まえて,少しシリーズに冷却期間を置くつもりだったのだろうと勝手に想像している。-----------一方で,北森鴻ワールドとのリンクはいくつか行われている。まずは何度登場する池尻大橋のバーは,〈香菜里屋シリーズ〉で登場した〈バー香月〉だと思われる。本家(?)の〈香菜里屋〉も地味に1回だけ登場している。〈冬孤堂シリーズ〉のスピンオフ的な位置づけの〈雅蘭堂〉の越名集治も調査で重要な役割を果たす。そして驚いたのが〈親不孝ディテクティブシリーズ〉からの根岸キュータの登場だ。大人しく屋台のオヤジをやっているので,こちらのシリーズ2作の中間にあたるワケだ。陶子に圧倒されたのか,妙に大人しいキュータを読むことが出来る。このシリーズとのリンクは読者への大サービスだ。こうして見ると,シリーズとしては生きていて次には長編が発表されていた,という想像は間違っていないように思える。ただし現実の世の中は残念ながらそう幸せには運ばない。そろそろ北森鴻の作品群の読破も見えてきてしまっていて,シリーズごとにバランスよく読むように計画している。とにかく貴重な作家を失ってしまった。残念だが遺された作品を読むことが僕らが出来ることだと思う。オススメだ。-----------各編について簡単に感想を述べる。「倣雛(ならいびな)心中」:眼に病気を抱えた〈冬孤堂〉に挑戦をするように,彼女のところにいわくつきの和人形が持ち込まれる。この人形は売れても買主から不気味がられて返されるということを3回も繰り返していたのだった。骨董屋生命を賭けて陶子が解明した謎とは?・・・またまた骨董業界の意地の悪さ,恐ろしさが描かれている。そうした中で凛と生きている陶子の姿は,この短編集の中で一番際立っていて美しいと思った。「苦い狐」:美大生だった頃の宇佐美陶子に,画家として生きることを諦めさせた才能を持つ同級生・杉本深苗。彼女は卒業直前に自宅の火事で死亡していた。陶子の元に深苗の追悼画集の復刻版が送られてきたことが,不審な事件の始まりだった。・・・学生時代の陶子について語られる珍しい短編だし,ミステリーの要素にも珍しい部分がある。アーシル・ゴーキーという画家については知らなかったので調べてしまった。「瑠璃の契り」:北九州の〈角打ち酒場〉で宇佐美陶子が手に入れた切り子細工の椀を見た時から,親友のカメラマン・横尾硝子の態度が変わった。この切り子と硝子をつなぐ謎とは?・・・工芸作品だけから作者を当てることはほとんど出来ないと思うのだが,それは陶子と硝子というプロ中のプロだから成立する設定なのだろう。前の短編同様に過去編が続く。「黒髪のクピド」:陶子は元夫に依頼され,ある古い日本人形を競り落とす。それからしばらくして元夫が失踪したという。陶子は元夫と人形の由来を求めて九州へと旅をする。時代にそぐわないほど,リアルに造形された人形に隠された秘密とは?・・・中編の長さがあり,これが本来は長編になったのではないかと考えさせられてしまう。謎の女,調査を阻止しようとする人物の設定,陶子と元夫の関係など,設定も含めて盛りだくさんで中編としてももったいない。作者が生きていれば,この後の世界も語られたのに。
2017.12.06
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「夜よ鼠たちのために」が傑作だったので連城三紀彦の代表作を読んだ。〇ストーリー瀬戸内海の港町の色街で殺人事件が続く。被害者の男はいずれも刺殺され,顔をつぶされていた。いくつかの情報から〈私〉の女の家の隣人の代書屋が疑われる。彼は粛々と留置場に向かうが,そこで自殺をしてしまう。数日後,港町の祭りが起きた時,ある殺人未遂が起き,全ての謎が解ける。-----------最初から最後まで堪能した。「夜よ・・」は戦前戦後の昭和時代を背景にした短編集だが統一感は薄かった。この作品は大正時代を背景とし,そして何よりも花と死という共通のモチーフがある。短編としてはいずれも独立しているが,連作短編集と呼べる作品に仕上がっている。この作品を読んで感じたのは,ミステリー小説とはロジックのゲームの要素もあるが,小説としての面もある,という当たり前のことだ。読む喜びというと大げさかも知れないが,日本語の美しさを味わうことが出来た。いわゆる美文調が戦前の色街や,地方都市を舞台にした作品世界と見事に調和している。おそらく現代の作家では再現が出来ない匂いや手触りに満ちた短編集だ。-----------時代の空気感に満ちた作品だが,「夜よ・・」でも発揮されたミステリーとしての切れ味は遺憾なく発揮される。短編では過去に起きた事件について語り手が回想をすることで物語が始まる。回想といくつかの情報で,事件の謎は解かれるように思える。謎について説明はついているし,それでいろいろな事情が平和に収まるように思えるのだが,終盤にそれをひっくり返す事実が明らかになる。だが・・・「だが・・・」の部分の流れの剛腕ぶりには毎回驚かされる。中盤までの物語が情感と文章を含めて完成度が高いので,そこだけで完結してもおかしくない。そこからさらに続く結末は,登場人物たちにとって必要だったのだろうか?-----------ミステリーにせよ,ファンタジーにせよ,作者も読者も愛好家で,閉鎖的な世界観で完結するような風潮があるが,この作品を読むととにかく小説として美しいという点に姿勢を正す気持ちになる。どの短編も作品世界が濃厚な一方で驚くほどの展開もあり,十分に長編として仕上げることが出来る内容となっている。〈新青年〉〈宝石〉〈幻影城〉などの,高い品質の小説群の伝統がここにある。素晴らしい。オススメだ。-----------各編について簡単に感想を述べる。(ちなみに僕が読んだ講談社版では5編が収録されていた。)「藤の香」:ある街の色街で外から来た男が顔をつぶされて殺される事件が続く。ある女を囲っている〈私〉の隣人の代書屋が疑われ,女はそのアリバイを偽証しようと言い出す。だが・・・最初の短編から濃厚な作品の空気に圧倒される。悲しい境遇の人間ばかりが登場し,真実を明かすことが求められてはいない。それでもそれが見えてしまった者たちは,死ぬか消えるしかない。見事な文章と意外性で,一番好きな短編だ。「桔梗の宿」:色街の空き地で一攫千金を当てたと言われる男が殺される。新米刑事の〈私〉は,捜査に駆り出され,そして自分でも色街に通うようになる。そして最初の事件をなぞったような殺人事件が起きた時・・・最初の短編以上に悲哀に満ちている。登場人物の全員が隠し事をしているのが,それまでも許せてしまうような作品世界だ。「桐の柩」:〈私〉は征五郎というヤクザに助けられ,彼の弟分として萱場組に入る。萱場組は不運が続き,街の利権も次々に失い,先細りではあったが,征五郎は組長にも,また対抗する組の面々にも一目置かれる人物だった。だが,〈私〉は彼の指示で何度もある女を抱くのだった。緊張が増す中で兄貴に師指示をされた殺しの相手とは・・・淀んだ水のようなやりきれなさが魅力の短編だが,さすがにいろいろと特殊過ぎて受け付けなかった。10点が限界のところを,あれとこれと次々に加算されて40点くらいの濃さになっている。「白蓮の寺」:〈私〉の記憶には母が誰かを刺殺する場面と,建物が焼け落ちる場面が残っている。父を亡くし,逃げるように村を出て母子の2人暮らしとなった私たちだが,〈私〉は大学に通うようになり,いくつかのきっかけで自分の記憶を確認しようとする。それは・・・何重にも多層となっている恐ろしい短編だ。主人公の幼少の記憶が提示され,それから読者はある想像をするのだが,表向きの説明があり,内情の説明があり,さらに,という展開だ。犯人の動機は分かるのだけれど,その前の気持ちは分からないなあ。「戻り川心中」:大正の天才歌人・苑田は2度の心中事件を起こし,その後に自殺をする。友人の〈私〉は彼の半生を伝記小説にまとめるが,心中事件の遺族からの抗議もあり,最終章は発表しないまま作品を完結する。だが〈私〉が到達していたのは,様々な憶測とは異なる苑田の気持ちだった・・・文学小説としても,ミステリーとしても素晴らしい。表題作だけあって完成度は高い。複数の作家を融合させたような経歴の苑田はひどい人物だが,より恐ろしいのは彼をとりまく女性たちだろう。
2017.12.05
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鯨統一郎がお得意の歴史の常識をひっくり返すディベートの連作短編集を読んだ。〇ストーリーバー〈シベール〉を訪れた助手〈僕〉と歴史学者の喜多川教授は驚いた。店のバーテンダー・ミサキと客・村木が述べたのは,八百屋お七は江戸時代のジャンルダルクだ,という説だった。それに対して〈僕〉と喜多川教授は反論を述べるが,やがてそれは?------------この作品を読んで思うのは2つだ。1つは鯨統一郎が得意な分野で伸び伸びと作品を書いているという感触だ。もう1つはこれがあまりにも鯨統一郎のデビュー作「邪馬台国はどこですか?」に似ているということだ。このどちらをとるかで,この作品への評価は分かれると思う。これまで通りのシャープな歴史ミステリーと判断するか,鯨統一郎作品のマンネリが別の表現に出て来ただけ判断するか。このどちらかだろう。〈静香&六郎シリーズ〉,〈桜川東子シリーズ〉に続いて,第3の歴史ミステリーシリーズとなるのが流れなのだろうけれど,なんで新しいシリーズにしたんだろう?出版社の都合?------------作品の語り手は歴史学者・喜多川の助手・安田だ。彼らがたまたま訪ねたバー〈シベール〉で,歴史愛好家・村木とバーテンダー・ミサキに出会う。村木・ミサキの珍説に,反感を覚えつつ説得される,というのが毎回の流れだが,それとは別にミサキと村木の関係,喜多川教授のミサキへの気持ちなど,シリーズをまたいだ謎がある。・・・これが謎なのかはひじょうに疑問だが。まあそんな弱いヒキを元に,鯨統一郎の新しいシリーズが始まったようだ。------------各編について簡単に感想を述べる。「ネアンデルタールに花束を」:ふと立ち寄ったバーで,助手の〈僕〉と歴学者の喜多川教授は,ネアンデルタール人とクロマニヨン人はどちらが狂暴だったかを議論しているバーテンダーと客がいるのに驚く。ネアンデルタール人が強く野蛮で,クロマニヨン人は弱く賢い,その常識に彼らは異論を唱えているのだが?・・・昔はネアンデルタール人からクロマニヨン人が進化したと言われ,次にはクロマニヨン人がネアンデルタール人を駆逐したと言われていた。最近は2つの種族が一定期間共存していた,という説が強い。バーテンダー・ミサトと,素人歴史家・村木は,クロマニヨン人がネアンデルタール人を駆逐したという説を唱える。でもそれって,単純にしばらく前の説では?「九町は遠すぎる~八百屋お七異聞」:八百屋お七は江戸時代のジャンルダルクだ,というのがミサトたちの説だった。〈僕〉と喜多川教授はそれを打ち消そうとするのだが?・・・江戸では放火は大罪だったので,お七が処刑されたのはおかしくないと思う。ただし江戸時代が太平だったというのが装飾された歴史だというのは同意だ。「マヤ--恐ろしい文明!」:卑弥呼の末裔がアマゾネスだ,というのがミサトたちの説だった。〈僕〉は(以下同文)・・・最初の派手な説と最後で説明している内容が違っていないか?モンゴロイド系がベーリング海峡を渡ることが出来たのは,氷で大陸がつながっていた時期だけだと思うしなあ。「誰がために銅鐸は鳴る」:日本で発掘される銅鐸は,何に使われたのか?ミサトが導き出した説とは?・・・この短編は派手な珍説で読者を惹きつけるのではなく,小さな情報を積み重ねて立証を進める。あまり説得力はないけれど,この展開は悪くないと思った。「論理の八艘飛び--源義経異譚」:源義経とされる人物は,頼朝の弟ではなくあるところから送り込まれたスパイだった?〈僕〉(以下同文)・・・一所懸命に義経の出自の怪しさを論じているが,そんなの歴史上の人々なんてほとんどそうだから。
2017.12.04
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姪が世話になったアメリカのホームステイ先に送るプレゼントを求めて,東京駅まで行った。-----------アメリカでのプレゼント交換は,クリスマスどころか昨年今年と日本でも話題となっている〈ブラックフライデー〉〈サイバーマンデー〉の今の時期の直後から始まる。何度も言っているのに,ホームステイ先へのプレゼント購入がもう1ヶ月ほど滞っている。少しずつ日本的かつ現代的なものは買っているのだけれど,中核となるスタジオジブリのお土産がまだだったからだ。-----------スタジオジブリのキャラを用いたグッズは様々な場所で売っている。けれども〈どんぐり共和国〉というオフィシャルショップは東京駅か池袋サンシャインにしかない。どちらも同じような距離感なのだけれど,その後の動きを考えて東京駅のショップに行くことにした。-----------東京駅のキャラクターストリートは甥姪がある程度の年令になってから出来たので,あまり関係ないと思っていたので,積極的に行くのは初めてなので,改札外なのか中なのかどうやって行くか迷ってしまった。その途中にいくつもの魅力的なショップがあって,ついつい立ち寄ってしまう。たしかにこうして集めることで,一つのアトラクションになっている。日本のキャラクター文化はたいしたもので,外国人観光客を含め,大量の人がここに引き寄せられていた。-----------ドンキでも久々に体験した,姉のすべてのコーナーをチェックする,という行動が再現されたが,さすがにショップとしては5つくらいだったので,なんとか体力は保つことが出来た。艱難辛苦汝を玉にす,である。
2017.12.03
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DCコミックスの映画シリーズの最新作を観た。〇ストーリースーパーマンが死んだ地球では,これまで封印されていた異世界からの侵略者が姿を見せるようになっていた。そうした脅威へ備えるために,バットマンのブルース・ウェインは超人的な能力を持つ人々を集め新しいチームを作ろうとする。当初は非協力的だった彼らも,侵略者の姿と自分たちへの被害が見えてきたことで足並みをそろえるようになる。発足した〈ジャスティス・リーグ〉は,侵略者・ステッペンウルフを阻止しようとするのだが?-----------楽しめた。例によって事前情報をほとんど入れずにおいたのだが,いろんな事情でなかなか観に行くことが出来ず,ようやく金曜日の映画の日に,仕事帰りに行くことが出来た行く前は,「〈DC映画ユニバース〉はどうしても急ぎ過ぎだから,今回の作品も期待できない」と思っていたが,観てみて驚いた。これは最近の〈マーベル映画ユニバース〉の映画より面白い。-----------この作品の良さは,超人たちの個性の豊かさだと思う。〈マーベル映画ユニバース〉の強みは,アベンジャーズの1人1人が実際に映画主演をしている格の高さだったことだ。けれども今思えば,それは個性ということではややつぶし合っていたように思える。『ジャスティス・リーグ』を構成するメンバーで,影から正義を守るバットマン,アマゾネスの子孫ワンダーウーマンは,これまで紹介されていた。ここに超速で動くフラッシュ,アトランティスの子孫アクアマン,そして機械化人間サイボーグが加わる。フラッシュの,スピードが速いだけで暴力が苦手,また他人との関係を築くのが下手な空気を読めないヤツ,という設定が,この作品を面白くしている。コミカルな部分の多いフラッシュが,各キャラクターをつなぎ,また作品を大きくアピールするポイントとなっている。このおかげで,大人で出来上がったキャラばかり,と言われていた〈DC映画ユニバース〉が,笑える小ネタをうまく散りばめたハードな作品として仕上がっている。驚いた。-----------各キャラクターのディテールを話し始めると終わらない。まずはキャラクター紹介が多くてダイジェスト版のようだった『スーサイド・スクワッド』での失敗を繰り返さずに,うまくまとめたのは偉いと感じた。バットマンは,不思議ともう1つカッコよくないが,これは意図的なんだと思う。ワンダーウーマンは,単独映画の良さをそのまま継承して,ひじょうに魅力的に描かれている。フラッシュについてはすでに書いた通りで,この映画の成功の元となっている。原作と大きく変更してワイルドマッチョとなったアクアマン。アベンジャーズで言うとハルクの立場だろうか?筋肉のかたまりだが,一方でアトランティスの王子でもある。サイボーグについてはちょっと位置づけが分からなかった。あらゆる機械と融合する・・・のでもないんだよね。結成された〈ジャスティス・リーグ〉は,中途半端とならずにきちんとフルメンバーで形成されている。-----------ワンダーウーマンの故郷でのアマゾネスたち,アクアマンの故郷でのアトランティアンたちの戦いは,まるで『ロード・オブ・ザ・リング』のようでもあった。『マイティ・ソー:バトルロワイヤル(ラグナロク)』がSFへとシフトしてしまった一方で,この作品は逆に古代からの宿縁を強調し,ファンタジー色を強めている。偶然なのだろうけれど,この対比も良かったと思う。-----------まだこの〈ユニバース〉も続くようだし,騙されたと思って劇場に足を運んでもらいたい。絶対損はしない内容となっている。オススメ出来る。
2017.12.02
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月村了衛の近未来警察小説〈機龍警察〉の第6作を読んだ。○ストーリー経産省が推進する次世代通信インフラの国家プロジェクトの関係者が次々に殺される。かつてから追い続けていた中国系企業の関係者も被害者となることで,警視庁の特捜部が事件に関与し,やがて捜査一課,二課と共に犯人を追い詰める。プロジェクトに関わる巨額の不審な資金の動きが明らかになり,それは官僚,政治家,反社会組織を含んだ捜査となる。連続殺人事件の様相を見せてきた事件の犯人〈狼眼殺手〉の正体とは?様々な組織と連携を試みた特捜部の動向は?そしてこの一連の事件を計画した黒幕とは?特捜部の部長・沖津が進退をかけた作戦が始まる。------------今,一番期待しているのが,月村了衛の〈機龍警察シリーズ〉だ。機動装甲武装の警察というSF作品ではもうありふれたテーマに,きっちりとした警察小説を合わせ,ひじょうにハードな世界観を築き上げている。多彩なバックグラウンドを持つ登場人物たちにも,きちんと血肉を持った出自を与えていて,多層的な世界観を構成している。------------これまでの4作が長編,1作が短編集となっていたので,通算では第6作目となる長編だ。長編の最初の3作は,〈機龍〉に搭乗する突入班の傭兵がメインキャラクターであり,4作目は捜査班の警部補がメインとなっていた。この第6作目では,特捜部の部長・沖津がメインとなる・・・と期待されたが,これまでとは少し変わった群像劇となっていた。誰が主人公を張っても不思議ではない特捜部だが,そろそろ本丸の沖津が語り部となる時期だと思っていたので残念だ。------------今回の事件の特徴は,特捜部が,捜査一課,二課,さらに公安と連携する捜査だ。もうこれは〈機龍警察〉ではなくてもいいんじゃないか,と思うほどの警察小説となっており,綿密な捜査の過程が語られる。あれほど鬼子として警察内部で忌み嫌われていた主人公たちの組織・特捜部が,他の組織と連携し,実績を上げるさまが描かれるだけで,シリーズファンとしては十分に報われた気がする。残念ながらある事情で各部署とのわだかまりが氷解とはならない。それでも何かは変わったような気がする。------------共同捜査となり,特捜部外部のシリーズキャラクターが全員登場することで,膨大な数の登場人物となっている。また誰か1人をフォーカスする,という作品ではないので,そうしたレベルで読もうとすると難しいかもしれない。今後,このシリーズはどうしても複数視点の,大きい枠組みの作品となっていくのだろう。------------3人の突入班メンバーで少しだけ大きく扱われているのが,元IRF〈死神〉のライザ・ガードナー警部だ。ライザのために技術班の鈴木警部補が傷付くことになってしまう。その流れはなかなか心を動かされたが,一方で「何でここでライザ編?」という疑問も湧いた。このシークエンスは別の作品で語っても良かったかもしれない。------------仮に機動装甲服〈機龍〉が活躍をしなくて,特定の主人公がいなくて,やはり〈機龍警察〉の作品観は変わらない。大したものだ。間違いなく次回作も期待だし,この作品もオススメだ。
2017.12.01
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