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打海文三の〈応化戦争シリーズ〉の第2作を読んだ。〇ストーリー内戦状態の日本で,孤児の少年兵・佐々木カイトに救われた双子の姉妹・月田桜子と椿子は,一時は彼の妹・弟と共に戦争のない都心のマンションから私立学校へと通っていた。けれどもカイトの庇護下にあることを潔しとしなかった2人は,娼婦,昏睡強盗,トラックドライバーをして自立した生活を送る。だがある事件がきっかけで彼女たちは政府軍から殺人罪で追われることになり,旧多摩センター駅を中心とした無法地帯〈九龍シティ〉に逃げ込む。そこで彼女は女性だけの新興グループ〈パンプキン・ガールズ〉を形成し,〈シティ〉の様々なグループと連携あるいは対立し,やがて佐々木カイトの支援も受け,一大勢力へと成長する。彼女たちが成し遂げたのは・・・-----------読みたかった〈応化戦争シリーズ〉なので,今回も満喫した。期待が大きかったので,公平に評価が出来ない可能性があるが,下巻も十分に楽しませてもらった。作品世界では,アジアの大国の内部分裂から,各国へと難民が流れ込み,それによる治安悪化を理由に自衛隊の一部が反乱を起こし,激しい戦闘の後に内戦状態となった日本を舞台にしている。「ハルビン・カフェ」でも描かれた社会情勢の緻密なシミュレーションにより,恐ろしいほど崩壊した日本が描かれている。このディストピアぶりはSFではさんざん描かれた世界だが,それをそうした要素を徹底的に除外し,あくまでも現実の延長として語っている所がこの作品の斬新なところだと思う。恐らく,押井守,月村了衛などは,この作品が到達した地平に嫉妬するのだろう。-----------下巻の紹介文をちらりと読んで,てっきり上巻で語られた物語を,佐々木カイトではなく月田姉妹の視点や立場で語り直す内容だと思っていた。そうしたら,基本は上巻からつながる時間軸で,きちんと続きになっていたことを知り嬉しかった。他の人も書いていたが,上巻の主人公・佐々木カイトは,物語を通じて成長し,軍隊での地位も上がり,どんどんと不自由な立場になってしまった。下巻の主人公は,上巻でも登場していた変わり種のキャラクター・月田姉妹だ。ひじょうに高い知性と正義感を持ちながら,一方で他人とはかけ離れた倫理観で動いていて,ある種の破滅的な人生観の人々だ。彼女たちはいくつもの幸運に恵まれ,自分たちと同じ考えを持つ少女たちを組織し,男が支配する内戦状態の社会秩序へ挑戦をする。-----------上巻の主人公・佐々木カイトは,妹と弟を生存させるために自分が少年兵となり,やがてその中で頭角を現す。彼ら,あるいは自分が仲間と認めた人々を庇護するために,自分の手を汚すことにためらいはないが,人々の数は増え続けるので,どうしても政治的な動きにしばられるようになる。下巻の主人公・月田姉妹は,カイトの庇護から抜け出し,自分たちのチカラで自分たちと仲間を守ることにする。カイトが連携していたのは,外国人傭兵部隊,虐げられた女性たちの武装勢力,とそれぞれいわゆる正当な理由がある団体だったが,月田姉妹が組織した〈パンプキン・ガールズ〉は,不良少女たちの自衛部隊でしかない。〈パンプキン・ガールズ〉は,既成の概念にとらわれず,〈九龍シティ〉に並列する複数の勢力の中で,一定の同盟を得て一気に状況を変えていく。彼女たちが,既成の朝鮮系,旧反乱軍,性的マイノリティのグループと連携できたことは奇跡的で,多分に作品上のトリックとなっている。上巻の後半は,カイトの立身出世が箇条書きのように書かれていると感じたが,この下巻も日常の描写は少なく,事実を歴史のように書き連ねているような部分があり,やや小説としての潤いが不足している。プロットありきで書いていて,いろんな不自然さは月田姉妹の魅力で片付けてしまっている気がした。-----------泣き虫のカイトが,家族や仲間のために立派な軍人に育っていくのが上巻の幸せであり,不幸でもあった。もともと常識に囚われていなかった月田姉妹は,成長も堕落もしていない。また元娼婦の部隊のように男性支配への反抗もしていない。ただ自分たちの正義と快楽のために,少女たちを集めて,解放をしただけだ。これが少女たちだから小説として成立するのだろう。常陸市など,ローカルで進んだ上巻と比べ,下巻は東京が舞台であり,そのためより日本全体への影響が表れてくることになっていた。その辺り,あくまでも混沌の中で自分の周辺の安定をなんとか確保しようとしていた上巻と比べ,下巻の主人公たちはよりフィクションっぽい。とは言え,上巻下巻が見事に対となって,〈応化戦争〉のある時期を切り取って作品と仕上がっていることはよく分かった。この後にどうなるのかは分からないが,立体的に〈応化〉の日本が描かれ続けることを期待する。個人的にはまだまだオススメだ。
2017.10.31
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せっかく台風が早めに通り過ぎて,雨は降らなかった月曜日なのに,目覚まし時計の設定を間違えて寝坊をしてしまった。幸いに10分で準備をして家を出た結果,通常の1本遅れの電車には乗ることが出来た。-----------その後,仕事は突発の依頼は少しあったもののそれもこなし,火曜日までかかるかと懸念したメインの仕事を,なんとか月曜日中に完了した。いつも通りのベルダッシュで帰りの地下鉄に乗った。でも乗っていたら,乗り換え先の地下鉄千代田線が事故で止まっているとのアナウンス。そこで乗換駅を変更して,渋谷まで出ることにした。ハロウィーン前の渋谷には絶対行かないと決心していたのに,なぜか来てしまった。乗り換えのガラス窓から見下ろす渋谷から井の頭線に乗ろうとしたが,すでに事故の振替え輸送の影響が出ていて,ホームが大混雑で電車までたどり着けない。1本ガマンで過ごして,次の各駅に乗ることが出来た。-----------この時点では下北沢を目指していたのだけれど,さらに車内アナウンスで,小田急線が限定的な運転であることが分かった。なので下北沢を過ごして,明大前まで出て京王線に乗り換えた。京王線で,昨日も姪たちと行った駅で下り,そこからバスで南下してなんとか帰った。ぐるぐると遠回りはしたけれど,その都度乗り継ぎが良かったので,いつもより30分ほどの遅れで帰宅は出来た。これが台風の中でなくて良かった。-----------不幸続きの月曜日。なんとなく不穏な印象の週の始まりだ。
2017.10.30
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SF映画の大傑作『ブレードランナー』の正統な続編を観た。〇ストーリー地球は荒廃し,人々は生活のために地面に貼り付くように生きていた。植民地〈オフワールド〉には成功者,あるいは開拓者が住み,人造人間・レプリカントを奴隷とすることで成り立っていた。レプリカントの中には逃亡し,地球へと密航し,人間になりすまして生きる者もいた。彼らを狩り,消去をする専門の警官はブレードランナーと呼ばれていた。そうして30年,新世代レプリカントの制御は進化し,LA警察のブレードランナー,ケイはレプリカントだった。彼は,農夫として生きていた旧式レプリカントのネクサス8型を消去する命令をこなすが,農場の地中にはあるものが埋まっていた。その謎はケイを,30年前にレプリカントと共に行方不明となったブレードランナー・デッカードの捜索へと導く。やがてケイは,人類とレプリカントの争いの焦点に立っていることに気付く。その果てでケイは・・・------------『ブレードランナー』は一番好きな映画だ。酸性雨が降りしきる都会,繁華街にあふれる電飾看板とアジアの言葉,遺伝子操作で製造された人造人間,植え付けられた記憶・・・こうした今ではSFの定番となっているモチーフを35年前に映像化してみせたのがこの作品だ。僕は幸いにしてこの作品を封切で観た。そのしばらく前に,雨の繁華街の上に浮かぶスピナーの写真を雑誌で観て,その写真一枚にハッとさせられていたが,作品は期待を何倍も上回る出来だった。この作品を何回も観たくて,レーザーディスク,VHS,DVD,Blue-Rayと,次々にソフトを買い,数え切れないほど観た。そしてここに来て,初代監督が製作に回った正統な続編の登場だ。これは初日から観に行かなければならない。------------映画が始まり,瞳が大写しになったカットに,ぐっと来た。これはオリジナル『ブレードランナー』にあったカットであり,『2049』がオリジナルの世界観をレスペクトする,というメッセージだと感じた。それから展開されるのは,ロス郊外の農場を舞台とした主人公・ブレードランナー,ケイの仕事ぶりが描かれる。ケイが使用する車両,レプリカントとの勝負,レプリカントであるかを確認する眼球走査,このどれをとってもオリジナルとのつながりが強く感じられて安心した。------------次に描かれるのは,ケイの日常だ。ある理由で同僚からも差別を受けており,また帰宅をしてもAI彼女とヴァーチャルな会話をして時間を過ごしている。この情けない男を,主演のライアン・ゴズリングは淡々と演じていて見事だ。ケイは1人でレトルトフードを食べているのだが,VRあるいはAR技術を利用してその上に映像が投影され,AI彼女が作ってくれた手料理と模して食べる。そしてベランダに出て,AI彼女と雨の中で抱擁をする。彼の日常のすべてが情けなく,乱暴に言えば痛い。演じているのがゴズリングだからいいけれど,他の普通の人が演じているのを見せられたらとてつもなく恥ずかしい映像だ。格好いい部分もあるけれど,どこか自信なさげな空気を持っている。見事なキャスティングだと思った。------------ケイが農場で見つけてしまったのは,レプリカントの運命を変える可能性を秘めた遺物だった。それを追う中で彼が訪ねるのは,サン・ディエゴの廃棄物処理地帯の中にある孤児院だ。これはどうやら倒壊した巨大パラボナアンテナ群を施設として再利用している。電子製品を解体して,一定の部品と素材を回収して働く何百人もの孤児の姿は恐ろしい。もっともこれがインドや中国の一部では現実となっていることを記憶しておくべきだろう。農場で見つけたある印と,孤児院を訪ねたことで,ケイは自分の植え付けられた記憶にある秘密が隠されている可能性を考え始める。------------捜査の結果,次にケイが向かうのはラス・ベガスだ。サン・ディエゴのシーンもインパクトがあったが,朽ちた巨像が並ぶ先にあるベガスはもう異世界だ。結局,その後にホテルの巨大な廃墟が舞台となるのだから,直接そこに乗り付けても良かったとも思うが,この巨像がケイを覆う世界の象徴なのだろう。ベガスでケイの運命は,大きな転換ポイントを迎える。ベガスのシーンでは,ある人物の登場,アクション,1950年代のスターのAR映像など,ファンサービス的な一瞬の息抜きがある。オリジナルから受け継がれたレトロなサイバーパンク趣味が,ここでも全開だ。------------ここからラストまで一気,だったらシンプルなのだが,ある事実の発覚がある。それを踏まえて,主人公・ケイが選択した「本当に人間らしい行為」については涙を抑えることが出来なかった。「私たちはどこから来たのか,私たちは何者なのか,私たちはどこに行くのか」という普遍的なテーマを突き付けたのが,原作者・フィリップ・K・ディックであり,オリジナルの『ブレードランナー』だった。続編の主人公・ケイ(K)は,再び同じテーマを真正面から扱っている。製作者,登場人物,俳優,映像,音楽,そして作品世界,全てにおいて正当な続編が提示されるとは!ありがとう!これはオススメだ。観よう!
2017.10.29
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姉が買っていた〈ドッチーモ〉というサンダルがあり,これは前後どちらかも履けるサンダルというアイディア商品だ。---------当初は敬遠していて,別のサンダルを利用していた僕だが,新聞を入れたり,庭の手入れをしたり,水遣りをしたり,という毎日の中で,この商品のが便利なのはきちんと体感し,結局,こちらだけを家族で利用するという状態となっていた。とは言え,それが5年くらい続き,さすがにサンダルの裏が少し緩んできて,買い替え時期が来た。じゃあ,ということでネットで探したのが半年ほど前,なんと商品はディスコンとなっていて,後継の〈ドッチーモ2〉だけがネット商店に掲載されていた。で,オーダーを入れようとしたら,「こちらは長期未納商品なので,注文出来ません」といったメッセージが出てくる。それを複数のショップで見て,しばらく待つことを決心した。---------それが9月になり,ショップから「入荷できました」というメッセージが届いた。〈ドッチーモ〉は前後はどちらからでもつま先を入れることが出来たが,左右は選ぶ必要があった。今回の〈ドッチーモ2〉は,前後だけでなく,左右も対称のようで,もうとにかく何も考えずに足を突っ込めばよい,というお気楽さが体感できるらしい。必然的に後ろ向きとなった際に踏みつける足の甲を支えるベルトが,前より”腰がない”のが少し不安だけれど,これはとにかく使ってみるしかない。なかなか時間がかかったけど,楽しみだ。
2017.10.28
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僕,姉,姪とそれぞれ旅行から帰ってきて,家にはお土産のお菓子があふれている。まずは僕が先々週に行った甲府土産の〈ぶどうラスク〉,そして今回行った仙台・岩井洋菓子店の焼き菓子〈ハイデルベルグ〉と,石巻・〈石ノ森萬画館〉のキャラクター飴がある。そこに京都に行った姪の,緑寿庵清水の〈ハロウィーン金平糖〉,若菜屋のケーキ,そして手作りの和菓子がある。みんな,それほど舌が肥えているというほどではないけれど,味音痴ではないので,たぶんお土産やプレゼントにそれほど外れがない。しばらく豊かなティータイムが過ごせそうだ。
2017.10.28
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北森鴻の冒険小説を読んだ。〇ストーリー明治政府は国家宗教として神道を選択し,廃仏毀釈を推し進めたため,仏教は凋落しつつあった。日本の仏教を復興させるためには,鎖国を続けている西蔵(チベット)の聖地・ラサからお経の原典を譲り受け,ブッダの思想に立ち戻る必要がある。数名の若者がラサを目指すが,経路である中国清国はアヘン戦争で敗れ国内が乱れ,西欧の諜報員が跋扈していた。若者たちの情熱は,西蔵を中央アジアの重要な足がかりと考えている西欧,ロシア,そして日本の思惑に巻き込まれて行く。若者の1人・能海寛(のうみゆたか)の運命は?-----------北森鴻と言えば上品な連作ミステリー,美術ミステリー,そして歴史伝奇ミステリーがイメージされる。今回の作品のような歴史小説は珍しく,他には「蜻蛉始末」などが思い当たるくらいだ。主人公・能海寛は,中国僧に扮し中国を抜け,ラマ僧に扮してチベットを突破しようとする。彼の周辺には,宣教師を先鋒として植民地支配を進めようとする西欧,彼を密使として利用しようとする日本国家,中国の不幸な人々が現れ,彼の旅を時に助け,時に阻害する。揚子江をさかのぼる旅は長く,重慶,成都の先は,過酷な登山が続く。峨眉山を越え,ダルツェンド,そしてその先がチベットの入り口だ。吹雪,猛獣,山賊,こうした旅の過程はまさに冒険小説だ。実在の僧・能海寛を主人公にした,シミュレーション的な歴史冒険小説だ。-----------ストーリーだけを追えば,井上靖とかが書いている固めの歴史小説かと思えるが,北森鴻の流麗な筆力のおかげで,読み始めるとあっという間だ。能海寛の真っ直ぐなキャラクターも魅力的だが,彼を支援する案内人の楊用(ヤンヨウ),山岳民族の義烏(イーウー)らもそれぞれ個性的で面白い。三蔵法師の旅と考えると,西欧や日本の諜報員やその手下が妖怪に相当するのだと思う。能海自身は素直な気持ちで旅を進めているのだが,当時の政治的な状況に引っ張られ,どうしても国際政治の闘争のコマとして扱われてしまう。それを理解しつつも,巻き込まれざるを得ない彼らが哀れだ。-----------この作品には残念ながら,いくつかの欠点がある。まずは,前半に登場したある人物が,後半で超人的な能力を持つ設定で再登場しており,それが不自然であること。また英国の商社が二面性があることは描かれているのだが,もう1つ最後まで何を目的としているかはっきりしないこと。そして北森鴻のファンにとっては,ある設定が既に他の作品で語られていることと,それがあまりにも荒唐無稽であることだ。-----------この作品や「蜻蛉始末」が,晩年の北森鴻が目指した世界観なんだと思う。書かれることがなかった多くの作品を思い,悲しい気持ちになる。
2017.10.27
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僕自身は2泊2日という旅程で東北旅行に行ってきた。それから1日遅れて,姪は京都奈良への修学旅行だ。また姉は京都への墓参りに行った。なので僕が帰って来ても,彼女たちはまだ旅行中だ。もっともウチには,他にも社会人の甥と姪がいるので,シェアハウス的に人のぬくもりは保たれている。昨日は残り物を調理して1人で食べたが,今日は海鮮焼きそばを作って姪と食べた。ホントは塩味が良かったけれど,買い置きがソース味だったので,それでガマン。でも悪くなかった。やはり姉がいないと,中核がなくて華やかさが欠けている印象になってしまう我が家だが,基本的な家事は僕も出来るので,数日は平気だ。でも,ちょっと寂しいので,何度も帰宅を確認してしまう。
2017.10.26
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石巻から仙台に友人と落ち合うために戻った。幸いにして仙台市街はある程度分かるので,自分で夜まで時間をつぶした。-----------友人に連れて行かれたのは,仙台の繁華街・国分町の奥にある居酒屋〈金市朗〉だ。繁華街からさらに一歩奥に入って,スナックやクラブの空間になっていたが,そうしたビルの2階に〈金市朗〉はあった。一応予約はして行ったが,2人だったのでカウンターに案内された。奥の座敷では団体がにぎやかに過ごしていたので,むしろこっちの方がありがたい。-----------こうした店では珍しいと思うのだが,飲み放題だけのセットがあるので,それをオーダー。あとは名物の,金華サバ焼き,メヒカリから揚げ,などを頼む。残念ながらカキやホヤはなかった。それでもさすが東北,と思わせる逸品をいくつもいただいた。いつもはビール三昧なのだけれど,泊まりということで日本酒・浦霞に切り替えて杯を重ねたので,細かく何をオーダーしたのか覚えていない。けれども,何を頼んでも美味しかったのは間違いない。仙台のちょっと贅沢な空間を堪能した。-----------気の合う友人と,時間を気にしないで飲む。こんな贅沢は他にないと思っている。楽しかった。
2017.10.25
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今年の東北旅行は,石巻と仙台に行ってきた。-----------行きは高速バスの夜行便を利用した。深夜に東京を出発して,朝7時前に仙台駅近くに着いた。そこからJR仙石線に乗り,のんびりと石巻を目指す。1時間かかるので,出勤や通学の人々で段々と混んできたが,どこかのんびりしていた。石巻では駅の〈マンガッタン・カフェ〉で朝食をとり,それから自転車で石巻漁港の裏手にある敷地を目指した。ここは6年前,まだまだ大混乱をしている最中に来た場所だ。あの風景から,どれだけ日常に戻ったのか,それをテーマにほぼ毎年訪れている。全て流されていた敷地がどうなっているかというと,今年も何もない更地だった。でも駅前の商店街は元気だったし,漁港の裏の道の舗装もゆっくりとだけど進んでいたし,復興商店街だったところは物産市になっていたし,石巻は大丈夫なんだと思う。-----------何度か訪れた〈まるか食堂〉に行き,刺身とご飯にした。残念ながら10時頃と早過ぎたために,ご飯と海鮮味噌汁のセットは無かったので,さとうのごはんをレンジで温めてもらい,ヒラメとツブガイの刺身を載せて食べた。食べていたら,白魚のかき揚げを「出来立てだよ」とサービスしてくれた。刺身以外も漬物と煮込みを食べていたが,このかき揚げがサクッとしていて一番美味しかった。-----------少し戻って北上川の中瀬にある〈石ノ森萬画館〉に行った。いつもながらここの案内係の制服は『サイボーグ009』のユニフォームと同じなので,めちゃくちゃカワイイ。新しい映像作品があったので,その上映会を観て,その後は館内をゆったりと観た。平日だから空いていたのに,後から老人会みたいな団体が来て興覚めだった。明らかに興味がないし,ツアーの時間つぶしに来るのならばやめればいいのにとさえ思ってしまった。お土産は,石ノ森キャラクター金太郎飴とか,仮面ライダークッキーとか,いろいろあり侮れない品揃えだった。-----------駅前に自転車を返して,石巻を後にした。去年は来れなくて残念だったが,2年なりの復興を見ることが出来てうれしい気持ちになった。
2017.10.24
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「名探偵の掟」に続く,東野圭吾の〈名探偵・天下一シリーズ〉を読んだ。〇ストーリー作家の〈私〉は,次回作の調査のために図書館を訪れ,そこから不思議な迷路へと迷い込み,出たところは知らない街・ボレロだった。そこで〈私〉は,名探偵・天下一と呼ばれ,街を開拓した人物の記念館から失われた遺物を探すように市長に依頼される。だが〈私〉が出向く先々で,この街では一度も起きたことのない種類の殺人事件が起きる。これは遺物の呪いである,という噂が流れ・・・------------奇想で始まり名探偵が真犯人のトリックを看破して終わる,という流れとなるのが伝統的な〈本格ミステリー〉だ。前作「名探偵の掟」は,コミカルタッチな〈本格ミステリー〉のパロディだったが,今作はよりシリアスな雰囲気となっている。前作では警部・大河原が案内役を演じ,ポンコツ探偵・天下一のサポートを行い,つじつま合わせをしていたが,今作では天下一は探偵としてしっかりと3つの事件を解決してみせる。残念ながら大河原警部はほんの脇役扱いで,登場シーンも少ない。メタ的な作品世界も共通しているのだが,前作では〈読者〉を意識した〈本格ミステリー〉のメタパロディだが,今作では〈作者〉が〈本格ミステリー〉の中に送り込まれる,という構成なので,これまた異なる。同じ登場人物を使った〈本格ミステリー〉の変化球なのだが,全く別の作品と言ってもよいと思う。------------ボレロ市では,名探偵・天下一になる〈私〉が,「天空の蜂」という作品を書いたと述べているので,東野圭吾本人のことだ。本人が作品に登場して見せるのは,多くのパロディあるいはユーモア作品で使われているので,そこには驚きはない。ただ,巻末に作品の舞台・ボレロ市に隠された謎が解けた時に,なるほど!そういう意味か!と思わせられる。東野圭吾の〈本格ミステリー〉への愛情と惜別の作品となっていて興味深い。・・・ただしミステリーファン以外は,楽しめないかも知れない。------------〈名探偵・天下一シリーズ〉の第3作が計画されていたという話も聞くし,また「天空の蜂」の続編の資料集めをしていたという逸話も気になる。どこまでがリアルで,どこまでがフィクションなのか分からない。それもこの作品の面白いところだろう。
2017.10.23
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選挙に行くための家を出た。台風21号が迫っているので,朝から強い雨だ。なので長靴,アノラックの上下の完全武装に傘をさして出かけた。途中ふとスマホがないんじゃないかと気になったけれど,たぶん家に置いてきたんだろうと判断した。駅近くの投票所へ行き,図書館で本を返し,そして買い物をして帰宅した。でも,無かった。がーん。-----------会社の携帯を利用して,なんどかスマホにかけてみたけれど反応なし。せっかくの雨対策の格好なので,そのまま出直した。言うまでもないが,いまどきのスマホだと,買い物や旅行の申し込みもこれで行うし,友人とのSNSもこれで行っている。どうしよう?,困ったけど,会社の携帯でしばらくなんとかなるか?とかいろいろ考えながら歩いていった。-----------駅前の交番にたどり着き申請を書いた。と,そこに自分のスマホから携帯に着信。交番の巡査に促されて,返信してみると,郵便局からだ。そしてなぜかそこにスマホがとどいているとのこと。なぜ郵便局なのかは分からないけれど,あった!あった!交番でお礼を言って,駅から家を通り過ぎて,郵便局まで行ってスマホを回収。家に帰ったら,2時間が経っていた。でもよかった。
2017.10.22
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10月から始まったドラマをいくつか観た。『重要参考人探偵』:モデルのケイは,なぜか幼い頃から死体の第一発見者になる。仕事をしていても殺人事件に巻き込まれるため,同じ事務所の同僚モデルのイツキとシモンに助けられて事件を解決する。やがてある謎が?・・・ジャニーズの玉森裕太が主人公・ケイを演じるコメディ・ミステリーだ。同僚のイツキをやはりジャニーズの小山慶一郎を,シモンを古川雄輝を演じている。原作を知らないが,最近のドラマなのできっとイメージを壊さないように配慮して製作しているのだろう。第1話を観た限りでは,ひじょうにライトで楽しめる作品に仕上がっているようだ。ちょっとゲストの脇役たちの演技が過剰のような気がするが。-----------『刑事ゆがみ』:所轄の刑事・弓神(ゆがみ)は,違法捜査もいとわないで,犯人を追い詰める型破りな警官だ。彼と相棒を組まされるのは,新米刑事の羽生だ。真面目な羽生は,弓神の捜査方法に振り回されっぱなしだが,2人は確実に犯人に迫る。・・・弓神を浅野忠信が演じ,羽生を神木隆之介が演じる。2人とも演技派であるので,このコンビだけでワクワクしていたが,案の定,なかなかブラックな作品に仕上がっていた。第1話を観る限りでは,過去がありひねくれているが抜群の推理力を持っている弓神と,素直な新人の羽生という位置付けに見えた。だが,ドラマ紹介を読むと,羽生のキャラクターは腹黒な面があると書かれている。神木隆之介ならばそれをきちんと演じてみせそうだが,第1話にそうした要素はなかったなあ。登場人物の名前が手抜きっぽい変な名前なのは気になるが,楽しみなドラマだ。観続けることにする。-----------『Border 衝動 検視官・比嘉ミカ』:法医学の教授・浅川の研究室で助手を務める比嘉ミカは,自分の推論を浅川に利用されることが我慢できず,独り立ちを望んでいた。そんな状況の中,女子中学生の連続殺人事件が起きる。浅川はテレビ取材に向けて犯人のプロファイリングを述べるが,比嘉ミカと所轄の刑事・中澤は納得が出来ず,独自の捜査を始める。それはさらなる惨劇へとつながり。・・・3年前に小栗旬主演で放映された衝撃的なテレビシリーズのスピンオフだ。今では売れっ子女優の仲間入りをした波留が演じた検視官・比嘉ミカが主人公となっている。金城一紀のドラマでは,日本ドラマには珍しいプロフェッショナルな女性が登場する。『SP』で真木よう子が演じた女性SP・笹本絵里,『Crisis』で新木優子が演じた天才ハッカー・大山玲,そして『Border』で波留が演じた検視官・比嘉ミカだ。どの女性も美しく能力が高く孤高な性格だ。このドラマは,そうした1人・比嘉ミカのスピンオフという男性ファンにとっては大サービスの作品となっている。とは言え,さすがは金城一紀,ひじょうにビターな味わいだ。そしてどうやら『Border』の正統続編が単発ドラマとして放映されるらしい。待ち遠しくてたまらない。-----------今シーズンは他にもドラマを観ている。また改めて感想を書くことにする。
2017.10.21
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打海文三の〈応化戦争シリーズ〉の第1作を読んだ。〇ストーリー日本は内戦状態に陥り,政府軍,反乱軍,地方軍閥が相争う状況となった。父も母も順番に失った7才の佐々木カイトは,4才の妹・メグと2才の弟・リュウを育てるために町で働く。13才となったカイトは,地方軍閥の徴用に拉致され,孤児の少年兵になる。カイトは兵士としての適応を見せ,軍隊で知り合った外人傭兵隊のイリイチ,町で知り合っていたロシアマフィアのファンの手助けもあり,孤児部隊を掌握するまでの成長を見せる。そして・・・-----------これが読みたかった。打海文三の作品を読み続けてきたのには2つ理由がある。1つには和製ハードボイルドをジャンルとして読破するため,そしてもう1つが〈応化戦争シリーズ〉を読むためだ。この作品は本屋の店頭で見かけて読もうと思っていたのに,いつの間にか姿が消えてしまった。タイトルも作者名もうろ覚えだったので,未消化な気分のままかと思っていたが,ちょっとしたきっかけで作者が打海文三であることを知り,その作品を発表順に読むことにした。期待度がひじょうに高かったので,逆にたどり着くためにきっちりと時間をかけた。そして今は満足している。-----------物語は近未来,あるいは別の世界での日本を舞台にしている。それもまた常陸,土浦,水戸と狭い範囲で推移しているので,おそろしくリアリティがある。この日本は内戦状態にあり,皇族も政権の主導者たちも外国に避難してしまっている。結果は我々が日常的に報道で接しているような,複数の勢力が相争い,状況を利用した裏ビジネスが潤い,女や子供がモノとして搾取される世界だ。僕が読んできた中では,村上龍の「五分後の世界」や月村了衛の「機龍警察」が,こうした状態に近い日本を描いてきた。映像作品では「攻殻機動隊」が有名だ。この手の作品のおかげで,遠い世界で起きている不幸な状況が,一気に身近に感じられる。それで何かが解決できるワケではないが,少なくともマスコミや日常生活で散々に非難されている我々の社会が,どれだけ幸せな状態にあるかは自覚することが出来る。-----------主人公は佐々木カイトだ。妹と弟を育てるために,教育を受けず,そしてなるべく余計なことを考えずに育った。そのため,彼のセリフはほとんど平仮名だけで表現されている。本来は妹と弟思いの泣き虫の少年なのだが,不思議な素直さがあり,また出会った人にも恵まれ,なんとか13才まで生き延びる。そこで拉致され,少年兵として訓練を受ける。ここでもカイトは素直に環境に適応し,本来は捨て駒として利用される孤児部隊の中で生き延び,そして生存確率を高めるために,資金源を得て,部隊を強化していく。-----------この作品の上巻は,純真だった少年が,人殺しのテクニックを覚え,交通料として金を取るようになり,マフィアと取引をする,という物語は,堕落と表現しても良いかも知れない。彼が目指しているのは,妹と弟,そして何人かの知人に安全な生活を与えること,仲間の孤児部隊をなるべく生存させること,そして10年前に拉致された母親の消息を辿ることだ。カイトは目的を達成するために,その都度に最適と思われる手段を選ぶ。彼の中には善悪の基準はないので,別の視点から語れば,カイトという軍閥指導者の立身出世物語でしかにかもしれない。けれども,彼の行動を背景として,使い捨てだったはずの孤児たちが正規軍として認められるようになる。またどうやら内戦状態を利用して私腹を肥やしていた将軍たちを排除し,また搾取される一方だった女性たちの解放運動が進む,という状況ももたらしているようだ。〈応化戦争シリーズ〉がどのような展開となっていくのかは分からないが,上巻では社会が少しだけ良くなっていく様子が見えて救いがあった。ひじょうに刺激が強い作品で,万人にはオススメできないが,個人的にはとても楽しみだ。
2017.10.20
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季節外れの台風21号が日本に接近中だ。今年はここ数年の猛暑から夏に入りつつも,なぜか8月から雨が多くなり,そのままあまりスッキリしないまま9月と10月を迎えている。今週もほとんど雨,そしてこの週末にはなんと台風が日本を縦断するというオマケ付き状態の悪天候だ。---------実は恒例の東北旅行を計画している。計画では月曜日の夜行バスで行き,火曜日の早朝について,一泊して1日半滞在して帰ってくるという予定だ。現状では,台風の到来と重なっていて,とくに火曜日がダメそうだ。ついてないな~
2017.10.19
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辻村深月のデビュー時の作風を思い出させる長編を読んだ。〇ストーリー中学校に進み,一方的にある同級生から目の敵にされたこころ。彼女は学校で居場所をなくし,家にいても脅かされ,どこにも行けなくなる。そんなこころの部屋の鏡から行けるようになったのは,なぞの施設〈鏡の孤城〉だった。似たような境遇の6人の仲間と共に,こころはあらゆる願いが叶うという鍵を探すことになる。7人は徐々に心を通わせ,ある計画をするのだが,それは失敗をきたす。彼らはそれを乗り越えることが出来るのか?そしてこの〈孤城〉の謎とは?------------まずは手に取って,その美しい装幀に感心した。落ち着いた配色,豪華にメタリックで表現されたタイトル。そして〈鏡をのぞき込む少女〉〈鏡からこちらを除いている狼仮面の少女〉から,幻想的な内容であることが推測される。辻村深月は,以前から”少し背伸び”をして作品を書く人だった。直木賞受賞作家となって以降は,養子問題,歴史小説など,またまた”背伸び”をしていて書いていたが,正直頑張っているわりには魅力が薄いという印象だった。この作品は,本来この人が得意としている,若者の微妙な心の動きを軸としたミステリーだ。ファンとしては,原点回帰,大歓迎だ。------------7人の若者たちが〈鏡の孤城〉に呼び寄せられ,〈希望を叶える鍵〉の捜索を指示される。まずは彼ら自身が,意図的に自分の素性を明かさないため,この状況の裏にある人間関係が見えてこない。後半,彼らをつなぐ関係が見えてきても,ある謎があり,彼らは〈鏡の孤城〉の外で会うことは出来ない。さらに最後に,そもそも〈鏡の孤城〉とは何だったのか,という謎。順番に少しずつ,提示した謎解きを見せていく構成力は,デビュー作には存在しなかったものだ。少年少女へのいじめや虐待を描く作品なので,どうしても過激なシーンも登場するが,直接的な描写は最低限に留め,登場人物に寄り添い,物語の本筋を大事にする流れは上品だと思った。登場人物は7人いるのだが,彼らの過去の全てや,〈鏡の孤城〉にいない時の日常はあまり描かれない。それでも物語の謎解きは,彼らの体験や気持ちと密接に関わっている。主人公・こころの視点を中心として,〈鏡の孤城〉にいる気持ちになって,作品世界に入ることが出来ると思う。------------こころ,あるいは他の登場人物が語る人間関係のトラブルを,「気にし過ぎだ大したことない」「時間が解決する」「そっちがちょっと我慢すればよい」と片付けるのは簡単だ。大人になってみて驚くのは,社会人になってもイジメを行う人がいることだ。報道で,自殺,パワハラ,セクハラの記事が絶えないのはそれが理由だろう。ただ,大人になると心の武装も重厚になるので,そこそこの圧力を与えられても平気になることが多い。ただそれは年令を重ねた結果なので,この作品の登場人物たちのように中学生という幼年と青年の中間というのは,一番心も身体も変化があり,もろさと残酷さが露呈する期間だと思う。この作品を読んで,改めて自分の中学生時代のつらさと恥ずかしさをいろいろと思い出した。明るい思い出だけで,この時代を乗り切る人もいるのだろうけれど,2度と触れたくない時代だと思っている人もいるし,きっとつまづいてしまう人もいるに違いない。この作品は,そうした人への優しさと応援の気持ちに満ちている。------------登場人物の個別のエピソードについても語りたいけれども,本来は一人ひとりの生い立ちもミステリー要素の1つなので,残念ながら避けておくことにする。ただ,主人公・こころの家庭が,落ち着いていて常識がある場所であったのは,本当に良かったと思う。------------と,ここまでさんざん褒めてきたが,ラストについてはちょっと甘すぎないかと思った。まるで少女マンガのような理想的な未来が見えている終わり方なんだけど,主人公へのご褒美としては豪華すぎないかな?まあ,号泣できたからいいか・・・
2017.10.18
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東野圭吾作品で,最も人気がないという評判の初期の短編集を読んだ。〇ストーリー〈私〉と尚美はハワイに降り立った。再婚である〈私〉は,披露宴をしなかったが,新婚旅行は何度か来ていたハワイ選んだ。だが誰もいなくなった時,〈私〉は尚美に問いただす。前妻との間に出来た娘・宏子を殺したのは,お前なのか?と。----------短編集は読みやすいし,長編にはないヒネリがあり,個人的には嫌いじゃない。日本では短編の位置付けは低く,欧米では逆に高いと言われてきたが,最近はそうでもないと思う。ただし東野圭吾の場合,どうしても真面目な作風から逃れられない。そのため本来はいろいろなチャレンジを出来るはずの短編集でも,もう1つ枠組みから飛び出すことが出来ていない気がする。----------東野圭吾も有栖川有栖のように,読者が予想をしない流れを時々混ぜる,ということをしてもいいと思う。同じ大阪出身なのに,どうしても作風は違う。まあ,東野圭吾の真面目さは,今や作風なので仕方がないか?----------各編について簡単に感想を述べる。「寝ていた女」:〈俺〉は複数の同僚に,マンションを貸して,車で1晩を過ごして小銭を稼いでいた。ある朝,部屋に戻ると,まだ女が寝ていた。女は誰と寝たのかは覚えておらず,その相手を探せと迫る。〈俺〉は同僚たちに尋ねて回るが,誰も該当者はいないと言う。そして・・・ちょっとラストのヒネリが急過ぎてついていけない。もうちょっとだけ伏線があっても良かった。「もう一度コールをしてくれ」:友人の誘いで強盗事件を犯してしまう芹沢。彼が逃げ込んだ所は,かつて芹沢の運命を変えた男の家だった。・・・初期の東野圭吾のスタイルそのままの短編だ。けれども主人公に同情できる余地が少ないので,読者側としては困る。「死んだら働けない」:大手自動車部品メーカーの工場で,生産設備管理の担当者が死体で発見された。担当者はロボットの導入のために工場に出向いていたはずだったのだが?・・・ホワイトカラーとブルーカラーを対比させたいのか,発注者と請負者を対比させたいのか,時間外労働を批判したいのか,どうにも立ち位置がはっきりしない短編だ。警察の捜査力は都合よく下げられているし。「甘いはずなのに」:〈私〉は尚美と新婚旅行に行く。再婚故に披露宴がないものの,ハワイへの旅行が計画された。だが,〈私〉には誰にも明かしていない目的があった。前妻との間に出来た娘・宏子を殺した犯人を見つける,という目的が・・・さすがに後半のヒネリが唐突過ぎて戸惑ってしまう。まあこの作品の中では,ミステリーとしてはまともだったが。「灯台にて」:幼馴染の祐介は,〈僕〉を子分として扱うことで自分の立場を保ってきた。幼稚園から大学まで進学した今,〈僕〉は祐介から離れ,自分の成長のために東北の旅行を計画する。だが〈僕〉が岬の灯台で出会った男とは?そしてそこから起きた事件とは?・・・ちょっと回りくどかったけれど,個人的には好きな短編だ。「結婚報告」:金沢に戻って就職したはずの典子から,結婚報告の手紙が届いた。だがそれに同封されていたカップルの写真の女性は典子ではなかった。OLの智美はその謎を解くために金沢へと向かう。そして?・・・ミステリー仕立てなのだが,いろいろと軽いノリでつじつま合わせをしていて,あちこち破綻をしている気がした。「コスタリカの雨は冷たい」:夫婦でコスタリカに行った〈僕〉は,バードウォッチングに行ってすぐに強盗に遭う。・・・なんの面白みもヒネリもない短編。何を目指したのだろう?これではダメ。
2017.10.17
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ちょっとそこの異世界を描く作家・三崎亜記の連作短編集を読んだ。〇ストーリー〈チェーン・ピープル〉は〈チェーン・ストア〉のように,会員に対し理想的な〈平田昌三〉という人物像を提供する。大人しいけれども,しっかりしている〈平田昌三〉は全国に300人おり,定期的に「らしさ」について,見直しを行う。そんな中で・・・-----------三崎亜記という作家がどれくらい認知されているかどうかは知らないが,僕は出版された作品を全部読んでいる。純ブンガクとファンタジーの中間という微妙な位置でデビューして,いまだに位置はそのままという印象だ。もっとメジャーになってくれれば,と思った時期もあったが,今ではそのブレない立ち位置が貴重だと思うようになっている。-----------今回の作品は,6人の人物に関するレポートという体裁をとっている。架空レポートというフォーマットは「玉磨き」に少し似ている。だがあちらが描いていた対象は(仮想的な)伝統技能だったのに対し,今回の対象は現代社会の中で取り残されている(仮想的な)人々ということで,やや作品世界の空気が異なっていた。今回の作品の特徴は,〈仮想的〉な状況を,現代の一般的なマスコミのように分析して見せるというものだ。そのため,雑誌や新聞記事のレポート風の表現の一環として,最近現実の社会で起きた事件に呼応したことが語られていて,現実と〈仮想〉の境界をあいまいにするにはひじょうに役立っていた。一方で,三崎亜記作品の魅力として,ファンタジックな世界にあっても,結局人間は孤独に生きていくしかない,という諦念がある。現実のレポートに寄せた作風の影響で,どうしても文章が社会派っぽくなっていて,そこから外れた人々を淡々と描写するあの空気は失われていて残念だった。この連作短編集を書いているという設定の,レポーターの視点がやや上からなのが,これまでの作風と合っていないのかも知れない。もっと良い作品が書けると思う。-----------各編について,簡単に感想を述べる。「正義の味方」:定期的に現れて,地上に災害をもたらし,去っていく巨大な〈敵性生物〉。それを倒してくれる〈彼〉が登場し,人々は戸惑いつつも〈彼〉を応援し始める。だが〈敵〉も〈彼〉も当たり前となった時,〈彼〉の戦い方は激しく批判されるようになった。そして・・・実に残念な短編で,もし映画『シン・ゴジラ』が公開される前だったら,もっとこの視点が輝いて見えたに違いない。人物レポートと言いつつ,いきなりウル〇ラマンを対象にしているのには驚いた。〈彼〉の立像がいたずらされて,銀色と赤に塗られる,という流れには,特撮ファンとしてはじーんと来た。「似叙伝」:〈私〉が会いに行った高仲は,依頼者の要望にあったフィクショナルな自叙伝,つまり〈似叙伝〉を出版する事務所を経営していた。だが彼の依頼者が〈似叙伝〉の内容でマスコミにもてはやされたことにより,高仲の仕事までが批判されるようになってしまう。だが・・・三崎亜記の作品にしては珍しく,悪役キャラの登場だ。〈自叙伝〉の意義だけでなく,そもそも自分が認識している半生の記憶についてまでも,その確かさをついてくる。ストーリーはなかなかひねってあって楽しめた。「チェーン・ピープル」:〈平田昌三〉という大人しいけれども,しっかりした人物に成り切ってみせるのが〈チェーン・ピープル〉たち,300人だ。彼らは全国に点在し,24時間〈平田昌三〉を演じ続ける。だが,その中にも様々な人がいて・・・表題作だけに,ひじょうに普遍的なテーマを語っていると思った。果たして僕らの言動は,本当の僕らのモノだろうか?〈平田昌三〉を批判するのは簡単だが,社会に合わせて行動している僕らは,自分の素の部分を何パーセントくらい,表に出しているのだろうか?いろいろ考えてしまった。「ナナツコク」:〈私〉が出会った女性は,幼少の頃より母親の手によって,口伝により〈ナナツコク〉の地図と歴史を叩き込まれていた。だが彼女の元に,〈ナナツコク〉の国難が伝えられ,そしてそこからの亡命者を語る男が現れる。彼女が取った行動は?・・・この作品の1編であることは間違いないのだが,よりいつもの三崎亜記作品の空気に近くて,少しホッとした。「ぬまっチ」:沼取市の非公認ゆるキャラ〈ぬまっチ〉は,毒舌を吐く,着ぐるみを着ない中年男性だった。だが,その裏では?・・・完全に〈ふなっしー〉を意識した設定となっている。ただし,〈ぬまっチ〉の見た目はやる気のない中年男性ということなので,いくら日本でもゆるキャラの人気と,お笑い芸人の人気は別物だと思う。最後の陰謀論は,面白いけれど,短編集の空気と合っていない気がした。「応援」:鮮烈なデビューを飾った若手俳優・奥村達也。だが彼のドラマもCMも,大きな反響となり過ぎる。そのため,ついには奥村は俳優を引退することになり,後輩を育成するためにマネージャーとなる。だが,そこにも・・・ネットによる監視や炎上の恐ろしさを語っているが,ちょっと今さら感があるのは否めない。
2017.10.16
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先週中と昨日はなんとかもっていた天気だが,雲そのものは軽くて空は明るいものの,朝から雨の一日だった。朝食後,いつものように買い出しにスーパーに行った。上下ともヤッケと言うか,カッパと言うか,防水仕様の服を着て,自転車で向かった。その後,寝転んでポチポチとネットを見ていたが,遅くなるまでにと図書館に出かけた。またまたヤッケを着込んで,今度は徒歩だった。行きがけに駅前に寄って・・・せっかく寄ったのに買い物するものは忘れてしまってけれど。それ以外は2週間後の旅行の宿や交通を調べて予約をしていた。今日はいいけれど,当日は天気が良いといい。
2017.10.15
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恒例の友人たちとのお出かけの一環で,山梨に行った。甲府を抜けて諏訪方面には,ひところは頻繁に行っていたが,久々に再訪することとなった。あまり遠出をしないし,公共交通機関ベースで考える僕らなので,鉄道でのんびりと向かった。最寄りの駅の名前は,勝沼ぶどう郷駅だ。山形県のさくらんぼ東根駅,秋田県の井川さくら駅と並び,〈特産物〉+〈地名〉で命名された駅だそうだ。-----------駅のホームからも〈ぶどうの丘〉は見える。けれども,そもそも駅が山の傾斜面にあり,〈ぶどうの丘〉は一度それを下ったのちに,また丘を回りながら登る先になる。心証的には20分ほどかかる道のりだった。施設には,宿泊,入浴,フルーツ狩り,バーベキュー,カーブ,ショップといろいろなコーナーがあり,まずは受付をすべきなのか,そこに向かうべきなのか迷う。バーベキュー場に行くと,甲府平野を見晴らせる景観に圧倒される。バーベキューは内容に比べて格安だし,悪くないと思うのだが,箸が割りばし,器が発泡スチロール,コップがプラスチックというのはダメだ。コスト削減のために皿洗いをなくしました,という意図は分かるけれど,ワインとビールの両方を頼んでいるのに,プラスチックコップであっても人数分しか持ってこないとか,さすがにバカにされていると感じた。-----------その後は,受付施設に戻り,ワイン試飲ができるカーブへの入場券を買った。バーベキュー場は施設の割には空いていたが,ここはかなりにぎわっていた。学校の教室3つ分くらいの長細い地下室が,2列に分けられていて,ワインの赤白,そして辛口甘口で並べられている。一定の間隔で樽が置いてあり,そこにワインボトルが10本くらい置いてあり,そこから自由に飲める。ワインの種類は甲府市で生産されているものに限定されているとのことで,ぶどうの種類などは似通っていたが,ワインは見事にバラエティに富んでいて感心した。-----------最初は及び腰で入っていった。セオリー通り,白ワインから始め,次に赤のライトからフルボディへと進めていった。使用できるのはタートヴァンという試飲用の小さなステンレスカップなので,ちょろっとしか注げない。でもそれを30回くらい続けていると,だんだんと陽気な気分になってくる。結果的に,赤ワインのフルボディの周辺には,同じような人々が腰を据えて,カドウチばりに呑んでいて,なかなかにぎやかな状態になっていた。入った当初は,「なにこれ?」と眉をひそめていたのに,最後には自分がそれになっているという始末だ。ごめんなさい。-----------施設に泊まるという本格派たちに別れを告げ,こちらは中央線の上りに合わせ,タクシーを呼んで帰った。なかなかハッピーな体験だった。
2017.10.14
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誉田哲也の異色ミステリーの続編を読んだ。○ストーリー超能力者が認知され〈超能力師〉という資格制度が普及している日本で,〈増山超能力師事務所〉は小規模ながら良心的な事務所として認知されていた。その事務所に坂本という女性が,夫の行方不明を相談に来た。坂本はもともと増山所長の知人で,超能力に関連した機器を多数製造している会社の研究者だった。そしてそれ以来,事務所のメンバーを尾行する怪しい男が現れ,〈増山超能力師事務所〉はかつてない危険にさらされる。------------予想通り,「増山超能力師事務所」の続編が発表され,シリーズ化となった。連作短編集で,SF設定が入ったライトミステリーという味わいだった第1作だが,連作が進むにつれてシリアスな度合いが増え,魅力が薄れていったと感じた。残念ながら第2作は,その路線がそのまま進み,別の方向へと振り切れてしまった。事務所の所員には,とぼけたキャラクターが多いので,まだかろうじてポップな味わいが残っているが,全体的には陰謀論や騙し合いが支配するハードボイルド的な世界観だった。これと呼応して,ミステリー要素は消滅しており,誉田哲也としてはいつもの近未来警察小説に近い内容を語ればよいことになり,ひょっとして楽してるんじゃないの?とさえ思ってしまった。------------〈超能力師〉についての説明と,その悲哀を語っていた第1作だが,今回は企業スパイ,公安,そしてある黒幕が暗躍していて,町の民間事務所には手に余る状況だ。失踪者も,そして増山所長も家族持ちであり,そこも犯人グループの脅しに使われていて,いわゆるスーパーヒーローとは全く異なるリアルな状況だ。また前作でも語られた,増山の家庭のぎくしゃくした状況が語られていて,キャラクターの掘り下げは良いのだが,状況が特殊過ぎて読んでいても困ってしまう部分がある。結局ここから予測されるのは,第3作において,あるキャラクターが桁違いの能力を発揮してすべてを解決してしまうというチート的な結末だ。------------正直,黒幕については早々に想像がつく。企業スパイはこいつに乗せられていたことが分かっても,スパイたちの拷問が延々と語られるのが苦痛だった。生産性が低そうな仕事だ。この辺り,単純に刺激的なシーンが書きたいだけみたいな印象で,だいぶ引いてしまった。------------どんどんと出だしからは異なるところへ走っていくシリーズだが,まあここまで読んだからには続編も読む。お付き合いでしかないけれど。
2017.10.13
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絵本「おともだち できた?」に触発されて,恩田陸のもう1つの絵本を読んでみた。○ストーリー〈わたし〉はある時から,鏡を意識し始める。家にも,通学中にも,学校にもある。いつもは自分たちの反対を素直に映し出す鏡だが,たまにはうっかりと違う映像を映すこともあるのではないか?そうしたらどうなるのだろう?----------恩田陸の大ファンで,全ての作品を読んでいると思っていたが,恥ずかしながら取りこぼしがあったようだ。それが2013年刊行のこの絵本だ。エッセイは手に取らないので,他にも勘違いをして抜けている作品があるかも知れない。「おともだち できた?」で衝撃を受け,絵本もカバーしないとダメだと思い知った。それでこの作品を知ることになった。----------ひょっとしたらほのぼの系かと思っていた「おともだち」に対し,こちらは『怪談えほん』というレーベルの一冊なので,今回は最初から身構えることにした。けれども,分かっていても,いつどこから来るのかが分からなくて,ハラハラは止まらなかった。鏡には個人的にもトラウマがあるので,それだけでビクビクなのだが,ゆっくりと始まり中盤からカタストロフィになる展開は,まさにホラーの伝統だ。----------読んだおかげで鏡へのトラウマがさらに深くなってしまった気がする。けれども自分が幼かった頃の不安感や,弱々しさ,そうしたことを含めて思い出させてくれる作品だった。わりと好きかも。
2017.10.12
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東野圭吾のトリッキーなミステリーを読んだ。〇ストーリー舞台劇のオーディションに合格した男女7名がペンションに集められる。彼らはここで豪雪で孤立した山荘で連続殺人事件に遭遇した客としての演劇を,舞台劇の準備として即興で演じるように,また外部には決して連絡を取らないように指示される。役作りの一環だと思っていた彼らだが,殺人の痕跡を残して毎晩1人ずつメンバーが消えていくことから,ここで起きていることが舞台の練習ではなく,実際の殺人ではないかと疑い始める。そして・・・----------見事だと思った。伝統的な本格ミステリーは,いろいろな様式があるが,読んでいる分にはロジカルゲームとして面白いものの,いざ冷静になれば,連続する殺人事件が偶然の要素もあるが上手く行き過ぎるし,警察や探偵の捜査はギリギリまできちんと進展しないし,犯人は探偵に名指しをされるまで事件現場に留まるし,いろいろと不自然が指摘されている。そうした不自然さへの対処は複数ある,一番普通なのは”これは伝統的にこうしたもので,味わいなのだ”と開き直り,あえて伝統的な展開を進めるパターン。次は,リアリティを優先して,そうした不自然さを排除するもの。そして3つめは,なんらかの理由をひねり出して,伝統的な状況を合理的に生み出す方法だ。東野圭吾は”豪雪で孤立した山荘”について,伝統的な状況と,現代としてのリアルな状況を併せても不自然ではない状況を作り上げた。----------さらに言えば,状況を作ったに留まらず,そこで発生した事件の謎と真相までが描かれている。作品の中でも語られているが,2重どころか3重の構造のミステリーとなっているのに,それが各レベルできちんと成立している。1人ずつ消えていく状況に恐怖し,その次にこの状況を構築した犯人に驚き,さらに犯人を含めたある状況に騙されていたことに気付くという,あきれるほど多層的な状況だ。それでいて読後に残る気持ちは悪くない。ギスギスして殺人事件が起こりそうな状況から,多分に優等生的だが東野圭吾の人間賛歌的な流れへとトリックを通じて導かれると,ホッとしている自分に気付くからだ----------ラストの説明と展開は強引過ぎるとは思ったものの,それよりも伝統的な本格ミステリーをパロディではなく,現実でもなく,きちんとライブで再現する新しい手法の斬新さに感心をした。上にも書いたが,アイディアだけに満足せず,きちんと作品に仕上げているのが実に律儀だ。文章も素直で実に読みやすかった。笑いやパロディに逃げない姿勢は尊敬に値する。
2017.10.11
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恩田陸の絵本を読んだ。〇ストーリー両親と共に新しい家に越してきた少女は,忙しい両親に言われる「おともだち できた?」と。公園で一人で遊ぶ彼女が,おともだちをみつけることになったのは?-----------2017年6月に刊行されたばかりの絵本だ。恩田陸が文章と構成をしているが,絵の部分は絵本のプロである石井聖岳だ。例によって,内容について全く知らずに図書館から借りて来た。リビングに置いておいたら,姉や僕に似て本好きの姪たちが順番に手に取って,「うわっ」「ぎょえー」と言っているので,だいたいどんな本なのか想像はついた。ネタバレされる前に,自分でも読んでみると,中盤で「うへっ」と声が出た。-----------いかにも絵本らしい,のんびりとしていて自由な絵柄だし,恩田陸も明るい結末のファンタジーを書くこともあるので,うふふあははで終わるのかと思っていたら,それを断ち切るような衝撃的な見開きがあり,ホラー的な結末へと突き進む。しかも前半通りに静かに結末を迎えることも可能だったのに,あえてショッキングなシーンを挿入して,読者を驚かせてから終盤へと向かっているのは,なんとも性格が悪いと思ってしまう。-----------ただし古くからのファンからすると,こうした映像的な驚きをアイディアの中心に据えて,その前にロジカルな物語を構成し,その後にオープンエンドな垂れ流し世界を用意する,というストラクチャーは,いかにも恩田陸らしいと思ってしまう。実際に映像化された驚きのシーンは見事だ。実によく計算されていて前半とは全く異なる絵が提示され,明らかにここから違う位相に入るということが伝わってくる。ミステリーとして理屈を考えてしまうと,いろいろと謎が残ってしまうのだが,短編小説として割り切れば,実に小気味よく,読者を裏切ってホラーを展開してくれている。-----------と,ここまで書いておいて何だが,ぜひ事前の情報を入れずに,まずは読み終えてもらいたい。家で話題となったオススメの作品だ。
2017.10.10
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連休だ,ブンカ的なことをしよう,ということで美術展に行った・・・というパターンから逸脱して,最近は毎週のように美術展に行っている。あえて行かなくてもいいのだけれど,姉と一緒に行けるということで,ウキウキと行く自分がいる。----------3年前の6月に行って,ぜひ姉と行きたいと思っていた品川の原美術館に行った。”器”としては美術館は背景となり無色であるべきだとは思うが,それだけでは人は美術館に通わないと思う。上野の有名どころの美術館・博物館,三菱一号館美術館,六本木の新世代美術館,どこも行くだけでちょっとワクワクする空間だ。企画展の魅力に惹かれて行くのが70%だが,どこの”器”で開催されているかで行くのが30%だと思う,多分に感覚的だが。このエリアの雰囲気は好きで,個人的には何回もすぐそばをウロウロしていた。美術館そのものを再訪するのは,姉と一緒と決めていたので時間がかかってしまった。----------今回の企画は『光合成』〈田原桂一 展 with 田中泯〉だ。原美術館という”器”の魅力と,2人とも好きなダンサー&俳優・田中泯の写真展ということで行くことになった。原美術館は,大崎と品川の間にある,御殿山にある美術館だ。大正・昭和の実業家の邸宅がそのまま美術館となったらしい。いくつかの部屋には,常設展としてのインスタレーション的な作品があり,昭和モダン邸宅に独特のカラーを与えている。そして何よりも大きいのは,小さな美術館に似合わないカフェの併設だ。現代アートが散りばめられた,昭和の邸宅の中庭のカフェ,それだけで雰囲気は万全だ。大事な人と一緒に来たくなる空間だ。----------『光合成』は,全編モノクロームの写真展で,田中泯の身体と,日本各地,世界各地の背景の調和が作品のテーマとなっている。今の時代の人間として,優れたモノクロ写真というだけで圧倒されてしまう気がする。カメラ,デジカメ,ケータイ,含めて全てフルカラーの時代で生きてきた僕らは,あえてモノクロで撮影をして,陰影をはっきりさせることで撮影対象をくっきりと浮かび上がらせる手法について,自分では絶対できないこととして引け目を感じてしまう。日本や世界の様々な場所で撮影された田中泯の研ぎ澄まされた肉体と背景。どちらが主でどちらが従か分からないそのバランスがこのシリーズの魅力だと思う。ほとんどの場合は,田中泯の肉体が画面を支配しているのだが,まれに背景が主張をしていて,そのせめぎ合いが面白い。----------この美術館で,この写真展を観て,いろいろ考える,それを一緒にする人がいるのが幸せの一つなのかも知れない。中庭はいっぱいだったので,大崎ゲートシティまで戻ってランチをした。
2017.10.09
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友人と待ち合わせだったのだが,「ごめん,1時間遅れる」という連絡があり,時間を持て余すことになった。そこであまり知らない街の,初めての床屋に行って髪を切ってもらった。日頃はカットとブローだけをする安い美容室に行っている。美容室なので顔もあたらない。今回は理容室なので,カットをして,洗い流し,ヒゲをあたり,眉を整え,ポンポンポンとマッサージまでしてくれる。なんだかとても懐かしかった。---------鏡に映っている自分は,生え際,眉毛,もみあげと,あちこち真っ直ぐなラインで,しかもキワを剃っているのでくっきりはっきりだ。観ていないけれど,『プリズン・ブレイク』の主人公に似ていた・・髪型は。途中,なぜか全体に天花粉(ベビー・パウダー)をぱふぱふされ,10年後の自分を見ることさえ出来た。1時間遅れで現れた友人には爆笑された。・・・失礼だと思う---------翌日会社に行っても,「えー」と言われて,わざわざ他の部署の人が見に来る始末だった。何が失敗だったんだろう?まあ,さっぱりしたからいいか。
2017.10.08
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高楼方子のファンタジー〈トランプおじさんシリーズ〉の第2作を読んだ。〇ストーリー哲学者を目指しているトランプさんの特技は動物の言葉を話すことだ。人々から見れば村はずれに暮らす学者さんだが,動物の世界では有名な人間だ。ある日,そんなトランプさんを頼ってトゥモロウというコブタが現れた。一晩といいつつ何日も居候を続けるコブタから家出の理由を聞き,トランプさんと相棒の飼い犬は探偵となり,ある動物たちの行方を探すことになる。そこから見えてきたこととは?----------第1作の魅力は,何と言っても登場人物たちのとぼけた味わいだ。哲学者プラトンを目指しているトランプさんも,クールぶっているのに小心な相棒の犬・イルカーネポポラーネも,頑張って探偵を目指すのだが,少しずつヘンテコな方向へとずれていく。気にしないで捜査を続けるトランプさんたちは,いろんな偶然もあり最後はきちんと解決へとたどり着く。それでもトランプたちは,ちょっと感謝されるだけで,本人たちもそれで満足した様子で日常へと戻る。そのふんわりした味わいが魅力だ。----------それでもこのシリーズは,のんびりしているだけでなく,謎解きの過程で,ホラーサスペンス風の展開があり,まさかとは思いつつドキドキするシーンがある。第1作では怪物ペロンジの存在,そしてこの作品ではドリーさんの正体がサスペンスのポイントとなる。さらに登場人物たちには,小さいとは言え,読者にも共感を悩みがあり,それを知ることで身勝手だと思っていた人の行動原理が分かり,ゆるせてしまう。全体的には軽いノリのファンタジーなのだが,あちこちに隠し味的な要素があり,大人でも楽しめるというのが,高楼方子作品のいつもの魅力だ。----------第1作のキャラクターも少しだけ登場する。シリーズとしてもっと続いてもらいたいと思う。
2017.10.07
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北森鴻の美術ミステリーを読んだ。〇ストーリー銀座の花師・佐月恭壱のもう一つの顔は絵画修復師。大正末期に活躍した画家の孫娘から、いわくつきの傑作の修復を依頼された佐月は、描かれたパリの街並みの下に別の絵が隠れていることに気づく…表題作ほか、欧州帰りの若き佐月を描いた文庫書下ろし「凍月」等全三篇。裏の裏をかく北森ワールドに酔う一冊。〈旗師・冬狐堂シリーズ〉と同じ美術・骨董を扱う世界を舞台にした北森鴻のミステリーを読んだ。------------連作短編集「虚栄の肖像」を1年近く前に読んだが,それと同じ主人公・佐月恭壱の作品を読んだ。もっともこちら「深淵のガランス」がシリーズ第1作で,「虚栄の肖像」が第2作だ。佐月恭壱(キョウイチ)の表の顔は銀座のバーの花師,裏の顔は絵画修復師だ。どちらの顔も,その世界では大人気で,依頼を断るほどで,キョウイチはひょうひょうと生きている。------------キョウイチに絵画修復を依頼するのは〈女狐〉と呼ばれる孤高の骨董商,言うまでもなく〈旗師・冬孤堂〉の宇佐美陶子だ。つまり,このシリーズは,北森鴻のシリーズ〈旗師・冬孤堂〉〈蓮丈那智〉〈香菜里屋〉〈雅蘭堂〉と同じ世界に属していることになる。北森鴻は,ミステリー作家なのだが,美術や料理などを絡めて作品を書くことが上手い。どちらも独特の世界なので,生半可な聞きかじりでは語れない世界だと思うのだが,それをいくつも書いているし,個人的には毎回感心させられている。豊かな世界観を持ちつつ,上品なミステリー展開があり,文章は硬質で手堅い。北森鴻の作品は,安心して読める。------------主人公・佐月キョウイチは,父親が絵画修復師で,若い頃から天才的な技術を示してきたようだ。それが何かのきっかけで父と袂を分かち,銀座のバーで花を生ける仕事をしている。けれども父の弟子である善ジイ,こと前畑善次朗と花師を営んでおり,父息子の関係は決して途切れていないことが分る。シリーズが進めば,この親子関係の謎が語られたのだろうが,今となっては読者たちが推察するしかない。------------「深淵のガランス」:花師・佐月キョウイチは,ある有名洋画家の妻が収蔵していた作品の修復を依頼される。だが,キョウイチは,この作品の下に別の作品が隠れていることを突き止める。修復を依頼してきた洋画家の孫,その元夫の画商などが,キョウイチを翻弄するが,最後には?・・・〈修復師・佐月シリーズ〉の第1作として十分な内容で,楽しめる。だが主人公が花師としても,絵画修復師としても超一流で生活に不自由がないというのは,人によっては反感を抱くのかも知れない。それにしても〈ガランス〉って言葉,調べてしまった。「血色夢」:岩手県雫石で古代の洞窟絵画が発見された。発見者はそれを秘し,個人で楽しんでいたところ,絵画は痛み始め,その修復に佐月キョウイチが呼ばれる。同じ頃,ある有名洋画家の絵画の修復も依頼されたが,それは1つの作品が分割され,それぞれ別の作品として市場に出回っていたことが分かる。2つの仕事の裏にうごめく陰謀とは?・・・表題作品ではないのだが,この作品のコアを占める中編となっている。このシリーズというよりは,〈旗師・冬孤堂〉の雰囲気に強くて,佐月キョウイチが翻弄される姿が描かれる。素晴らしいシーンは複数あるのだが,日本一の技術を持つキョウイチが暴力を振るわれるなど,納得が出来ないことが多い。また最後までスッキリしないのはちょっといただけない。「凍月」:喫茶店の奥に飾られていたのはある有名洋画家の作品だった。そこに現れた青年は,店主の女性にその作品を修復させてもらいたいと依頼する。青年は絵画を修復するだけでなく,洋画家の一家に隠されていた確執まで解き明かしてしまう。そして・・・短い短編だが,このシリーズの空気をよく表していて逸品だ。前の中編の複雑さと比べると実にすがすがしい。
2017.10.06
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この年令ではそれほど目出度くもないが,誕生日を迎えた。今年の初めからあるSNSを始めたのだが,それの入力が朝から相次いだ。仕事の関係がきっかけで,海外の人ともつながっているので,ひょっとしてPolitically Incorrectなコメントを上げてしまったのかと心配になった。そのまま会社に着く数分前に,「あ,自分誕生日だ」と思い出して,ほっとした。-----------ずっと避けてきたSNSも,始めてみればライブ感があってブログとは異なる臨場感がある。その面白さとは別に,個人的なイベントに盛り上がるのは,初めて経験したので戸惑いも照れくささもあったけれど,素直に嬉しかった。-----------それとは別に家にはプレゼントが届いている。映画のDVD,熊本の〈ふくとく〉の『しめかま』,あと,まだ届かないけれどガンプラのMSV。えっと,全部自分が注文したものだ。・・・まあ,いいか幸せならば。誕生日にはみんながケーキにロウソクを立てて歌ってくれたしね。
2017.10.05
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近藤史恵の〈清掃人探偵キリコシリーズ〉の第3巻を読んだ。○ストーリー看護師となった只野さやかは,希望をしなかった小児科病棟に配属される。大人と違って子供たちはズケズケと語り,それなのに傷付きやすいのだった。入院患者の子供たちが噂をしていた”魔女”の物語を否定したことで,さやかは一方的に責められ,さらに気持ちがふさぐ。だが”魔女”の正体を確かめ,ある人物と友人になることで,彼女の中で何かが変わり始める。さやかは不自然な病症を示している少女に手を差し伸べ,そこ隠されている悪意を暴こうとする。------------近藤史恵の〈清掃人キリコシリーズ〉の第3巻を読んだ。第2巻を読んでからずいぶん時間が経ってしまった。キリコと語り手がベッタリだった第1巻は過去のものとして,困っている人の前に,さすらいの清掃人キリコが現れ,勇気と指針を与える,という第2巻と同じパターンが踏襲されている。この巻では,ごくわずかにキリコのプライベートが覗かれるが,基本は主人公を助ける謎のキャラで留まることが多い。日常の不思議と悪意を描くことの多いこのシリーズでは,探偵役はこうしたジョーカーのような第三者キャラがふさわしいのだろう。安定したレベルのシリーズへと成長していると思った。------------この巻では,4つの短編が収録されている。どの短編でも若い正直な主人公が,職場にまつわる悪意あるトラブルに巻き込まれ,くじけそうになった時にキリコと出会い,その裏に隠れていた真相を探り,可能な範囲での解決を見つける,というものだ。決してこのパターンを否定するものではないが,最初こそ成立していた起承転結が,2つ目,3つ目の短編となるとヒネリ過ぎていて,すんなりとは頭に入って来なくなる。物語をヒネリつつ成立させるための設定がどうしてもリアリティと遠ざかるために,説得力が薄れているのだと思う。行動力のない主人公たちにイライラし始めたところに投入されるのが4つ目の短編だ。これはインパクトがあったけれど,短いし,ヒネリも少ないので評価は難しい。とは言え,設定は抜群の面白さなので大化けする可能性はある。いずれ残りの巻も読むつもりだ------------各編について簡単に感想を述べる。「水の中の悪意」:トオルはスポーツジムのフロアスタッフだ。だが彼のジムのプールで,複数の人が火傷を訴えたために水中エクササイズのメンバーは大きく入れ替わる。その事件の裏に隠れていたのは?・・・かなり爽やか系で本筋は進む。またキリコが関与した現実の事件も上手く解決したようでめでたしめでたしだ。「愛しの王女様」:東京で大学生活を始めた〈わたし〉は,ペットショップの店頭のケースの中で遊ぶ子猫に心を奪われる。20万円以上する子猫を手に入れるために,〈わたし〉は複数のアルバイトに登録をし身体をすり減らしてお金を貯める。・・・いろんな情報が流れので,トリックの不自然さが薄れてしまうが,これは何重にも成り立たないと思う。残念だけど19才の若者にラストの責任は取れないと思うな。「第二病棟の魔女」:看護師となった〈わたし〉は,小児科病棟に配属される。入院患者の子供たちが噂をしている”魔女”の正体を確かめに行った〈わたし〉が出会ったのは意外な人物だった。一方で,過保護のように見える母親が入院をさせた少女は,不自然な病症を示す。この裏に隠されている悪意とは?・・・この作品の中核となる中編だ。複数のエピソードが並行して語られるが,やはり井上雪美という少女のエピソードが最も重要だ。このシリーズにしては珍しく,きちんと事件が表面化して,社会的な解決が行われる。ハッピーエンドではなくても,よりよい展開となったことがうれしい。「コーヒーを一杯」:ある秘密を抱えてしまった美穂は,清掃に来たキリコに待ってもらうように頼む。だが同じフロアの隣のオフィスで事件が起きたことで・・・前の中編とバランスをとるように短い短編だ。語り手・美穂の心に切り込んで行くエピソードを語る田島は天才なのか,ただのクズなのか?
2017.10.04
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東野圭吾の”ミステリーではない作品”を読んだ。〇ストーリー父を亡くし,母に育てられた武島剛志と直貴兄弟は,その母も亡くしてしまう。直貴を大学に行かせるために,母の代わりに懸命に働く剛志だが,身体を痛め職を失ってしまう。魔が差し,田園調布の豪邸に空き巣に入った彼は,いないと思っていた家主の老婦人に見つけられ,パニックに陥り彼女を刺し殺してしまう。突然,殺人者の弟となってしまっい,自分で生活費をかせぐことが必要となった直貴は,高校だけは卒業したが,進学をあきらめリサイクル会社で働き始める。そんな彼に獄中の兄からは毎月手紙が届く。だが兄が殺人者ということで,直貴はミュージシャンになる夢,恋人との将来,せっかく就職した会社,結婚して生まれた娘の幸せな毎日,全ての場面で後ろ指を指されることになる。直貴はある決心をするのだが・・・------------読みながら,いつミステリー要素が始まるのかと期待していたが,そうしたことはほとんど起きず,ただ淡々と直貴の不幸な半生が描写される。ある見方をすれば,「殺人者の弟」ということで差別を受け,どんなに努力をしても次々と幸せを諦めなけれならない主人公を描いた胸くその悪い物語だ。恋人だった女性の許嫁だという男・嘉島孝文を除けば,とことん悪い人間というものは登場しない。基本的に自分,あるいは自分が大事に思う人々を守るために,武島直貴を区別して扱おうとする人々ばかりだ。そうしたスタンスって,下手をすると読者自身なので,それが分かってくると,あまり直貴の周りの人々を悪く言えなくなってしまう。この辺りの逆転のロジックについては,作者が狙っていた通りではっとさせられる。------------主人公・直貴が就職をした会社で,ある事件が起き,それがきっかけとして直貴の過去が暴かれ,彼は接客から倉庫へと異動となる。そこに会社の社長が現れ,直貴に励ましの言葉を掛けると思いきや,社長は「差別は当然なんだよ」と言い始める。この作品自体が東野圭吾が意図的に組み上げたメッセージなので,不幸の連続なのだが,ほとんどの場合,直貴の知人,隣人は「差別はいけないが,自分や自分の大事なものは守りたい」という意識だった。この社長はさらに新しいロジックだが,これはほとんど読者の意表を突くためだけだと感じてしまった。何回か直貴を気遣っている態度を見せる社長なのに,なぜか兄の罪と,それに付随する村八分的な差別は全力で肯定する。だったらすぐクビにするのが正しい選択だと思うのだが,ずっと直貴を働かせ,彼が辞職する際に「よく考えさせられたよ」と言っている。なんだよ,適当かよ。というか,これもまた不幸積み重ねパターンのための流れだった。------------「ミステリーではなかった」ということが自分にとっては一番の驚きだったが,強引な流れとは言え,ぐっと引き込まれて読み進めてしまうのは,東野圭吾マジックだと言える。直貴が最後まで曲がらずにきちんと生きているのも良かったし,不思議ちゃんとは言え,白石由美子と知り合いになれたことも良かった。純ブンガクには程遠いが,ミステリーの要素を除いても,読者を感動させることが出来るというのは,大した筆力だと思う。
2017.10.03
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姉と日本橋に行ったついでに〈金子半之助〉でランチを食べた。-----------日本橋を渡り,中央通りから室町小路へと曲がり,モカソフトの〈ミカド珈琲〉の前を過ぎる。室町小路も良いな,と思いつつ,しばらく歩き,左へ曲がると行列が見える。それが〈金子半之助〉の目印だった。-----------待っているのは20人ほどだったと思うが,店内はカウンター席20席程度なので,回転はゆっくりだ。12時半頃に着いて,結局1時間くらい待ったと思う。穏やかな天気だったから良かったけれど,夏や冬では待つのもツライと思う。今回は狭い道を通る車に気をつけていれば,あとは大丈夫だった。姉は飽きっぽいので,僕を並ばせておいてひとしきり付近を散策していたけど。-----------ようやく店内に案内されると,L字型のカウンターが並び,席はわりとゆったりとした間隔になっている。頼んでいておいたのは,名物の天ぷらめしだ。すぐに漬物,黒豆茶が出てくる。これでホッとしていると,ご飯,味噌汁が出され,それほど時間を置かずに最初の天ぷらが提供される。ししとう,エビ,かき揚げ,たまごだ。どれも美味い。しばらく食べていると第2段のアジ,かしわ,カボチャ,ナスが出てくる。濃い味の天つゆで食べたり,塩でカリッと食べてみたり,いろいろ楽しんだ。-----------有名な店はどこも混んでいるけれど,やはり並ぶ価値はあるところが多い。これが1,000円しないというのも驚きだ。
2017.10.02
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SFホラー映画の金字塔〈エイリアン・シリーズ〉の新作を観た。〇ストーリー惑星〈オリガエ6〉を目指して進む植民船コヴェナント号は,謎の信号を受信したことで,未知の惑星へと向かう。そこは地球によく似た環境で,植民地化するのに理想的な環境と思われた。惑星に降下した先遣隊は,10年前に行方不明となったプロメテウス号の搭乗員の痕跡を発見する。だが先遣隊の複数のメンバーが苦しみだし,体内から謎の寄生生物を生み出す。混乱する先遣隊を救い出したのは,プロメテウス号に登場していたアンドロイド・デヴィッドだった。彼らは〈エンジニア種族〉の都市に案内されるが,そこは絶滅をして間もないように見えた。彼らは母船に戻ろうとするが,ここにも謎の生命体は現れ,1人また1人と襲われていく。コヴェナント号の計画はどうなってしまうのか?----------〈エイリアン・シリーズ〉に属するのか,独立したパラレルワールドなのか?と議論になった『プロメテウス』だが,今回の作品の製作により,めでたく本編の前史として認定されたことになる。この作品は,残念ながら『プロメテウス』を観ていることが,きちんと理解するには必要となる。さらに言えば,かなりオープンな終わり方をしたので,噂をされている〈プロメテウス3部作〉の第3作目を観ないと,やや評価に苦しむ部分がある。さすが『エイリアン』第1作を製作したリドリー・スコット監督だけあって,驚きの新しい展開を大胆に進めている。----------この作品は『エイリアン』第1作によく似ている。 -謎の信号の発信源を調べるために,冷凍睡眠から起きたクルーが謎の惑星へと向かう。 -そこでは不時着をした異星人の宇宙船があり,調査をする過程でクルーたちは謎の生物に襲われる。 -主人公は男まさりの女性で,母船に潜入を果たした生命体を撃退しようとする。 -クルーの中にアンドロイドがおり,他とは異なる目的を持っている。これまでの〈エイリアン・シリーズ〉は,様々なパターンを用いつつも,謎の完全生命体からどうやって逃れるか,この生命体の地球への潜入をどうやって防ぐか,という流れの中で,常に人間と完全生命体の戦いを描いてきた。SFとホラーをそれぞれ高いレベルで融合し,宇宙への恐怖を改めて人々に植え付けたというのが,『エイリアン』第1作の功績だ。----------けれども,『プロメテウス』に始まり『コヴェナント』でも,恐怖の対象は異なる。異星人の宇宙船で謎の生命体が発見され,それが急速に進化を遂げるのはこれまでと同じだ。だが,それを画策している別の存在がいるために,完全生命体への恐怖は間違いなくあるのだが,それだけで終わらなくなる。その奥にいるモノに対する嫌悪感は,これまでのシリーズとは異なる感触のものだった。これはオリジン版の製作者でしかできない,新しい展開だろう。----------主演のダニエルズを演じる女優は,キャサリン・ウォーターストンだ。少し可哀相になるくらいひどいメイクと髪型で,工場労働者にしか見えない。最後まで好きになれなかった。彼女をサポートするパイロットのテネシーを演じるのは,ダニー・マクブライドだ。怖い顔をしているが,本来はコメディアンだという。そして物語のキーを握るアンドロイドのデヴィッドとウォルターを演じるのは,マグニートのマイケル・ファズベンダーだ。不細工な人間たちと,ハンサムなアンドロイドの対比が既に象徴的だ。----------新しい流れに入ってしまって,きちんと『エイリアン』につながるのかどうか心配だが,さすがはリドリー・スコット,とてつもなく美しい映像美で,またまたSF映画の地平線を広げてくれている。もう79才と結構な年令なのに,こだわり抜いた映像美だ。『ブレードランナー』も控えているし,この先が楽しみで仕方がない。
2017.10.01
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