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タイトルはもちろん知っていたし、よく売れていることも知っていた。 でも、中身はあまりよく知らないまま、ネットでポチっと購入。 きっと、歩くことを奨励し、どんな風に歩くかを指南する一冊だと思いつつ。 なので、日々ウォーキングに励む私は、読み始めて結構驚いてしまいました。 確かに 棺桶なんかに入りたくなかったら歩こう(p.3) とは書いているけど、著者が本当に言いたいのは 歩けるうちは、人は死にません(p.4) ということ。歩くことを奨励すると言うよりは、 寿命ってどれくらい歩けるか、どれくらい立っていられるかなんだから、測れるんだよ。 ちょこちょこ歩きじゃそろそろだね(p.32)っていうことを書いている。即ち、在宅緩和ケア医として2,000人以上の看取りに関わった「緩和ケア 萬田診療所」院長・萬田緑平さんによる人生の最期をいかに生きるかについて記したもの。これが、世間で評判を呼んでいる一冊の正体なのでした。新書でありながら、活字のサイズはハードカバーレベルに大きく、行間のスペースも十分にとっているため、高齢者の目にも優しい。そして、文章も分かりやすいのでスイスイ読める。さらに、自分事として誰もが向き合うべきテーマなので、一生懸命に読むしかない。人それぞれに、本書を読んで思うこと感じることは違うでしょう。そして、今後の行動も、最期の時の過ごし方も人それぞれでも、先程述べたように、自分事として誰もが向き合うべきテーマなのは間違いない。ですから、送る側も、送られる側も、読んでおいて決して損はしない一冊です。
2026.05.31
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みをつくし料理帖の第6弾。 今巻は、シリーズの中でも大きな分岐点となりそうなお話が続きます。 人生を左右するような選択肢が次々に示され、大きな決断を迫られる澪。 果たして、本著タイトルの「心星」を見つけ出すことが出来るのでしょうか。 ***青葉闇坂村堂の助言で、澪は何とか生麩を作りあげるが、小松原は献立に載せるのは考えものだと言う。それを口にした坂村堂の父で料理番付行司役の日本橋『一柳』店主・柳吾は、澪と芳を店に招き、幕府の重鎮だけがそれを口にできる理由を伝え、澪に料理人としての矜持を問い、最後に一言。 「ひとは与えられた器より大きくなることは難しい。 あなたがつる家の料理人でいる限り、あなたの料理はそこまでだ」(p.75)天つ瑞風澪は、翁屋楼主・伝右衛門から吉原に出店し『天満一兆庵』の暖簾を再び掲げてはと打診される。一方、登龍楼店主・采女宗馬は、神田須田町店をつる家に30両で譲り、健坊も引き渡すという。澪は双方の申し出を断り、客の顔が見える今のつる家の料理人でい続けるという決断を下す。伝右衛門から、澪に用意した店を采女が譲ってくれと言いに来ていたと知らされた後、又次に案内されて花魁の居室へと赴いた澪は、襖越しに野江と言葉を交わし合ったのだった。時ならぬ花元飯田町でぼやが続き、火の扱いを朝五つから四つに限られたつる家は、客足が遠のいてしまう。澪は白木の割籠に入った弁当「お手軽」の販売を始め評判を呼ぶが、柳吾は「邪道」だと言う。世継稲荷の縁日に出会った早帆に料理を教えるうち、火の扱いの申し入れ、弁当販売が終わる。指南最終日、早帆と共に「お手軽」を持って、覚華院、里津と名乗る早帆の母親を訪ねる。覚華院は、小松原の妹・早帆が、澪を兄・小野寺数馬の嫁に迎えよと懇願しに来たと話す。心星ひとつ小野寺家用人・多浜重光がつる家を訪れ、覚華院が澪に武家奉公するよう仰せだと伝える。事の仔細を聞かされた面々が澪の決断を見守る中、婿を取った美緒が自身の思いを澪に伝える。後日、店に顔を出した小松原に「俺の女房殿にならぬか」と言われた澪は「はい」と答える。が、周囲が様々な反応を示す中、澪は源斉の助言で自身の中の揺るぎない「心星」を探し当てた。 ***澪の最後の決断は、はっきりとした言葉は書かれていませんが、まぁ、そういうことでしょう。でないと、『みをつくし料理帖』が『みをつくし料理帖』でなくなってしまいます。しかしながら、この選択が周囲に及ぼす影響は相当なもののはず。はたして、どのように道を切り開いていくのでしょうか?
2026.05.31
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前巻発行からおよそ3年半を経てのシリーズ第9弾。 副題は「ビーベリーは美しく輝く」。 コーヒー豆は、実の中に片面が平らな種子が二つ入ったものですが、 まれに実の中に丸い種子が一つだけのものがあり、”ビーベリー”と呼ばれます。 ***美星と結婚してくれたら、店を二人に譲ろうと思っていると藻川氏から言われたアオヤマ。結婚に関する条件は明かさずに、藻川氏が店を譲る心づもりがあるらしいと伝えると、美星は、店を継ぐ準備としてできるのは不安要素をできる限り排除しておくことだと答える。そして、二人は『食べマップ』に直近3カ月で3度低評価をつけたレビュアーX氏を特定することに。そのレビューの内容は「営業中に、店員がよその古書店のことを非難しているのが聞こえて来た」「外から帰って来た猫に、平気で店内を歩き回らせていた」「店のオーナーが、芸能人の訃報を話のネタにしていた」というもの。そして、3件のレビューに書かれた出来事のすべてに関わっていたのが常連客の高地和雄。アオヤマは高地から話を聞き出そうと強引にカフェに誘い出し、さらに居酒屋で酒を酌み交わす。そこで、高地には現在良い感じの女性がいて、毎日のように連絡を取り合っていることが分かる。さらに酔った高地を自宅マンションまで送り届け、彼がいつも玄関の鍵をかけないことを知る。翌日、X氏が「店員が職務放棄して客と店の外へ出かけた。他の客がまだいたのに」とレビュー。美星は問題となっている4件のレビューを高地に見せ、この内容を誰かに話したかと確認する。さらに、店に姿を現した女性に投稿の理由を問いただすと、彼女は高地への想いゆえと口にする。しかし後日、高地が持ってきた書籍の中に挟み込まれていた「遺書」を見つけた美星は、これまでの推理がまるで見当違いで、犯人の真の狙いが何だったのかにようやく気付く。 ***赤川みぞれが、母である女優・赤木みちほについて著した手記『女優である前に』。今回のお話では、その抜粋が随所に挿入されていることから、X氏が誰であるかは、読み進めていくうちに凡そ見当がつくと思います。それでも、エンディングを迎えた時、このお話にどんな感想を抱くかは、読者により様々かと……一方、巻末の特典掌編「優しい人」は、とても良い短篇でした。ところで、今回、私が最も印象深かったのは次の箇所。なぜなら、これに近いことを、かつて私も実際に体験したからです。くれぐれもご注意を! 泥棒は朝のゴミ出しの、せいぜい5分くらいのあいだ、 住人が鍵をかけずに外出した隙を狙うという話も聞いたことがある。(p.247)
2026.05.24
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2009年3月に刊行されたものを2012年7月に文庫化した一冊。 『カフーを待ちわびて』の舞台である沖縄・与那喜島をめぐって繰り広げられた、 もう一つの物語。 先日読んだ『一分間だけ』とも共通点がありました。 ***鳳仙花岡山を離れ、沖縄・与那喜島のダイビングショップで雑用アルバイトをする純子。ショップのある南浜に巨大リゾート開発の話が持ち上がり、住民は立ち退きを打診されているが、同意していないのは、オーナー・田中庄司と友寄商店経営者・友寄明青、ユタのおばあらだけ。が、もう一人のアルバイト・奈津子から庄司が立ち退きに同意、石垣島に移転すると聞かされる。奈津子が島を出て行くのを見送った後、与那喜に帰って来た成子を車で実家に送っていく。ねむの花 デイゴの花日本有数の都市開発企業に勤務する成子は、プロジェクトリーダーとして多忙な日々を過ごす。が、結婚して5年の夫・憲明から離婚を切り出され、残された愛犬・ホープとの暮らしに。久々に再会した同業他社勤務の同級生・照屋俊一から与那喜・起死回生の開発プランを聞かされ、それを前に進めるため、同級生の友寄明青に移転するよう説得してくれないかと頼まれる。さがり花奄美諸島・与路島を訪れた難波純子は、加計呂島に到着した山内成子に、早速メールを送る。それは、ひとり旅が好きな女性が憧れる島の宿をプロデュースするプロジェクトの予備調査。純子と共にサガリバナが一輪咲くのを見た民宿徳田の息子・開大は、ノロの母のお告げを伝える。あの花が落ちるころ、故郷に残してきた大切な人の命が尽きるので、明日すぐに帰れと。千と一枚のハンカチ成子は加計呂島の「木綿のハンカチーフ」というカフェの経営者・知花子に会う。東京出身でバツイチ、ひとり娘は15歳の時に事故で他界、50歳を超えてこの島にやって来た。知花子に自身の本音を見抜かれた成子は、知花子がこの島を終の住処に選んだ理由を聞かされる。それは、一度会っただけの浜木綿一からコンロンカ、別名ハンカチの花畑を相続した経緯だった。花だより母親の初七日を終え、岡山市内のフラワーショップで働き始めた純子が、島な人々に「旅人廃業」というタイトルのメールを出すと、成子、奈津子、庄司、開大らから便りが届く。そして、出張で広島に行った成子と再会後、彼女から届いていた手紙を改めて確認すると、2枚目の便箋追伸に、友寄明青が幸と一緒に島に帰って来たと聞いたと記されていた。 ***『カフーを待ちわびて』発行から、約3年を経て発行された作品ですが、初々しさの中にも、マハさんらしさが感じられました。こういった手法で作品を次々に生み出していけば、量産も可能だったのでしょうが、それは、原田マハという作家のイメージとは異なるものですね。
2026.05.23
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『さよならドビュッシー』に登場した香月玄太郎を主人公とする 『要介護探偵の事件簿』を、文庫化に際し加筆修正した一冊。 以後、高円寺静を主人公とする『静おばあちゃんと要介護探偵』、 『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』へと続いていきます。 ***要介護探偵の冒険内側から全て鍵が掛かった建築中の自分の家で、ハルミ建設建築士・烏森健司が絞殺された。玄太郎は、現場周辺の新築物件がユニット工法で建てられていたことや、烏森が設計したマンション地下駐車場物損事故現場に残されたコンクリート片、医学部教授から聞いた死亡推定時刻算出方法と被害者に付着した塗料の情報から真犯人に迫る。要介護探偵の生還70歳の玄太郎が脳梗塞で倒れ、その後遺症は下半身と両手の指、言語中枢に及んだ。リハビリのため訪れたケアセンターには、息子夫婦に励まされ歩行訓練を続ける領家壮平がいた。玄太郎は、介護士・みち子が用意した戦艦三笠のプラモデル作りに、集中力と忍耐力を発揮する。壮平の歩行訓練に周囲が熱狂する中、その声なき訴えを受け止めた玄太郎が「た、たわけかあ」。要介護探偵の快走近所の高齢者を狙った通り魔事件が続発してると、神楽坂美代から聞かされた玄太郎。しかし、その美代、さらに車椅子に乗った区内最高齢90歳の佐分利亮助も襲われる。亮助を見舞った玄太郎は、小学校の運動会で後期高齢者と障害者による車椅子400m競走を企画。自ら賞金100万円を用意し、自身も競走に参加して犯人をおびき出すと、一連の真相を暴き出す。要介護探偵のと四つの署名玄太郎はみち子と共に銀行に行くと支店長が対応、しかし計画停電で閉店が1時間早まっていた。シャッターが下り始めると、そこに4人組の強盗が現れ、行員10名と利用客23名が人質になる。電磁ロックが無効となった地下大金庫から、金地金を盗み出そうとする4人に玄太郎は説教。さらに事件の黒幕を暴き出すと、県警の特別対策班突入後、4人に署名せよと紙片を突き出した。要介護探偵最後の挨拶国民党愛知県連代表・金丸公望が、自宅でレコード鑑賞中に青酸カリを摂取して急死、 元塗料メーカー社員で現在は県会議員の長男・龍雄は、事件は汚職隠しと野党から攻撃を受ける。玄太郎から協力を依頼された岬洋介は、アクセサリー類の全てが可燃ゴミに出されたと知ると、介護車両でゴミ回収車を追い、静電気防止用のスプレーが爆発するのを阻止、真犯人を暴き出す。 ***時系列としては、全てのエピソードの中で「要介護探偵の生還」が最初に位置し、最後に位置するのが『さよならドビュッシー』、その一つ手前が「要介護探偵最後の挨拶」ということになります。即ち、これら以外の全てのエピソードは、「要介護探偵の生還」と「要介護探偵最後の挨拶」に挟まれた時期の出来事ということ。一度亡くなったキャラクターを、時を遡って復活、活躍させるのも七里さんの得意技?
2026.05.18
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前巻発行から半年を経ての新刊発行。 読むまでに少し時間がかかってしまいましたが、読み始めると一気読み。 エンディングに向けて、お話も恋も大いに盛り上がっていきます。 そして、TVアニメも7月から放映開始です! ***王都へと向かう船上、慧月は玲琳を生かすため、気が枯渇したと嘘をつき、入れ替わり解消を先延ばしにしていた。そして、気の器を癒すには夜光草が必要とさらに嘘を重ねるが、玲琳はそれなら黄家の屋敷裏の黄山にあると言う。一行は黄家に立ち寄り大歓待を受けるが、慧月は玲琳が病弱になった時期を知ろうとその幼少時代について探る。玲琳の父・泰山や侍女たちに正体を見抜かれそうになると景彰に助けを求め、自身の彼への想いに気付くことに。慧月が玲琳の母・静秀が弔われている祠堂に行くと、そこにある文献庫で夜光草について調べていた玲琳と出会う。後殿には、静秀とその主治医で父・泰山の兄でもあった暉宏の位牌が並んでいたが、慧月はそこに怨念が凝っていると感じる。廂房では、皇后・絹秀が蒐集した呪具の中にあった血錆びた短刀、そして幼い頃の玲琳の手習いの紙が入った桐箱に目が留まる。その後、慧月が自室へと引き返し、狩りを終えた男たちが酒を酌み交わし始めると、玲琳は夜光草を求めて黄山に向かった。途中、辰宇に見つかり二人でかつての秘密基地まで辿り着くと、そこで夜光草を摘み、墓に手を合わし、辰宇に洞穴まで水を汲みに行ってもらう。玲琳が手記の入った桐箱を土中から掘り出した頃、にわかに雨が降り始め、辰宇は襲ってきた土砂に閉じ込められてしまうが、玲琳が救出に成功する。一方、玲琳の長時間不在を怪しんだ男たちは手分けして捜索を開始、尭明は客室へ、景行は黄山へ、景彰は祠堂へと向かう。景彰は、廂房で血錆びた短刀を探す慧月に遭遇、入れ替わり解消後に腕輪を渡したいと伝えると、慧月は事の真相を打ち明ける。その後、慧月は強烈な痛みに襲われるが、景彰に己の名を呼ばれると痛みは消失、これは黄玲琳の名にかけられた呪いだと気付く。そして、そこに皇后にして玲琳の伯母・黄絹秀が姿を現した。 ***今巻は、辰宇の生い立ちについても詳しく記されていますが、凡そ次のような感じ。辰宇は、皇帝・弦耀が周囲への当てつけに臘楚の奴隷・アイレナに産ませた子でしたが、皇后・秀絹が哀れんで、母子を玄領に逃します。しかし、結局、母に利用され、玄家でたらいまわしにされたあげく、初陣では養父・玄冰凌に裏切られるなど、苦難の日々を過ごします。その後、やっと義兄である尭明から鷲官長の座を与えられたのでした。そして、この辰宇の生い立ちに重ねて語られる、玲琳に関する次の記述が、今後の焦点となっていきそう。 なぜだか、辰宇から顔を背けたという人々の顔が、福英たち侍女のそれに重なった。 玲琳に優しい眼差しを注ぎながらも、けっして玲琳自身を求めているわけではない彼女たち。 いいや、彼女たちだけではない。目を閉じればすぐに思い浮かぶ、苔むした墓。 すると必ず思い出す人物。父と母、そして主治医。(p.271/350)やはり、カギを握っているのは皇后・絹秀のようですね。 ***さて、特典SS『下戸』の方は、下戸である冬雪が景行に、下戸である者のことをどう思っているのかと訊ねるお話。そして、付録小冊子の特別編『稽古を休んだ日の話』の方は、次のようなお話です。風邪を引いたのに父母が全く構ってくれなかった12歳の頃の自分の夢を見た慧月。目覚めると、やはり風邪を引いたようだったが、二胡の稽古に雛宮へと向かおうとする。しかし、朱駒宮を出てすぐ、景彰に呼び止められてしまい、強制送還&諸方面への伝達。その後、莉莉、冬雪、尭明、玲琳が、次々に慧月のもとに駆けつけたのだった。お話の本筋に深く絡むことはないエピソードですが、それにしても、辰宇、玲琳、慧月と、幼少期に寂しい体験をしたキャラばかりですね。
2026.05.10
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みをつくし料理帖の第5弾冒頭のお話では、種市が20年前を振り返ります。 14歳年下の絵師・錦吾と出来て家を出た元妻・お連が11年ぶりに現れると、 17歳の娘・おつるは、45歳の母の姿を見て、家を離れ一緒に暮らすことに。 5か月後、おつるは家に戻りたがりますが、種市は半年辛抱しろと追い返します。 ***迷い蟹-浅蜊の御神酒蒸しが、その半月後、おつるは錦吾の借財の形として金貸しに送られた末に自ら首を括った。あれから20年、錦吾が谷町の湯屋で働いてるので、敵を討ってほしいとお連が店を訪ねてくる。お連と澪のやりとりを聞いた種市は、後日湯屋で錦吾に襲い掛かろうとするが、澪とふきが阻止。そうと気付かぬ錦吾とその妻子が展開する光景を前に、種市も敵討ちを断念せざるを得なかった。夢宵桜-菜の花尽くし吉原の翁屋楼主・伝右衛門から花見の宴の料理を頼まれた澪は、小松原や源斉の助言を受け、菜の花尽くしの料理を用意、集まった人々は感嘆するが、一人苦言を呈し続ける僧侶・祥雲。遂には、あさひ太夫に出てこいと要求するが、遊女が現れ歌を一首詠むと、座り込んでしまう。宴を終えた後、澪は伝右衛門から吉原で料理屋をやらないかと声を掛けられたのだった。小夜しぐれ-寿ぎ膳父・伊勢屋久兵衛が決めた中番頭・爽輔との祝言を目前に、気持ちが沈む美緒を誘い、つる家の面々が店を休んで浅草へ出かけると、そこでお芳と澪は佐兵衛の姿を見かける。吉原で天満一兆庵を再建、成功させれば、佐兵衛の名誉を回復出来るのではと考えた澪から、指が元通り動くようになるか尋ねられた源斉は、深く頭を下げ謝罪の言葉を口にする。その様子を見ていた美緒は爽輔との婚姻を決意、自身の婚礼の膳を引き受けた澪に、「あなたを嫌いになれれば良いのに。心から憎めれば良いのに」と低い声を絞り出した。嘉祥-ひとくち宝珠直参旗本で33歳の御前奉行・小野寺数馬は、嘉祥という儀式に出す菓子を決めかねていた。妹・早帆の夫で竹馬の友でもある駒澤弥三郎は、小納戸役で食事担当の御膳番を務めている。町に出て見聞を広め、市中の料理屋を探るよう、駒澤家の湯島の別邸を貸したのも彼だった。数馬は弥三郎と語り合ううち、駒繋ぎに似た娘が発した「煎り豆」から「豆飴」に思い至る。 ***今巻最後の「嘉祥-ひとくち宝珠」は、シリーズで初めて、小野寺数馬視点のお話。これまで分からなかったことが、周辺の人物に至るまで続々と明らかになりました。母親も人物としては認めた澪と兄の仲を、妹までもが取り持とうとする展開には驚き。旗本の長男と親のない町人の娘、どうすれば結びつけることが可能なのでしょうか?
2026.05.09
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「言葉」というものについて、色々と考えさせられ、 新たな発見がとても多くあった一冊。 そして、俵万智という名前は知っていても、その人がどんな人なのか、 実は全然知らなかったということに気付かされた一冊。 *** 一夫多妻だったり、通い婚だったり、レイプまがいのことがまかりとおっていたり、 生まれながらに身分の差が歴然とあったり、今の世の中とはかなり様子が違う。 社会規範や常識の違いに驚きつつ、今の私たちもまた、 別の社会規範にとらわれているのではと考えることもできるだろう。 あるいは、こんなに時代が違っても、恋のときめきや失恋の辛さ、 嫉妬といった感情は変わらない。 ホッと共感すれば、遠い時代に同士を見つけたような気持ちになれる。 過去から現在を照らしたり、過去の人と何かを共有できたりすることは、 とても豊かな時間ではないかと思う。 自分は、たまたま今という時代に生きているにすぎないのだ。(p.132)これは、Questionaryという子ども向けのサイトで、子供たちからの質問に答えた際、『人間はどうして勉強しなきゃいけないの?』という質問に対して、俵さんが「世界を知るためだよ」と答えてあげたいと思い、『源氏物語』を通じて、本を手に取ることで体験は無限大になることを示そうとした一文。「今の私たちもまた、別の社会規範にとらわれているのでは」や「自分は、たまたま今という時代に生きているにすぎない」という言葉には心底共感。 「芸人でテレビとかに出ているから、こうして本も出してもらえる。 ワシより、もっと努力して、出版にふさわしいものを書いている人もおるはず」 と謙虚なヒコロヒーさん。(中略) 芸人とか関係なく、スゴイ書き手がここにおる! というのが私の偽らざる思いだ。(p.150)ヒコロヒーさんの言葉の中の「ワシ」とか「おるはず」はまだしも、俵さんが主語である文中の「ここにおる」には「えっ?」となってしまいました。調べてみると、ヒコロヒーさんは愛媛県出身で、近畿大学中退、松竹芸能大阪養成所卒業。まぁ、これは私の中では想定内の事柄で、関西弁や伊予弁が出てくるのは当然のことかと。一方、俵さんの方は、大阪府北河内郡門真町(現:門真市)の生まれで、四條畷市で幼少期を過ごし、中学生のときに福井県武生市(現:越前市)に移住されていました。何と、私が生誕後最初の記憶が残っている時期に住んでいた町で、俵さんは生まれ、私が3年間通った高校のある町で、幼少期を過ごされていたと知り本当にビックリでした。 人と話すとき、SNSに何かを書き込むとき、 何を言うかと同じくらい、何を言わないかを考える。 誰に向けての言葉なのかを意識する。 発してしまう前に、一呼吸おいて確認したい。(p.184)この部分を読んだ時に、まず頭に浮かんだのは、「何を語るかが知性、何を語らずにいるかが品性、と申します」という言葉。『ふつつかな悪女ではございますが 8』の中で、主人公の玲琳が発した言葉ですが、相通ずるものがあるのではないでしょうか。 額面通りに受けとって腹を立てるか、背景を感じとって労わるかで、 人と人との関係は変化してゆく。 そういうことの積み重ねが、日々の暮らしなのだ。(p.229)これも、とても深く考えさせられ、反省させられたところ。表面面だけでなく、そこに潜む思いをきちんと推し量れる人でありたいものです。そして、本著の中で最も印象に残ったのは、『説明できないわからない気落ちがあるのはなんで?』の質問に対する次の答えでした。 身もふたもないことを言うと、実は言葉で100パーセント気持ちを説明するのは不可能だ。 でも、それは言葉が無力だということではない(中略) 基本、言葉は、世界と1対1で対応しているのではなくて、 ざっくりとした目印だと知っておくといいと思う(中略) モノの名前を表す名詞でさえこうなのだから、 まして人の心という目に見えないものを表す言葉が、 すべてを言い尽くせないのは当然のことだろう(中略) 説明できないってことをわかったうえで、いくつかの目印を集めて、 だいたいこんな感じなんですと伝える努力をすることが、 コミュニケーションだし表現ということなのだ。(p.128)
2026.05.06
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みをつくし料理帖の第4弾。 冒頭では、大奥への奉公に備える美緒に、澪が包丁使いを教えることに。 さらに、身分の高い武家が縁組前の聞き合わせをしているような動きもあって、 源斉に心を寄せる美緒は、とても心穏やかではいられませんでしたが…… ***花嫁御寮-ははきぎ飯小松原が店に落としていったのは、地膚子というほうき草(ははきぎ)の実を乾燥させた薬種。澪は、それを料理に使おうと丹念に洗っていると、江戸紫の頭巾を被った女性に声を掛けられる。日を置いて現れた女性は、自身とその実との関りについて語り、小松原は息子だと打ち明ける。後日、小松原が店に姿を現した際、澪は「お持ち帰りになって、お母上に」とその実を差し出す。友待つ雪-里の白雪清右衛門があさひ太夫を題材に戯作を書こうと吉原を探り、翁屋に売飛ばした女衒を突き止める。清右衛門と女衒・卯吉のやり取りを聞きつけた又次は、清右衛門を殴り倒し、卯吉の悪行を暴露。澪は、旨い蕪料理を考えれば褒美をくれるという清右衛門の言葉を思い出し、執筆を断念させる。清右衛門は、天満一兆庵を再建し、身請け銭・4千両を用意して吉原から出してやれと助言する。寒紅-ひょっとこ温寿司おりょうは、夫・伊佐三が新宿に詰め始めて以来お牧という茶屋娘に入れあげてると聞かされる。それから伊佐三は一度姿を見せたが、その後お牧が現れおりょうに伊佐三と別れてくれと言う。さらに、お牧は太一を誘拐、おりょうは離婚を決意するが、伊佐三はやっと真相を明かす。太一の声が元に戻るようにと、伊佐三は誰にも知られぬよう帝釈天に百日詣の願を掛けていた。今朝の春-寒鰆の昆布締め版元の聖観堂が、登龍楼とつる屋に料理対決を提案、その結果で年内に料理番付を出すことに。競い合う食材は「寒鰆」、大坂では春が旬の魚を様々な調理方法で堪能するが、冬は勝手が違う。小松原のことが色々と気になる澪は、出刃包丁で左手人差し指と中指を傷つけ縫うことに。それでも、澪は寒鰆の昆布締めに辿り着くが、大関位を得ることは出来なかった。 *** 「日本橋伊勢屋の娘ならまだしも、何の後ろ盾もない、それも女料理人では話にならぬ。 そなたの気持ちは知らぬが、私は母として、さような縁組を許すわけにはいかぬのです。 どうあっても、許すわけには」 「武家の格式とはそうしたもの。なれど……」 「精進を厭わぬ心ばえ、決めたことをやり通す芯の強さ、加えて心根の温かさ。 そうそう居る娘ではない。 あれのひとを見る目の確かさを、今度ほど誇りに思うたことはない」(p.62)澪はすっかり諦めモードですが、小松原の母親の言葉からは、僅かながらも一筋の光明が……でも、実際のところは、天満一兆庵の再建以上に、相当難しいところではありましょう。それでも、髙田さんなら、きっと良い収め方をしてくれるはず。それを信じて、この先の展開を楽しんで読み進めていきたいと思います。
2026.05.02
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