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吟遊映人ア・ラ・カルト(2012) 吟遊映人のブログでは、今年から新たに【読書案内】の記事もアップするようになり、私個人的にはとても充実したブログ更新の一年になりました。映画感想の記事については、後半からややスタミナ切れで、マンネリ気味となりましたが、それでもどうにか一本一本新たな発見はないかと、自分なりの方法で鑑賞することができました。何でもそうですが、スタート時というのは準備良し、意気込み良し、エンジンフル回転で勢いに乗ったところまでは順調です。問題はその後、単調に続く道はドライバーに睡魔が襲います。そういう時は、急がず、焦らず、充分な休養をとることです。休養は決して怠惰とは違うので、お正月は思う存分ぼんやりし、ゴロゴロしましょう。(笑)さて、この年末に来て政治が動きました。これまで野党に転落していた自民党が政権を奪還し、安倍内閣が発足しました。今後の展開が気になるところですが、吟遊映人は踊らされるのに懲りたこともあり、これまでどおりのスタンスをとっていきたいと思います。コツコツと真面目にやっていくことが美徳だと思い込んでいる私は、あるいは時代遅れを露呈しているようなものかもしれません。要領の悪い生き方を無様にさらしているのかもしれません。しかし、私のような生き方があっても良いのでは?と思うわけです。人は皆、千差万別ですから。吟遊映人が映画感想や読書案内、あるいは風景写真や様々な詩歌をアップするのは、全て、自己陶酔です。(笑)自分を慰撫するための行為なのです。他人様に自慢するまでのレベルには達していませんが、それでも通りすがりにご覧いただけたら本当に嬉しい限りです。また、こんなつたないサイトをお気に入りに登録していただいている方々にも、深く感謝致します。ブログの管理上、コメントやTBの受付は一切しておりませんが、どうか皆様、ご容赦下さい。今年も一年、吟遊映人をごひいきにしていただきまして、本当にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。合掌また見つかった、何が、映画が、小説が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2012.12.31

【樋口一葉/にごりえ】◆明治の娼妓のコイバナ、そして人情沙汰読書家を気取る方々の中にも、さすがに旧仮名遣いは苦手とされる方もおられることだろう。特に樋口一葉なんて、文章に丸がついていないし改行もない。何やら伝聞口調でつらつらと書かれているので、本音を言ってしまえば読みづらい。ありがたいことに最近では、読書離れを回避するためとか、少しでも古典に触れる機会を増やすためとかで判りやすい現代語訳が出ているので、樋口一葉の作品は本当に身近な存在となった。平成を生きていると、昭和という時代はなんだかものすごく遠い昔のような気さえして来る。だが『にごりえ』が舞台となっているのは明治なのだ。昔どころじゃない、大昔のコイバナだ。はっきり言って人情沙汰の話だから、現代なら『金曜日の妻たちへ』と『火曜サスペンス』を足して2で割ったようなドラマ、と言ってしまったら失礼になるだろうか?それはともかく、遊郭で働く娼妓、しかも看板娘のお話だ。樋口一葉は24歳で亡くなっているが、このような花柳界を舞台にした小説を書くところを見ると、知り合いか誰か、この世界の水に浸かっていた人物がいたのであろうか?明治のお話だなどと侮ってはいけない。風俗嬢に入れあげる殿方は現代にもいるはず。お店の女の子に好かれたいがため、借金までして貢ぐ方もおられるだろう。また、度重なるお店通いにシビレを切らした細君が、離婚話を持ちかける騒動だってあるに違いない。そんな俗っぽい世界観を、樋口一葉は明治女のセンスで書き綴った。それを優れた文学だと言ってしまうと、何やら昔の人が書いた小説はどれもすばらしいものになってしまうので、あまり大げさには言いたくはない。逆に、最近のケータイ小説に始まるライトノベルなど、平成生まれの女子が創作した作品だって、この先もしかしたら樋口一葉みたいな存在になるかもしれないのだから、十把一からげには評価できないのだ。ただ、『にごりえ』を読んでつくづく思うのは、作家というものは独自のリズムを持つものなのだということ。この言語にこだわったリズムを持ち合わせなければ、単なる誰かの“体験談”とか“手記”みたいなもので終わってしまう。樋口一葉の凄いところは、知ってか知らずか、このリズムを自然と生み出した点にあるかもしれない。24歳という若さで亡くなっているのが、実に惜しい才能ではある。『にごりえ』樋口一葉・著☆次回(読書案内No.30)は南木佳士の『阿弥陀堂だより』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの■No.24宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!■No.25岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話■No.26柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?■No.27宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし■No.28向田邦子/阿修羅のごとく いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ ◆番外篇.3芥川龍之介と菊池寛 唯ぼんやりとした不安、ハナはこちらなり。
2012.12.29

【向田邦子/阿修羅のごとく】◆いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ向田作品の特徴は、なんと言っても“ザ・オンナ”という点にあるだろう。女性の性質なんて、古今東西それほど大きく変化はない。向田の描く女性が昭和のオンナだからと言って、平成を生きる女性に当てはまらないわけがないのだから。『阿修羅のごとく』は、そのタイトルどおり、女性には阿修羅像のようにいくつもの側面を持ち合わせていることを、軽快なタッチで表現している。作中では、四人の姉妹が登場するのだが、たとえ姉妹でもそれぞれに性格が異なり、くっついたり離れたりしながら上手くバランスを取っている。おもしろいのは皆が皆、異性のことで悩み苦しみ抜いていることだ。誰一人として世相を嘆いたり、物価上昇に物申したり、あるいは人生の意味や意義を問うたりしていない。長女は不倫、次女は夫の浮気に悩み、三女は好きな男の前では素直になれず、四女はボクサーと結婚するものの夫が失明の危機にさらされる、という人間模様だ。さらにこの四姉妹の父親にも、年の離れた愛人がいる。母親は知ってか知らずか、黙って耐えている。この愛憎劇は、複雑なようで実は世間にはありがちな題材を物語にしていると言える。その分、作品が平坦にならないのは、それぞれが抱えている悩みを我が事として、あるいは女の業として全てを受け入れている点にスポットが当てられているからではなかろうか。無論、積もる愚痴や厭味を見っともなく言い争うシーンは、あちこちに出て来る。血を分けた姉妹と言えども、一たび衝突すれば、小憎たらしい存在ともなりうるわけだ。『阿修羅のごとく』で意外な展開だと思ったのは、四姉妹の母親が脳卒中であっけなく急逝してしまうところだ。さらに残された父親は、晴れて愛人と障りなく交際することになるかに思えたのだが、若い愛人は別の男との結婚に踏み切ってしまう。父親は、妻を亡くした後、娘たちのことで気を揉み、さらには自分のことでも張り合いを失くし、どこか虚ろな結末となっているのだ。私が向田作品をこよなく愛する所以は、そこらへんにある。つまり、全ては“因果応報”なのだと。誰かを傷つければ、必ず自分も傷つけられる。巡り巡って必ず自分のところにかえって来るというわけだ。また、人生とは儚い。そう易々とは、順風満帆にはいかない。楽あれば苦あり、苦あれば楽あり。それが人生、これが人生。この小説には、正統派のホームドラマが描かれている。ここに登場する男女の絶妙な機微に触れて、グッと来るのは、やっぱり三十代後半以上の女性限定になるかもしれない。(本当は若い人にもおすすめしたいのだが・・・)『阿修羅のごとく』向田邦子・著☆次回(読書案内No.29)は樋口一葉の『にごりえ』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの■No.24宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!■No.25岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話■No.26柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?■No.27宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ ◆番外篇.3菊池寛、選挙に出る! 唯ぼんやりとした不安、ハナはこちらなり。
2012.12.26

【読書案内/番外篇.3】この頃ボクは文ちやんがお菓子なら頭から食べてしまひたい位可愛いい気がします。さてもこのスットンキョウなる一文や如何に?これが人生の最後には、「唯ぼんやりとした不安」に変わるのです。「ボク」とは芥川龍之介「文ちゃん」は塚本文(後の芥川夫人)、つまり掲文は文豪 芥川龍之介のラブレターなのです♪ボクは(笑)、上毛新聞のコラム 三山春秋で知りました。ちなみに、三山春秋は芥川の恋文から衆議院選挙結果に導いており、筆致もさることながらその発想力に感服しました!詩歌や古哲の言葉などを導線にして本題を展開する手法は、新聞各社の常套手段なのですが、それでも大芥川の恋文から先の選挙結果を論じるのには驚きました(汗)それにしても芥川のメロメロぶりが如実に表れており、後世の我々はこうやって微笑みながら話の種に出来るのですが、同じ笑いでも当の芥川は彼岸で苦虫をつぶしたような苦笑でしょうね。「いやはや面目ない・・」左手を軽くあごにつけ、恐縮しきる芥川を容易に想像できるのです。誠に難儀なことではありますが、それにしても、やがては「唯ぼんやりとした不安」そう書き残して自ら最期を迎える芥川を想うと、人というのはわからないものですねぇ。まさに物書きをして、事実は小説より奇なり、それを身をもって教えてくれたようなものです。ときに志ん生師の落語に『そんなこといったってハナ(最初)はこちらなんですから』というくだりがあるのですが、ぼんやりとした不安もハナは頭から食べてしまいたいからはじまるわけで、とどのつまりは恋文も遺書も出所は一緒、志ん生師又曰く『まぁ、そういうことですな』さて、転じて我が菊池寛先生(笑)先生はというと、それより先に病の床で芥川宛に遺書(のような走り書き!)をしたためました。殊勝なことよと思いますが、実際のところは病から復活(汗)し、ナント芥川の弔辞を読む顛末となりました(汗)菊池寛が「芥川龍之介君よ」と読み上げたまま、慟哭激しく二の句継ぐことしばしかなわず、は有名な話です。菊池寛の弔辞が、文章とともにそれほど劇的であったというわけですね。とはいえ文芸秘話には、弔辞の文章が短すぎて間が持てそうもなかったので演出した、とありました(笑)恋人は捨てきれるが、恋文はちよつと捨てきれぬものだ 高田保~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの■No.24宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!■No.25岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話■No.26柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?■No.27宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.24

【クリムゾン・リバー2】「フィリップは俺の兄だ。酒は飲まず、外出もしなかった。かつては“神童”と呼ばれたこともあった。まさか壁に埋め込まれるとは・・・ノストラダムスの埋葬と同じだ。なぜノストラダムスは壁に埋められたと思う?」「知りません」「人が(ノストラダムスの)墓の上を歩かんようにだ」なんでもそうだが、初っ端の作品が思いの外成功すると、二番手三番手と、続々とシリーズ化する傾向にある。『クリムゾン・リバー2』も、前作(クリムゾン・リバー)の大ヒットにより続編として製作されたものだ。しかしながら、前作はベストセラー小説を映画化したものであったのに対し、2作目は完全に原作とは離れた作品に仕上がっている。脚本はリュック・ベッソンが担当していて、さすがにド派手なアクション・シーンは満載だ。このリュック・ベッソンの起用は賛否両論分かれるようだが、まずまずの出来具合だと思う。前作とは比べものにならないほどの激しいアクション・シーンは視聴者を飽きさせないし、「このあとどうなっちゃうんだろう?」というドキドキハラハラ感に溢れている。一方、私のような本物のミステリー好きには少し物足りなさを感じるかもしれない。十二使徒と同名の人々が次々と殺害されていく理由が明らかにされておらず、突飛な展開に思考が追いついていかない。また、イエス・キリストにそっくりの男が重傷を負って病院に運ばれるのだが、そのあたりのプロセスが混乱ぎみだ。さらには、フランス映画らしからぬドタバタ感に、ちょっとうんざりするかもしれない。 フランス・ロレーヌ地方にあるモンタナス派教会の修道院において、新人の修道士が13号室の部屋で祈りを捧げようとしたところ、壁に掲げられたキリスト像から血が流れ出て来た。さっそくパリから現場に駆けつけたニーマンス警視が捜査したところ、なんと壁の内側に何者かの死体が埋め込まれていることが判明する。一方、別件の麻薬捜査の最中だった若手刑事のレダは、イエス・キリストに似た傷だらけの男と遭遇し、急遽、救急車を呼ぶことにする。入院中のイエス似の男の様子を見ようと、レダが病室まで行く途中、修道衣姿の不審な男を見かける。慌てて病室をのぞくと、イエス似の男は生命維持装置を切られ、仮死状態となっているではないか。レダはすぐさま怪しい修道衣姿の男の後を追うのだった。主人公ニーマンス役に扮するのはジャン・レノで変わらないが、相棒役のヴァンサン・カッセルは登場せず、代わりにブノワ・マジメルが若手刑事レダ役として出演。カッセルほど知名度は高くないが、演技は安心して見ていられるし、ルックスもかなり良い。見どころは、修道士の超人的な運動能力で、屋根から屋根へ飛び移り、高い塀をよじ登ったり飛び越えたりと、見事なパフォーマンスだ。また、ニーマンスとレダが地下で囚われの身となった時、からくりが動き始めてそこらじゅうから水が溢れ出て来る。そんな押し寄せる水からの脱出シーンもまた刺激的だ。フランス映画では珍しい、アクション満載のサスペンス・ミステリー映画なのだ。※前作『クリムゾン・リバー』はコチラから。2004年公開【監督】オリヴィエ・ダアン 【出演】ジャン・レノ、ブノワ・マジメルまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2012.12.23

【宮尾登美子/櫂】◆妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべしこの小説は、言うまでもなく著者・宮尾登美子の自伝小説である。土佐で生まれ育った宮尾が、一見華やかな花柳界の裏側や、生き地獄のような貧民窟の様子を、ありのままに描いている。それはもう想像を絶する世界で、こういう特殊な環境にいた人でなければここまで詳細を語るのは難しいだろう。時代は大正から昭和戦前までのことだが、ここに登場する貧民窟は、何も高知のこの場所に限定してあったわけじゃないだろう。おそらく貧しい日本の各地に存在したに違いない。長い棟割長屋に住む子どもたちは皆、覇気がなく、虱だらけの頭でボサボサにし、猿股も腰巻も着けていないのに何の恥じらいもない。老婆は出入口の傍にある便壺に、他人の目も気にせず小水の音を立てる。よそ者が一歩間違えてその地域に迷い込んでしまったら、一面に漂う悪臭に一分と我慢できないところなのだ。一方、華やかな花柳界を牛耳る元締めは、抱えの娼妓が妊娠しても臨月まで客を取らせ、流産しても商売を休ませないという血も涙もない労働体系を取っている。それはもう生き地獄のような世界なのだ。人は皆、多かれ少なかれ苦悩を抱えて生きている。だが、現代を生きる我々は、憲法によって基本的人権の尊重が保障されている。なんとありがたいことか! 同じ人間、同じ日本人でありながら、わずかに生きる時代が違うことで、極貧に喘ぎ、人としての存在価値すら危ぶまれる境遇に身を落とさねばならなかったかもしれないのだ。今は本当に女性の立場が強くなった。以前は考えられなかった男性の領域にもどんどん進出し、女性には対等な職種も与えられるようになった。女性はその性差によって、生まれながらにして男性の下に置かれ、嫁いでは夫に仕え、老いては子(長男)に仕えた。三度の食事も温かいご飯にはありつけず、夫と夫の親、そして子どもらが済ませてから漸く冷や飯をかきこむのが日常だった。そんな性差を小説の内側から垣間見てしまうと、なんともやりきれない気持ちでいっぱいになる。『櫂』は、決してジェンダー論を問う小説ではない。ただ事実を淡々と、そしてドラマチックに追うものだ。そこに鮮やかに浮かび上がる高知の下町の光景や風物が、現代を生きる我々の胸に揺さぶりをかける。必死に生き抜く女たちの哀切極まりない嘆きが聞こえてくる。読後は、口先と暴力に頼む男たちの虚しい性に、改めて人の業を見たような気になる。大正~昭和戦前期を知る作品だ。『櫂』宮尾登美子・著☆次回(読書案内No.28)は向田邦子の『阿修羅のごとく』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの■No.24宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!■No.25岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話■No.26柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.22

側に柿くふ人を恨みけり 正岡子規雪に埋もれる柿は何となく豪気を感じます。そして因縁というか怨念もね(^^)揚句は子規が明治三十二年に詠んだ「胃痛 八句」の一つです。つまり胃痛の所以で、大好物の柿を食せないことを詠んだ悲嘆の句というわけなのです。それにしても、胃痛に苦しむ子規の脇で大胆にも柿を食べるのはいったいドコの誰なのかしらん?鈍感なのか大胆力なのか・・・(笑)さて、子規が食べたくても食べられない柿が雪に埋もれています。そもそも、今時分まで残った柿なるは、百舌鳥や雀に見向きもされなかったということです!ナントも、因縁であり子規の怨念を感じるではありませんか(^o^)志ん生師「強情灸」のサゲは「五右衛門も熱かっただろうな」ですが、雪に埋もれた柿を見るにつけ「子規も食べたかっただろうな」そう思った次第です♪ほかの悲嘆句です。子規の恨みをお感じください(笑)◆柿くはぬ 病に柿を もらひけり◆柿くはぬ 腹にまぐろの うまさ哉◆癒えんとして 柿くはれぬそ 小淋しき
2012.12.21

【柳美里/水辺のゆりかご】◆包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?現代の作家で、しかも女性のそれでは、どれだけ我が身について赤裸々に語れるだろうか? 激動の昭和を生きた宮尾登美子や、萩原朔太郎の娘・葉子などの著した自叙伝は、言うまでもなく過酷で壮絶な自分史を披露した作品である。だが最近の作家は、おそらくそうした激しい生き様を披露するのは難しいのではなかろうか? 食べる物にも困って我が身を売り、わずかな賃金を得るとか、暴力亭主に全身を殴られ蹴られても、我慢して我が子を育て抜くとか、ばく大な借金を残して亡くなった親族の連帯保証人になっていたとか。なかなかそういう経験をする機会にも恵まれず、また、恵まれて(?)も当事者は文才がなかったりする。だからちまたで流行るのは、趣向を凝らした恋愛小説だったり、手の込んだトリックを披露する推理サスペンス小説だったりする。さて、『水辺のゆりかご』だが、これは著者の環境からして日本人にガツンと一撃を食らわすほどのインパクトがある。まず、柳美里は言わずと知れた在日韓国人であるということ。複雑な家庭環境にあり、学校でもいじめにあう。身の置き所のない、折れそうな心を引き摺りながら、四六時中、苦悩と葛藤に苛まれているのだ。自暴自棄になった女子高生の柳美里は、見ず知らずの男と車に乗り、事に及び、男から二千円をもらう。わずか二千円を、だ。柳美里の芥川賞受賞作でもある『家族シネマ』を読んでも分かることだが、物書きとして凄いと思うのは、何と言っても事実に基づいたリアリティを追求しているところだろう。これが単なる作り話だったら、読者には人生の絶望を訴えているとしか思えない狂信的な暗さだ。ところがそんな過酷で壮絶な幼年期~青年期を送っていた韓国人女性も、今や現代日本を代表する作家の一人として挙げられるのだから、才能というものはどこでどう開花するものなのか、全くの未知だ。ただ、これは私個人としての考えだが、やはり柳美里は容姿に恵まれたのが幸いしたと思う。どことなく影のある美しさ、目元の涼しさ、細身で頼りなげな肩は、男性の視線を釘付けにしないわけがない。無論、彼女の豊富な経験知と、刃物のような鋭さを持った媚びない思考は、女性にも支持される所以だ。結果、『水辺のゆりかご』は、自身の暴露本でありながら自伝小説として大変完成度の高い作品に仕上げられている。現代の女性作家に求められるのは、柳美里のような大胆かつ不敵な潔さを持った作風かもしれない。『水辺のゆりかご』柳美里・著☆次回(読書案内No.27)は宮尾登美子の『櫂』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの■No.24宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!■No.25岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.19

秋海棠妹が好みの小庭哉 正岡子規秋の画像を整理していたら秋海棠の小花が心を和ませてくれました(^^)子規は晩年この小花をよく詠んでいます。病床の身に、健気で可憐な小花が大きな慰みとなったのでしょうね。揚句は、その情景を客観的に理解できるのですが、加えて律さんが子規に献身し子規は心からの感謝を捧げるという、兄妹の気高い精神性も読んでとれ、ほんわかとした句ではありますが、子規の最期を知るにつけ味わうにつれて涙がこみ上げてくるのです。そういえば、昨年の師走にはNHKで「坂の上の雲」があり、とても楽しい思いをしました(^^)ドラマでは子規を香川照之さんが、妹の律を菅野美穂さんが演じておりました。どちらも迫真に迫る好演で、香川さんの子規は「これこそが子規である」と思わされました。この世ではすでに直接的に子規を知る者は誰もありませんが、文献を通して子規を知る者は「きっと子規はこうであった」と誰もがそう思ったのではないでしょうか。また一句。美女立テリ 秋海棠ノ 如キカナどんな美女だったのかな。何だか、現実ではなくて病床で想像しているような気がします。子規の限りない生命力を感じる一句なのです。そして佐藤春夫御大。サラサラと筆で書いたことでしょう。冷艶愛すべく嫣然一笑ちなみに永井荷風もこの花をこよなく愛しました。巷に何気なく咲く花にこそ、文豪諸兄は特別の情感を得たのでしょう。コチラとしては秋海棠で師走の日が暮れ、誠に豊饒たる気分ではあるのですが、師も走るこの時季に我ながらいたって暢気なことなのでありました♪
2012.12.18

【クリムゾン・リバー】「悪夢の始まりはゲルノンでした・・・」「ゲルノン・・・なぜ警察に連絡しなかったんですか?」「相手は悪魔です。警察など何の力に?!・・・娘のことは手遅れでした」年末のこういう時期に見る内容じゃないと、拒否反応を示す方がいたら心からごめんなさい。でも私はこういうのが好きなのだ。自分でも何で好きなのかは深く考えたこともないけれど、こういう猟奇事件を扱った、衝撃的で緊張感のある作品は見終わった後、「自分はこんなに恵まれた環境の中にいる! ありがたや、ありがたや・・・(合掌)」という気持ちになるからかもしれない。『クリムゾン・リバー』は、フランスでベストセラーになった同名小説を映画化したものらしい。(ウィキペディア参照)これまで『羊たちの沈黙』とか『セブン』などを見ても、原作を読んでみたいとまでは思わなかったが、この『クリムゾン・リバー』を見て初めて原作を読んでみたいと思った。というのは、ところどころ原作を端折っているのか、「なんで?」と不思議に思う場面が多く、想像力を働かせないとストーリー展開に追いついていけないという失態を犯してしまうからだ。また、フランス人というのはある意味日本人に似ているのか、ハッキリとした意思表示のある表情を見せない人種に思えてしまった。なにしろ役者たちみんながみんな、雲行きの怪しい表情で、何をどう考えているのか読み取りづらい表情なのだ。舞台はフランス、アルプス山麓にある大学町ゲルノンにおいて、裸で目がくり抜かれ、手首が切断されている変死体が見つかった。しかも胎児のような格好で縛られている。その捜査を担当することになったのは、パリから派遣されたピエール・ニーマンス警視で、雪深いこの町の閉鎖的な雰囲気に、暗い影を感じる。一方、ゲルノンから遠く離れた田舎町ザルザックでは、20年前に亡くなった小学生の女の子の墓を、何者かが荒らすという事件が起きる。またその少女の在籍した小学校では、少女に関する写真や資料などが盗まれていた。こちらの事件を担当するのは、まだ若手のマックス・ケルケリアン刑事で、捜査をすすめていくうちに、ゲルノンで起こった事件とどうやら関係があることに気づくのだった。こういうゾクゾクするような猟奇モノは大好きなのだが、別の事件を追う刑事がお互いに二つの事件の関連性に気づき、パートナーを組んで一緒に解決していくプロセスを、もう少し具体的に表現しても良いような気がした。例えば若手刑事の方が、ニーマンス警視のこれまでの伝説的な武勇伝に尊敬の念を抱いていて、ひと目で一緒に捜査をしたくなったとか、あるいはニーマンス警視が元警察学校の教官で、若手刑事の恩師だったとか。ゲルノン大学での裏の顔についても、何で優生学を研究する必要があったのか? それがどんな利益をもたらすものなのか?そういう背景が分かってくると、私のようなサスペンス好きにはもっともっと楽しめたかもしれない。主人公ニーマンス警視に扮するジャン・レノ、それに若手刑事ケルケリアンに扮するヴァンサン・カッセルの、息の合った演技も見逃せない。ミステリアスでスリリングでホラー色がところどころに感じられるこの作品は、きっとサスペンス好きにはたまらない刺激になると思う。おすすめ映画だ。~追記~続編の『クリムゾン・リバー2』はコチラから。2000年(仏)、2001年(日)公開【監督】マチュー・カソヴィッツ【出演】ジャン・レノ、ヴァンサン・カッセルまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2012.12.16

【岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ】◆女郎が寝物語に話す、身の上話この作品はいわゆる怪談で、角川ホラー文庫に収められている。表題作である『ぼっけぇ、きょうてぇ』の他に、『密告箱』『あまぞわい』『依って件の如し』などの短編が全部で4作収録されている。著者の岩井志麻子本人が岡山県の出身のせいか、全編セリフは岡山弁で語られているのだが、ローカル色が濃く、よりいっそうおどろおどろしい。松本清張の書いた『闇に駆ける猟銃』にもあるように、地域差はあるが、昔の岡山県には陰惨な習俗や貧困による退廃的な環境を余儀なくされていた状況があった。そんな中、民話とも怪談ともつかぬ伝説が、人々の口から口へと伝わっていったのかもしれない。あるいは著者が、過去に起きた摩訶不思議な事件をもとに、このような背筋の凍りつく怪談を創作したのかもしれない。いずれにしても、フィクションとノンフィクションの狭間を漂う絶妙な筆力に、読者は思わず引き摺り込まれてしまうのだから怖い。さて、表題作の『ぼっけぇ、きょうてぇ』だが、この作品は女郎宿の女が、客と事に及んだ後、寝物語として自分の身の上話を訊かせるという語り手の手法を取っている。岡山県は津山の出身だという女郎は、貧乏人の子として生まれ、幼いころは飢えとの闘いだったと話す。母親は産婆を営んでいたが、それも間引き専業で、飢饉の年に孕んでしまった妊婦の腹から引きずり出す役目を生業としていたと。赤子を引きずり出す前に、まず妊婦には糞を出させる。その糞をひったタライの中に、引きずり出した子も投げ入れる。この女郎は幼いころ、そんな産婆である母の手伝いとして、妊婦が暴れないよう手足を押さえつける役目を果たしていたのだと話す。これほど残酷な行為に及ぶ前に、まず子を作らないように努めるべきだと現代人なら考えるだろう。だが、飢えて痩せこけた体でも、人は男女の情交を止められないのだ。これが人の業というものなのだ。当時、岡山県の北部は生産的にも不毛に近い山岳地帯で、その土地柄ゆえ非常に貧しかったようだ。そういう背景も踏まえて、この怪談を読むと、よりいっそう恐怖が増す。この作品のテーマは、ズバリ、人の業であろう。怪奇現象とか幽霊とか、あるいは悪魔などそれはもちろん怖いだろう。だが何よりも怖いのは、人間なのだと訴える。それこそが真理だからだ。『ぼっけぇ、きょうてぇ』は、日本ホラー小説大賞を受賞した正真正銘のホラー小説だが、その一方で、山本周五郎賞も受賞している。怪談とはいえ、現代の怪奇文学にまで到達した優れものなのだ。※「ぼっけぇ、きょうてぇ」とは、岡山地方の方言で、「とても、怖い」の意。【本作の断り書きによる】『ぼっけぇ、きょうてぇ』岩井志麻子・著☆次回(読書案内No.26)は柳美里の『水辺のゆりかご』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの■No.24宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.15

志ん生に会えると春の黄泉の道 変哲(小沢昭一)師走としては近来稀に見る寒波に覆われた雪の日に小沢昭一氏は逝かれました。多才多芸で有名な氏は「変哲(へんてつ)」という俳号を有し、面白い句を残されていますが、掲句は数ある(笑)辞世句のうちのひとつです。この期に及んでどうなるかわからないからと、あらかじめ辞世を詠んでいるところが実にアッパレではありませんか!掲句の「春」は氏が望んでいたからです。「人間は生まれた日に死ぬべきもの」といい誕生日の4月6日を黄泉に旅立つ日と「想定」していたそうな。だからこういう辞世句もあります。出来すぎと思うわが世の春惜しむとはいえ小沢昭一なる御仁は、こと最期に及んで慌てるような薄っぺらな方ではありません。うかがい知る限り、氏は抜群の行動力と博覧強記なわけで、大胆力はそれによって具わり、そしてあの軽妙な語りが出来上がった、そういうことだと思います。中日新聞(中日春秋)に面白い記事がありました。『ある日、学習院高等科の生徒たちが一人芝居を見に来た。あまりに観劇マナーがいいので、数人を楽屋に招き入れた。いつものくだけた調子で応対したら、中の一人が帰りがけ小声で、「僕、アヤノミヤです」「母がファンです」。殿下と知りさすがに内心慌てたが、態度を豹変するのも…とそのままの口調で、「そうかい、じゃ、オッカサンによろしくね」。』こういうのを本当に胆が据わった人というのでしょう。「そうかい、じゃ、オッカサンによろしくね」このひと言は、あたかも光秀に命をとられんとする信長がまさにその時に別段慌てる風もなく、「是非もない」そう語ったのに比肩するほどの、後世に語り継ぐべき「ひと言」であり、大胆力を示す言葉だと思うのです。ところで、辞世に志ん生をひいてくれた事が私にとってはうれしい(^o^)限りです。志ん生はもちろん五代目古今亭志ん生のことであり、私が最も敬愛する落語家なのです(^^)いまごろ小沢さんは、彼岸で志ん生師の落語を聞いているのかなぁ。「師匠、むこう(此岸)で、演目を考えてきたんですがね」そういいながら懐から赤を入れた演目のリストを取り出して志ん生師に見せたりしてね。考えてみれば、むこう(彼岸)には志ん朝さんもいるわけだから、小沢氏にとってはまさに天国というわけです。談志が小さん師にたてついたら、やんわりと意見したりしてね。何だかむこう(彼岸)は楽しそうだぞぉ~ここはイッパツ「明日は天国のココロだぁ!」とほえてくださいね、小沢さん♪小沢昭一、享年八十三歳。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。~追記~「大声で歌う歌に、文化的な香りのするものはありませんな」小沢さんのひと言、時節柄「歌」を「演説」に置き換えてみると含蓄の深さがわかります♪
2012.12.13

【宮本輝/流転の海 第一部】◆戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!井上靖の『しろばんば』が、作者本人の幼年期~少年期までを描いた自叙伝だとすると、こちらの『流転の海』は、宮本輝の父親を主人公にした物語だ。だから、ご本人はやっとハイハイが出来るようになったぐらいの赤子としての登場だ。肉親を描く時の作家の心情とはいかなるものなのか、ちょっと興味をそそられる。なにしろ一番身近な存在ほど主観的になりがちで、下手をしたら家族愛の小説(自慢話の寄せ集め)に成り下がってしまうからだ。だがそんな心配は不要だ。さすがは芥川賞作家の宮本だけあって、息子の立場から描き出している箇所はどこにも見受けられない。驚くほど客観性に富んだ作品なのだ。主人公の松坂熊吾という商人が、大阪を舞台に、敗戦の痛手からたくましく立ち直っていくプロセスを克明に描いているのだが、それがまた物凄い強烈な個性の持ち主であり、底知れぬパワーを感じさせるものだ。この熊吾は好色で、ずいぶん遊んでいるようなのだが、どうにも子宝に恵まれない。ところが4人目の妻・房江との間にやっと念願の子に恵まれる。その子が何を隠そう、宮本輝というわけだ。(作中では伸仁という名前)この時、熊吾は44歳、房江が30歳だった。愛媛県出身の熊吾が大阪に出て、それこそ血眼になって働く姿に、日本人のルーツを感じる。我武者羅に働く男の勇姿は、それこそを日本男子の美徳とする大和魂を覚えるからだ。戦前は自動車部品を中国に輸出する事業を手掛けていたこともあり、中国人とも格別の付き合いがあった。だが戦争によってその交際も絶たれ、会社のビルも空襲で焼け野原になってしまった。そんな逆境の中で、熊吾は酷く日本人を嫌う。「熊吾は日本人でありながら、日本人が嫌いだった。不思議な民族のような気がするのであった。姑息で貧弱で残虐だ。そして思想というものを持っていない。武士道だとか軍国主義などは思想ではない。哲学でもない」これはおそらく、宮本輝自身の呟きでもあるはずだ。父・熊吾の声を借りて、平然と「わしは、日本人が嫌いじゃ」と言い放つセリフに嘘は感じられない。だが作者が言いたいのは単なる自己否定などではなく、戦争体験者の生の声を正確に記録しておくべく、いかに戦争というものが残虐非道であるか、日本を占領したアメリカがどれほどの悪行をはたらいたかを、物語のあらゆる場面に散りばめているわけなのだ。そんな仕事人間の熊吾が、後半に差し掛かってくると、にわかに、一人息子を溺愛する父親として描かれている。病弱な息子がなんとか丈夫な体になって欲しいと、切に願い、思い切って会社のある大阪の一等地を売り払い、空気の良い愛媛の田舎に引き上げる決心をするくだりは、ホロリとする。父とはおそらく、こういうものなのだ。『流転の海』は、作家・宮本輝をこの世に生み出した両親について、しっかりとした輪郭と表情を持った人物像として鮮やかに浮かび上がらせている。単なる自叙伝ではない壮大なドラマに、夜の更けるのも忘れてページをめくってしまう。これほど深みのあるストーリーテラーは、宮本輝以外に存在しない。万人におすすめだ。『流転の海 第一部』宮本輝・著☆次回(読書案内No.25)は岩井志麻子の『ぼっけぇ、きょうてい』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.12

日あたりや熟柿の如き心地あり 夏目漱石12月9日は漱石忌でした。大文豪に敬意を表し、拾い読みではありますが(汗)、小説を読み返し、そして俳句を目にしました。巷で漱石といえば小説家として有名でしょうが、私は俳人 漱石の方に興味があります。彼の俳句には遊び心が読んで取れるものが多くあり、それゆえ「本音」を感じるのです。つまり、等身大の夏目漱石そして人間 夏目漱石がそこにいるような感じるのです♪たとえば手元不如意を嘆く漱石です。染め直す古服もなし年の暮小説なら猫をもって窮状を語らせたかもしれませんが、俳句だと大文豪も胸のうちを素直に吐露できるようです。多分に正岡子規を意識してゆえのことかもしれませんね。そして開き直った漱石。「無いものは無いのだからしょうがない」キンスに拘泥など致しません。「そもそも、である。」そうひとくだりの後、一句詠みました。行年や仏ももとは凡夫なり則天去私とは、つまり踏み倒してやる、くらいの覚悟かもしれませんね(笑)そも、漱石は不信心というか宗教に関して斜に構えたところがあったようです。四国新聞の一日一言からの孫引きになりますが、漱石はこういう罰当たりです(笑)「海鼠を食ひ出した人は余程勇気と胆力を有して居る人でなくてはならぬ、少なくとも親鸞上人か日蓮上人位な剛気な人だ。」そう言っているようで、漱石にかかれば親鸞も日蓮もナマコに並ぶというわけです。蛇足ですが、先代の小さん師なら「宗論は どちらが負けても 釈迦の勝ち」かな(^^)ところでこちらの漱石は身につまされます。やかましき姑健なり年の暮ご母堂と奥様の不仲(いわゆる嫁姑の関係)は後世まで伝わるもので、一説には漱石大病の最大要因にあげられてもおります。漱石の胸中いかばかりか察するにあまりあります。とはいえそこは天下の大先生。「姑」を詠んで最後の逃げ(或いは保険)を仕掛けます!「姑」とは夫の母を指すもの。つまり奥様から見た「漱石の母」です。したがってこの句は、奥様が感じているであろう気持ちを漱石が詠んでいる、という立場であり、己がそう思っているかどうかは別問題、そういうことなのでしょう。サスガは漱石大先生(^o^)それにしても今朝は冷え込みました!寒がりの漱石先生は、こんな朝は大閉口したことでしょう(^^)寄り添へば冷たき瀬戸の火鉢かな
2012.12.11

ツァラトゥストラはかく語りき自然の大いなる営みの中に、圧倒的絶対的なものを見つけ、人間の卑小なるを思い知らされたとき、人には多少なりとも哲学的な思考が芽生えるものです。冬の或る日、ある場所。天気晴朗なれども、その孤高なる一木に「陽」の明るさを感じることはありませんでした。とはいえ、そこに「陰」なる影を感じることもく、それは人の一切の感情を拒絶した、ただ一木の存在あるのみでした。実は一興までに「アルプス交響曲」を聴きながらこの景色を眺めていました。次は同じくシュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」が続きます。その時、私の哲学的思念のスイッチが入りました(笑)ティンパニーは我が漫然の心に覚醒の楔を打ち込み、金管は嚢中の迷路を電光石火で突き進み、このごろでは錆びついていた哲学的思念回路に灯をともしたのです。私はとりとめもなく沈思黙考に耽りました・・・さて、シュトラウスがニーチェに刺激を受けて(というか、ツァラトゥストラ、はタイトルもそのまんまなのですがね・笑)この曲が生まれたのは明々白々です。きっとシュトラウスはニーチェを精読した後にツァラトゥストラを作曲したはずであり、彼もその哲学的な思惟をベースに譜面に向ったのであろう、私はそう確信します。ただそれはそれとして・・・「アルプス交響曲」も「ツァラトゥストラはかく語りき」もお気に入りの曲ですし、何よりシュトラウスはバイロイトにて敬愛してやまないワーグナーの「タンホイザー」を指揮したこともあり、彼は好きな作曲家の一人なのですが、新聞で気になるコラムを目にしました。▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼シュトラウスも少し変わった人だったのだろう。大芸術家なのに金の勘定ばかりしており、作曲家マーラーの妻アルマに「シュトラウスの頭の中にあるのはお金のことだけだった。四六時中、鉛筆を握って、収益を最後の1ペニヒに至るまで計算していた」と書かれた。ドレスデンで「サロメ」のリハーサルを終えて帰ってきたシュトラウスに息子が、「パパ、いくらもうかったの」と聞いたところ、「お前もやっと自分の息子になった」と言ったという逸話さえある。産経新聞 【from Editor】 2012.12.1 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼なんだかなぁ(>_
2012.12.10

【今そこにある危機】「なぜここへ来た?」「兵の救出に来た」「情報屋の君に何が出来る?」「・・・何が必要だ?」「ヘリだ」「ヘリコプターか・・・」この作品は、前作『パトリオット・ゲーム(記事はコチラから)』に続く、CIA諜報員のジャック・ライアンが活躍するサスペンス・ドラマだ。監督も同じフィリップ・ノイスが担当しているが、前作より『今そこにある危機』の方が、数段良く思えるのはなぜだろう?ストーリー展開も申し分ないし、爆発シーンなどの見せ場は、思わず映画であることを忘れてしまうほどだ。スケールは豊かだし、迫力はあるし、いやとにかくスゴイ。やっぱりハリウッド映画はこうでなくちゃと思わせる逸品なのだ。注目したいのは、クラーク役に扮するウィレム・デフォーだ。この役者さんが登場すると、全てこの人に持って行かれてしまうような快演だ。とにかく、舞台で培った豊かな表情とソツのない演技に、周囲が呑まれてしまうほどの勢いが感じられる。まずはウィレム・デフォーの、重厚にして迫力のある野性味を、じっくり堪能したいものだ。大統領の友人一家が、クルーザーの中で惨殺されているのが、沿岸警備隊によって発見される。どうやら犯人は、コロンビアの麻薬組織の者だと目星がつけられる。麻薬撲滅をマニュフェストに掲げて来た大統領は、急遽、CIAに対処措置を厳命する。 CIA諜報員のジャック・ライアンは、CIA副長官であるグリーアよりその代行を務めるよう依頼される。というのも、グリーアは癌を患い、入院を余儀なくされてしまったからだ。ライアンは捜査を続けるうちに、事件の背後にはとんでもない事実が隠されていることを突き止める。一方、大統領は隠密裏にCIA作戦担当副長官のリターと計り、議会の承認なしに他国に軍隊を派遣する報復作戦の承認書を与えるのだった。『今そこにある危機』は、サスペンス映画である前にアクション映画でもある。ハリソン・フォードが縦横無尽に駆け回って、役柄でもあるCIAとしての勇姿を見せつけてくれる。演技派のウィレム・デフォーとも充分に渡り合っていて、見ていて飽きさせない。こういう作品こそ、年末の家族団らんには持って来いの映画であろう。スリルあり、アクションありの、ハリウッドらしいハリウッド映画なのだ。※前作『パトリオット・ゲーム』はコチラです(^o^)1994年公開【原作】トム・クランシー【監督】フィリップ・ノイス【出演】ハリソン・フォード、ウィレム・デフォー
2012.12.09

【丸谷才一/鈍感な青年】』(文庫・樹影譚に収録)◆男女の営みは滑稽なもの丸谷才一の小説というのは、一貫して旧仮名遣いなので、慣れない者にとってはちょっと読みづらい。そのうち不思議と慣れて来るので、さほどの心配はいらないけれど。例えばこんな具合だ。「うん、ぢやあかういふのはどうだらう? 危険なことはないとぼくが約束する。それを君は信用する・・・」「さういふ約束つて、ぜんぜん信用できないんですつて」「それはまあ、さうだな」東大文学部卒の丸谷才一のことなので、作家としての信念なのか、あるいは何か理由があったに違いない。さて、『鈍感な青年』について。この作品は文春文庫から出ている『樹影譚』という文庫に収められている短編小説だ。表題作ではないが、3篇収められている短編の中で、とりわけ惹かれた一作である。何がそれほど興味をそそられたのかと言えば、やっぱり二十歳の生娘と二十四歳の童貞青年とのごくごく平凡な恋模様をつづっていることだろう。図書館で出会った若い二人が、自然ななりゆきでデートを楽しみ、やがて女が男のアパートについて行き、事に及ぶ。だがこの辺りがじれったい。なかなか上手くいかないのだ、アレが。女はもちろん、男だって初めての経験で、焦る焦る。女にとっても異物を体内に内包するのは勇気がいるし、男にとっても興味本位と欲望だけでは快楽にまでは及ばない。いろいろと段取り(?)が必要なのだから。その辺の経緯が、それは見事に(?)描写されている。ちまたに溢れる恋愛小説には書かれていない、本物の恋愛がこの作品には感じられる。男女の営みなんて、それほどオシャレなものではないし、むしろ滑稽であることの方が多いとさえ思う。そういうリアリティに富んだ恋模様を、丸谷才一は見事に確立している。『鈍感な青年』の作中には、主人公の男が、亡くなった親友のことを偲ぶシーンが出て来る。それは、亡き親友につれて来てもらった場所に、交際中の女性を伴って来たことに対する、ある種の感慨のようなものかもしれない。その辺りは読んでいると、しみじみとした気持ちにさせられる。様々な男女が織り成す人間模様なら、もっとドラマチックでしかも長編小説であった方がいいかもしれない。だが、平凡な一組の男女における、日常的にありがちな恋の側面を語るのだとしたら、この『鈍感な青年』は秀逸だ。また、わずかな時間で読み切れるのも有り難い。著者である丸谷才一氏は、誠に残念ながら、本年十月に鬼籍に入られた。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。『鈍感な青年』(樹影譚に収録)丸谷才一・著☆次回(読書案内No.24)は宮本輝の『流転の海(第一部)』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.08

【川上弘美/神様】◆現代における女性版カフカ?!中公文庫から出ているこの作品は、表題作である『神様』を筆頭に、全部で9つの短編小説が収められている。著者・川上弘美の初期の作品だ。『神様』を読んだ時、私は恐れをなした。いよいよ女性版カフカが現れたかと。「ある朝、グレーゴル・ザムザが不安な夢から目を覚ましたところ、ベッドのなかで、自分が途方もない虫に変わっているのに気がついた」(池内紀・訳より)この有名な冒頭から始まるのは、言わずと知れたカフカの『変身』である。「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである。歩いて20分ほどのところにある川原である。春先に鴫を見るために、行ったことはあったが、暑い季節にこうして弁当まで持っていくのは初めてである」これが川上弘美の『神様』の冒頭だ。お茶の水女子大卒の才媛は、こんなシュールレアリズムの世界を書くのかと恐れ入った。日本はやっぱり女流作家が文学を支えているのだと、つくづく思った。平安朝に花開いた源氏物語だって、紫式部という宮中の才媛が完成させた、日本最古にして最高の文学なのだし。なにしろ“くま”と弁当を持ってハイキングに出かけるというのは、もはや児童文学だけの世界ではないのだ。それは正に、ある朝起きたら虫に変わっていたというSFみたいな世界観を、文学にまで高めるのに成功したカフカと同種族のものではなかろうか?内容は至って簡単。主人公の女性(たぶん)と同じアパートに、くまが引っ越して来た。律儀なくまで、あいさつ回りにも来た。そのくまと、近くの川原までハイキングに出かけた。くまは、川にざぶざぶと入って魚を捕り、用意して来たまな板とナイフで器用に干物を作る。帰ると、くまから「抱擁を交わして欲しい」と頼まれ、くまと抱擁する。このような短いストーリーから何が浮かび上がるだろう? くまというのは擬人化されたものであって、実際は人間なのか? いや、違う。くまはくまだ。くまのニオイをかぎながら、主人公は抱擁されるのだから。奇妙なことに、主人公がくまと普通にデートすることをこれっぽっちも不思議に思っていないし、恐れも抱いていない。著者は淡々と、くまと主人公のピュアなデートを語り、主人公が寝る前に日記など書くところまで描いている。作風はとても風変わりだけど、どういうわけかノスタルジーな雰囲気に包まれている。作品の捉え方は十人十色。それぞれが思うことを胸に刻めば良いだろう。なにはともあれ、文学入門として最適だ。『神様』川上弘美・著☆次回(読書案内No.23)は丸谷才一の『樹影譚』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.05

『文芸家にも議席を与えよ読書階級の人は菊池寛氏を選べ』いよいよ本日、衆議院選の公示をむかえました!何かと騒々しい巷ですが、選挙戦も加わり師走も一層の活況を呈することでしょう。とはいえ、私はさほどに政治的な人間ではありませんから、選挙に熱を帯びることはありません(笑)かつてそういう層を称して「ノンポリ」と言ったのですが、それもすでに死語となりました(汗)ただ人を眺めて観察する事は大好きです♪だから選挙は少し離れたポジションから人を眺め、独り悦に入るのです(^^)あれやこれや論評を加え、そして人物評をメモしたり(笑)(これが結構楽しいのでだ・笑)さて、上記のアジテーション(これも死語か・汗)は、1928年の第1回普通選挙で菊池寛が社会民衆党から立候補した時の選挙ポスターに書かれた文言だそうです。先の毎日新聞の余禄で知りました。(こういうところは、毎日新聞の往時を感じます。)ナントも刺激的で扇情的ではありませんか!前半の文語と後半の命令調から格調と威厳を感じます。そして「読書階級」と訴求層を決めウチするあたりは、誠に合理的であり理にかなっていると思います。いわゆる、マスでないパーソナルな提案は、昨今にも通じる手法です(^o^)何より、どう見ても実質的な害がなさそうで、そこが実にいい(笑)はっきり申し上げまして・・・昨今の有象無象の政党に、菊池寛氏の爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいですねぇ。このへんをして、芥川賞と直木賞が現代まで続く文壇の大登竜門となったわけなのでしょう。菊池寛、大知恵者なり!(かな?・笑)とはいえ、ご本人は選挙に出たといっても別段「憂国の徒」でも「革命の士」でもあるわけがなく、腹に俗一物があっての立候補であったようで(笑)、そこがナントも菊池寛センセイらしくてよろしい。とどのつまり菊池寛という御仁は、もちろん直接知りうるわけはありませんが、画像左の相がすべてを物語るようなお人であった、そういうことでしょうか。いわゆる「人のいいおじさん」なのかと(笑)ちなみに、選挙結果はと申しますと・・・善戦むなしくセンセイは落選されました、とさ。それにしても、応援弁士に名だたる文豪を引き連れての演説(かな?)は、さぞや魅力的であったことでしょう。菊池寛がほえると横光利一を筆頭に川端康成と小林秀雄が「そうだそうだ」を連呼する情景は、是非見てみたいものです(^o^)余談ですが、演説終了後に聴衆から虚を付く質問を突きつけられた大センセイ。別段慌てることなく、かく申したそうな。『われ、口きかん(クチキカン)!』アッパレ菊池寛(キクチカン)、なんてね♪~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.12.04

1000回達成!なんと本日、こちらのブログを更新した回数が1000回となりました!つまり、1000件目の記事というわけです。毎回コツコツと続けて来た甲斐がありました。“継続は力なり”と申しますが、どこでどのような力となっているものか、実感もなく、ただその数字に感慨のようなものを覚えるのみです。『ただ過ぎに過ぐるもの 帆かけたる舟 人の齢 春 夏 秋 冬』友人の亡くなられたお母上が、40年もの長い間、毎日欠くことなく日記を書き綴っていたという話を聞いた時、思わず感嘆の声を漏らしてしまいました。しかし、続けるという行為は、なかなかどうして難しいことだと思うのです。私自身、たかだかノート1ページの記事を書くことが面倒くさくて仕方がない時もありました。べつに忙しいわけでもなく、他にやりたいことがあるわけでもないのですが、「私は更新するために記事を書いているわけじゃない」という自分に対する言い訳に負けてしまうわけです。ですが、こうして1000回という更新回数を目にした時、やっとここまで来たかという妙な達成感とともに、続けていくことの意義とか意味を理解したような気になりました。これもひとえに、こちらのブログをご覧いただいている方々、そして楽天ブログという力強いサイトをお貸しいただいているおかげです。心より御礼申し上げます。今後とも吟遊映人のブログを、よろしくお願い申し上げます。 ※吟遊映人はココからはじまりました(^^)
2012.12.03

【パトリオット・ゲーム】「おれが祖国アイルランドの仲間を売ると思うのか?! おれを分かってない」「分かってるさ」「あの二人が何をしようとおれは構わん。だが同胞を裏切るくらいなら自分で自分の頭を撃ち抜くよ!」「それが答えか・・・」ハリウッド・スターの誰もがまばゆりばかりのルックスと、長身と、現実と見紛うばかりの演技をするのかと言えば、それほどではないこともよく知られている。たとえば、ダスティン・ホフマンやロバート・デ・ニーロなんか、かなり背が低いし、普段着で無精髭を生やして、そこら辺をのそのそ歩いていると、誰にもバレないほど一般人に溶け込んでしまうらしいのだ。そういう意味で、この作品の主人公を演じたハリソン・フォードあたりも、かなり一般的(?)だと思うわけだ。無論、エキゾチックなルックスでブイブイ言わせているジョニー・デップばかりがイケメンではないことぐらい分かっている。だが、ハリソン・フォードのルックスは彫りの深い西欧人の中にあって、わりと一般的なのではと思う所以である。じゃあ何がこれほどまでにハリソン・フォードを息の長いハリウッド・スターたる地位に至らしめたのか?それはやっぱり、視聴者との距離間を感じさせない、ある意味、等身大の男性に徹しているからかもしれない。もちろん、演じている役柄は様々だ。だが、にじみ出る人柄とか持ち味は隠し切れない。ハリソン・フォードは常に常識のある、節度を持った役者としてハリウッドに君臨している。その証拠に、下積み時代の長かった彼は、一度役者を辞め、大工としての技術を身につけ、家のリフォームや家具造りをしていた。(ウィキペディア参照)それがまた職人技で、見事な腕前を持っており、業界ではその方面で有名になったとか。きっかけが何であれ、コツコツ頑張る姿というのは清々しい。一生懸命は美しいのだ。 やがてハリソン・フォードは『スター・ウォーズ』のオーディションを受け、見事ハン・ソロ役を手にしたのだ。さて、前置きが長くなったが『パトリオット・ゲーム』について。元CIA分析官のジャック・ライアンは、妻子をつれロンドンに来ていた。一仕事を終えたジャックは、妻子と待ち合わせのバッキンガム宮殿広場にやって来る。 とその時、英国王室のホームズ卿がテロリストに襲撃される現場に出くわしてしまう。 ジャックはテロ集団に立ち向かい、負傷しながらもテロリストの一人を射殺。そのうち警官が駆け付けるが、逃げ遅れ、逮捕されたショーンという男が、挑むようにジャックを睨みつける。なんとジャックが射殺したのは、このショーンのたった一人の弟で、まだ十代の若者だったのだ。ショーンは、ひそかに弟の復讐を誓うのだった。作品に登場するテロリストというのは、IRAの過激派グループということになっている。各種の映画に登場するIRAとは何か? 今さらだが、その組織の背景には根深いものがある。私たちが高校時代、世界史で習った清教徒革命を覚えているだろうか? クロムウェルが先導したあれだ。イギリス本土で成功したプロテスタントによる革命を、アイルランドにまで広げたわけだ。でもアイルランドはカトリックで、イギリスの圧政に泣くしかない。だがもう我慢できない。こうして反英の動きが活発化したというわけ。『パトリオット・ゲーム』においては、そんなところからIRAの過激派が、憎んでも憎みきれない英国王室を狙ったテロを起こすのだが、そのうちの一人が個人的な恨みつらみで、主人公に復讐の念を燃やすという単純なお話。私はこの作品を見ながら、ハリソン・フォードの代表作でもあるインディ・ジョーンズシリーズを思い出していた。目の前に立ち塞がる困難と懸命に闘いながら、一つ一つクリアしていく姿がハリソン・フォードの実生活とオーバーラップする。ブラピやレオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デップなどの若手が活躍する中、私はどうしてもハリソン・フォードに目が向いてしまう。ハリソン・フォードは、常に私たちの傍にいる役者さんのような気がするからだ。1992年公開【監督】フィリップ・ノイス【出演】ハリソン・フォードまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2012.12.02

【松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ】◆平成に新しい文学が登場この小説を友人から勧められた時、確かに私は「何か新しい小説を読んでみたいんだけど」と言ったはず。だがその要望を無視したように、内容的には昭和っぽい気がした。村上龍の『トパーズ』かなんかを模倣したのかしらとさえ思ったほど。・・・と、あれこれイチャモンをつけてしまった私は、何も知らないおバカさんだったことが、今ならばよく分かる。著者の松尾スズキという筆名はインパクトがあって良い。名字が二つ連なっているような、珍しい名前だ。もともとこの人物は劇団を立ち上げ、役者、兼脚本家、兼演出家として活躍していた。そんな松尾スズキのマルチな才能をろくに知りもしない私は、この作品も大して期待もせずに読んだのだ。短編でもない代わりに長編でもないことも幸いして、私は2度ほど読んだ。なるほど、新しいとはこういうことかと、やっと気が付いた。それはつまり、小説らしからぬ不思議な感覚の、語りの構造を持ち合わせているということだ。ストーリーそのものは、精神病院の閉鎖病棟が舞台になっていて、主人公はデパスか何かを過剰摂取したせいで薬物中毒になってしまうという設定だ。きっかけは恋人との酷い喧嘩なのだが、昭和の文学なら絶望と孤独に打ちひしがれた、哀切極まりない展開になるだろう。だが時代は変わった。平成の文学は、もっとドライでリズミカルでそして柔軟性に富むものだ。主人公・明日香は、同棲している男と大ゲンカをしたことが原因で、家に置いてあった薬を過剰に飲んでしまった。その薬というのも、明日香が元亭主との離婚にまつわる軽いうつ症状に悩まされている時、心療内科で処方された精神安定剤やら抗うつ剤などだった。その現場を発見した同棲相手は、急いで救急車を呼んだ。運ばれた先は本格的な精神病院で、危険度レベル3の、病室にはマイクが設置され、ナースセンターに全て状況が把握されるという徹底した施設だった。そこには様々なタイプの患者が入院していて、正常と異常との境界がつきにくい環境なのだった。この作品を読了してつくづく思ったのは、この先、純文学はますますその立場が微妙になって行くだろうということだ。正統派の純文学路線を突き進むことは、昭和の文学を模倣するか、あるいは素朴で単調化してしまう危険性を孕んでいるからだ。逆に斬新さを追求しすぎると、万人に受け入れられにくくなる恐れがある。他者との差別化を図った作品は独特だけれど、必ずしも皆が読みたくなるものかどうかは分からない。『クワイエットルームにようこそ』は正に平成の純文学で、しかも新しい。しいて言えば、変わった読書傾向のある人向きかもしれない。『クワイエットルームにようこそ』松尾スズキ・著☆次回(読書案内No.21)は川上弘美の『神様』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る! ◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
2012.12.01
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