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2012.02.09
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カテゴリ: 映画/戦争・史実
20080329


「母ちゃん、戦争は(もうすぐ)終わるし。兄ちゃんもすぐ帰って来るけん。」
「西さんも克己も、待っちょるけんね。死んだらいけんよ。」

自分も含めて現代を平和に生きる者にとって、戦争は映画の世界でしかないのかもしれない。
父の年の離れた長兄は、海軍の軍人で、戦死している。
遺骨も遺品も何一つない遺族にとって唯一の心のよりどころは、戸籍に残された戦没事項。
その記事によって、すでにこの世の人ではないことを自分に言い聞かせ、けじめをつけるのだ。
参考に、戦没者である伯父の戦没事項を記載しておく。

『昭和拾九年七月拾八日午後参時マリヤナ島沖ニ於テ戦死○○縣隊区司令官○○○○報告』



ストーリーは回想シーンとして展開していく。
鹿児島の枕崎漁港に、戦艦大和の沈没した場所へつれて行って欲しいと懇願する一人の女性が現れる。
聞けばその女性は内田二等兵曹の養女であった。
他の漁師たちが相手にもしない中で、ただ一人神尾だけがその女性の願いを聞き入れ、出港するのであった。
昭和19年10月にレイテ沖海戦に出撃した戦艦大和は、米軍の猛攻を受け、わずか5日間のうちに武蔵を始めとする戦艦、駆逐艦、潜水艦等、味方の多数を失う。
ここで大日本帝国海軍連合艦隊は事実上壊滅。
翌年、大和の乗員たちは最後と成り得るであろう任務を果たすべく、沖縄水上特攻作戦を決行する。
しかし、大和の燃料は片道のみ、味方の戦闘機支援もなく、米軍の戦闘機を艦砲射撃のみで迎撃するという無謀な作戦であった。
勝敗は言うまでもなく、圧倒的な戦力の差の前に大和は成す術もなく、米軍機からの猛攻を受け、乗員3000名と共に東シナ海の藻屑と消えるのだ。

作中、神尾の戦友、西のセリフに「三反百姓に現金収入はありませんから」という一言がある。
これこそが当時の日本という国を赤裸々に物語っているだろう。

それは、世界最大の戦艦を建造する国家でありながら、農村では極貧に喘ぎ、生活苦のために若者たちが軍人に志願したというのが事実である証拠なのだ。
当時の日本が、ナチス・ドイツと何ら変わらぬ軍事国家であったことがわかるであろう。

「死」を美化してはならない。
国防のための戦争なら許されるなどと、短絡的に戦争肯定論に傾倒してはならない。
末端に横行するのは、新兵いじめ、リンチ、体罰、共食い(食糧不足による人肉食)などの暗澹とした心理の、ごみ溜めのような残酷の極み。

戦争によって荒んだ心理、植えつけられた精神主義は、人格を崩壊する。

この作品では反戦主義が随所に盛り込まれ、東大文学部卒の佐藤監督の「死」を美化してはならないというテーマが、全面に打ち出されており、素晴らしい反戦映画に仕上がっている。
我々が今一度過去を省みる時、北緯30度43分、東経128度4分※に、今もひっそりと眠る大和を思い出さねばならない。
そして、自らの意志とは別に、国家の都合で命を落としていった若者たちの魂を決して、決して無駄にしてはならない。合掌。

なお、昨年、惜しまれて泉下の人となられた辺見じゅん氏が原作を執っている。
吟遊映人は、原作もお読みいただく事をおすすめしたい。

※昭和20年4月7日、戦艦大和沈没の場所である。

2005年公開
【監督】佐藤純彌
【出演】反町隆史、中村獅童

また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。
See you next time !(^^)





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最終更新日  2012.02.09 08:16:30
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