1797年、アヘンによる幻覚に悩まされる“現在”のウィルバーフォースから物語は始まる。彼がなぜ心身共に傷ついたのかを、見合いをしたバーバラに話すという形で、時間が15年前に遡る。なお、バーバラとの慣れそめは映画の通りで、シリアスな場面が続くなかで「Also, Barbara and I have discovered that we're both impatient and prone to rash decisions. But she wants to tell you about it herself. 」と友人夫妻に結婚を報告するこの場面だけはユーモラスだ。
神の世界に生きるか、政治家として生きるか、悩んでいた彼の背中を押したのは、後のイギリス首相ウィリアム・ピット。TVドラマ『SHERLOCK』で一躍有名になったカンバーバッチが、友と理想を追う若者の頃から、術策を覚えていくしたたかな円熟期までを巧みに演じ分ける。「その美声を神を称えることに使うのか、それとも世界を変えることに使うのか?Do you intend to use your beautiful voice to praise the Lord... or change the world?」と問いかけ、宗教の道を歩もうとしていたウィルバーフォースを政治の道に誘う彼は、自分にはなくウィルバーフォースにある“純粋さ”を誰よりも愛しているが、首相となってからはウィルバーフォースのように理想家で有り続けることができず、対立する。