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2025年03月03日
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テーマ: 教育問題(408)
映像クリエイター池山珠子さんの作品「たまごの教室」のご紹介です。
北海道長沼町にある「​ まおい学びの里小学校 ​」に転校してきた女の子のお話です。
親はわが子のためにできることをなんでもしたいと思いますが、誰もがわが子のために家を売ったり引っ越ししたりはできません。
それでも、子どもにとって安心できる居場所や学びの場はとても大切です。
それを考えるヒントになればとご紹介します。

​「家を売ってでも」10歳の不登校児を持つ親の決断――娘が新天地で見つけた居場所 ​​
池山珠子映像ディレクター

子どもの幸せを考えたら、家を売ってでも行くしかない――。北海道函館市の藤田晋平さんと明日香さん夫妻は2年前、住宅ローンが残る注文住宅の自宅を売却した。不登校だった次女・奏音(かのん)さんを、自宅から300キロ以上離れた新設の私立小学校に転校させるためだ。「子ども主体」を掲げ、テストも成績表もない新設校は、画一的な公教育になじめなかった娘にはうってつけの転校先に思えたからだ。家族全員で築54年の借家へ「教育移住」。ところが、娘は新しい学校でも周囲になかなか心を開けない。学校に苦手意識を抱く子どもたちが増え続ける中、大人たちはどう寄り添っていくのか。

▼奏音さんが学校に行かなくなった理由
「先生と話したことない。授業以外では」。小学校5年生の藤田奏音さんは、函館市の公立小に通っていた時のことを、こう振り返る。彼女が不登校になったのは、3年生の春。母親の明日香さん(40)は、「学校に行きたくない」と娘から聞かされた時、無理に学校へ行かせようとは思わなかった。算数が苦手で、毎日泣きながら宿題をする娘の姿を見ていたからだ。

奏音さんは絵を描くのが得意で、コンクールで入賞することも多かった。だが、ある1枚の絵をさして、「あんまり好きじゃないんだよね」と話したことがあった。
明日香さんが「どうして?」と聞くと、「先生が『背景はこの色がいいと思う』って勝手に塗ったから、この絵大っ嫌いなの」。
明日香さんは「彼女は先生のアドバイスを余計なことだと思ってしまい、『先生の価値観のもとでととのえられているクラスってどうなんだろう?』という思いがあったのかもしれない」と、その心中を推しはかる。

一方、父親の晋平さん(42)は当初、娘が学校に行きたがらないことに不安を感じた。自分自身は、当たり前のように学校に通っていたからだ。奏音さんが学校に行かなくなると、担任の先生は自宅に毎週プリントを届けてくれた。先生の熱意は感じた。だが、「これからの時代は周囲の期待に応えるよりも、自分で意思決定する力の方が大事になるだろう」と思うようになり、娘の選択を尊重することにしたという。

全国の小中学校で不登校状態にある子どもは34万6482人。その数は11年連続で増え、小学生は10年前の5倍にものぼっている。(文部科学省、2024年度調査)

40人近い児童を1人の教員が指導するとなれば、教員がある程度のリーダーシップをとって学級をまとめあげていくのは自然なことだ。小学校では3割強の教員が過労死などの健康リスクが高いとされる残業時間を強いられる中、子どもたちと向き合う余裕は極めて少ない。一方で多様性が求められる社会になり、画一的な指導に対する疑問を持つ保護者も増えている。晋平さんが「学校に行かない」という選択肢を受け入れたのには、そうした社会的背景もある。

▼「居場所が欲しい」。300キロ先の新設私立校への転入を決めたワケ
奏音さんが不登校になったのは、友達とのけんかがきっかけだった。その友達は真面目で教員にも従順なタイプであり、次第に相容れなくなってしまったという。奏音さんは、周囲の目を気にして外出を避けるようになり、自宅でゲームをしたり絵を描いて過ごしていた。

明日香さんは数カ月前に奏音さんの弟を出産したばかりで家にいて、「久しぶりに娘とゆっくり過ごす時間だった」と当時を振り返る。しかし、奏音さんは家に引きこもっている自分が母の負担になっていないかと気にしていた。

自宅に引きこもるようになって3カ月ほどたったある日、中学生の姉が、ニュースでたまたま見た道内の新設の私立小学校について教えてくれた。子ども主体の体験学習に力を入れるという教育方針に興味を持ち、お試し授業に参加した。だが、ほかの子どもや大人とうまく話せず、奏音さんは「最初は自分に合うかなぁと思った」そうだ。
一方、両親は「子どもと対等に接する学校関係者の姿を見て、信頼をもてた」という。晋平さんは「やってみないとわからない。ダメならまた他を探せばいい」と、奏音さんの背中を押した。

ところが、大きな問題があった。その学校は、函館の自宅から300キロ以上離れた長沼町にあった。藤田さん夫妻には、長女が生まれてすぐに函館に建てた注文住宅のローンがまだ残っていたのだ。

「居場所が欲しい」と感じていた奏音さんは、すでに転校を決断していた。それでも、遠方に引っ越して家族に負担をかけるのは気がかりだった。「姉が友達と離れるのが寂しそうで、申し訳ないと思った」。

晋平さんの決断は早かった。道内全域に支社を持つ企業で働いていた晋平さんは、長沼町周辺への転勤願いを出した。親戚からは「新しくできる学校に入るために、わざわざ引っ越しするなんて大丈夫か」と心配されたが、何よりも娘の気持ちを優先した。

ただ、ローンが残る自宅の扱いには迷いがあった。賃貸に出すか、思い切って売却するか。私立に通わせるには、学費がかかる。高校無償化など各種の補助制度は進みつつあるが、不登校の子がいる家庭を対象にしたフリースクールなどへの就学資金援助を行う自治体は全国で64と、ほんの一握り。従来の教育制度以外の多様な学びの場を必要とする際には、経済的負担が伴うのが現実だ。

藤田夫妻が選んだのは、マイホームの売却だった。学費や転居費用を考えてのことだ。「まさか家を売るとは思わなかったですけど、子どものことを考えたら幸せなのかなって」

▼子ども中心の体験型学習を行う「まおい学びのさと小学校」とは
奏音さんの転入先「まおい学びのさと小学校」は、2023年4月に開校。奏音さんはその1期生として、4年生になる4月から通い始めた。

校長の細田孝哉さんは、もともと札幌市の公立校で社会科の教員をしていた。「成績や競争によって強制的に学ばせるのでなく、子どもたちの好奇心や成長性を信頼して主体的に学ぶことを重視したい」と、新しい学校づくりを考え始めた。SNSやクラウドファンディングで資金を募り、和歌山県の「きのくに子どもの村学園」(1992年創立)の小・中学校をモデルに、開校にこぎつけた。

カリキュラムは、農業・料理・演劇・ものづくりの中から児童が選ぶ「プロジェクト学習」と、それらに学習指導要領の教科を結びつけた「基礎学習」が二本柱だ。授業の進め方や学校生活のルールは、すべて子どもたちが話し合いで決めていく。

教員にあたる大人のスタッフは10人。「子どもの自由な学びをサポートする存在」と位置付け、「先生」ではなく、あだ名で呼ばれている。この先入学者が増えても、子ども10人に対し1人以上のスタッフを維持するという。

全校児童76人の約半数は、北海道内外からの移住者だ。首都圏だけでなく四国や岐阜からも、この学校に子どもを通わせるために引っ越してくる家族があるという。

▼新天地での変化と成長 子どもと大人の対等な関係がもたらすもの
奏音さんは転入当初、積極的に学校になじもうとはしていなかった。担任の袋佑加理さんは「会話をなかなかしてくれなくて、心の中でいろいろ固まっているものがあるのかなと思った。人の視線を気にしているようで、静かで大人しい印象」と当時を振り返る。

殻にこもっていた奏音さんに変化の兆しが現れたのは、入学から2カ月たったころのことだ。みんなで鶏を飼おうと決めて、その世話を始めた。鶏小屋を作ったりエサの準備をしたりする中で、ちいさな声で自分の意見をつぶやくことが増えたという。袋さんはそれを見逃さずに耳を傾け、周囲に伝えるのを手伝った。そんな姿勢に「距離が近く、安心感がある」と感じた奏音さんは、次第に心を開いていく。良い卵を産ませるにはどうしたらいいかと考えたことをきっかけに、奏音さんは鶏にどんなエサを食べさせるかなどを自分で調べ始め、「これをやりたい」と意見を出すことも増えていった。

ほかの学校から転入してきた3〜5年生には、奏音さんと同じような不登校経験者もいる。入学希望者に応対する事務スタッフの村重勝也さんによると、「不登校の原因はそれぞれだが、自分の意見を先生に言いづらいと感じていた子は多い」という。

転入児童の保護者から最も多く寄せられるのは、「子どもがよく意見を言うようになった」「家族で話し合いをする機会が増えた」という声だ。子どもたちが授業や学校運営に主体的に関わる経験を通じて大人と対等な関係を築き、行動する。この教育方針がすべての子どもに合うわけではないが、開校から2年近くたった今も大半の子どもたちはこの学校でのびのびと学び続けている。

転校して、自分はどう変わったのか。奏音さんは「周りにつられたせいか、前より明るくなった」と話す。この学校で学ぶ中で、「栄養士になりたい」と将来の夢も見つけた。

では、学校とはどんなところ?
「学校は好き。行くかどうかはその人次第だから、無理していかなくてもいいと思う。最初は不安になるかもしれない。けど、後から学校が楽しくなることもあるかもしれない」

奏音さんは、自分の居場所を着実に築きつつある。

「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。


【この動画・記事は、Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリーの企画支援記事です。クリエイターが発案した企画について、編集チームが一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動はドキュメンタリー制作者をサポート・応援する目的で行っています。】





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最終更新日  2025年03月03日 11時58分38秒
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