『福島の歴史物語」

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2008.01.29
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 妻のトクが、嘉膳の背後に座って話し掛けた。
「朝の内はともかく、この夏はいつになく暑うございました」
「うむ、『夏の暑い年の冬は寒い』と言うからのう。ともあれ、今年の作柄は悪くないようじゃ」
 嘉膳は、乱雑になった庭を見ながら言った。
「このところ、不作が続いておりましたので、そうなるとようございますね・・・。ところで戦いの方は、どうなるのでございましょう」
 トクは、端座したままで訊いた。
「うむ・・・。やはり仙台藩は動いたのう。前に心配していた通り、結局は錦旗を掲げて新政府に恭順しおったわ」
 嘉膳は振り返るとトクを見た。
「その上に、米沢藩もひどいものじゃ・・・。こういう時勢、矛を収めたのも分からぬでもない。しかし、藩主の上杉弾正大弼斉憲様のお子の茂憲様は、自ら越後口の総督府に出向き、『会津を攻めましょうか?』というお伺いを立てていたそうじゃ」
「まあ・・・、あの米沢藩が?」
 嘉膳はまた目を庭に戻しながら、独り言のように言った。
「うむ・・・、今になって尻尾を振ってのう。その後はお前も知っての通り、仙台藩も恭順した。この仙台藩と米沢藩は、奥羽越列藩同盟の中心にありながら、積極的に戦わずさらに自分を軽傷にとどめながら会津に苦汁の入ったお鉢を回したようなもの。これらから思い返せば、わが藩が仙台に救援依頼の使者の琴田半兵衛を出したとき、一兵の援軍もよこさず、ぎりぎりになってから寄こしたことがあった。すでにこの時、仙台藩は恭順の意志を秘していたのであろう」
「・・・ところで、お前様。二本松藩が降伏し、福島や村松藩(新潟県)も降伏したと聞きましたが?」
 嘉膳は、妻の方に向きを変えた。
「うむ。福島藩主の板倉内膳正勝尚様も米沢藩に逃れたが、二~三の家来を除いて、全員が米沢に入るのを拒否されたというわ。新政府軍の世良参謀の暗殺に福島藩士もかかわっていたことを恐れた米沢藩が、わが身を守っての話ではあろうが、これもまた酷な話。板倉内膳正勝尚様も踏んだり蹴ったりじゃ」
「それでは、御家来衆は・・・、いかがなされましたか?」
 トクが心配そうな顔をして訊いた。
「うむ。米沢に入るのを断られた御家来のうち、近習頭の鈴木六太郎、物頭役の内藤魯一らが同士約二十名とともに脱藩して逃走し、二本松の新政府・彦根藩の陣営に出頭して降伏したという。藩を守るという大義の下、個々の命が軽いのう。結局は、藩士という名の弱者の破滅には、目をつぶられてしまったのよ。藩がなくなったあげく米沢に入るのも断られ、行く所がなくなってしまった福島藩士も、不憫なことよ」
 トクは目をしばたたいた。
「そうしますと、残るは、会津と庄内藩のみでございましょうか?」
「うむ。その会津も、鶴ケ城での篭城戦になっておる。今しばらくの戦いであろう」
「それにしても、二本松藩の少年隊が全滅し、会津藩では白虎隊という少年たちや娘子隊という女たちが戦っている、と噂されておりますが・・・」
 それを聞いた嘉膳は、しばらく黙っていた。そして話し出した。
「そうか、お前も聞いていたか・・・。戦いとはむごいものよ。わが藩の帰順で須賀川から兵を動かせなくなった二本松藩は、少年たちまでも動員したらしい。この少年隊も、悲惨な最後だったという・・・。相手が少年たちとは知らなかったとはいえ、わが藩兵の嚮導による新政府軍と戦っていたのだから、心が痛むのう・・・。しかも二本松藩主の丹羽左京大夫長国様は米沢へ、奥方様は会津に逃れたそうじゃが、結局は二本松に戻られた。それにしても大藩の都合に振り回される小藩とは、辛い立場よ。三春藩とて同じことであった。とにかく新政府軍は冬に入らない前に決着をつけようとして、攻勢を強めておるわ。彼らは南国育ちが多く、冬を恐れておるのよ」
「すると、まだまだ犠牲者が出るのでしょうか・・・。いったいこの戦争は、なんのためだったのでしょうか」
 嘉膳は、妻の前に胡座をかいた。
「わしにも分からぬ。最初は単に、薩長による幕府からの権力奪取の戦いであったと思う。しかるに、新たな政治思想が起こり、そこへ諸外国の思惑がからんだこと、それが幕府制や天朝様のあり方、つまりは日本のあり方を探る争いになったのかも知れぬ。しかし結局は、最初の『薩長による幕府からの権力奪取』の部分のみを引きずったのが、この戦争であろう」
「それだけが、理由だったのでしょうか?」
「うむ。たしかに事はそう単純ではない。しかし大きな声では言えぬが、薩長両藩に倒幕の勅が密かに出された後に、つまり幕府が大政を奉還した後にもかかわらず、姑息にも帯地などで錦の御旗などを作って幕府軍を脅かした。恐れ入った幕府は江戸城を明け渡し、将軍が寛永寺に謹慎した。そして会津が謝罪を嘆願し、奥羽の諸藩がそれの後押しをした。これらのことでも分かるように、これで済めばこの戦いはしなくて済んだ筈。そうすればこの戦いに、意味はまったく無かったことになる」
「それなのに、武力で攻めてきたと・・・?」
 嘉膳が妻とこのような話をしたのは、最初であった。
 ──いろいろ考えていたのだな。
 その思いがトクに理解されるようにと、丁寧に言葉を選びながら話していた。
「そうよ。薩長両藩が新政府と称し、無理矢理攻めてきたのは、会津藩主が京都守護職についたことや、庄内藩が薩摩屋敷を焼き討ちにしたことに対する私怨と言っても間違いあるまい。しかしそれとて、会津藩が自分勝手にやった訳ではない。会津藩は孝明天皇の信任を得た上に幕府の命令、また庄内藩も将軍が留守とは言え留守幕閣の命令による行動であった。しかも会津や庄内への攻撃が将軍の謹慎後であるということは、薩長の方が無謀であったと申してもよかろう。ただ新政府としても、『同盟方に強力な兵力を残したままで、新国家が成立させられるか』という危機感を持ったのも、事実であろう。さすれば無謀、とばかりは言えぬのかも知れぬ。とは言っても別の方法があったのではないか? それにこれほどの人を殺め、財貨を失う意味があったのか? そう疑問に思う」
「そうしますと、せめて三春藩が最小の犠牲で済ませられたかも知れないことは、ありがたいことなのでございますね」
 そう言われて、嘉膳は思わず微笑んだ。久しぶりの微笑みであった。








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最終更新日  2008.01.29 10:17:32
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