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《アフガニスタンへの支援を行う福岡市の非政府組織「ペシャワール会」は27日、現地代表の中村哲医師(71)=福岡県出身=が同国のガニ大統領から国家勲章を受けたと発表した。長年にわたる現地での用水路建設や医療活動が高く評価された。(略) もうひとつ、これは筑摩書房の 「ちくま」 という冊子に、精神科医で作家だった なだいなだ が 「人間、とりあえず主義」 という連載をしていたことがあります。今から10年ほど前のことです。2009年11月号に 「中村哲にノーベル平和賞を」 という文章を書いています。 中村哲 の紹介にちょうどいいと思います。続けて読んでみてください。
中村医師は1984年から隣国パキスタンで医療支援を始め、91年からアフガンでも活動。一時は両国で最大11カ所の診療所を運営した。アフガンを襲った大干ばつを受けて2003年に用水路の建設や補修を始め、事業で潤う土地は福岡市の面積の約半分に当たる約1万6千ヘクタールに上る。
同会によると、勲章は「長年、最善を尽くして専門的な支援を行い、保健と農業の分野でわが国の人々に多大な影響を与えた」として授与された。
7日に首都カブールの大統領官邸で行われた叙勲式にはガニ大統領や同国の農業大臣らが出席。大統領は中村医師が書いた用水路建設の技術書を6時間かけて熟読したと明かし、「あなたの仕事がアフガン復興の鍵だ」と何度も話したという。
中村医師は「活動が地元で評価され、為政の中枢に届いたことが特別にうれしい。自然が相手の仕事は、効果を得るまでに長い時間がかかる。さらに大きく協力の輪が広がることを祈る」とコメントした。》
「憲法9条にノーベル賞を」という運動があるそうだ。突飛な発想で、面白いと思うが、ノーベル賞は人間化組織に与えることになっているので、まったく実現性がない。それよりも、かなり実現性のある、 中村哲 あるいは ペシャワール会 にノーベル平和賞を、という運動に切り替えたらどうだろう。残念なことに、中村氏と、まだ面識はないが、彼の著作を読み、彼の仕事ぶりを映したドキュメンタリーで見る限りの判断だが、これまでの受賞者にひけをとらない業績だと思う。
長年にわたるアフガニスタンでの井戸掘りや用水路の建設の仕事は、僕など、まねようとしてもできない。彼はこの仕事に半生をつぎ込んだ。日本でも評価され、毎日新聞、読売新聞、朝日新聞、西日本新聞などがさまざまな名目で賞を与えているし、驚くことに、日本の外務省までもが大臣賞を与えている。しかも。マスコミが注目する以前に与えている(そのころの外務大臣は誰!)。
それほど日本人が認めている彼の業績だ。彼にノーベル平和賞をという考えにだれも異存はあるまい。
ノーベル平和賞だけは、ノルウェー国民議会が選考を行うことになっていて、日本では非核三原則を国会で表明した、佐藤栄作元首相が受賞している。受賞したとき、少し流行遅れになったセリフだったが「アッと驚くタメゴロー!」を口にしたことを覚えている。本当にアッと驚いた、すぐに信じられなかった日本人は、僕だけではなかったろう。後々、核持込に関する日米間の密約があったことなどが知られるようになり、選考委員会が21世紀になって発表した報告の中で、後悔を表明したことで有名だ。非核三原則についての日本の首相の発言だ。当然、憲法九条を踏まえたものと理解されたのだから、憲法九条が受賞したようなものだ。だが、選りによって、あの人と憲法九条が結び付けられたとは!
ノーベル平和賞には、ほかにも、なぜ?と後世になって首をかしげるような受賞が少なくはない。イスラエルのメナヘム・ベギン首相(当時)などもその一人だ。第一次中東戦争のときに一般市民虐殺の疑いを持たれているからだ。だが、この賞にけちをつけることになったら困るので控える。
中村哲 ならば、 佐藤元首相のときの間違いを訂正する という、いい機会をノルウェー議会の選考委員会に与えることになるから、一石二鳥である。そんなことよりもともかく彼が、アフガンの人たちと汗を流して掘った用水に水が流れ、荒地が緑に覆われる光景は、感動的だ(いくつかのドキュメンタリーで見て、年のせいで涙もろくなったのか、そのたびに目頭がジーンとなった。)戦争ではアフガンの人々の心をとらえれないことを、オバマ大統領に知らしめるためにもいいだろう。
ペシャワール会の伊藤和也さんが、不幸な事件に巻き込まれた記憶もまだ生々しい。また最近はパキスタンの辺境地域の治安も悪くなり、ペシャワールに根拠地を置く彼らの活動も、困難になってきているようだ。こういう時期だからこそ、ノーベル平和賞が意味を持つ。今年は無理かもしれないが、来年分の推薦の締め切りは、一月末。それまでにはまだ時間が十分にある。民主党、社民党の代議士たちが、推薦状を書く時間は十分にある。《中略》
僕はこれまで、車に「イラク戦争反対」と書いて走ってきたが、これからは「アフガン戦争反対」か「アフガンに平和を」と書いて走ろうと思う。
微妙に、10年前の時代の空気が流れているエッセイですが、 中村哲の仕事
が、漸く知られるようになった頃の文章です。新聞記事も、 なだいなだ
も触れていませんが、記事にある 1991年
という年は旧ソ連によるアフガン侵攻作戦がようやく終わったころに当たります。戦争と干ばつで荒廃した大地に、風土病化し蔓延している ハンセン氏病
治療のボランティアとして アフガニスタン
にやって来たのが 中村哲
の仕事の始まりでした。
そこから10年、井戸を掘り、岩だらけの大地に水路を作るという大土木事業が、医者である 中村
の創意工夫で続けられたのです。出版やカンパによる資金収集と日本の古来の竹籠式石組み技術による手仕事で続けられた事業がようやく成果を生みはじめた2001年、こんどはアメリカによる空爆が始まりました。
ソ連もアメリカも 「イスラム原理主義の巣窟としてのアフガニスタン」
という認識は変わりません。いつものことですが戦争や爆撃でどれだけの無辜の民衆の命が失われたのか、攻撃した人たちがきちんと報告することはありません。
しかし、以来、戦火が消えたことがない国の爆撃の下で、井戸を掘り続けて、民衆の命を守る仕事を続けた医者が 中村哲
です。
著書の案内は今回はできませんが、紹介した なだいなださん
は、残念ながらこの原稿の2年後、2013年に亡くなってしまいした。
なだいなだ
という人は 「いじめを考える」(岩波ジュニア新書)
・ 「こころの底に見えたもの」(ちくまプリマー新書)
といった中学生向きに書かれた本をはじめ、難しいことを、難しく言わない 「こころ医者」
を自称し、アルコール依存症の治療で知られた精神科医で、ラジカルだけれど、軽妙なエッセイが持ち味の人です。 「人間、とりあえず主義」(筑摩書房)
という題の本はありますが、この記事は載っていないと思います。
中村哲
の著書の一冊、 「空爆と復興」
(石風社)
の写真を載せました。高校生向けには 「アフガニスタンの診療所から」(ちくま文庫)
などがあります。(S)
追記2019・12・04
2019年12月4日
のニュースで 中村哲氏の死
が報道されています。どうしていいかわからない動揺が自分の中にあるのが分かります。この案内で、いずれノンビリ紹介しようとたかをくくっていました。 「志の人」
という言葉どおり、志士と呼ぶべき人がこの国にもいることが、ぼくは嬉しかったのです。ぼくにできることは、彼の仕事の足跡を、著書一冊、一冊、紹介することぐらいかもしれません。今日は、それを肝に銘じておこうと思っています。
追記2022・09・27
中村哲
の仕事を撮ったドキュメンタリー 「荒野に希望の灯をともす」
を元町映画館で見ました。彼の生きている姿を見るのは久しぶりです。いつだったかテレビで放映した時に見ましたが、初めてみるような気分でした。
亡くなって、3年がたちます。ぼくにできることは、彼の残した著書を若い人に伝えることくらいです。一冊づつ読み直して案内し続けようと思いました。
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