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侏儒というのは小人のことだ。君は知っているか。芥川は自分を小人のようにつまらないヤツだと考えていたんだ。
芥川なんていう作家には興味はない。 とか何とか、そんなふうに、いい捨てて教室を出て行った記憶があります。
「将来に対するただぼんやりとした不安」 この 「ことば」 が高校生だったぼくの頭のなかを占領してしまったのかもしれません。この言葉を残して睡眠薬で自殺した作家というイメージが、その後もずっと心に残りました。
芥川は年下の友人である画家の小穴隆一に自殺の決意を一年以上前に告げていた。その頃には神経衰弱が極度に昂進し、いつ死んでもおかしくない状態で、自殺の方法や場所についていろいろ模索していた。 これを読んで感じた感想を一言でいえば 「なんだそうだったのか」 ということになります。 芥川 は 「侏儒の言葉」 という箴言集の中にあまりにも有名な、こんな ことば を残しています。
芥川を自殺に追いやった理由については、創作上のゆき詰まりや健康上の問題の他に、さまざまな世俗の事情があげられる。
たとえば、小穴に残された遺書から、秀しげ子という人妻との姦通が死の一因ではないかといった説があり、当の小穴自身もそう信じていた。友人の作家江口渙も同じくその説だった。 -略-
まだ姦通罪があった時代で、北原白秋はその罪で刑に服し、有島武郎はそれを怖れて波多野秋子と心中した。」
人生はマッチに似てゐる。重大に扱ふには莫迦々々しい。重大に扱はなければ危険である。 異性関係という人生のマッチ棒の小さな炎をどのように扱った結果なのでしょう、どのように翻弄されたのでしょうね。このページにのせたスケッチは、引用に出てきた 小穴隆一 という画家による 芥川のデスマスク だそうです。
彼の全作品を、或いは彼の自選の一冊の小説集を続けて読む時、僕らの眼下に展開するのは、正しく西洋の二十世紀の作家たちの照明してくれた複雑な内面世界に近いものである。 後世の読者達の一人であるぼくもまた、彼の死の理由までもを、あたかも発表された一つの作品であるかのように 「様々な理由があるものだ」 と受け取ってきました。
読者は彼の作品を読み進めながら、十九世紀の長編小説を読むときのように、世は様々、という感想を持つ代わりに、世を眺める人の目は様々だ、世の姿を受け入れる人間の心には様々な状態があるものだ、という感想を抱く。
これが芥川の作品の現代の読者を誘惑する、最も深い魅力の秘密であるに相違ない。」
水洟(みづぱな)や 鼻の先だけ 暮れ残る
芥川 は最後に、こんな句を残して自ら命を絶ったそうです。 三十五年の短い生涯 でした。命の最後の灯りを、それでも、諧謔を忘れることができない眼で見つめている、三十五歳の青年のことを 「しみじみ」 と受け取る年齢にぼくはなってしまったようですね。(S)
追記2022・07・12
今年も 「羅生門」
を読みました。偶然かもしれませんが、今年の学生さんは 下人の悪
について、あまり関心がなかったようで、あっけにとられました。
芥川の作品
の多くが、人間の 心理や倫理観の微妙なゆらぎ
の見事な描写を特徴にしていると思うのですが、若い人たちの心やモラルを見る目というのはどうなっているのでしょうね。
彼女たちの、あたかも、スタンプでも押すように 「悪」
とか 「善」
とか分類していく、それでもやはりたどたどしい手つきというか、文章理解のストレートさというかを目の当たりにしながら、どう講評していいのか途方に暮れる思いでした。
考えてみれば、こころの揺らぎや関係の齟齬に立ち止まる子供たちに 「~障害」
とスタンプを押して分類することが、教員世界でハヤリ始めて、もう20年たつのですね。新しい教科書からは 芥川も漱石
も消えるということだそうですが、どうなるのでしょうね。殺伐としてわかりやすい世界が始まるのでしょうか?
追記2024・05・22
今年も
「羅生門」
を、20歳の女子大生の皆さんと読む季節がやって来ました。将来、高校とかの教員を目指している彼女たちが、かつて、高校1年生の国語の授業の定番であった 「羅生門」
という 文学
作品をどう読むのか、まあ、そういう興味もあって教員の授業の方法を学ぶ時間の教材として取り上げて7年ほどたちました。いってみれば、
定点観測
ですね。
今年20歳になるくらいの年齢の人たちは、だいたい中学生の頃にコロナ騒動と遭遇した人たちで、それを機に一気に導入された遠隔授業方式によろ教育システムのIT化のトップランナーたちといっていいと思います。
四月に始まった、ばかリですが、感想は一言ですね。
「ついていけません!」
イヤハヤ、どうしたらいいのでしょうね(笑)。そのうち、具体的なことを書くかもしれませんが、今日はここまでですね。
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