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「あの唄は知ってるだろう。 『誰かさんが誰かさんをライ麦畑でつかまえたら』 っていうやつ。僕はつまりね―」 主人公が、本当は間違えておぼえこんでいた言葉でした。でも、間違えておぼえこんでいた思い込みこそが、主人公のリアルを支えているのだと思います。このあと、彼はこんなことを言います。
「 『誰かさんが誰かさんとライ麦畑で出会ったら』 っていうのよ!」とフィービーは言った。それは詩よ。ロバート・バーンズの」
「それくらい知っているさ。ロバート・バーンズの詩だ。」
「とにかくね、僕にはね、広いライ麦の畑やなんかがあってさ、そこで小さな子供たちが、みんなでなんかのゲームをしているとこが目に見えるんだよ。何千っていう子供たちがいるんだ。そしてあたりには誰もいない――誰もって大人はだよ――僕のほかにはね。で、僕はあぶない崖のふちに立ってるんだ。 主人公が勘違いしていた 「キャッチ イン ザ ライ」 が小説の題名になって、 フィービー が正しく覚えていた 「カミング スルー ザ ライ」 が映画の題名になったのです。
僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ――つまり、子供たちは走ってるときにどこを通ってるかなんて見やしないだろう。そんなときに僕は、どっかから、さっととび出して行って、その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだな。ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてることは知ってるよ。でも、ほんとになりたいものといったら、それしかないね。馬鹿げてることは知ってるけど さ」
「オイオイ、サリンジャーって隠遁してて、誰にも会わないんじゃないの?高校生が見つけられるの?」 そんな、少々しらけ気味の気分が、そばかすだらけの、この少女の登場でちょっと変わりました。
「あれっ、この子、フィービーじゃないの?」 妹 フィービー じゃなくて友達 ディーディー として登場する少女が、まったく、さえない男の子に興味を持ちます。ここからのロードムービー仕立てで、ようやく引き込まれていきました。
サリンジャー
が 少年
に向かって、 「他人の作品をいじってないで自分の作品を書け。」
と促すセリフには、ほとんど感動でした。で、ついでに、さえない主人公 ジェイミー
と ディーディー
のラッキーに拍手しそうになりました。なんだか、 ゆかいな仲間
の チビラ君たち
の運動会の活躍を見ている気分です。
ジェームズ・サドウィズ
という監督が、どのくらいの年齢か知りませんが、 「ベ平連」
がリアルな戦争の影だったぼくの高校時代、本国アメリカの サリンジャー教
の高校生信者が、その後、大人になり損ねて(?)今も生きているのを発見した驚きと、なんとなくホッとする気分が湧きあがってきます。
「そうですか、あなたも サリンジャー にいかれたくちですか、そりゃあどうも。懐かしいですね。お兄さんをベトナムで亡くされたんですか、辛いことでしたね。」 映画館を出て、西に向かって 元町商店街 を歩きながら、ああここにも、以前、 洋書の丸善 があったよなあ、と妙に懐かしく思いだしてしまいました。
「いや、それにしても、 ステファニア・オーウェン っていう女優さん、いいですねえ。よく見つけましたね。 フィービー そのものですよ。いろいろ言われてきたけど、あの小説、フィービーがいるからいいですよね。」

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