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2021.12.08
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カテゴリ: 読書
鬼平を演じた中村吉右衛門が2021年11月28日に亡くなった。
あんまり僕はドラマは見ないし,鬼平も活字で読んでる派なのだが,しんみりは来る。鬼平犯科帳のプロトタイプでも読んでみるかと,15年ぶりくらいに短編集『にっぽん怪盗伝』を読み返したので感想を書いていく。


にっぽん怪盗伝 新装版【電子書籍】[ 池波 正太郎 ]

まずは,収録短編と簡単なあらすじはこのとおりである。
  1. 江戸怪盗記・・・・プロト鬼平。本編にもある実在の怪盗・葵小僧の話。
  2. 白浪看板・・・・・プロト鬼平。夜兎の角右衛門と盗人三か条の話。
  3. 四度目の女房・・・盗人をしながら大工をしてる男の話。
  4. 市松小僧始末・・・連作短編。掏摸の夫・市松小僧と剣術使いの女房の話。
  5. 喧嘩あんま・・・・連作短編。市松小僧と生き別れたあんまの兄の話。
  6. ねずみの糞・・・・連作短編。市松小僧の浮気の話。
  7. 熊五郎の顔・・・・伝説の雲霧仁左衛門の部下,熊五郎と未亡人の話。
  8. 鬼坊主の女・・・・実在の怪盗・鬼坊主清吉の辞世の句の話。
  9. 金太郎蕎麦・・・・鬼坊主から20両もらった私娼が蕎麦屋を立ち上げる話。
  10. 正月四日の客・・・年1回だけ真田蕎麦を食べに来る奇妙な客と,蕎麦屋の話。
  11. おしろい猫・・・・浮気すると猫の額に白粉を塗って警告する話。
  12. さざ浪伝兵衛・・・盗人・伝兵衛が過去に殺した男の亡霊に会う話。

ざっと12もの短編が収録されているところ,1つ1つ話していくとキリがない。このうち,1と2のプロト鬼平の話と,4~6の市松小僧の短編,それから8の鬼坊主清吉の3つの話をしていきたい。

まず,目玉は鬼平のプロトタイプといえる『江戸怪盗記』と『白浪看板』である。
ぞもそも,鬼平犯科帳の連載開始は1967年。『江戸怪盗記』は1964年に,『白浪看板』は1965年に発表されているから,著者の方で熟成させていた鬼平像をテストケースとして描いたのだろう。
なお,本作では「鬼平」という通称は一切出てこないし,鬼平こと長谷川平蔵はあくまで「名前のあるモブ」くらいのもので,あくまで主役は盗賊だちである。別に,盗賊を引っ捕らえた役人は誰でもいいのである。


注目すべきは,鬼平でよく出てくる盗人3か条,つまり「殺さず,犯さず,盗まれて難儀するものに手を出さない」というのは『白浪看板』ですでに出てきているところだろう。
この3か条,鬼平でもたびたび出てくるのだが,工夫としては素晴らしいものと思う。「盗人」という犯罪者を主人公としても,読者から嫌悪感を抱かれないようにするには,この3か条は必須であったといえるだろう。
実際,『鬼平犯科帳』というシリーズは,事実上は盗賊たちをこそ主人公としていて描くもので,鬼平こと長谷川平蔵はあくまで舞台装置にすぎないと思っている。3か条をまもる「本格」の盗賊たちは,悪人であることは間違いないけれど,魅力があるのである。

ところで,僕は前々から,この2つの短編が『鬼平犯科帳』というシリーズに入っていないのは不思議だったのだが,出版社が違うからでしょうな。『鬼平犯科帳』は文藝春秋社,本作は新潮社だもの。


鬼平犯科帳(一)【電子書籍】[ 池波正太郎 ]

次に,掏摸の市松小僧を主役とした3つの連作短編である。
この作品,週刊朝日別冊,推理ストーリー,小説現代とバラバラな雑誌に収録されている。
恐らくであるが,池波正太郎の最大の持ち味は,連作短編にあると思う。「鬼平犯科帳」,「剣客商売」,「仕掛人・藤枝梅安」という3大シリーズというものがある。一方で,長編小説はさほど振わない。
時期的に市松小僧の連作短編は,著者の初期の方の作品である。色々と模索していたのかもしれない。
のちに大ヒットした「鬼平犯科帳」と違って,僕の知る限り,市松小僧の話はこれ以降は書かれていないようだ。

僕自身も,女房一筋というわけでもなくて3作目で浮気なんかしちゃう市松小僧の好感度はあんまり高くない。

最後に,鬼坊主清吉の話である。
この鬼坊主清吉は調べたら実在の人物で,小説同様,処刑の前に堂々と辞世の句を詠んだという。
池波正太郎は,無教養な鬼坊主が辞世の句を作ったという背後について描いたのだ。僕は,この作品を小説で読んだ後,時期は覚えていないのだが,さいとうたかおの漫画版「鬼平犯科帳」で読んだ記憶がある。それだと,この小説だと辞世の句を作ったのは貧乏浪人になっていたけれど,漫画版だと鬼平になってた。しかも,辞世の句の意味を色々と解説してくれていた。一方で,この小説だと辞世の句の解説がないので,無教養な僕には歌に込められた意味を味わえなかったのが残念であった。この漫画版を見るにつけ,正直言って,物語の完成度は漫画版の方が上かもしれないし,改変としては良い改変だったろう。
ドラマ版の鬼平でもこの鬼坊主の話はあるようだが,たぶん改変があるんだろう。そうすると,短編の方はひと味足らないように感じたわ。


にっぽん怪盗伝 新装版【電子書籍】[ 池波 正太郎 ]





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最終更新日  2021.12.08 13:30:13
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