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秋日登呉公臺上寺遠眺寺即陳將呉明徹戰場(一作地) 劉長卿古臺搖落後、秋日(一作入)望郷心。野寺來人(一作人來)少、雲峰隔水(一作水隔)深。夕陽依舊壘、寒磬滿空林。惆悵南朝事、長江獨至今。【韻字】心・深・林・今(平声、侵韻)。【訓読文】秋日呉公台上の寺に登り遠く眺む。寺は即ち陳の将呉明徹の戦場なり。古台揺落の後、秋日望郷の心。野寺来人少(まれ)に、雲峰水を隔てて深し。夕陽旧壘に依り、寒磬空林に満つ。惆悵す南朝の事、長江独り今に至る。【注】○呉公台 今の江蘇省揚州市の西北に在り。もと南朝の宋の劉誕が築いた弩台で、陳の呉明徹が増築した。○呉明徹 陳の秦郡の人。字は道昭。幼くして父を失い、親孝行であった。軍功をあげ安南将軍となった。宣帝が北征をくwだてると、明徹は策を決して自ら行かんと請う。詔により侍中を加えられ、衆軍を統括し、仁州に進攻し、南平郡公に封ぜられた。寿陽に逼り、王琳らを擒にし、詔により車騎将軍となった。彭城に進攻して、また大いに斉軍を破った。位は司空・都督南■(ナベブタのしたに兌。エン)州刺史となった。ついで周の徐州総管梁士彦と対立し、周は王軌を派遣して船路をさえぎり、明徹は呂梁で捕らえられ、長安で没した。○揺落 木々の葉が風に散る。○望郷 故郷のほうを遠くながめる。○野寺 野中の寺。○雲峰 雲のなかにそびえたつ峰。○旧塁 むかしのとりで。○寒磬 寒中に響く磬の音。「磬」は石や玉で製した「へ」の字形の楽器で、懸けて打ち鳴らす。○空林 ひっそりとして、ひとけのない林。○惆悵 嘆き悲しむ。○南朝 東晋以後、建康(南京)に都を置いた、宋・斉・梁・陳の四つの王朝。○長江 中国最長の川。 【訳】秋の日に呉公台のそばの寺に登り、遠くを眺めて詠んだ詩。この寺はかつて陳の将軍呉明徹が戦った場所である。古びた高台にんぼれば、周囲の木々はすでに葉を散らせた後、こんな秋の日には望郷の心がわいてくる。野なかの寺には来訪者も少なく、雲のなかにそびえる峰は川のむこうに奥深くみえる。夕陽はふるいとりでに当たり、寒中の磬の音が、ひっそりしずまりかえった林に鳴りひびく。ああ嘆かわしいことよ、呉明徹が活躍した南朝の出来事も、もはや遠い過去、ただ長江のみが今に至るまで変わらぬ姿で流れている。
October 31, 2005
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送侯(一有侍字)御赴黔充判官 劉長卿不識黔中路、今看遣使臣。猿啼萬里客、鳥似五湖人。地遠官無法、山深俗豈淳。須令荒徼外、亦解懼埋輪。【韻字】臣・人・淳・輪(平声、真韻)。【訓読文】侯侍御の黔に赴き判官に充てらるるを送る。識らず黔中の路、今看る使臣を遣はすを。猿啼万里の客、鳥は似たり五湖の人。地遠くして官に法無く、山深くして俗豈に淳ならんや。須からく荒徼の外をして、亦た解(よく)輪を埋づむを懼れしめよ。【注】○侯侍御 劉長卿の知人らしいが、未詳。○黔中 ひろく今の貴州省・四川黔江流域・湖北省清江流域から湖南省西部一帯をさす。○判官 節度使・観察使などの属官。○黔中路 黔中道。治所は黔州(いまの四川省彭水県)にあり。○万里客 遠く旅立つ侯侍御をいう。○五湖 江蘇・浙江両省にまたがる太湖。○荒徼 都から遠い未開の僻地。○埋輪 官吏が乗る車の車輪をうずめる。土地に長くとどまって政治にあたることをいうのであろう。【訳】侯侍御が黔中に判官として赴任するのを見送る。自分は黔中道を通ったことがないが、このたび君は朝廷の使いとして彼の地へ派遣されるのだね。猿の啼き声がするなか万里のかなたへ向かう旅人、鳥は五湖あたりの人のように聞き慣れぬ声で鳴く。任地は都から遠いから役人も法を厳格に守らぬかもしれず苦労も多いであろうし、山が深く人情も厚くなかろうから付き合いにくかろう。野蛮な僻地の未開人どもに、君が長く官吏としてとどまることの恐ろしさを知らしめてやりたまえ。
October 30, 2005
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長沙桓王墓下別李■(ジョ)張南史 劉長卿長沙千載後、春草獨萋萋。流水朝將(一作空、又作還)暮、行人東復西。碑苔幾字滅、山木萬株齊。佇立傷今古(一作惟有年芳在)、相看惜解攜。【韻字】萋・西・齊・攜(平声、斉韻)。【訓読文】長沙桓王の墓の下にて李■(ジョ)・張南史に別る。長沙千載の後、春草独り萋萋たり。流水朝と暮と、行人東し復(また)西す。碑苔幾字か滅し、山木万株斉し。佇立して今古を傷み、相看て携を解くを惜しむ。【注】○長沙桓王 三国時代の呉の孫策。○李■(ジョ) はじめ校書郎として仕え、徳宗の時、吏部侍郎をつとめた。○張南史 幽州の人、字は季直。奕を好み、のちに節を折って書を読み、遂に詩境に入る。乱を避け揚州に居り、再三召されたが仕官しなかった。○千載 千年。○萋萋 草の生い茂る形容。○行人 たびびと。道行く人。○佇立 たたずむ。○携 手と手をつなぐ。【訳】孫策の墓の下方で李■(ジョ)と張南史に別れる。孫策の没後千年、その墓の周囲には春の草だけがはびこっている。流れる水は朝も夕べも絶えることなく、旅人も東へ行く者あれば西へと行く者もある。墓碑も苔むしいくつかの文字は消えて読めず、一万本もあろうかとおもわれる山の木々だけが同じような高さにまで伸びそろっている。たたずんで過去と現在との人為のむなしさを嘆き、たがいに顔を見合わせて手を放して別れるのを惜しむ。
October 29, 2005
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奉送裴員外赴上都 劉長卿■(丹のみぎに彡。トウ)▲(「澹」のサンズイをコロモヘンに換えた字。セン)江上遠、萬里詔書催。獨過潯陽去、空憐潮信迴。離心秋草緑、揮手暮帆開。想見秦城路、人看五馬來。【韻字】催・廻・開・來(平声、灰韻)。【訓読文】裴員外の上都へ赴くを送り奉る。■(トウ)▲(セン)江上に遠く、万里詔書催ほす。独り潯陽を過ぎて去り、空しく憐れむ潮信の廻るを。離心秋草緑に、手を揮へば暮帆開く。想見す秦城の路、人は看ん五馬の来たるを。【注】○裴員外 劉長卿の知人らしいが未詳。姓が裴で、員外郎(定員外の役人)の者。○上都 長安。○■(トウ)▲(セン) 車の赤いとばり。○詔書 天子の命令を書いた文書。みことのり。○潯陽 湖北省から江西省を経て、湖北・江西・安徽の三省の間を流れる長江の別名。○揮手 別れの際に手をふる。○想見 想像してみる。○秦城 古の秦の都である咸陽は、長安の近くにあったので、暗に長安の町をいう。○五馬 太守は五頭だての馬車にのった。【訳】裴員外が長安へ赴任するのを見送ってさしあげる。車の赤いカーテンが長江のほとりを遠ざかり、万里もはなれた都から届いた詔書があなた様の帰京をうながす。あなた様は独り潯陽を通過して去ってゆかれ、わたしは取り残されて空しく潮だけがかえってくるのを悲しむ。別れのつらい気持ちを知ってか知らずか、秋の草が緑色にのび、いざさらばと手を振れば、あなた様を乗せた夕方の舟が帆を開く。長安への路を想像してみまするに、人々は五頭立ての馬車がやってくるのを見て、どんなに立派なお方が乗っておられるのだろうと思うことでございましょう。
October 28, 2005
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送李摯赴延陵令 劉長卿清風季子邑、想見下車時。向水彈琴靜、看山採菊遲。明君加印綬、廉使托■(リッシンベンに右上に「旬」、右下に「子」。ケイ)●(釐の「里」を「女」に換えた字。リ)。旦暮華陽洞、雲峰若有期。【韻字】時・遲・●(「厂」の左上に「未」、右上に「攵」、なかに「女」。リ)・期(平声、支韻)。【訓読文】李摯の延陵令に赴くを送る。清風季子の邑、想見す車を下(くだ)る時。水に向つて琴を弾くこと静かに、山を看て菊を採ること遅し。明君印綬を加へ、廉使■●を托す。旦暮華陽洞、雲峰期有るがごとし。【注】○李摯 宏詞を以て名を振るい、貞元十二年、二十五歳のとき、同姓で同年うまれの李行敏とともに登第し、同門であった。○延陵 治所は今の江蘇省丹陽県西南の延陵鎮。○季子邑 延陵邑。江蘇省常州市の南の淹城(一説に今の常州市)。「季子」は、季札。春秋時代の呉王寿夢の季子。延陵に封ぜられたので延陵季子と号した。賢明で、当時の賢士大夫と広く交際した。いまの江蘇省常州市城内と江蘇省丹陽県の西南の延陵鎮の西九里に季子廟あり。○想見 想像してみる。○下車 官吏が初めて任地に到着して車からおりる。○弾琴 琴をひく。○看山採菊遅 陶淵明《飲酒》「菊を東籬の下に采り、悠然として南山を看る」。○明君 才智すぐれた君主。りっぱな天子。○印綬 官吏が任命と同時に天子からたまわる、地位や官職を表徴する印章と印のひも。○廉使 清廉潔白な使者。○■●(ケイリ) 未亡人。あるいはこの地(延陵)で戦乱により夫を失う者が多かったか。○華陽洞 江蘇省句容県の東南の茅山にあり。○雲峰 雲のなかにそびえる峰。【訳】李摯が延陵の長官として赴任するのを見送る。すがすがしい風が吹くころ、君は季子の邑に向かわれる、任地に着いて車からおりる時のさまが目にうかぶよ。川を前に静かに琴を弾き、山を看てはのんびり菊を摘むのであろう。賢明な天子さまは君に印綬をお与えになり、清廉潔白な使者である君は未亡人たちの世話を托された。君は朝夕あの茅山の華陽洞をおとずれるのかしら、雲のなかにそびえる峰も君が行くのを待っているかのようだ。
October 28, 2005
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赴江西湖上贈皇甫曾之宣州 劉長卿莫恨扁舟去(一作此去君何恨)、川途(一作南行)我更遙。東西潮渺渺、離別雨蕭蕭。流水通春谷、青山過板橋。天涯有來客、遲爾訪漁樵(一作潯陽如枉棹、千里有歸潮)。【韻字】遙・蕭・橋・樵(平声、蕭韻)。【訓読文】江西に赴かんとして湖上にて皇甫曾の宣州に之くに贈る。恨む莫かれ扁舟の去るを、川途我更に遙かなり。東西潮渺渺たり、離別雨蕭蕭たり。流水春谷に通じ、青山板橋を過ぐ。天涯来客有らば、爾(なんぢ)の漁樵を訪ふを遅(ま)たん。【注】○赴江西湖上贈皇甫曾之宣州 四庫全書本に「将赴江南湖上別皇甫曽」(将に江南に赴かんとして湖上にて皇甫曽に別る)に作る。「江西」は、江南西道。治所は洪州(今の江西省南昌市)。「江南」は、揚子江下流の南方。「皇甫曽」は、皇甫冉の弟。大暦十才子の一。「宣州」は、安徽省宣城県。○莫恨扁舟去 四庫全書本に「此去君何恨」に作る。「扁舟」は、舟底の平たい小舟。○川途 四庫全書本に「南行」に作る。○潮渺渺 四庫全書本に「湖渺渺」に作る。「渺渺」は、水が広々と果てしない形容。○流水 四庫全書本に「緑水」に作る。ふつう色彩を表す語どうし対になるので「青山」の対としては「緑水」のほうがよい。○天涯有來客、遲爾訪漁樵 四庫全書本に「潯陽如枉棹、千里有歸潮」に作る。○天涯 天の果て。都から遠く隔たった僻地。○漁樵 漁師や木こり。○枉棹 斜めにねじれ曲がった舟の櫂。○千里 ひじょうに遠いところ。【訳】江西に赴任するとちゅう湖上から宣州にゆく皇甫曾にあてて贈る詩。この地から小舟に乗って去らねばならぬのを嘆きなさるな、わたしのほうがもっと遠くへ赴任するのだから。東と西とに、湖の水はひろびろと果てしなく広がり、私と君は雨がザアザア降る中を別れていく。みどりの水は春の谷へと向かい、青い山を抜け板を継いで作られた橋の下を通りすぎる。私の任地である僻地まで来られることがあったら、君がこのへんで漁師か木こりに落ちぶれた貧乏役人はいないかと訪問してくれるのを気長に待とう。
October 27, 2005
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和靈一上人新泉 劉長卿東林一泉出、復與遠公期。石淺寒(一作淺石春)流處、山空夜(一作暮)落時(一作淺澗春流處、空山夜月時)。夢●(門がまえに月。カン)聞(一作歸)細響、慮澹對(一作向)清■(サンズイに猗。イ)。動靜皆無意(一作如此)、唯應達(一作道)者知。【韻字】期・時・■(サンズイに猗。イ)・知(平声、支韻)。【訓読文】霊一上人の新泉に和す。東林一泉出で、復た遠公と期す。石は浅し寒流の処、山は空し夜落つる時。夢●(カン)として細響を聞き、慮澹として清■(サンズイに猗。イ)に対す。動静皆意無く、唯応に達者のみ知るべし。【注】○霊一上人○新泉 あらたに引いた泉。○東林 東林寺。廬山の寺の名。○遠公 慧遠。東晋時代の高僧。東林寺で白蓮社を結び、多くの人を集めて念仏修行に励んだ。○寒流 冷たい水の流れ。○澹 おだやか。やすらか。○■(サンズイに猗。イ) さざなみ。【訳】霊一上人の「新泉」という詩に唱和した詩。東林寺に新しい泉が湧き、上人さまがその泉を坊にお引きになるというので、またお会いすることになった。冷たい流れに石が水面から突きだし、泉の水が夜に岩から流れ落ちる時には、山はひっそりとして、ひとけもない。床に就いて目を閉じれば、かすかな響きが聞こえ、昼間は穏やかな気持ちで、きよらかなさざ波に向き合う。動く物も動かぬ物もすべて無であるということは、だだ真理を悟った者だけが理解できるのにちがいない。【参考】『全唐詩』に次の詩が見える。宜豐新泉 靈一泉源新湧出、洞▼(「徹」の「彳」をサンズイに換えた字。テツ)映纖雲。稍落芙蓉沼、初淹苔(一作碧)蘚文。素將空意合、(一作了將空色淨)淨(一作素)與衆流分。毎到(一作若對)清宵月、▲(サンズイに令。レイ)▲(レイ)(一作然)夢裏聞。
October 26, 2005
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卻赴南邑留別蘇臺知己 劉長卿又過梅嶺上、歳歳此(一作北)枝寒。落日孤舟去、青山萬里看。猿聲湘水靜、草色洞庭寛。已料生涯事、唯應把釣竿。*この詩は次に引くように『全唐詩』には賈島の条にも収められている。 赴南巴留別蘇臺知己 賈島人過梅嶺上、歳歳北風寒。落日孤舟去、青山萬里看。猿聲湘水靜、草色洞庭寛。已料生涯事、只應持釣竿。【韻字】寒・看・寛・竿(平声、寒韻)。【訓読文】卻つて南邑に赴かんとし蘇台の知己に留別す。又た過ぐ梅嶺の上、歳歳此の枝寒し。落日孤舟去り、青山万里看る。猿声湘水静かに、草色洞庭寛し。已に料る生涯の事、唯(ただ)応に釣竿を把るべし。【注】○南邑 賈島の詩に見えるように「南巴」の誤りか。「南巴」は、南巴県。治所は今の広東省亀白県の東。劉長卿は潘州南巴の尉に左遷された。○留別 旅立つ者が詩を書き残して別れる。○蘇台 今の江蘇省蘇州市にある姑蘇台。春秋時代の呉王闔閭が姑蘇山の上に建て、その息子である呉王夫差が美女西施と遊んだ所。○知己 自分のことを深く理解してくれる友人。○梅嶺 広東省南雄県と江西省大余県の間に広がる大■(广に臾。ユ)嶺。○此枝 字形の近似による「北枝」の誤りか。「北枝」は、北にのびている枝。梅の枝についていう場合が多い。○落日 入り日。○孤舟 一隻の小舟。○万里 非常に遠い道のり。○湘水 湖南省を流れ瀟水と合流して洞庭湖に注ぐ川。○洞庭 湖南省にある湖。かつて中国最大であった。○料 予測する。○把 手に持つ。○釣竿 魚を釣るのに用いる竿。釣りは隠者などの好むものとされる。左遷されて閑職においやられ、ひまが多くなるという暗示であろう。【訳】(業績をアップして出世して都にもどるつもりが)あべこべに左遷されて南巴に赴任することになり、別れ際に蘇台付近に住む親友に書き残した詩。このたび、また梅嶺を通り南方へ行くが、毎年此の地の梅の枝は寒ざむしい。夕日に照らされて一隻の小舟が去り、木々が青く茂った山が万里のかなたに見える。猿の声も湘水の両岸に静かに響き、洞庭湖の周りには草原がどこまでも広がっている。まえまえから自分の人生は恵まれないだろうと予測はしていたが、南方の僻地への左遷が決まってしまったうえは、もう釣りでもして、のんびり静かに暮らすばかり。
October 26, 2005
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送靈徹上人歸嵩陽蘭若(一作巖) 劉長卿南地隨縁久、東林幾歳空。暮山門獨掩、春(一作青)草路難通。作梵連松韻、焚香入桂叢。唯將舊瓶鉢、卻寄白雲中。【韻字】空・通・叢・中(平声、東韻)。【訓読文】霊徹上人の嵩陽の蘭若に帰るを送る。南地随縁久しく、東林幾歳か空しき。暮山門独り掩(と)ぢ、春(一作青)草路通じ難し。梵を作(な)せば松韻に連なり、香を焚けば桂叢に入る。唯(ただ)旧瓶鉢を将(も)つて、卻つて白雲の中に寄せん。【注】○靈徹上人 21番に既出。姓は湯氏。字は澄源。会稽の人。初め嵩陽の蘭若に居り、後来匡廬の東林寺に住す。元和十一年、宣州開元寺において七十一歳で没した。○嵩陽 河南省登封県の西南。○蘭若 寺。○随縁 仏の縁にしたがって物事が生起すること。○東林 廬山の東林寺。○掩 閉じる。○梵 読経の声。○松韻 松風。○瓶鉢 比丘十八物のうちの、水瓶と鉢。【訳】霊徹上人が嵩陽の寺にお帰りになるのを見送る。上人さまは仏縁により南方の土地に来られて久しく、東林寺にも、もう何年も戻られていない。夕暮れの山中で門を閉ざし、春の草が路をふさぎ、ろくに人も通れないような山寺で修行に励んでこられた。読経の声は松風と唱和し、香を焚けば桂林に充満する。ただ、むかしからお使いの瓶と鉢だけを携え、また嵩陽の白雲湧く山奥の寺で再び修行をなさるのですね。
October 25, 2005
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送鄭司直歸上都 歳歳逢離別、蹉▲(足へんに它。タ)江海濱。宦游成楚老、郷思逐秦人。馬首歸何日、鶯啼又一春。因君報情舊、■(門のなかに月。カン)慢欲垂綸。【韻字】濱・人・春・綸(平声、真韻)。【訓読文】鄭司直の上都に帰るを送る。歳歳離別に逢ひ、蹉▲(タ)たり江海の浜。宦游楚老と成り、郷思秦人を逐ふ。馬首何れの日にか帰らん、鴬啼又一春。君に因つて情の旧なるを報い、間慢として綸を垂れんと欲す。【注】○鄭司直 劉長卿の友人らしいが、未詳。「司直」は、裁判官。○蹉▲(タ) ぐずぐずする。むなしく時を過ごす。○江海 揚子江と海と。○宦游 仕官して他の土地にいること。○馬首 馬のかしら。○鴬啼 チョウセンウグイスの鳴き声。【訳】鄭司直が長安に帰るのを見送る。毎年のように友との別れを経験するたび、ぐずぐず名残を惜しむうちに時間がむなしく過ぎ去る。地方に役人として赴任し楚の地方で老人となり、故郷を思いながら陝西に帰る人をうらやむ。自分が馬の頭を長安へ向けて帰れるのはいつのことやら、今年もまたチョウセンウグイスが啼き地方で春を迎えた。君にことづけて我が天子を敬う気持ちは昔のままだと伝えてもらい、気長に釣り糸でも垂れながら都に帰れる日を待とうとおもう。
October 24, 2005
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秋杪江亭有作(一作秋杪干越亭) 劉長卿寂寞江亭下、江楓秋氣斑(一作日暮更愁遠、天涯殊未還)。世情何處澹、湘水向人■(門のなかに月。カン)。寒渚一孤雁、夕陽千萬山。扁舟如(一作將)落葉、此去未知還(一作倶在洞庭間)。【韻字】斑・■(カン)・山・還(平声、刪韻)。【訓読文】秋杪江亭にて作ること有り。寂寞たり江亭の下、江楓秋気斑なり。世情何の処か澹(あは)き、湘水人に向つて■(カン)なり。寒渚一孤雁、夕陽千万山。扁舟落葉のごとく、此より去つて未だ還るを知らず(一に「倶に洞庭の間に在り」に作る)。【注】○秋杪 秋のすえ。晩秋。○一作秋杪干越亭 詩題がある本(テクスト)では「秋杪干越亭」となっているということ。「干越亭」は、今の江西省余干県城の東南に在り。○寂寞 ひっそりとして、しずかなさま。○江楓 川の畔のカラカエデ。○秋気 秋のけはい。○一作日暮更愁遠、天涯殊未還 第一句、二句が、ある本では「日暮更に愁へ遠く、天涯殊に未だ還らず」となっているということ。 ○世情 世間のありさま。○澹 「淡」と通用。○湘水 広西省荘族自治区に源を発し、東北に流れて湖南省に入り、長沙をへて、湘陰県に至り、洞庭湖に注ぐ。○寒渚 冷たい水のほとり。○扁舟 船底の平たい小舟。○一作將 ある本では「如」が「將」となっているということ。○一作倶在洞庭間 ある本では第八句が「倶に洞庭の間に在り」となっているということ。【訳】秋のおわりに、川の畔のあずまやで作った詩。川の畔のあずまやのあたりは、ひっそりと静まりかえってさびしく、川べりのカラカエデも一部黄葉して秋のけはい。世の中のありさまで、いったいどこが淡泊であろうか、湘水は何事もないように静かに眼前を流れる。さむざむとした渚には一羽のガン、夕日にてらされた幾つもの山々。一艘の小舟が落ち葉のように眼前を過ぎてゆくが、この地を去ってもう戻ってこないのかしら。
October 23, 2005
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重推後卻赴嶺外待進止寄元侍郎 卻訪巴人路、難期國士恩。白雲從出岫、黄葉已辭根。大造功何薄、長年氣尚冤。空令數行涙、來往落湘■(サンズイに元。ゲン)。【韻字】恩・根・冤・■(ゲン)(平声、元韻)。【訓読文】重推の後卻つて嶺外に赴かんとして進止を待ち元侍郎に寄す。卻つて訪ふ巴人の路、期し難し国士の恩。白雲従(ほしいまま)に岫を出で、黄葉已に根を辞す。大造功何ぞ薄き、長年気尚ほ冤(かが)む。空しく数行の涙をして、来往して湘■(ゲン)に落としむ。【注】○嶺外 広東・広西両省のあたり。○進止 指図。○元侍郎 劉長卿の友人であろうが、未詳。「侍郎」は、中書省や門下省などの次官の役。○巴人 四川省重慶市あたりの人々。○国士 一国中ですぐれた人物。○白雲従出岫 陶淵明《帰去来辞》「雲は無心にして岫を出づ」。○冤 屈して伸びない。○大造 大きな功を成し遂げる。○湘■(ゲン) 洞庭湖に注ぐ湘水と■(ゲン)水。【訳】再び辞令を受けて後、嶺外に赴任するつもりで、朝廷からの指図を待ちながら元侍郎に贈る詩。あべこべに巴の地方の道をおとずれたものの、国を代表するような立派な人物の恩恵にはあずかれそうにない。白雲が山の洞穴から次々と湧きだし、黄葉した葉は、はやくも根本で朽ちたらしい。大きな手柄を立てても、なぜ報われないのか、長い間の不遇生活に気持ちも挫けてしまう。むなしく幾筋かの涙を湘水や■(ゲン)水を行き来するおりに落とさせる
October 22, 2005
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謫官後卻歸故村將過虎丘悵然有作 劉長卿萬事依然在、無如歳月何。邑人憐白髮、庭樹長新柯。故老相逢少、同官不見多。唯餘舊山路、惆悵枉帆過。【韻字】何・柯・多・過(平声、歌韻)。【訓読文】謫官の後、故村に却帰し将(まさ)に虎丘を過ぎんとして悵然(チョウゼン)として作ること有り。万事依然として在り、歳月を如何(いかん)ともする無し。邑人白髪を憐れみ、庭樹新柯(カ)を長ず。故老相逢ふこと少なく、同官見ざること多し。唯(ただ)余す旧山の路、惆悵(チュウチョウ)す枉帆の過ぐるを。【注】○謫官 官位を落として、辺鄙な地方に流されること。○故村 故郷の村里。○将 いまにも…する。○虎丘 虎丘山。江蘇省蘇州市の西北にある山。○悵然 失望して恨み嘆く。○万事 すべてのこと。○依然 昔通り。もとのまま。○無如…何 …ばかりはどうしようもない。○邑人 むらびと。○新柯 今年新しくのびた枝。○故老 昔のことをよく知っている老人。○同官不見多 自分だけ左遷されて官位が低いということであろう。○余 残る。○惆悵 失望して悲しむ。うらみなげく。○枉帆 「枉」は、ねじ曲がるという意であるが、あるいは字形の近い「挂」(「掛」と同じ)の誤りか。【訳】左遷されてのち、ふるさとに帰る途中、虎丘山にさしかかり、わが身の不遇を嘆いて作った詩。すべてはもとのままだが、歳月の過ぎ去るのだけはとめようもない。村人は私が年老いて白髪頭になったのを同情し、庭先の木は新しい枝をのばしている。昔のことをよく知る老人に逢うこともまれ、おなじ役職のものも多くはいない。ただ昔の通り残っているのは故郷の山道、帆柱の曲がった船が眼下を通り過ぎるのを、うらめしく眺めるばかり
October 21, 2005
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北歸次秋浦界清溪館 劉長卿萬里(一作嶺)猿啼(一作頻)斷、孤村客暫依(一作萬古啼猿後、孤城落日依)。雁過彭蠡暮、人向宛陵稀。舊路青山在、餘生白首歸。漸知行近北、不見鷓鴣飛。【韻字】依・稀・歸・飛(平声、微韻)。【訓読文】北に帰り秋浦の界の清渓館に次(やど)る。万里猿啼断え、孤村客暫らく依る。雁は過ぐ彭蠡の暮れ、人は宛陵に向ふこと稀なり。旧路青山在り、余生白首帰る。漸く知んぬ行北に近きを、鷓鴣の飛ぶを見ざればなり。【注】○秋浦 今の安徽省貴池県。○清渓館 今の安徽省貴池県の東南に在り。○彭蠡 今の江西省■(番のみぎにオオザト。ハ)陽湖。○宛陵 今の安徽省宣城県。○鷓鴣 ハトの一種で小綬鶏(コジュケイ)に似た鳥。【訳】北に向かって帰る途中、秋浦の清渓館に泊まって詠んだ詩。一万里もつづいていたサルの鳴き声もしなくなり、ぽつんとあるさびしい村にしばらく身を寄せる。ガンは彭蠡湖の夕暮れの空を飛び去り、宛陵へ向かう旅人の姿もまばら。旧道のむこうには青い山がそびえ、白髪頭の自分は余生を故郷で過ごすために帰る。しだいにわかってきた、もうだいぶん北に近づいて来たということが。南方のシャコという鳥の姿を見かけなくなったから。
October 18, 2005
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恩敕重推使牒追赴蘇州次前溪館作 劉長卿漸入雲峰裏、愁看驛路■(門のなかに月。カン)。亂鴉投落日、疲馬向空山。且喜憐非罪、何心戀末班。天南一萬里、誰料得生還。【韻字】■(カン)・山・班・還(平声、刪韻)。【訓読文】恩敕にて重ねて使牒に推され追つて蘇州に赴かんとして前渓館に次(やど)りて作る。 漸く雲峰の裏に入り、愁へて駅路の■(カン)たるを看る。乱鴉落日に投じ、疲馬空山に向かふ。且く喜ぶ憐非罪、何(いか)なる心にてか末班を恋ふる。天南一万里、誰か料らん生きながら還ることを得んと。【注】○恩敕 情け深い天子の仰せ。○蘇州 江蘇省蘇州市。○前渓館 福建省柘洋県の境にあった宿屋か。○駅路 宿場と宿場をつなぐ道。街道。○鴉 カラス。○且 ひとまず。○末班 最下位の者。○誰料 誰が想像したろうか、いや、だれも思いつかない。【訳】情け深い天子の仰せによりふたたび使牒のお役目に推挙され、蘇州に赴任する途中に前渓の宿屋に泊まったときに作った詩。しだいに雲のかかる山の峰にさしかかり、街道がひっそりとしているのを悲しげに見る。乱れ飛ぶカラスは夕日のかなたへ姿を消し、疲れた馬はひとけのない山道にむかう。とりあえずは天子さまが私の無実に同情してくださったのをよろこぶ。でも、なにを思ってこんな下っ端役人にお目をおかけくださるのかしら。私が流されていたのは都から一万里も南の野蛮な土地、いったい誰が私がこうして生きて還ることができるなんて想像したろうか。
October 18, 2005
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登思禪寺上方題修竹茂松 劉長卿上方幽且暮(一作西峰上方處)、臺殿(一作■「木」のみぎに「射」とかく字。シャとよむ)隱蒙籠(一作朦朧)。遠磬秋山裏、清猿古木中。衆溪連竹路、諸嶺共松風。儻許棲林下、甘成白首翁。【訓読文】思禅寺の上方に登り、修竹・茂松に題す。上方幽にして且つ暮れ、台殿隠れて蒙籠たり。遠磬秋山の裏(うち)、清猿古木の中。衆渓竹路に連なり、諸嶺松風を共にす。儻(もし)林下に棲むを許されなば、甘んじて白首の翁に成らん。【注】○思禅寺 寺の名であろうが、未詳。○上方 山の上のほう。山寺では本殿はうえのほうに在る。○題 それをテーマにして詩文を作る。○修竹 背の高い竹。○幽 奥深くひっそりしているさま。○台殿 物見台とりっぱな建物。○蒙籠 朦朧。かすんで、はっきりしないさま。○磬 ケイ。石などで作られる「ヘ」の字型をした楽器で、打ち鳴らして合図などに用いる。○清猿 悲しげに聞こえるサルの澄んだ鳴き声。○儻 もし。○白首 しらがあたま。【訳】思禅寺の上方に登り、長い竹やしげった松を見て詠んだ詩。山寺の上方は奥深く日が暮れるのもはやい、見晴らし台や仏殿も夕闇にぼんやりかすむ。秋の山中に遠くひびく磬の音、きよらかで哀愁をさそうサルの鳴き声が古木にこだまする。あちこちの谷川へつづく竹林のこみち、多くの峰には松風がさわぐ。もし、こんなにすばらしい寺のある同じ林のなかに住むことが許されるなら、このまま白髪頭のジジイになってもかまわない。
October 16, 2005
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餘干旅舍 劉長卿搖落暮天迥、青楓霜葉稀。孤城向水閉、獨鳥背人飛。渡口月初上、鄰家漁未歸。郷心正欲絶、何處擣寒衣。【韻字】稀・飛・歸・衣(平声、微韻)。【訓読文】余干の旅舎。揺落暮天迥(はるか)に、青楓霜葉稀なり。孤城水に向つて閉ぢ、独鳥人を背(そむ)きて飛ぶ。渡口月初めて上り、隣家漁未だ帰らず。郷心正に絶えんと欲し、何(いづれ)の処にか寒衣を擣(う)つ。【注】○余干 江西省余干県。○旅舎 宿屋。旅館。○揺落 木々の葉が散ること。○暮天 ゆうぐれの空。○楓 カラカエデ。マンサク科の落葉高木。葉は三裂し、秋に少し紅葉する。○霜葉 霜にあって紅葉した葉。○孤城 ぽつんと一つ離れてある城。○渡口 渡し場。○初 やっと。○郷心 故郷を恋しく思う気持ち。○寒衣 冬の衣服。○擣衣 布をしなやかにしたり、光沢を出したりするために、洗った着物をきぬたにのせて棒でたたく。【訳】余干の宿屋で詠んだ詩。木の葉ちる秋の季節、はるかにつづく夕暮れの空、まだ葉が青い唐楓の木、霜に色づく葉はまばら。ぽつんと離れた城は川に臨んで城門をとざし、一羽の鳥がむこうへ飛び去る。渡し場のうえには月が出たばかり、漁に出たとなりのオヤジはまだ戻らぬ。すばらしい景色に故郷を思う気持ちもなくなってしまいそう、どこからか、きぬたを打つ音がひびいてくる。
October 15, 2005
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赴巴南書情寄故人 劉長卿南過三湘去、巴人此路偏。謫居秋瘴裏、歸處夕陽邊。直道天何在、愁容鏡亦憐。裁書欲誰訴、無涙可潸然。【韻字】偏・邊・憐・然(平声、先韻)。【訓読文】巴南に赴きて情を書し故人に寄す。南のかた三湘を過ぎて去れば、巴人此の路に偏へなり。謫居す秋瘴の裏、帰する処夕陽の辺。直道天何(いづく)にか在る、愁容鏡も亦た憐れむ。裁書誰にか訴へんと欲す、涙の潸然たるべき無し。【注】○巴南 四川省重慶の南の地方。○故人 むかしなじみ。○三湘 68番に既出。○巴人 昔の巴(四川省重慶)の地方の人。○謫居 罪により地方へ追いやられて住む。○瘴 熱帯・亜熱帯地方の山川から生じる、熱病をひきおこす湿熱の毒気。○帰処 故郷。安住の地。○愁容 憂い顔。○潸然 涙が流れるさま。『詩経』大東「潸然として涕を出だす」。【訳】巴南に赴任して思いを書き記し旧友に寄せる詩。南下して三湘を通過してきたが、ここらへんを行き交うのは巴の地方の人たちばかり。秋の瘴気がたちこめる中での左遷暮らし、故郷は夕日が沈むあたり。自分は正しい道を進んだつもりなのに、地方へ追放されるとは、天もあったもんじゃない。憂い顔で鏡に向かえば、鏡の中の顔もまた自分に同情しているかのよう。おかみから、こんな不当な扱いを受けて、誰に苦情を訴えればいいのやら。もう、ハラハラと流れる涙など、とうのむかしに枯れ果ててしまったよ。
October 14, 2005
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酬郭(一作張) 夏(一作廈) 人日長沙感懷見贈 (此公比經流竄、親在上都)舊俗歡猶在、憐君恨獨深。新年向國涙、今日倚門心。歳去隨湘水、春生近桂林。流鶯且莫弄、江畔正行吟。【韻字】深・心・林・吟(平声、侵韻)。【訓読文】郭夏の人日長沙にて感懷し贈らるるに酬ゆ。(此の公、比流竄を経、親は上都に在り)旧俗歓び猶ほ在り、憐れむ君の恨み独り深きを。新年国に向つて涙し、今日門に倚(よ)る心。歳去つて湘水に随ひ、春生じて桂林に近し。流鴬且(しばらく)弄すること莫かれ、江畔正に行くゆく吟ず。【注】○郭夏 劉長卿の友人らしいが、未詳。○人日 旧暦正月七日の節句。○長沙 湖南省長沙市。○感懷 心に感じた思い。○此公 郭夏をさす。○比 このごろ。ちかごろ。○流竄 罪によって遠方に流す刑。○上都 長安。いまの陝西省西安市。○旧俗 昔からの習わし。○倚門 母が家の門のところで外出した子の帰りを待つ形容。○湘水 湖南省湘江。○桂林 湖南省寧遠県の南に在る桂林峰(九疑山諸峰の一)か。○流鴬 枝を飛び移って鳴くチョウセンウグイス。○弄 音楽をかなでる。ここではウグイスのさえずることをいうのであろう。○江畔正行吟 『楚辞』漁父「江潭に遊び行くゆく沢畔に吟ず」。【訳】郭夏が人日の節句に長沙で感慨をいだき贈ってきた詩に答える。(郭夏は最近になって罪により地方へ流されたが、肉親は長安にいる)昔ながらの節句を祝う習わしが残っているのはなつかしく、よろこばしいが、家族と別々に節句を迎える君の恨みが痛切なのには同情するよ。君は新年を他国で迎え、故国に向って涙を流し、君の母上は今日門に倚(よ)りかかって君の帰りを待ち望む。旧年は湘水の流れとともにあっというまに過ぎ去り、桂林の近くはもう春のけはい。枝から枝へと飛び移るチョウセンウグイスよ、とりあえず囀るのはおやめ、わが友の郭夏君が川のほとりでちょうど歩きながら詩をくちずさむことだろうから。
October 13, 2005
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贈別盧司直之■(門のなかに虫。ビン)中 爾來多不見、此去又何之。華髮同今日、流芳似舊時。洲長春色遍、漢廣夕陽遲。歳歳王孫草、空憐無處期。【韻字】之・時・遲・期(平声、支韻)。【訓読文】盧司直の■(ビン)中に之(ゆ)くに贈別す。爾来多く見ず、此こを去りて又何(いづく)にか之く。華髮今日を同じくし、流芳旧時に似たり。洲長くして春色遍(あまね)く、漢広夕陽遅し。歳歳王孫草、空しく憐む処として期する無きを。【注】○贈別 人を見送る。また、その時に餞別として詩を贈る。○盧司直 劉長卿の友人らしいが、未詳。「司直」は、裁判官。○■(ビン)中 ひろく福建省一帯を指す。秦の時に■(ビン)中郡に属したのでいう。○爾來 ちかごろ。○華髮 白髪。○流芳 伝わった名声。○春色 春のけはい。○漢広 湖北省の地名か。湖北省襄樊市城内に漢広亭という建物が在るが、宋代の創建らしい。○歳歳 毎年。○王孫草 一説に、オンナカズラ。センキュウ。一説に、ツクバネソウ。ヌハリグサ。深山に産するユリ科の宿根草。夏に茎頂に四弁黄緑色の花をつける。69番に既出。【訳】盧司直が■(ビン)中に行くのを見送るにあたり、贈った詩。最近はめったに会えなかったが、今度またこの地を去って、どこへ行こうというのか。今ではお互い白髪あたまだが、君の評判の高さは昔どおり。長い川の中洲はすっかり春の景色、ここ漢広に夕陽がゆっくりと沈んでゆく。君が行ってしまっても毎年王孫草は花をつけるのだろうが、今度いつ会ってこうして一緒に見られるのかわからないのを嘆くばかり。
October 12, 2005
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歩登夏口古城作 平蕪連古■(「諜」の「言」を「土」に換えた字。チョウ)、遠客此沾衣。高樹朝(一作潮)光上、空城秋氣歸。微明漢水極、搖落楚人稀。但見荒郊外、寒鴉暮暮飛。【韻字】衣・歸・稀・飛(平声、微韻)。【訓読文】歩きて夏口の古城に登りて作る。平蕪古■(チョウ)に連なり、遠客此に衣を沾(うるほ)す。高樹朝(一作潮)光上り、空城秋気帰る。微明漢水の極み、揺落楚人稀なり。但だ見る荒郊の外、寒鴉暮暮に飛ぶことを。【注】○夏口 湖北省武漢市蛇山(黄鶴山)の上に在り。三国時代の呉の創建。○平蕪 草が生い茂った野原。○■(「諜」の言偏を土偏に換えた字。チョウ) 城の上の低い塀。ひめがき。○秋気 秋の気候。○漢水 陝西省西部に源を発し、東流して湖北省漢陽で長江に注ぐ川。○揺落 木の葉が風にヒラヒラと散る。○楚人 いにしえ楚の国があった地方(湖北省)の人。○荒郊 さびしい野原。荒れ野。○寒鴉 さむざむとした姿のカラス。【訳】徒歩で夏口の古城に登って詠んだ作。草が生い茂った野原の向こうには古びた城のひめがきがみえ、故郷を遠く離れた旅人はここで涙で着物の袖をぬらす。明け方には高い木のてっぺんに朝の太陽のぼり、ひっそりとした城のあたりは秋のけはい。夕方には漢水の果てに薄明かりが差し、木々の葉が風に舞い散るなか人の姿もまばら。ただ目にはいるのは、荒れ野のむこうに、さびしげなカラスたちがいつも日暮れになると飛ぶ姿。
October 11, 2005
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安州道中經■(サンズイのみぎに産。サン)水有懷 征途逢■(サン)水、忽似到秦川。借問朝天處、猶看落日邊。映沙晴漾漾、出澗夜濺濺。欲寄西歸恨、微波不可傳。【韻字】川・邊・濺・傳(平声、先韻)。【訓読文】安州の道中にて■(サン)水を経て懷ふこと有り。征途■(サン)水に逢ひ、忽(たちまち)秦川に到るに似たり。借問(シャモン)す朝天の処、猶ほ看る落日の辺。沙に映じて晴漾漾、澗を出でて夜濺濺。西帰の恨みを寄せんと欲すれども、微波伝ふべからず。【注】○安州 湖北省安陸県。○征途 行く手。旅路。○■(サン)水 陝西省関中を流れる川。○秦川 陝西省一帯の地方。○借問 ちょっとたずねてみる。○朝天 天子に拝謁する。○漾漾 ただよい、ゆれうごくさま。○濺濺 水流が早く流れるさま。【訳】安州を旅する途中、■(サン)水を通り、思うことがあって詠んだ詩。目的地へ行く旅の途中に■(サン)水を通り、あっというまに秦川に到着しそうだ。天子にお目通りするのはいつかしらなどと自問しながら、やはり都のある夕日のしずむ西のほうを見やる。砂原に映じて晴れた昼間は水がゆらめき、谷川から出た流れは夜には流れが早く急。西へ向かう不満を川に託そうとおもうが、こんなさざなみでは到底とどくまい。
October 10, 2005
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穆陵關北逢人歸漁陽 劉長卿逢君穆陵路、匹馬向桑乾。楚國蒼山古、幽州白日寒。城池百戰後、耆舊幾家殘。處處蓬蒿遍、歸人掩涙看。【韻字】乾・寒・殘・看(平声、寒韻)。【訓読文】穆陵関の北にて人の漁陽に帰るに逢ふ。君に逢ふ穆陵の路、匹馬桑乾に向かふ。楚国蒼山古り、幽州白日寒し。城池百戦の後、耆旧幾(いづれ)の家にか残れる。処々蓬蒿(ホウコウ)遍(あまね)く、帰人涙を掩ひて看る。【注】○穆陵関 いまの山東省臨■(月のみぎに句。クとよむ)県の南に在り。○漁陽 河北省密雲県の西南に在り。○桑乾 無定河。蘆溝河。いまの永定河。山西省朔県の東、洪濤山に源を発し、河北省天津の付近で運河に注ぐ。○楚国 春秋戦国時代に、長江中流域を領有した国。湖北省江陵県付近に都を置いた。○蒼山 青々とした山。○幽州 治所は今の北京市城区の西南に在り。○白日 白昼。まひる。○城池 城とその周辺。○耆旧 むかしから人々に慕われている老人。○処々 あちらこちら。○蓬蒿 ヒメジオンに似たアカザ科の植物。砂地にはえる。日本には産せず。秋になると枯れて、強風に吹かれると根が抜け、原野を転がる。これを飛蓬・転蓬という。○掩涙 涙をおさえる。元好問《自題中州集後》「抱きて空山に向かひ涙を掩ひて看る」。【訳】穆陵関の北で知人が漁陽に帰るのに逢って詠んだ詩。穆陵の路で君と出会った、君はこれから馬で無定河のほうへ向かうとのこと。いにしえの楚国の地には昔からの青々とした山がそびえ、幽州では昼間でも寒々しかろう。城とその周囲のほとりは度重なる戦の後、君を見知っているような年寄りが、いったいどこの家に生き残っていようか。あちこち至る所に雑草がはびこり、故郷へ帰る君は涙をぬぐって見ることであろう。
October 9, 2005
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奉使至申州傷經陷沒 劉長卿舉目傷蕪沒、何年此戰爭。歸人失舊里、老將守孤城。廢戍山煙出、荒田野火行。獨憐■(サンズイに師。シとよむ)水上、時亂亦能清。【韻字】爭・城・行・清(平声、庚韻)。【訓読文】使ひを奉じて申州に至り経(すで)に陥没せるを傷む。目を挙げて蕪没を傷む、何年ぞ此の戦争。帰人旧里を失ひ、老将孤城を守る。廃戍山煙出で、荒田野火行(めぐ)る。独り憐む■(シ)水の上(ほとり)、時乱るるも亦た能く清らかなることを。【注】○奉使 朝廷の使命をおびて使者として出かける。○申州 河南省信陽市。○傷 つらく思い深く悲しむ。○蕪没 雑草が茂って覆い隠す。○旧里 故郷。○老将 年老いた将軍。また、軍事に熟練した将軍。○孤城 敵軍にとりまかれ援軍の来ない城。また、ぽつんと一つだけ他から離れたところにある城。○廃戍 放棄され、荒れ果てた守備兵の陣屋。○荒田 雑草ののびた荒れ果てた田地。○野火 野焼きの火。○■(シ)水 河南省信陽県の西南に源を発し、北流して信陽市の南を経て、東北流して羅山県の西北で淮水に注ぐ川。【訳】使命をおびて申州に到達したところ、すでに陥没していたのを嘆く。目をあげて遠く見やると一面あれはてて雑草にうもれている。いったい何年この戦争が続くのか。ふるさとへ帰ろうとする者は、故郷を失い、年老いた将軍は、ぽつんと孤立した城を守っている。焼き討ちにあったのか、すたれた陣屋からは煙がたちのぼり、荒れ果てた畑には枯れ草を焼く野焼きの火がみえる。ぼうぜんと■(シ)水のほとりに立ちつくし、乱世を憂い、こんな時でも澄んだ水をたたえている自然の偉大さに感心するばかり。
October 8, 2005
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送李中丞之襄州(一作送李中丞歸漢陽、李一作季、一無之襄州三字) 流落征南將、曾驅十萬師。罷歸無舊業、老去戀明時。獨立三朝識(一作邊靜)、輕生一劍知(一作隨)。茫茫漢江上、日暮復(一作欲)何之。【韻字】師・時・知・之(平声、支韻)。【訓読文】李中丞の襄州に之くを送る。(一に「李中丞の漢陽に帰るを送る」に作る。「李」は一に「季」に作る。一に「襄州に之く」の三字無し。)流落す征南の将、曾て駆る十万の師。罷めて帰るに旧業無く、老い去つて明時を恋ふ。独立三朝識り、生を軽んずるは一剣知る。茫茫たり漢江の上(ほとり)、日暮復(また)何くにか之かん。【注】○李中丞 劉長卿の友人であろうが、未詳。「中丞」は、各省の次官に相当する位。○襄州 湖北省襄樊市。○流落 おちぶれて、諸地を渡り歩く。○征南 南方に戦に出かける。○旧業 古くから積み立てた財産。また、昔からの事業。○明時 よく治まっている太平の世。○独立 ひとりだけぬきんでる。○三朝 朝廷。天子が休む燕朝・天子が政治を行う内朝・朝臣が政治を行う外朝。○茫茫 ひろびろとして、はてしないさま。○漢江 陝西省西部に源を発し、東流して湖北省漢口で長江に注ぐ川。○日暮 ひぐれ。【訳】李中丞が襄州に行くのを見送る。南方の賊を征伐する将軍であった君が、おちぶれて各地を放浪することになろうとは。かつて十万の兵を指揮して国のために戦ったのに。将軍をやめて故郷に帰っても、古くから積み立てた財産があるじゃなし、年取って太平の御代を願うのはわかるけど・・・。君が一人ずばぬけていたのは朝廷でもみんな知っていたし、腰にさした一振りの剣は君が国のために命を軽んじて戦ったのを知っていよう。ひろびろと果てしなくひろがる漢水のほとり、この日暮れに君は一体どこへ向かおうというのか。*「A一作B」とは、「Aの部分は、別のある本(テクスト)ではBと書いてある」ということ。
October 7, 2005
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雨中過員稷巴陵山居贈別 憐君洞庭上、白髮向人垂。積雨悲幽獨、長江對別離。牛羊歸故道、猿鳥聚寒枝。明發遙相望、雲山不可知。【韻字】垂・離・枝・知(平声、支韻)。【訓読文】雨中に員稷が巴陵山居に過(よぎ)りて贈別す。憐む君の洞庭の上(ほとり)に、白髮人に向つて垂るるを。積雨幽独を悲しみ、長江別離に対す。牛羊故道を帰り、猿鳥寒枝に聚まる。明発遙かに相望むも、雲山知るべからず。【注】○員稷 劉長卿の友人らしいが、未詳。○巴陵 湖南省岳陽県の南西にある山。○山居 山中の住居。○贈別 送別の時、詩文を餞別として贈る。○洞庭 湖南省の湖。○積雨 長く降り続く雨。○故道 ふるい道。○寒枝 さびしい冬枯れの枝。○明発 あかつき。夜明け。【訳】雨の降る日に員稷の巴陵の山居に立ち寄り、別れ際に贈った詩。あれまあ、君もこの洞庭湖のほとりに住むようになって、白髪頭の年寄りになったもんだ。降り続く雨は静かな山暮らしの孤独をいっそう深め、長江が別れの悲しみを知ってか知らずか無情に流れている。牛や羊はふるびた道を帰路につき、サルや鳥は寒々とした木々の枝にあつまる。明け方遠くを眺めようとするが、雨にけむって雲も山もはっきり見えぬ。
October 6, 2005
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夏口送屈突司直使湖南 共悲(一作愁)來夏口、何事更南征。霧露行人少、瀟湘春草生。鶯啼何處夢、猿嘯若為聲。風月新年好、悠悠遠客情。【韻字】征・生・聲・情(平声、庚韻)。【訓読文】夏口にて屈突司直の湖南に使ひするを送る。共悲しぶ夏口に来たるを、何事ぞ更に南征するは。霧露行人少(まれ)に、瀟湘春草生ず。鴬啼何れの処にか夢みん、猿嘯若為(いかん)ぞ声ある。風月新年好し、悠悠たり遠客の情。【注】○夏口 72番に既出。○屈突司直 屈突は複姓(中国では一字の姓が多いが、二文字の姓ということ)。「司直」は、裁判官。正・不正を裁く役職。○湖南 洞庭湖の南の地方。○瀟湘 71番に既出。○若為 どうであるか。○風月 涼しい風と明るい月。美しい自然の景物。○悠悠 遠く隔たるさま。【訳】夏口において裁判官の屈突氏が湖南に使者として行くのを見送る。今までこんな都を遠く離れた夏口なんかに来たのを二人で悲しんでいたが、どういうわけで君はさらに南へ行ってしまうのか。これからの時期は霧が深く露に濡れるから旅人も少なかろう。瀟湘のあたりは春の草が生いしげる時分。旅先では君はどこいらあたりでチョウセンウグイスの鳴き声で目を覚ますのだろうか、あの悲しげなサルの鳴き声ときたらどうであろうか、君に行くなと言っているように私には聞こえる。せっかく新年を迎えて風景もこれから美しくなる頃なのに、はるか遠くへ旅立つ君の心中を察するとやりきれないよ。
October 5, 2005
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巡去岳陽卻歸鄂州使院留別鄭洵侍御侍御先曾謫居此州 何事長沙謫、相(一作長)逢楚水秋。暮帆歸夏口、寒雨對巴丘。帝子椒漿奠、騷人木葉愁。誰憐萬里外、離別洞庭頭。【韻字】秋・丘・愁・頭(平声、尤韻)。【訓読文】岳陽を巡去し鄂州使院に却帰し鄭洵侍御に留別す。侍御先に曾て此州に謫居す。何事ぞ長沙に謫せられ、相逢ふ楚水の秋。暮帆夏口に帰り、寒雨巴丘に対す。帝子椒漿の奠、騷人木葉の愁ひ。誰か憐む万里の外、洞庭の頭に離別するを。【注】○岳陽 湖南省岳陽県。○鄂州 湖南省武昌県。○使院 節度使の役所。○鄭洵侍御 劉長卿の友人らしいが、未詳。「侍御」は、68番に既出。○謫居 左遷されて地方に住む。○何事 どういう訳で。○長沙 湖南省長沙市。洞庭湖の南にある。○楚水 楚の地方(湖南湖北両省)の川。洞庭湖付近を流れる長江。○夏口 湖北省武漢市蛇山上の城。○巴丘 湖南省岳陽県の南西の山。○帝子 天子。○椒漿 サンショウその他の薬味を調合して造った酒。神を祭るのに用いる。『楚辞』《九歌・東皇太一》「桂酒と椒漿を奠(まつ)る」。○騒人 楚辞の作者。また、詩人。【訳】岳陽を巡検してから鄂州の役所にもどり、鄭洵侍御に別れの記念に残した詩。いったいどんな理由で長沙に左遷され、秋を迎えた楚水のほとりで君と会うことになったのやら。日暮れ時に舟は夏口城の方向へと帰り、冷たい雨のふるなか巴陵を眺める。天子は山椒入りの薬酒を神に供えるのにいそがしく、詩人たちは落葉を嘆くのでせいいっぱい。万里も離れた所にいる我々が、洞庭湖のほとりで離別するのを誰も同情などなさるまい。
October 4, 2005
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岳陽館中望洞庭湖萬古巴丘戍、平湖此(一作北)望長。問人何■(「水」を「品」の字のように三つ書く字。ビョウ)■(ビョウ)、愁暮更蒼蒼。疊浪浮元氣、中流沒太陽。孤舟有歸客、早晩達瀟湘。【韻字】長・蒼・陽・湘(平声、陽韻)。【訓読文】岳陽館中より洞庭湖を望む。万古巴丘の戍、平湖此(一作北)望長し。人に問ふ何ぞ■(ビョウ)■(ビョウ)として、愁暮更に蒼蒼たるやと。畳浪元気を浮かべ、中流太陽を没す。孤舟帰客有り、早晩瀟湘に達せん。【注】○岳陽館 湖南省岳陽市旧城の西門上にある岳陽楼であろう。○洞庭湖 湖南省にある湖。かつては中国最大であった。○万古 むかしからずっと。○巴丘 今の湖南省岳陽市の西南部にあり。巴陵。天岳山。○■(ビョウ)■(ビョウ) 水が広々として限りないさま。○蒼蒼 青々としたさま。また、薄暗いさま。○畳浪 重なった波。○元気 万物を生育する根源的な精気。○中流 湖水の中程。○孤舟 ただ一艘のふね。○帰客 故郷へ帰る旅人。○早晩 いつか。おそかれはやかれ。○達 至る。到達する。○瀟湘 洞庭湖の南。瀟水と湘水が合流するあたり。【訳】岳陽館中から洞庭湖を遠く眺めて詠んだ詩。万古のむかしから洞庭湖は巴丘の戍(とりで)としての役目を果たしてきた、その平らな湖面がここから延々とつづいている。どうしてこんなに果てしなく広々としているのかしら、さびしい夕暮れにますます青々と見えるのかしら。幾重にも打ち寄せる波の上には万物を生み出すような水蒸気がたちこめ、湖の中央あたりに太陽が沈みかかる。そんな中、故郷へ向かう旅人を乗せた船がぽつんと一艘だけ見えるが、あの船もいずれそのうち瀟湘のあたりにたどりつくのであろう。
October 3, 2005
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ガンバッテイル質屋さん
October 2, 2005
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逢■(林にオオザト。チン)州使因寄鄭協律 相思楚天外、夢寐楚猿吟。更落淮南葉、難為江上心。衡陽問人遠、湘水向君深。欲逐孤帆去、茫茫何處尋。【韻字】吟・心・深・尋(平声、侵韻)。【訓読文】■(チン)州の使ひに逢ひ鄭協律に寄す。相思ふ楚天の外、夢寐す楚猿の吟。更に落つ淮南の葉、江上の心を為すこと難し。衡陽人を問ふこと遠く、湘水君に向かひて深し。孤帆を逐つて去らんと欲すれど、茫茫として何れの処にか尋ねん。【注】○■(チン)州 湖南省■(チン)県。○鄭協律 劉長卿の友人で、姓が鄭で、協律郎(宮中の音楽を司る官)をつとめた者。○夢寐 睡眠中。○淮南 淮水の南。○衡陽 湖南省衡山県の西北にある衡山の南。○湘水 湖南省を流れ、瀟水と合流して洞庭湖に入る川。【訳】■(チン)州から来た使者に逢い、その者に託して鄭協律に贈る詩。君がいるのはいにしえの楚の地方、折に触れてかの地のサルの鳴き声を夢に見るよ。また秋を迎えて淮南では木々の葉が散っているが、もう辛い別れは二度とごめんだ。訪問しようと思っても衡陽はあまりに遠く、君の所までは難儀な湘江が深々と行く手をはばむ。できることなら船を追いかけて君の所に行こうと思うが、水は広々と果てしなくどこを目指せばよいのやら。
October 2, 2005
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寄普門上人 白雲幽臥處、不向世人傳。聞在千峰裏、心知獨夜禪。辛勤羞薄祿、依止愛■(門のなかに月。カン)田。惆悵王孫草、青青又一年。【韻字】傳・禪・田・年(平声、先韻)。【訓読文】普門上人に寄す。 白雲幽臥の処、世人に向つて伝へず。聞く千峰の裏に在りと、心に知る独夜に禅するを。辛勤して薄禄を羞ぢ、依止して間田を愛す。惆悵す王孫草、青青として又一年。【注】○普門上人 劉長卿の知り合いの僧らしいが、未詳。64番に既出。陽羨県(江蘇省宜興県)にいたことがあるらしい。○白雲 むかし、中国では雲は山奥の洞穴から湧き起こると考えられていた。○幽臥 ひっそり暮らす。○世人 世の中の人。○千峰 多くの峰。○辛勤 つらいつとめ。○薄禄 わずかな給料。○依止 よりどころとする。○間田 持ち主のない田地。○惆悵 失望して悲しむ。○王孫草 一説に、センキュウ。オンナカズラ。一説に、ツクバネソウ。ヌハリグサ。ここでは畑にはびこる雑草として描かれているのであろう。【訳】普門上人に贈る詩。 上人様は白い雲の湧き起こるような静かで奥深い地にお暮らしで、とんと世間の人々に説教もまさらない。聞くところによれば多くの峰々を越えたその中にいらっしゃるとか、きっと夜に一人心静かに禅の修行をしておられるのでございましょう。私ときたら相変わらず辛い勤めに励みながら、安い俸給でお恥ずかしく、狭いやせた畑を生活のよりどころとしております。嘆かわしいことに、その畑さえ、王孫草が青青と茂って又一年の貧乏暮らし。
October 1, 2005
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送李侍御貶■(チン)州 洞庭波渺渺、君去弔靈均。幾路三湘水、全家萬里人。聽猿明月夜、看柳故年春。憶想汀洲畔、傷心向白蘋。【韻字】均・人・春・蘋(平声、真韻)。【訓読文】李侍御の■(チン)州に貶(ヘン)せらるるを送る。洞庭波渺渺、君去つて霊均を弔(とぶら)ふ。幾(いづれ)の路か三湘の水、全家万里の人。猿を聴く明月の夜、柳を看る故年の春。憶想せよ汀洲の畔、傷心して白蘋に向かふを。【注】○李侍御 未詳。姓が李で、侍御史をつとめた者。「侍御史」は、もと秦の時代に置かれた宮中の図書係であったが、のちに治書侍御史(図書を司る)、殿中侍御史(宮中の非法を取り締まる)、監察侍御史(内外の非法を正し、祭礼などを取り締まる)の三つに分かれた。○■(チン)州 治所は今の湖南省■(チン)県。楚の項羽が義帝を撃殺させた地。○洞庭 湖南省にある湖の名。かつて中国最大の湖であった。○渺渺 水が広くて果てしがないさま。○霊均 屈原の字(あざな)。春秋時代の楚の文人。もと楚の三閭大夫で、直言を好み、祖国の存続繁栄のために、斉と協力して秦に対抗する縦横策を立てたが、張儀の連衡策を用いた君主の意向と合わず、流浪のすえ、汨羅江に身を投げた。、『楚辞』に「離騒」「九歌」「天問」などの作品をのこした。(前三四三……前二七七年)。○三湘 諸説ある。一は、湘江の上流と漓水と合流して漓湘となり、中流と瀟水と合流して瀟湘となり、下流と蒸水と合流して蒸湘となり、漓湘・瀟湘・、蒸湘を合わせて三湘という。一は、湘郷を下湘、湘潭を中湘、湘陰を下湘とし、合わせて三湘という。一は、湘東・湘西・湘南を合わせていう。○全家 家じゅう。○傷心 心をいためる。『戦国策』「悲しみは心を傷ましむるより痛なるは莫し」。○汀洲 水中にできた低い陸地。○白蘋 白い浮き草。【訳】李侍御が左遷されて■(チン)州に赴任するのを見送る。洞庭湖には波が果てしなく広がり、君は任地へ向かい屈原を弔う。どの路が三湘に続いているのであろうか、君は家族全員ひきつれて一万里も離れた■(チン)州への旅に出る。君が旅立ってしまったら、私は明るい月の夜に猿の鳴き声を聴くにつけても、柳を看て旧年の春を思い出すにつけても、君のことを思い出すであろう。時々は思い出してくれよ、私がこの川の中洲の畔で、白いウキクサを眺めながら、いつも君のことを思って心配しているのを。
October 1, 2005
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