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使迴次楊柳過元八所居 君家楊柳渡、來往落帆過。緑竹經寒在、青山欲暮多。薜蘿誠可戀、婚嫁復如何。無奈■(門のなかに月。カン)門外、漁翁夜夜歌。【韻字】過・多・何・歌(平声、歌韻)。【訓読文】使ひして廻(かへ)り、楊柳に次(やど)り、元八が所居に過(よぎ)る。君が家は楊柳渡、来往落帆過(よ)ぐ。緑竹寒を経て在り、青山暮れんと欲して多し。薜蘿誠に恋ふべく、婚嫁復た如何(いかん)。奈(いかん)ともする無し■(カン)門の外、漁翁夜夜に歌ふを。【注】○楊柳 渡し場の名らしいが、未詳。○元八 劉長卿の友人であろうが、未詳。姓が元、排行が八。○来往 行き来。○薜蘿 カズラ。薜茘と女蘿。隠者の服の素材。○婚嫁 結婚。縁組み。○如何 どうであろうか。○無奈 どうしようもない。○間門 しずかな門。○漁翁 漁師のおやじ。【訳】おかみのご用を終えて引き返す途中、楊柳渡の付近に宿泊し、元八の住居に立ち寄る。君の家は楊柳渡のそば、さまざまな人が行き来し、帆を下ろした船がとおりかかる。君の家の周りに植えられた緑色の葉をつけた竹は冬を越えてもなお青く、むこうのほうには夕暮れせまる青い山がいくつも見える。隠遁生活も憧れるが、結婚のほうはどうなさるのかしら。それにしてもやりきれないのは、しずかな門の外で漁師が毎晩うたを歌うこと。
September 27, 2005
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過前安宜張明府郊居 寂寥東郭外、白首一先生。解印(一作考滿)孤琴在、移家(一作家移)五柳成。夕陽臨水釣、春雨向田耕。終日空林下、何人識此情。【韻字】生・成・耕・情(平声、庚韻)。【訓読文】前の安宜の張明府が郊居に過(よ)ぎる。寂寥たり東郭の外、白首の一先生。印を解きて孤琴在り、家を移して五柳成る。夕陽水に臨んで釣り、春雨田に向(お)いて耕す。終日空林の下、何人か此情を識らん。【注】○過 たちよる。○安宜 宜安の誤りか。宜安県の治所は今の江蘇省宝応県。○張明府 劉長卿の知人らしいが、未詳。○郊居 郊外の住居。 ○寂寥 ひっそりとして、さびしい。○東郭 町の東側の外囲い。○白首 年老いて頭髪が白い。○解印 官印のひもを解く。官職をやめることをいう。○五柳 陶淵明は家に五本の柳をうえて自ら五柳先生と称した。○臨水 川の畔に行く。○向 場所を示す前置詞。○田 はたけ。○終日 一日中。○空林 ひとけのない寂しい林。○何人識此情 白居易《山下留別仏光和尚》詩「労師送我下山行、此別何人識此情」(師の我を送りて山を下りて行くを労ふ、此の別れ何人か此の情を識らん)。【訳】前任の安宜の張長官の郊外の住居に立ち寄る。ひっそりとさびしい、町の東のはずれ、そこに白髪頭の一人の立派な人士がおられる。官職を退いて琴をつまびき、郊外に転居して庭には陶淵明にならって五本のヤナギを植えておられる。夕日をあびて川で釣りをし、春雨のそぼふるなか畑を耕す。一日中そんな静かな林のそばの暮らし、いったい誰がこんなのんびりとして静かな暮らしの良さがわかろうか。
September 26, 2005
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送李秘書卻赴南中(此公舉家先流嶺外,兄弟數人倶沒南中) 卻到番禺日、應傷昔所依。炎洲百口住、故國幾人歸。路識梅花在、家存(一作看)棣萼稀。獨逢廻雁去、猶作舊行飛。【韻字】依・歸・稀・飛(平声、微韻)。【訓読文】李秘書の南中に赴くを送る。(此の公は家を挙げて先づ嶺外に流され、兄弟数人倶に南中に没す)卻つて番禺に到る日、応に昔依る所を傷むべし。炎洲百口住まり、故国幾人か帰る。路には梅花の在るを識り、家には棣萼を存すること稀なり。独り廻雁の去るに逢へば、猶ほ旧行を作(な)して飛ぶがごとし。【注】○李秘書 劉長卿の知人であろうが、未詳。「秘書」は、秘書郎。宮中の図書係。○南中 ひろく中国の南方の地を指す。○嶺外 いまの広東省の地。○番禺 広東省の県名。○炎洲 暑い南方の土地。○百口 一家のひとびと。○棣萼 ニワウメの花がいくつも集まって美しいことから、兄弟の交情の美しさをたとえる。○廻雁 北へ帰る雁。【訳】李秘書が南中に赴任するのを見送る。(彼は一家こぞって先に嶺外に流され、兄弟のうち数人は南中で亡くなった)かえって番禺にもどられる日、きっと昔身をお寄せになった所で兄弟の死をお悲しみになるのでしょう。南方の地に大勢がとどまり、故郷へ帰るものはほとんど無い。路にはどこに梅花が在ったかもしっておられようが、家にはニワウメの花はまばらなろうに、兄弟が何人か亡くなってしまった。独り北へかえる雁の群れに逢へば、ちょうど南に来たときと同様に一羽も欠けずに列をなして飛んで帰るようで、兄弟の欠けたあなたにはおつらいでしょう。
September 25, 2005
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秋夜肅公房喜普門上人自陽羨山至 山棲久不見、林下偶同遊。早晩來香積、何人住沃洲。寒禽驚後夜(一作獨夜。一作後晩)、古木帶高秋。卻入千峰去、孤雲不可留。【韻字】遊・洲・秋・留(平声、尤韻)。【訓読文】秋夜肅公の房にて普門上人の陽羨山より至るを喜ぶ。 山棲久しく見ず、林下偶(たまたま)同遊す。早晩香積に来たれ、何人か沃洲に住(とど)まらん。寒禽後夜に驚き、古木高秋を帯ぶ。卻つて千峰に入つて去らば、孤雲留むべからず。【注】○肅公 劉長卿の知人の僧のであろうが、未詳。○房 寺の僧に与えられた一室。○普門上人 劉長卿の知人の僧のであろうが、未詳。○陽羨山 江蘇省宜興県にある山。 ○山棲 山中での住まい。○同遊 連れだって旅行する。ここでは、同じ時期に旅行したことをいうのであろう。○早晩 いつか。いずれ。○香積 この名の寺は各地にあって、未詳。○沃洲 浙江省新昌県の東にある山。○後夜 六時の一。夜明けごろ。仏教語としては、午前二時から午前六時ごろ。○高秋 空が高く澄み渡る秋。○孤雲 世捨て人のたとえ。【訳】秋の夜に肅公の房で普門上人が陽羨山からやって来られたのを喜ぶ。 山暮らしで長いこと普門さまにはお会いしませんでしたが、きょう林のなかのこの房でたまたまいっしょになりました。いつか香積寺に来てくださいませ、私もいつまでも沃洲にとどまっているつもりはございません。寒中の鳥は後夜に驚いて鳴き、古木はすっかり秋のけはい。あべこべに幾つもの峰が重なった山奥に入ってしまわれたら、もはや空にぽつんと浮かぶ雲とおなじで誰も引き留めることはできますまい。
September 24, 2005
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送朱山人放越州賊退後歸山陰別業 越州(一作中)初罷戰、江上送歸橈。南渡無來客(一作信)、西陵自落潮。空城垂故(一作細)柳、舊業(一作井)廢春苗。閭里相逢少(一作誰相見)、鶯花共寂寥。【韻字】橈・潮・苗・寥(平声、蕭韻)。【訓読文】朱山人放の越州の賊退きて後に山陰別業に帰るを送る。 越州初めて戦罷み、江上帰橈を送る。南渡来客無く、西陵自から落潮。空城故柳垂れ、旧業春苗廃す。閭里相逢ふこと少く、鴬花共に寂寥たり。【注】○朱山人放 朱放。劉長卿の友人。字は長通。襄州の人。越の■(炎のみぎにリットウ。セン)溪に隠棲す。曹王皋の江西を鎮ずるや辟されて節度参謀となる。貞元の初め、拾遺として召されたが就かなかった。31番に既出。「山人」は、俗事を捨てて山に住む隠士。○越州 治所は今の浙江省紹興市。○賊 反乱軍。○山陰 県名。治所は今の浙江省紹興市。○別業 別荘。○帰橈 乗って帰る船。○南渡 浙江省奉化県の東北に在り。○西陵 浙江省蕭山県の西の西興鎮。もと固陵といった。○空城 ひとけのない、ひっそりと静まりかえった町。○旧業 ふるい別荘。○閭里 郷里。○寂寥 ひっそりとしているさま。【訳】友人の隠士朱放が越州の反乱軍が撤退して後に山陰の別荘に帰るのを見送る。 越州はやっと戦乱がおさまり、川のほとりで君が船で帰るのを見送る。君が去れば南渡にも訪問客が無くなり、西陵へは自然と潮が引いてゆく。君の故郷では乱を避けて人が減り、がらんとした町には柳の古木が枝を垂れ、かつて暮らしていた別宅では昨年の春に植えた苗が枯れてしまっているだろう。君が故郷にもどってしまえば、もうめったに逢えないし、チョウセンウグイスも花も共にひっそりとして、さびしそう。
September 23, 2005
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寄會稽公徐侍郎(公時在王傅) 搖落淮南葉、秋風想越吟。鄒枚入梁苑、逸少在山陰。老鶴無衰貌、寒松有本心。聖朝難税駕、惆悵白雲深。【韻字】吟・陰・心・深(平声、侵韻)。【訓読文】会稽公徐侍郎に寄す。(公時に王傅に在り) 揺落す淮南の葉、秋風越吟を想ふ。鄒枚梁苑に入り、逸少山陰に在り。老鶴衰貌無く、寒松本心有り。聖朝税駕難く、惆悵す白雲の深きを。【注】○会稽公徐侍郎 劉長卿の知人らしいが、未詳。○揺落 風を受けてひらひらと散る。○淮南 唐代の道の名。淮水以南の地。いまの湖北・江蘇・安徽省の一部。○越吟 荘■(潟のサンズイのない字。セキ)は楚の執珪に官したが、故国を忘れず越国の歌を吟唱したという。○鄒枚 漢の文人で、梁の孝王に仕えた鄒陽と枚乗。○梁苑 兎園。漢の文帝の次男、梁の孝王の庭園。ここで四方の豪傑や学者を集めて盛大な宴を催した。○逸少 王羲之。字は逸少。琅邪郡臨沂の人。秘書郎、江州刺史、護軍、右軍将軍、会稽内史に官す。官を退き、会稽に遊んで書を楽しんだ。永和九年(353)、蘭亭に清遊の人士を集めて詩文の会を催した。晩年は五斗米道に傾倒。若くして書を好み、漢魏以来の書を集大成し、能書家としても知られ、子の王献之とともに二王と称される。「蘭亭序」「十七帖」は著名。 (321-379年。一説に303ー361年)。 ○山陰 秦は山陰県を置いた。治所は今の浙江省紹興市。○衰貌 おとろえた容貌。○聖朝 聖天子の御代。○税駕 馬車から馬を解きはなって休息する。○惆悵 恨み嘆く。失望して悲しむ。【訳】会稽公の徐侍郎に贈る詩。(公は現在、王の補佐役である) 淮南の地方の木々の葉は風に散り、秋風が吹くと荘■(セキ)が越の歌を吟唱した故郷への思いを想像する。鄒陽も枚乗も梁の孝王の庭苑に入り、王羲之は山陰県に住んだ。老いた鶴は衰えた容貌は無く、寒中の松は昔の気持ちを忘れず青い葉を茂らせている。聖王治めたもう御代では馬車から馬をはずして休むまもなく、天子の取り巻きが空の厚い白雲のように天子の明徳を覆い隠してしまうのを悲しみ嘆く。
September 22, 2005
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送張司直赴嶺南謁張尚書 番禺萬里路、遠客片帆過。盛府依横海、荒祠拜伏波。人經秋瘴變、鳥墜火雲多。誠憚炎洲裏、無如一顧何。【韻字】過・波・多・何(平声、歌韻)。【訓読文】張司直の嶺南に赴きて張尚書に謁するを送る。番禺(ハングウ)万里の路、遠客片帆過ぐ。盛府横海に依り、荒祠伏波を拝す。人は秋瘴を経て変じ、鳥は火雲に墜つること多し。誠に憚(はばか)る炎洲の裏、一顧を如何ともする無きを。【注】○張司直 劉長卿の友人であろうが、未詳。「司直」は、裁判官。公明正直を司る官。○嶺南 唐代の道(ドウ。地方行政区画)の一。五嶺(湖南省の衡山から東、海に至る山系の五つの嶺)の南。広東省・広西省。○謁 お目通りする。偉い人に会う。○張尚書 未詳。「尚書」は、唐代の行政の中央最高官庁の長官。○番禺 広東省番禺県。○万里 きわめて遠い距離。○遠客 遠方へ向かう旅人。○片帆 一方にだけ帆を揚げた船。○盛府 幕府。役所。○横海 漢の将軍の名号。○荒祠 あれはてたほこら。○伏波 漢の将軍の名号。○秋瘴 秋の瘴気(人を病気にする高温と湿気)。○火雲 燃え立つような夏の雲。○炎洲 南方の地。○無如……何 ……をどうすることもできない。○一顧 ちらっと見ること。また、目をかけて世話すること。【訳】張司直が嶺南に赴任して張尚書にお会いしに行くのを見送る。番禺までは万里の路のり、遠くへ旅立つ君をのせた片帆の船が通り過ぎてゆく。幕府は横海将軍をたよりにし、荒れはてた祠のそばで伏波将軍の任務をはたす。南方では環境が厳しく人は秋の瘴気にあたると体調をくずし、鳥は夏の雲がうかぶ空の暑さにたえきれず墜ちることも多いという。ほんとうに心配なのは南方の地にあって、君が張尚書様から目もくれられないことだ。
September 21, 2005
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送崔載華張起之■(門のなかに虫。ビン)中 不識■(ビン)中路、遙知別後心。猿聲入嶺切、鳥道問人深。旅食過夷落、方言會越音。西征開幕府、早晩用陳琳。【韻字】心・深・音・琳(平声、侵韻)。【訓読文】崔載華・張起の■(ビン)中に之(ゆ)くを送る。 識らず■(ビン)中の路、遙かに知る別後の心。猿声嶺に入ること切(セツ)に、鳥道人を問ふこと深し。旅食夷落を過ぎ、方言越音に会す。西征幕府を開き、早晩陳琳を用ゐん。【注】○崔載華・張起 いずれも劉長卿の友人らしいが、未詳。2番に既出。○■(ビン)中 福建省。2番に既出。○別後 別れて以来。○猿声 サルの鳴き声。もの悲しいものとされる。○鳥道 鳥しか渡れないような険しい道。山の尾根。○旅食 よその土地で暮らす。○夷落 未開の異民族の住む集落。○方言 お国なまり。○越音 越(エツ)の地方の発音。○西征 西方へ向かう。○幕府 将軍の本営。節度使の政務をとる所。○早晩 いずれ。いつか。○陳琳 三国魏の文人。広陵の人。字は孔璋。建安七子の一。文章をよくし、もっとも檄文に長じた。(?ー217年)。【訳】友人の崔載華と張起が■(ビン)中に行くのを見送る。 ■(ビン)中の路は通ったこともないが、遠くからでも別れてからの辛さは想像がつく。猿の声は悲しげに嶺にひびき、人を訪問するにも鳥しか通らぬような深く険しい山道を通らねばならぬ。未開の異民族の集落に旅をつづけ、越の地方の聞き慣れない発音や方言にでくわすかもしれぬ。それでも、そのうち朝廷が節度使を西に派遣して幕府を開けば、いずれ陳琳のようにすぐれた文人である君たちを登用することであろう。
September 19, 2005
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題元録事開元所居 幽居蘿薜情、高臥紀綱行。鳥散秋鷹下、人間春草生。冒嵐歸野寺、収印出山城。今日新安郡、因君水更清。【韻字】行・生・城・清(平声、庚韻)。【訓読文】元録事が開元の所居に題す。幽居蘿薜の情、高臥紀綱の行。鳥散じて秋鷹下り、人間春草生ず。嵐を冒して野寺に帰り、印を収めて山城を出づ。今日新安郡、君に因つて水更に清らかなり。【注】○元録事 劉長卿の友人であろうが、未詳。「録事」は、州郡の属官(地方官庁の事務官)で、文書や帳簿を管理する。○開元 安徽省にあった寺の名前か。○所居 住居。ここでは寺の敷地内に間借りしていたか。○幽居 しずかな住まい。○蘿薜 ふつう「薜蘿」と書き、カズラのことであるが、詩では平仄の都合で往々にして語順を逆にする。○高臥 世俗にわずらわされず、高尚な心で暮らす。○鳥散秋鷹下、人間春草生 「鷹」は厳格な役人である元録事、「鳥」は不正をはたらく悪人、「春草」は、庶民を指すのであろう。すなわち、立派な役人がいれば、悪人がはびこらなくなり、庶民がのびのびと生活できるということを暗示しているのであろう。○紀綱 国家の制度や規則。○嵐 山にたちこめるモヤ。○印 官印。○新安郡 安徽省歙県。【訳】元録事の開元の住居を詠んだ詩。君の住まいは周囲の木々にカズラが茂りるような山奥、世俗にわずらわされることなく、高尚な心を持っているのに、規律をはずれたような行いはしない。秋に鷹が舞い降りると他の鳥は散りぢりに逃げ、世間には春の草が生じる。山にモヤがたちこめているにもかかわらず野寺に帰り、官印をしまって山の城壁を出る。現在の新安郡は、君のおかげで川の水までもいっそう清らか。
September 19, 2005
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歳日作 建寅迴北斗、看歴占春風。律變滄江外、年加白髮中。春衣試稚子、壽酒勸衰翁。今日陽和發、榮枯豈不同。【韻字】春・中・翁・同(平声、東韻)。【訓読文】歳日の作。建寅北斗を廻り、歴を看れば春風を占む。律は変ず滄江の外、年は加はる白髮の中。春衣稚子に試み、寿酒衰翁に勧む。今日陽和発し、栄枯豈に同じからざらん。【注】○建寅 陰暦正月の別名。旧暦一月ごろに北斗星の柄の部分が寅(すなわち東北東)を指すのでいう。○看歴 こよみを見る。○律変 音律が変わる。春には雪や氷が解けて川が増水し、川音がちがって聞こえることをいうか。○滄江 広々とした青緑色の川。○白髮 しらが。○春衣 春の着物。あわせ。○稚子 幼い子供。○寿酒 祝い酒。正月のおとそは年長者から飲むのが昔の中国の習慣。○衰翁 年取ったじいさん。○陽和 春ののどかさ。春の穏和な気候。○栄枯 人や家の栄えると衰えると。【訳】元日の作。正月には北斗七星の柄が東北東を指し、暦を見ると、もう春風がふく季節。ひろい川の川音も変わり、年とともに白髪も増えた。幼子の着物も春物になり、おとそを老いぼれに勧めてくれる。今日から春の暖気が増すが、人の世の栄枯盛衰はどうして平等でないのであろう。
September 18, 2005
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酬秦系 鶴書猶未至、那出白雲來。舊路經年別、寒潮毎日迴。家空歸海燕、人老發江梅。最憶門前柳、■(門のなかに月。カン)居手自栽。【韻字】來・廻・梅・栽(平声、灰韻)。【訓読文】秦系に酬ゆ。鶴書猶ほ未だ至らず、那(なんぞ)白雲を出でて来たる。旧路年を経て別れ、寒潮日毎に廻る。家空しくして海燕帰り、人老いて江梅発(ひら)く。最も憶ふ門前の柳、■(カン)居して手自(てづから)栽ゑしことを。【注】○秦系 劉長卿の友人。○鶴書 朝廷が賢者を招く詔書。○那出白雲來 56番に既出の離婚を非難する意が含まれているのであろう。○白雲 白い雲が湧き起こるような深い山のなか。○閑居 することもなく、のんびり暮らす。○手自 みずからの手で。【訳】秦系からおくられた詩に答えた詩。朝廷からのお召しの詔書もまだ届かぬのに、どうして山居から出てこられたのか。あの古びた道でお別れしてから何年もたつが、寒々とした海潮は君の住む所から私の住む所まで日ごとにめぐっている。家は主人を失ってもツバメはもどってきて、川べりのウメが咲く春には人はまた年をとる。思い出すのは、あの門前の柳を、隠棲するにあたって陶淵明にならって君自身の手で植えた時のこと。
September 18, 2005
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見秦系離婚後出山居作 豈知偕老重、垂老絶良姻。■(希におおざと。チ)氏誠難負、朱家自愧貧。綻衣留欲故、織錦罷經春。何況▲(クサカンムリに靡。ビ)蕪緑(一作在)、空山不見人。【韻字】姻・貧・春・人(平声、真韻)。【訓読文】秦系の離婚して後に山居を出づるを見て作る。豈に知らんや偕老の重きことを、老に垂(なんなん)として良姻を絶つ。■(チ)氏誠に負き難く、朱家自ら貧なるを愧づ。綻衣留むれど故(ふ)りんと欲し、織錦罷(つか)れて春を経たり。何(いかに)況(いはんや)▲(ビ)蕪緑(一作在)にして、空山人を見ざるを。【注】○秦系 劉長卿の友人。3番に既出。○山居 山のなかの住居。○偕老 ともに老いる。○垂老 老人になりかかっている。○良姻 よい縁組み。○■(チ)氏 何か故事があるらしいが未詳。○朱家 朱買臣の妻は貧しさにたえられずに逃げ去ったが、のちに夫が出世し太守として赴任した姿を見て、はじて自殺したという。○▲(ビ)蕪 香草。オンナカズラの苗。センキュウ。○空山不見人 王維《鹿柴》「空山不見人」。空山は、ひとけのない静かな山。ものさびしい山。【訳】秦系が離婚して後に山居を出てしまったのを見て作った詩。君はまだ夫婦そろって歳をかさねることの重要さがわからぬのであろう、老境に近づくのに良い結婚生活をやめてしまったね。■(チ)氏は誠意から夫を捨てたりしなかったが、朱家の妻は貧乏をはじて出ていった。ほころんだ着物は縫い合わせてもじきに古くて着られなくなり、にしきを織ってもヨレヨレのまま春が過ぎた。まして君の家の庭にオンナカズラが生い茂って、静まりかえった山のなかに君の姿が見えないのは残念でならぬ。
September 17, 2005
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酬李員外從崔録事載華宿三河戍先見寄 寒江鳴石瀬、歸客夜初分。人語空山答、猿聲獨戍聞。遲來朝及暮、愁去水連雲。歳晩心誰在、青山見此君。【韻字】分・聞・雲・君(平声、文韻)。【訓読文】李員外の崔録事に従ふに酬ゆ。寒江石瀬に鳴り、帰客夜初めて分る。人語空山に答へ、猿声独り戍に聞こゆ。遅く来つて朝より暮べに及び、愁ひ去つて水雲に連なる。歳晩心誰か在らん、青山此君を見る。【注】『全唐詩』に「酬李員外從崔録事載華宿三河戍先見寄」(李員外の崔録事載華に従つて三河戍に宿し、先づ寄せらるるに酬ゆ)とする。○李員外 54番に既出。○崔録事 崔載華。2番に既出。「録事」は、録事参軍。州・郡の属官で文書や帳簿を管理する役人。○三河戍 未詳。「戍」は、守備兵の陣屋。○歳晩 歳末。○此君 晋の王徽之が竹を好み「何ぞ一日も此の君無かるべけんや」と言ったところから、竹の別名。【訳】李員外が崔録事のおともをして出かけ、三河戍に泊まり、まっさきに贈ってくれた詩に答えた詩。寒々とした川は石がゴロゴロとした浅瀬に水音をひびかせるが、ひさしぶりに故郷に帰ってきた私は、その音が川の水音だと夜になってようやくわかった。こちらではひっそりと静まりかえった山に人の話し声がこだましているが、君のいるとりでに聞こえるのはサルの声だけかしら。もどるのが遅れて朝帰る予定が夕暮れになったが、君からのたよりをもらって愁いも川の水や空の雲といっしょにどこかえいってしまった。年末には皆せわしなく、いったい誰が私の事など気にかけてくれようか、故郷の青い山に生える竹のように、節をまげない君くらいのものだ。
September 16, 2005
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送李員外使還蘇州兼呈前袁州李使君賦得長字袁州即員外之從兄 別離共成怨(一作誠共怨)衰老更難忘。夜月留同舍、秋風在遠郷。朱絃徐向燭、白髮強臨觴。歸獻西陵作,誰知此路長。【韻字】忘・郷・觴・長(平声、陽韻)。【訓読文】李員外の使ひして蘇州に還るを送り、兼ねて前袁州李使君に呈す。賦するに長の字を得たり。袁州は即ち員外の従兄なり。 別離共に怨を成し(一に誠に共に怨むに作る)、衰老更に忘れ難し。夜月同舍に留まり、秋風遠郷に在り。朱絃徐ろに燭に向かひ、白髪強ひて觴に臨む。帰つて献ぜよ西陵の作、誰か知らん此の路の長きを。【注】○李員外 李■(「糸」の右に「予」と書く字。ジョ)。員外郎は46番に既出。○李員外 李■(ジョ)。字は仲舒。礼部侍郎希言の子。若くして文学あり、天宝の末、秘書省校書郎を拝す。左補闕、司封員外郎、知制誥、中書舍人、礼部侍郎、兵部侍郎、吏部尚書、同州刺史などをつとめた。員外郎は46番に既出。○蘇州 いまの江蘇省蘇州市。春秋時代には呉の都が置かれ、秦代には会稽郡、漢代には蘇州となった。「天に天堂有り、地に蘇州有り」と言われた名勝地。○前 前任。○袁州李使君 李嘉祐。字は従一。趙州の人。天宝七年擢んでられ第す。祕書正字を授けられたが、事に坐して、▲(番におおざと。ハ)江の令に謫せられた。入りて中台の郎となる。上元中、出でて台州の刺史となる。大暦中、復た袁州の刺史となる。嚴維、劉長卿、冷朝陽らと親交があり、詩は麗婉で、斉梁の風有りといわれる。「袁州」は、隋代に江西省宜春県に置かれた。「使君」は、州や郡の長官に対する尊称。○従兄 年上の男のいとこ。○西陵 湖北省西部の長江の峡谷。三峡の一。【訳】李員外が使者として蘇州に還るのを見送り、同時に前袁州刺史の李使君に贈呈した詩。作詩にあたり「長」の字を韻字にもちいる事になった。前任の袁州刺史は李員外の従兄である。別れは共に悲しいもの、年をとって気が弱くなると、なおさら忘れがたい。今宵は夜の月を眺めながら同じ宿舎に泊まるが、秋風が吹く時分には君はもう遠い土地にいる。しずかに灯火の前で赤い弦を張った琴の音を聞きながら、白髪あたまの我が身は無理して杯を重ねる。君は帰ったら、この西陵で詠んだ私の詩を李嘉祐に差し上げてくれ、君たち以外には私と君たちとの住む土地がどんなに隔たっているかわからぬのだから。
September 16, 2005
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送州人孫■(サンズイに元。ゲン)自本州却歸句章新營所居故里歸城客、新家去未安。詩書滿蝸舍、征税及漁竿。火種山田薄、星居海島寒。憐君不得已、歩歩別離難。【韻字】安・竿・寒・難(平声、寒韻)。【訓読文】州人孫■(ゲン)本州より句章に却帰し新たに所居を営むを送る。故里城客帰り、新家去つて未だ安からず。詩書蝸舍に満ち、征税漁竿に及ぶ。火種山田薄く、星居海島寒し。君を憐れむも已むを得ず、歩歩別離難し。【注】○孫■(ゲン) 劉長卿の友人であろうが、未詳。○句章 浙江省余姚の東南。○故里 生まれ故郷。○詩書 詩についてかかれた書物。○蝸舍 カタツムリのカラのような丸い屋根の家。また、狭い家。○征税 租税。○火種 草木を田畑で焼き、その灰を肥料に耕作すること。○山田 山中のはたけ。○歩歩 一歩あるくごとに。【訳】同じ州に住む友人の孫氏が、この州から故郷の句章に帰つて新居を営むことになったので、それを見送る。一度は町に出た君が故郷へ帰るとききました、新居へ行っても当分は、暮らしのほうも落ち着くまい。詩に関する書物は手狭な家にあふれ、わずかな漁の獲物にまで税がかかるであろう。焼き畑をしても山奥の畑では収穫は少なく、離れ小島は海風が強く寒かろう。君と別れるのは残念だがやむをえぬ。一歩あるくたびに別れるのがつらくなるよ。
September 14, 2005
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偶然作野寺長依止、田家或往還。老農開古地、夕鳥入寒山。書劍身同廢、煙霞吏共■(門のなかに月。カン)。豈能將白髪、扶杖出人間。【韻字】還・山・■(カン)・間(平声、刪韻)。【訓読文】偶然に作る。野寺長く依り止まり、田家或いは往還す。老農古地を開き、夕鳥寒山に入る。書剣身同じく廃(すた)り、煙霞吏共に閑たり。豈に能く白髪を将(も)つて、杖に扶(フ)して人間に出でんや。【注】○偶然 たまたま。○野寺 野中の寺。○依止 たよってとどまる。寄宿する。○田家 いなかの家。農家。○老農 年取った農夫。○書剣 むかしの文人の常に携帯した書物と剣。学問と武芸。○煙霞 もやとかすみ。山や川の美しい景色。○扶杖 杖にすがる。○将 ……で。○人間 世間。よのなか。【訳】たまたまできた詩。時には野中の寺に長く逗留し、時には農家と行き来する。百姓のじいさんは昔からある土地を開墾し、夕暮れの鳥は寒々しい山のねぐらへ帰って行く。書物も剣も我が身も田舎暮らしで、すっかりすたれ、川のもやも山の霞も我が役職も、ともに相変わらずひっそりしたもので変化もない。いまさらどうして、この老いぼれが、こんな白髪頭で、杖にすがって、よのなかに出て生き恥をさらせようか。
September 13, 2005
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新安奉送穆諭徳歸朝賦得行字九重宣室召、萬里建溪行。事直皇天在、歸遲白髮生。用材身復起、覩聖眼猶明。離別寒江上、潺湲若有情。【韻字】行・生・明・情(平声、庚韻)。【訓読文】新安にて穆諭徳の朝に帰るを送り奉る。賦するに行の字を得たり。九重宣室召し、万里建溪行。事直くして皇天在り、帰ること遅くして白髮生ず。材を用ゐて身復た起こり、聖を覩て眼猶ほ明らかなり。離別す寒江の上、潺湲として情有るがごとし。【注】○新安 県の名。唐代に雉山県を改めて置いた。治所は今の浙江省淳安県の西南の淳城鎮。○穆諭徳 劉長卿の知人らしいが、未詳。○帰朝 朝廷の命令で遠くへ赴任した者が、朝廷に帰還する。○九重 天子の宮殿。○宣室 漢の宮殿。未央の前の正室(君主が政治を行う表御殿)。○建渓 建水。源は福建省崇安県の西北に発し、東南流して建陽県の東、建甌県の西を経て、南に折れて南平市東南に至り、西渓にと合流して■(門のなかに虫。ビン)江となる。建甌県より上流を崇渓・建陽渓ともいう。○皇天 天。また、天の神。○用材 すぐれた人材を用いる。○離別 人と別れて離れること。○潺湲 流れる水の音の形容。「涙が流れるさま」の意もあるのを利用した。【訳】新安で穆諭徳が朝廷に帰るのを見送りもうしあげる。各自送別の詩を詠むことになったが、「行」の字をひきあてた。このたび天子の宮殿から、あなた様にお召しがかかり、った勤務態度が実直なので大いなる天も見放さなかったが、都に帰るのが遅すぎて白髪も生えておられるもよう。すぐれた人材を登用して、みごとに返り咲き、賢く徳のすぐれた人を見ぬく眼力もむかしのまま。きょうこの寒々とした川のほとりでお別れいたしますが、川のせせらぎもあなた様との別れを悲しむ泣き声のように聞こえます。
September 12, 2005
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酬張夏別後道中見寄離羣方歳晏、謫宦在天涯。暮雪同行少、寒潮欲上遲。海鴎知吏傲、砂鶴見人衰。只畏生秋草、西歸亦未期。【韻字】涯(平声、佳韻)・遲・衰・期(平声、支韻)。「涯」のみ佳韻であるが、あるいは唐代に佳韻と支韻は通用であったか。【訓読文】張夏の別後に道中にて寄せらるるに酬ゆ。群れ離れて方(まさ)に歳晏(やす)く、宦を謫(タク)せられて天涯に在り。暮雪同行少く、寒潮上らんと欲して遅し。海鴎吏の傲なるを知り、砂鶴人の衰へたるを見る。只だ畏る秋草を生じ、西帰亦た未だ期せざらんことを。【注】○張夏 劉長卿の友人であろうが、未詳。37番に既出。○別後 その人と別れてのち。○晏 やすらか。○謫宦 官職をおとされて地方に左遷されること。○天涯 天のはて。遙かに遠い所。○暮雪 夕暮れに降る雪。○同行 道連れ。○海鴎 海にいるかもめ。○傲 何物にもとらわれず、ゆうゆうと楽しむ。【訳】張夏が別れてのちに道中から送ってきた詩に答えて作った詩。我が身は中央政府の仲間たちと離ればなれになったが、なんとか今年も無事にすごしている。官職をおとされて今いるのは都から遠くはなれた天の果てのような所。夕暮れの雪のちらつくなか、連れも少なく、寒々とした潮流が川をさかのぼる時分だが、潮のあげかたはゆるやか。カモメは我が身が何物にもとらわれず悠々自適の生活をしていることを知っていようが、砂浜のツルは老い衰えた我が身を同情するようにこちらを見ている。ただ不安なのは秋の草が生い茂る季節になっても、西方へ帰る予定が立たず、君と今度いつあえるか、まだわからないこと。
September 11, 2005
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送金昌宗歸錢塘 新家浙江上、獨泛落潮歸。秋水照華髮、涼風生褐衣。柴門嘶馬少、藜杖拜人稀。惟有陶潛柳、蕭條對掩扉。【韻字】歸・衣・稀・扉(平声、微韻)。【訓読文】金昌宗の銭塘に帰るを送る。新家浙江の上、独り落潮に泛(うか)びて帰る。秋水華髮を照らし、涼風褐衣に生ず。柴門馬嘶(いなな)くこと少く、藜杖人を拝すること稀なり。惟(ただ)陶潜の柳有り、蕭条として掩扉に対す。【注】○金昌宗 劉長卿の友人であろうが、未詳。○銭塘 浙江省杭州市あたり。○新家 新居。○浙江 浙江省を流れ杭州湾に注ぐ川。桐江(上流)、富春江(中流)、銭塘江(下流)と名がかわる。○泛 浮かぶ。水の上に船を浮かべる。○落潮 引き潮。○秋水 秋の清らかな水。○華髪 しらがあたま。○褐衣 毛織りの粗末な着物。身分の低い者が着る。○柴門 枯れ木の小枝を編んで作った門。また、粗末な家。○藜杖 アカザの茎で作られた老人用の軽い杖。○拝 両敬意を示すため、手を胸元で組み、頭を垂れ、つづいて両手を両脇にもどす。○陶潜 東晋の文人。潯陽の人。字は淵明。彭沢県令となったが、役人生活に嫌気がさして官を辞し、帰郷して田園生活を送った。庭に五本の柳を植え、みずから五柳先生と称した。(?ー427年)。○蕭条 細々としてものさびしい形容。○掩 閉じる。【訳】金昌宗が銭塘に帰るのを見送る。こんどの君の新居は浙江のほとり、これから独り引き潮に船を浮かべて帰ってゆかれる。秋の澄んだ水は我が老いぼれた白髪頭を映し出し、秋の涼しい風が毛織りの粗末な着物に吹き込む。左遷された私の家の門のあたりでは、出番が来たかと馬がいななくことも少く、アカザの杖をつくほどに老いぼれてからは、偉い人に会って頭を下げる機会もめったにない。ただ陶潜にならって植えた柳がすっかり葉を落とし、細々とものさびしげに閉じた門に対しているばかり。
September 11, 2005
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和州送人歸復郢因家漢水曲、相送掩柴扉。故郢生秋草、寒江淡落暉。緑林行客少、赤壁住人稀。獨過潯陽去、潮歸人不歸。【韻字】扉・暉・稀・歸(平声、微韻)。【訓読文】和州にて人の郢に帰復するを送る。家は漢水の曲なるに因り、相ひ送りて柴扉を掩ふ。故郢秋草生じ、寒江落暉淡し。緑林行客少く、赤壁住人稀なり。独り潯陽を過ぎて去り、潮帰りて人帰らず。【注】○和州 安徽省和県。○郢 春秋時代の楚の都。もと湖北省江陵県の西北にあった。○漢水 陝西省西部に源を発し、東流して漢口で長江に注ぐ川。○柴扉 しばで作った戸。○寒江 寒々とした川。○落暉 夕日。沈みゆく太陽のひかり。○緑林 湖北省の緑林山。○赤壁 湖北省嘉魚県の東北、長江南岸にある。三国時代に魏軍の南下に対抗し、呉と蜀が連合して、呉将周瑜がこの地で曹操の軍船を焼き討ち、大勝した。○潯陽 江西省九江県の北のあたりを流れる長江の別名を潯陽江といった。【訳】和州で友人が郢の地へ帰るのを見送る。あなたの故郷は漢水の大きく曲がったいにしえの郢の地、きょうは我が家の粗末な柴の戸をとじてお見送りにまいりました。おそらく故郷の郢では秋の草がのび、さむざむしい川には夕日があわい光を放ちながら沈みかかる時分。旅の途中には古来の名所が数々ありましょうが、緑林山にはゆく人も少なく、赤壁のあたりには住む人もまれでしょう。あなたは一人で潯陽を過ぎて郢に向かわれるが、潮がこの地へ引き返すことはあっても、あなたはもう戻って来ないと思うとさびしいことだ。
September 10, 2005
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和州留別穆郎中播遷悲遠道、揺落感衰容。今日猶多難、何年更此逢。世交黄葉散、郷路白雲重。明發看煙樹、唯聞江北鐘。【韻字】容・逢・重・鐘(平声、冬韻)。【訓読文】和州にて穆郎中に留別す。播遷(ハセン)遠道を悲しみ、揺落衰容を感ず。今日猶ほ多難、何れの年にか更に此に逢はん。世交黄葉散じ、郷路白雲重なる。明発煙樹を看、唯だ江北の鐘を聞く。【注】○和州 安徽省和県。○留別 去る者が、とどまる者に別れを告げる。○穆郎中 劉長卿の友人であろうが、未詳。郎中は尚書省(中央行政機関)の六部(吏部・礼部・兵部・刑部・戸部・工部)がさらに四司にわかれるが、その細分された二十四司の長官。○播遷 他国をさすらう。故郷を離れて遠い地に流浪する。○揺落 木の葉が風にヒラヒラと散る。○衰容 衰え弱ったすがた。○多難 災難や困難が多くある。○何年 いったいいつになったら。○世交 先祖代々の付き合い。○郷路 故郷へいく道。○明発 夜明け。【訳】和州で離別の情を詠んで穆郎中に贈った詩。故郷を遠くはなれて悲しみもひとしお、木の葉が散るのを見るにつけても我が身の衰えが感じられる。年をとった現在でもなお生活の苦労が多く、今度はいつになったら、またこうして君と会えるだろうか。黄葉が散るように君の家との代々の付き合いもしだいにまばらになり、故郷への道は、どこまでも白雲がつづくかなた。夜明けに、もやにかすむ木々をみれば、川の北から寺の鐘がきこえるばかり。
September 10, 2005
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江州留別薛六柳八二員外江海相逢少、東南別處長。獨行風嫋嫋、相去水茫茫。白首辭同舎、青山背故郷。離心與潮信、毎日到潯陽。【韻字】長・茫・郷・陽(平声、陽韻)。【訓読文】江州にて薛六、柳八の二員外に留別す。江海相逢ふこと少く、東南処を別ちて長し。独り行きて風嫋嫋、相去りて水茫茫。白首同舎を辞し、青山故郷を背く。離心と潮信と、毎日潯陽に到る。【注】○江州 治所は江西省九江市。○薛六 劉長卿の友人であろうが、未詳。姓が薛で排行が六の者。○柳八 柳宗元か。順宗の時、礼部員外郎をつとめた。○員外 員外郎。尚書省に置かれた定員外の補佐役の行政官。のちに定員化された。○独行 ひとりで出かける。○嫋嫋 風がふく形容。○茫々 水が広々とつづいているさま。○白首 白髪頭の老人。○離心 別れのつらく悲しい気持ち。○潮信 潮の満ち引きする時刻。○潯陽 郡の名。唐代に江州を改めて置いた。治所は江西省九江市。【訳】江州で薛六と柳八の二人の員外郎に詩を残して別れをつげる。こんどであらたな任地へ向かえば、川をはさんで逢うこともまれ、東と西とに別れ別れ、長らく会えなくなるでしょう。風ヒューヒューと吹くなかを一人で任地へむかいます。はてしなく広がる水が我らのあいだ隔てます。老いた我が身は同じ宿舎を去り、故郷と逆方向の青山そびえるほうに向かう。別れのさびしい気持ちと潮のたよりとが、毎日わたしの代わりに潯陽にとどくことでしょう。
September 10, 2005
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赴新安別梁侍郎新安君莫問、此路水雲深。江海無行跡、孤舟何處尋。青山空向涙、白月豈知心。縱有餘生在、終傷老病侵。【韻字】深・尋・心・侵(平声、侵韻)。【訓読文】新安に赴かんとして梁侍郎に別る。新安君問ふこと莫かれ、此路水雲深し。江海行跡無く、孤舟何れの処にか尋ねん。青山空しく涙に向かひ、白月豈に心を知らんや。縦(たとい)余生の在る有るも、終(つひ)に老病の侵すを傷まん。【注】○新安 各地にあるが、ここでは新安県。治所は今の浙江省淳安県の西南の淳安城鎮。○梁侍郎 劉長卿の友人であろうが、未詳。侍郎(門下侍郎)は、侍中につぐ宰相の職。○江海 川と海。○孤舟 ぽつんとある一艘の船。○余生 のこりの人生。【訳】新安に赴任することになり梁侍郎に別れをつげる。新安はどんな所かねなどと聞かないでくれたまえ。これから行く先は遠く、深い水と厚い雲とがどこまでもつづいているのだ。川と海とが眼前に広がっているが目当てもないのに、こんなちっぽけな一艘の船でどこへ行けというのか。青い山は涙にくれる我が前にしずかにそびえ、白く輝く月も我が心を知らず顔。たとい、まだ残された寿命があるとしても、結局は老いと病に侵されるのを嘆くばかり。
September 9, 2005
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宿北山禪寺蘭若上方鳴夕磬、林下一僧還。密行傳人少、禪心對虎■(門のなかに月。カンとよむ)。青松臨古路、白日滿寒山。舊識窓前桂、經霜更待(一作得)攀。【韻字】還・■(カン)・山・攀(平声、刪韻)。【訓読文】北山禅寺の蘭若(ランニャ)に宿す。上方夕磬鳴り、林下一僧還る。密行人に伝ふること少なく、禅心虎に対して閑なり。青松古路に臨み、白日寒山に満つ。旧識窓前の桂、霜を経て更に攀(よ)づるを待つ。【注】○北山 浙江省富陽県の北にある山か。39番に見える。○蘭若 寺。寺院。ここでは直前に禅寺とわざわざあるので、その宿坊であろう。○上方 土地の最高所。○旧識 古い知り合い。○桂 モクセイ。【訳】北山の禅寺の宿坊にやどる。山上の寺には夕暮れの磬が鳴り響くころ、林の中のみちを一人の僧が帰ってきた。人知れず修行して弟子にもほとんど伝えず、静かな心を保ち、虎と出会っても動揺しない。青く茂った松は古びた小道を見下ろし、陽射しが寒々とした山に満ちている。昔馴染みの友といえば窓の前の桂の木、霜を経ても花を枯らさず、なお折り取られるのを待っている。
September 9, 2005
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送方外上人之常州依蕭使君宰臣思得度、■(鴎の旧字。オウとよむ)鳥戀為羣。遠客廻飛錫、空山臥白雲。夕陽孤艇去、秋水兩溪分。歸共臨川史、同翻貝葉文。【韻字】羣・雲・分・文(平声、文韻)。【訓読文】方外上人の之常州に之き蕭使君に依るを送る。宰臣得度を思ひ、鴎鳥群を為さんことを恋ふ。遠客飛錫を廻らせ、空山白雲に臥す。夕陽孤艇去り、秋水両渓に分かる。帰りて臨川の史と、同に翻へす貝葉の文。【注】○方外上人 劉長卿の知り合いの僧らしいが、未詳。○常州 いまの江蘇省に属す。○蕭使君 劉長卿の知人であろうが、未詳。使君は地方長官。○宰臣 地方の長官。○得度 仏の済度を得るという意から、僧になること。出家。○鴎鳥 カモメ。波にゆられて悠然としているところから悠々自適する隠遁生活の象徴。○遠客 遠方へ旅立つ人。○飛錫 僧侶が行脚すること。○空山 ひっそりとした山。○臥 よこたわる。○孤艇 一艘の小船。○秋水 秋の川。○両渓 二つの谷川。○臨川史 ここでは、蕭使君を指すのであろう。○貝葉文 もと経文をインドの貝多羅樹の葉に書き付けたところから経典をいう。【訳】方外上人さまが蕭使君をたよって常州に行かれるのを見送る。地方長官の蕭使君は出家の望みを抱き、カモメのように悠々自適の隠遁生活をしておられる上人さまは、仲間をお求めになる。これから上人様は錫杖を手に遠くへ行脚に出られるが、むこうには白雲の上にひっそりと山がそびえている。夕陽のなか上人さまを乗せた小船は去り、秋の川が二又に分かれて流れてゆく。常州に御着きになったら、きっと蕭使君とともに、経典を翻して仏教談義に花が咲くことでございましょう。
September 9, 2005
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尋洪尊師不遇古木無人地、來尋羽客家。道書堆玉案、仙■(巾の右に皮。ヒとよむ)疊青霞。鶴老難知歳、梅寒未作花。山中不相見、何處化丹砂。【韻字】家・霞・花・砂(平声、麻韻)。【訓読文】洪尊師を尋ねて遇はず。古木無人の地、来り尋ぬ羽客の家。道書玉案に堆(うづたか)く、仙■(ヒ)青霞を畳めり。鶴老いて歳を知り難く、梅寒未だ花を作(な)さず。山中相ひ見ず、何れの処にか丹砂を化す。【注】○洪尊師 劉長卿の知り合いの道士らしいが、未詳。尊師は道士の敬称。○羽客 羽のはえた仙人。○道書 道教の経典。○仙■(ヒ) 仙人の着物。■(ヒ)は、チャンチャンコのようなもの。○丹砂 水銀と硫黄との化合物。むかしは道士が丹砂を焼き化して不老長寿の秘薬である黄金を作ると考えられていた。【訳】洪尊師を訪問したが不在で会えなかったので作った詩。洪尊師のお住まいは周囲が老木ばかりで、ひとけのない土地。はるばる、ここまで尋ねてきました。玉でできた立派なお机の上には道教の書物がうずたかく積まれており、部屋に置かれていた仙人の着物は青い霞をかさねて作ったかのようでございました。お飼いになっている鶴は年をとっていて年齢もわからぬほど、庭先の梅はまだ花をつけておりませんでした。山奥までお尋ねいたしましたが、お会いすることができず残念です、尊師さまはいったいどこで仙薬をこしらえておいでなのでしょうか。
September 5, 2005
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酬張夏雪夜赴州訪別途中苦寒作扁舟乘興客、不憚苦寒行。晩暮相依分、江潮欲別情。水聲冰下咽、砂路雪中平。舊劔鋒鋩盡、應嫌贈脱輕。【韻字】行・情・平・輕(平声、庚韻)。【訓読文】張夏の雪夜州に赴かんとして訪別するに途中寒に苦しみて作るに酬ゆ。扁舟興に乗ずる客、憚らず寒に苦しみて行くを。晩暮相ひ分に依り、江潮情を別たんと欲す。水声氷の下に咽び、砂路雪中に平らかなり。旧剣鋒鋩尽き、応に嫌ふべし贈脱の軽(かるがる)しきを。【注】○張夏 劉長卿の友人であろうが、未詳。○訪別 別れをつげに来訪する。○扁舟 ちいさな舟。○苦寒 さむさにくるしむ。○鋒鋩 切っ先。○贈脱 人にやったり、腰からはずしたりする。『晋書』《王覧伝》「呂虔、佩刀有り。工之を相して、以て必ず三公に登らん、此の刀を服すべしと為す。虔、王祥に謂ひて曰く、苟(もし)其の人に非ずんば、或いは害を為さん。卿公輔の量有り、故に以て与へんと。‥‥祥、薨ずるに臨んで刀を以て覧に授けて曰く、汝、後に必ず興らん、此の刀を称するに足らんと」。【訳】友人の張夏が州に赴任するにあたり、別れをつげに来訪したときに、途中で寒さに難儀して作った詩に答えた詩。このたび別れを告げようと思い立った君は、小さな船に乗り、寒さをものともせずに来てくれた。夕暮れから夜にむかうころ、江潮が満ちてきて別れの時がせまる。凍てついた川岸の氷のしたからは咽びなくような水音がきこえ、砂道も雪におおわれて一面たいらか。君への餞別にあげられそうなものは、わたしの古びた剣ぐらいしかないが、もう切っ先も刃こぼれしてしまい、きっと軽々しく人にやったり、腰からはずしたりを繰り返してきたので、気に入ってもらえないにちがいない。
September 5, 2005
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秋夜北山精舎觀體如師梵焚香奏仙唄、向夕遍空山。清切兼秋遠、威儀對月■(門のなかに月。カンとよむ)。静分巖響答、散逐海潮還。幸得風吹去、隨人到世間。【韻字】山・■(カン)・還・間(平声、刪韻)。【訓読文】秋夜北山精舎にて体如師の梵を観る。香を焚きて仙唄を奏し、夕べに向(なんなん)として空に遍(あまね)し。清切にして秋を兼ねて遠く、威儀あつて月に対して閑なり。静かに巌響を分かちて答へ、散じて海潮を逐つて還る。幸ひに風の吹くを得て去らば、人に随つて世間に到らん。【注】○北山 この名の山は各地にあるが、ここでは浙江省富陽県の北に在る山か。別名、三貝山、官山。○精舎 僧が居住・講道・説法する所。寺。○体如 僧の名であろうが未詳。○梵 梵唄。法会の声明。インド式に声をひいて偈頌を諷詠する。27番に既出。○焚香 香をたく。○仙唄 梵唄。○向夕 夕暮れ近く。「向」は、「いまにも‥‥になりそう」の意。○空山 ひとけの無い、ひっそりとした山。○清切 きわめて清らか。○威儀 重々しくおごそか。○■(カン) 「閑」と通用。ひっそりとして、静か。○答 ここでは、声明の声がこだますることであろう。○海潮 うみなり。雄壮で遠くまで聞こえるところから、衆僧読経の声の形容。27番に既出。○世間 俗界。よのなか。【訳】秋夜に北山の寺で体如師が梵唄を諷詠なさるのを観て詠んだ詩。香をたいて師が声明を唱えなさると、夕ぐれ近い空いっぱいに響きわたる。そのお声は秋の空と同様にどこまでも澄み切って、荘厳なようすで月下にしずかにひびいてゆく。静かに周囲の岩岩にこだまして、分散して海潮にしたがって海鳴りと同様に引いていく。そのお声が運良く風にのってゆけば、だれかの耳にはいり、それがきっかけとなって世間の人々にまで御仏の教えが届くことでございましょう。
September 3, 2005
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送李使君貶連州獨過長沙去、誰憑此路愁。秋風散千騎、寒雨泊孤舟。賈誼辭明主、蕭何識故侯。漢廷當自召、湘水但空流。【韻字】愁・舟・侯・流(平声、尤韻)。【訓読文】李使君の連州に貶せらるるを送る。独り長沙に過ぎりて去り、誰か此路に憑りて愁へん。秋風千騎を散じ、寒雨孤舟を泊す。賈誼明主を辞し、蕭何故侯を識る。漢廷当に自から召すべし、湘水但だ空しく流る。【注】○李使君 未詳。「使君」は地方長官。○貶 官職を落として地方へ流される。左遷される。○連州 いまの広東省連県。治所は桂陽県。○長沙 湖南省長沙市。○憑 わたる。○千騎 多くの騎馬兵。○寒雨 冷たい雨。○孤舟 一艘の船。○賈誼 前漢の洛陽の人。文帝に仕えて博士となり、一年もたたぬうちに大中大夫に進む。儒学と五行思想に基づく新制度の施行を説いた。のちに大臣にうとまれ、長沙王の太傅に貶せらる。著に『新書』『賈長沙集』があり、「治安策」「過秦論」が知られる。(前201?-前169年?)。○明主 賢明な君主。○蕭何 行政手腕にすぐれ、漢中を守って物資を補給し、劉邦が漢を建国するのを補佐してサン(部の左を贊と入替えた字)侯に封ぜられた。漢の初代の丞相をつとめ、律令を制定した。○故侯 むかし仕えた君主。○漢廷 漢の朝廷。○湘水 広西省に発し洞庭湖に注ぐ川。【訳】このたび李長官が左遷されて連州に赴任なさるのを見送る。たった一人で長沙を通過して行かれるが、私以外にいったい誰がこの路をわたってきてあなたの左遷を悲しみましょうや。もう秋風が吹く季節、かつてのあなたの部下たちも散り散りになり、冷たい雨がそぼふるなか、舟を係留してこの地に宿泊なさる。むかし賈誼も左遷されて明君にいとまごいして長沙に赴任しましたし、蕭何は高祖の恩を忘れませんでした。漢の朝廷と同様に唐の朝廷もいずれきっとあなたを再び中央へお召しになって高い官位をお授けになるでしょう。あなたも私も左遷の身、いまは湘水の流れのように、時代の流れに身をゆだねるしかございますまい。
September 3, 2005
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酬張夏幾歳依窮海、頽年惜故陰。劍寒空有氣、松老欲無心。翫雪勞相訪、看山正獨吟。孤舟且莫去、前路水雲深。【韻字】陰・心・吟・深(平声、侵韻)。【訓読文】張夏に酬ゆ。幾歳ぞ窮海に依(よ)り、頽年故陰を惜しむ。剣寒くして空しく気有り、松老いて心無からんと欲す。雪を翫んで相訪ぬるを労し、山を看ては正に独吟す。孤舟且(しばらく)去る莫かれ、前路水雲深し。【注】○張夏 未詳。○窮海 遠い海の果て。○頽年 老年。○故陰 すぎさった歳月。○独吟 ひとりで詩歌を歌う。○孤舟 一艘の船。○且 ひとまず。○前路 行くての道。【訳】張夏から贈られた詩に答える。こんな遠い海の果てに左遷され、もう何年になろうか。年をとると過ぎ去った昔の歳月が惜しまれる。剣は冷ややかに光を放っているが、それを用いる活躍の機会もなく、庭先の松の老木はそんな私の憂いには無関心のようにひっそりと立っている。あなたが訪問なさるというので、門前の雪かきをし、山を眺めて独りでウキウキして詩をくちずさんでお待ちしておりました。せっかくわざわざお訪ねくださったのですから、舟でお帰りになるのはひとまず先に延ばしてくだされ。いまは前途に波も高く雲も厚く天候もわるいことですから。
September 3, 2005
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月下呈章秀才自古悲揺落、誰人奈此何。夜蛩偏傍枕、寒鳥數移柯。向老三年謫、當秋百感多。家貧惟好月、空■(女へんに鬼。ザンとよむ)子猷過。【韻字】何・柯・多・過(平声、歌韻)。【訓読文】月下章秀才に呈す。古(いにしへ)より揺落を悲しむ、誰人か此れを奈何(いかん)せん。夜蛩偏へに枕に傍(そ)ひ、寒鳥数(しばしば)柯(えだ)を移る。老いに向(なんなん)として三年の謫、秋に当たつて百感多し。家貧しくして惟(ただ)月を好み、空しく■(は)づ子猷の過(よぎ)るを。【注】○呈 差し上げる。○章秀才 劉長卿の友人の章八元か。睦州桐廬(浙江省)の人。大暦六年の進士。大暦十一、二年ごろ睦州に帰り、劉長卿と唱和した。大暦から建中にかけて長安におり、厳維・清江と唱和した。貞元年間に句容の主簿に調ぜられ、協律郎に遷って、没した。○揺落 木の葉が散る。○奈此何 これをどうすることもできない。○蛩 コオロギ○傍 そばに寄る。○数 たびたび・○柯 木の太い枝。○向 近づく。○謫 罪により官職を落として遠方に流されること。○当 ‥‥の時に。時に遇う。○百感 さまざまな感慨。○■(ザン) 恥じ入る。○子猷 王徽之の字。王羲之の子。臨沂(山東省)の人。竹を愛した風流人として知られる。(?-388年)。ここでは章秀才をたとえる。○過 たちよる。【訳】月夜に章秀才に差し上げた詩。むかしから木の葉が散るのを見るのは悲しいこと。誰もこのさびしさだけは、どうすることもできませぬ。夜には枕もとでコオロギが鳴き、鳥はたびたび枝から枝へと飛び移る。老年になってからの三年もの地方への左遷はつらいものがあり、折りしも秋の季節に当たり、さまざまな感慨が湧き起こります。家が貧乏なので、趣味は金のかからぬお月見くらい。せっかく、あなたがお越しになっても、この月以外には、おもてなしの手段もなく、おはずかしい次第。
September 2, 2005
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酬皇甫侍御見寄時前相國姑臧公初臨郡離別江南北、汀洲葉再黄。路遥雲共水、砧迥月如霜。歳儉依仁政、年衰憶故郷。佇看宣室召、漢法倚張綱。【韻字】黄・霜・郷・綱(平声、陽韻)。【訓読文】皇甫侍御の寄せらるるに酬ゆ。時に前の相国姑臧公初めて郡に臨む。離別江の南北、汀洲葉再び黄なり。路遥かにして雲と水と、砧迥(はるか)にして月霜のごとし。歳倹にして仁政に依り、年衰へて故郷を憶ふ。佇(たたず)んで看る宣室の召、漢法張綱に倚らん。【注】○皇甫侍御 皇甫曾。字は孝常。潤州丹陽(江蘇省)の人。皇甫冉の弟。天宝十二載の進士。広徳から大暦の初めにかけて、殿中侍御史をつとめた。大暦六、七年の間、事に因り舒州の司馬に貶せらる。辞任して丹陽に閑居し、九年春、湖州に遊び、皎然・顔真卿らと聯唱し、のちに『呉興集』をまとめた。大暦の末、陽■(「擢」の右のみ。テキとよむ)の令に任じ、貞元元年に没した。(?-785年)。○前 前任。○相国 丞相。○姑臧公 未詳。姑臧(県名。治所は甘粛省武威県城)に封ぜられた人物。○汀洲 中洲。川や湖などに土砂が堆積した陸地。○月如霜 月が霜のように冷たく冴えた光を放っている。○儉 穀物が不作なこと。凶作。○仁政 人民をいつくしむ情け深い政治。○宣室召 天子のお召し。宣室は漢の未央宮前の正室。○張綱 後漢の▲(牛へんに建。ケンとよむ)為武陽の人。字は文紀。わかくして経学に明るく、忠直の人として知られた。使えて御史となり、順帝が宦官に政治をまかせるのを諫めた。漢安元年、命により風俗を正し、大将軍梁冀らの不正を上奏した。広陵の張嬰らが農民軍を率いて反乱を起こした時、広陵の太守に任ぜられ、これを説得して鎮圧した。郡に在ること一年にして、病にかかり、部下みな平癒を祈ったが、その没するに及んでは、みな衣服を正し葬儀を行い、土を背負って墳墓に盛ったという。(108-143年)。 【訳】皇甫侍御に送られた詩に答える。時に前任の丞相であらせられる姑臧公が初めて郡にお越しになった。あなたと私が川の南と北とに別れてから、間の中洲の木々の葉も二度目の黄葉の季節を迎えた。二人を隔てる道のりは遥か遠く、あいだには雲と水とが横たわっている。衣をうつ砧の音が遠くからかすかにひびき、月が霜のように冷たく冴えた光を放っている。今年は穀物が不作なので、人民は情け深い政治がたより。老年になると故郷がなつかしい。一人たたずんで天子からのお召し状に目を通しました。あなたが張綱のように法に厳しく正義をつらぬき、人民に慕われる善政を行うのを期待するばかり。
September 2, 2005
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送裴郎中貶吉州亂軍交白刃、一騎出黄塵。漢節同歸闕、江帆共逐臣。猿愁岐路晩、梅作異方春。知己■(「郎」の左を「贊」に変えた字。サンとよむ)侯在、應憐脱粟人。【韻字】塵・臣・春・人(平声、真韻)。【訓読文】裴郎中の吉州に貶せらるるを送る。乱軍白刃を交え、一騎黄塵を出づ。漢節帰闕を同じくし、江帆逐臣を共にす。猿は愁ふ岐路の晩、梅は作(な)す異方の春。知己■(サン)侯在り、応に憐むべし脱粟の人。【注】○裴郎中 検校兵部郎中(郎中は唐代の各部の長官)をつとめた裴泰か。裴泰は吉州の刺史もつとめた。○吉州 治所は廬陵(江西省吉安市)。○乱軍 敵と味方と入り乱れての戦闘。○白刃 よく切れる刀。○黄塵 戦場におこる黄色い土煙。○漢節 漢の天子から使臣として授かった旗印。○帰闕 宮城に帰る。○江帆 川に浮かぶ船。○逐臣 流罪に合った臣下。○岐路 わかれみち。○異方 都から遠く隔たった地方。○知己 自分を認めてくれる親友。○■(サン)侯 ■(サン)(サン。湖北省光化県)に封ぜられた漢の蕭何。張良・韓信とならび、漢の高祖に仕えた三傑の一。沛の人。関中を治め、律九章を造り、善政を行った。また、韓信を大将に推薦した。○脱粟 ちょっと脱穀しただけ穀物。粗食をいう。【訳】このたび裴郎中が左遷されて吉州に赴任するのを見送る。君は敵と味方が入り乱れた戦場でも、たった一騎で黄色い土煙の舞うなかを駆け出し、勇敢に敵と刃を交えた。そして天子から頂いた旗印を携えて宮城へと戻られた。それなのに、かつての私と同様に、このたびは左遷の憂き目に遭い、舟にゆられて左遷されていく。この分かれ道の夕暮れに、猿も君の左遷を愁えるかのように悲しげに啼いている。こんど君が行く都から遠く離れた吉州でも梅は咲いているだろうか。自分のことを深く理解してくれる親友は蕭何のように立派な君がいる。おなじく左遷の憂き目に遭った君なら、きっと貧しい生活に堪えている私に同情してくれることだろう。
September 2, 2005
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