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ロタウィルス下痢症自体は良くある疾患だ。2歳くらいまでにほとんどの子がかかる。ありふれた病気と言えばそうなのだが、脱水を来しやすく、時には死に至る。有効な治療は水分(電解質を含む)の補給が一番。少しずつイオン飲料などを与えればよいのだが、点滴が必要になることもある。死亡女児の両親が損賠提訴 医師の措置誤りと青森市に 07/12/25 記事:共同通信社 青森市の青森市民病院で3月、女児=当時(1)=が死亡したのは医師が適切な措置を怠ったのが原因として、東京都杉並区の両親が25日までに、青森市に慰謝料など約4500万円の損害賠償を求める訴訟を青森地裁に起こした。 訴状によると、青森の実家に帰省中だった母親らは3月24、25日の2回、女児が嘔吐(おうと)や下痢をしたため市民病院で点滴などの治療を受け、帰宅した。26日、女児がぐったりするなどしたため市内の別の医院に行き、危険な状態と診断された。市民病院に救急搬送され、ウイルス性胃腸炎による脱水症状と判明、同日夜、多臓器不全で死亡した。 両親側は「医師が当初からウイルス性胃腸炎などを疑い、適切な措置を取っていれば死亡は避けられた」と主張。市民病院総務課は「訴状を検討中で、弁護士と相談して対応する」としている。 医師は当初からウイルス性胃腸炎を疑っていなかったわけではないだろう。たいていは経口的に水分を補給するだけで十分なのだが、ある程度重症と考えて点滴もしている。その時の症状からは、帰宅させても大丈夫と踏んだのだろう。結果的には重症化して死に至ったわけだが、結果だけから医師を責めても仕方がない。多くの医師が「こんな状態の患者を入院もさせずに帰したのか」とあきれるような状況であったのなら別だが。 この事例には、不幸な状況も重なっていたようだ。地元の報道を読むと、もう少し詳しい状況が分かる。 女児死亡で両親が青森市を提訴 2007年12月22日(土) 東奥日報 今年三月、青森市の青森市民病院で診察を受けた当時一歳の女児が、二日後に容体が急変して死亡していたことが、二十一日分かった。女児の両親は「医師が適切な診断や治療をしなかった」として、同病院を管理する青森市を相手に約四千五百万円の損害賠償を求める訴訟を青森地裁に起こした。市側は「医療過誤ではない」とし、争う姿勢。 訴状によると、女児は母親とともに、同市の母親の実家に帰省していた。三月二十四日夜、嘔吐(おうと)などの症状があるため、母親らが同病院に連れて行った際、診察した小児科医は点滴などをしただけで女児を帰宅させた。母親は翌二十五日も女児を同病院に連れて行ったが、小児科医は点滴や薬を出して帰宅させた。 二十六日、白目がちになるなど女児の様子がおかしくなったため、母親は同病院に連絡したが病院側は多忙を理由に受け入れを拒否。個人病院で危険な状態と診断された女児は、救急搬送された同市民病院で、ロタウイルスによる重い脱水症状を合併したウイルス性胃腸炎と診断され、同日中にショック状態となり、多機能不全で死亡した。 訴訟にまで至った原因は、この「受け入れを拒否」なのかも知れない。実情は他の患者の診療で手一杯で、受け入れ不能だったのだろう。メディアは悪意を込めて「受け入れを拒否」と書くが、満席の飛行機に乗れないからといって「受け入れを拒否」と言うだろうか。 残念ながら、小児救急をいくらでも受け入れられる施設は少ない。まして、医療過疎が問題となっている青森県だ。既に別の救急患者の診療をしている状況では、他の患者を受け入れる余裕はないだろう。一番医療を必要としているときに受け入れられなかった無念は分かるが、それがこの国の実情だ。改善するには、多くの時間と金がかかる。でも、政府は医療費をもっと下げようとしている。状況は悪くなる一方だ。
2007.12.28
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過酷な勤務やメディアによる医療バッシング、トンデモ判決などによって、救急の現場から医師の逃散が相次いでいる。そのため、本当の救急患者を受け入れられる施設は限られており、行き場のない患者が生ずると、「たらい回し」だの「診療拒否」だのと、またまた医療機関が非難される。 このような状況で、地域によっては、「診療が出来ようが出来まいがとにかく受けろ」と言う乱暴な方針を打ち出したところもある。そんな折り、このような判決が出た。出産時、医師に処置ミス 3300万余の賠償命令 07/12/25 共同通信社 出産時の大量出血で死亡したのは適切な処置を怠ったためとして、福岡県前原市の女性=当時(39)=の遺族が、渡辺産婦人科クリニック(福岡市)に計約4900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁は21日、約3360万円の支払いを命じた。 判決理由で永松健幹(ながまつ・たけもと)裁判長は「医師が早急に高次医療機関への転送を指示していれば、大量輸血などの治療を受け、状態は悪化しなかった」と述べ、過失と死亡との因果関係を認めた。 判決によると、女性は2003年1月29日、多量の出血で「渡辺クリニック姪浜」に救急搬送され、帝王切開手術を受けて男児を出産。男児は無事だったが、女性は出血性ショックの状態となり、さらに運ばれた別の病院で同年3月1日に死亡した。 既に多量の出血の見られる産婦をたらい回しにしなかったことが非難されている。この病院ですぐに帝王切開をしなかったら、おそらく子供も助からなかっただろう。実際に他の施設に送っていて、母児ともに死亡したら、この病院はどのような扱いを受けていたのだろうか。この事例からの教訓は、このような重症患者は決して受けてはいけないと言うことだろう。重症の救急患者は、今後ますます受け入れ先が無くなる。本当にこれでよいのだろうか。
2007.12.27
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硬膜外腔というのは脊椎骨の後ろの方、硬膜とその外側の黄靱帯の間にある。そこは神経の通り道なので、そこに局所麻酔薬を入れると、神経に対応した部分を麻酔することが出来る。これを硬膜外麻酔という。麻薬を入れても鎮痛作用があり、手術後の鎮痛に、よく使われる。 硬膜外麻酔をするためには硬膜外腔に針を刺さなければならないが、硬膜外腔に針が届いたことは、針に付けた注射器のピストンを押して、その抵抗の変化で判断する。この判断を誤り、硬膜を穿刺して脊髄腔内まで針を刺してしまうことを英語では"dural puncture"と言うが、麻酔科の業界内ではドラポンとかドラパンと称され、バカにされる対象である。でも、実を言うと、技術によって確率は異なるものの、絶対にドラポンをしないという方法はない。「がん医療ミスで死亡」 遺族、1億円の賠償求め2病院側を提訴 記事:毎日新聞社【2007年12月19日】 損賠訴訟:「がん医療ミスで死亡」 遺族、1億円の賠償求め2病院側を提訴 /茨城 麻酔の刺し間違い、縫合不全、腹膜炎見落としなどのミスを重ね、早期の胃がん手術を受けた土浦市木田余の会社員、酒井宏行さん(当時47歳)を死亡させたとして、遺族が県内の病院を経営する2法人に約1億545万円の損害賠償を求める訴訟を水戸地裁土浦支部に起こした。 14日付の訴状によると、酒井さんは02年12月26日、つくば市天久保1の筑波メディカルセンター病院で手術を受けた。その際、麻酔医が針を刺し間違えて両足をまひさせた。 さらに手術中に胃と十二指腸を不均衡に縫い合わせたため、内容物が腹腔(ふくくう)内に散らばって腹膜炎を発症した。酒井さんは転院を勧められ、牛久市柏田町のつくばセントラル病院に移ったが、同病院の医師も腹膜炎の発症を見落として食事の開始などを指示。翌年1月6日に死亡した。 遺族は、2病院で計9人の医師が治療にかかわったと主張。県警は、うち3人を業務上過失致死容疑などで書類送検したが、不起訴処分になっている。 酒井さんの妻(53)は「夫の無念を晴らすのは私しかいないというつもりで準備してきた。こんな理不尽な死に方があるだろうか。訴状を読むと今でも涙が出る」と話した。両病院側は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。【山本将克】 術後の縫合不全も、技術によって確率は異なるものの、なくすことは出来ない。この症例が外科医の責任を問われて当然だったのかどうか、記事からは全く判断できないので、門外漢の私はコメントを差し控える。専門分野の硬膜外麻酔についてだけ言及する。 おそらくこの麻酔科医は、かなり落ち込んだだろう。ドラポンを絶対に防ぐ方法はないとはいえ、脊髄まで穿刺することは滅多にない。この記事を読んだ麻酔科医の多くも、ミスだと判断することだろう。でも、私はそのように決めつけることはしない。注射器の抵抗が変化しないまま、脊髄まで穿刺することだってあり得ると考えるからだ。 針が硬膜外腔にはいると注射器の抵抗が変化するのは、硬膜外腔は組織がスカスカだからだ。針が黄靱帯を貫いて硬膜外腔に達すると、急に抵抗が消失するのだ。もし、極めて希に、丈夫な黄靱帯の持ち主が居たらどうだろう。針は黄靱帯を押すものの、刺さらない。黄靱帯は押されて、硬膜や脊髄までも圧迫する。ついに針が黄靱帯を貫いたとき、硬膜も一緒に貫き、脊髄まで届いてしまう。この状態では、抵抗消失法で行う限り、防ぐことは出来ないだろう。 もちろんこれは、私の想像にすぎない。麻酔科医の多くは賛同しないかも知れない。でも、あり得るメカニズムだと思っている。 最期にもう一つ。この症例は亡くなってしまったので麻痺が回復していないだろうが、脊髄を刺しても、時間はかかるが通常は回復する。もちろん死亡と脊髄穿刺は何の関係もない。この記事だと、麻酔科医も死亡に責任があるかのような書き方だが、それは誤りだ。
2007.12.20
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MRSAに感染していた事が分かったとして、いつから感染していたのかどのように判断するのだろう。また、いつ感染に気がつくべきだったのか根拠はあるのだろうか。記事を書くなら、いつから感染の兆候があったか位は書いて欲しい。明らかな骨髄炎の兆候があり、膿の採取が可能だったのに何の検査もしていなかったとしたら問題だが、たぶんそんなことはないのだろう。日赤に200万円支払い命令 医療損賠訴訟 記事:毎日新聞社【2007年12月18日】 医療損賠訴訟:日赤に200万円支払い命令??地裁支部判決 /兵庫 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に感染後、病院間の連携不足で適切な治療を受けられなかったため骨髄炎を発症し、左足を切断せざるを得なくなったとして、たつの市の男性(52)が、日本赤十字社(東京都港区)と県社会福祉事業団(神戸市西区)を相手取って慰謝料計1000万円を求めた損害賠償訴訟の判決が17日、神戸地裁姫路支部であった。田中澄夫裁判長は「原告に重大な後遺症が残らなかった可能性を侵害した不法行為責任がある」として、日本赤十字社にのみ200万円の支払いを命じた。一方、同事業団への請求については「過失はない」などとして棄却した。 訴状などによると、男性は01年3月、交通事故で姫路赤十字病院に入院。7月下旬、同事業団経営の県立総合リハビリテーションセンター中央病院に転院した際、MRSAに感染していることが分かり、8月下旬に赤十字病院へ再入院。そこで感染による骨髄炎の悪化が判明し、左足切断の処置に至った。 判決では、左足切断が回避できた可能性を認定したうえで、「赤十字病院の医師は経過観察義務を怠り、適切な検査・治療を行わなかった」と指摘した。【馬渕晶子】 1000万円の請求に対して、200万円の支払い命令というあたりが、いかにもうさんくさい。本当に被告にミスがあったのであれば、そんな額では済まないだろう。「被害」があったのだから、裁判費用くらいは出してあげなよという、いつものパターンのように思える。どうせ保険で払うんでしょ、という判断なのだろうが、いつでも結果から見て正しい診断を要求されるのでは、医療は成り立たない。賠償額の問題ではなく、このような理屈がまかり通ることが医療を崩壊させていることに気がついて欲しいものだと思う。 当然のことながら、骨髄炎を起こした原因も、足の切断に至った原因も、交通事故である。運が良ければ治癒するが、悪ければ死亡の可能性だってある。その中間の結果だったのだから、病院を恨む筋合いではないと思うのだが。
2007.12.19
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よその病院での出来事ですが、火葬場でハサミのようなものが出てきて大騒ぎになったことがあります。実際にはペアン鉗子という手術用の器具でした。手術をしたとき、おなかの中に置き忘れたのでしょう。結局は癌で亡くなったのですが、死因との因果関係が取りざたされるのはやむを得ません。 しばらくして、同じ病院で、同じように火葬場からペアン鉗子が発見されて大騒ぎになりました。でも、このときは術直後のレントゲン写真を撮っていたので、手術の際ではなく、病理解剖の時に残したことが証明されました。これでも問題ですが、死因との関係が取りざたされることだけは回避出来ました。手術でガーゼ置き忘れ 「大きいから」と数えず 記事:共同通信社【2007年12月14日】 京都府京丹後市弥栄町の市立弥栄病院で10月、手術した40代の女性患者の体内にガーゼ1枚を置き忘れるミスがあったことが14日、分かった。約1週間後に判明して取り出し、女性の健康状態に異常はないという。 病院によると、10月10日に女性患者の開腹手術を実施。その際、「ハンカチガーゼ」と呼ばれる約30センチ四方のガーゼ1枚を下腹部に丸めた状態で置き忘れた。同16日にエックス線検査でミスが判明。女性に謝罪して再手術し、取り出した。 弥栄病院は「大きいガーゼであり取り忘れはないと考え、枚数を数えていなかった。再発防止に努める」としている。 数が合っていたのに残っていたという経験はありませんが、よその病院での事例なら記事で見たことがあります。数が合わないのに残っていなかったという経験ならたくさんあります。数合わせは万能ではありません。このブログでは何度も同じことを書いているので、しつこいと思われるかも知れませんが、麻酔覚醒前のレントゲン撮影を強くお奨めします。
2007.12.15
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処方箋の書き方は、ある程度慣習によるもので、年代や地域によって異なることもある。日本では伝統的に内服薬では一日量を書くことが多いが、アメリカでは一回量を書くのだそうだ。また、日本でも注射になると一回量を書く。 日本の処方は、たとえばこんな風だ。Rp) ロキソニン3Tab 3xn.d.e.x7T.D意味するところは、ロキソニン一日量3錠、3回に分けて食後に内服、7日分。 これがアメリカ式ならこうなる。Rp) ロキソニン1T t.i.dx7days Disp #21処方箋の書き方、その2にはそのあたりのことが書かれているが、きちんと決まっていないと事故の元だ。一日量を一回量だと思って、一日に4回投与すれば4倍量を投与することになる。松阪中央病院の抗がん剤過剰投与:業過致死容疑で医師を書類送検 /三重 記事:毎日新聞社【2007年12月11日】 松阪市の松阪中央総合病院に入院していた男性患者が今年2月、抗がん剤を過剰に投与された後に死亡した問題で、松阪署は10日、当時同病院に勤務していた男性主治医(33)=京都市=を業務上過失致死容疑で津地検松阪支部に書類送検した。 調べによると、主治医は今年2月、消化器系のがんの治療のため入院した当時60歳代の患者に、通常の4倍の抗がん剤を投与するよう誤ってカルテに記載。5日間にわたって記載通りに投与された患者を呼吸不全で死亡させた疑い。主治医は容疑を認めているという。【岡大介】〔伊賀版〕 この事例が処方箋の書き方の問題で間違えたのかどうかは分からない。そもそも内服薬なのか注射薬なのかも記事には出ていない。でも、4倍投与したら死ぬような薬を扱うこともあるのだから、処方箋の書き方は厳密に統一するべきだろう。 いつものことだが、医師個人の責任を問うばかりで、ヒューマンエラーを前提としたシステムの構築を怠るのであれば、いずれまた同じ事が起きるだろう。過失に刑事罰を科すよりも、過失があっても重大事にならないようなフェイルセーフ機構を充実させる方がずっと効果があるのだから。
2007.12.12
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手術の内容にもよるが、手術をする場合には抗凝固療法(血液の凝固を抑える治療)を中止することは一般的だ。必要があって抗凝固療法を行っているのだから、元の病気に悪影響が出る可能性はある。手術の必要性と、元の病気への悪影響を秤にかけて、手術の必要性の方が勝ると思うから手術をするのだ。 もちろん抗凝固療法を行っている科との連携は大事だ。病院全体として、体制を整える必要はあると思う。でも、いちいち記者会見をするようなことだとは思えない。命を救うためには、どちらかに賭けなければならないケースだったのだから。亡くなったのは、それだけ重症だからであって、ミスがあったわけではない。心臓の手術を断ったのも患者自身だ。院内で、今後は連携しようと意思統一すれば済む話だと思う。外科循環器科「情報交換すべきだった」 対応不十分認める 富士吉田市立病院 記事:毎日新聞社【2007年12月7日】 富士吉田市立病院(江口英雄院長)で8月、外科に肝臓病で入院し心筋梗塞(こうそく)で死亡した70代の男性患者が、心臓疾患で循環器科を受診していたにもかかわらず、2科の医師間で情報交換をしていなかったことが分かった。6日に会見した江口院長は「心臓も肝臓も重症だった。どちらの治療を優先的にやっていくのか、医師同士が相談すべきだった」と話し、対応が不十分だったと認めた。今後は他科との連携体制強化などで、再発防止策を進めるとした。 同病院によると、男性は97年7月、循環器科で不安定狭心症と心筋梗塞と診断され入院した。医師は心臓バイパス手術を勧めたが、本人の希望で手術は行わず、同年8月以降は1潤オ3カ月に1度の通院外来で投薬による治療を続けていた。 今年7月、肝機能障害などで同病院外科に入院し、各種検査と胆汁を体外に出す手術を行ったが、最終的に肝臓にがんがあると診断された。外科医は手術にあたり、男性が循環器科で処方された血液の流れを良くする薬の服用を、国際的なガイドラインに従ってやめさせた。 男性は8月21日午前4時ごろ、容体が突然悪化し、約3時間後に死亡が確認された。死因に結びつくものがはっきりしないとして、同病院は事故調査委員会を設置して調査を行った。心臓の薬を止めたことと死亡との因果関係は断定できなかったが、循環器科の医師と外科医の間で一度も情報交換がされていなかったことが判明した。外科の医師は男性が循環器科にかかっていたことは承知していたが、詳細な病状は知らなかったという。 江口院長は、再発防止策として▽服用中の薬や病状が分かる書類を他科の医師も見ることを義務付け、外来を含めて十分な連携を取る▽今まで主治医1人が行ってきた治療を、医師数人によるチーム医療体制に変える▽患者と家族に十分な説明を行い理解してもらう??ことを挙げた。 一方、同病院はプライバシーを理由に患者の氏名や遺族の連絡先などの取材には応じなかった。【藤野基文】 文字化けはママ 肝臓は血液凝固に関わる臓器なので、肝臓の手術では出血しやすい。当然、抗凝固療法は中止すべきだ。すでに心臓の手術は拒否されているので、抗凝固療法を中止して肝臓の手術をするか、心臓への影響を考えて、手術をせずに肝臓癌で死ぬかの究極の選択をすることになる。気が変わって心臓の手術を先にすることになっても、肝臓癌による肝機能の低下があれば、手術後の出血が止まらないかも知れない。 出来れば両方の科で相談した方が良かったことは間違いないが、いずれにしてもリスクの高い症例であったことも間違いないだろう。今後の体制を構築すればよいことであり、記者会見をして、主治医をさらし者にする必要など無いと思うぞ。
2007.12.11
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ある治療法が有効だとしても、患者側から拒否されてしまえば出来ない。たいていの治療は絶対に効果があるかと言えばそんなことはないし、絶対に安全かと言えば、やはりそんなことはない。勧めることは出来ても、強制することは出来ないのだ。まして、血液製剤の評判は決して良くない。何か副作用でも起きれば袋だたきに遭うだろう。でも、患者側の拒否で血液製剤を使わないと、やはり袋だたきに遭うことが分かった。はしか感染死、病院側に1審の10倍4400万円賠償命令 ぜんそくで福岡県飯塚市の飯塚病院に入院した二女(生後9か月)がはしかにかかり、急性心筋炎で死亡したのは不適切な治療が原因として、同市内に住む女児の両親が、病院を経営するセメント会社「麻生」に約7600万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が6日、福岡高裁であった。 丸山昌一裁判長は医師の診療上の過失を認め、説明義務違反の過失のみを認めた1審・福岡地裁判決の賠償額の約10倍となる約4400万円の支払いを命じた。 判決によると、二女は2001年6月、気管支ぜんそくなどのため入院。隣のベッドの男児がはしかにかかっていることがわかり、医師は治療薬を勧めたが、説明が不十分だったため、両親が必要と判断せず投薬されなかった。二女はいったん退院したが、翌7月、はしかと診断されて再入院、まもなく急性心筋炎で死亡した。 丸山裁判長は「男児と接触して3日以内に投薬したら、二女の死亡を避けることができた」と医師の注意義務違反を認めた。(2007年12月6日21時45分 読売新聞) 2審は賠償命令10倍に増額 女児死亡、病院に4000万余 記事:共同通信社【2007年12月7日】 福岡県飯塚市の女児=当時(9カ月)=が入院中にはしかにかかり死亡したのは不適切な治療が原因として、両親が飯塚病院を経営するセメント製造会社「麻生」に約7600万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は6日、1審福岡地裁判決の賠償額を10倍に増額、約4400万円の支払いを命じた。 判決理由で丸山昌一(まるやま・しょういち)裁判長は、はしかを予防する血液製剤の影響について、女児の母親に間違った情報を伝えたと述べ、1審判決に続き、医師の説明義務違反を指摘。 さらに「適切な説明を受けていれば、母親は投与を承諾したと推認され、投与していれば、はしかの重症化を防ぎ死亡を避けることができた」と死亡との因果関係も認めた。別の薬の投与量を減らさなかった治療ミスも認定した。 判決によると、女児は2001年6月、気管支炎などで入院。その後入退院を繰り返し、7月にはしかによる急性心筋炎で死亡した。 飯塚病院は「判決文を読んで、今後について検討したい」としている。 読売の記事では治療薬が血液製剤であることが分からないし、共同の記事では、はしかにかかった経緯が分からない。おかげで二つの記事を引用しなければならず、スペースの無駄だ。どうせ記事にするのなら、分かるように書けばいいのに。ここで言う血液製剤とはガンマグロブリンのこと。免疫を高める作用がある。 説明義務違反の400万円ほどでも嫌になるだろうが、「男児と接触して3日以内に投薬したら、二女の死亡を避けることができた」と素人に断定され、4000万円以上の賠償額を課される医療ミス扱いされたら口惜しいだろう。これは高裁判決だけど、医療関係は最高裁に門前払いされやすい印象があるので、このまま確定する可能性もある。 今後は患者側が勝手に治療を拒否しても、結果が悪ければ説明が悪いとして高額の賠償金を獲得できると言うことなのだろう。この際だから、私も貰う方に回ろうかな。そんな風に考える人も出てくるだろう。
2007.12.10
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ガン患者が少しでも早く手術をして欲しいと思う気持ちはよく分かる。でも、ガンセンターには多くのガン患者が集まるから、どうしても順番待ちが生ずる。検査も手術も順番を待つガン患者はたくさんいるのだ。特に最近は麻酔科医の不足で、十分に手術予定を組めなくなっている。うちの病院も、私だけが何人もいて麻酔をしているのであれば、もっと手術を引き受けるのだが、部下の身の安全を考えると、あまり無茶も出来ない。 ガン患者の手術を急ぐ理由は手遅れにならないようにするためだ。転移する前に手術をしたいのだ。だから、すでに転移していて根治術の対象にならなければ、特別に急ぐ理由はない。県立がんセンター医療過誤損賠訴訟:地裁、原告の請求を棄却 /栃木 記事:毎日新聞社【2007年12月7日】 県立がんセンター(宇都宮市)の適切な治療が遅れたため、延命の可能性が奪われたとして、転移性骨腫瘍(こつしゅよう)で死亡した同市の女性(当時67歳)の遺族が県に損害賠償を求めた訴訟の判決が6日、宇都宮地裁であり、福島節男裁判長は原告側の請求を棄却した。原告側は控訴する方針。 判決で福島裁判長は「がんセンターは原発巣の探索として、適切な検査を順次行ったうえで具体的な治療方法を提案しており、これらの検査が通常必要な期間を上回ったという事情も認められない。痛み緩和のため薬も処方していた」と認定。「腹腔鏡で骨生検を行った時期が遅れたことや、腎がんを疑うという誤った判断で治療開始が遅れた」とする原告側の主張を退けた。 判決後、原告側は会見で「がんセンターで約2カ月間受診していたが、一切治療が行われなかった。進行がんなので1、2週間で検査を終わらせ手術に入るのは公知の事実」と改めて主張した。【山下俊輔】 この症例は最初に転移性骨腫瘍が見つかったようだ。つまり、どこかにガンがあり、それが骨に転移した病巣が最初に見つかったと言うことだ。この時点で手術による根治は望めない。何処のガンなのか見つけることに意義がないとは言わないが、特別に急ぐ理由もない。むしろ、末期を安楽に過ごせるような緩和医療が必要だ。そして、その通りの治療が行われた。原告の主張には全く根拠がない。何が「公知の事実」だ。手術すれば何でも治るわけではないのだ。病院も災難だ。お気の毒に。
2007.12.09
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私が密かに恐れているのは、脳卒中や心筋梗塞など、突然に起こる致命的な病気に麻酔中に出くわすことだ。いくら病気で亡くなったと言っても、麻酔のせいにされる恐れはある。幸いなことに、今までそのような目にあったことはない。手術室のドアの前で亡くなったというニアミスはあったが。 顔面神経麻痺も、脳卒中や心筋梗塞ほど劇的ではないが、ある日突然に起こる。発症少し前に顔面の手術をしていたら、クレームを受けることもあるだろう。鹿大医療ミス損賠訴訟:「説明不十分」と220万円賠償命令--地裁判決 /鹿児島 記事:毎日新聞社【2007年12月6日】 鹿児島大歯学部付属病院であごの手術をした県内在住の20代の自営業女性が、担当医のミスで術後に顔面神経がマヒしたとして、鹿児島大学に約2280万円の損害賠償を求めた裁判の判決が5日、鹿児島地裁であった。小田幸生裁判長は「神経マヒに対する説明が不十分だった」として、220万円の賠償を言い渡した。 判決では、女性は02年9月に、鹿児島大歯学部付属病院であごの手術をしてから5日後、右目が閉じられないなどの顔面神経マヒの症状が認められた。さらに、唇付近の感覚もなくなり、時折麻酔を通した左手に痛みがあるという。 小田裁判長は「医療機関側は、治療行為について事前に十分な説明を行う義務があるが、顔面神経マヒの具体的内容や発生頻度、予後について十分な説明がされたとは認めがたい」として、220万円の賠償を命じた。だが、原告が主張する手術中の過誤による神経損傷については、顔面神経マヒが手術直後から発生していなかったことなどから退けた。 判決後、原告の女性は「(過誤が認められなかったことは)納得いかない。相手の誠意も不十分。控訴を考える」と話した。大学側は「判決文を読みこんでから今後の対応を考えたい」とコメントした。【川島紘一】 ちょっとこの判決の理屈がよく分からない。術後5日経ってから麻痺が出現したのだから、確かに手術による神経損傷ではない。と言うことは、そもそも顔面神経麻痺は手術とは関連がないと言うことではないのか。手術と関連がないのであれば、あごの手術で一定の割合で顔面神経を損傷することがあるとしても、そして、その説明が不十分であるとしても、実際に顔面神経を損傷したわけではないのだから、説明が不十分であったこととは関係がないのではないだろうか。 「説明不十分」と言う判決は、手術をすれば一定の割合で顔面神経麻痺が起きるのに、その説明をせず、実際に手術が原因で顔面神経麻痺が起きたときに下されるはずだ。と言うことは、顔面神経を傷つけてはいないが、手術が原因で麻痺が起きたという認定なのだろうか。それとも、手術をしたとき、手術とは無関係に顔面神経麻痺が起こることがありますと説明せよと言うことだろうか。 話は変わるが、麻酔を通した左手とは何だろう。たぶん左腕に点滴をして、その回路から静脈麻酔薬を投与したのだろうけど、もっとまともな表現はないのだろうか。それはともかく、静脈麻酔薬として広く使われているプロポフォールには血管痛がある。だから、麻酔導入時に血管痛があったのだろうが、術後も痛むのは心理的な影響がうかがわれる。まだまだ揉めそうな予感。
2007.12.09
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報道はどのような出来事が起きたのか伝えるために行うのではないのだろうか。医療関連の記事を見ていると、伝えようとしているのは出来事の具体的内容ではなく、「また医者がこんなミスをしたんだぜ」と言いたいだけのような気がする。実際にそうなのかも知れないが。医療ミス:大牟田市、1300万円で和解 骨折見落とす /福岡 記事:毎日新聞社【2007年12月6日】 大牟田市立総合病院(中山顕児院長)は5日、首の一部骨折を見落とし後遺症の残った同市内の男性に、損害賠償として約1300万円の和解金を支払うことを明らかにした。市は12日開会の定例市議会に関連議案を提案する。 同院によると、男性は10代だった03年10月、あごの骨などを折る交通事故で入院。エックス線撮影の際、整形外科の医師が首の先端部の骨の骨折を見落とした。男性は05年10月、別のけがで同院を受診した際、別の医師が前回の見落としに気づき、06年8月に久留米市内の病院で手術。しかし、首の動きが制限されるなど後遺症が残り、市立総合病院と交渉してきた。 中山院長は「患者にご迷惑をかけ、改めておわびします。医療過誤防止についてはさらに研さんに努めたい」とコメントした。 一口にミスと言っても、無理もないと思われるものからダメじゃんと言いたくなるものまでいろいろある。せめてそのあたりの判断が可能な記事を書いて欲しいのだが、この記事では何も分からない。 交通事故であごの骨を折っていれば、ついそちらに気を取られて、症状の軽い異常を見逃すことはありがちだ。でも、頸部にも明らかに症状があり、レントゲンの読影が難しいわけでもないのに頸椎の骨折を見逃していたのであれば、やはり問題だろう。でも、記事からはその辺は分からない。そもそも、首の先端部の骨ってどこだろう。第一頸椎のことだろうか。 交通事故から2年間は当該病院を受診していないような印象を受けるが、特に問題になる症状はなかったのだろうか。それとも、症状があって苦しんでいたのだけれども、事故の後遺症としてあきらめていたのだろうか。重い症状があればどこかで気がつきそうなものだし、症状が軽いのであれば手術をしないだろう。また、手術をしたけれども症状が残ったのか、手術をしたらもっと悪い結果になったのか、どちらだろう。1300万円は決して安くない。重い後遺症が残ったはずだが、その原因すら記事からは分からない。 そして、別の医師が骨折に気がついたのは、新たにレントゲン写真を撮ったからだろうか。それとも、2年前の写真を見て気がついたのだろうか。記事を読めば最初の整形外科医がドジだったように読めるが、実際の所は謎が多い。あごの骨折の時には頸部症状はたいしたことはなく、頸椎のレントゲン写真でもたいした所見はなかったらどうだろう。後から頸椎の骨折が判明して、それ程症状がないのに手術をしたら、返ってひどくなってしまったと言うことだってあり得る。あるいは、最初から頸椎の骨折に気がついていても、後遺症は残るべくして残ったかも知れない。もしそうだったら、最初の医者は気の毒だ。もちろんすべて私の妄想だが、そんな妄想の余地のない記事を書いて欲しい。
2007.12.08
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前回レントゲンに写らない吸引管のカバーの話をしたら、今度はレントゲンに写らない入れ歯の話が報道されている。実を言うと、私はレントゲンに写らない入れ歯の存在自体を知らなかった。私も同じ間違いをしたかも知れないと思うと他人事ではない。でも、正直なところ、よく分からない記事だ。入れ歯誤飲、見過ごし死亡 京都府警、医師を書類送検 記事:共同通信社【2007年12月6日】 京都府警捜査1課と堀川署は6日、入れ歯を誤って飲み込んだ女性に十分な診察をせず、誤飲を見過ごして死亡させたとして、業務上過失致死の疑いで、京都府長岡京市の男性医師(44)を書類送検した。 調べでは、医師は京都市下京区の病院に非常勤で勤務していた1月27日、食事中にアクリル樹脂製の入れ歯を飲み込み救急搬送された下京区の無職女性=当時(60)=に問診などの十分な診察をせずに放置。2月1日、入れ歯が食道に詰まって飲食物が肺に流れ込んだことなどによる肺炎で死亡させた疑い。 調べに「もっときちんと診ていれば避けられた」と供述している。 府警によると、入れ歯は幅6センチ、奥行き4センチのU字形。女性や付き添いの夫(66)が誤飲を訴えたが、医師はエックス線検査で確認できなかったため誤飲していないと判断、帰宅させた。6月に夫が告訴し、捜査していた。 病院側は「亡くなったことを真摯(しんし)に受け止め、再発防止に努める」としている。 何がよく分からないのかというと、健康な人が入れ歯を飲み込んだら、自分で気がつくだろうと思う。さらに、食道に大きな異物が入ったままで漫然と5日間も食事をとり続けるだろうかという疑問がある。普通なら食物が食道に詰まって気管に入るままにしているとは考えられない。患者本人は何かの病気があったのではないかと思うのだが、そのことには全く触れられていない。 夫についても疑問だ。一度だけ診察を受けたからと言って、5日間のうちに疑問を持たなかったのだろうか。漫然と食事を取らせて窒息するまでには、何か異変があったはずだ。おかしいと思ったら、もう一度受診するべきではなかったか。一度受診して問題ないと言われたからと言って、異変がありながら放置していたのであれば、夫にも責任はあるだろう。 タイトルの通り、診断とは、その時点での暫定的なものだ。救急医療では特にそうだ。その後症状が出そろえば、別な診断を下すことはいくらでもある。誤診に誤診を重ねた末に、正解にたどり着くことはよくあることなのだ。命に関わる場合、患者側も何度も受診する必要がある。信頼できなければ、別の所を受診しても良いのだから。今回の事例は京都市でのことだ。都会なのだから、病院はいくらでもあっただろう。 医師にも反省すべき点はあったのだろうとは思うが、それはあくまで今後に生かすため。医師だけに責任を押しつけて、刑事事件にするような事じゃない。*実を言うと、私は窒息死ではなく、入れ歯で食道が傷つき、縦隔炎を起こしての死亡を疑っている。
2007.12.07
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開腹手術の際、どれだけ注意しても、異物を残さないとは限らない。人間の注意力には限界があるし、思いもよらないことが起こることもある。大切なのは、異物を残す可能性を自覚し、残したとしても、麻酔覚醒以前に気が付くことだ。県立がんセンター:手術のチューブ部品、患者の体内に置き去り /群馬記事:毎日新聞社【2007年12月5日】 県立がんセンター(太田市高林西町)で手術を受けた患者の体内に、手術に使ったチューブの部品が3カ月以上にわたり置き去りにされていたことが4日、分かった。 県病院局によると手術は8月下旬に行われ成功した。その際、腹水を吸引するために挿入したチューブのカバー(プラスチック製、長さ約20センチ)がはずれたとみられる。患者は手術直後から腹痛を訴えたが、レントゲン撮影やCTスキャンで異常が見つからず、そのまま退院した。 しかし、腹痛が治まらず、11月下旬に超音波検査を受けたところカバーとみられる異物が見つかった。 同センターは患者に事情を説明し謝罪。近く再手術をして、カバーを取り出すという。 手術終了の際、ガーゼや器具の数を数えるなどの点検をしているが、今後はチューブも点検対象にする。【塩崎崇】 手術を見慣れていない人にはどういうことかよく分からないかも知れない。腹水を吸引するとき、先だけに穴のあいている吸引管を使うと、組織片が吸い付いてきて穴をふさいでしまう。それを防ぐために、沢山穴のあいているカバーをつけて吸引することが多い。今回はそのカバーが脱落して腸管の中に紛れてしまったのだろう。そして、まずいことに、そのカバーはレントゲンで写らないプラスチック製だった。 うちの病院の場合、開腹手術であれば、手術終了時に必ずレントゲン写真を撮る。腹腔内に入る可能性のあるものは全てレントゲンに写るものを使っているので、万一残してしまっても確認が可能だ。上の記事を読んで、もう一度手術室のスタッフに確認したが、やはりレントゲンに写らないものは使用していない。(糸を除く) 記事だけからだと、数えるなどの点検はするが、レントゲンで確認出来るものにして、必ずレントゲン写真を撮るとは書かれていない。実際の対応はどうなのだろう。対応するのなら、万全を期して欲しい。
2007.12.06
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この件についてはいつも情報源とさせていただいている「ロハス・メディカル・ブログ」に、いつものように傍聴記が載っている。今までの証人尋問では検察側の作戦などで、門外漢には分かりにくいものにされてしまっていたが、今回はとても分かりやすい。是非福島県立大野病院事件第10回公判(1)の全文を読んで欲しい。 特に重要だと思うところを引用する。この辺からメモが追いつかなくなったので要約する。特に本件と関係のない一般論の話がほとんど独演会を聴いているような心持ちにさせた。・婦人科の手術と比べる帝王切開手術の方が出血量がヒトケタ多いと言ってもよい。・通常の手術で1000cc出血したら輸血を行うと思うが、出産の場合は2000ccの出血でも輸血しない。・なぜならば、元々妊娠中は体内循環血液量が通常の1.5倍まで増えているので、出産が済めば増えた分の血液が出てしまうのは、ある意味正常なことである。・一般の手術の場合、出血は血管が切れるためのもので、止血もその局所に対するアプローチとなる。しかし子宮と胎盤との間はまったく異なる。胎児側から臍帯を通じて胎盤内部へ血液が流れ込んでいる。胎盤へは、そこへ子宮からシャワーのように母親の血液が吹きつけていて、胎盤を通して成分交換を行っている。その血流量は、毎分450~600ccである。胎盤を外すと、血液を受け止める壁のなくなった子宮は、ちょうど「シャワーヘッドがオープン」になったようなもので出血し続ける。・局所の血管が切れているわけではないので、出血を止めるにはシャワーの根元の部分を押さえつけるしかない。通常は胎盤が外れたところで子宮筋層の収縮が始まり血管を押しつぶすので流れが穏やかになり、そのうちに血液が凝固して止血される。・前置胎盤の場合、筋層が薄い子宮頚部に胎盤が付着しているため、胎盤剥離後に筋層収縮が十分でなく出血量が多くなる。癒着胎盤の場合、胎盤が食い込んでいるために筋層が薄くなっており、同じことが言える。・胎盤剥離後に子宮の収縮が悪い場合、医師が行う処置は、まず子宮マッサージと筋収縮剤の投与、それでも状況が改善しなければシャワーヘッドの面を手で押しつぶす双手圧迫やガーゼを用いての圧迫、筋層に糸をかけて人工的に寄せ集めるZ縫合、子宮に血液を供給している血管をケッサツすることなどがあり、どうしても止血できない場合には出血の根本原因となっている子宮摘出ということになる。・ただし出血量がある閾値を超えると血液凝固因子が足りなくなり、どんなに血管を押しつぶしても血が止まらなくなり、さらに他に傷があるところからもジワジワ出血するようになる。これがDICとその後に起こる血液凝固障害である。もし何を書いてあるか分からないとしたら私の要約の仕方が悪いのであって、当日は非常によく理解できた。そして愕然とした。私は知らなかった。胎盤を剥がした後の子宮が傷をつけなくても1分間に500cc出血する臓器であるということを。おそらく多くの方が同じでないか。検察の見立ても、大量に出血したからには傷をつけたに違いないというものであっただろう。医療者にとっては常識なのかもしれないが誰かが最初からそのことを説明してくれていれば話がここまでややこしくなることもなかっただろうと思うのである。おそらく検察側も自分たちの見立てが根本からナンセンスであることに間違いなく気づいたと思う。そして、そのメカニズムを知ってから改めて加藤医師の当日の行動を眺めるとまさにするべきことをし尽していることに気づく。 すでに多くの医師が述べているごとく、被告は医師としてなすべき事はしていた。それでも医療の限界として、残念ながら時には亡くなる方もいる。それは医師のせいではなく、あくまで病気のせいなのだ。はじめからこの「事件」は、素人の思いこみによる言いがかりだ。今回の池ノ上教授の証言で、裁判官も納得してくれることを望みたい。
2007.12.04
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産経新聞の論説副委員長の『【経世一言】診療報酬 納税者もモノ申す 』と言う文章が医療系ブログで袋だたきに遭っている。中身を見れば無理もない。悪意と捏造による全くの世迷い言と言って良い。こんな文章を書くのはどんなバカだと思う気持ちもあるのだが、単なるバカでは論説副委員長は務まらないだろう。実際の所は、内容がでたらめなのは十分に承知の上で、世論をミスリードするために故意に刺激的な文章を書いたのだろう。社会保障費を減らすことで利益を受ける一団の提灯持ちと言ったところか。とんだ狸だ。 つっこみどころは満載なので、いちいち反応していたのではきりがない。反論しているブログはいくらでもあるので、ググればすぐに見つかる。興味があればそれらを読んで欲しい。ここでは他のブログであまり触れられなかったことを書こうと思う。私自身がいくつかのブログを読んで気になったのはこの部分。 果たしてそうだろうか。例えば、保険料や税で負担している公的医療費は、GDP(国内総生産)比で経済協力開発機構(OECD)の平均を上回っている。医師数も毎年、3500~4000人も増えている。 多くのブログで日本の医療費はOECD各国の中で最低レベルであること、医師数も人口比で最低レベルであることが指摘されている。それでは上記の文章はでたらめなのだろうか。よく読むと、でたらめではないのかも知れない。もちろんミスリードを目的とした卑劣な文章ではあるのだが。 事実がどうなのか私は知らないが、公的医療費は本当にOECDの平均を上回っているのかも知れない。もちろん自己負担額がその分少なくて、トータルの医療費は最低レベルなのだが。文章全体としても、税金を投入していることをことさら強調していて、医者を税金で喰わせてやっていると言わんばかりなのだが、税金が投入されたことによる受益者は自己負担の減る患者。税金の分だけ医療費が増えているわけではない。 さらに言えば、日本のようなフリーアクセスの医療環境はOECDの中でも特異な存在だろう。医療行為を受けるのべ患者数は日本が圧倒的に多いはずだ。日本での医療行為一回あたりの医療費は目も当てられないほど低いと言うことだ。医療関係者、とりわけ医師がべらぼうな労働をして、やっとOECD諸国の最低レベルの医療費を稼いでいると言うことになる。 あまりにもばかばかしい内容に、これ以上つきあう気も起きないので、関連するブログを貼っておきます。http://tsukinohikarini.blog41.fc2.com/blog-entry-363.htmlhttp://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20071201http://trias.blog.shinobi.jp/Entry/31/http://skyteam.iza.ne.jp/blog/entry/405731/
2007.12.02
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11月22日の日記で麻酔科医の自殺という痛ましい事件について書きました。この件に関して、某医師向け掲示板で信じられない書き込みを見ました。この件は麻酔科医の薬物乱用だというのです。もちろん多くの医師から反発を受け、今ではこの書き込みは削除されています。 実際には医師ではない者が紛れ込んだのかも知れませんが、医師向けの掲示板でこのような書き込みがあるのでは、一般の方たちがどのように思っているか心配になります。ある麻酔科医からも、このブログで解説をして欲しいという依頼がありました。私と同じ心配をしているのかも知れません。 記事によると、「使われた筋弛緩剤は粉末のバイアル一本(十ミリグラム)で大人一-二人分の致死量にあたるという」とのことなので、マスキュラックスの10mgのバイアルが使われたのでしょう。以下、マスキュラックスがどのような薬で、どのような目的で使われるのか少し述べてみようと思います。 マスキュラックスは随意筋(自分の意志で動かせる筋肉)の収縮を妨げる薬です。要するに、筋肉が動かなくなる薬なのです。心筋や腸管の筋肉は随意筋ではないので動くことが出来ます。呼吸筋は随意筋なので動くことが出来ず、人工呼吸をしなければ窒息死します。そのため毒薬に分類されています。意識には影響がないので、乱用しようにも苦しいだけで楽しくはありません。おまけに命を失う可能性が高いので、乱用することは不可能です。 我々麻酔科医がどうして毒薬であるマスキュラックスを使うのかといえば、もちろん必要があるからです。どのように使うのか、開腹手術を例に見てみましょう。 痛みを抑えたり意識を失わせたりする薬だけを使って開腹すると、腹壁の筋の緊張によって、内臓が飛び出してきます。これではとても手術どころではありません。そのために、どうしても筋弛緩薬が必要になります。腹壁の筋肉が弛めば、腹壁を広げることが出来、腹腔を広く使うことが出来て都合がよいのです。 筋弛緩薬を使えば呼吸が出来ませんから、人工呼吸が必要です。人工呼吸をするためには気管に挿入した管を利用すると便利です。というわけで、麻酔導入時に気管挿管(気管に人工呼吸用の管を通すこと)をします。麻酔導入は静脈麻酔薬を使うことが多いのですが、それだけでは気管挿管時の咳などの反射を押さえられません。咳反射を押さえるためにも筋弛緩薬は有用です。結局麻酔導入時から筋弛緩薬を使います。 麻酔導入時に使われるマスキュラックスの量は、患者の体格にも依りますが、5mgもあれば十分です。つまり、それだけ投与すれば咳も出来なくなると言うことです。咳も呼吸の一つの形態ですから、咳が出来ないと言うことは呼吸筋が麻痺していると言うことに他なりません。つまり、人工呼吸をしなければ死亡すると言うことです。もちろん麻酔中には人工呼吸をしますから、問題はありません。 マスキュラックスのような毒薬以外にも、麻酔には危険な薬をたくさん使います。だからといって麻酔そのものを怖がる必要はありません。危険な薬を使うからこそ、麻酔科という分野が独立して、麻酔業務を専門に行う科が出来たのです。そのため、現在では麻酔は医療行為の中でも極めて安全な分野です。元々患者の側に危険因子があれば別ですが、麻酔そのものが原因で命を落としたり、重大な後遺症を残すことはほとんどありません。ほとんど無いと言うことは、ほんのわずかあると言うことではありますが、日常生活にも様々な危険が潜んでいます。麻酔だけを怖がる必要はありません。むしろ、手術の合併症の方が危険性が高いのではないかと思っています。 以上は分かりやすさを優先して書いています。医師から見たら細かいところに異論があるかも知れませんが、ご容赦ください。
2007.12.02
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医療行為の中には侵襲的なものも多い。手術などは誰でも侵襲があることが分かるが、エックス線による検査にも侵襲はある。どの程度の関与があるかを判断することは難しいだろうが、ガンの発生は十分に考えられる。と思っていたら、こんな記事が。がんの約2%、CTが原因 医療被ばくで米チーム 記事:共同通信社 【2007年11月30日】 【ワシントン29日共同】放射線を利用するCTスキャンの使用頻度が米国で急増、将来のがん患者のうち約2%をこれらのCT検査による被ばくが引き起こす恐れがあると、米コロンビア大の研究チームが米医学誌に29日発表した。 CT検査の3分の1は医学的に不要との統計もあるとして、不必要な使用を避けるよう警告している。 チームによると、米国の医療現場でCTスキャンの使用回数は1980年の約300万回から2006年には約6200万回へと急増。断層画像を取得するのに何度もエックス線を照射するため、撮影1回当たり15-30ミリシーベルトを被ばく。一連の検査でこれを2、3回繰り返し、計30-90ミリシーベルト被ばくするという。 通常の胸部エックス線撮影では0.01-0.15ミリシーベルト、乳がん検診では3ミリシーベルトを被ばくするとされる。 チームは広島や長崎の原爆被爆者の疫学データと比較するなどした結果、現在のCT検査による発がんリスクが将来、全米のがん患者の1・5-2・0%に達すると推計した。 チームは「CT検査の利益とリスクを比較することが大切だが、不要不急の検査や、放射線の影響を受けやすい子どもへの使用は控えるべきだ」としている。 この記事の内容が正しいかどうかは今のところ分からない。また、日本人に当てはまるかどうかも不明だ。でも、不要な検査は控えるべきだというのはその通り。あくまで医学的にだが。 判例やメディアのバッシングを参考にした場合には話は異なってくる。「割り箸事件」では、CTを撮らなかったことがミスとして断罪されている。一審が無罪になったのは、助かる可能性がなかったからで、ミスがあったという認定はなされているのだ。また、大淀病院の産婦の脳出血死も、CTを撮らなかったことで大変なバッシングを受けた。 そんなことを考えていたら、こんな記事が。遺族に約3400万支払いへ 中津市民病院で医療ミス 記事:共同通信社 【2007年11月30日】 大分県中津市は29日までに、4月に中津市民病院で治療を受け、胸部大動脈解離で死亡した市内の男性=当時(62)=について「初診時にCT検査を行わなかったミスがあった」と過失を認め、遺族に約3400万円の賠償金支払いを決めた。 中津市民病院によると、男性は4月7日、胸や腹の痛みで来院。夜に再び痛みを訴えて訪れ、治療を受けた。帰宅後の8日未明に心肺停止状態となり、同病院に運び蘇生(そせい)措置をしたが、胸部大動脈解離で死亡した。 増田英隆(ますだ・ひでたか)院長は「ご遺族に大変申し訳ない。今後は細心の注意を払って診療を行い、市民から信頼される病院となるよう心掛けたい」とのコメントを出した。 よくある症状で受診しても、実は重大な病気であることはある。CTを撮れば分かったはずだから、CTを撮らなかったことがミスだと言われたら、保身のためには全例にCTを撮るほかない。でも、CTを撮ったことのある患者がガンになったら、CTのせいだと言われ、高額の賠償責任が課せられるようになりそうな予感。 医療行為には良いことばかりではなく、不利益もあることを受け入れて欲しいものだと思う。確率的に少ない危険には目をつぶり、得られるであろうメリットを重視して医療行為は行われる。CTによってガンの危険性が高まる恐れはあるだろう。一方で、CTのメリットが少ないと思われる集団の中にも、後から見れば撮るべきであった症例もあるだろう。 結果だけから見て、CTを撮れば良かっただの、撮ったからガンになっただのと言うことは間違いだ。結果論での批判は、誰のためにもならないことに、多くの人に気づいて欲しいと思う。
2007.12.01
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