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どうも世間では、大野病院での事例が無罪判決になって、医師がはしゃいでいるように見えているらしい。あまり知らない医師ははしゃいでいるかも知れないが、経過を追い、判決要旨に目を通した医師は、はしゃぐどころではない。それについては後で触れる。まずは控訴断念の報道。医療現場に安堵広がる 大野病院事件で地検控訴断念 8月30日6時13分配信 河北新報 医療界を震撼(しんかん)させた事件は一審で幕が引かれることになった。産婦人科医が帝王切開中の過失を問われた福島県立大野病院事件。福島地裁が言い渡した無罪判決に福島地検は29日、控訴断念の方針を明らかにした。事件が暗い影を落とした産科医療現場には安堵(あんど)が広がり、捜査関係者らは淡々と結末を受け止めた。 被告の加藤克彦医師(40)には弁護団から地検の方針が伝えられた。加藤医師は「逮捕からの2年6カ月はとても長く、ほっとしている。今後も地域医療に精いっぱい取り組んでいきたい。あらためて患者さんのご冥福をお祈り申し上げます」とのコメントを出した。 福島県は2005年、判断ミスなどを指摘した事故調査結果に基づき加藤医師らに減給などの懲戒処分を科し、加藤医師は起訴に伴い休職となった。無罪が確定すれば休職は解かれる見通しで、県は処分の取り消しも検討する。 茂田士郎県病院事業管理者は、発表した談話で「引き続き県民医療の安全確保に努め、医療事故の再発防止に全力を尽くしていく」との考えを示した。 逮捕には当初から医療界が猛反発し、お産を扱う現場に動揺を与えた。「万が一、控訴されれば、現場はさらに萎縮(いしゅく)しかねなかった」と東北公済病院(仙台市)産婦人科の上原茂樹科長は胸をなで下ろす。 国立病院機構仙台医療センター(仙台市)産婦人科の明城光三医長も「先週、事件のような難しい症例があった。無罪判決があったので比較的冷静に対応できた」という。それでも「今後も逮捕という同じことが起こる可能性はある。ショックは忘れない」と影響の大きさをうかがわせた。 一方、死亡した女性患者の父親渡辺好男さん(58)は取材に対し「無罪有罪は関係なく、1人の命が失われた。医療界には原因を追及し、再発防止に努めてほしいとだけ願っている」と話した。 福島地検の村上満男次席検事は記者会見で「遺族の方にはあらためてお悔やみ申し上げますとしか言いようがない」と述べた。県警の佐々木賢刑事総務課長は「県警としては法と証拠に基づいて必要な捜査をしたと考えている。医療行為をめぐる事件の捜査は本判決を踏まえ、慎重かつ適切に行っていく」と語った。 控訴断念自体は、被告医師のことを考えれば素直に嬉しい。でも、医療のこと、これからの患者のことを考えると、はしゃいではいられないのだ。控訴断念と言っても、起訴自体が誤りだったと認めたわけではなく、判決要旨も、検察の顔を立てたものであった。以下に判決要旨の問題部分を引用する。第5 被告人が行った医療措置の妥当性・相当性、結果を回避するための措置として剥離行為を中止して子宮摘出手術に移行すべき義務の有無1 検察官は、子宮摘出手術等への移行可能性とこれによる大量出血の回避可能性があることを前提とした上で、被告人は、遅くとも用手剥離中に本件患者の胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点で、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行し、大量出血による本件患者の生命の危険を未然に回避すべき注意義務があったとするので、移行可能性、回避可能性について検討した後、医学的準則及び胎盤剥離中止義務について検討する。2 子宮摘出手術等への移行可能性について 被告人が胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点においては、本件患者の全身状態は悪くなく、意識もあり、子宮摘出同意の再確認も容易な状況にあった。したがって、手術開始時から子宮摘出手術も念頭に置いた態勢が取られていたこと等に鑑みれば、検察官が主張するとおり、同時点において、被告人が直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することは可能であったと認められる。3 移行等による大量出血の回避可能性 一般論として、通常の胎盤剥離の出血量よりも前置胎盤の剥離の出血量の方が多く、それよりもさらに前置胎盤と癒着胎盤を同時に発症している胎盤の剥離の出血量の方が多いことが認められる。 本件において、クーパー使用開始直前時点までに被告人が用手剥離によって剥離を終えていた胎盤は、後壁部分と考えられる部分のおよそ3分の2程度であり、胎盤全体との関係では3分の1強程度である。この剥離部分は、用手剥離で剥離できた部分で、そこからの出血はあまり見られず、出血が多かったのは、その後、被告人がクーパーを使用して剥離した後壁下部であったこと、病理学的にも癒着胎盤と認める根拠に乏しい部分であることから、この剥離部分からの出血量は、いわゆる通常の胎盤の剥離の場合の出血量と同程度と推認される。 そうすると、胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行した場合に予想される出血量は、胎盤剥離を継続した場合である本件の出血量が著しく大量となっていることと比較すれば、相当に少ないであろうということは可能であるから、結果回避可能性があったと解するのが相当である。 ここで検察側主張を認め、検察の顔を立てている。少なくともこの症例のように用手剥離の時点で出血量がたいしたことがない癒着胎盤では、胎盤をはがさずに子宮を摘出すべきと言う判断である。本当に用手剥離の時点で出血量がたいしたことがなかったのかは別にして、今後は、今までなら残せた子宮をも摘出することになるのだろう。産科医にとっても、患者にとっても、つらいことだと思う。手放しではしゃいでいると思うのは、どうかしているのではないだろうか。
2008.08.30
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28日の朝日新聞「私の視点」に、大野病院事件について「産科医無罪」で終わるなと言うタイトルで鳥集徹(とりだまりとおる)氏が寄稿している。肩書きはジャーナリストとある。ジャーナリストであれば、それなりに深い考察を述べているのだろうと思ったら、遺族と同じことを述べているだけだった。ネットでググって見ると、私が知らなかっただけで、遺族側の代弁者として結構有名な人だったらしい。 寄稿文の内容は、医師が医療に関して捜査機関の介入を排除したがっていることへの批判である。大野病院の件でも、捜査によって真実が明らかになった面があるという。明らかになった真実とはこういうことらしい。 大野病院事件の場合、女性は手術を受ける1ヶ月前から入院していた。その間に、執刀医は助産師から「大きな病院で手術した方がいい」と助言され、先輩医師からも女性と同様の症例で「大量出血して大変だった」と教えられていた。これらは警察が捜査に入ったことで、初めて明らかになった事実だ。 亡くなった女性の父親も同様のことを言っている。どちらが先に言いだしたのか判らないが、明らかになった「事実」が重大なのだという認識なのだろう。どれくらい重大なのかというと、たった1人の産科医として、夜間も休日も毎日待機当番状態で自分の生活を犠牲にして地域の医療に貢献していた医師を、逮捕して留置場に放り込み、犯罪被疑者として過酷な取り調べを受けさせるほど重大なのだろう。 普通の市民なら、その様な仕打ちを受けることは耐え難い屈辱であり、恐怖でもある。医師をその様な目に逢わせる必要があるほど、その「事実」は本当に重大なのか。 そのような「事実」が有りながら、転送せずに大野病院で手術を強行したのが悪いという認識だと思うが、それなら、前置胎盤の手術の多くは大病院に送られていたという認識なのだろう。でも、裁判を取材してきたというのなら、大野病院よりも環境の悪いところでも、前置胎盤の手術が行われていることは分かったはずだ。少なくとも、それが福島県のスタンダードであったことは、裁判の過程で明らかになっている。スタンダードが悪いというのであれば、責めるべきは医療体制であり、医師個人ではないはずだ。 被告自身は第七回公判で以下のように述べている。弁護人: 大野病院で前置胎盤の症例を取り扱うことに問題があると思いますか。加藤医師: 問題あるとは思っていません。弁護人: なぜですか。加藤医師: 施設スタッフがしっかりしていますし、同規模の施設でも引き受けていますので。 被告だけでは信頼が置けないと言うのであれば、先輩医師も第二回公判で、このように述べている。弁護 先生は前置胎盤の帝王切開は何人でされましたか?証人 今年に入って、一月にやりましたが、それは人をたのみました。弁護 それ以前の9例は全部1人でしたか?証人 そうです。弁護 麻酔は?証人 ひとりで全部やります。弁護 助手は誰がするのですか?証人 手術室の看護師です。弁護 前回帝王切開、前置胎盤の患者さんで、術前にわかっており、大量出血の可能性がある場合も。証人 はい。弁護 前置胎盤で搬送しようと考えませんか?証人 これだけではhigh riskではないので、ひとりで対応できます。弁護 県立大野病院では、加藤医師の体制では、外科医1名、麻酔科医1名、助産師などスタッフ全9名。この体制は不十分だと考えられますか?証人 私どもの施設に比べかなり恵まれていると思います。弁護 同じような症例に対して先生はひとりでされているのですね。証人 はい。 これが福島県の当時の実情だ。今では産科を取りやめたところが多く、1人では手術をしないようになっているだろうが、そのために産科難民と言われる人々が増えている。医療を受けられないまま亡くなった命もあるのではないかと言うのは杞憂だろうか。 設備が整っていた方が良いのはその通りだし、人員も豊富な方が良いこともその通り。それは前置胎盤だけでなく、たとえ正常分娩でも同じなのだ。正常分娩だと思っていたら、突然大出血と言うこともあり得る。万全を期すなら、都市部の大きな病院の方が良いというのはその通りだけど、それ以外の施設は無くして良いのだろうか。リスクはあろうとも、医療を受けられないよりは受けられた方が良いのではないだろうか。 でも、もう後戻りは出来ない。集約化と言えば聞こえは良いが、実体は地方切り捨てだ。今でも過酷な勤務状態で働く産科医は多いが、そのモチベーションは以前ほど高くない。「難民」が押し寄せてくれば耐えられないだろう。ドミノ倒しは粛々と続いて行くと思う。
2008.08.29
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麻酔などに使う医療用ガスは、今ではほとんどの病院で中央配管になっている。壁のアウトレットにホースを繋いで使うのだが、ホースの先端の接続部は、ガスの種類ごとに異なったピンの形状をしており、誤接続が起こらないようになっている。ところが、ガスボンベに直接繋ぐ酸素供給用の加湿器などは、別なガスのボンベにも繋げられる。(画像は酸素用加湿器を炭酸ガスボンベに繋いで見たところ)そのため、このような事故が後を絶たない。 福岡県八女市の公立八女総合病院(吉田博企業長)は27日、患者2人に酸素ではなく誤って二酸化炭素(CO2)を吸入させる事故があったと発表した。2人は死亡した。病院側は同日会見し、「二酸化炭素の吸入は数分間と短時間で、直接的な死因につながったと考えていない」と因果関係を否定した。八女署は同病院から届け出を受け、業務上過失致死の疑いもあるとみて関係者から話を聴いている。 同病院によると、24日午前4時前、がんで入院中の70代男性が危篤状態になり、手術台まで搬送する際、酸素ボンベが空だったため、看護師が誤って二酸化炭素ボンベと交換し吸入させた。男性は手術前に死亡した。 さらにミスに気づかないまま同日午後6時ごろ、急性硬膜下血腫で救急搬送された80代の男性にも、手術台に運ぶ際と、手術を終えて病室に運ぶ際に二酸化炭素を吸入させた。この男性は翌朝に死亡した。 その後、別の看護師が取り違えに気づいた。外観は酸素ボンベは黒、二酸化炭素ボンベは緑色で別々の場所に保管しているが、形状は同じという。 同病院は26日に2人の遺族に謝罪。取り違えた看護師は「患者の容体に焦ってボンベの色や文字に目がいかなかった」と話しているという。 石倉宏恭・福岡大病院救命救急センター長の話 一般論として重症患者に対して、口から二酸化炭素を入れた場合は即、窒息状態になると考えられる。=2008/08/28付 西日本新聞朝刊= 事故の原因は繋げることが可能だと言うことだけではない。JIS規格と国際規格の不統一も原因だ。国際規格では酸素は緑と決まっている。麻酔機の流量計や壁のアウトレットでも、酸素の色は緑で表される。ところがJIS規格では、酸素の色は黒で、酸素ボンベの色も黒だ。ボンベの色が緑なのは炭酸ガスなのだ。あわてていれば間違えても不思議はない。 今回どうだったのか分からないが、もう一つ間違いやすいことがある。ボンベに会社名が書いてあることだ。高圧ガスのメーカーの名前には○○酸素というのが多い。中身が炭酸ガスであろうと、会社名として○○酸素と書いてあることもある。やはりあわてているときには間違いやすいだろう。 こうした現状を考えると、どうして医療にはフェイルセーフ機構が広まらないのだろうと不思議に思う。当事者の責任にして終わりにするのではなく、このようなミスが起こりえないような対応をしていただきたいと思う。
2008.08.28
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いつも情報源としてお世話になっています「ある産婦人科医のひとりごと」からの情報です。8月21日付けの朝日新聞・時時刻刻の記事の引用: 東京都内の大学病院で06年11月、癒着胎盤と診断された20歳代の女性が帝王切開で出産後に死亡するという大野病院事件と類似の事故が起きた。病院は胎盤をはがすことによる大量出血を避けるため、帝王切開後ただちに子宮摘出手術に移った。しかし、大量出血が起こり、母親を救命できなかった。病院はリスクの高い出産を扱う総合周産期母子医療センターだった。厚労省の補助金で日本内科学会が中心に運営する「医療関連死調査分析モデル事業」で解剖と臨床評価が行われ、評価調査報告書の最後に「処置しがたい症例が現実にあることを、一般の方々にも理解してほしい」と記されている。 すでに大野病院産科医が逮捕された後の出来事なので、検察の主張通りに手術したのでしょうが、やはり助からないものは助からないと言うことでしょう。でも、今日の本題はそこではありません。この症例は「医療関連死調査分析モデル事業」の対象であり、詳細な分析が試みられたのですが、情報不足で分析不能な部分もありました。 やはり「ある産婦人科医のひとりごと」から該当部分を引用します。5 再発防止への提言1)当該病院への提言今回各部門から提出された記録には不明な点があった。また時間的経緯のずれ、また不備もあり審議に苦慮した。院内委員会で十分に審議し統一見解としてまとめて提出しなければ真相は究明できない。モデル事業の参加は真相究明であるので、第三者が見ても良い限りなく透明性のある診療録にすることにより、医療の質も向上し医療不信を払拭できるのではないかと考える。本事例の調査委員会には小児科医が何故含まれなかったのか。また委員会の構成は当該科に呼応する外部の専門家や法律家も入れ、メンバ-を構築しなければ真理は追究できず、再発防止に繋がらない。さらに、モデル事業に提出された資料は委員会の議事録(開催日、場所、出席者、審議内容など)として体裁を整える必要がある。今回提出された資料は三部門(産婦人科、麻酔科、看護師)の資料を集めただけの内容であったことを追記する。(1) 産婦人科医への提言:当該診療科から提出された資料には記載不十分な部分も多く丁寧なチェックを行い提出することを希望する。また執刀医が手術記録を書いていない。極めて稀な事例でもあるので手術記録は誠実に詳細に執刀医が記載するのは当然である。たとえ下位医師が上級医に依頼されても断ることも重要である。硫酸マグネシウムの投与方法・用量は守られ手術決定とほぼ同時に中止し、手術に臨んだが、添付文書の重要事項に硫酸マグネシウムを分娩直前まで持続投与した場合に出生した新生児に高マグネシウム血症を起こすことがあるため、分娩前2時間は使用しないと書かれている。また子宮収縮抑制薬の併用による母体への重篤な心筋虚血などの循環器関連の副作用も報告されているので、このような知識は周産期センタ-ともなればスタッフ全員がこの認識を持つ必要がある。(2) 麻酔科医への提言:手術時の麻酔記録が極めて不十分であり、術中の記録から病態を解析するのに困難を極めた。稀有な症例であり、その時点での記録が困難であったものと推測するが、その後詳細な記録を残すことが重要である。硫酸マグネシウムの使用という情報が共有されていれば中和剤としてカルチコ-ルの選択もあった。また今回使用した以外の別の昇圧薬やドーパミン薬の使用も考慮しても良かった。今後、大量出血が予想される手術にあたっては、麻酔開始前から中心静脈圧、動脈圧を連続的にモニタリング出来るように準備してから手術を開始すべきである。ただ現実に臨床の場で常に準備することは難しいことも理解出来る。しかし今後検討すべきである。(3) 泌尿器科医への提言:当初、提出された診療録に膀胱修復の手術記録が含まれてなく、手術への拘わりなど時間の参考資料にはならなかった。手術記録は当然記載し診療録に入れ診療録を完成させて提出する必要がある。(4) 看護師への提言:本事例は術中の大量の出血によると考え、真相究明には時間的経過を詳細に知りたく、再三資料の提出を求めた。当然存在するはずの資料の提出がない場合、審議において、資料提出がないこと自体を当該施設に不利益な事情の1つとして斟酌する可能性もあることも、当該施設に対し通知した。その結果、最終的に提出されたメモと記憶からの資料により審議に臨めた。手術に入った看護師の配置は2名(器械出し、外回り)で、帝王切開用と子宮摘出用の器具を準備し、子宮摘出用の器具を隣室に置き隣室で器械を揃えるなど時間を取られている。そのため看護師の仕事である継続的に出血量をカウント出来ない時間が生じたことが解った。予め子宮摘出術が行なわれる可能性が高い例では、両器具を完全に揃え同一手術室に準備し、手術室から離れることがないようにすべきである。また緊急とはいえ大きくなる可能性のある手術では事前に医師と情報を共有することでマンパワ-も増し、再発防止に繋がると思われる。2)医療界への要望当該医療施設は周産期でも有数な施設であり、そのような機関でも本症例は不幸な転帰を辿ってしまった。手術開始前から出血が始まり、手術開始と同時に短時間に予期せぬ大量出血から生じたものと推測する。産科領域では、分娩を中心に稀有に見聞するが、急激な失血を正確に測定すること、またそれに呼応した輸血を考えると、今日の治療では難しかったかも知れない。なお、本事例のケ-スでの周術期死亡率は7.4%とも報告されている。学術集会では貴重な稀有な症例が発表され、無論成功例から学ぶことも大事である。しかしながら患者を救命することを使命とする医療従事者は、処置し難い症例が現実には存在し、不幸な転帰を辿る症例もあり対処出来るように努めなければいけない。またこのような症例が現実にあることを医療界だけでなく、一般の方々にも開示し理解して頂くことを希望する。 どの部門に対する提言でも、情報不足や時間的経緯のずれなど、記録の不備に触れられている。でも、救命のための混乱した現場で夢中で処置をしているとき、記録する暇はない。結局は後から記憶を頼りに書くほか無いわけだが、夢中でやったことほど覚えていないものだ。 それぞれが自分の記憶だけで記録を書くと、つきあわしたときに矛盾することはよくある。矛盾しない記録を書くためには、みんなの記憶を寄せ集めて、矛盾しないシナリオを再構成する他はない。でも、それでは捏造と言われかねない。 みんなが必死になって救命処置をした後で、時系列に沿った正確な記録を書く事って、可能なんでしょうか。それが実際には不可能ならば、正確な調査なんて不可能だし、それを元にした処罰は不合理です。やはり刑事罰だけでも免責にして貰わなければダメですね。 もう一つだけ言わせて貰おうかな。万全の体制を取ることに異存はないが、その費用をどうするかも議論して欲しいと思う。万全の体制を取ると言うことは、使う可能性の少ないものも用意すると言うことだから、当然コストがかかる。そのコストのすべてを病院に丸投げという現状は酷すぎる。本来は患者が負担すべきものじゃないでしょうか。自分の命なんだから。
2008.08.26
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私も既に署名を済ませましたが、以下のようなメールマガジンが来ましたので紹介させて頂きます。賛同していただける方は、是非、署名をお願いします。 2008年8月25日発行━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━Medical Research Information Center (MRIC) メルマガ 臨時 vol 114 ■□ 大野病院事件判決と署名のお願い □■ 周産期医療の崩壊をくい止める会 佐藤 章 (福島県立医科大学産科婦人科学講座 教授) 今回の記事、転送歓迎します!!━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 周産期医療の崩壊をくい止める会 代表の佐藤 章です。 8月20日、福島県立大野病院 加藤克彦医師が業務上過失致死、医師法21条違反の罪を問われてきた裁判で、福島地方裁判所により、同医師には過失はなかったとして無罪判決が言い渡されました。このような判決が下されたのは、一重に国民、および医療現場の皆様の御支援のお陰と一同感謝しています。本日は、更にお願いしたき件があり、メールさせていただきました。 同医師は一審で無罪となったものの、まだ、判決が確定したわけではありません。検察が高裁に控訴する可能性が残されています。しかしながら、本来は刑事事件として立件されるべきではなかったのであり、本件裁判の影響で、萎縮医療、産科医師激減は全国に拡大し、医療を受ける国民全体にとっても大きな不利益となっていることは明らかです。 そこで、同医師をこれ以上の刑事手続から解放し、本件裁判が全国の医療現場にもたらした混乱を一刻も早く収束させるために、同医師が検察によって控訴されないことが求められます。 医療現場の正常化と回復を望むことは、医療者、非医療者に共通した希望であり、そのために、同医師の控訴がなされないことを求める署名を集め、法務大臣、検察庁等の関係機関に提出したいと考えています、是非ともこの署名にご協力をお願い申し上げます。署名は以下の方法で受け付けています。1)ホームページ: http://spreadsheets.google.com/viewform?key=pVSu1jKcdiL1dT7HDioKlfA2)メール:perinate-admin@umin.net (氏名、所属、署名賛同の旨を本文にお書きください)加藤克彦医師を控訴しないことを求める意見書平成20年8月25日 福島県立大野病院産科医師加藤克彦氏の行った医療行為に関して、同医師が逮捕、勾留、起訴され、業務上過失致死、医師法違反の罪に問われてきましたが、同医師の行為は、医療者としての適切な判断に基づいた医療行為であり、本来刑事事件として立件されるべき性質のものではありませんでした。 福島地方裁判所も、同医師に刑事上の過失はなかったとして無罪判決を言い渡しました。 一方で、本件裁判により、医療現場とりわけ産科医療の現場では、過失ない医療行為によっても不幸な結果が起きた場合に、医師が刑事責任まで問われてしまうことから、萎縮医療の進行、産科医師の激減の悪影響を生じ、医療を受ける国民全体にとっても不利益となっています。 福島地方検察庁におかれましては、加藤医師の行為が刑事裁判の場で争われるべき性質のものでないこと、加藤医師には何らの過失もなかったと裁判所が判断したことを踏まえ、加藤医師を早期に刑事手続から解放し、本件裁判が全国の医療現場に及ぼした影響の甚大さを認識した上で医療現場の混乱を一刻も早く収束させるためにも、本件において加藤医師を控訴しないとのご決断をしていただきたい次第です。 上記の趣旨から、医療者 ( )名、非医療者( )名の署名を添えて提出いたします。以上
2008.08.25
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国内では一流のアスリートが、持てる力をすべて出し切っても敵わない世界の壁に直面したとき、ガッカリしたり口惜しかったりすることもあるだろう。でも、その競技の奥深さや偉大さに感嘆することもあるはずだ。また、とても敵わないと思っていた相手に一矢を報いたとすれば、それもまた嬉しいことだと思う。 女子テニス界にグラフが女王として君臨していた頃、伊達公子がグラフに挑んだことがある。コマネズミのように動き回ってライジングで打つ伊達。力強いストロークで振り回すグラフ。素晴らしいラリーの応酬だ。この時、伊達は打ちながら笑みをこぼしていた。テニスが楽しくて楽しくて堪らないという顔だった。卓球の福原愛が張怡寧に挑んだとき、この時の伊達と同じものを感じた。 張怡寧は本当に強い選手で、滅多に負けない。世界ランクも長いこと1位を保っている。昔のテニスのグラフのような存在だ。愛ちゃんも3ゲームまでは相手にならなかった。4ゲーム目になると、とにかくベストのプレーをすることに徹したのか、愛ちゃんの動きが急に良くなる。打ち合いも互角に戦い、何とこのゲームを取ってしまった。 5ゲーム目は張怡寧も本気だ。素晴らしいラリーの応酬が見られるようになる。この時、あの伊達が浮かべていた笑みが、愛ちゃんにも見られた。卓球はテニスと比べてせわしないので、さすがに打っているときに笑みを浮かべるわけにはいかないが、打ち終わった瞬間の笑顔はとても素晴らしかった。 結局愛ちゃんはこのゲームも落とし、張怡寧には歯が立たなかったわけだが、終盤まで食い下がって女王にタイムアウトを取らせただけでも善戦と言って良いだろう。準決勝のリー・ジャウェイも、決勝の王楠も、張怡寧からは1ゲームを取っただけで負けているのだから。 22日の朝日新聞は、張怡寧と対戦した福原愛について、以下のように表現した。いろいろ打開策を試みても、はね返される。そんなあきらめが表情に浮かんでいた。 あの笑顔を見て「あきらめ」と言う感性が私には分からない。
2008.08.23
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第5 被告人が行った医療措置の妥当性・相当性、結果を回避するための措置として剥離行為を中止して子宮摘出手術に移行すべき義務の有無1 検察官は、子宮摘出手術等への移行可能性とこれによる大量出血の回避可能性があることを前提とした上で、被告人は、遅くとも用手剥離中に本件患者の胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点で、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行し、大量出血による本件患者の生命の危険を未然に回避すべき注意義務があったとするので、移行可能性、回避可能性について検討した後、医学的準則及び胎盤剥離中止義務について検討する。2 子宮摘出手術等への移行可能性について 被告人が胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点においては、本件患者の全身状態は悪くなく、意識もあり、子宮摘出同意の再確認も容易な状況にあった。したがって、手術開始時から子宮摘出手術も念頭に置いた態勢が取られていたこと等に鑑みれば、検察官が主張するとおり、同時点において、被告人が直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することは可能であったと認められる。3 移行等による大量出血の回避可能性 一般論として、通常の胎盤剥離の出血量よりも前置胎盤の剥離の出血量の方が多く、それよりもさらに前置胎盤と癒着胎盤を同時に発症している胎盤の剥離の出血量の方が多いことが認められる。 本件において、クーパー使用開始直前時点までに被告人が用手剥離によって剥離を終えていた胎盤は、後壁部分と考えられる部分のおよそ3分の2程度であり、胎盤全体との関係では3分の1強程度である。この剥離部分は、用手剥離で剥離できた部分で、そこからの出血はあまり見られず、出血が多かったのは、その後、被告人がクーパーを使用して剥離した後壁下部であったこと、病理学的にも癒着胎盤と認める根拠に乏しい部分であることから、この剥離部分からの出血量は、いわゆる通常の胎盤の剥離の場合の出血量と同程度と推認される。 そうすると、胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行した場合に予想される出血量は、胎盤剥離を継続した場合である本件の出血量が著しく大量となっていることと比較すれば、相当に少ないであろうということは可能であるから、結果回避可能性があったと解するのが相当である。4 医学的準則及び胎盤剥離中止義務について(1)検察官の主張 検察官は、移行可能性と回避可能性がいずれもあることを前提とした上、さらに、胎盤剥離を継続することの危険性の大きさ、すなわち、大量出血により、本件患者を失血死、ショック死させる蓋然性が高いことを十分に予見できたこと、及び、子宮摘出手術等に移行することが容易であったことを挙げ、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であり、本件において、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張する。そして、上記医学的準則の根拠として、医学書、及び、C医師の鑑定(C鑑定)を引用する。(2)弁護人の主張 これに対し、弁護人は、癒着胎盤で胎盤を剥離しないのは、(1)開腹前に穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたもの、(2)開腹後、子宮切開前に一見して穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたもの、(3)胎盤剥離を試みても癒着していて最初から用手剥離ができないものであり、用手剥離を開始した後は、出血していても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合に子宮を摘出するのが我が国における臨床医学の実践における医療水準であると反論する。(3)産科の臨床における医療措置ア 本件では、癒着胎盤の剥離を開始した後に剥離を中止し、子宮摘出手術等に移行した具体的な臨床症例は、検察官側からも被告人側からも提示されておらず、また、当公判廷において証言した各医師も言及していない。イ 次に、上記医師らのうち、C医師のみが、検察官の主張と同旨の見解を述べるが、同医師が腫瘍を専門とし、癒着胎盤の治療経験に乏しいこと、同医師の鑑定や証言は、同医師自ら述べるとおり、自分の直接の臨床経験に基づくものではなく、主として医学書等の文献に依拠したものであることからすれば、同医師の鑑定結果及び証言内容を、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置、あるいはこれを基準とした事案分析と理解することは相当ではない。ウ 他方、上記医師らのうち、D及びE医師の産科の臨床経験の豊富さ、専門知識の確かさは、その経歴からのみならず、証言内容からもくみ取ることができ、少なくとも、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置に関する証言は、医療現場の実際をそのまま表現しているものと認められる。また、中規模病院に勤務するF医師も同様の見解を述べる。 そうすると、本件では、D、E両医師の鑑定ないし証言等から、「開腹前に穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたものについては胎盤を剥離しない。用手剥離を開始した後は、出血をしていても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合には子宮を摘出する。」ということが、臨床上の標準的な医療措置と解するのが相当である。エ 医学書の記載医学書に記載された癒着胎盤の治療及び対処法をみると、用手剥離にとりかかる前から嵌入胎盤、穿通胎盤であることが明確である場合、あるいは剥離を試みても全く胎盤剥離できない場合については、用手剥離をせずに子宮摘出をすべきという点では、概ね一致が見られる。しかしながら、用手剥離開始後に癒着胎盤であると判明した場合に、剥離を中止して子宮摘出を行うべきか、剥離を完了した後に止血操作や子宮摘出を行うのかという点については、医学書類から一義的に読みとることは困難である。オ 判断 (ア) 検察官は、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であり、本件において、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張する。これは、一部の医学書及びC鑑定に依拠するものであるが、C鑑定が、臨床経験よりも多くを医学書に依拠していることは前述のとおりであるから、結局、検察官の主張は、医学書の一部の見解に依拠したものと評価することができる。(イ) しかし、検察官の主張は、以下の理由から採用できない。 a 臨床に携わっている医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反したものは刑罰を科す基準となり得る医学的準則は、当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の、一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない。 なぜなら、このように解さなければ、臨床現場で行われている医療措置と一部の医学書に記載されている内容に齟齬があるような場合に、臨床に携わる医師において、容易かつ迅速に治療法の選択ができなくなり、医療現場に混乱をもたらすことになるし、刑罰が科せられる基準が不明確となって、明確性の原則が損なわれることになるからである。 この点につき、検察官は、一部の医学書やC鑑定に依拠した医学的準則を主張しているのであるが、これが医師らに広く認識され、その医学的準則に則した臨床例が多く存在するといった点に関する立証はされていないのであって、その医学的準則が、上記の程度に一般性や通有性を具備したものであるとの証明はされていない。 b また、検察官は、前記のとおり、胎盤剥離を継続することの危険性の大きさや、患者死亡の蓋然性の高さや、子宮摘出手術等に移行することが容易であったことを挙げて、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張している。 しかし、医療行為が身体に対する侵襲を伴うものである以上、患者の生命や身体に対する危険性があることは自明であるし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難である。したがって、医療行為を中止する義務があるとするためには、検察官において、当該医療行為に危険があるというだけでなく、当該医療行為を中止しない場合の危険性を具体的に明らかにした上で、より適切な方法が他にあることを立証しなければならないのであって、本件に即していえば、子宮が収縮しない蓋然性の高さ、子宮が収縮しても出血が止まらない蓋然性の高さ、その場合に予想される出血量、容易になし得る他の止血行為の有無やその有効性などを、具体的に明らかにした上で、患者死亡の蓋然性の高さを立証しなければならない。そして、このような立証を具体的に行うためには、少なくとも、相当数の根拠となる臨床症例、あるいは対比すべき類似性のある臨床症例の提示が必要不可欠であるといえる。 しかるに、検察官は、一部の医学書及びC鑑定による立証を行うのみで、その主張を根拠づける臨床症例は何ら提示していないし、検察官の示す医学的準則が、一般性や通有性を具備したものとまで認められないことは、上記aで判示したとおりである。そうすると、本件において、被告人が、胎盤剥離を中止しなかった場合の具体的な危険性が証明されているとはいえない。(ウ) 上記認定によれば、本件では、検察官の主張に反して、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置が医療的準則として機能していたと認められる。(エ) 以上によれば、本件において、検察官が主張するような、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であったと認めることはできないし、本件において、被告人に、具体的な危険性の高さ等を根拠に、胎盤剥離を中止すべき義務があったと認めることもできない。したがって、事実経過において認定した被告人による胎盤剥離の継続が注意義務に反することにはならない。5 以上の検討結果によれば、被告人が従うべき注意義務の証明がないから、この段階で公訴事実の第1はその証明がない。第6 医師法違反について1 医師法21条にいう異状とは、同条が、警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか、警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にしようとした趣旨の規定であることに照らすと、法医学的にみて、普通と異なる状態で死亡していると認められる状態であることを意味すると解されるから、診療中の患者が、診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は、そもそも同条にいう異状の要件を欠くというべきである。 本件において、本件患者は、前置胎盤患者として、被告人から帝王切開手術を受け、その際、子宮内壁に癒着していた胎盤の剥離の措置を受けていた中で死亡したものであるが、被告人が、癒着胎盤に対する診療行為として、過失のない措置を講じたものの、容易に胎盤が剥離せず、剥離面からの出血によって、本件患者が出血性ショックとなり、失血死してしまったことは前記認定のとおりである。 そうすると、本件患者の死亡という結果は、癒着胎盤という疾病を原因とする、過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果といわざるを得ないから、本件が、医師法21条にいう異状がある場合に該当するということはできない。2 以上によれば、その余について検討するまでもなく、被告人について医師法21条違反の罪は成立せず、公訴事実第2はその証明がない。
2008.08.22
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今回はエキサイトニュースからの引用だけ。魚拓としてご活用ください。大野病院事件判決要旨 判決要旨被告人 加藤克彦罪 名 業務上過失致死・医師法違反裁判官 鈴木信行(裁判長)、堀部亮一、宮崎寧子主 文 被告人は無罪第1 出血部位等1 出血部位 胎盤剥離開始後の出血のうちの大部分は、子宮内壁の胎盤剥離部分からの出血と認められる。2 胎盤剥離中及び剥離直後の出血程度 胎盤剥離中に出血量が増加したことが認められるところ、胎盤剥離中の具体的な出血量については、麻酔記録等から、胎盤娩出時の総出血量は2555mlを超えていないことが、カルテの記載及び助産師の証言等から、遅くとも午後3時ころまでに出血量が5000mlに達したことが認められる。第2 本件患者の死因及び被告人の行為との因果関係1 死因 鑑定は、本件患者の死亡は、胎盤剥離時から子宮摘出手術中まで継続した大量出血によりショック状態に陥ったためであり、他の原因は考えにくいとする。同鑑定の内容は、本件患者の循環血液量の絶対量が不足する状態が長時間継続していた手術経過に合致し、死亡診断書及びカルテに記載された被告人の判断及び手術を担当した他の医師らの判断とも合致している。 したがって、本件患者の死因は、出血性ショックによる失血死であると認められる。2 因果関係 本件患者の死因が出血性ショックによる失血死であり、総出血量のうちの大半が胎盤剥離面からの出血であることからすれば、被告人の胎盤剥離行為と本件患者の死亡との間には因果関係が認められる。第3 胎盤の癒着部位、程度1 当事者の主張(1)検察官は、本件患者の癒着胎盤が子宮後壁から前壁にかけての嵌入胎盤であり、前回帝王切開創部分は嵌入胎盤であった旨主張し、その根拠として、A鑑定、胎盤剥離に要した時間が長かったことを挙げる。(2)弁護人は、B鑑定を根拠に、癒着の部位は、子宮後壁の一部であり、前回帝王切開創を含む前壁には存在しなかった上、絨毛の侵入の程度は、筋層全体の5分の1程度である旨主張する。2 検討(1)癒着部位についてア A鑑定は、子宮筋層と絨毛の客観的な位置関係を認定するというレベルでは一応信用性が高いと評価できるが、胎盤の観察、臨床医の情報等を考慮しておらず、子宮の大きさ、胎盤の形や大きさ、帝王切開創部分と胎盤の位置関係、臍帯を引いたときの胎盤と子宮の形、胎盤剥離時の状況等に関する事実と齟齬する点がある。したがって、A鑑定が指摘する部分全てに癒着胎盤があったかは相当に疑問であり、その結果をそのまま癒着胎盤が存在する範囲と認定することはできない。イ B鑑定は、胎盤の写真を鑑定資料に加えて、胎盤が存在し得ない場所に絨毛が存在することにつき合理的説明を加えていることなどから、その鑑定手法の相当性は是認できる。 しかし、胎盤の写真を根拠として癒着の有無を正確に判断することには困難が伴うと考えざるを得ないことなどの事情を総合すれば、B鑑定は、A鑑定と異なる部分について、A鑑定に対し、合理的な疑いを差し挟む論拠を提供するには十分な内容を有しているものの、積極的にその結果の全てを是認し得るまでの確実性、信用性があるかについては疑問の余地が残る。ウ 以上からすれば、A鑑定で後壁の癒着胎盤と判断した標本から、B鑑定が一応合理的な理由を示して疑問を呈した部分を除いた標本部分については癒着胎盤があり、胎盤剥離状況や剥離に要した時間に鑑みると、癒着範囲は相当程度の面積を有していたと認められる。(2)前回帝王切開創についてア 本件患者の子宮標本のうち、絨毛及び糸の存在が認められる部分があり、A鑑定は同部分を嵌入胎盤としている。イ 同部分を前回帝王切開創と見ることに不合理な点はないものの、同部分が用手剥離等によらず剥離できたこと、また、B鑑定は、同部分を癒着胎盤と評価していないことからすれば、絨毛が観察されたことをもって、直ちに癒着胎盤と認めることは疑問が残る。(3)癒着の程度 癒着の程度については、A、B鑑定に差異はあるものの、本件の癒着胎盤が、ある程度子宮筋層に入り込んだ嵌入胎盤であることについては、両鑑定ともに一致する。3 結論(1)胎盤は、子宮に胎盤が残存している箇所を含む子宮後壁を中心に、内子宮口を覆い、子宮前壁に達していた。子宮後壁は相当程度の広さで癒着胎盤があり、少なくともA鑑定で後壁の癒着胎盤と判断した部分から、B鑑定が一応合理的な理由を示して疑問を呈した部分を除いた部分については、癒着していた。(2)癒着の程度としては、ある程度絨毛が子宮筋層に入り込んだ嵌入胎盤の部分があった。第4 予見可能性1 当事者の主張(1)検察官は、被告人は、手術前の検査で、本件患者が帝王切開手術既往の全前置胎盤患者であり、その胎盤が前回帝王切開創の際の子宮切開創に付着し、胎盤が子宮に癒着している可能性が高いことを予想していた上、帝王切開手術の過程で、子宮表面に血管の怒張を認め、児娩出後には臍帯を牽引したり子宮収縮剤を注射するなどの措置を行っても胎盤が剥離せず、用手剥離中に胎盤と子宮の間に指が入らず用手剥離が不可能な状態に直面したのであるから、遅くとも同時点で胎盤が子宮に癒着していることを認識したと主張する。 そして、被告人は、癒着胎盤を無理に剥がすと、大量出血、ショックを引き起こし、母体死亡の原因になることを、産婦人科関係の基本的な医学書の記載等から学び、また、手術以前に、帝王切開既往で全前置胎盤の患者の手術で2万ml弱出血した事例を聞かされていたのであるから、癒着認識時点後に、胎盤の剥離を継続すれば、子宮の胎盤剥離面から大量に出血し、本件患者の生命に危険が及ぶおそれがあることを予見することが可能であったと主張する。(2)これに対し、弁護人は、被告人は、癒着胎盤であることを認識していなかった上、仮に癒着胎盤であることを認識したとしても、前置胎盤及び癒着胎盤の場合、用手剥離で出血があることは当然であり、出血を見ても剥離を完遂することで、子宮収縮を促して止血を維持し、その後の止血措置をするのが我が国の医療の実践であるから、大量出血を予見したことにはなり得ないと主張する。2 被告人の癒着胎盤の認識について(1)被告人の手術直前の予見、認識 手術に至るまでの事実経過に照らすと、被告人は、手術直前には、子宮を正面から見た場合に、胎盤は本件患者から見て左側部分にあり、前回の帝王切開創の左側部分に胎盤の端がかかっているか否か微妙な位置にあると想定し、本件患者が帝王切開手術既往の全前置胎盤患者であることを踏まえて、前壁にある前回帝王切開創への癒着胎盤の可能性を排除せずに手術に臨んでいたが、癒着の可能性は低く、5パーセントに近い数値であるとの認識を持っていたことが認められる。(2)被告人の手術開始後の予見、認識ア 血管の怒張について 本件患者の腹壁を切開し子宮表面が露出された際、子宮前壁の表面に血管の怒張が存在したことが認められる。この点につき、検察官は、癒着胎盤の特徴として、子宮表面に暗紫色の血管の怒張が見られるとする。 しかしながら、被告人は、これにつき前置胎盤患者によく見られる血管であり、癒着胎盤の兆候としての血管の隆起とは異なる旨診断したと供述しており、当該診断が不自然であるとは認められない。 したがって、上記血管の怒張を見た段階で、被告人が、前述のとおりの術前の癒着の可能性の程度に関する認識を変化させたと認めることはできない。イ 胎盤の用手剥離を試みたが、胎盤と子宮の間に指が入れることができなくなったことについて 被告人は、用手剥離中に胎盤と子宮の間に指が入らず用手剥離が困難な状態に直面した時点で、確定的とまではいえないものの、本件患者の胎盤が子宮に癒着しているとの認識をもったと認めることができる。 しかしながら、前回帝王切開創部分に癒着胎盤が発生する確率が高いのは、前回帝王切開瘢痕部付近は脱落膜が乏しいためと考えられており、この理由は子宮後壁部分の癒着には当てはまらない。したがって、被告人が有していた前壁の癒着の程度の予見、認識が、段階的に高まって癒着剥離中の癒着の認識に至ったと考えることはできない。3 大量出血の予見可能性について 癒着胎盤を無理に剥がすことが、大量出血、ショックを引き起こし、母体死亡の原因となり得ることは、被告人が所持していたものも含めた医学書に記載されている。したがって、癒着胎盤と認識した時点において、胎盤剥離を継続すれば、現実化する可能性の大小は別としても、剥離面から大量出血し、ひいては、本件患者の生命に危機が及ぶおそれがあったことを予見する可能性はあったと解するのが相当である。
2008.08.22
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気になっていた判決が下りた。無罪だった。詳しい内容は分からないが、割り箸事件であったようなおかしなコメントもないようだ。当然のことが当然でないことも予想されていたので、素直に嬉しい。ほっとした。医師、遺族 重苦しく 「無罪」に思いめぐる 「被告人は無罪」。20日午前10時すぎ、福島県立大野病院事件の判決公判が開かれた福島地裁1号法廷に鈴木信行裁判長の声が響いた瞬間も、業務上過失致死罪などに問われた加藤克彦医師(40)は直立のまま、前を見据え続けた。手術中の措置をめぐり産科医の刑事責任が問われた医療界注視の事件。地裁の外で判決を待った医師の支援者らには喜びが広がったが、死亡した女性患者=当時(29)=の遺族は傍聴席でハンカチを手に目をぬぐった。明暗が分かれた法廷を重苦しい空気が包んだ。 濃いグレーのスーツに赤系のネクタイ姿で法廷に現れた加藤医師。冒頭の主文言い渡しを聞き、被告席に戻った後も表情をほとんど変えず、背筋を伸ばしたまま判決理由の朗読に聞き入った。午後零時20分に言い渡しが終わり閉廷すると、遺族に一礼して法廷を後にした。 事件をめぐっては、医療界から「医師の産科離れなど、医療崩壊を加速させた」と厳しい批判の声が上がった。関心の高さを反映し、この日は25の一般傍聴席を求め、788人が抽選の列に並んだ。 地裁の外に無罪の知らせが伝わると、加藤医師の元患者らの中には「ほんとに良かった」と泣き出す人も。千葉県から訪れた男性医師(45)は「安心した。逮捕が行き過ぎだったと思う。医師側も異変があれば事実と向き合い、患者側に理解してもらう努力が必要だろう」と話した。 真相究明を待ち望んだ遺族には厳しい判決となった。血圧低下や出血量の増大など、つらい手術経過の事実認定が読み上げられていくと、女性患者の父親はうつむきながら耳を傾けていた。 2008年08月20日水曜日 河北新報社 この件では、遺族も被害者なのだと思う。普通なら、当初は医師を恨んだとしても、時が経つにつれて死を受け入れていくものだ。それなのに逮捕・起訴となれば、やはり悪いのは医師だと言うことになり、何時までも恨みは消えないだろう。挙げ句の果てに無罪で、実は医師は悪くありませんでしたと言われても、素直に納得できないのはよく分かる。警察・検察は罪なことをしたものだと思う。これ以上罪を重ねることなく、控訴しないことを望む。
2008.08.20
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今日の日記は、明日の福島県立大野病院産科医逮捕事件の判決を前に、被告医師と当日現地でシンポジウムを行う人々を応援するための運動の一環として書いています。 このブログのトップでも宣言しているように、被告の医師を私は支持しています。逮捕自体が信じられないような暴挙なのですが、明日、判決が下ります。よもや有罪にはならないと思いますが、民事ではトンデモ判決が珍しくない昨今の状況を考えると、安閑とはしていられません。リンク先にもありますが、こんな事件でした。 2004年12月17日、大野病院で帝王切開術が行われた。前置胎盤の妊婦だったので、慎重に胎盤部分を避けて手術をして、胎児は無事に生まれた。ところが胎盤がはがれない。術前に診断することは困難だが、極めて珍しい癒着胎盤だったのだ。胎盤がはがれないと子宮が収縮せず、大量に出血する。何とか胎盤を剥離し、子宮も摘出したが、それでも大量の出血があり、輸血もしたが、結局患者は亡くなった。 癒着胎盤に伴う大量出血という事例であり、残念ながら力及ばず亡くなりはしたが、医療ミスではなく、あくまで病死である。当然、警察への異常死の届け出ではしなかった。ところが、示談を急いだのかどうか知らないが、県はミスを認めるかのような報告書を作成し、医師も甘んじて処分まで受けた。この辺の事情を福島県立病院産婦人科教授の佐藤氏は、以下のように語る。 患者の死亡後、県の医療事故調査委員会が設置され、当大学出身者以外も含め、3人の医師による報告書が2005年3月にまとめられた。今回の逮捕・起訴の発端が、この報告書だ。県の意向が反映されたと推測されるが、「○○すればよかった」など、「ミスがあった」と受け取られかねない記載があった。私はこれを見たとき、訂正を求めたが、県からは「こう書かないと賠償金は出ない」との答えだった。裁判に発展するのを嫌ったのか、示談で済ませたいという意向がうかがえた。私は、争うなら争い、法廷の場で真実を明らかにすべきだと訴えたが、受け入れられなかった。さすがにこの時、「逮捕」という言葉は頭になかったが、強く主張していれば、今のような事態にならなかったかもしれないと悔やんでいる。加藤医師は、報告書がまとまった後に、県による行政処分(減給処分)を受けた。 警察は、この報告書を見て動き出したわけだ。最近、医療事故では患者側から積極的に警察に働きかけるケースもあると聞いているが、私が聞いた範囲では患者側が特段働きかけたわけでもないようだ。警察による捜査のやり方には問題を感じている。例えば、当該患者の子宮組織を大学から持ち出し、改めて病理検査を行っているが、その組織も検査結果もわれわれにフィードバックされないままだ。捜査の過程で鑑定も行っているが、担当したのは実際に癒着胎盤の症例を多く取り扱った経験のある医師ではない。(会員以外は読めない、日経メディカルの記事より引用) こうして事を丸く収めるために、あえて責任を認めるかのような報告書が作成され、それが元で2006年2月18日 、担当医師が逮捕された。公判の模様は周産期医療の崩壊をくい止める会に詳しく載っている。あまりに詳しいので、全国の医師が症例検討会を行うことが出来るほどだ。その結果、多くの医師が被告に罪がないことを確信している。遺族は真実を知りたいと言うだろうが、真実は細かいところまですでに分かっている。(ただし、死因は狭義の失血死ではないと私は踏んでいる) 明日、8月20日に判決が出る。いてもたってもいられない医師達が、平日にもかかわらず現地に集まる。行けない私は、せめて会場に集まる医師達や被告医師への応援の意思だけは表明したいと思い、このブログを書いている。 万に一つも有罪判決が出るようなことがあれば、産科を辞めようと思っている産科医は多いだろう。私自身も、リスクを回避するような行動を取らざるを得ないだろう。
2008.08.19
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匿名を条件に取材に応じた人が、社内調査で取材に応じたことを認めるとは思えないのですが、分かった上での抗議なのだろうか。それはともかく、抗議を無関係の会社に誤送信したのが本当なら、あまりに情けない。 以下はここからの引用。毎日新聞が本誌に厳重抗議、「毎日jp」の閉鎖報道は事実無根と反論 【Technobahn 2008/8/13 18:41】毎日新聞は13日、本誌12日付け記事「毎日新聞、反発を受けてオンライン版『毎日jp』の閉鎖を検討」と題した記事に関して抗議と訂正を求める書簡をテクノバーンに送付した。 書簡の中で毎日新聞は「『毎日jp』を閉鎖する予定もなければ、閉鎖を検討した事実もありません。『毎日新聞の営業関係者』が誰を指すかは不明ですが、社内で取材の応じた者はおらず、事実無根の記事で、業務に多大な支障が出ています。記事掲載にあたり、取材もありませんでした。(中略)繰り返しになりますが、昨日以来、事実無根のこの報道のために振り回され、業務に支障がでています」と述べて、「毎日jp」の閉鎖報道を真っ向から否定した。 テクノバーンは前日12日付けで「毎日新聞がオンライン版毎日新聞となる『毎日jp』の閉鎖を検討していることが12日、関係者の証言により明らかとなった」と報じていた。毎日新聞による抗議文は弊社、テクノバーン宛てにファックスで(タイムスタンプは8月13日16:00)で送信されてきたものとなります。しかし、実際には抗議文は毎日新聞社側のミスにより弊社とは関係のない他社宛て送信、この他社のご好意により弊社宛に再送されてきたものとなります。毎日新聞社側のミスとはいえ、ファックスの取次ぎをしていただいた他社におかれましてはご迷惑をおかけいたしましたことをここに謹んでお詫びいたします。 業務に支障が出ているというのは、取材に応じた「犯人」探しが大変だったという意味かな。
2008.08.14
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毎日新聞のWEB上の英語サイトであった毎日デイリーニュースで、長いこと卑猥な情報が発信されていたことは前にも触れました。謝罪らしきことをして、処分らしきこともしましたが、なぜか関係者が昇進するという不思議な現象も観ることが出来ました。 反応自体は誠実とは言えないまでも、公表した調査内容自体には、全くの嘘はないものと思っていましたが、参考サイトその1やその2を見て頂くとお分かりのように、紙媒体時代から日本語の堪能な人も関わって、卑猥な情報の発信をしていたのですね。 ネット部分のチェックが甘かったという説明は嘘で、ネット上でだけ卑猥な情報を発信していたというのも嘘で、日本人は関わっていなかったような説明も嘘で、色々とこれからもボロが出そうです。まさか図書館でマイクロフィルムまで調べるような「イナゴ」がいるとは思わなかったのでしょう。 何か不祥事が起きたとき、嘘で一時的に切り抜けても、後から後から事実が明らかになってきた事例の行き着くところは決まっています。上層部総退陣か廃業です。そうしてきたのはメディアの圧力です。そのメディアが当事者の場合、どうなるのでしょうか。みんな興味津々だろうと思います。
2008.08.13
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いろいろな指示を、何でもパソコンに打ち込まなければならなくなって、私のようなロートルは大変です。まだ電子カルテにはなっていないのですが、オーダリングシステムですら使いこなせていません。注射もすべてパソコンで指示を出すのですが、手術室での麻酔薬の注射は、事後登録でよいことになっています。 もし、何らかの処置のために静脈麻酔が必要になり、静脈麻酔薬をパソコン画面で指示を出したら、どんなことが起こりうるでしょう。点滴の指示などの場合、看護師が自分たちだけでやることはよくあることですから、それを見た看護師が、とにかく注射をすればよいのだと勘違いしたら、麻酔の知識のない人が意図せず麻酔をしてしまうことになります。asahi.com> マイタウン> 青森> 記事 2008年08月09日麻酔に医師立ち会わず ■協立病院意識不明 病院側が医療事故認める 青森市のあおもり協立病院(横田祐介院長)に入院中の男性患者が、7月に麻酔薬を投与された後、意識不明となっている問題で、同病院は8日、朝日新聞社の取材に対し、医療事故だったと認めたうえで事故の経緯を明らかにした。男性患者は主治医の指示を受けた看護師が麻酔薬「イソゾール」を投与した後、意識不明になったという。同病院では投与時に医師が立ち会うことをマニュアルで定めているが、この時は立ち会っていなかったという。 同病院の宮本達也事務長は取材に対し、「医療事故があったことは事実」とする一方、医療ミスの有無については「調査中」とした。 宮本事務長によると、事故が起きたのは7月10日。この日は、不整脈で入院していた青森市の70歳代の男性患者に対し、心臓の動きを正常にするための電気ショック治療が行われる予定だった。心拍数が下がる傾向があったためだという。 意識がある状態で電気ショックを行うと患者は恐怖を感じるため、循環器内科の主治医がイソゾールの投与を決めた。 主治医は同日、電子カルテで看護師に指示を出し、この日の午前中、看護師が1人でイソゾールを静脈注射で投与した。午後に電気ショック治療を行う予定だったが、麻酔薬の投与後まもなく、男性の心拍数が下がったことを知らせる警告が出た。医師や看護師が駆けつけて救命措置をしたが意識不明となり、現在も意識が回復していない。 看護師による静脈注射は、保健師助産師看護師法で、医師の指示のもとで行うことが認められている。同病院は法律より踏み込み、医師が立ち会って実施するというマニュアルをつくっていた。だが、この日、医師は立ち会っていなかったという。 また、主治医が指示を書いた電子カルテには、薬剤の名前、量、注射の方法などが明記されていたという。 薬剤の量や投与する時間、方法などに誤りがあったかについて宮本事務長は「調査中だが、現段階で明確な間違いは見つかっていない」とし、意識不明になった原因は「現在調査中」と話している。 同病院は事故があった7月10日、平岡友良副院長を長とする内部の事故調査委員会を設置。同14日に県医療薬務課と東地方保健所に口頭で報告、同月下旬には文書でも報告した。今後、外部の有識者を招いて詳細な事故経過を調べる。 ◇ 県は、今回の事故にかかわった看護師らから事情を聴くとともに、今月中に同病院へ立ち入り検査をし、医療ミスがなかったか調べる。関係者によると、立ち入り検査では電子カルテに記載された医師による看護師への指示内容などを調べるとともに、同病院で看護師に対してどんな教育が行われていたかなども確認するとみられる。 おそらくは心房細動という不整脈の治療のため、電気的除細動という処置をしようとしたのでしょう。当然ですが、イソゾールは除細動の直前に麻酔のために投与するはずだったのです。指示を読んだ看護師が、イソゾールという薬について少しでも知っていれば、麻酔をする必要のない状況で投与することはなかったでしょう。 実際の医療の現場を知らない人であれば、知識不足の看護師を糾弾したくなると思います。でも、優秀な看護師がいることは事実ですが、たまたま免許を持っているだけの、素人と全く変わらない看護師も数多くいます。それらの看護師の力なくしては、日本の医療は成り立ちません。やはり、レベルが低いスタッフがいることを想定したシステムが必要なのです。 当たり前のことですが、主治医は除細動の際に使用する目的でイソゾールの指示を出しています。これが事前に投与されないような、フェイルセーフ機構はなかったのでしょうか。これから電子カルテ化する身として、とても心配です。看護師のみなさんへ この日記を読んで侮辱と感じる看護師の方もいらっしゃると思います。あなたが「自分のしている仕事の意味くらい理解している」と思っているなら、レベルの低いスタッフというのはあなたのことではありません。自分の受けた指示の内容を理解せず、ただ指示だからとやっているのだとしたら、あなたもとんでもないミスをする可能性があります。
2008.08.11
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大淀病院の妊婦死亡から二年が経ちました。2周年ということなのでしょう、産経新聞がこんな記事を書いています。奈良・妊婦死亡事件からあす2年 遺族は2次被害防止へ活動 (1/2ページ)2008.8.7 13:42 奈良県大淀町の町立大淀病院で平成18年8月、同県の高崎実香さん=当時(32)=が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、19病院に転院を断られた末に後日死亡した問題の発生から、8日で2年。夫の晋輔さん(26)ら遺族は、周産期医療の充実に加え、ネット上での中傷という“2次被害”を防ぐための活動を新たに展開している。今春には、ほかの医療事故被害者や遺族とともに勉強会も発足。遺族は「いつか残された子に、お母さんのおかげで環境がよくなったんだと言いたい」と心に誓っている。 実香さんは18年8月8日未明、分娩中に突然意識を失い、奏太ちゃんを出産して8日後に脳内出血で死亡した。 悲しみがやまない中、同年秋には、横浜市の医師による医師限定サイトの掲示板に晋輔さんを中傷する内容の書き込みがあることが判明。さらに実香さんの病歴情報、看護記録の流出も起こって、遺族の心に追い打ちをかけた。 カルテ内容を流出させた開業医は今年7月、晋輔さんや義父の憲治さん(54)に直接謝罪。その際、開業医は「医学的な検証をし、産科医を守りたかった」と話したという。 「婦人科のカルテには、親族にさえ知られたくないような秘密が書き込まれており、流出は女性を裸以上にするもの」 本当に医療環境を良くしたいのなら、即座に提訴を取り消すべきでしょう。どうしても提訴したいのなら、相手は国や自治体と言った行政のはずです。救命すること自体は無理だったと思いますが、まともな医療体制があったのであれば、もっと早く治療ができたはずです。貧弱な医療体制の責任は行政にあります。攻撃の矛先を医師や病院に向けるのは筋違いです。 また、「裸以上にするもの」を見て感じたのですが、「被害者」の憎悪は理不尽なものです。理性をかなぐり捨てたむき出しの感情であることもまれではありません。それ自体は無理からぬものがあるでしょう。でも、それをそのままメディアで垂れ流すのはいかがなものでしょうか。裸の心は、裸体以上に見ていて恥ずかしくなります。奈良・妊婦死亡事件からあす2年 遺族は2次被害防止へ活動 (2/2ページ)2008.8.7 13:42 憲治さんら遺族はやり場のない憤りを抱える中で、ほかにもネット被害に苦しむ医療事故の遺族らがいることを知り、勉強会の開催を発案した。 今年4月、大阪市内で開いた初会合。晋輔さんは「妻を亡くした上、さらに妻を傷つけられた」と悲しい思いを打ち明けた。7月には2回目の会合も開き、痛みを共有しながらさらなる情報交換を進めている。 一方、晋輔さんは周産期医療の充実を訴え、これまで約10回の講演を重ねた。「素晴らしい技術を持ったゴッドハンドと呼ばれる医師がいるが、誰の手でも握ってあげられるような優しい医師が増えてほしい」と各地で呼びかけてきた。 奏太ちゃんは、8日で2歳を迎える。屈託なくすくすくと育ち、自分の意思を伝えたり、はしを使ってそうめんを食べたりできるようにもなった。 ただ、晋輔さんは、奏太ちゃんの成長にしたがって新たな悩みも感じている。「やがて物心つく奏太に、実香の死のことをどうやって伝えようかと…」 遺族はジレンマを抱えながらも、悲しみや苦しみを教訓に、医療の充実やネット中傷防止になお強い思いを向けている。 「自分たちも、医療を改善させる方策を医師や行政と一緒に考えたい」と晋輔さん。憲治さんは「カルテの流出やひどい書き込みは捜査の対象になるほか、医療界の信頼失墜にもつながることを考えてほしい。そして、奏太にいつかお母さんのことを話すとき、お母さんのおかげでこんなによくなったよと言いたい」と話した。 残念ながら、現状は良くなっているとは言えません。完全に方向は逆で、奈良の産科医療を崩壊させてしまったと言って良いでしょう。一度恨みに凝り固まってしまうと、簡単には修正できないのでしょうが、医療を崩壊させている本当の敵は誰なのか、もう一度真剣に考えて欲しいと思います。
2008.08.08
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小児の心臓手術は基本的に先天性心疾患です。大きくなるまで待てるようであれば、通常は待ちます。大きくなれば、手術部位も大きくなって手術がやり易くなりますし、それなりに体力も付きます。生後2ヶ月で手術をしたのであれば、大きくなるまで待てないような疾患であり、病態であったのでしょう。それなりに危険を伴う手術だと思われます。手術ミスで娘死亡と提訴 富山県に約5750万円請求 記事:共同通信社【2008年8月6日】 2000年に富山県立中央病院で心臓の手術を受けた生後約2カ月の長女が死亡したのは、病院が注意義務を尽くさなかったためとして、金沢市の両親が富山県に対し、慰謝料など約5750万円を求める訴訟を、5日までに金沢地裁に起こした。 訴状によると長女は2000年9月に出生。先天性心疾患と診断され、11月11日に同病院で心臓手術を受けたが、6日後に急性心不全で死亡した。両親は「病院が呼吸管理などの術前管理を十分に尽くさず、症状を悪化させた」などと主張している。 同病院は「8年前のことで驚いており、弁護士と対応を協議している」とコメントしている。 せめて病名と、どのような手術だったのかと、具体的に呼吸管理がどのように悪かったのかくらい書いてくれないと判断のしようがありませんが、まあ、いつものことです。 手術は8年前です。今ほどリスクを説明していなかったかも知れませんが、それなりに生命の危険の説明はあったのではないでしょうか。だからこそ、しばらくは納得して提訴など考えなかったのでしょう。 何故今になっての提訴なのか分かりませんが、誰かが入れ知恵したのでしょうか。「昨今の情勢なら、高額の賠償金も夢ではないよ」と。「刑事訴訟をちらつかせれば、公立病院なら和解に応じるよ」と。 あながち間違いじゃないのが悲しい。
2008.08.07
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NHKの見せ方はともかく、ムペンバ効果そのものは実際にあるだろうと思っています。8月1日の日記でも触れているように、一度実験で確かめていますし、このようなサイト もありますから、頭から否定するのは乱暴な振る舞いでしょう。もちろん、水温以外を厳密に同じ条件にすることは簡単ではないので、おおよそ同じ条件の時、水よりも熱いお湯の方が早く凍ることはあり得るという程度のことですが、それでも常識から考えたら驚くべき事と言えます。 今回は升酒用の木の升を使いました。片方はポットから注いだ90℃のお湯を室温まで冷ましてから入れた升。もう一つは同じポットから90℃のお湯を注いだ直後の升。量は同じ。湯冷ましの升を冷凍庫の右側に入れ、お湯の升を左側に入れました。温度分布に差があるかどうか見るために、同量の水道水を入れた紙コップ二つをそれぞれの升の奥に入れました。およそ2時間後に取り出しました。 画像(上)は、紙コップの氷で、上になっている方がコップの底の部分です。右では底まで凍っていますが、左では底は凍っていません。左の方(お湯側)が凍りやすいと言うことはなさそうです。(お湯のそばだったからだと言うことはありそうですが) 画像(中)は、升の氷の画像です。右が水(湯冷まし)、左がお湯からの氷です。これだけでは何とも言えませんが、氷に穴を開けて、まだ凍っていない水をコップに移し換えたものが画像(下)です。左のコップの内側奥に黒い点を打ってありますが、そこが右側の水面の高さです。その分だけお湯からの氷の量が多かったことになります。 同じ所から仕入れた升とはいえ、ごらんの通り色も違うし、厳密に同じとは言えませんが、条件次第ではお湯の方が早く凍る事がありうるのだと言うことは納得して貰えるでしょうか。
2008.08.04
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刑事免責の話になると、どうしても色々と言いたいことがありすぎてまとまりそうもありません。今回は欲張らずに一点に絞って書くことにしました。私の元々の考えは、医療に限らず事故が起きたとき、真相究明と再発防止を何より優先すべきで、処罰感情を抑えて刑事免責を確保すべしと言うものですが、今回はそれも封印します。救急医療事故:医師の刑事免責を検討 患者側から反発も--自民私案 自民党は29日、救急救命に関係した医療事故について、事故を起こした医師らの刑事責任を免除する刑法改正の検討を始めた。党の「医療紛争処理のあり方検討会」で、座長の大村秀章衆院議員が私案として示した。免責の範囲などを今後議論するとしているが、患者側から反発も出ている。 医師らは、通常の医療行為で患者が死亡したり障害が残った場合は罰せられないが、必要な注意を怠ったと判断されれば業務上過失致死傷罪が適用される。医療界から「刑事罰は医療の萎縮(いしゅく)を招く」との批判も出ていた。 座長私案は、刑法の業過致死傷罪の条文に「救急救命医療で人を死傷させた時は、情状により刑を免除する」との特例を加える。厚生労働省が導入を計画する死因究明の第三者機関「医療安全調査委員会」の設置法案とセットで、議員立法による改正を目指す。 医療安全調査委の検討会委員で、小児救急の誤診を受け息子を亡くした豊田郁子さん(40)は「まず免責ありきという考えはおかしい」と指摘している。【清水健二、石川淳一】毎日新聞 2008年7月30日 東京朝刊 今回は「人を死傷させた時」に絞って書こうと思います。故意や誰もしないような馬鹿な過失で「人を死傷させた」のであれば、刑事免責にしろと言う医師はほとんどいないでしょう。でも、治療の甲斐もなく亡くなることはありますし、正しい診断が困難な事例もあります。後からなら「ああすれば良かった、こうしたら良かった」と言うことは可能ですが、最近は「れば・たら」で過失認定される恐れが大きくなってきました。その様な不適切な過失認定をそのままにして、「人を死傷させた悪い奴だけど情状酌量で許してあげよう」と言われても嬉しくありません。 誰でも犯しやすいミスを防ぐためのチェック体制や重大な結果を招かないためのフェイルセイフ機構、ミスを誘発しやすい労働環境の改善など、医療安全のための方策はいろいろあります。人は誰でもミスを犯すものですが、金をかけて対策を取れば、重大な結果を減らすことは可能です。そのためのコストを不可能にしている医療行政そのものに刑事罰を与えるような、そんな法改正を私は望みます。それなら患者側も反発しないでしょう。するのかな。
2008.08.02
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本当は「救急医療事故:医師の刑事免責を検討」と言う記事について考察する予定だったのですが、どうしても考えがまとまらないので、どうでも良い内容のエントリとなりました。医療とは関係ない話ですが、頭から決めつけることは良くないと言う教訓くらいにはなるかも知れません。 私は見ていないのですが、NHKの「ためしてガッテン」と言う番組で「水よりお湯の方が早く凍る!」と言う内容が放送されたようです。オカルト批判で有名な大槻教授が早速これにかみついたりして、結構な騒ぎになっています。 実を言うと、条件次第では、お湯の方が早く凍ることは昔から知られているようです。もう10年ほど前にネットで見かけた情報ですが、昔、木の桶を使っていた頃は、水よりお湯の方が早く凍ることに気がついていた人は多かったと聞いたことがあります。もちろん私は信じませんでした。でも、一応実験をしてみました。 条件としては、熱伝導率の低い容器で、ある程度の深さのある物が望ましいとのことだったので、紙コップを使いました。同じ紙コップを二つ用意し、同じ深さに印をして、印より少し上までポットの熱湯を注ぎ、十分時間をおいて室温までさましました。その後、もう一つのコップに、印のところまで熱湯を注ぎ、湯冷ましの方も印のところまで減らして同量として、冷凍庫に入れました。湯冷ましを使ったのは、溶存する気体を出来るだけ排除したかったからです。 結果は、熱湯の方が早く凍りました。何事も調べてみるものです。熱湯はどんどん蒸発して思ったよりも早くさめること、蒸発した分、量が減ったので早く凍ることなどが頭に浮かびましたが、量だけで説明できるものなのだろうかと長いこと疑問に思っていました。 今回、「ためしてガッテン」のおかげで検索してみたら、 お湯が先に凍る?と言うサイトを発見しました。そこでは対流が大きな要素であるとされています。
2008.08.01
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