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2009.06.14
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カテゴリ: 大正期・白樺派

『或る女』有島武郎(新潮文庫)(後編)

 前回書きましたことは、

  1.この本は今までの文学史的評価より遙かに優れているんじゃないか。
  2.作者の真面目な意気込みが行間からあふれるようで心撃たれはするがちょっとシンドイかな。
  3.主人公早月葉子の社会に対する反抗には今となっては時代的な限界を孕んでいるよーな気も   する。

と、みっつでした。

 基本的に全部読んだ後も変わりませんが、この「3」について、少し新たな感じ方が生まれました。

  ア・「社会に対する反抗」というよりは、後半はむしろ「ピカレスク・ロマン」(悪漢小説)のようだ。
  イ・「時代的な限界」ということなら、むしろ焦点は主人公の死に方ではないかな。

と、いうことで以下、特に「イ」について、もう少し書いてみますね。

 そもそも同種の「女性の社会的地位と近代的自意識の相克」タイプの小説としては、世界文学名作中の名作としては『アンナ・カレーニナ』『ボヴァリー夫人』などが有名であります。

 しかし、両者とも主人公の女性は、共に最後は自殺するんですね。ところが一方、早月葉子は上記のように病死なんですね。

 で、早月葉子病死の原因を本文描写より探ると、

  1.性的放埒  2.基本的生活習慣の乱れ  3.産後の肥立ち

 であろうと思われます。もちろんこの3つのさらなる深層原因に、早月葉子の性格的欠陥を置くことは可能でありましょうが、例えば漱石の『虞美人草』。

 『虞美人草』主人公「紫の女・藤尾」は、やはり有島の本作と同種の書き方(死に方)をされ、実際のところは「倫理的潔癖者」漱石の手によって「倫理的罪状」によって「殺され」ます。
 しかしそのことは、同時に『虞美人草』の作品的な欠陥となっています。
 だって、病気に掛かるのは「因果応報」ではありませんから。
 例えばガンになった人は何か悪いことをしたからガンになったわけでは、ぜーんぜんありませんよね。

 さてこの早月葉子の死因を振り返って上記の3つを考えてみれば、まず3はほぼ無実。
 本人のせいではありません。
 1.2は、微妙なところなきにしもあらずではありますが、これを持って本人を断罪してしまう(「ほーら、バチが当たった」)には、ちょっとやりすぎじゃろうが。

 というわけで、まー、「時代的な限界」、と。

 しかし、にもかかわらず、フローベルが「ボヴァリー夫人は私だ」と言った意味と同じレベルにおいて、作者有島は、早月葉子を、おそらくは自分であると考えているだろうことは作品より充分に読みとれて、好感が持てはするのでありますがね。

 というわけで、やはり、とても面白い本ではありました。

 今回は、そゆことで。では。
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Last updated  2009.06.14 09:27:52
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analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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