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2009.06.15
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カテゴリ: 昭和期・歴史小説

『季節のない街』山本周五郎(新潮文庫)

 えー、なんというか、かなりびっくりしました。

 山本周五郎という作家は、もう20年以上も前でしょうか、僕は『さぶ』という小説を読みました。ほとんど内容は忘れていますが、うっすらと残る記憶によりますと、人情時代劇であります。

 今年、3ヶ月ほども前でしょうか、『日本婦道記』という短編集を読みました。ちょっと面白かったですが、「人情時代劇」という範疇を越えるものとは思えませんでした。

 で、今回の上記作。驚きました。

 シュール・レアリズムでハード・ボイルドであります。

 読みながら、心の中で何度も、

 「なんだなんだなんだなんだ、この展開は、いったい何なんだーーーっ!」

 と、思いましたね。例えばこんな話です。

 増田益男32歳、妻勝子29歳。
 河口初太郎30歳、妻良江25歳。

 こんな二組のカップルが、吹きだまりのような「季節のない街」に住んでいます。
 夫は共に飲んだくれの日雇い作業員。女房はやかましいだけの無教養な女。子供は共にいません。

 ある夜、飲んだくれて夫婦げんかをしてぷいと家を飛び出した益男が、初太郎の家に来ます。もちろん初太郎も飲んだくれています。
 二人はさらに飲みながら、益男がなぜ夫婦げんかをするに至ったかを初太郎に説明すると、初太郎は
 「それは勝子さんが悪い」
といって、勝子に意見をしに一人で益男の家に行ってしまいます。

 初太郎の家に残されたのは、益男と良江。
 その後もぐじゅぐじゅと飲んだくれて、そのまま寝込んでしまいます。一方、初太郎も勝子のいる家に行って、とうとうその夜は帰ってきません。

 次の朝、それぞれ別の家から仕事に出かけた男二人は、夕方、何の不思議もないかのように、前夜を過ごしたお互いの家に帰っていきます。
 4人の男女はまるで今までそうであったように、夫婦を取り替えて、そのまま普通に生活を始めてしまいます。……。(『牧歌調』)

 どうです。読みたくなってきたでしょう。びっくりするでしょう。唖然とするでしょう。

 ユーモアがあって、展開が超現実的で、表現にも芸があってと、極めて一級品の作品集になっています。

 さらに驚くべきは、本短編集は15ほどの作品でまとめられているのですが、全作ことごとくが「ハイレベル」であります。これがまたすごい。

 短編集にはどうしても、できの善し悪しが出るものですが、この本にはほとんどそれが感じられない。ムリヤリ読めば、まー、全く善し悪しがないとは言い難いでしょうが、それはほとんど「趣味」の違い程度でありましょう。

 そもそもこの山本周五郎という小説家、どれくらい「エライ」人なんでしょうかね。

 あ、「エライ」なんて言ってしまいましたが、よーするに、ご存じだと思いますが、一連の近代日本文学史上で評価の低い人々達の中で、です。
 主に「時代小説作家」ですね。
 この方々の評価が、「正調」近代日本文学史の中では、大偏見的に低いんですよねー。
 で、そのなかで、この「山周」は、どの辺に位置しているんでしょうね。

 今回僕は読んでびっくりしましたが、それでも司馬遼よりは「エラク」ないんでしょうね。
 吉川英治と比べたらどんなものなんでしょう。
 藤沢周平よりは、「エライ」ですよね、きっと。
 海音寺潮五郎よりはエライ気がします。海音寺氏はちょっと説教クサイですね。
 松本清張と比べるとどうなんでしょうか。
 山田風太郎とは。うーん、山田氏は、まるっきりのバカバカしい作品も多いからなー。……。

 というわけで、本作はひさびさの、「とってもお薦め」であります。

 ところで、本作が原作となっている黒澤明の『どですかでん』って、おもしろいんでしょうかね。
 僕は情けない話しながら、映画についてはいっこうに見識を持ちません。
 ちょっと見たいような気もするし、いやいや見ぬ方がよい、という気もいたしますが。

 じゃ、今回はそゆことで。
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Last updated  2009.06.15 07:04:01
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analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文 @ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…
analog純文 @ Re:漱石は「I love you」をどう訳したのか、それとも、、、(08/25) 今猿人さんへ コメントありがとうございま…

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