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「ヒトラーの忘れもの」(原題:Under sandet)は、2015年公開のデンマーク・ドイツ合作の歴史ドラマ映画です。史実に触発され、マーチン・サントフリートの監督・脚本、ローランド・ムーラーら出演で、ナチス・ドイツの降伏後、デンマークの地雷の撤去に駆り出された捕虜のドイツ少年兵と、ナチスへの憎しみと無垢な少年たちとの間で葛藤するデンマークの指揮官を、当時実際に地雷が埋められていた海岸を舞台に描いています。第89回アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表に選出された作品です。 「ヒトラーの忘れもの」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:マーチン・サントフリート脚本:マーチン・サントフリート出演:ローランド・ムーラー(ラスムスン軍曹) ミケル・ボー・フォルスゴー(エベ大尉) ルイス・ホフマン(セバスチャン・シューマン) ジョエル・バズマン(ヘルムート・モアバッハ) エミール・ベルトン(エルンスト・レスナー) オスカー・ベルトン(ヴェルナー・レスナー) レオン・サイデル(ヴィルヘルム・ハーン) ほか【あらすじ】1945年5月、ナチス・ドイツが降伏し、デンマークは5年間にわたるドイツの占領から解放されます。連合軍の上陸を阻止する為に戦争中にドイツ軍がデンマークの西海岸に埋めた200万個もの地雷撤去に捕虜のドイツ兵たちが駆り出されますが、その多くが10代の少年兵です。セバスチャン(ルイス・ホフマン)、双子のヴェルナーとエルンスト(エミール&オスカー・ベルトン)ら11名は、地雷を扱った経験がほとんどなく、最低限の爆弾処理訓練を受けて命がけの作業に当たります。彼らを指揮・監督するデンマーク軍のカール・レオポルド・ラスムスン軍曹(ローランド・ムーラー)は、彼ら全員があどけない少年であることに驚きますが、残忍なドイツ軍への憎悪から彼らに情け容赦ない罵声を浴びせかけ、食事も満足に与えないまま危険な作業をさせます。広大な浜辺に這いつくばりながら地雷を見つけ、信管を抜き取る作業は死と背中合わせです。少年たちは祖国に帰る日を夢見ながら苛酷な任務に取り組みますが、飢えや体調不良に苦しみ、地雷の暴発によってひとりまたひとりと命を落としていきます。そんな様子を見たラスムスン軍曹は、彼らにナチス・ドイツの罪を償わせることに疑問を抱くようになります。純粋な心を持つセバスチャンと打ち解け、絆を感じ始めたラスムスン軍曹は、少年たちが残された任務を無事にやり遂げ、帰郷することを願いますが、その先には思いがけない苦難が待ち受けています・・・。【レビュー・解説】ナチス・ドイツがデンマークに敷設した地雷を捕虜のドイツ少年兵に処理させていたという驚きの実話に基づき、ドグマ95の流れを組むデンマーク映画らしいシンプルで力強いプロットとリアルな映像で地雷処理の現場をスリリングに描く一方で、地雷処理を指揮するデンマーク軍の軍曹のナチス・ドイツへの激しい憎悪が捕虜の少年兵たちとの交流を通して彼らへの赦しへと変わっていく様を描いた、スリリングで感動的なヒューマン・ドラマ映画です。捕虜のドイツ少年兵が危険な地雷除去作業を強制されていたドイツ人が埋めた地雷をドイツ人に処理させるというのは、一見、合理的なようですが、地雷処理に従事した2000人余りのドイツ人捕虜のうち、半数近くが死亡したり、手足を失うという極めて危険な業務を強制したこと満足な食事も与えずにそうした業務に従事させたこと従事したドイツ人捕虜の多くが少年兵だったことは、人道的に大きな問題と言えます。本作で描かれているドイツ人捕虜の待遇は、当時のジュネーヴ条約(1929年調印)の、第十一条(食料)俘虜の定糧は其の量及質に於て補充部隊のものと同一たるべし第三十二条(不健康又は危険なる労働)俘虜を不健康又は危險なる労働に使役すべからず第七十五条(送還規定の設置)〜中略〜一切の場合に於て俘虜の送還は平和克復後成るべく速に行はるべしといった条項に抵触しますが、第二次世界大戦では、デンマークはドイツの侵攻開始後数時間で抵抗らしい抵抗もしないまま降伏、ドイツの保護下に入っており、ジュネーヴ条約の大前提である「交戦国」ではない為、条約が適用されないという抜け道がありました。余談になりますが、昨今、何かと話題になる日本の自衛隊員は、紛争当事国の戦闘員ではないので、ジュネーブ条約の「捕虜」には該当しません。これは有事の際に必ずしも非人道的な扱いを受けることを意味するものではありませんが、覚えたおいた方が良いかもしれません。アメリカではテロ対策の一環で、アメリカの国内法が及ばないグアンタナモ強制収容所で拷問が行われましたが、有事の際のこうした脱法行為はあり得ないことではありません。デンマークと列強との微妙な関係ヴァイキング時代からの植民地、グリーンランド、アイスランド、フェロー諸島に加えて、海上帝国としてインドへ進出、その後も西アフリカ沿岸、新大陸の西インド諸島などの植民地化に成功するなど、17世紀から18世紀にかけて、デンマークは海運の隆盛期、黄金時代迎えます。バルト海での覇権を失いながらも、イギリス、オランダなどの海軍強国との友好関係を築き、外洋との繋がりを保った事がデンマークの国力維持に繋がったわけですが、19世紀に入ってイギリス帝国と袂を分けたデンマークはその艦隊を撃破されます。ナポレオン戦争の敗戦国となってノルウェーを失い、海外領土はイギリスに占領され、艦隊も没収され、海上貿易も失い、1917年までに植民地をアメリカ、イギリスに売却したデンマークは、ヨーロッパの小国となりました。ドイツと同じゲルマン民族であり、第二次世界大戦では無抵抗まま占領を受け入れたことで、ヒトラーはデンマーク政府の存続を認め、デンマーク王もドイツ占領下のコペンハーゲンに留まりました。デンマーク自由師団と呼ばれる義勇兵団が独ソ戦に参加させられるなどの対独協力を強いられたこの時期のデンマークは「モデル占領国」と評されることもあります。しかし戦局が枢軸国側に不利になった1943年、さらなる対独協力をデンマーク政府が拒否したため、ドイツ占領軍は戒厳令を布告、デンマークを直接統治します。ユダヤ人の移送も開始されましたが、市民の協力によって99%がホロコーストから逃れることができたと言われています。1945年5月、デンマーク駐留のドイツ軍が降伏し、占領は終結します。デンマーク政府は連合国と交渉することはできませんでしたが、連合国の一員として認められ、国際連合の原加盟国となります。本作の主人公ラスムスン軍曹は、デンマーク軍の軍曹ですが、イギリスの空挺部隊の制服を着ており、また、中盤にはイギリス兵がドイツの少年兵たちを虐待、ラスムスン軍曹が懸命に制止するシーンがあります。これらはデンマークがイギリス軍の強い影響下にあったことを示唆しています。イギリス軍は、ドイツへの復員を待つ者たちの中からドイツ製の地雷に詳しい工兵を選び、彼らを監督するデンマーク将兵から成る地雷特務部隊を結成、ここに「故国に捨てられたドイツ人」も加えます。この部隊に属したデンマーク将兵は、大戦中にイギリスへ渡ってドイツ軍への反攻に向けて訓練されていた者が多く、本作のラスムスン軍曹がイギリスの空挺部隊の制服を着ているのもその為です。イギリス軍はこのように息のかかったデンマーク将兵を登用しながら、ドイツへの復員を待つドイツ人捕虜たちに地雷除去を強制していたのが実態です。デンマークはドイツの保護下にあり交戦下にはなかったため、こうしたドイツ人捕虜による地雷除去に1929年に締結されたジュネーヴ条約が適用されることはありませんでした。何故、これまで語られなかったのか、何故、今、語られるのか本作のテーマは明確で、「目には目を」という復讐の心理にとらわれるのではなく、人間としての良心に従った行動の必要性を説いていますが、何よりも興味深いのはこの映画で描かれている地雷除去の話はデンマークの歴史書では扱われておらず、冷戦が終結した後の1998年に、Helge Hagemann(ヘリェ・ヘーイマン)が「Helge Hagemann: Under tvang」(強制の下で)という本を出版されたことでようやく白日の下にさらされました。こうした史実が、長い間、表に出てこなかった背景には、ドイツ人が設置した地雷をドイツ人に除去させた行為に非人道的な行き過ぎがあったとは言え、ナチス・ドイツが世界を相手にはたらいた暴虐の数々に比べれば、規模の小さな話であることほとんど血を流すこともなくナチス・ドイツのいいなりになったデンマークにとって、民間人約7万人を含む45万人もの犠牲を払いながら第二次世界大戦を戦い抜き、ナチス・ドイツの占領からデンマークを救ったイギリスは英雄であり、非難の対象にしづらいことがありそうです。第二次世界大戦以降、長く続いた冷戦構造が終焉、旧ソ連が崩壊、世界はアメリカ一強の時代になる中、デンマークにも他国との関係の中で自らが加担した非人道的行為を振り返る余裕が出てきたのかもしれません。デンマークのマスコミや世論は自らが抱える地雷問題の把握と解決に意識的になり、2005年にはデンマーク政府が第二次大戦中の地雷が残されていることを認め、地雷の調査と除去にあたることが約束されます。デンマークは対人地雷を全面的に禁止する条約オタワ条約を批准しており、その作業は国際法で求められるものですが、そこには、地雷問題の最終的解決を担うことで、ドイツ人捕虜に地雷除去を強制した罪を償う手付かずの自然が残るユトランド半島の環境を保護する今なお世界に数多く存在する「地雷の国々」に対して模範を示す姿勢が見られます。9.11同時多発テロや中国の台頭により、近年、アメリカ一強神話が崩れつつあり、中東やアフリカからの難民がアメリカや欧州の経済を脅かし、極右勢力の台頭を許していますが、皮肉もこれが本作の価値をより高めているようでもあります。実のところ、本作が描いている憎悪と復讐、寛容と和解は、第二次世界大戦の後処理に限った話ではなく、人類が繰り返してきた普遍的なテーマです。この作品は第二次大戦についてだけでなく、人間の振る舞いについても描いている映画だ。戦時下で、または戦後、人間がお互いに対してどのような態度を取るのかを描くと同時に、「怪物」を倒そうとして自分自身が「怪物」になってしまってはいけないと警鐘を鳴らしている。そして、人間は過ちから学ぶのだということと、たとえ自分の信念は正しいと思っていても、その信念とは異なる方向に進んでもいいということを伝えている。これは、現代においても通じる重要なことだと思う。難民に対してどういう態度を取るべきか、国境を開放するのか、または一般的な憎しみや恐怖ということに関してね。本作においてラスムスン軍曹は、少年兵たちのことを知るにつれて、彼らが自分と同じ感情を抱えていて、同じものを必要としていることに気づく。食べ物だったり愛だったり、そういったものだ。ラスムスン軍曹と同じように、私たちも互いに十分な時間を一緒に過ごせば、相手のことがわかってくると思うんだ。今、私たちが生きているこの世界でもね。我々みんな、同じ物を必要としているんだ。(マーチン・サントフリート監督)http://cinefil.tokyo/_ct/17022525ローランド・ムーラー(ラスムスン軍曹)ローランド・ムーラー(1972年〜)はデンマークの俳優。「R」(2010年)、「シージャック」((2012年)、「Nordvest」(2013年)、「アトミック・ブロンド」(2017年)などに出演している。本作が初主演作だが、ナチス・ドイツへの激しい憎悪が捕虜の少年兵たちへの赦しに変わっていくさまを見事に演じている。ミケル・ボー・フォルスゴー(エベ大尉)ミケル・ボー・フォルスゴー(1984年〜)は、デンマーク出身の俳優。ナショナル・シアター・スクール在学中に映画デビュー作となる「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(2012年)でクリスチャン7世を演じ、第62回ベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞)を受賞、世界に知られるようになる。本作ではラスムスン軍曹とは対照的な上司を冷徹に演じ、見事な存在感を醸し出している。ルイス・ホフマン(セバスチャン・シューマン)ルイス・ホフマン(1997年〜)はドイツの俳優。「僕の世界の中心は」(2016年)などに出演している。ジョエル・バズマン(ヘルムート・モアバッハ)ジョエル・バズマン(1990年〜)はチューリヒ出身のスイスの俳優。「ハンナ」(2011年)などに出演している。エミール・ベルトン&オスカー・ベルトン(エルンスト・レスナー&ヴェルナー・レスナー)エミール&オスカー・ベルトン(1999年〜)は、ハンブルク出身のドイツの俳優。双子である彼らは共に演技経験がなく、本作がデビュー作だが、演技スクールに入学して1週間ほど経った頃、スクールの推薦を得てオーディションで本作の役を勝ち取っただけあって、天性ともいえる良い味を発揮している。【撮影地(グーグルマップ)】舞台となる地雷原が撮影された海岸線実際に地雷が敷設された海岸が使用されている。軍の駐屯地が撮影された場所 「ヒトラーの忘れもの」のDVD(楽天市場)【関連作品】マーチン・サントフリート監督作品のDVD(楽天市場) 「Applause」(2009年)・・・輸入版、日本語なし 「Teddy Bear」(2012年)・・・輸入版、日本語なしおすすめデンマーク映画のDVD(楽天市場) 「バベットの晩餐会」(1983年) 「モルグ/屍体消失」(1994年) 「プッシャー 」(1996年) 「セレブレーション」(1998年) 「ゼイ・イート・ドッグス」(1999年) 「しあわせな孤独」(2004年) 「ストリングス〜愛と絆の旅路〜」(2004年) 「ある愛の風景」(2006年) 「アフター・ウェディング」(2008年) 「ビルマVJ 消された革命」(2008年) 「未来を生きる君たちへ」(2010年) 「100,000年後の安全」(2010年) 「偽りなき者」(2012年) 「シージャック」(2012年)「アクト・オブ・キリング」(2012年) 「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(2012年) 「ルック・オブ・サイレンス」(2014年) 「特捜部Q キジ殺し」(2014年) 「メン&チキン」(2015年) 「アルマジロ」(2015年) 「遙か群衆を離れて」(2015年)・・・北米版、日本語なし 「ある戦争」(2015年) 「特捜部Q Pからのメッセージ」(2016年)捕虜を描いた映画のDVD(楽天市場) 「大いなる幻影」(1937年) 「第十七捕虜収容所」(1953年) 「戦場にかける橋」(1957年) 「大脱走」(1963年) 「鬼が来た!」(2000年) 「9000マイルの約束」(2001年) 「戦場からの脱出」(2006年) 「グアンタナモ、僕達が見た真実」(2006年)
2017年11月29日
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「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」(原題:Lion)は、2016年公開のオーストラリア・アメリカ・イギリス合作のドラマ映画です。サルー・ブライアリーのノンフィクション「25年目の『ただいま』 5歳で迷子になった僕と家族の物語」を原作に、ガース・デイヴィス監督、ルーク・デイヴィーズ脚本、デーヴ・パテール、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンら出演で、5歳の時にインドで迷子になり、養子としてオーストラリアで育った青年が、幼い頃の記憶を辿りながらグーグル・アースで故郷を探り当て、25年ぶりに母と再開する姿を描いています。第89回アカデミー賞では、作品賞、助演男優賞(デーヴ・パテール)、助演女優賞(ニコール・キッドマン)、脚色賞、撮影賞、作曲賞の6部門にノミネートされた作品です。 「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ガース・デイヴィス脚本:ルーク・デイヴィーズ原作:サルー・ブライアリー/ラリー・バットローズ 「25年目の『ただいま』 5歳で迷子になった僕と家族の物語」出演:デーヴ・パテール(サルー・ブライアリー、主人公) サニー・パワール(幼少期のサルー) ルーニー・マーラ(ルーシー、サルーの恋人) ニコール・キッドマン(スー・ブライアリー、サルーの養母) デビッド・ウェナム(ジョン・ブライアリー、サルーの養子) アビシェーク・バラト(グドゥ・カーン、サルーの兄) ディヴィアン・ラドワ(マントッシュ、ブライアリー夫妻のもう一人の養子) プリヤンカ・ボース(カムラ・ムンシ、サルーの実母) ディープティ・ナヴァル(ミセス・スード) タニシュタ・チャテルジー(ヌーア) ナワーズッディーン・シッディーキー(ラマ) ベンジャミン・リグビー(ウェイター) パラビ・シャーダ(プラマ) サチン・ジョアブ(バラット) ほか【あらすじ】オーストラリアで幸せに暮らす青年サルー・ブライアリー(デーヴ・パテール)は、インド生まれで5歳のとき迷子になり、家族と生き別れのままオーストラリア人夫婦の養子となり、タスマニアで育ちました。大人になった彼は、おぼろげな記憶とグーグル・アースを手がかりに、生まれ故郷を探し始めます・・・。【レビュー・解説】生まれ故郷のインドで迷子になり、オーストラリアで養子として育った青年が、探し当てた故郷で25年ぶりに家族と再会する実話を描いた作品で、養子になる前のインドでの暮らしをじっくりと描き、豪華キャストが出演するオーストラリア時代で物語に深みを与え、序盤の回想を折り込みながら怒涛のクライマックスになだれ込む、劇的な構成の感動作です。2011年、成長した息子と実母、養母の三人が会うまでのドキュメンタリーを60ミニッツ・オーストラリアが制作、三人がインドで抱き合うシーンを撮影したガース・デイヴィスが感動も冷めやらないまま本作の監督を務め、エンディングに流れる当時のアーカイブ映像が本作の感動をより深いものにしています。パワハラ、セクハラで物議を醸しているハーヴェイ・ワインスタインが共同制作と米国での配給を手がけた作品でもあります。実話の豪華キャスト、劇的構成で実現した感動作感動的な実話をサンドイッチ構造で劇的に演出十分に感動的な実話ですが、デイヴィス監督はこのストーリーを、最初の三分の一余りをインドを舞台に幼いサルーがオーストラリアに渡るまで、中盤を、サルーと養父母、養子のマントッシュ、恋人のルーシーとの関係と、インド留学生らとの話がきっかけで故郷を捜し始める様子、そして終盤の30分足らずで、故郷を探し当て家族に再会するまでを一気に、という構成で描いています。インドを舞台にした話がオーストラリアを舞台に話をサンドイッチのようにはさむ構成が本作をより感動的にしていますが、現在のサルーを中心に過去を思い出すフラッシュバックではなく、このような時系列で描いたことに関して、デイヴィス監督は次のように語っています。これは何かを思い出す物語じゃない。サルーはすべてを覚えているんだ。彼は迷子になっただけなんだ。彼は故郷を見つける希望も術も持っておらず、自分の人生を受け入れていたんだ。(ガース・デイヴィス監督)https://www.forbes.com/sites/markhughes/2016/12/29/lion-director-garth-davis-talks-oscar-chances-for-one-of-2016s-best-films/序盤は充実のインド時代、5歳の子役が大活躍序盤から見応えがあります。幼い頃のサルーを演じた当時5歳のサニー・パワールが、中盤に登場するデーヴ・パテール、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンといったスター俳優顔負けの大活躍です。迷子になったサルーと同じ年齢の子役を起用したわけですが、実は小学校にも通っていない子供に演技指導するのは至難の業で、デイヴィス監督は多くの人に「幼く見える8歳の子供を使え」と言われたそうです。しかし、5歳と8歳は違うとこだわった彼は、サニーの為に、女性の演技コーチを雇い、子供用の脚本を作り、カメラテストの結果を見せて動機づけ、接する人はすべて母親のように振る舞い、ちやほやしないよう徹底し、一方で信頼感を作り、撮影現場では守られているという安心感を与えました。サニーは楽ではないことに挑戦していることを誇りに思うようになり、しっかりと演技できるようになったと言います。役柄同様、自身が二人の養子の母であるニコール・キッドマンは、撮影の合間にサニーとクリケットをして遊びました。当初の脚本にはありませんでしたが、この様子は本作のワンシーンとして使われています。5歳の子供であり、またベンガル語圏のコルカタではサルーの話すヒンドゥー語が通じないこともあって、最初の三分の一余りはほとんどセリフがありませんが、ディズニー・ピクサーの「ウォーリー」(2008年)に触発されたというデイヴィス監督は、無声映画のチャップリンように雄弁なパフォーマンスをサニーから引き出しています。中盤のオーストラリア時代は物語に深みを与える中盤は、サルーの生まれ故郷の荒涼とした風景やコルカタの喧騒から一転、静謐で美しいオーストラリアのタスマニアで始まります。ここで養父母、もう一人の養子のマントッシュとの出会いが描かれ、さらに舞台は都会のメルボルンに移り、恋人のルーシーやインド人留学生と出会ってグーグル・アースで故郷を探し始めます。また、サルーとマントッシュやルーシーとの軋轢や、義母の葛藤なども描かれ、物語に深みを与えています。中盤はデーヴ・パテール、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンといった大スターが目白押しですが、マントッシュとルーシーを描き切れていない気がします。中盤では、サルーの欠点も描かれていますが、スピード違反で一晩中、警察から逃げ回った話や、友人と一種にパーティから双子の姉妹をお持ち帰りした話も割愛されており、いずれも限られた時間内では止む得ないことかもしれません。終盤は序盤の回想を交えた怒涛のクライマックスクライマックスは圧巻です。<ネタバレ>広いインドを、5年間、延べ一万時間近く捜しても見つからず、挫けそうになるサルーですが、とうとう兄と生き別れになった駅を見出し、そこから生まれ故郷の川や駅、自宅を捜し当てていきます。グーグルが制作協力、当時の衛星画像へのアクセスと技術サポートを提供し、これに実写や序盤で映し出されたインドの風景の回想を交えながら、巧みな編集でぐいぐいと惹きつけていきます。捜し当てた故郷での実母との再会が感動的です。言葉が通じない二人の触れ合い、抱き合い、そして涙がすべてを語る演出です。最後に映し出されるサルーと養母、実母の三人が会い、抱き合うドキュメンタリーの記録映像も感動的です。本作が故郷を探し当てたサルーだけの物語ではなく、実母と養母、二人の母の物語でもあることを象徴する見事なエンディングです。<ネタバレ終わり>余談1:5歳の記憶で故郷を探し当てられのか?私事で恐縮ですが、私も同じ年齢の頃に迷子になったことを思い出しました。長い間、思い出すこともなく、また、どこで迷子になったのかも思い出せなかったのですが、試しに分かっている場所からグーグル・アースで道を辿ってみました。驚いた事に、道を追っているうちに様々な記憶が鮮明に甦り、すっかり忘れていて地名やバス停の名前まで生々しく思い出しました。さらに公園があったことを思い出し、マップはそれが神社の境内であることを示していました。私が鮮明に思い起こした映像そのものであることをストリートビューで確認し、記憶が持つ不思議な力に驚きました。すべて記憶していたと、サルーはインタビューで答えていますが、実際、その通りなのではないかと思います。難点を言えば、インドではストリートビューがほとんど効かないので、実際の視点ではなく、俯瞰図でしか確認できないことです。この点について、サルーは付近が撮影された旅行のビデオなどを YouTubeで検索し、映像を確認したようです(映画では割愛されている)。私もグーグル・マップを利用してよく撮影地巡りをしますが、何よりもサルーが凄いのは、実際の視点(ストリートビュー)で見れないというハンディキャップと、風景が変わっているかもしれないという不安に抱えながら、五年間、延べ一万時間近くも広大なインドを捜し続けたことです(さらに、探し当てた場所は、列車に乗った時間から割り出した当初の探索範囲の外であることを、映画は示唆している)。これは並大抵のことではありません。あまりに熱中した為、5年の間に三人のガールフレンドと別れることになったそうです。寂しい思いをさせたくないと養父母には内緒にしていたそうですが、生まれ故郷を見つけたい、家族に会いたいという強い思いがなせる技ではないかと思います。余談2:映画の力とウェインスタインの力本作の脚本には、実話に裏打ちされた力があります。主役のデーヴ・パテールは、これまでの読んだ中でベストの脚本だと言います。パワフルな脚本に惹かれたルーニー・マーラは、デイヴィス監督と二分話しただけで、休みを返上して出演する気になったと言います。ニコール・キッドマンは、実際の養母、スー・ブライアリーに指名されての出演です。スー同様、二人の養子を持つニコール・キッドマンは、スーの自宅を訪ね、養子への愛について意気投合したと言います。インディーズ映画である本作がこのような豪華なキャスティングを実現できたのは、脚本の力が大きいと言えます。サルーが故郷を発見、実母と再会したのが2011年で、この年に60ミニッツ・オーストラリアがドキュメンタリーを制作します。書籍化、映画化もかなり早い段階で決まり、書籍版「25年目の『ただいま』 5歳で迷子になった僕と家族の物語」は2013年に刊行されました。しかし、アメリカの制作会社から決まって舞台をアメリカに変えるように要求を受け、これを拒否し続けた為、映画の制作は難航しました。これに決着を付けたのがハーヴェイ・ワインスタインです。2014年5月、彼はキャストが決まる前に本作の全世界の配給権を1200万ドルで購入すること発表しました。ドキュメンタリー映画「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」(2014年)にも描かれていますが、このように収入が保証されることはインディーズ映画の資金調達に大きく貢献します。いくら脚本が素晴らしくとも、資金が集まらなければ、映画は実現しません。かくして話は一気に前に進み、2015年1月にはインドで撮影を開始、同年4月にはルーニー・マーラとニコール・キッドマンをオーストラリアで撮影します。一方、ワインスタインは2015年のカンヌ映画祭で制作中の映画としてデモを行います。また、インドでは年間8万人の子供が行方不明になり、1100万人の子供たちが路上で生活していると言われますが、ワインスタイン・カンパニーは他の製作会社と連携してインドのストリート・チルドレンを救うチャリティ・ネットワークを設立します。2016年11月のアメリカでのプレミア上映には妻ヒラリーの大統領選以降、初めて公の場に顔を出すビル・クリントン前大統領が出席、第89回アカデミー賞では、作品賞、助演男優賞(デーヴ・パテール)、助演女優賞(ニコール・キッドマン)、脚色賞、撮影賞、作曲賞の6部門にノミネートされ、興行面でも制作費1200万ドルに対して全世界で1億4000万ドルの興行収入を生み出す、大成功を収めます。本作のアカデミー賞の6部門ノミネートについては、ヒット・メイカーであるワインスタインの影響を指摘する人がいます。ノミネートに値する作品であることは間違いありませんが、実力があって当たり前のこの世界は運が大きく成否を左右すると言います。いくら脚本が良いとは言え、もしワインスタインが収入を保証しなければ、この映画はこのような形では実現しなかったかもしれません。もちろん、ワインスタインもどんな映画でも無闇に保証するわけではありません。彼が制作や配給を手がけた作品の一覧を見て、改めてその目利きの力に驚きました。しかし、ワインスタインは長年に渡るセクハラ、パワハラに関して社会的制裁を受けつつあり、その責任を問われて自らが作った会社であるワインスタイン・カンパニーを解雇されてしまいました。ジャーナリストの山口氏と詩織さんの泥仕合も記憶に新しいのですが、実力があって当たり前、コネが物言うメディア業界では「水心あれば魚心あり」的な部分があるような気がします。映画「誘う女」(1995年)にも強烈な風刺がありますが、女優のミッシェル・ファイファーは最近のインタビューで「ハーヴェイ・ワインスタインだけではなく、映画の業界構造の問題」と言い、同席した別の女優は「被害にあった女性はすべて20代で、彼女らは意図的に被害者になった」とも言います。ワインスタインをかばうわけではありませんが、どこまで「魚心と水心」でどこから反社会的行為なのかは微妙です。ワインスタインはあまりに派手に、強引にやり過ぎたのででしょう。以前は被害女性がクウェンティン・タランティーノなどの大物に訴えても、逆に女性が諭されたと言いますが、これだけ事が大きくなると、もはや誰もワインスタインをかばうことができないでしょう。本作でデーヴ・パテルを気に入ったワインスタインは彼の次作「Hotel Monbai」(2018年)の配給権を獲得しており、また本作と同じデイヴィスが監督、ルーニー・マーラが出演する「Mary Magdalene」(2018年)の配給権も獲得しています。もちろん、彼個人としてではなく、ワインスタイン・カンパニーとしての話でしょうが、ワンマン・カンパニー故、その将来も懸念されています。配給権の譲渡などもあり得る話かもしれませんが、キャストや制作関係者にとって不運なことを願っています。デーヴ・パテール(サルー・ブライアリー、主人公)サニー・パワール(幼少期のサルー)ルーニー・マーラ(ルーシー、サルーの恋人)ニコール・キッドマン(スー・ブライアリー、サルーの養母)デビッド・ウェナム(中央、ジョン・ブライアリー、サルーの養父)ディヴィアン・ラドワ(マントッシュ、ブライアリー夫妻のもう一人の養子)アビシェーク・バラト(グドゥ・カーン、サルーの実兄)プリヤンカ・ボース(カムラ・ムンシ、サルーの実母)【動画クリップ】60 Minutes Australia: Lost & Found (2013) - Part One60 Minutes Australia: Lost & Found (2013) - Part Two【撮影地(グーグルマップ)】サルーが兄と生き別れになった駅サルーがコルカタの駅から逃げ出して渡った橋サルーとルーシーが登ったマウント・ウェリントンサルーが子供の頃に遊んだ鉄橋下の給水用ダム 「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」のDVD(楽天市場)【関連作品】「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」の原作本(楽天市場)サルー・ブライアリー著「25年目の『ただいま』 5歳で迷子になった僕と家族の物語」デーヴ・パテール出演作品のDVD(楽天市場) 「スラムドッグ$ミリオネア」(2008年) 「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」(2012年)ルーニー・マーラ出演作品のDVD(楽天市場) 「ソーシャル・ネットワーク」(2010年) 「ドラゴン・タトゥーの女」(2011年) 「サイド・エフェクト」(2013年) 「her/世界でひとつの彼女」(2013年) 「キャロル」(2015年) 「A Ghost Story」(2017年)ニコール・キッドマン出演作品のDVD(楽天市場) 「誘う女」(1995年) 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2017年11月10日
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「タンジェリン」(原題:Tangerine)は、2015年公開のアメリカのコメディ&ドラマ映画です。ショーン・ベイカー監督、キタナ・キキ・ロドリゲス、マイヤ・テイラーラ出演で、ロサンゼルスの下町のクリスマス・イブを舞台に、厳しい環境の中で力強く生きる性的マイノリティたちの厳しい現実や切ない友情、恋愛をコミカルにポップにそして優しい視線で描いています。ロドリゲスとテイラーはベイカー監督がロサンゼルスでリサーチ中に出会ったトランスジェンダーで、演技経験のない二人を役者として起用、二人の経験を基に脚本を書き、全編、アナモルフィック・レンズをつけた iPhone5s で撮影しています。第31回インディペンデント・スピリット賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞にノミネートされ、助演女優賞を受賞するなど、数々の映画賞にノミネートされ、受賞した画期的な作品です。「タンジェリン」のDVD(楽天市場)【キャスト・スタッフ】監督:ショーン・ベイカー脚本:ショーン・ベイカー/クリス・ベルゴッチ製作:クリス・ベルゴッチ(総指揮)撮影:ショーン・ベイカー編集:ショーン・ベイカー出演:キタナ・キキ・ロドリゲス(シンディ・レラ) マイヤ・テイラー(アレクサンドラ) カレン・カラグリアン(ラズミック) ジェームズ・ランソン(チェスター) ミッキー・オヘイガン(ダイナ) アラ・トゥマニアン(アシュケン) ほか【あらすじ】陽の光が溢れるロス・アンジェルスのクリスマス・イヴ、トランスジェンダーの街娼、シンディ・レラ(キタナ・キキ・ロドリゲス)とアレクサンドラ (マイヤ・テイラー) は、小さなドーナツショップでドーナッツを分け合います。ドラッグ不法所持で28日間の服役を終え、出所したばかりのシンディは、自分の留守中に恋人のチェスターが女性と浮気をしていたことを明かされます。激昂したシンディは、チェスターと浮気相手を捜して街に飛び出します。その夜に小さなクラブで歌う自分のライブで頭がいっぱいのアレクサンドラは、そんな親友をなだめつつライブのチラシを配り回ります。アレクサンドラは街で客を見つけますが、男は金を支払わないと言い出し口論になります。一方、 アルメニアからの移民のタクシードライバー、ラズミック(カレン・カラグリアン)は街娼を拾いますが、女性と分かると彼女を車から追い出します。合流したアレクサンドラと欲望は果たしたラズミックは、アレクサンドラのライブがあることとシンディが戻ったことを聞きます。妻子や義母らがイブを祝う自宅に戻ったラズミックは、食事もそこそこに、また家を出ます。そんなラズミックを不信に思った義母は、別のタクシーでラズミックの後を追います・・・。【レビュー・解説】ロス・アンジェルスの性的マイノリティ達のユーモアとペーソスに溢れたクリスマス・イヴの一日を、ミュージックビデオのようにポップで躍動感溢れる映像と、伝統的な三幕仕立ての構成でテンポよく描いた、ユニークなコメディ&ドラマ映画です。特に性的マイノリティを描いた映画という先入観もなく観たのですが、冒頭、恋人の浮気を知ったトランスジェンダーのシンディが、Dj Light Upのトラップ「Team Gotti Anthem」が流れる中、プリプリと怒って歩く姿にいっぺんに魅了されてしまいました。Vine でこの曲を知ったというベイカー監督は、全編 iPhoneで撮影、彩度を上げた躍動感溢れるヴィヴィッドな映像が、ミュージックビデオのようにビートに合わせたカット割りで編集されており、これが本作の最大の魅力となっています。プロットも恋敵のストレートの女性とシンディのバトルを軸に、性的マイノリティ様々なエピソードを織り込んだ三幕構成のコメディで、思わず引き込まれてしまいます。ポップで躍動感溢れるミュージックビデオのような映像が魅力人種の坩堝、アメリカの性的マイノリティをコミカルに描く「ズートピア」(2016年)に関連して「アメリカは人種の坩堝と言うが、彼らは様々なコミュニティを形成して生活しており、必ずしも溶け合っているわけではない」と評した人がいます。人種の坩堝と言われるニューヨーク出身のベイカー監督は、そうした多様性が映画やテレビでは描かれておらず、語られていない物語がたくさんあると、マイノリティにカメラを向け続けています。彼はダルデンヌ兄弟やケン・ローチ監督から大きな影響を受け、時間をかけてコミュニティに溶け込み、マクロではなく、個人の物語というミクロな視点を通して社会的問題を描いています。一方で、「若い、幅広い層にアピールするにはポップであることが必要」いう彼独自の視点も持っており、本作にはそれが如実に表れています。ニューヨークからロス・アンジェルスに引っ越したベイカー監督は、テレビや映画で観るビバリーヒルズのように富裕層が住んでいる魅惑的な地域とは、まったく異なるロス・アンジェルスに出くわしました。この映画の舞台は、サンタモニカ通りとハイランド通りの交差点付近ですが、その近くに住んでいた彼は、トランスジェンダーや売春婦、クロスドレッサーが集まる実質的な特定警戒地区と聞いて興味を持ちました。本作は実際の地理に沿って撮影されていますが、イントロと大団円の舞台となるドーナツ・ショップは、サンタモニカ通りとハイランド通りにある「Donut Time」という店です。現在は閉店していますが、この地域で商売をしていた女性たちのハブ、シェルターとも言える店で、もし、撮影許可が得られなければ、この作品を撮らなかったと言うほど、ベイカー監督の思い入れの強い場所です。演技未経験者の人生体験を引き出す脚本と演出ベイカー監督と共同脚本のクリス・ベルゴッチは二人でリサーチを始め、トランスジェンダーのキタナ・キキ・ロドリゲスとマイヤ・テイラーの出会います。時間をかけて二人の実体験や見聞きした話を聞きながら、ストーリーが形作り、二人はそのまま出演しています。物語性のあるフィクションとドキュメンタリーの境界線がわからないような、その2つを組み合わせたような作品を作りたい、それぞれの人生経験から何かを引き出したいという監督の意向が、こうしたキャスティングに反映されています。二人には演技経験がありませんでしたが、稀有なことに自然な演技力を持っており、特に恋敵の女性と激しいバトルを展開するロドリゲスは、普段はシャイで物静かというから驚きです。第31回インディペンデント・スピリット賞では、ロドリゲスは「キャロル」のケイト・ブランシェット、「ルーム」のブリー・ラーソンらと並んで主演女優賞にノミネートされ、テイラーは見事。助演女優賞を獲得しています。脚本はシンディの恋人がシスジェンダー(非トラスジェンダー)の女に浮気したという話をメインプロットに、二人に聞いた面白い話をプロの俳優カラグリアン演ずるタクシー・ドライバーのサブプロットとして織り込んでいます。彼らが一同に会する大団円に向けて、共同脚本のベルゴッチのスタイルでしかっりとした三幕構成に纏められています。基本的にアドリブを歓迎する制作スタイルで、マイク・リー監督に倣ったワークショップを行いながら、完成させていったといった脚本はワークショップ前10ページ、撮影前45ページ、撮影後70ページと次第に増えて行く形で、出演者の人生経験を引き出したいというベイカー監督の姿勢が伺われます。ロドリゲスとテイラーにとってしっかりしたものを作ることを重要視したベイカー監督は、さらに脚本から編集まで事細かに二人のオーケーを貰っていったといいます。時間をかけてコミュニティ溶け込んで制作するベイカー監督の誠実さが伺われますが、二人とは今でも連絡を取り合う友人だと言います。シンディの恋敵を演じるオヘイガンはプロの女優で、これでもかとシンディに引きずり回されるハードな役を実に見事にこなし、主演のロドリゲスを引き立てているのも見逃せません。トランスジェンダーをポップに表現、タイトルに込められた意味は?性を商売にするものは蔑まれ、ヒモ以外に愛を求めることができないが、ヒモにとっては商売道具に過ぎず、化けの皮が剥がれていくという厳しい現実が、本作には描かれています。有色人種のトランスジェンダーたちが置かれているそうした厳しい状況を通して、喪失感や孤独感といったものを、コミカルにユーモラスにそしてリアルに描いているわけですが、ベイカー監督の心理的な負担は大きく、撮影を終えてから編集に入るまで、三ヶ月を要したそうです。監督の仕事の半分は編集と言うベイカー監督が、気分をリフレッシュして編集に取り組んだ時、撮影された映像にもの凄いエネルギーが映っていることに気が付きます。最初は社会派の映画っぽく映像を退色させようと考えていましたが、それがトランスジェンダーのコミュニティを反映している色彩設計とは思えず、逆に彩度を上げて冬のロサンゼルスのオレンジ色の光を活かすようなカラー・スキームに変更します。また、自分でもビックリするほど感じたエネルギーを、ミュージックビデオのようなビートに合わせたカット割りで表現していきます。タイトルの「タンジェリン」(オレンジの一種、マンダリンより赤みが強い)は、ロス・アンジェルスの夕暮れの空の色と言われていますが、もう少し幅広い意味があるように思います。ベイカー監督は、フルーツや色を思い浮かべた時に感じる感覚言葉通りの意味ではなく何か異質なものを感じさせる(漠然としたイメージで)解釈は観客の自由皆、気に入っているが制作スタッフの解釈は様々と語っています。私はタイトルに次のようなことを感じました。エネルギーの象徴厳しい環境に負けないシンディやトランスジェンダーが持つエネルギーの象徴。最初は元気印のシンディのあだ名かと思った。ポップな作風の象徴ポップでテンポの良い本作のスタイルを象徴。トランスジェンダーの厳しい現実を描いているが、暗さを感じさせないスタイルによくマッチしている。クリスマスの贈り物の象徴クリスマスにはストッキングにタンジェリンを入れてプレゼントする習慣がある。愛を得られないシンディにとってアレクサンドラの変わらぬ友情は何よりの贈り物であることを象徴している。iPhoneによる映画撮影の利点と装備について本作は、全編、iPhone で撮影されていることから、映画制作を志す人々を始め、多くの人の注目を呼びました。アナモフィックのアダプター・レンズを使用すれば、小さなiPhoneでも劇場のスクリーンにも耐える映画的な映像が撮れると確信したというベイカー監督は、iPhoneを使用する利点として次を上げています。少人数で撮影でき、機動力があるのでストリートライフを描くのに適している初めて演技する人にも、威圧感を与えずに撮影できるゲリラ撮影がやりやすい動きのあるカメラワークや、走る自転車からの撮影など、現場での自由度が高い室内など狭い空間でも、シネマスコープですべての情報を捉えることができる使用されたiPhoneの装備は、以下の通りです。iPhone 5s x 3台Moondog Lab社製 Anamorphic Clip-on LensiPhone用動画編集アプリ FiLMiC Proステディカム Steadicam社 Smoothee監督作品としては5作目、それをいわゆる映画用のカメラではなく、iPhoneで撮影するということに不安を覚えたそうですが、内容が大切と自分に言い聞かせ、35mmで撮るのと同じぐらい真剣にこの作品と向き合わなければいけないと襟を正したそうです。実際、アングルやカメラの動きなど、実に素晴らしい映像で、とてもコンシューマー機器で撮ったとは思えませんし、編集も見事です。カメラの位置やアングル、動きなど、どのように撮っているか想像しながら観ても、面白いのではないかと思います。尚、ベイカー監督は、iPhoneでの撮影に挑戦したい映画制作者に向けて、マイクはプロ機材を使用した方が良い独自の美学を持つこと大切なのは内容(キャラ、演技、ロケーション)の独自性とアドバイスしています。キタナ・キキ・ロドリゲス(シンディ・レラ)キタナ・キキ・ロドリゲス(シンディ・レラ)マイヤ・テイラー(アレクサンドラ)カレン・カラグリアン(ラズミック)ミッキー・オヘイガン(左、ダイナ)【撮影地(グーグルマップ)】冒頭、終盤と、主な舞台となるドーナッツ・ショップ現在は閉鎖されている。シンディがチェスターの行方を問い詰める知人の店シンディがチェスターを捜し向かうバス停&地下鉄の駅シンディがダイナを探し当てたモーテル現在は閉鎖されている。アレクサンドラが歌う店(外観)アレクサンドラが歌う店(内部)アレクサンドラがシンディを連れて行くコインランドリー「タンジェリン」のDVD(楽天市場) 【関連作品】ショーン・ベイカー監督作品のDVD(楽天市場) 「チワワは見ていた」(2012年) 「The Florida Project」(2017年、日本未公開)LGBTを描いた映画(楽天市場) 「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年) 「ミルク」(2008年) 「キッズ・オールライト」(2010年) 「アデル、ブルーは熱い色」(2013年) 「パレードへようこそ」(2014年) 「人生は小説よりも奇なり」(2014年) 「キャロル」(2015年) 「ムーンライト」(2016年)
2017年11月07日
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「イット・フォローズ」(原題: It Follows)は、2014年のアメリカのホラー映画です。デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督・脚本、マイカ・モンローら出演で、人に乗り移り、死に至らしめる謎の存在「それ」から逃げのびようとするヒロインの恐怖を描いています。独創的なアイデアが評判となり、各国の映画祭で賞を受賞した作品です。 「イット・フォローズ」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル出演:マイカ・モンロー(ジェイ) キーア・ギルクリスト(ポール) ダニエル・ゾヴァット(グレッグ) ジェイク・ウィアリー(ヒュー / ジェフ) オリヴィア・ルッカルディ(ヤラ) リリー・セーペ(ケリー) ほか【あらすじ】19歳の女子大生ジェイ(マイカ・モンロー)は、恋人のヒュー(ジェイク・ウィアリー)とデートを重ね、肉体関係を持ちます。その直後、ヒューはジェイにクロロホルムを嗅がせ、車椅子に縛りつけます。目覚めたジェイに、・セックスによって呪いを移した・その呪いに憑かれた者は、人間の姿をした「それ」に追いかけられる・「それ」はゆっくりと歩き、呪いに憑かれていない者には見えない・「それ」は呪いに憑かれた者を殺すと、その前に憑かれていた者を追いかけることを伝えます。ヒューはジェイを追いかけ始めた「それ」を見せると、ジェイを車で自宅まで送り届けて、行方をくらまします。翌日、大学で「それ」に追いかけられて恐怖を感じたジェイは、妹のケリー(リリー・セーペ)、友人のポール(キーア・ギルクリスト)とヤラ(オリヴィア・ルッカルディ)と共に、いつどこで現われ、襲われるかわからない「それ」に不安な一夜を過ごします。「それ」に追いかけられたジェイは家を飛び出し、近くの運動場へ逃げます。隣人のグレッグ(ダニエル・ゾヴァット)の協力を得て、ジェイたちはヒューの本名がジェフであることを突き止め、彼の実家に会いに行きます。ジェフは、かつて一夜限りの関係で他の女性から呪いを移されたことや、ジェイもセックスによって他の人物に呪いを移せることを、ジェイたちに説明します。仲間たちとグレッグの別荘に滞在していたジェイは、「それ」に襲われ、車で逃走を図りますが、事故を起こして意識を失います。病院で目覚めたジェイは、グレッグと肉体関係をもちます。彼に呪いを移した数日後、グレッグは「それ」に殺されてしまいます。ジェイと友人たちは「それ」をプールにおびき寄せて感電死させようと計画、室内プールへ向かいます・・・。【レビュー・解説】少年時代に見た悪夢の恐怖を、広角系の映像でじわりと表現、セックスで呪いが移るというセンセーショナルで設定を加える一方、文学的な背景で抑制を効かせ、様々なレベルで多様な解釈が可能な、独創的新感覚ホラー映画です。長編監督デビュー作「アメリカン・スリープオーバー」(2010年)で注目を浴びたデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の長編第二作めの作品です。第一作目はコメディ&ドラマ映画でしたが、本作は新たな感覚で怖さを演出する本格的なホラー映画で、ミッチェル監督の多彩な才能を感じさせる作品です。なお、タイトルが類似する「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」(2017年)は、スティーヴン・キングのホラー小説を原作にしたTVドラマシリーズ「IT」(1990年)のリメイクで、本作の続編ではありません。少年の頃の悪夢に刺激的な設定を加えた脚本ミッチェル監督が悪夢を見たのは9歳か10歳の時で、悪夢に現れる「それ」は、「異なる人々に姿を変え、ゆっくりと追ってくるので注意さえ払っていれば逃げられるが、常に追いかけてくる」ものだったと言います。本作はその恐怖を描いていますが、鬼ごっこのようにその恐怖を「移す」ことができ、登場人物が物理的にも心理的にも結ばれるセックスで移るようにすれば面白いと思ったそうです。この独創的な発想が、後に大きな話題を呼ぶことになります。2011年に脚本を書き始めた彼は、流血やショッキングな出来事、ショットよりも、恐ろしいことがいつ、どこで、どのように起こるのかという、その合間の登場人物の反応や不安を、シークエンスの中でじっくりと描いています。また、デトロイト出身の彼は、郊外の閑静な住宅地やパッカード自動車工場跡、大きな精神病院の跡など、デトロイトの郊外や廃墟を魅力的な題材として取り込んでいます。デトロイトの郊外を舞台に「それ」に追われる恐怖を描くあいまいな時代設定、10代の世界観の中で悪夢を描く本作には60〜80年代を思わせる部分もあれば、携帯電話やタッチスクリーンのデバイスなど、それ以降の時代を象徴するデバイスも登場します。これはあえて時代設定をあいまいし、夢のようなイメージを出す演出です。また、ハロウィーンを思わせる描写はありますが、同じ理由で服装や行動によって特定の季節感を強調することも避けています。さらに、本作には基本的に大人は登場せず、10代の世界観の中で、自分には見えないものにも共感できるという10代ならではの友情を描いています。アルコール依存症が示唆されるジェイの母親はその顔が映ることはなく、ジェイも母親に相談することはありません。「それ」がその姿を借りて現れるグレッグの母親やジェイの父親も、ジェイの味方としては描かれていません。一方で、自傷、摂食障害、薬物依存などを10代の問題を小道具で暗示したりしています。愛するもの代わって呪いを背負う為に、想いを寄せる人とセックスをしようとするアプローチも、滑稽なまでに純粋な10代特有の行動と言えます。なお、「それ」のルールはあくまでのヒューが学んだ彼の解釈として設定されており、映画はそのルールに従った展開を見せますが、呪いの起源や最初の被害者の割り出しなど、積極的な検証が行われることはありません。自傷、摂食障害、薬物依存などを10代の問題を暗示するショットが挿入されている広角レンズを用いた効果的な映像表現異なる人々に姿を変え、ゆっくりと追ってくる「それ」を捉える為に、映画は主に「それ」と距離を置く、広角レンズで撮影されています。18ミリレンズで撮影された余白を残すフレームの中に、観客は恐怖の源をを探すことになります。「それ」は何かに隠れているわけではなく、背景の中にいるかもしれないわけですが、ミッチェル監督は脚本を書いている時からカメラをパンさせることによりそうした疑心暗鬼を表現することを考えていたそうです。広角レンズで360度のパンをする長回しをする冒頭のショットが見事です。事件の舞台となるデトロイト郊外の閑静な住宅街の情景の中に、他の人には見えない「それ」に恐怖する少女をしっかりと印象づけています。広角レンズのパンによる長回しは、序盤の大学の講義のシーンにも使われています。このシーンはジェイが女子大生であることを印象づけるとともに、彼女の生活圏に初めて「それ」が入り込んでくる印象的なシーンです。豊富な予兆や暗示表現英語教師が朗読するT.S.エリオットの「アルフレッド・プルーフロックの恋歌」や、友人のヤラが朗読するドストエフスキーの「白痴」の一節は、いずれも本作の底を流れる死生観や死への恐怖に言及しています。拷問には苦痛と傷が伴う。肉体的苦痛は精神的苦痛を超越し、人は傷の痛みに死の瞬間まで苦しむ。だが最悪の苦痛は傷そのものではない。最悪の苦痛はあと1時間、あと10分、あと30秒で、そして今、この瞬間に、魂が肉体を離れ、人でなくなると知ること。この世の最悪は、それが避けがたいと知ることだ。(ドストエフスキー、「白痴」)その他にも、様々な予兆や暗示が丁寧に織り込まれています。ジェイに呪いが移った後、大学の講義で英語教師が朗読するエリオットの詩の「宇宙を小さなボールに丸め込み、永遠の疑問に向けて転がせれば良かったか」という下りを含め、ボールが様々な形で登場する前半のテレビから聞こえるセリフが、クライマックスの出来事を暗示しているジェイの友人たちが遊ぶカードゲーム「オールド・メイド」は、いわゆるババを他人に取らせるババ抜きで、呪いを他の人に移す「それ」のルールを暗示しているだけではなく、映し出されるカードが映画の展開を暗示している "Old Maid"(老女) "Cranky Kluck"(怒れる教師) "Winnie Waite"(ウェイトレス) "Bikey Bess" (自転車に乗った少女) "Bronco Buster" (銃を持ったカウボーイ) ”Ballet Betty"(踊る少女)死の暗示とともに、プールや湖など生を象徴する水が頻繁に描かれるヒューの隠れ家についてジェイと友人たちはヒューの隠れ家を調べます。実は、この隠れ家は1890代から1930年代にかけて流行ったアメリカン・フォースクエアというタイプの住宅です。ヒューの隠れ家何故、こんな古い家に隠れていたかというと、秘密はその間取りにあります。アメリカン・フォースクエアの典型的な間取りhttp://www.searshomes.org/index.php/tag/american-four-square/間取り図を見ればわかりますが、全ての部屋がドアで繋がっています。ヒューは、ジェイに「常に逃げ道を確保しろ」と教えますが、彼自身、いつ「それ」に襲われても他の部屋に逃げられるように、逃げ道を確保してしてわけです。ジェイに呪いを移し、追われる恐れがなくなったヒューは、隠れ家を後にして自宅に戻ります。議論を呼んだ解釈本作はミッチェル監督が少年時代に見た悪夢がベースで、また敢えて時代設定をあいまいにするなど、象徴的な表現をしており、エンディングも観客自身の解釈の委ねられるようにしています。彼は、「映画は何かと解決したがるが、これは悪夢なので論理的に説明する必要がない、さもなければ悪夢ではなくなる。」という趣旨のことも語っています。従って、彼は様々な解釈を受け入れる一方で、自身の解釈を語ろうとしないのですが、「本作はエイズなどセックスによる伝染病や、乱れた性関係のメタファーである」という解釈には、明確に反論しています。セックスをしてはならないもの、見下すべきものとして描いたつもりは、私には全くありません。登場人物がセックスをことは自らの身を危険に晒すことですが、それは同時に、一瞬とはいえ、彼らが自らを解放する行為でもあります。私たちは多かれ少なかれ、自分たちがやがて死ぬ運命にあることと向き合っています。愛やセックスは、それを少しだけ向こうに押しやることができますが、それが私たちにできる抵抗です。私たちは他者とのそうした関係を通して、安らぎを覚えるのです。セックスはその一部をなす、重要なことです。私にとって、死からは逃れられないが、生と死と狭間で安らぎが得られるのがセックスなのです。セックスは人生において危険が伴う行為のひとつですが、本作ではセックス以上のものも意味しています。ジェイがしていることは普通のことで、何か悪いことをしているわけではありません。でも、何か悪いことをしたわけでもないのに、恐ろしいことが起こります。だから、彼女は強くなければならないのです。(デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督)https://www.moviemaker.com/archives/moviemaking/directing/it-follows-an-interview-with-david-robert-mitchell-on-his-sexy-scary-horror-film/http://www.denofgeek.com/movies/it-follows/34247/david-robert-mitchell-interview-it-follows-and-horrorddミッチェル監督が少年の頃に見た「異なる人々に姿を変え、ゆっくりと追ってくるので、注意さえ払っていれば逃げられるが、常に追いかけてくる」という「それ」が何を意味するものだったのかは定かではありませんが、本作は人間が抱えるそうした潜在的恐怖を実にうまく描いています。「セックスで移る」というセンセーショナルな設定を加えたのは、映画制作者と巧みな発想です。ティーン・エージャーならば、これだけで感情移入し、もし自分がそうなったら、彼は救ってだろうかもし彼女がそうなったら、自分は救うことができるだろうかと自問するかもしれません。しかし、ミッチェル監督はこの潜在的な恐怖を誰にでもいつか訪れるであろう死への恐怖に重ね合わせると同時に、セックスを生の象徴として対置、より高度な解釈を可能にしています。広角レンズを用いたカメラワークや、随所に散りばめられた予兆や暗示的表現など、ホラーと言いながら非常に質の高い作品に仕上げています。ミッチェル監督は次作として「Under the Silver Lake」というクライム・スリラーを制作中ですが、今後が楽しみな監督です。マイカ・モンロー(ジェイ、女子大生)マイカ・モンロー(1993年〜)はサンタ・バーバラ出身の女優、カイト・ボーダーです。2012年に映画デビューし、「ザ・ギフト」(2014年)と本作の成功で「スクリーム・クイーン」と呼ばれるようになります。オーディションで彼女を起用したミッチェル監督は、彼女は恐怖への入り込み方が上手く、どんな時でもすんなりと入り込んだと絶賛しています。なお、役名のジェイは、「スクリーム・クイーン」と呼ばれたジェイミー・リー・カーティスに因んだそうです。キーア・ギルクリスト(左、ポール、ジェイの幼馴染)キーア・ギルクリスト(1992年)はロンドン出身のカナダの俳優です。「プリズン・エクスペリメント」(2017年)などに出演しています。ダニエル・ゾヴァット(左、グレッグ、ジェイの隣人)ダニエル・ゾヴァット(1991年〜)は、コスタリカ出身の映画俳優、テレビ俳優です。2012年からホラー中心に活躍しており、「ドント・ブリーズ:(2016年)などに出演しています。ジェイク・ウィアリー(左、ヒュー / ジェフ、ジェイの恋人)ジェイク・ウィアリー(1990年)は、アメリカの俳優、ミュージシャン、シンガー・ソングライター、音楽プロデューサーです。テレビドラマにも数多く出演しています。オリヴィア・ルッカルディ(ヤラ、ジェイの友人)オリヴィア・ルッカルディ(1989年〜)はアメリカの女優、プロデューサーです。「Re:LIFE〜リライフ〜」(2014年)、「マネーモンスター 」(2016年)などに出演しています。リリー・セーペ(左、ケリー、ジェイの妹)リリー・セーペ(1997年〜)は、アメリカの女優です。10歳の時に短編映画デビュー、2010年にはコメディ映画「Spork」に出演しています。 【動画クリップ(YouTube)】冒頭のシーン16ミリの広角レンズで環境を写し込みながらキャラクターを追い、360度パンする約2分の長回しで映画が始まる。大学の講義を受けるシーンここでも16ミリの広角レンズをゆっくりとパンさせ、環境を写し込みながらキャラクターの状況を説明している。1分程度の長回しだが、多くの学生が映り込むので、イメージ通りに撮るのが結構難しかった模様。【撮影地(グーグルマップ)】ジェイとヒューが並ぶ映画館デトロイトの歴史的な劇場で撮影されているヒューがジェイに「移した」駐車場デトロイト郊外の精神病院跡地で撮影されている。ヒューがジェイに「それ」を見せた廃屋パッカード自動車工場跡で撮影されている。ジェイが通う大学デトロイト・マーシー大学で撮影されている。ポールとケリーが働くアイスクリーム・ショップジェイの家ヒュー(ジェフ)の出身高校ここでひゅーの実名(ジェフ)や身元がわかる。ジェフの家ジャイが仲間と一緒に忍び込むプールのある建物(外観)デトロイト水道局の揚水施設が撮影されている。【関連作品】デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督作品のDVD(Amazon) 「アメリカン・スリープオーバー」(2010年)・・・輸入版、日本語なし マイカ・モンロー出演作品のDVD(Amazon) 「ザ・ゲスト」(2014年)キーア・ギルクリスト出演作品のDVD(Amazon) 「プリズン・エクスペリメント」(2017年)ダニエル・ゾヴァット出演作品のDVD(Amazon) 「ドント・ブリーズ」(2016年)
2017年11月04日
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「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(原題:Buena Vista Social Club)は、1999年公開のドイツ、アメリカ、フランス、キューバ合作の音楽ドキュメンタリー映画です。ヴィム・ヴェンダース監督が友人のライ・クーダーとともにキューバ音楽の古老(ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのメンバー)のコンサート、レコーディング風景、彼らの来歴、キューバの日常などを描いています。第72回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた作品です。 「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のDVD(楽天市場)【スタッフ・キャスト】監督:ヴィム・ヴェンダース脚本:ヴィム・ヴェンダース出演:ライ・クーダー(スライド・ギター) ヨアキム・クーダー(パーカッション、ライの息子) ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのメンバー フランシスコ・レピラード、通称コンパイ・セグンド(ボーカル、トレス) エリアディス・オチョア(ボーカル、ギター) イブライム・フェレール(ボーカル、コンガ、クラベス、ボンゴ) オマーラ・ポルトゥウンド(ボーカル) ルベン・ゴンザレス(ピアノ) オルランド・カチャイート・ロベス(コントラバス) アマディート・ヴァルデス(ティンバレス) マヌエル・グァヒーロ・ミラバル(トランペット) バルバリート・トーレス(リュート) ピオ・レイヴァ(ボーカル) マヌエル・”プンテジータ”・リセア(ボーカル) ファン・デ・マルコス・ゴンザレス(バンドマスター、ギロ) ほか【あらすじ】名ギタリストであるライ・クーダーがプロデュース、大ヒットすると同時に、キューバ国外にほとんど知られていなかった隠れた老ミュージシャンに再びスポットライトを浴びさせた同名のアルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」がベースになっています。ライ・クーダーがハバナを再訪問、老ミュージシャン一人一人の来歴、演奏や収録シーン、キューバの光景を織り交ぜて描いています。アムステルダム公演のシーンに始まり、キューバでの撮影・収録が続き、歴史的なカーネギーホール公演のシーンで終わります。【レビュー・解説】時間が止まったかのようなハバナの街並みを背景に、キューバ音楽の古老たちのコンサートや録音風景、来歴の語りを通して、夢に見たカーネーギーホールでの演奏に至るまでの彼らの奇跡的で感動的な復活劇を、美しい映像と魅力的なナンバーに乗せて描く本作は、繰り返し鑑賞に耐える優れた作品です。本作の舞台となるキューバはアメリカのフロリダ半島の南145キロに浮かぶ、人口約1100万人ほどの島国です。キューバ革命(1959年)により、アメリカ大陸で初めて社会主義国家となったことから、「カリブに浮かぶ赤い島」とも言われ、1962年に核ミサイル基地建設が明らかになったことからアメリカが海上封鎖を実施、米ソが対立して核戦争寸前まで達したキューバ危機は、映画「JFK」(1991年)、「13デイズ」(2000年)、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(2011年)などの題材になっています。忘れ去られていたキューバ音楽の古老たち 本作に登場するのは、キューバ革命で社会主義国家になる以前のミュージシャンたちです。ルンバ、マンボ、チャチャチャなどを生み出したキューバ音楽は、スペイン系とアフリカ系の音楽がベースになっており、19世紀の古風なヨーロッパのダンスとアフリカのリズム感溢れる鼓動のが混然となった音楽と踊りには一種の優雅さがあります。1970年代から彼らの音楽に魅了されていたギタリストのライ・クーダーは、1997年に機会を得て、キューバに渡り、かつて活躍したミュージシャンたちに会います。彼らの多くは亡くなり、生き残ったものは靴磨きをしたり、木工所などで働いて暮していました。70歳〜90歳にもなった彼らの時代遅れの音楽は、キューバでは仕事にはなりませんでした。古老たちと制作したアルバムがグラミー賞を受賞クーダーは自分も音楽を愛する音楽家であること、彼らに興味を持っていること、そして一緒に演奏したいことを理解してもらい、毎日集まっては演奏を録音、それを聞くということを繰り返しました。歌詞には二重、三重の意味があり、多様に解釈できる深いものでした。「音楽家は短い命を音楽に捧げ、音楽は後世に伝わるが、自分たちの文化、自分たちの音楽を持ち続けられる音楽家は少ない、彼らは素晴らしいミュージシャンで、彼らと演奏できるのは大きな喜びだった」と、クーダーは語っています。そして出来たアルバムが「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」で、これがラテン音楽ファン以外にも受け入れられる世界的な大ヒットなり、1997年のグラミー賞を受賞しました。アルバムのタイトルでもあり、本作のタイトルにもなっている「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、キューバ革命で閉鎖を余儀なくされた旧共和政時代の会員制クラブです。レコーディングに参加したメンバーの多くがこのクラブに出演していたことから、彼らのブランド名となり、アルバムのタイトルとなったものです。セカンド・アルバムの制作にカメラが密着帰国後もキューバでの出来事を思い出してはにんまりと、心ここにあらずのクーダーを見た友人のヴェンダース監督は、まだアルバムなる前のミックス・テープを借りて聴き、心を奪われました。走っていた車を停めて聴き、さらに一晩に四度も聴き返したといいます。翌朝、クーダーからミュージシャンたちの来歴を聞いたヴェンダース監督は、彼らに会わなければならないと思いました。そして一年後、ライから電話をもらったヴェンダース監督は、二枚目のアルバム制作に密着することになります。わずか一週間前の連絡で、クルーや予算もろくに確保できないまま、ハバナに向かう飛行機に乗ったそうです。時の流れが止まったかのようなハバナそして訪れたハバナは1959年(キューバ革命)で時間が止まっていました。本作の冒頭、ライが息子のヨアキムと側車付きの古いバイクで走りますが、街並みも車もカストロ以前の旧共和政時代のままです。こうしたなかなか見れない風景や、有名なハバナ葉巻やその製造シーンなど地域色豊かな描写も、本作の大きな魅力になっています。また、終盤には、老ミュージシャンたちがケネディもマリリン・モンローも知らないことがわかります。実は1962年以降、アメリカによる経済封鎖が実施され、経済発展が滞るだけではなく、文化的交流も希薄だったという背景があるのです。時の流れが止まったかのようなハバナの街ミュージシャンたちと一体になって撮影計画的と言うよりは自然発生的に始まった事は撮影は、あたかも日記を記録するように進められました。本作はヴェンダース監督が初めてデジタルで撮影した作品で、カメラはソニーのMiniDVを使用し、ステディカムを用いて最小限の人数で撮影してしています。MiniDVは16ミリが持ち込めないような状況でも撮れる、映画の可能性を広げたカメラで、ステディカムで得られる機動性は、軽快でノリの良い彼らの音楽にマッチしました。カメラマンがコントラバス奏者でもあったことから、すぐに老ミュージシャンたちに仲間意識が芽生え、彼らと一体になって撮影を続けられました。撮影が中断すると、「僕らとお友達をやめるのかい?」と冗談を言われるほどだったと言います。映画は老ミュージシャンたちが、夢に見たカーネギー・ホールのセンターステージで演奏を終えるまでを描いており、ハバナで50時間、アムステルダムで20時間、カーネギーホールで10時間、合計80時間の撮影が行われました。カーネギー・ホールのセンターステージで演奏を終えるまでを描いている老ミュージシャンたちのあるがままの人生、文化そのものの音楽を讃える作品カーネギーホールの公演を終え、熱狂的な称賛の声も聞こえぬかのように立ち尽くす老ミュージシャンを見た時、ヴェンダース監督は彼らの人生を凌駕するような大きく、信じられないような物語の証人となり、ドキュメンタリー以上のものが撮れたと感じたと言います。歌や演奏を止め、靴磨きをしていた70歳や90歳の老ミュージシャンが、人生の最晩年で大スターになるという、夢のようなサクセスストーリーが描かれてますが、彼らはそれに値する人たちであり、それに値する彼らの音楽が万人を魅了したことに他なりません。彼らはウィーン国立歌劇場でも20分間のスタンディング・オベーションを受けたと言います。リヒャルト・シュトラウス以上とも言われるこの称賛は、老ミュージシャンたちのあるがまま人生、文化そのものである音楽に向けられたものと言えます。ライ・クーダー(右、スライド・ギター)とヨアキム・クーダー(左、パーカッション、ライの息子)フランシスコ・レピラード、通称コンパイ・セグンド(ボーカル、トレス)エリアディス・オチョア(ボーカル、ギター)イブライム・フェレール(ボーカル、コンガ、クラベス、ボンゴ)オマーラ・ポルトゥウンド(右、ボーカル)ルベン・ゴンザレス(ピアノ)オルランド・カチャイート・ロベス(コントラバス)アマディート・ヴァルデス(ティンバレス)マヌエル・グァヒーロ・ミラバル(トランペット)バルバリート・トーレス(リュート)【サウンドトラック】 「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」オリジナル録音リマスター(楽天市場)1."Chan Chan" by Compay Segundo 2."De camino a la vereda" by Ibrahim Ferrer 3."El cuarto de Tula" by Sergio González Siaba 4."Pueblo Nuevo" by Israel "Cachao" López 5."Dos gardenias" by Isolina Carrillo 6."¿Y tú qué has hecho?" by Eusebio Delfín 7."Veinte años" by María Teresa Vera8."El carretero" by Guillermo Portabales 9."Candela" by Faustino Oramas 10."Amor de loca juventud" by Rafael Ortiz 11."Orgullecida" by Eliseo Silveira 12."Murmullo" by Electo "Chepín" Rosell 13."Buena Vista Social Club" by Israel "Cachao" López 14."La bayamesa" by Sindo Garay【撮影地(グーグル・マップ)】ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブがあった街前方右手に500メートルほど入ったところに、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブがあった。ライが息子のヨアキムと側車付きのバイクで走る海辺の道メンバーが自由の女神を探すエンパイアステートビルからの展望1999年の映画なので、世界貿易センタービルが映し出され、「二つのビルのそばに見える」というセリフがある。カーネギー・ホール【関連作品】フォトブック(楽天市場) Donata & Wim Wenders 「Buena Vista Social Club」「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の続編のDVD(楽天市場) 「Buena Vista Social Club: Adios」(2017年)ヴィム・ヴェンダース監督作品のDVD(楽天市場) 「都会のアリス」(1974年) 「さすらい」(1976年) 「アメリカの友人」(1977年) 「ハメット」(1982年) 「パリ、テキサス」(1984年) 「ベルリン・天使の詩」(1987年) 「夢の涯てまでも」(1991年)「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(2011年) 「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」(2014年)・・・共同監督
2017年11月01日
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