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麗老(9)
妙子は前夫の暴力がたまらずに離婚したと言った。酒飲みで飲んだら暴力を振るったという。子供は欲しかったが出来なかったと言った。別れた後、父の遺産で食べてきたと言った。食べるだけの土地はあり米だけ植えているのでと言った。借家も何軒かあり毎月その収入が入ってくると言った。
「私に何も責任を感じてくれなくていいんです・・・。一人で生きていくだけの経済力はありますから」
「それでは私に何をしろと言うのですか」
「お互いを拘束しなくて、時々こうしてお茶やお話の相手をして下さればいいのです」
雄吉は何をどのように考えればいいのか戸惑っていた。
「お嫌でなかったらですけれど・・・」
「それは・・・」
「お嫌でしたら面と向かっては辛いし・・・電話ででも」
「いいえ、実を言うと女将から言われて断り切れずに・・・」
「やはり、ご迷惑だったのですね」
「そんなことはありません、今では良かったと・・・」
「嬉しいわ」
「・・・」
「こんなに話をしたの、初めてです。あなたの前ですと素直に言葉が・・・」
「私は一日中家にいてテレビを見ているだけでした」
「船をお持ちとか」
「漁船ですが」
「山に畑をお持ちとか」
「はい、猫の額くらいですが」
「田植えを手伝って下さると嬉しいのですけれど」
「はい、喜んで」
雄吉は魔法にかかったように言いなりになっていた。それが嫌ではなかった。
「あなたの部屋が見たいわ」
雄吉は周章てた。まだ布団を敷いたままであったのだ。
「まだ・・・」
「片付けてあげます」
雄吉は案内した。
「こんなことは初めです」
妙子は衣服を脱ぎ裸になって布団に横になった。雄吉は唖然とし呆然と眺めた。油ののりきった女体がそこにあった。
「二十年くらい女の人に触れてません」
「何も言わないで・・・」
雄吉は夢だ夢だと心の中で叫んでいた。
麗老(10)
「安っぽい女でしょうか」
「私も初めてです」
「お嫌らなられた」
「いいんですか、こんなことになって」
「この歳になったら、もう何も失うものはありませんから。心の赴くままに生きたいと・・・」
「私に鬼になれと・・・」
「女の生活を忍従の中に閉じこめてきた社会に抵抗をしようと決めたんです・・・好きな人が出来たら私から誘おうと決めていたんです」
妙子は庭のようやく咲き始めた五月を見ながら言った。
「私で良いのですか」
「一人で飲んでおられる後ろ姿を見て・・・その哀愁に惹かれたのです」
「これから食事でも」
雄吉は話を変え不器用に誘った。
瀬戸大橋の見える海岸線を走った。穏やかな海が 広がっていた。雄吉はそこを走って山間のレストランへの道を走っていた。山肌にはツツジが咲こうとしている時期であった。
「なんだかこうなるように定められていたみたいです」
妙子は運転している雄吉の肩に頬を寄せて言った。雄吉も何年も連れ添った人のように感じていた。妙子をいじらしく眺めた。
雄吉は二十数年ぶりに男を感じさわやかな気分の中にいた。沸々と蘇る気力を感じ目の前が開かれたように思った。
谷間の小川をまたぐように山小屋風の建物が造られていた。
潺の音が床を通して聞こえて、鳥の囀りが静寂を破っていた。
「ここは奥さんと来たところですか」
妙子は口元に運びながら言った。
「いいえ、忍びの男女がよく来るそうです」
「いい処ですね。こんな処を知っておられるなんて隅に置けないです」
「初めてです」
「嬉しい」
「私たち、どのように映っているのでしょう」
「さあ・・・」
「人目を忍んで・・・。美味しい・・・」
「時間は・・・」
「誰も待っている人はいない」
「そうですね」
山に夕闇が迫っていた。風が出たのか木立がざわめいていた。
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