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会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行が,同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を銀行取引約定に基づき同会社の債務の弁済に充当することの可否(最判平成23年12月15日)「事案の概要」X会社から取立委任を受けた本件各手形につき商事留置権を有するY銀行において,X会社の再生手続開始後に本件各手形を取り立て,その取立金を法定の手続によらずX会社の債務の弁済に充当し得る旨を定める銀行取引約定に基づき,Y銀行の再生債権である当座貸越債権(X会社からみれば当座貸越債務)9億7000万円の一部弁済に充当したことにつき,弁済充当の可否を争うX会社が,Y銀行に対し,不当利得返還請求権に基づき,取立金約5億6000万円の返還を求めた。「判旨」会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は,同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を,法定の手続によらず同会社の債務の弁済に充当し得る旨を定める銀行取引約定に基づき,同会社の債務の弁済に充当することができる。 本判決は,取立金についても留置権の留置的効力が及び,そのような取立金を法定の手続によらず債務の弁済に充当する旨を私人間で合意すれば,この合意は,民事再生法上も有効であると判断したものといえる。 本判決の射程については,本判決は,商事留置権の目的物が約束手形という,金銭への換価が本来的に予定され,その換価も手形交換という取立てをする者の裁量等の介在する余地のない適正妥当な方法によることが制度的に担保されているものである場合について判断したものであり,商事留置権の目的物が約束手形以外のものである場合についてまで本件条項のような銀行取引約定を常に有効と解するものではないと解される。判例時報2138号 37頁
2012.03.28
高級車の盗難保険金請求について、盗難は請求者の故意によるものとして、保険会社の免責を認めた事例(横浜地裁 平成23年8月16日判決) 「事案の概要」Xは、平成15年11月、本件車両(ポルシェ・カイエン・ターボ)を1433万6000円で購入し、平成20年3月5日、Yとの間で自動車保険契約を締結した。Xは、平成20年10月20日、娘と魚釣りをするため、本件車両を横浜市中区新山下の路上に駐車し、そこから歩いて魚釣り場に行って、約30分位釣りをした後、タバコ吸うため一人で本件車両に戻り、本件車両のリモコンキーをポケットに入れたまま着ていたジャンパーを脱いで、本件車両の車内に置いたまま、本件車両を離れて娘のいる釣り場に戻った。その後、娘とともに2時間位魚釣りをしてから、近くの公園を散歩して、公園のトイレに立ち寄ってから、本件車両の駐車してあった場所に戻ると本件車両が何者かに持ち去られていた。そこで、Xは、警察に被害届を提出した上、Yに対し、本件車両の盗難にあったとして、保険金1100万円の支払いを求めた。これに対し、Yは、本件車両の持ち去りは、Xの故意に基づくものと推認できるとし、免責の主張をした。 「判旨」X以外の第三者が本件車両を本件現場から持ち去ったとの外形的事実は認められる。本件車両の近くに車を停止させていた者が、2人組の男が、本件車両に近づき、前方左右のドアから分かれて乗り込み、2,3分でエンジンをかけて出発したと説明していることからすれば、犯人は、正規のキーを使用してエンジンを始動させたものと推認できること、本件車両は高級車両であり、イモビライザー(盗難防止装置)が装着されていて、通常は盗難が困難であること、本件車両の施錠の状況についてXの供述は不自然であり、また、高級車を白昼路上に駐車する際に施錠をしない理由について納得のいく説明は何らされていないこと、Xは、当時、中学生の長女と2人暮らしであり、体調不良のため経営していた会社の営業を廃止したこと等の事情を総合すれば、窃盗犯人は、あらかじめ、本件車両が施錠されていないこと及び正規のキーの所在を承知の上で本件車両に乗り込んだものと推認することができ、窃盗犯人は、Xと意思を通じていたものと推認できるから、本件盗難はXの故意によるものといえるとして、Yの免責を認めXの請求を棄却した。判例タイムズ1363号176頁
2012.03.26
株式会社の取締役が、競業会社に移籍するに当たり、部下である従業員を勧誘し、競業会社に移籍させた場合に、取締役の不法行為責任が肯定され、競業会社の不法行為責任が否定された事例(東京地裁 平成22年7月7日判決) 「事案の概要」通信事業に関するソフトウェア製品の開発等を行っていた株式会社であった原告の取締役を務め、原告の一事業部の事業部長でもあった被告Aが、原告を退社して原告の競業会社である被告会社に移籍する際に、原告において同一事業部に所属していた従業員を勧誘し、被告会社に移籍させたことについて、被告A及び被告会社による移籍の勧誘が違法な引抜行為に当たるとして、被告A及び被告会社に対し、不法行為等に基づき、従業員の移籍等に伴い発生した損害の賠償を求めた。 「判旨」被告Aの行為は、原告の取締役の地位にありながら、原告に重大な影響を与える移籍について、原告の他の取締役に対して隠密理に計画を進行させ、その最終段階で不意打ちのような形でこれを明らかにしたものであって、原告に対して著しく誠実さを欠く背信的なものであるといわざるを得ない。さらに、従業員に対する勧誘の方法をみても、虚偽を含む事実を告げて不安を助長する面を含む不適切な方法によっており、また、原告の内規に違反して被告会社に対して本件事業部の従業員の雇用条件を開示し、被告会社からこれを勘案して作成した内定通知書の発行を得てこれを交付している点でも不当である。したがって、被告Aによる本件事業部の従業員に対する移籍の勧誘は、取締役としての善管注意義務(会社法330条、民法644条)や忠実義務(会社法355条)に違反し、社会的相当性を欠くものであって、不法行為を構成するというべきである。被告会社は、被告Aらの移籍が原告に重大な影響を与えることを認識しながら、被告Aとの協議の下に勧誘行為を行ったものではあるが、以上の各点に照らせば、被告会社による移籍の勧誘は、被告Aによる勧誘行為とは大きく異なるものであって、社会的相当性を欠く違法なものであったということはできない。したがって、被告会社は、不法行為による責任を負わない。判例タイムズ1354号176頁
2012.03.13
賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性 (最判平成23年7月15日) 「事案の概要」 Xは,Y社との間で,共同住宅の一室(以下「本件居室」という。)につき,平成15年4月1日から平成16年3月31日まで賃料月額3万8000円,更新料を賃料の2カ月分,定額補修分担金を12万円とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」)を締結した。本件賃貸借契約に係る契約書には,Xは,契約締結時に,Yに対し本件居室退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う旨の条項があるほか,本件賃貸借契約の更新につき,<1>本件賃貸借契約を更新するときは,法定更新か合意更新かにかかわりなく,1年経過するごとに更新料として賃料の2カ月分を支払う<2>Yは,入居期間にかかわりなく,更新料の返還,精算等には応じない旨の条項がある。XはYとの間で,平成16年から平成18年まで,3回にわたり本件賃貸借契約をそれぞれ1年間更新する旨の合意をし,その都度Yに対し,更新料7万6000円を支払った。Xは平成18年に更新された本件賃貸借契約の期間満了後も本件居室の使用を継続し,当該契約は更新したものとみなされたが,Xは,更新料の支払いをしていない。 Xは,更新料の支払いを約する条項は消費者契約法10条または借地借家法30条により,また,定額補修分担金に関する特約は消費者契約法10条により無効であると主張して,Yに対し,不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料及び定額補修分担金の返還を求めた。 「判旨」1 消費者契約法10条は,憲法29条1項に違反しない。2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。 判例タイムズ1361号89頁
2012.03.09
求償権が破産債権である場合において財団債権である原債権を破産手続によらないで行使することの可否(最判平成23年11月22日) 「事案の概要」日用雑貨品等の販売会社であるXは,取引先のA会社から委託を受け,平成19年8月21日,Aの従業員9名の同年7月分の給料債権合計237万円余り(破産法149条1項により財団債権となり,破産手続によらず随時弁済を受けることができる。)を弁済し,これと同時に従業員らの承諾を得た(民法499条1項参照)。Aは同年8月29日に破産手続開始決定を受けた(したがって,XのAに対する求償権は破産債権であり,破産法100条1項により破産手続によらなければ行使できない。)。Xは上記従業員らに代位して,Aの破産管財人であるYに対し,破産手続によらないで,上記給料債権の支払を求めた。 「判旨」弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで上記財団債権を行使することができる。 また,最判平成23年11月24日は,弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者が,同人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても再生手続によらないで共益債権を行使することができる,とした。 判例タイムズ1361号 131頁
2012.03.08
銀行の従業員が顧客に仕組債の購入勧誘をするに当たり,適合性原則にも説明義務にも違反はなかったとして,銀行の損害賠償責任が否定された事例(東京高裁平成23年11月9日判決) 「事案の概要」Xは,平成18年4月,A証券会社が販売するB社発行の仕組債(本件債券)をY銀行の媒介により一億円で購入した。本件債券は,約定の観測期間内にノックイン事由(日経平均株価が当初価格の50%を下回ること)が発生しない場合には原資(購入金額)が保証され,満期において発行額(額面額)が償還されるのに対し,ノックイン事由が発生した場合には償還額は日経平均株価と連動することとなり,その結果,観測期間最終日の日経平均株価が当初価格を上回るか下回るかにより,満期における償還額が発行額を上下するものであり,クーポン(利率)はノックイン価格が当初価格に対して占めるパーセンテージと連動し,そのパーセンテージが大きくなるほどクーポンの利率も大きくなるが,他の要素も大きく影響するため利率の予測は容易とはいえないというものである。本件債券購入後,観測期間中に,日経平均株価が約定のノックイン価格を下回り,かつ観測期間最終日の日経平均株価終値も当初価格を下回ったため,満期償還日における本件債券の償還金額は5579万円余にしかならなかった。そこで,Xは,本件債券の販売にあたり,A・Yの担当者が共同して不実告知を行い,適合性原則違反,説明義務違反の不法行為を行ったとしてA・Yに対して損害賠償請求を訴訟を提起した。第一審判決はYに対する請求を認容した。「判旨」1 適合性原則違反についてXの資産額(4億5000万円を超える現金・自宅及び賃貸用の不動産所有),資産形成の経緯,日常の経済的状況からすると,Xはいわゆる富裕層に属する者であり,過去にも他銀行から元本割れの危険性のある投資信託商品を合計1億円分購入しており,本件債券購入後も元本割れが生じるリスクがある円定期預金をした経験を有するものであるから,Yの担当者が本件債券の購入を勧誘したことが適合性原則違反になるとはいえない。2 説明義務違反について顧客の自己決定権を保障するため,投資商品であり預金ではないこと,ノックイン事由発生の可能性,元本割れの可能性のほか,満期まで保有することを原則とする商品であり,原則として途中解約はできないことの説明義務があるが,判示の事実関係の下においては,銀行の従業員に説明義務違反はない。 第1の点に関して,証券取引における適合性原則違反と不法行為の成否については,「証券会社の担当者が顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となる」と判示した最判平成17年7月14日があり,顧客の適合性を判断するにあたっては「具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状況等の諸要素を総合的に考慮する必要がある」と判示した。本判決も,この判断枠組みに依拠して,本件商品の属性を押さえた上で,顧客の個別の事情をきめ細かく拾い上げて適合性原則の当てはめをしているものであり,実務上参考になる。判例時報2136号 38頁
2012.03.06
自動継続条項があることを理由として異なる基本契約に基づく取引が事実上一個の連続した取引であるとした原審の判断を違法とした事例(最判平成23年7月14日) 「事案の概要」Xは,貸金業者Yとの間で,昭和56年以降,昭和56年4月10日から昭和58年12月24日まで,昭和60年6月25日から昭和61年11月27日まで,平成元年1月23日から平成10年4月6日まで,平成12年8月7日から平成21年3月9日までの4回にわたり,それぞれ基本契約を締結して,継続的に金銭の貸付と弁済が繰り返される金銭消費貸借取引をした。それらの基本契約には,いずれも,当初の契約期間経過後も,当事者からの申出がない限り当該契約を2年間継続し,その後も同様とするとの自動継続条項の定めがあった。Xは,上記取引はすべて一連の取引として過払金の計算がされると主張した。「判旨」原審は,本件の基本契約に,いずれも,自動継続条項が設けられていることから,それぞれの取引と取引との間の期間を考慮することなくそれらの取引は事実上1個の連続した取引であり,先の基本契約に基づく取引により発生した過払金を後の基本契約に基づく取引に係る借入金債務に充当する合意が存在する,としているのであるから,原審の判断は違法である。 本件は,最判平成20年1月18日判決において述べられたところを当てはめたものということはできるが,同判決において,異なる基本契約に基づく取引の一体性を考慮する際の要素として掲げられているもの(第一の基本契約に基づく貸付及び弁済が反復継続して行われた期間の長さや最終の弁済から第二の基本契約に基づく最初の貸付までの期間,第一の基本契約についての契約書の返還の有無,カードの失効手続きの有無等)が,基本的には取引の事実上の側面に重点を置いていることを確認し,自動継続条項の存在という法律的,形式的な事実が,それ自体としては,その一体性判断において重視されるべき要素としては位置付けられていないことを確認したものとして参考になる。判例時報2135号46頁
2012.03.02
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