小説「アリとギリギリデス」(その4)

 さて、それからしばらくの間、私は彼の事を完全に忘れていた。引きこもりどころか変質者のように見えてきてしまって、忘れると言うより、思い出したくもなくなったのである。
 当然、彼とアパートの通路ですれ違っても、無視するようになった。彼の方も困ってしまったようで、私の前でどう態度をとればいいか、いつもオロオロしていたのであった。
 そんなある日、また、ちょっとした出来事が起きる事になった。正確には、私一人が勝手に突っ走ってしまったのだ。
 その日の昼間は、私は仕事で色々と失敗をやらかしてしまい、自分も落ち込むわ、上司からもさんざんに叱られるわで、そうとうにうっぷんがたまっていた。こんな時は、彼氏に優しい言葉の一つや二つでもかけて慰めてもらいたいものなのだが、この時付き合っていた彼氏と言うのがまた特に鈍感なヤツで、電話で連絡をとってみたところ、ひどく素っ気ない態度をとられてしまったのだ。その事で私もいきなりカチンときてしまい、私は彼氏と大ゲンカをしてしまった。向こうだって、なぜ私が急に怒り出したのかが分からなかったようで、当然どちらも謝らずに、電話は切ってしまい、私はますますムシャクシャした気持ちになってしまったのだった。
 その足で、一人で真っ直ぐ居酒屋へ行き、悪酔いするほどお酒を飲んだのだが、それでも気分は晴れず、そんな時、突然、隣の部屋の彼の事が思い浮かんだのである。私も、泥酔して、すっかり気持ちがおかしくなっていたのだと思う。もう何もかもヤケクソなのだから、いっそ自分の事を好いている隣の部屋の変質者と寝てやれ、と決めたのである。もちろん、彼氏への当てつけの意味もあっただろうし、自分を認めてくれない職場や社会に対する反抗のつもりでも、非道徳な事をしてやろうと思い立ったのだと思う。冷静になって思い返してみると、私ってほんとにバカである。
 しかし、この時の私は、もうすっかり、その気になっていた。
 夜遅くにアパートに戻ってきた私は、しつこく隣の部屋の呼び鈴を押し続けたのだった。    (つづく)

「ルシーの明日とその他の物語」

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2016年09月03日

ボツネタの境界

 気付かれた方もいるかもしれませんが、 「ルシーの明日とその他の物語」 の値段をいっきに 500円 にまで引き上げさせていただきました。

 と言いますのは、ボツネタのコーナーが、最近、ボツネタじゃなくて、 事情があって現在は書けそうにないネタ が増えてきまして、 そうしたアイディアを安っぽくひけらかさない為の処置であります。ボツネタ自体も、ひょっとすると 違う形で再採用の可能性 がありますので、ほとんど有料ページにして 隠してしまいました。 私のボツネタを盗みたい方は、 お金を支払って 、って事で。

 ここんとこ、執筆するかどうか滞っていた 「悪の三博士大作戦」 「ティアマトの復活」 と言ったネタも、ひとまず完成させるのは諦めて、ボツネタ送りにしましたので、 「ルシーの明日とその他の物語」を買えば、どんな話だったか知る事が可能です。

「狼ハンター」 は、予定枚数を突破するほどの長さになりましたが、それでも無事に完成。これは なかなか面白い作品に仕上がっています。どうも、作品によって、簡単に書けるものとそうでないものがあり、その 落差が激しすぎて困ります。まぁ、無理やり完成させた作品は、だいたい作者も 駄作 に思えるものが多いのですがね。

「ルシーの明日とその他の物語」

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2016年09月01日

お題「幽霊」出品作

共幻文庫の第4回お題「幽霊」の審査結果が発表されたので、 これまでシークレットにしてきた私の出品作品 についても作品名を公開したいと思います。
 この二作品となります。

「お化け坂」
「知ってる人だけのお話」


「お化け坂」 は登録番号1番を狙っていたのですが、 残念ながら2番でした。このへんの調整はやっぱり難しいです。と言うか、既製作品を送りつけた私よりも早く作品投稿できた人って、ちょっと異常なスピードの執筆力じゃありませんか?

 さて、この二作品の今後の扱いなのですが、 「お化け坂」 の方は、 「ルシーの明日とその他の物語」の中に収録しない つもりです。よって、共幻文庫の方で読んで下さってもいいのですが、私のこのブログ内でもいずれ 全文を掲載しておきたい と考えております。

 一方の 「知ってる人だけのお話」 は、すでに「ルシーの明日とその他の物語」の方でも公開しているのですが、どのへんに掲載しているかは、 目次欄にも記載していません。 「ルシーの明日とその他の物語」を流して読んでいる最中に、 偶然見つけて、得した気分になってもらえたら 、と思っています。こちらもタイトル通り 「知ってる人だけのお話」な扱いなのであります。

 どちらもお題の「幽霊」に合わせた、 どこか幽霊的な存在の作品 にしておきたいと考えている次第です。

「ルシーの明日とその他の物語」

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2016年08月23日

次回作「狼ハンター」

ニジュウ面相の最新作 に続き、 お化け坂の決定版 の方も完成。この二つは、どちらも ブックショートに送る作品なのですが、話の構成が似通っているため、とりあえず 今月はお化け坂の方を出品する事 にしました。 ニジュウ面相の提出は来月までおあずけ。

 さて、次にどんな話を書くかですが、 「ティアマトの復活」 と言う単品と トライアングルの最新作 を準備していたものの、この二作品、なかなか 最後の詰めまでストーリーがまとまらなくて、 執筆にたどりつきません。

 そんな中、急速に 「狼ハンター」 というネタがひらめいてきました。これがけっこう面白い作品になりそうです。 すでに「狼ハンター2」の構想もまとまり始めています。ブックショートの入選作は小説(文章重視)的な作品が多いのですが、この「狼ハンター」は ハードなアクションもの になりそうなので、 毛並みの違いから注目してもらえるかも しれません。

 ともあれ、来月は 「狼ハンター」と他のどれかを執筆という形になりそうです。

いずみちゃんシリーズ の方は、ひとまずお休み。 蛙里いずみの対抗キャラとして 井森カコ なんてヒロインの名前もひらめいていたのですが。

「ルシーの明日とその他の物語」

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2016年08月20日

小説「アリとギリギリデス」(その6)

 壁の全裸女性のポスターをよく見直してみたが、確かに、グラビアではなく絵画である。あまりに精巧に描かれた絵だったので、パッと見ただけでは写真と勘違いしてしまったようなのだ。
IMG_0009.jpg
「アングルと言う有名な画家が描いた『泉』と言う絵です。とっても奇麗な女の子の裸婦像で、ボクの憧れなんです。猥褻な気持ちで貼ってたんじゃありません」
 彼の説明を聞いているうちに、私はすーっと酔いが醒めていったのだった。
 私ったら、何て、はしたない事をしてしまったのだろう!それも、自分より下だと見下していた相手に対して。これでは、私の方がずっとイヤラシい変態女ではないか。しかも、相手が自分に惚れていただろうなんて自惚れてもいた訳だから、なおさらタチが悪い。
「ご、ごめんなさーい!」
 私は、顔を伏せて、慌てて彼の部屋から出て行ったのだった。その時の私は、お酒のせいではなく、本当に顔が真っ赤になっていたに違いあるまい。    (つづく)

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2016年08月16日

小説「アリとギリギリデス」(その5)

「ほら、早く出てきなさいよ!いるのは分かってるのよ。こうして、あなたのいずみが自分から来てやったんだから、ほら、喜びなさい」

 そして、うろたえながらも、彼がようやくドアを開いてくれたのだった。
「こらあ、遅いぞ。早く開けなさーい」
 と怒鳴って、私は彼の部屋の中へ飛び込んでいった。
 私の異常なテンションには、彼もそうとう驚いていたようだった。
「隣の蛙里さんですね。すみません、お部屋、間違ってますよ」
 と、うろたえながら彼は言った。
「間違ってないよ。だって、あたしはあんたに会いに来たんだもん」
「え?」
「え、じゃないの!ベッドはどこ?案内してよ」
「こ、ここで寝るつもりですか?蛙里さん、そうとう酔ってますね。ダメですよ、自分の部屋に戻らなくちゃ」
「一人で寝るんじゃないの。あんたと一緒に寝るの。嬉しいでしょ?」
「ちょっと!だいぶ酔いがひどいですよ。大丈夫なんですか」
「もう!何ためらってるのよ、この照れ屋さんが!あたしの事が好きで、前からエッチしたかったくせして。絶好の機会なんだから、素直に喜びなさいよ」
「ボ、ボク、そんなこと一言も言ってませんよ」
 そこで、私は壁に貼ってある女性のヌードポスターをバッと指さしたのだった。
「ウソおっしゃい!女の裸の写真に、あたしの名前で呼びかけて、夜な夜なスケベな事を妄想していたくせに!」
「それ、写真じゃないですよ。絵です、有名な名画」
 彼にそう言われて、私はハッとしたのだった。    (つづく)

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2016年08月12日

ニジュウ面相、お化け坂、そして、蛙里いずみ

 最近の私の執筆状況です。

共幻文庫コンテストに出品する作品はすでに完成し、 投稿済みなので、いよいよ ブックショートに送り込む作品 に取りかかっております。

ニジュウ面相のお話 がほぼ完成、そして、次は お化け坂の物語 を書く予定です。お気づきの通り、ニジュウ面相もお化け坂も、 共幻文庫コンテスト出品作で展開してきたネタだったのですが、これからは ブックショートの方へも乗り込ませていただきます。書いてて思ったのですが、共幻文庫コンテストに提出したものより 面白くなりそう です。共幻文庫には申し訳ないけど、 いっぱい書くほど、中身が洗練されていくのかもしれません。

 しかし、ホンネを言いますと、 ニジュウ面相にせよお化け坂にせよトライアングルにせよ 、これらのシリーズは そろそろ一区切りつけておこうか、と言うのが、今の私は方向性だったりします。では、この先どんな話を書きたいかと言うと、 蛙里いずみをメインキャラにした本格的なラブストーリー 、それも セックス描写も組み込まれたちょいエロいの を書きたくなり始めているのであります。ただ、 短編になりそうにないし、 出品できそうなコンテストもまだ見つけてないし、果たして、どうなる事やら。

 いちお、蛙里いずみシリーズの第一作 「アリとギリギリデス」 の方も、 本ブログで順調に掲載中です。そろそろ エロく なってきます。

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2016年08月11日

小説「アリとギリギリデス」(その3)

 私の視線がポスターの方に向いているのが分かると、彼はますます動揺していたのが、はっきりと分かったのだった。
 呆れた事だが、彼が部屋の中を見られたくなかった理由はこれだったらしい。しかし、一人暮らしの部屋に男が女の裸の写真を貼ったりしているのは、決して特別な事でもないであろう。むしろ、独身の男なら健全な行動のような気もするのだが、この男、なかなかのウブだったようである。
「あ、あのポスターは、そんなヘンなものじゃないんですよ。ボク、このいずみが好きで、これってアングルが・・・」
 彼は慌てて弁解したのだが、その言葉に逆に私はムッとさせられたのだった。
 と言うのも、いずみとは私の名前だったからである。隣の男の住人が、私と同名のセクシーアイドルのヌードを愛好しているとは、なんとも良い気がしない。もしかして、この男、ひそかに私にと気があったのではなかろうか。だから、部屋には、わざわざ、いずみと言う名のモデルの写真を選んで貼って、にやついていたのかもしれない。
「帰ります、あたし!」
 勝手に想像が暴走してしまった私は、急いで彼の部屋の玄関から立ち去る事にした。
 私が急に不機嫌になった事は彼にも分かったらしく、私の後ろで彼がオロオロしていたのは私にもよく感じ取れたのだった。    (つづく)

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2016年08月08日

小説「アリとギリギリデス」(その2)

 うまい用事ができたので、彼の部屋の前まで行ってみると、ちょうどドアが開きっぱなしになっていた。彼の方も、外出から戻ってきたばかりか何かで、まだドアを閉めていなかったらしい。中を覗き込むには最高の状態だった。
「もしもーし。いますか」
 と、私は、開きっ放しのドアから顔を突っ込んで、声をかけてみた。
「おたくの郵便物が、うちに届いていましたよ」
 いるのかいないのか、すぐには彼は現れなかった。
 そこで私は、もっと大胆に部屋の中を覗き込んでみたのだった。
 信じられないほど贅沢な家財道具とかは見当たらなかった。むしろ、質素なほど部屋の中は置かれているものが少なく、やはり、彼は低所得のただの庶民だったらしいと分かって、私は少し安心したのだった。
 その時、部屋の奥からトイレの水を流す音が聞こえてきて、間もなく、彼が慌てて姿を現わした。
「わざわざ、すみません」
 私の前に対峙した彼は、うろたえた感じで、そう口にした。なんだか、部屋の中を見られたくないような様子だ。
 この男、何をそんなに弱っているのだろう。私が見た限りでは、そんな隠し事があるような部屋にも感じられなかったのだが。
 私は、さりげなく、もう一度、部屋の中を見回してみた。そこで、地味な内装の中でも、テレビの近くの壁に貼られていた女性のヌードポスターが、ひときわ目をひく事に気が付いたのだった。    (つづく)

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2016年08月07日

小説「アリとギリギリデス」(その1)

 アパート暮らしの私の隣の部屋にはキリギリスが住んでいる。もちろん、本物のキリギリスではなくて、イソップ寓話に出てくるキリギリスみたいに毎日ブラブラしていたから、陰でキリギリスとあだ名で呼んでいたのだ。
 その一人暮らしの青年がまともに働いているような様子は、ほんと、見た事がなかった。ほとんどの時間を、自分の部屋の中で引きこもって過ごしていたようだ。いわゆる、怠け者で、どこにも雇ってもらえない人生の落伍者って奴だったのであろうか。
 いや、勝手に結論を出すのは早すぎるかもしれない。もしかしたら在宅ワーカーだったのかもしれないし、実はそこそこの財産持ちで、働かないでいい身分だったと言う可能性もあるからだ。
 しかし、だとしても、それなりの金持ちなら、こんな安くてボロなアパートに居座るとは思えないし、やはり、無職の引きこもりなのだろうと考えた方が正しそうなのであった。
 そんな彼の事を、私はひそかに見下して、嘲笑しつつ相手にしていた。だって、私は独り身でも立派に働いているキャリアウーマンなのだ。出世街道まっしぐらとまでは言わないが、少なくても他人に対しては胸を張れる人生は送っていると自負していた。そんな私から見れば、働きもしない奴はやっぱりランク下の人間なのである。
 そのはずなのであったが、ある些細な恥ずかしい勘違いがきっかけで、私は彼と急接近する事になったのであった。
 それまでの彼とは、私はアパートの通路ですれ違っても、会釈する程度の間柄だった。オタクっぽい雰囲気を漂わせていた彼は、私が生涯で一番交わる事がなさそうな人種にも見えた。
 でも、彼が本当に見た目どおりの負け組の引きこもりなのか、実は裏の顔は相当な成功者だったのかだけは、ずっと気になっていて、前から確かめたいとは思っていたのである。
 ある日、彼の部屋を覗く事ができる絶好のチャンスが訪れた。ちゃっかり者の私は、そのチャンスを決して逃したりはしなかった。    (つづく)

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posted by anu at 12:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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