東京電力福島第1原発の緊急作業をした作業員について、被ばくの健康への影響を調べる国の疫学的な研究が
近く始まる。難しい調査となるのは必至で、どこまで解明できるかは未知数だ。そんな中、事故発生当初、福島第1
で4カ月間作業し、その後、胃や大腸など3カ所でがんが見つかった札幌市の男性(56)は、被ばくが原因だとして
労災と認めるよう訴えている。(東京社会部・片山夏子)
男性が働き始めた2011年7月は、溶け落ちた核燃料を安定的に冷却できるようになったころ。無数のがれきが
散らばり、建屋からは水蒸気が上っていた。「とんでもない所に来た」と恐怖を感じたという。
重機オペレーターの経験を買われ、大型トラックに載せた鉛の箱の中でモニターを見ながら、無人重機を遠隔操
作してがれきを除去するのが仕事だった。しかし、がれきの下には配管やバルブなどがあり、慎重な作業が要求さ
れた。側溝に鋼材を渡した仮設の土台に重機を載せ、遠隔操作するのは至難の業だった。
現場を見ながら直接操作しないと無理なケースもあり、その際は鉛のベストを着て重機に乗り、30分交代で作業
した。重機でつかめない小さながれきは、腹で支えるようにして手で持って運んだ。
がれきの中には赤で「×100」「×200」などと書かれたものもあった。毎時100ミリシーベルトや200ミリシーベ
ルトを発する高線量がれきの印だった。男性は「やべえなぁと思ったが、元請け社員もやっていた。やらないわけに
はいかなかった」。
当時は空間線量も高く、線量計の警報が鳴りっぱなしに。これではすぐに線量限度に達し、作業ができなくなるた
め、高線量の時は線量計をトラックに置いていかざるを得なかった。男性が働いた同年10月末までの4カ月間の被
ばく線量は、記録上は56・41ミリシーベルト。だが「実際はこんなものではない」。
12年春に血尿が出たため診察を受けると、膀胱(ぼうこう)がん。その1年後、東電の負担でがん検診を受けたら、
大腸と胃にがんが見つかった。東電や厚生労働省の窓口に相談したが、「因果関係がわからない」とたらい回しに
されたという。
被爆と癌。癌と放射性物質と福島原発。
被害者がいなくなるまで否定し続ける事実。
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