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2021.09.19
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館で『語学者の散歩道』という文庫本を、手にしたのです。
めくってみると、歴史小説や西洋古典が、英語はもちろんギリシャ語、ラテン語まで引用して語られています。扱う題材は難しいがウィット溢れる語り口がええでぇ♪






沼重剛著、岩波書店、2008年刊

<「BOOK」データベース>より
「賽は投げられた」は、本当は「賽を投げろ」だった?「健全な肉体に健全な精神」のもともとの意味とは?西洋古典学者として高名な著者が放つ、西洋古典が起源の英語のことわざや、意外な英語の語源、語学学習の思わぬ落とし穴など、語学学習にはもちろん日本語を書くうえでも役に立つ、蘊蓄とウィットが満載の楽しいエッセイ集。

<読む前の大使寸評>
めくってみると、歴史小説や西洋古典が、英語はもちろんギリシャ語、ラテン語まで引用して語られています。扱う題材は難しいがウィット溢れる語り口がええでぇ♪

rakuten 語学者の散歩道



nods(うなづく)に関する薀蓄を、見てみましょう。
p60~65
<Homer sometimes nods>
 ホラティウス(前1世紀)の『詩論』からもう一つ諺を拾ってみよう。先ほどの『オックスフォード英語諺辞典』が“Homer sometimes nods”という形で挙げているものだ。私がこの諺にはこめて出会ったのは中学生の時である。教科書に出てきたのだ。Homerの前に“Even”がついていたと記憶している。

 その時先生がおっしゃったことも覚えている。 「詩聖といわれたホーマー(ホメロス)でさえ時にうなづくことがある。つまり弘法も筆のあやまりということだな」ホーマーがうなづくとどうして弘法が筆をあやまることになるのかよく分からなかったが、私ははにかみ屋だったので、うっかり質問して、「なに、ホーマーがうなづくっていうことは弘法さんが字を書きまちがえるようなもんじゃないか。そんなことも知らんのか」と一喝されそうな気がしてそのままにしておいたが、そのためにその後長年にわたって、私にとっては、ホーマーのうなづきと弘法の筆のあやまりの相関関係は謎でありつづけた。

 謎は解けたのは、白状すると、私が英語の教師になってからである。つまり、原因はどうあれ、要するに首を縦に振るのを英語では“nods”という、 「うん、そうだ、そうだ」とうなづくのも、こっくりこっくり居眠りをして首を上下するのも、とにかく首を縦に振れば“nods”というのだと知って、長年の謎が解けて嬉しかった。

 あんまり嬉しかったから、今度は自分が、教室でそのことを得意になって話した(むろん教科書に“shook his head”という英語が出てきたからだが、事のついでに、日本語ではこういう“head”のことはふつう「頭」とはいわない、「首」というのだと、これも得意になってしゃべった)。あんまりこっちが得意になったせいだろう、生徒の中から、「じゃあ斜めに振るのは何ていうんですか」と質問するのが出てきた。仕方がないから、「君、その首を斜めに振ってみたまえ」とやり返した。

 閑話休題。ホラティウスの詩句はこういうものである(『詩論』359)、
「しかしまた、あのすぐれたホメロスが居眠りをすると、私は遺憾に思う。ただ、長い作品の中では、眠気が襲うのは無理からぬこと。」

 358行の終りの 「しかしまた」というのは前の行を受けていて、そこではアレクサンドロス大王の宮廷詩人という栄誉ある地位にいたが作品は凡庸という、コイリロスという叙事詩人のことを、 「二度三度、時にはすぐれた行を書いているのを見ると、(おや、結構やるねえと)びっくりして笑えてくる」と言っている。
(オックスフォード・ラテン語辞典を引用して例文を紹介する下りは、長くなるので勝手ながら大使判断で略します。)

 これも高校で教えていた頃、私はこの諺を、それこそうっかり「弘法も木から落ちる」と言ってしまったことがある。すぐに気がつきはしたけれど、弘法ならぬ身には、居眠りをすると筆をあやまるところにも到達できず、せいぜい猿なみに木から落ちて目を覚ますのが精一杯ということだろうか。





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Last updated  2021.09.19 00:26:41
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