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2021.11.11
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館で『文学界(2021年2月号)』という雑誌を、手にしたのです。
表紙に出ているように創刊1000号記念特大号とのことで、これがゲットする決め手となりました。






雑誌、文芸春秋、2021年刊

<商品の説明>より
通算1000号記念号 短篇競作 村上龍、山田詠美他

<読む前の大使寸評>
表紙に出ているように創刊1000号記念特大号とのことで、これがゲットする決め手となりました。

rakuten 文学界(2021年2月号)


「21世紀の日本文学」というテーマで3人の書評家、評論家たちが語り合っているので、見てみましょう。
(安藤礼二×鴻巣友希子×江南亜美子)
p362~367
<21世紀の日本文学>
安藤: 21世紀の日本文学というのが今回のテーマですが、21世紀といってもまだ20年しか経っていないんですよね。ちょうど私が、群像新人文学賞の評論部門優秀作を受賞したのは2002年でした。今日のために重要と思われる今世紀の十作を選んできましたが、自分がこれまで書いてきたキャリアをそのまま振り返るようで大変興味深かったです。同時代という感じがしました。

鴻巣: 私も書評を始めたのがちょうど2000年です。だから、自分の歩みを見るような感じです。

江南: この20年を振り返るにも、なにかたたき台がなければ漠然としてしまいそうですので、簡単な2000年代の見取り図を考えてみたのですが、ここから始めさせてもらっていいでしょうか。

安藤: どうぞよろしくお願いします。

江南: 斎藤美奈子さんと記憶しますが、純文学がミステリーやSF、ホラーといったジャンルの上位に位置するのではなく、並列になったとおっしゃったのが2000年ごろだったと思います。話の力点は、純文学が特権的な文学の形式ではなくなった、という意味です。

 たしかに21世紀の日本文学の特徴として、ミステリーやSFとのジャンル混交的な純文学作品が目につくようになります。ミステリー的純文学の領域では高村薫さんの純文学への転向があり、奥泉光さんははっきりとミステリーを意識した作品を書きだし、そして桐野夏生さんの作品をミステリーか純文学かと問うのは野暮というもの。中村文則さんのデビューも2000年代です。

 一方、SFと純文学はそもそも相性がよかったですが、近年の村田紗耶香さんの作品には、SF的かつフェミニズム的という文脈が浮かびあがります。さかのぼれば川上弘美さん、最近では上田岳弘さんがいます。円城塔さんがSFマガジンと文学界でデビューしたのは2007年でした。つまり、純文学だけが固有のジャンルのコードから自由だという言説が無効になり、他ジャンルでも脱コードの風潮ができたのが、2000年代ではないか。

 ジャンル混交がデフォルトとなったからこそ、改めて「純文学って何なのか」とのとらえ直しが必要になるのかもしれません。
(中略)

■ディストピアはリアリズム?
鴻巣: ミステリーとの乗り入れというのはそれまでもありましたが、おっしゃる通り、SFとの結びつきというものはこの2,30年の大きな特徴だと思います。
翻訳者目線で言うと、マーガレット・アトウッドがいて、それからカズオ・イシグロがいます。
 日本には村上春樹がいて、彼は比較的早くからファンタジーとの融合を実践していました。明らかにカズオ・イシグロよりも早かったですよね。

 その状況に乗り入れてきたのが、ディストピア文学なんです。この20年ぐらい、英米では
ディストピアブームが続いていて、もうブームとも言えないぐらいに一つのサブジャンルを形成していますが、この表現方法がはっきり変わってくるのがイシグロくらいからなんですね。

 どういうふうに変わったかというと、昔、ディストピア文学というとSFの範疇だったじゃないですか。ジューヌ・ヴェルヌだって、19世紀の半ばからファクシミリのことを書いていたり、リニアモーターカーが登場したりする。

 とにかくSF的ガジェットを投入して、未来感を作るのがディストピアだったのが、ル・グインなどのフェミニズムSFが「女性のユートピア」を描いた後に出てきたアトウッドの『侍女の物語』が一つの転換点になり、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』で決定的に事情が変化してきたと思います。

 これは一種のSFマスキュリニティだと思うんですけど、先端的なテクノロジーを登場させ物質的なもので世界を加工して作り上げるという、ジューヌ・ヴェルヌからオーウェルを経由してヴォネガットにつながる男性的なディストピア、SF観を、女性的な資質を持った作家が緩やかに覆していった。

 日本でその流れを受け継いでいるのが小川洋子さんであり、村田紗耶香さん、先日刊行されたばかりの桐野夏生さんの『日没』をそこに入れてもいい。別に驚くような未来感を前面に押し出したり、未来都市を構築したりするわけではないですよね。どんどんリアリズムに寄っているというか。

江南: 未来的な予言性のある作品というより、歴史的な検証も含んだ、時間超越的なものですね。結果的に、普遍的な趣きがもたらされるという。

鴻巣: そうそう。川上弘美さんの『大きな島にさらわれないよう』などは神話ですよ。私はレトロ型ディストピアと呼んでいますけど、その潮流はどうしても気になりますね。

 その中で重要な存在として、今回規定違反だとは思うのですが、小川洋子さんの『密やかな結晶』を十冊に入れました。日本では1994年に出ているので厳密には21世紀の作品ではないのですが、2019年にスティーブン・スナイダーが英語に翻訳したことによって、いま英米で大いに再評価を受けていますね。

江南: 小川さんがまだデビューして7、8年で書かれた作品ですが、のちの小川印がすでに濃厚に出ています。

鴻巣: 芥川賞を取って3年目で書いた、長編第1作なんですね。翻訳って時計の針を進めたり戻したりすることができると思っていますが、今回は時計の針が進んだというか、現代にアップデートされて提示されたんでしょう。今、英語圏では『密やかな結晶』を『The Ⅿemory Police』という新刊図書として読んでいるわけですよね。

 日本の私たちが20年も翻訳されなかったピンチョンを、新刊図書として読むのと同じようなことが起こっている。作品の提示の仕方を変えてことで、今、読者の心にものすごく刺さっている。だから、私たちもこの作品をもう一回見る目を変えて読むというのはいいかなと思ってリストに入れました。

 『密やかな結晶』は、今読むとディストピアだってわかるじゃないですか。だけど、刊行当時はファンタジーとして読まれていました。
(中略)

江南: 多和田葉子さんとかもそうですね。

鴻巣: そういった変遷がこの20年に起こった大きな変化の一つだと思います。ディストピア文学の中での流れですけどね。特徴の一つとしては喪失や消失があって、作品の中で登場人物はよく記憶をなくすんです。カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』もそうですし、J・Ⅿ・クッツェーのイエス三部作でも、記憶を消せない人というのが咎められる。『The Ⅿemory Police』も一緒で、記憶を消せない人が取り締まられるディストピア。

 歴史修正にもつながるそういうところがリアリティをもって受け止められているのでは。
<偽史小説と性的多様性>
安藤: (中略)
それともう一つ、ここ数年本当に顕著になってきていると思うのは、主に男性作家たちが描く偽史の世界です。

鴻巣: もう一つの別の歴史を描いた作品が、たしかにかなり多く発表されていますよね。

安藤: この20年、阿部和重さんの『シンセミア』から始まって、村上春樹さんの『1Q84』だってまさにそうでしょう。男性の作家たちは本当に偽史しか書いていない。上田岳弘さんの『キュー』もそうです。満州事変から始まって、それが現実とはまったく異なった別の未来へと続いていく。ほとんどこの20年間、男たちはただひたすら偽史だけを語り続けているのではないか。

 それではもう一方で、女性の作家たちは何をやってきたのか。こちらはこちらで、性的多様性、あるいはそうした性的多様性が認められた上での生殖的多様性というべきものだけを語っている。
(中略)

鴻巣: 私もまったく同じことは考えていました。安藤さんがおっしゃった偽史小説を、私は叙事的なクロニクル小説と呼んでいますが。

江南: 島田雅彦さんの『君が異端だった頃』も一種の文芸偽史で。


ところで、2年前の図書館放出で入手した『文学界(2019年1月号)』が興味深いので、ときどき再読しております。
『文学界(2019年1月号)』4 :多和田葉子と温又柔との対談





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Last updated  2021.11.11 00:14:44
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