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「極楽浄土迷宮」2 ★続きはアマゾンの、キンドル電子書籍でね。 デビューは、有名作家や編集者を呼ぶ小説講座出身の人が多し。あとは作家、業界人の家族、総取り? その辺の人は、参考にされて終わります。「あぁ」 山が騒いで、小さなお天道様が飛び出してきた。提灯だった。続いて、猪のようなものが転がって来た。「鹿?」「なに?」 小梅がぎゆっとしがみついてきた。愛しくなって私も腕に力を入れた。岩をつかんでいた足元が揺れた。「だ、助けてく、れ」「助けて、く」 飛び出してきたものにつかまれて、ぞっとした。狼狽して思わず投げ出した。「兄さ、ま」小梅が小心者の私を見て、声を上げた。「どうしたんだ? お前は誰だ」 近付かないようにして、視線だけを向けた。闇色のなかで、転がり出てきた男は、助けを求めるように悶えていた。「わ、わしは、わしは、五蔵、ごぞう」「わ、わたしは信徳だ。海鵬寺の和尚だ。しっかりしなさい」縁もゆかりもない男であったが、僧侶として五蔵を極楽へいけるように看取ってやらねばと思っていた。「寺、坊主、か。気を付けろ。噂に。お前は、お前は誰も、誰も救えない。仏、は、誰も救えない」「は、何だ。もう一度言ってくれ。何を気を付けるんだ?」安心させてやろうと、しっかりと身体を支えてやった。だが五蔵は、なぞなぞのような言葉を発するばかりだ。「誰が誰を救うんだ?」「お前、は、誰も救えない。仏、誰、も、救えない」「何だ? 一体、お前はどこの村のものだ?」「ご、ぞう、北法華村、ひやく、しょう」どうも南法華村と双子村と言われていた北法華村の百姓であることは判った。半死半生の男は口をパクパクするのが精々のようだった 「あんなに、あんなに、酷い、もの見たことねえ」「しっかりしろ」「ほんと、に、酷い、だった」「おら、逃げちまった。逃げちまった。耐えられんかった。あんなん誰も、できねぇ」「に、は、誰もなれねぇ」「おい、しっかりしろ」「う」山が騒いで、また何かが飛び出してきた。ひとつ、ふたつ、みっつと闇夜から現れ、二人の前に立ちふさがった。「誰だ? 私を海鵬寺の信徳と知ってか?」「信徳、知らんな。構わん」「その男を寄越せ」「もう死んでいる」「構わん。寄越せ」「五蔵は私を、仏を頼って私の前にやってきたのだ。これも大日如来さまが結んだ縁だ。私が海鵬寺で五蔵を丁重に弔いたい」「五蔵は北法華村の者だ。そこで弔うのが五蔵のためだ。家族もいるし、その方が喜ぶだろうさ」「じゃ、家族を寄越しなさい。そうすれば、引き渡そう。お前たちが善人とは限らないからな。もしかしたら、五蔵を殺したのは」「坊主のくせに、私たちに逆らうとは、な。それに殺してなどいない。こいつが自ら進んでやっていた行で弱っただけだ」「私は武家の末裔だ」「武士? それは何だ? 糞か?」「う」悔しいが何も言えなかった。この世ではすでに何の役にも立だなかった。主人も禄もなく、庶民として細々と生きている。「屍のような面だ。その白っこい腕じゃ、役に立つめえ」「私には大日如来さまがついている。きっと助けてくださる」 合掌すると、男たちをにらみつけた。私は小心者だが、成り行きで逃げることもできない。抜けそうな腰を励ましながら、私は鬼のような輩と対峙していた。「兄、さん、やめたがいいよ」 小梅は止めたが、小心者ゆえに、引っ込みもつかない。「くそ坊主め」「やれ」 言うが早いか、彼らは鍬や鎌を振り回した。すでに武士でもない私は、地面に転がった。世が世なら、剣術を研き、立派な剣士として立ち向かったのにと、奥歯を噛み締めた。「や、やめろ」 逃げ足だけは早かった。私は観念すると、小梅の手をひっぱった。そうして女を抱えるようにすると、五蔵の遺体を見捨て、道なき道に飛び込んだ。さらに獣道へと走り込んで、ひたすら寺を目指しひた走った。 小梅を家へと送って、寺で一眠りした。お勤めに遅れたので、慌てて本堂へと向かっていた。 正面北の須弥壇に本尊が祀られている。こうして道場を飾り立てるのは、そこに仏が宿る宇宙の霊界を招き、この道場のなかに「小宇宙霊界」を現出するためだ。「信徳さま、息災ですか?」「茂さんか、あんたのところも、皆元気かな?」 村の衆が顔を出したので、私も相手をすることにした。檀家を大事にせねば、寺はやっていけない。「うちは相変わらずでんな。東京の大学へ行ったせがれから、電報が来よって、さっそくの仕送りですわ」「そりゃ大変なことやな。しかし太平の世だ。何もないのが一番だろう」「信徳さま、日照りで稲が育たねえ。雨ごいも役に立たねかった。今日も勤勉なお勤めで、わしらの救済を大目如来さまにお願い下さいな」「もちろんだ。私は皆の救済を願っている」 文明開化の後も、村の者たちは文明に見離されている。南法華村のような緑陰の牢獄で、今も来ぬ救済を待ち続けている。業病での悶死を免れられば、まずは安泰と思わねばならぬ程度の粗末な生活だ。 もちろん寺でさえそうだ。いつ廃屋になってもおかしくないほどの、痛み具合だ。廃墟と言われても不思議ではないだろう。金を集金せねば、改築もままならない。「信徳さま、庭のお清めが済みました」 弟子の慶徳が声をかけてきた。「では本堂を徹底的に清めなさい。ご本尊さまへの愛慕の念を忘れぬようにな」「はい。わかりました。さっそくお清めいたします」 慶徳はまだ十六才だった。八才でここにきて仏門に入った。「あ、そうだ。信徳さま、咲さまがお探しでした」「そうか、今すぐいく。なにか言っていたかな?」「いいえ。別に」「そうか」「では」 許婚の咲が、何か感付いていないかと思ったのだ。女は侮れない。夜中に提灯を下げて山を彷徨っていた姿を、誰かに見られてはいないかと心配だった。その噂が咲の耳に入っていたら、くそ坊主の焙印を押され、寺から追放されてしまう。 慶徳は丁寧に頭を垂れると、本堂へと向かっていった。「信徳さま」 咲が境内の庭を眺めていた。梅色の袷をさり気なく着ていて、若い女の匂いがしていた。京のものなのか、ほのかな匂い袋の香が漂ってくる。まだ髪結いをしていて、そこからこぼれた細髪が、色香を漂わせていた。咲は小さな商家の娘だった。ささやかな金を持参金として、廃屋同然の寺に運んでくる。「明日は祝言ですよな」「そう、やったな」他所ごとを考えているような口調だ。「あてらの祝言ですよ。夫婦になるんですわ」「そうや、な」相槌を打つだけのような返事をした。「許婚になってもう一年。長かったんや」「そう、や、な」何かを念入りに確かめられているようで、恐怖を感じた。「なんや嬉しそうやあらしませんな。逆に、悲しそうや」「そんな、そんなわけないわ。嬉しいわ」私は形式ばった口調になったので、しまったと思った。気をつけなければ、感づかれてしまう。「そうですか。ようわからんお人ですからね」 私はしばらく、人として大罪を続けてきた。仏への背信。小梅への申し訳ないという想い。他の女と夫婦になってしまえば、さらに小梅との関係は、江戸の世なら傑獄門になる行為だ。 だからどこかで祝言をあげたくない、ここから逃げ出したいと願っていた。 そう、小梅は捨てたくない。別れたくはない。逢瀬を重ねるたびに、思慕が募っていた。二人でも三人でも女がほしい。いつまでもいつまでもこのままでいたい。ふと京の遊女屋を思い出した。「大日如来さま、私を地獄へと送らないで下さい」「信徳さま、どうしはったん?」「え、あ。何もない。気にしんな」 女は鋭い。気を付けねばと私は肝に命じた。「今日は写経会に来てくれてありがとう。さ、茶でも飲んでからゆるりと始めましょう」 時折、般若心経を模写すると行事を行なっている。本堂のそばの部屋にはずらりと有志が集まっていた。今年は日照りで百姓ができぬので、ハ、九人ほど集まっていた。読み書きができぬ者はどんなに声をかけても、ほとんどやって来ない。気紛で来る者が一、二人いればいいほどだ。「般若心経にはたった二百六十四文字のなかに、仏教の教えが詰まっています。これを写経するだけで、大日如来さまのお心に近付くことができます」 粗末な着物を揺らして、私は写経への意欲をかきたてた。粗末な寺の粗末な檀家たちを、これ以上減らしてはならないと思っていた。「ありがたや、ありがたや。楽な仏道修行ですな」「わてらの写経で雨が降れば、如来さまに娘を嫁にやってもよいのやが。村中の器量よしを捧げてもいいわな」「如来さまは、仏さまやから、器量よししかもらわんな」「こっちの八重は器量は悪いけんども、働き者や」「わてらは、文字も書けまへんが、大丈夫ですかいな」「ま、そこは心ですから。魂のもち方ですわ。たとえ上手に書けずとも、経を写経をすることに意義があるのです」「なるほど。さすがは坊さま。いいこと言い張りますわな」「ではまずは合掌してください」「そうして深く一礼です」 私は、僧侶らしく清浄な声で言った。「継ぎは呼吸を整えてください。深く深く息を吐き、落ち着いて」「そうしてゆっくりとした面持ちで心を込めて墨をすりましょう」 私が指導するたびに、村人たちはふんふんと頷き、まるで童子のような顔で見た。「印を結び、ゆっくりと落ち着きましょう」「そうして経を写していきましょう」「写経とは仏様と向き合う行為です。身を清め真摯な態度で始めて下さい。静かなる態度と、静かなる意識で向き合って下さい」「あ~、風呂にももう数週間人っておりませんが、いいでしょうかな?」「皆様の意識が大切なのです。仏様への敬愛があれば、決してお咎めなどはないでしょう」「さあ、手本をなぞってください。作法には一字三礼というものがあります。一字書くごとに三回礼をするというものです。しかし先程も言いましたように、大切なのは清く真摯な意志です。作法がすべてではありません」「なんか写経でいいことありますんか?」「素晴らしい効能があります。集中力が高まり、忍耐力もつきます。心身共に癒され平安になります。頭がよくなり、字も美しくなるでしょう」「ほあ、いいことづくめですな」「しかし気を付けてほしいのは、写経の扱いです。書き写したものはもう大切なお経なのです。しくじった紙もすべてこちらへ納めて下さい。お焚き上げをしてさしあげます」「写仏もしかり。経の文字はすでに仏様なのです。汚してはいけません」「ひやー、恐いでんな」 猟師の敬次郎が声を上げた。五十過ぎの独り身だ。息子と孫と三人で暮らしている。嫁は一年前に他界した。「般若心経を唱えればさらに、癒しを感じるでしょう。あたかも仏様があなたたちの前に降臨され、話をされているように感じるはずです。身を清め清浄になり、落ち着く場所で唱えるのです。合掌し暗唱できるようになるまで続けてください」 どこかで自分に酔っていた。なんて立派な僧侶なのだろうと。どこかの高僧にも負けぬではないかと。どうしてこんな粗末な寺でくすぶっているのだろう。 写経への心構えや方法を説いたあと、庭に目をやった。今年は猛暑の上に雨が一滴も降らなかった。日照りで田は割れていた。備蓄米で飢えは凌げるが、現金収入は断たれる。米以外のものは、手に入れる事が難しくなるだろう。(おいで、おいで。私はおまえの女。どうしてここにいるの。どうしてここに帰ってきたの。あたしの愛しい男。帰っておいで。私のもとへ)(おいで。おいで) 天女が呼んでいる。私は目をこすった。庭に立ち、優雅な衣裳を揺すっていた。風が踊るたびに、女は笑っていた。笑うと口が大きく開いて、真っ赤な唇が騒いでいた。 おいで、おいで。おいで。おいで。 天女が私に呪咀を吐いている。
2012年01月21日
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「極楽浄土迷宮」 ある文学賞で、落選しました。可愛そうなので、将来は、○○文学全集に収録します(笑)「魚女~」とは違って、時代物ですが、自分の好みで「飽きないよう」に書いてあります。 煩悩だらけの主人公がそこを見込まれて、○○にされてしまうので、ちょっぴりエロにしてあります(笑)↓ 時代考証は先生に見て貰っていないので、怪しいです(笑)ちょこちょこと、誤字があるし、校正が必要デスね 大坂からさらに西の奥、京から三十二キロ南西、山に囲まれた南法華村に海鵬寺はあった。山門の左手には庫裏と客殿があり、さらに右手奥には本堂がある。ご本尊は大日如来だ。「慶徳、ちょっと境内を見てくる。火の始末を忘れないようにな」「へえ」「古寺やからな。小さな火で燃えてしまう。始末だけはしっかりな。それを済ましたら、先に寝てしまいな」「へえ。判りやした」 弟子のまだ幼い声が聞こえて、私は提灯に灯を入れた。まだ夕暮れだが、じきに闇色になるだろう。草履に足を入れ、親指でしっかりと花緒を締めた。着流しに草履。正体がばれぬよう、南法華村と変わらない百姓のような着物を着ていた。商売がらどうしても変えられぬので、風呂敷を深くかぶり頭部は慎重に隠蔽していた。足元に注意しながら、夜を探っていた。 世はすでに文明開化を終え、江戸時代という鎖国が開けてからすでに六十年近くたった。しかし山間部という暗幕が、大正十三年となっても、鎖国のように南法華村を覆い隠していた。 西洋文化の薫りはまだ東京などの大きな都にだけ漂い、ここは江戸や室町時代と閉ざされているという感覚では大して変わってはいない。 特に仏門の道は、仏教伝来初期と変わりがない。質素倹約、肉食禁止などの禁欲に従い、日々衆生救済のために経を唱えていた。こうして私は堅実に、仏の教えを守り継いでいた。 こうして山門の前に立っていると、村のある場所から少し離れた場所で檀色の灯明が見える。私の女が呼んでいる。 私は手にしていた提灯を振って、合図をした。さらに灯明が揺れて女が気付いたことがわかった。「三郎大さ、ん」「こっちや。こっち。気を付けてな」 山々の創り出した巨大な影をぬうようにして、私は灯明を目指していた。延々と村まで続く石段を探りながら下りて行く。草履に力を入れて、転ばぬようにしていた。街とは違い、夜のここには地獄のような闇しかない。蛸魅蛸蝋に足から食われそうな気がしていた。夏にもかかわらず、指先が冷えてきた。男の私でも、揮の隙間から屎尿を漏らしそうになっていた。「兄さん」 「そう呼んではならんと言ったやろ」「そうですな。三郎太さんでしたな」 村いちばんの美女、小野の小町の再来と噂されていた母のお菊に瓜二つであった私。美丈夫ゆえに、京や先々へ住職と出掛けた折りには、女たちにやたらと声をかけられた。 しかし私は修行の身と思い、欲情を押し込め堪え忍んだ。けれども住職でさえ遊女屋をすすめた。僧侶もすべての煩悩を知らなければ、人々の人生相談に応えることはできないと言った。これも庶民のすべての生活を知り、的確な助言をするための勉学と思い、私は妓楼へと出掛けた。 妓楼で、最初に肌を合わせた女を今も覚えていた。つるりとした皮膚の上を滑っていった肌触りを、今も感じている。蝋肌に薄紅色の女の称号。見惚れて眺めつづけ、すぐに暴れることができなかった。生々しい女の暖かさと足の冷やかさを玩びながら、私は男になった。美女ではなかったような気がするが、天女ではないかと思った。次第に女の顔は如来の面立ちへと変わり、如来を仰ぎ見る度に女を想った。 私はすぐに仏の神々しいお顔に憧憬の念を抱いていたので、美しい女を見ると如来や観音様に見えてしまうが、性別がないと言われながらも、如来は本来男性だ。 それでも私は愛しい女たちを如来に見立ててしまう。修行が足りないのだ。「気付かれんうちに、いこか。気を付けんな」 女を静かにうながしながら、足元を提灯で照らした。獣道を踏みしめながら、足先で先を探った。草履が何度も離れて行きそうになって、足指を固くした。「こちらやったな?」「いえ、あちらでしたや?」 何度も繰り返してきたいつもの逢瀬だったが、墨色の道行は私たちを惑わせようとしていた。柔らかな指先をさらに握り込んで、女を導いた。私の指が肌を這う瞬間を強く望んで、私はロを震わせた。「こっちやな?」「あちらでしたや?」 たわいない言葉でも、愛しい女との逢瀬は楽しい。しかし隙を見せれば、闇色の蛤魅魁蛎たちの杜に飲まれる。 逢瀬の場所は昼間ならすぐに見付けられるのだが、墨色の夜は目眩がするだけだ。 彷徨うように歩いていると、やっと洞窟が見えてきた。洞窟は水茶屋のように、男女の逢瀬の場所に使われてきた。江戸の時代はそのようであったが、私は自分たちだけの場所にするために、蛸蛎たちの巣窟だという噂を流した。今は誰も近寄らず、二人だけの場所になった。 天皇の顔さえ知る者はほとんどいない。江戸から明治、大正となっても、何が変わろうか。「父上はどうやったか?」「お変わりあらせん。武家の家系であったというのに、文明開化で始めた新しい家業についてゆけず、脱け殼のようになったから。母上が農業を始めて飢えをしのいでまいりましたけど、父上はますます亡霊のように。こうなると男はんはあきませんな」「そうやな。明治の世になり藩は消え、主君のもとを離れ自ら商売を始めても、侍は失敗ばかり。その負がまだ残っておる。父上の時代になっても立ち直れておらん。平民になって何の誇りがある」 私は声を荒げずに、ささやくように言った。今さら声高に叫んだとて、どうなるというのだ。武士の身分が返って来るものでもあるまい。過去を振り返り嘆くのは、愚か者のすることだ。「私は商いも百姓もできんから、仏門に入った」 私は七才で出家し、修行の道に入った。住職の元で苦行のような修行に耐えた。そうして南法華村にある海鵬寺を任された。十九年の歳月、ここにいる。 すでに妻帯が許されていたので、二十五で許婚を持った。私には八つ違いの妹小梅がいた。「兄さんが、お坊さんになると言い張ったときには、あては心臓が止まりやした。そのように感じましたな」「父上をとにかく大事にしてやってな。最期まで武家の家系として死なしてやってな」「へい。そうですな。可哀相なおひとよってな」 湿った洞窟の奥で、灯を灯すと、敷き込んでいた藁に身を預けた。続いて女が体を預けた。すぐに二人は冷えてきた体を合わせた。 時折てらてらと白むので、水滴が壁を這っていることが判った。轟たちが騒めき、肩を震わせた。遠くから地下水が吹き出す音が聞こえて、内耳をくすぐっていた。山の深部にある洞窟には、仏でさえ眼力が届かぬように思われた。秘め事はここに限る。暗黒への穴だ。 腕に力を入れて女の膨らみを確かめた。女は恥ずかしがって、少し離れたが、すぐに戻ってきた。「兄、いえ、三郎太さん、暖かいですや」「もっと強く。いいな。小梅」「三郎太さん、離さんで。強う、強う、な」 私は節だった指をのばして、着物の上を這わせると、小梅の尻を探した。 なめらかな小梅の体は、京の最初の女、天女よりさらに張りを持っていた。 すでに恋しい小梅を抱いていても、最初の女、天女を思い出す。私はくそ坊主だなと顔をかいた。 いつまでも如来や観音を思慕するように、彼は天女を懇っていた。淡い桃色の着物が小梅のためにあるかと思われた。それほど、は妹が可愛い。これは仏でさえもどうにもできぬこと。男は女を求める亡者なのだ。取り上げられたら、狂人となって荒れ狂う。「三郎太さん、他の女を想ってるやろ?」「いや、想ってへん」「ぜったい、ぜったい、女や。三郎太さんは、京によく行ってたから、そこできっと惚れられてた。女子たちに囲まれてくそ坊主になったんや」「くそ坊主って。やめてくれんな。僧侶やで。止めてくれんな」「でもいい。愛してる。兄さん愛してる」「今は、兄妹違うんな」「うん」 湿って肌寒い穴の中で、さらに二人は強く抱き合った。私は如来を思慕し、小梅は私を想っていた。小梅と抱き合い暴れると、極楽へ近付いたような気がしていた。 小梅が私の太ももをつねったので、小梅のもち肌を指で遊んだ。ねっとりとした皮膚が、私を誘った。軽く尻をたたくと、一瞬で締まった。 二人の柔らかな部分が触れ合うと、さらに熱情で盛り上がった。「もう地獄へいってもいいな」「二人なら地獄もいいな」 如来さまと一緒だと地獄もいい。そう私はくそ坊主なのだ。大日如来さまと一体になったまま、成仏することばかり考えている。 仏に祈り、悟りを開き、開眼し、ついでに衆生救済を祈ってやろう。 こうして開き直って見ても、時折悪夢を見る。仏がいつも胸のうえから覗いていた。そうして、その大きな手で握り潰そうとしているという悪夢。魑魅魍魎たちが見せる夢なのだろうか。それとも自我の罪悪感が生み出しているのだろうかと何度も考えてみた。 仏門に身を捧げた身。だが悟りを開くためにも人であるべきだ、と何度も開き直ってみたりした。「父上を頼むな」「へ、わかりやした。兄はんも、ご機嫌よう」 洞穴を出た私たちは空を見上げた。暁光が闇の隙間から漏れだしている。空が白らんできた。朝が来ると感じた。
2012年01月18日
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