★スーパーマン★好きだ★ 0
プロット「イケメン」 0
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こんにちは。熱いですね。クーラーが壊れているので、扇風機だけです。お金があったら、シンガポールのUSJとか香港とか行きたかったのですが、稼ぎが少ないので、ガイドブックの立ち読みだけで、満足しました(笑)パシフィックリムを見てきました。CGだけで中身はないかもと思っていましたが、優等生的な合格点はありました。日本のよりも製作費がありますからね。失敗はしませんね。演説で予告編を作るとかしないし。あくまでも、映像で勝負ですか。ワールドオブウォーZも見てきました。休日は映画がやっぱりいいですね。涼しくて(笑)ここぞというところはCGで迫力がありましたが、全体的にはま、普通。クライマックスが以外に地味でした。その前までのほうが、迫力がありました。だいたいクライマックスが派手なんですけど。ブラピがでているから、一応大作扱い、ですか?「パピヨンパピヨン」14 短編なのに、終らないね。飽きた~。 成田杏子は、デパートにつづいて大きな袋を提げて歩いてゆく。人の流れに突き飛ばされるたびによろめいていた。二歩下がって熊川は後をついてゆく。早く帰ればいいのにと、内心では思っていた。 人の波から若い男が、一人杏子に向かってきた。きた!と心で叫んで、熊川が男を止めようと、脇から走り出た。しかし男の動きは早く、熊川の方は人の防壁にさえぎられた。男は杏子の右手に提げていた袋とバッグをむしり取ると、きびすを返して雑踏に身を投じた。「おい待て!」 叫んだのだが、男はすでに見えなくなっていた。記憶をつついて、上着の色は確か青で、ユニクロで売っているようなフリースのようだったと認識した。そしてすぐさま青い背中を、潜望鏡のような高さから追った。「あたしのお土産、取り戻して! おサイフも! あれ高かったのよ! ブランドものなんだから」「何もされませんでしたか? ナイフで刺されたりしませんでしたか?」 杏子は、戦利品を失ってかなり衝撃をうけていた。熊川が杏子の全身をざっと調べて、無傷なのを確認する。「大丈夫みたいですね」「早く、早く、荷物取り返して。あいつがストーカーなの?」「さぁ、わかりません」「他にもあなたの仲間がいるんでしょ。あたしはここで待っているから、つかまえてきて。泥棒なんだから、ちょっとぐらい殴ってもいいんじゃないの!」「殴るのはどうも」 熊川は、十メートル先から様子をうかがっている武川たちと、アイコンタクトで合図しあった。俺たちが見ているから行ってこいといっている。熊川はうなずいた。「ここにいて下さい。仲間が見張っていますから動かないようにいいですね」「わかったわ。プロの誇りにかけて、絶対に取り戻してきて!」 杏子は手を振ると、そばのベンチに腰を下ろした。それを見届けると熊川はダッシュして 男を追った。青い背中、青、青、とインプットした。 男は、 確か未来ゾーンの方に走っていったはずだと記憶していた。ひとまずそっちの方へ向かうことにする。しばらく走って(タイムマシンにお願い)というアトラクションの側を通ると、はっと目を止めた。オモチャのような目覚まし時計の形をしたゴミ箱に、あのバッグがあったのだ。杏子のバッグだった。 中身を確認するとサイフがなかった。これは典型的な証拠隠滅の手口だ。あいつはただのひったくり犯人なのだろうか? バッグを持ったまま熊川は捜索を続けた。ストーカーでなくてもスリなのだから、確保はしたい。 入り口付近の警備へ行き、報告と応援を要請するつもりで、(ミッション マーズ)のアトラクションの右横を走りぬけた。すると視界の隅に(青い男)が目に入った。アトラクションの入場待ちの列に並んでいたのだ。 すばやく身をひるがえして、男を追う。「失礼します。通ります。空けてください」 究極のエンターテイメントに包まれ、快をむさぼっているゲストたちを、フットワークを巧みに使ってよけてゆく。「おい! ひったくりやったのはお前だな?」 男の真横にたどりつくなり、肩をつかんだ。この顔だ。元警察官の第六感が叫んでいた。「う、うるさい!」 男は熊川の手を振り払うと、列を整理しているロープをくぐり抜けて走った。確保しそこねた熊川も、男に続いて走る。 男は黒のリュックを背負い、その手に杏子の土産の入った大きな袋をさげている。あいつだ。まちがいはない。 ストーカーであればもっといい。「待て!」 男もゲストたちを突き飛ばし、避け、追っ手をまくべく突っ走ってゆく。テーマパークに酔っているゲストがすぐに煙幕になり、男を隠してしまう。今度こそ逃さない。熊川は痛んできた筋肉に鞭打った。 男の進行方向には、昼のメインフェスティバルのパレードが通っていた。男は構わず突っ込んでゆく。チャンスだ。パレードの沿道は、場所取りのゲストで埋まっている。 熊川はここが最後のチャンスとばかりに、全力で走った。それでもゲストたちがゆっくりと歩いているので、障害物競争のようによけてゆく。彼らとは時間が違った。熊川は光の速度で、ゲストは人間の速度で生きている。 男が、ぬいぐるみを抱いた幼児をよけようとして転んだ。背後を気にしながら、立ち上がり走りだしたが、足をくじいたのか動きは緩慢だ。 すかさず追い付いた熊川は、猟犬のように空を飛んで、男の死角からタックルを成功させた。 男と熊川は、殴り合いの乱闘を始めた。テーマパークの空間とはミスマッチだ。 とにかく杏子の袋だけは取り戻した。 男は立ち上がって、熊川の頭部を蹴りあげた。なんとかよけたが、くるくると踊るダンサーを押し退けて、向こう側へと逃げていった。「くそ!」 こぶしで地面を叩いた。 熊川が、杏子の戦利品を取り戻して、引き返してきたのは杏子を置いて行ってから四十分後のことだった。荷物とバッグだけを、下向き加減の顔をして提げてきた。 杏子は、三色のソフトクリームをなめながら、ベンチに座っていた。退屈はしなかったらしい。「すいません。荷物は取り返しましたが、逃げられました」「ありがとう。あの男がストーカーだったの?」「さぁ、わかりません。昨日までのビデオをもう一度見てみればあの男がいたかどうかわかります」「でももうつかまらないんじゃないの?」「いえ、きっとああいうやつはまたひったくりをやりますよ。もしかしたらすでに手配されているかもしれない。だったら近いうちに捕まりますよ。あとでここの警備に報告しておきます」「でも時間がかかるのね」「まぁ、そういうことです」「そうだ、昼食べてなかったわね。お腹すいたでしょ。あたしのためにごめんなさい。ねぇ、三時のおやつになるけどいい? 未来パークエリアにある、アリアっていうカフェのベーグルサンドが美味しいって、ガイドブックにかいてあったの。そこにいこうね。男のことは後でもいいじゃない」 「・・・・・・・・・・・・・・!」 杏子は、また次の獲物をみつけた。熊川が返事をする前に、自分だけさっさといってしまう。そのあとを、熊川は汗をかきながら追うはめになった。 案内されてテーブルにつくと、杏子は戦利品を恍惚の表情で眺めて、大事そうに椅子のしたに置いた。 あんなグッズを手に入れたことがそんなにうれしいのかと、男は首をひねった。「ベーグルサンドでいいでしょ。一緒に食べよ」「はぁ」 振り回されて疲れていたので、力なく答えた。背もたれに上半身を預けて、筋肉を休ませた。 杏子は、ベーグルに何がはさんであるかを熱心にきいたあと、オーダーを終えた。「ねぇ、あなたのこときかせて」「え? 俺、じゃない私のことですか?」「どこで生まれて、どこで育ったの? 」「あ、いや、その。生まれたのは大阪。でも三才の時にオヤが上京してきて、東京で育ちました」「だから訛りがないんだ」「今は結婚してる? 薬指に指輪してないけど」「ま、まだ一人です。彼女には捨てられたり逃げられたり、死なれたり。まぁ、捨てられるのには慣れてるから、別にいいけどね」「誰かに捨てられたことあるの? 恋人?」「それもあった。新しい男ができたんですよ。好きな人ができたの、別れてねって、あっさりしてた。彼女につき合わされて見た恋愛映画みたいにかっこよくなかった。それから打たれ強くなったのか、もう終わりねって言われても、そうだねって感じで、何も感じなくなったんです」 熊川はおしゃべりになった自身に気づいて、内心では仰天していた。成田杏子の誘導尋問は、魔力ように効いていた。 こうしていると、今日までのすべての小さな悪事まで、打ち明けてしまいそうだった。 あのイケてなかった成田杏子のどこに、そんなワザがあったのだろう。「どん底までいっちゃうと、脳の防御反応で何も感じなくなるんだよ。きっとそう。本当はショックなのにどうでもいい、俺は平気なんだって思い込もうとするんだよ。そうすることで壊れるのを防いでるんだよ。それが人間だよ。そうしていないと人は生きていけない。悲しみは(感じない)のが一番だから」「ホントはとってもショックだったんでしょ? 心が痛かったんでしょ? そういって認めたほうがいいわよ」「そう、そうだ。ショックでした。心は殴られたみたいに痛んでたんです。でもこれが現実なんだ、そうなんだって言聞かせることで通りすぎてきた」「・・・・・・そうなんだな。 俺は生きていくために痛くないフリをしてたんだ」「死なれたっていうのは? どうしたの? 交通事故?」「・・・・・・い、いや。それは話したくない」 熊川は下をむいた。長い間封印してきたことだった。誰にも触れてほしくない。「もうきかないでください。あなたは占い師みたいですね」「ごめんなさい。あたし、人の人生にとっても関心があるの。だってあたしは、あたしの人生しか知らないから」「変わってますね」「そうね」 成田杏子との会話は、不思議と続いてゆく。 もしかしたら、女との会話で最長記録かもしれなかった。「あたしも捨てられたときがあるんだ。最初に捨てられたのが弟が生まれたとき。十才まで一人っ子だったのに、突然もう一人増えたから。生まれるまではお母さんのお腹なぜたりして、弟なんだ、こんな所に赤ちゃん入ってるんだって楽しみだったけど、生まれたらみんなそっちにいってしまった。淋しかった。子供がえりするとかいうけど、そんな年でもなかったから我慢してた。そのとき捨てられたって感じたの」「それから忘れてしまってたけど、どこかでくすぶってた。学校やいろんなところで色々な事件に遭遇して、あたしは運命に捨てられたような気がした。あたしを、神様も仏様も誰も見ていない、見捨てられたって、ずっとそんな思いから抜け出せなかった。あたしてそういう女なの」「俺は母親に逃げられたんだ。あの人は好きな男ができてそいつと再婚するために、離婚届けに自分の所にだけ名前をかいてお願いしますって。オヤジはそれでも届けを出さなかった。あれはオヤジなりの意地だったんだろう」「復讐だよ。オフクロは重婚になったか、結婚できなかったか。後ろ暗いから何も言ってこなかったようでした。こうやってオヤジは復讐をし、息子は見捨てられた」「彼女に逃げられるのはそこに原因があるんじゃないの? お母さんに見捨てられたっていつまでも思っているから」「たぶんそうだよ。そうだと思う。なんだか、これって人生相談コーナーみたいだな」「ほら、ベーグル食べて。美味しいから」 不思議と熊川は気分がよかった。沈んでいた汚泥が流されたように感じた。成田杏子は只者ではなかった。通り過ぎるたびに、風を残してゆく。 杏子の真意をはかれないまま、成田杏子とのオヤツタイムは二時間後に終わった。 熊川は杏子の話術で、初恋の教師のことや初体験のことまで話していた。冗舌になった自分に照れていた。
2013.08.14
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こんにちは。昼間、暑いですね。夜はそうでもないので、クーラーなしで扇風機だけで寝られます。 神戸の花火大会に行ってきました。カメラを忘れたし、スマホはないので写真はありません。大都市の港湾での花火って、障害物が多いんですよね。いい場所は3時間前で立ち入り禁止になるし。3時間も待てないので、規制のない場所に潜んで鑑賞しました。意外に花火って、低いんですよね。たまに大輪がいくつか咲いて、よく見えたって感じです。下の方でもいくつかバチバチ上がるのですが、倉庫とかクレーンとかがあって邪魔。クレーンをエッフェル塔だと思い込むことにして鑑賞していました(笑)場所取りよりも悲惨なのは、通行止めのため駐車場から午後4時半から午後10時まで出入りできないことです。早めに並んでいても割り込みや合流で、一時間以上ほとんど動かず。10時40分くらいにやっと料金支払い機の前にたどり着き、夢と希望が~(笑)ゲートが開いたままになっていて、無料になっていました。規制のために2千円ほどになっていたはずなのですが、無料でよかったです。支払いだけで、1、2分かかりますからね。全車が払っていたら、2、3時間駐車場から出られなかったかも。一時間チョイで出られてよかったです(笑)でも、もう車はこりごり。やっぱり、時間が読める電車がいいわん。あたしは、電車がいいけど、車でどこでも行く人はやっぱり車じゃないとダメなんですよね。関係ありませんが、ローンレンジャー、面白かったです。主人公が2枚目半だし、ジョニーさんもパイレーツの船長のままの微妙なおかしさ。道化役。少々長いのが難ですが。クライマックスが2回くらいあるんです。ワイルドスピードもそうだけど。最近は多いですよね。次は、ワールドオブウォーね。ゾンビものらしい。ゾンビ化病が蔓延という話。迫力があるので、ま、ゾンビでもいいわ。「パピヨンパピヨン」13 (十三) テーマ音楽が風と同化して、愉快だね、楽しいねと人々の耳元に囁きかけている。足はステップをふみ、楽しげに談笑している。ここは楽園だった。 フタを開ければエンターテイメントと音楽があふれだす。ここはハリウッドジャパンというテーマパークだった。 成田杏子の浮かれようをみると、やはりといった気がした。バッグからガイドブックがのぞいている。 昨日のアウトレットのように、目を付けたところは一つも逃すことなく行くのだろう。 ここはディズニーランドに対抗して、近接都市に作られた滞在型テーマパークだが、着ぐるみが踊ったりするわけではないので、子供向けではなかった。 熊川は、前の恋人とディズニーランドには三回行った。その前の彼女とは四回行った。 恋人がいなくなったら、行く必要がなくなった。高い入場券を買わされる事もなく、内心ほっとしていた。 とにかく若い女はテーマパーク好きだ。今は風変わりな女、成田杏子と「白亜記ライド」に、もう一時間も並んでいる。「いつ入れるかわかりませんよ」「あと三十分だって言ってたわよ。これ見たら次は(アリスの冒険)に並ぶわ」「・・・・・・」 熊川は悪寒を感じた。鳥肌がたった。どうして身辺警護の仕事で、テーマパークのアトラクションに二時間半も並ばなければならないのだ。 それもこれも、変人の依頼人のせいだった。それでも潜水艦の潜望鏡のように、頭ひとつ飛び出たところから周囲を監視していた。ストーカーはきっと、今日も杏子の後をつけているはずだ。 人並みの向こうにいる室井たちが、ビデオをショルダーバッグに忍ばせて、周囲の様子を記録している。向こうも、成田杏子を何度も見失っているようだ。離れないように気を使った。ストーカーの姿をとらえられれば、仕事は終わるのだ。 今日こそはストーカーを突き止めてやりたい。その前にメールアドレスから割り出されるだろうが。 やっと「白亜記探険ライド」を見終わって出口から出てきた。二時間半も待たされた挙げ句、中でまた十分も待たされたのに、杏子は楽しそうにスキップしている。 熊川は、足も神経も疲弊していて、気をまぎらわせたかった。張られたロープをひらりと乗り越えて、ドリンクバーに走っていきたかった。 しかし、依頼人の傍を離れては警護にならない。誰もがストーカーに見えた。たぶんストーカーは一人だ。もちろん男だろう。男がテーマパークで一人で歩いていれば、いやでも目立つ。 みつけるのは町中よりも簡単だ。楽勝だと思われた。ビデオにもきっと映っているはずだ。あとは確かめればいいのだ。 勝利は目の前だが、それでもVIPを暴力から守るために目を光らせた。 一体あの女は、何を考えていると思った。ストーカーを連れ回して、楽しんでいるのか? それともストーキング行為の証拠をつかもうとしているのか? 熊川は首をひねった。「次は(魔女の迷宮)よ」 (魔女)と聞いて鳥肌がたった。 魔女のいけにえにされかけたあの夢が、蘇ってきたからだ。 魔女に体中をなめまわされたような悪寒は、夢の中とは思えぬほどの恐怖を感じた。 (魔女)は勘弁してくれと思ったが、保安上の観点からもVIPから離れるわけにはいかなかった。 魑魅魍魎のような、次から次へと現われる魔女たちに怯えるはめになった。もちろんボディガードのメンツもあるので、あくまでも涼しい顔をし続けた。 跳ねるように歩いてゆく派手な女と、その後を三歩下がってついてゆく歪んだポーカーフェイスの男。これでは、女は一歩下がって夫の後をの逆バージョンだ。 子供も多いテーマパークでは、妙に浮いていた。「次はアマゾン探険館よ」 言うが早いか、熊川が場所を確認する前に、杏子は走ってゆく。「急いで! 人気アトラクションだから早く 並ばなきゃ。おいて行くわよ」 何度も人並みに飲み込まれてゆく、杏子の茶髪の頭をみつけながら、時にはすれ違う人々をつきとばし全力で走った。 まるで人の迷路だ。はぐれても熊川はアマゾン探険館の場所がわからない。杏子の背後にぴたりとついていればよかったのに、思惑がはずれてばかりだ。 そういえば、女三人男三人でグループ交際をしたときも、男どもは何度もはぐれた。 女たちは巧みに人をかきわけて、目的のアトラクションにたどりついていた。はぐれたら入り口付近だとか約束しても、うまく行かなかった。いつもはぐれるのは男の方だった。 それを何度も繰り返し、それだけで体力を消耗したことがあった。こんなときその悪夢がよみがえった。 もしこのなかにストーカーがいて、欲望を満たすために暴力に訴えようとしたら? もしそのポケットに凶器でも潜ませていたらと思うと、ぞっとした。 どんな時でも、どんな状況でも、VIPを全力で守るのが任務なのだ。 まだ若いのに、リストラ対象になるのはごめんだ。「杏子さん、成田杏子さん! どこですか?」「こっちよ! ボディガードのくせにだらしないわね。ちゃんとついてきなさいよ」 彼女はさっさと並んで平然としている。本気で情けないといった顔をした。「すいません」 情けない。プロとしてのプライドは、成田杏子の言動の前にすでにズタズタにされていた。 私服にしたのは正解だった。スーツで走れば汗でやられるし、制服だとまるでスリを追いかける警備員だ。「次はスーベニアショップでお土産を買うの。かわいいグッズがたくさんあるんだって。これに載ってるカップほしいな。絵がしゃれてるんだ©」 オフィシャルガイドブックで確認するたびに、成田杏子は狂喜して叫んだ。いい加減にしてくれと悲鳴をあげている足をさすりながら、ついていく。 ヨーロッパの街角を模したスーベニアショップのアーケイドを、弾むように杏子は練り歩いた。 その足はスキップをしている。よほどうれしいのだろうと思った。 子供のようにはしゃぐのを見ていると、女は誰でも似たようなものだと思った。二十分後杏子は、いくつも袋を下げていた。「クマカワさん、これってかわいいと思わない? え、そうでもない?」「このクッションって、面白いわよ。だって裏返したら帽子になるんだから。これも買おうかな。抱き締めて寝るとよく寝られそう。え? そんなあきれたような顔しないでよ」 あの百貨店での買物と同じ状態だ。入る店入る店で、何かしら買っていた。 その無敵の購買意欲は、買物依存症なのかと思えるほどだ。その貪欲さには、人の懐ぐあいでも心配になってきた。成田杏子は不死身のショッパーだった。 そうして熊川は杏子につきあわされ、ハリウッドランドで一日中アトラクションに並ばされた。 一つあたり平均一時間も並んで、熊川はまたフットケアマッサージに駆け込みたかった。「ちょっと失礼」 杏子のそばに若い男がとおりたびに、目を光らせた。それでも杏子がどんどん移動していくので、そのたびにストーカーの容疑者が増えてゆく。 疲労も頂点に達してきたので、このままVIPを連れて帰りたい。「ああ、楽しかった」「よ、よかったですね」 必要以上にVIPとは会話をしないものだが、疲労し弛緩してきた思考が言わせてしまった。満足しきった杏子は満面の笑みを浮かべて、テーマパークの余韻に酔っていた。 こっちはストーカーが襲撃してこないかと、生きた心地がしなかったというのにだ。全くやっかいなVIPだ。あれは媚薬だと熊川は思った。 女はいつも、テーマパークの計算されたあの媚薬を嗅いで、何度でも来たがるようになる。それにつき合わされる男どもは、哀れな犠牲者だ。 杏子は、まだ妙な未練があるらしい。何度もパンフレットを見ていた。オフィシャルガイドブックに印までつけて、見終わるたびに見逃しがないか確認している。 彼女も媚薬を嗅いだのだ。今度付き合う男は自分でないことを祈った。
2013.08.04
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こんにちは。キンドルアプリで作品が売れていました。外国では高め、日本では安めで売っています。どうせ海外じゃ売れないもん。オール日本語だから。時代物です。どうも現代物は人気がない。作者のお薦めは現代物と、ホラー系ファンタジーなんですけど。リカちゃんとかトウヤ君とか良く動いていると思いますが。似たようなのがバンバンでるので、投稿は危険です。頑張っただけに、首をつりたくなります。あまり売れなくてもキンドルがいいよ。一ヶ月で千円以上でないと、なかったことになるので、社食代にもならないでしょう(笑)時代物のほうがいいのかしらん。拙者とかワシとかいう主人公っていやだな。丁髷の主人公も頭の中で動かすのがつらい。女性が主人公でも、江戸時代はアッシとかいって、男言葉と女言葉って同じだったらしいし。関西の少女は「うち」にしたけど。少々田舎の100年前に少女だったオバア様が、「ワシ」といっていたので仰天した覚えがあります(笑)今でも、アテとか、ワシという中高年がいる。同級生にいなかったので、ひきました。彼氏にはちょっとね。キンドルアプリ(入り口)をアンドロイドマーケットでもらって、アマゾンアカウントを入力し、ストアに入るとすぐ買えるようです。「パピヨンパピヨン」12 (十二) そして三日目も熊川は約束どおり、九時ぴったりにやってきた。一分だって遅れはしない。それがプロだ。 とうとう二日目も、ストーカーを特定できなかった。熊川と武川たちが、何度も成田杏子を見失ったことも、原因かもしれない。 また黒星だ。敗北だ。御灸をすえるのが、また伸びた。 成田杏子の自宅マンションの付近では、すでに通勤するサラリーマンたちの姿はなく、通学する子供の姿もない。 生ゴミも回収され、パートに出る主婦や営業の車が時折通りかかるだけだ。朝の遅れた喧騒だけがそこにはあった。 また主婦や子供の人並みの中を、スーツで歩くのは制服と同じくらい浮いていたので、今日からは私服にした。 彼女の行動は予測不能だ。恥ずかしくない程度のラフなシャツにブラウンのジャケットに綿パンだ。 突然(いい女)になった成田杏子に、ダサイと言われる覚悟でやってきた。しかし身辺警護をするのに、ダサイも何もないだろう。 今日も成田杏子は、出かける予定だと行っていた。内心ぞっとする。昨日目撃した彼女の万引きを、どのように処理するか、まだ考えあぐねていた。ずっと家に引きこもってくれていれば、どんなにか気が楽だろう。 主任は、未遂に終わった杏子の万引きを見逃すつもりらしい。というよりも見なかったことにするのだろう。 今日も女は、なにをしでかすかわからない。保証金をもらって契約をかわした以上、任務を降りるわけにはいかない。 ストーカーも、上司が回しているビデオには映らずに、まだつきとめられないでいる。それを解決するまでは、成田杏子の気まぐれにつきあうのだ。体力には自信があったが、彼女に振り回されているとこっちの神経が先にやられそうだった。 女の気まぐれの前には、さすがの熊川のタフな心身も、すっかり疲弊していた。契約の中に、VIPの行動に不適切なものが見られたときは、契約を解除できるなどの条項があればと思った。社長に嘆願しても、加えてもらおうと思っていた。 マンションのエントランスホールに降りてきた杏子は、一昨日買ったニットのワンピースを着ていた。 どこかのスナックのママが着ていた、ブランドもののデザインにそっくりだった。靴もどこかで見たようなデザインだ。たぶん高級ブランドのものだ。これも、あのとき買ったものなのだろう。 変身も三日目になると、眉の線もさらにプロのように思い切りよく描かれていた。 マツゲも見事に上がって、マスカラで固定されていた。口元もピンク色の三日月のように、光っている。シャドウにはいま盛んにコマーシャルで宣伝されているゴールドがちりばめられていた。 美容室から出てきたときのようにプロのメイクアップアーティストのメイクが再現されていた。 きっと、何時間もかかったことだろうと思われた。たった一回の講習で習得した杏子のセンスに感心した。 とにかく仕事が完了するまでは、万引きのことには触れないことにする。「今日はどこへ行きますか? 昨日はよく聞きませんでしたが、たしか無職だとおっしゃってましたよね」「そうよ。だから毎日ヒマなの」 「そ、それで、よく保証金が払えましたね」「オヤが残してくれたお金よ。でもいいの。あたしあまりお金いらないから」「でもあんなに洋服にお金かけてたんですから、これからも買物したいんでしょ」 杏子の買物の仕方には驚いたが、女は元来買物好きだ。恋人がいたときよく突き合わされて足が痛くなり、フットケアマッサージにかけこんだものだ。「いいの。お金だけがすべてじゃないでしょ?」「は、はあ、確かにそうですが。働かないと困るでしょう」「景気が悪いのに誰もあたしなんか雇わないわよ。もう若くないし何もできないの。景気がよくなったら捜してみるわ」「見合いでもして結婚もいいわね」「そ、そうですね」 扱いにくい女だと熊川は思った。しかし今日には、室井がメールアドレスをたどって、ストーカーを突き止めるだろう。 そうしたらちょっと待ち伏せして、御灸をすえてやる。もちろん傷害罪で訴えられない程度でだ。ストーキング行為をやめろといえばいい。体に触らないことが大切だ。それでこの仕事は終わる。「ねぇ、ストーカーはみつかった。昨日のビデオ見たんでしょ? 」「ただの通行人ばかりで不審者は特定できませんでした。絶対にいるはずですから、カメラの死角にいるのかもしれません。なかなか手強いやつです」「そう、まだわかんないんだ」 成田杏子はあくびをして、伸びをした。買ったばかりのバッグを大事そうに抱える。「おれたちはプロですから、必ずみつけます。絶対です。今日は応援がもう一人ついてきていますから、容疑者を特定できるでしょう」「そう、任せるわ。あなた・・・・・・」「は?」「洋服のセンス悪いのね。今度あたしが選んであげようか?」「結構です。職場に行かないのなら、どこへ行きますか?」
2013.07.30
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こんにちは。扇風機だと熱いし、クーラーは風邪引きそうだしで、 体温調整が 難しいですね。関東ほど、ゲリラ豪雨はきませんが。 作家さんの訃報を新聞で見ましたが、だんなさまの後を継いだそうです。 次はお孫さんあたりかもしれないので、その辺の人は無駄な努力は やめましょう。 編集者も漫画家さんとかにデビューしませんかと 声をかけるらしいので、編集者の周りには速攻デビューできる方々がたくさん いらっしゃいます。 その辺の人は、漫画家の作家デビューの「下敷き」にされちゃって終りそうです。 アマゾンキンドルアプリを目指しましょう。アプリは無料なので、アンドロイドかiphoneの OSがあれば、すぐに買えます。 精神衛生上もいいですよ。長生きできそうだしね。完成原稿で入稿できれば、 オンデマンド印刷もできるそうです。三省堂書店には自動印刷機があるらしいです。 背表紙を作るのがね。OSが古いのでダメでした。いつか背表紙をデザインして、 本を作成します(笑)もともと自分の本を出すために投稿していたので、 安く出せたら、オンデマンドでもいいしね。「パピヨンパピヨン」11 (十一) 大帝国警備保障会社の営業所から歩いて三十分の所に、熊川真也のアパートはあった。 いつもミニバイクで通っている。キーをさしてエンジンをかけた。中古車なのでスタートがスムーズではない。何度かふかして、やっと悠長に走りだした。ヘルメットを被っているとハゲるらしいと聞いたので、いつか軽自動車に変えたいと思っていた。 もう若くはないなと思えるのはバイクに乗っているときだ。二十前後のときはフルスピードで走ることが、何よりも最高だった。しかし今は自分でもはがゆいほど、ちんたら走っている。どこかで怯えている。早く通り過ぎてしまうのを。まるで自分の人生みたいだと思った。 もちろん失業しているわけではないし、結婚はしていないが女を作ろうと思えばいつでも作れる。たとえすぐに逃げられてもだ。田村は三日に一度は所帯を持てといってくる。 上司にもそれなりに認められてるし、生きがいも感じている。給料は安いがサラリーマンよりは気楽だ。警察官だったというささやかなプライドも満たしてくれる。 それでも人間は貪欲だ。いつも何かをほしがっている。 再開発にひっかからなかったアパートはとても古い。一揺れくればぺしゃんこだ。それでも男の一人暮らしにはちょうどいい。フロは汚く小さい。大きな熊川が入るとまるで行水のようで、かっこが悪い。誰にも見せられないなと一人で笑っている。しかし共同ではないのでそれなりに気に入っている。 古くて歪んだ木製のドアはカギをあけてから、何度もゆすってあける。毎日このドアと対決して部屋に入るのが日課だ。 いつも黴臭い古びた臭気がするが、すぐに慣れてしまう。これでも彼のささやかな城だった。誰にも侵されないテリトリーだ。この場所を守るために生きている。 部屋に入ってジャージの上下に着替えると、すぐに冷蔵庫をあけた。何もない。ビールの一本もなかった。安月給なので月に一ダースと決めている。ために田村や武川が差し入れてくれるのでなんとかやっている。それでも何もないのはあまりにも惨めだ。家族がいたら、誰かがいたら、何かがあったはずだ。 猫の一匹でもいてくれたら。 途中でおりて買ってきた、コンビニエンスストアの弁当を広げた。カセットコンロで湯を沸かす。 弁当のフタをとると、一気に湿った匂いが鼻孔に飛び込んでくる。この瞬間が毎日幸せだと感じる。淋しい幸せだ。「うまそうだ」 電子レンジもないので、いつも冷めたまま食べる。茶を入れたどんぶりにご飯をいれて、少しだけ暖かくなった。茶漬けのようにすすった。 成田杏子に一日付き合っていると、変わったものばかり食べるはめになった。みんな女の好みばかりだ。熊川は腹がふくれればいいと思っているので、その心理がわからない。いつもどこのカフェのランチがいいとか、どこの居酒屋がいいとか調べてくる。そこへたどり着くまでに、どれほどの労力を使うとしても平気らしい。 腹がふくれると睡魔が襲ってきた。ここは彼の城。誰も邪魔をしない。 ハイビスカスのような華やかな植物が花弁を広げる ここは沈黙の世界 現われたのはパピヨン 虹色に変化しながら飛んでくる 横たわった熊川に重なると その体から糸を吐き出し またたくまに熊川をとりこんで、繭を作り始めた ここは彼女だけの帝国 繭の世界 とりこまれたら逃げられない パピヨンの羽を愛撫し、愛し合い 交尾をしたら、破滅する 繭から出てゆくのは いつもパピヨンだけ うなされるように覚醒すると、そこはいつもの小汚い彼の世界。何十年も前に変色した黴臭い畳に、今でもぎしぎしと音をたてる柱。 粗ゴミ置場から拾ってきた廃品のステレオに電灯。もらったタンス。 女の影もない男の部屋。一つだけあるのは以前ペアで使っていたコップだけだ。すべてもって出ていったが、これだけは男の記憶に刻みつけるように置いていった。まるで女の呪いのようだ。 捨ててしまえない自分に気づいて、失笑した。女は別れてもすぐに角を曲がってしまうが、男は振り返ると過去の女が必ずいるのだ。ストーカーに別れた男が多いのもうなずける。ガラスの割れた掛け時計をみると、もう真夜中だった。 肌寒くて起き上がった。こんなとき美奈子は毛布をかけてくれた。唯一同棲した女だった。一番好きなタイプの可愛い女で、一番プレゼントをした。そんな女でも熊川を見捨てていった。公務員という肩書きでも引き止められなかった。 俺は女にもてないと思った。 (十二) そして三日目も熊川は約束どおり、九時ぴったりにやってきた。一分だって遅れはしない。それがプロだ。 とうとう二日目も、ストーカーを特定できなかった。熊川と武川たちが、何度も成田杏子を見失ったことも、原因かもしれない。 また黒星だ。敗北だ。御灸をすえるのが、また伸びた。 成田杏子の自宅マンションの付近では、すでに通勤するサラリーマンたちの姿はなく、通学する子供の姿もない。 生ゴミも回収され、パートに出る主婦や営業の車が時折通りかかるだけだ。朝の遅れた喧騒だけがそこにはあった。 また主婦や子供の人並みの中を、スーツで歩くのは制服と同じくらい浮いていたので、今日からは私服にした。 彼女の行動は予測不能だ。恥ずかしくない程度のラフなシャツにブラウンのジャケットに綿パンだ。 突然(いい女)になった成田杏子に、ダサイと言われる覚悟でやってきた。しかし身辺警護をするのに、ダサイも何もないだろう。 今日も成田杏子は、出かける予定だと行っていた。内心ぞっとする。昨日目撃した彼女の万引きを、どのように処理するか、まだ考えあぐねていた。ずっと家に引きこもってくれていれば、どんなにか気が楽だろう。 主任は、未遂に終わった杏子の万引きを見逃すつもりらしい。というよりも見なかったことにするのだろう。 今日も女は、なにをしでかすかわからない。保証金をもらって契約をかわした以上、任務を降りるわけにはいかない。 ストーカーも、上司が回しているビデオには映らずに、まだつきとめられないでいる。それを解決するまでは、成田杏子の気まぐれにつきあうのだ。体力には自信があったが、彼女に振り回されているとこっちの神経が先にやられそうだった。 女の気まぐれの前には、さすがの熊川のタフな心身も、すっかり疲弊していた。契約の中に、VIPの行動に不適切なものが見られたときは、契約を解除できるなどの条項があればと思った。社長に嘆願しても、加えてもらおうと思っていた。 マンションのエントランスホールに降りてきた杏子は、一昨日買ったニットのワンピースを着ていた。 どこかのスナックのママが着ていた、ブランドもののデザインにそっくりだった。靴もどこかで見たようなデザインだ。たぶん高級ブランドのものだ。これも、あのとき買ったものなのだろう。 変身も三日目になると、眉の線もさらにプロのように思い切りよく描かれていた。 マツゲも見事に上がって、マスカラで固定されていた。口元もピンク色の三日月のように、光っている。シャドウにはいま盛んにコマーシャルで宣伝されているゴールドがちりばめられていた。 美容室から出てきたときのようにプロのメイクアップアーティストのメイクが再現されていた。 きっと、何時間もかかったことだろうと思われた。たった一回の講習で習得した杏子のセンスに感心した。 とにかく仕事が完了するまでは、万引きのことには触れないことにする。「今日はどこへ行きますか? 昨日はよく聞きませんでしたが、たしか無職だとおっしゃってましたよね」「そうよ。だから毎日ヒマなの」 「そ、それで、よく保証金が払えましたね」「オヤが残してくれたお金よ。でもいいの。あたしあまりお金いらないから」「でもあんなに洋服にお金かけてたんですから、これからも買物したいんでしょ」 杏子の買物の仕方には驚いたが、女は元来買物好きだ。恋人がいたときよく突き合わされて足が痛くなり、フットケアマッサージにかけこんだものだ。「いいの。お金だけがすべてじゃないでしょ?」「は、はあ、確かにそうですが。働かないと困るでしょう」「景気が悪いのに誰もあたしなんか雇わないわよ。もう若くないし何もできないの。景気がよくなったら捜してみるわ」「見合いでもして結婚もいいわね」「そ、そうですね」 扱いにくい女だと熊川は思った。しかし今日には、室井がメールアドレスをたどって、ストーカーを突き止めるだろう。 そうしたらちょっと待ち伏せして、御灸をすえてやる。もちろん傷害罪で訴えられない程度でだ。ストーキング行為をやめろといえばいい。体に触らないことが大切だ。それでこの仕事は終わる。「ねぇ、ストーカーはみつかった。昨日のビデオ見たんでしょ? 」「ただの通行人ばかりで不審者は特定できませんでした。絶対にいるはずですから、カメラの死角にいるのかもしれません。なかなか手強いやつです」「そう、まだわかんないんだ」 成田杏子はあくびをして、伸びをした。買ったばかりのバッグを大事そうに抱える。「おれたちはプロですから、必ずみつけます。絶対です。今日は応援がもう一人ついてきていますから、容疑者を特定できるでしょう」「そう、任せるわ。あなた・・・・・・」「は?」「洋服のセンス悪いのね。今度あたしが選んであげようか?」「結構です。職場に行かないのなら、どこへ行きますか?」
2013.07.21
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こんにちは。短編なのに、まだあります〈笑)もうくたびれた? 作者は楽しいけど。 ただいま、奇跡体験、アンビリーバブルのディズニー特集を見ています(笑)ディズニーさんってアニメーターの出世の星ですよね。ま、普通、アニメーターに遊園地ができるくらい大金を出そう何て人はそうそういないから、きっと、金持ち人脈をお持ちなのよ。たぶんユダヤ人の人脈。ユダヤ人さんはみんなで頑張りましょうってお金を出し合うからね。金持ちだらけ~。 SFアクション、順調です。楽ですね。現代物と違って、社会のシステムとか刑法、民法とかすべて無視してもいいもんね。警察の階級とか、みんな無視でOK。 聞き込みとかあちこちいくだけだから、退屈だし、日本は製作費用が安いから、密室系エピソードばかりで、飽きた~。 その点SFは、勝手に作り放題なので、まさに(神)の気分です。予算とか気にしないでいいからね。 とにかく、優秀な校正ソフトがあればもっといいですけど。ま、自費出版とかは、「~の裏技」とか金儲けの方法的なもの以外は売れないから。私も忙しいので、手っ取り早く賢くなれる「そーなんだ」とかが好きだし(笑)「パピヨンパピヨン」10 (九) 二日目もストーカーを捕まえることができずに、警護は終了した。昨日と同じように家に送っていって、室内を調べただけだ。あれからも成田杏子はアウトレットなどの最新のスーパーマーケットを次々とハシゴしていった。 片手に若者向けのガイドブックを手に、あらかじめチェックしておいた店に入っていった。ここのイタリアンアイスクリームが美味しいらしいといっては、行列に延々と並んで手に入れていた。そのたびに人込みに消えてしまう女を、熊川は冷汗をかいて捜し回るにはめなった。 そしてアイスを幸せそうになめる杏子をみつけるのだ。女は喰うとき、これまでにないようないい顔をする。前の女もその前の女もそうだった。 たった九時間のことであるのに、疲れた熊川の体を重力が押しつぶそうとする。 変身して万引きまでする女。 そのスリルを彼女は明らかに楽しんでいた。 あの女のどこにそんな度胸があったのだろうか。ただのイケてない女だと思っていたのに。 とてもストーカーを突き止めるどころではなくなった。今日の上司たちの撮ったビデオには、もしかしたら杏子が万引きをするところが映っているかもしれない。営業所でチェックしてそれをみつけたら、上司たちはどう判断するだろう。想像するとめまいがした。足取りも重く陰欝な気分でクルマを走らせた。 夜気に妙な霧がとけこんでいる。奇妙な女の子守をした一日の記憶が、熊川追いかけてくる。細胞にしみついて振り払ってもやってくる。 体が重い。 重い目蓋をあけるともやが見えた。体を動かそうとすると、熱病にでも冒されたようにだるく全く反応がなかった。いや金縛りといった方が感覚として近いのかもしれない。地獄へと引き込まれるような重力が、熊川をしばっていた。死んだ者があの世から俺を迎えにきたのかもしれないとふと思った。 だとしたら、子供の頃男を作って出ていった母親なのかもしれない。家族を捨てたあの女は、きっといい死に方はすまいと思っていた。 そして悶死したはずのあの女は、それを願った息子を道連れにしようと企んで、ここに現われたのだと思った。だが妙に恐怖はない。深層意識に沈めていた(母性への思慕)が今になって起き上がってきたからだ。 待っていたのだ。俺は。母親を知る数枚の写真でさえも、祖母が七輪で秋刀魚を焼く燃料代わりにされた。家族写真は父親によって母親の顔だけ黒く塗り潰されていた。 元に戻そうと消しゴムでこすったりシンナーで拭いたりしたが、顔は現われなかった。消えてしまっていた顔が写真の現像液で浮かび上がるように、その瞬間をトキメキながら待っていた。子供だった。まだ純粋に笑える子供だった。 そうして顔も覚えていない母親が迎えにきて抱き締めてくれるのを、熊川はひそかに待っていたのだ。父親に気づかれないようにその思慕を封印して待っていたのだ。 亡霊になった母親が現われてきたら、一番に「オフクロ」と呼んでみたかったのだ。子供っぽいと言われても、言ってみたかった。俺は頬を染めてそういうだろうと熊川は思っていた。 顔を歪め無理をして頭をわずかにあげると、燐が燃えるような影が熊川の体にまとわりつき、そして熊川の穴という穴から侵入しようとする。 抵抗できない男はまたたくまにおかされていった。沸き上がるような絶頂感に男は体を悶えさせる。そしてまた一部が砂地に潜む虫のように顔をのぞかせると、一塊になり人形になった。 女が馬乗りになっていた。豊穣なその青白い乳房をゆすり女は笑っていた。 (魔女) 笑うたびに赤い口が大きくなる。口はそのままずっと伸びていって、アフリカ象のように広がった。人食いだ。喰われそうだ。(俺は魔女に喰われる) そうしているとまた口がすっと縮んで、女になった。(クマカワサン) 女はまたわらった。高笑いが聞こえそうな笑いだった。 赤い口以外は塊のようであった女は、いつのまにか下着姿になっている。上下の下着だけを身につけ、体をくねらせていた。その動きはベリーダンサーのように妖艶だった。 その艶かしい肢体はやがて、溶解しその先端は長く伸び蛇のようになっていく。 悲鳴をあげる前に体は蛇にとりつかれ、大蛇は鐘を締めあげる清姫のごとく、熊川を縛り上げた。滝のような汗が吹き出し筋肉でさえも悲鳴をあげ、そして汗はまたたくまに冷気で冷やされてゆく。(絞め殺される!) この世のものとは思えない。すさまじい交尾だった。 叫んだとたんに目が覚めた。熊川は社用車の中で うたた寝をしていた。 (十)「熊川、遅かったな。ちょっとこい」「すいません、ラーメン食ってました」 案の定営業所に戻ってきたのを確かめるようにして、お呼びがかかった。俺がミスをしたのではない、VIPに問題があるのだ。会社が契約した以上会社の責任ではないのか、俺にそのツケを払わせるのかと叫びたかった。 亀のように首をしぼめて会議室に入っていくと、すでに今日のビデオがかかっていた。 あの問題のスーパーも映っている。それだけでぞっとした。 室井と武川が仏頂面をして熊川の前に立ちふさがった。「妙なVIPにみこまれたな」「止やめてください。俺は知りませんよ」「バッチリ映ってたぞ。万引きの瞬間が・・・・・・」「・・・・・・お言葉ですが、正確に言うと犯罪ではありません。俺がうまく抜いて戻しておきましたから。万引きは金を払わないで外に出た所から犯罪になります」「そ、そうだな。あれは(正確には)万引きではないな。万引きの防止も我々警備員の仕事だ。お前は警備員の鏡だぞ」 ちょっとからかうようにして言った。万引きを防止する保安員を派遣することもある警備会社が、万引きを見逃したとあってはばれることはなくも良心が痛む。(万引き)でなければそれでいい。「まぁ、座れ」 熊川は成田杏子の捜索でアウトレットをぐるぐると走り回り、浮腫んだ足をさすった。安物の皮のソファに深々と体を預けると、筋肉疲労がすっとひいてゆくような気がした。 女の膝とどちらが男を癒してくれるだろうか?「これから一緒にストーカーを捜そうか?」 室井が言った。 すでに真夜中近くになっていた。 鏡の前に、成田杏子はずっと座っていた。 時間をかけて変身した顔がずっと映っている。 専門店でインターネットで注文して買った、 純白のシルクのドレスで女は飾られていた。 オフショルダーでわずかな動きでも 心地よい衣擦れの音をたてている。 ウエディング専門雑誌で吟味して選んだ。 髪のセットも自分でやったので アップにするのが精一杯だった。 一緒につけてもらった髪飾りを 自由にさしてみた。 きれいだろうか? それとも? その答えを出してくれる人は今はいない。 写真さえも残すことはできないので この至福も今日かぎりかもしれない。 九年前に ここが終の住みかになったときでも、 意識は空を飛びいつも自由だった。 誰もいなくなって一人になっても それなりに楽しく過ごせた。 女はここにいて、ここにいない。 何もかもうまくいっている。 このまま迷うことなく明日を待つだけ。 さあ、もう眠りにつこう。
2013.07.18
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熱いですね。干物になりそうです。「パピヨンパピヨン」9「お客さま、何かお忘れになっていませんか?」 保安員だった。「・・・・・あ」 杏子の読みに反して保安員はしっかりとその任務を果たしていた。熊川の言ったことは正しく現実は甘くはなかった。 チョコレートの箱がポケットから発見されて、警備室に連行され店長の説教を聞いた後、警察を呼ばれてしまうのか? オヤはいないので、その心配はいらないのだが。 彼女の防衛本能は脳細胞をフル回転して、このピンチを切り抜ける方法を探っていた。きっと何かいいアイディアがあるはずだ。絶対につかまりたくはない。熊川を横目で見て、救助を懇願したが、彼は眉ひとつ動かさずポーカーフェイスのままで、白髪混じりのベテラン保安員を見下ろしているだけだった。(薄情もの!) 杏子はすましている熊川をにらみつけ、彼女のボディガードとしての不忠を恨んだ。こういうことに詳しいのなら、うまく言ってくれてもいいのにと傲慢な視線を送った。保安員は杏子のじっとりと汗のにじんだ顔を見て、してやったりと得意顔で眺めていた。 もう勝利は近いと確信していた。しかしそれ以上の反応を示さない彼女にいらついて、ごそごそと勝手に杏子のポケットに手を入れて目的のものを探索した。「レジを通らずにお菓子を持って出たわね」「それって、万引きっていうのよね。いい大人が恥ずかしくないの? 一緒に店長のところへいってくれる? あなたも一緒よ」「どうしたんだ?」 保安員の様子を遠くからみていた店長が、三人のところに近づいてきた。「神田さん、またお手柄かな?」「みつけました、いまから確認します」 保安員の神田は自信を持っていいきった。 保安員は確かに見たのだ。ボーイフレンドらしい男と一緒の若い女が、一時間以上も食料品階のフロアをうろついたあげく、お菓子の棚の品物をポケットにねじ込むのを。 保安員の教育を受けてはや二十一年。鉄工所で働く夫を支えながら、この鍛えられた目で三人の子供たちを大学までだしたのだ。 裕福ではなかったが、万引きの摘発を何百も成功させてきたという誇りと家族が、彼女を支えていた。あたしの眼に狂いはないと確信を持って、杏子をつかまえた。若い女の万引きはめずらしくない。よくあることだった。ベテランの保安員の女にとっては蚊をたたき落とすことのように、平凡だった。 しかし、ガールフレンドが保安員につかまって責められているというのに、横にいるボーイフレンドは全く顔色を変えず平気な顔で、我感ぜずとポーカーフェイスで成り行きを見守っていた。神田がにらんでもこのスーツ男はすましている。 最近の男はまったく頼りないし男気がない、うちの息子もそうだが、これではコギャルやマゴギャルが生意気になってくるはずだと、腹の底で熊川を神田は軽蔑していた。まさに女の時代だと思った。 神田も男にかしづかず生きていける時代になって、女が強くなることには大賛成だった。神田も保安員としてのスキルを磨き強くなって、三人の子供を育て上げたからだ。 しかしこの派手なボーイフレンドのこの落ち着きが妙に気になった。ちょっとつつけば男の方が冷汗をかき、自白するものだが。 まあ、いい。と神田は先に進んだ。とにかくチョコレートが発見できればいいのだ。いつもの何の手順も変わらない。歯を研くのと変わらないのだ。 改めて杏子のジャケットのポケットに手を入れた。はじめにまさぐった右側にはなかった。そして左へ・・・・・。 (さぁ、出るぞ) 彼女の心が叫んでいた。 モノが出てきた瞬間のの反応をみようと、保安員は彼女の顔から一瞬も視線を離さなかった。 (・・・・・・!) (・・・・・・?) (ない!) 今度顔から血の気がひいたのは、ベテラン保安員の方だった。チョコレートはのポケットにはなかったのだ。保安員の二十一年ものキャリアとプライドが、音をたてて崩れていった。まだ幼さの残る一人の女のために。 カバンだ! と神田は心で叫んで、今度は杏子のバッグに手をつっこんだ。「チョコレートをポケットに入れたでしょ?」「絶対にいれたわよね。わたしは見たわよ」 神田は少しすごんでみせた。こうすればいきがる女もたいていは、白状するものだ。やりました、ごめんなさいと頭を下げるものだ。ベテラン保安員神田にとっては赤ん坊と同じだった。「神田くん、見間違いかね?」「いいえ、確かに確認しました」 杏子はずっとくちをへの字に曲げて、地面をみすえたまま黙秘権を行使していた。 神田の顔は白み、冷汗を流している。この女はやったのだ。間違いない。あたしの目に狂いはないのだと、神田は懸命に自分を励ましていた。 神田はあせっていた。これでは今まで苦労して築いてきた信頼を失ってしまう。ここの店長は神田の優秀な成績にたいへん満足していて、専属にと警備会社にかけあったぐらいだった。初の黒星!いままでの輝かしい戦歴はただ運がよかっただけなのか? 神田はベテランと呼ばれるようになってから、初めての冷汗をかいた。 杏子は神田の顔をみすえた。その顔は救世主を待っているかのように、悲壮感でゆがんでいた。失ってしまったプライドを再び与えられようとして、神田はイエスという言葉を待っていた。が否定してもまだ終わりではない。きっとカバンにでも忍ばせたのであろう。このまま店長室に誘導して徹底的に探ればいいのだ。身体検査でもすれば、かならず出てくるはずだった。「あたし、そんなことしてません。万引きなんかしたことありません」「おばさんの見間違いでしょ」 形勢は逆転した。有利になったのは若い女の方だった。勝利を確信した瞬間に、彼女はぱっと顔を 紅潮させた。 杏子の心は叫んでいた。もう、大丈夫。どうせ初犯なんだし証拠もない。「おばさん、もうボケてるんじゃないんですか?」「それとも、老眼ですか?」 保安員はしまったといった顔をした。「あたし、ずっとマジメに生きてきたのに、こんな濡れ衣きせられたの初めて」「タバコだって吸ったことないのに」 杏子は目をこすって、哀れな声をだした。 もちろんうそ泣きだった。保安員の方が泣きだしそうな顔をしている。うつむいて話せば、か弱い乙女を演出できる。グッドアイディア!と彼女は自分で自分をほめた。 しかしどうしてチョコがでてこなかったんだろうか? 確かにポケットに入れたのに?と彼女は首をひねっていた。犯人の彼女にもわからなかった。熊川がぶつかったときに落としたのだろうか?と推理を重ねていた。 (神様が味方をした!) とにかく助かったのだと自身の幸運に感謝した。万引き犯の肩を神が持つわけはないが、確かに救いはあったのだ。「ご、ごめんなさいね。泣かないで。オバサンの見間違いだったわ。ね。ね?」 保安員は杏子の背中に手をやって軽くたたいた。「そ、そうですか? あたしがムジツだって信じてくれますか?」 杏子は今にも消え入りそうな弱々しい声でつぶやいた。もちろん嘘泣きだったのだが。「お嬢さん、悪かったね。まちがいだったよ。他のこと見間違えたんだな神田くん」 店長は神田に同意を求めた。「そ、そうです。もうしわけありません」 ベテラン保安員の初の黒星! 神田は店長に深く頭を下げたが、それでもどこかでこのこに間違いない、あたしの視線を感じてどこかに捨てたのだと、何度も自問していた。まんまとやられた。 しかし証拠の盗品が出てこなくては話にならない。今回は完全に神田の敗北だった。「今度から、気をつけてね。オバサン」 顔をさっそうとして上げたは一転して語気を強めた。「ほ、ほんと、ごめんなさいね。またうちで買物してちょうだいね」 神田は顔をゆがめて、愛想笑いをした。「はい、またきます」 杏子は高らかに勝利宣言をした。「ね、熊川さん、うまくいったじゃないですか? あたしってついてますよね」 彼女は自信満々に自分の強運に感謝していた。しかし熊川は気難しそうに、背後へ腕を回して組んでいる。 「いつまでも、成功すると思うないほうがいいですよ」「だって、捕まらなかったじゃないの」「俺がチョコを棚に戻したんだすよ」「え?」「あなたが暴走するのを止められなかったから、わざとぶつかってチョコと少年から取り上げたパンを抜き取ったんです」「そ、そんな余計なことしなくても、あんなオバサンぐらいあたし一人でなんとか言いくるめられたのに!」「余計なことしないで! あたしが雇ってんのよ」 彼女は熊川の忠告をきかなかった恥ずかしさから、むきになって反論した。「今度は、私の目の前であんなことをしないで下さい。二度目はありません。通報しますよ」 まったくやっかいな依頼者だ。杏子は黙ってしまった。「さぁ、今日はこれでおひらきです。送りますよ」 熊川はさっさと今日の任務を終わらせたかった。室田がメースアドレスからストーカーの正体を突き止めれば、この女から解放されるのだ。ちょっと興味を持ったことは忘れることにした。「ちょっと待って。あそこでクレープ食べてくわ。女はこれに目がないの」 成田杏子はスキップをしながら、かけていった。嬉しそうに季節もののスイートポテトのクレープを注文している。 熊川は堪え難い無力感で、めまいがした。 ボディガードのファイルからの削除を、心から願った。 (八)「ねぇ、あたしのこと好き?」「は?」「あたしみたいな女は好みかって、きいてるの?」 足が痛いとといった杏子に連込まれたファミリーレストランで、熊川はまた面食らった。どうも万引き騒動だけではすみそうもない。 この女は何を考えてるんだと熊川は思った。ふつう相手の気持ちを確かめるにはそれなりの聞き方があるはずだろう。「あたしのことどう思ってますか?」とか「どうみえますか?」とかだ。なのにこの女はいきなり喉元に短刀をつきつける。 襟首を猫のように伸ばした爪でつかんで叫ぶ。「あたしのこと好きなの?嫌いなの?」「愛してるの? どうなのよ!」こんな感じだ。 きっとこの女に限ったことではない。いまどきの女はせっかちで強気だから、こんなものなのだろう。そうなるとまわりくどくすれ違いでストーリーを作っているドラマは、現実とは違うということになる。 凶悪で猟奇がかった事件が続発している現実は、どんどんシナリオライターや小説家の想像力を追い抜いている。ラブストーリーでさえ今はそうだ。 つまり昨日までイケテなかった成田杏子も、(イマドキの女)だったということになる。その事実に気づいてまたぞっとした。強すぎる女は苦手だ。 その成田杏子は目を丸くしている熊川のことなど我感ぜずと、恐喝するような視線で熊川の答えを求めていた。その迫力は暴走族を取り締まった夜よりも恐かった。 成田杏子は熊川を挑発しながら、イチゴバフェを食べている。クリームがその赤い口に入るたびに至福の笑みを浮かべる。 イチゴがコロンとこぼれ落ち、フォークでつきさす。また赤い口に入った。(魔女)「あ、あのう、好きかというのはあなたを女性としてということですか?」「どっちでもいいわ。人間としてでも女としてでも」「そうなるとですね・・・・・・」 初めて会ったのが美人の成田杏子なら、いかした女だと思っただろう。しかしあれを目撃してしまったあとでは、印象が悪すぎた。すでに欲情する対象にはならなくなった。立直るには時間がかかる。ストーカーを捜すふりをして、首を振った。「いいわよ。どうせどちらにしてもあたしのこと嫌いなんでしょう? わかってるわ。あたしは変な女だもん」 仕事が終わって五年後に会ったら、そのときは考えるよと思った。(魔女) だから女は苦手だ。神業のような目でこちらの意識を読んでしまう。この女がふつうの人間であることを祈った。 アイスコーヒーを飲み干して、熊川は胸の奥で十字をきった。
2013.07.10
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こんにちは。短編なのに、長いね。14コマもあるよ。夏風邪をひいたし、無線ランはダメになるしで、先週からネット生活が多難です。小説のよさは、作者が(神)になれること。登場人物を生かすも殺すも、作者の(趣味)しだい(笑)自画自賛で幸せ~です。キンドルアプリにも順調にアップできています。ワード形式は試験的らしいですけど、他の形式だとたぶん判らなくて不可能だったと思います。ワード可でよかったです。SFアクションも順調に締めました。中学生の時に考えたキャラクターだったので、名前が甘甘。考えて、少々大人テイストに変えました。未練はありますが、名前は重要だし。理想通りの表現ができたので、わたし的には満足です。 ~犬と勇敢に戦い、力尽きた母親、~を捨て息子の参戦した戦に加勢した父親。このように親というものは愛してくれるのだなと、ルディスは二人の想いを噛みしめていた。 なぜか、一気に第6シリーズまでプロットができました〈笑) ルディス君、あと5話、活躍しておくれ。200ページx5話。千枚くらい。「パピヨンパピヨン」8 (七)「ここで止めて」 待たされてむくんだ足が治ってきて車の運転に集中していたというのに、また杏子は次の獲物をみつけたらしい。目的があるのかないのかそれさえもわからない。 杏子の思いつきのような行動にはなれたので、感情を出さないで指示されたとおりにした。 彼女は郊外のスーパーマーケットに車を止めさせて、また先にずんずんと入っていく。また熊川はカヤの外だ。熊川のことはまるで空気のように思っている。 それとも自分のことをまるで美姫のように思い込んでいるのか? それから延々一時間、彼女は何一つカゴに入れることなく歩き回った。 モデルのようにすました女とその後を追うスーツの男、これもまた奇妙奇天烈な組合せだった。柄にもなく冷汗を背中にじっとりとにじませた。 そのうちに筋肉の流れにそって、腰骨にたまりだすだろうと思われた。 店内に無数に取り付けられた監視カメラたちが、人々がすべて容疑者であるかのようにその一挙手一投足を逃すまいと懸命に働いていた。 カゴを下げた主婦たちが、店の思惑どおりくるくると回ってお目当ての安売り商品を懸命に探している。 鮮魚売場では若い店員が威勢よく声を張り上げて、今日の捕れたての鮮魚を宣伝している。こういう喧騒は耳に心地よく、購買意欲も自然と高まる。 他にも店内には施設内において、営業時間中の秩序の維持に努めている保安警備員が巡回している。彼らはの最大の目的は万引き、スリ、置き引きなど各種犯罪に対する警戒、火災、地震などの災害発生時の避難誘導。怪我人、急病人、迷子等の応急対応である。そして訓練された万引き摘発術を持っている。 警備形態は私服によるものと制服によるものがあるのだ。私服警備は一般客と同じ服装で店内を巡回し、万引き商品の回収と犯人のほそくを行なう。 制服警備は制服で犯罪を抑止し、巡回よりも出入口や高額商品売場における固定警備に効果があるのだ。 万引きの場合たいていは二人以上で組んで、犯人をほそくする。万引きは現行犯でしか取り締まれないので、犯行の瞬間を相棒と確認する。休みになると特に中高生の監視に重点をおくのだ。 ここの保安員であり家庭に戻れば普通の主婦の神田は、万引き摘発のプロだった。もちろん仕事中はやぼったい服を制服として、ごく普通の主婦に化けていた。 彼女には店内に入ってきた瞬間から万引き犯だとわかる。すぐに目をつけた人間の視線、バッグ、靴をチャックする。視線は落ち着きがないかあるか?、バッグは開いていないか?大きめでないか? ただの不精ものかもしれないが靴が汚いと生活に困っている確率が高いのでやっぱり怪しい。 現行犯であげられなくても、一度やられたら二度はやらせない。似顔絵などで要注意人物に指定する。カメラのような機械には負けられないと、神田はこのテクニックでカメラ以上に犯人を摘発してきた。 最近は主婦や社会的地位のある男を摘発することもあった。特に女は往生際が悪い。男はけっこう簡単にあきらめてあやまるが、女は大声で泣きわめきそして開き直る。持ち物からざくざくと万引きしたものがでてきても、言い分けを続ける。 とくに主婦は貧困からよりも、心療内科いきをすすめるようなストレスからの万引きが多い。そして迎えにきた娘や息子に配偶者たちをてこずらせるのだ。 そして女子中高校生などは常習犯が多いので、彼女たちが入店してくると全員が万引き犯に見えてしまう。もともと女はきょろきょろと見て触るのが好きだし「見てるだけ」という冷やかしも多い。 もちろん神田も主婦として無駄遣いができない分、ウインドーショッピングが専門なので気持ちはよくわかった。「できるわよ。やればできる」 杏子は呪文のように何かを唱えていた。熊川はその後をついて回っていた。長身の彼は杏子よりも頭ひとつ以上飛び出しているので、見晴らしは良い。東京タワーのような視点から、気を抜かずに周囲を監視していた。 しかし次の瞬間、自分の目を疑った。杏子が何かの箱をバッグに放りこんだのだ。万引きをするVIP。こんなときボディガードはどうしたらいいのだ。「何をしたんですか?」 「なにって、見たの? 今あたし、万引きしたのよ。一度やってみたかったんだ。恐かったけどできたわ」「どうして! 私服の保安員に見られましたよ」「だったらあなたがあたしを逮捕する? 元警察官なんでしょ」 「たしかにそうでしたが」 言葉に困った。今は警察官ではないが逮捕は一般人でもできるのだ。しかし今の依頼人はこの万引き犯だ。契約をかわし引き受けている以上は、彼女が解除を申し出るか、ストーカーが見つかって解決するかでないと、この警護は終わらない。「どーせ、みつかっても初めてなんですって泣きおとせば、帰してもらえるって聞いたことがあるの。初犯には甘いのよ」 「アメリカで、ハワイなんかでやったら即裁判ですよ。いまのうちに戻しなさい。上手くいきませんよ。世の中そんなに甘くはありません。何も買わずにぐるぐるとずっと回っていたから、もう目を付けられています。保安員の視線を感じましたよ。うちもスーパーに保安員を派遣しているのでここにもいますよ」「大丈夫よ。うまく切り抜けてみせるわ」「若い女って店に入ってきただけで、何かやるって目を付けられるんだってね。この前もアクセサリーをみてたら、あたしの後にピタッとくっついて離れないの。どこへ移動してもすぐ後にバイトが立ってる」「背後霊みたいで面白いですね。でもプロの保安員は甘くはないですよ」 熊川は危険な匂いを感じとり、彼女の暴走をなんとか引き止めたかった。今の彼女はF1レーサーのように、欲望を満たすスリルを衝動的にほしがっている。 この危険な匂いが杏子をますます狂気にかりたてていた。彼女は危険に身を投じることで破滅しようとしているように思われた。 (助けて) どこかで彼女の悲鳴が聞こえた気がした。「やめなさい。今なら間に合う。店を出たら確保されますよ」「いいから。あなたはただのボディガードでしょ」 (ただのボディガード)と言われて熊川は、ストレートパンチを浴びたように感じた。なぜかショックだった。彼女は何を言っても、スリルの追求に陶酔したような彼女は聞かなかった。 そしてポケットに商品を入れたまま、何者かと対峙するようにずんずんと、レジを無視して入り口へ向かっていった。 万引きの呼び出しには優先順位がある。 小学生は親、学校、警察。 中学生は学校、親、警察。 高校生以上は警察、学校(会社)、親族 しかし神田はこれには反対だった。万引きという呼び名は軽く聞こえるがあくまでも窃盗犯なのだ。犯罪は犯罪なのだから、子供でもすぐに警察を呼ぶべきだと思っていた。 調書なども面倒だし、時間はとられるし何度も同じことを聞かれるのでみんないやがっているが。制服の威厳でガツンといわれたほうがおしおきの御灸のように子供には効くのだ。 親はあたしたちだけは信じてやらないととまるでドラマのように子供をかばうし、先生はこっちで叱ってくれというし、こっちはますますストレスが倍増する。だから警察の威厳を利用すればいいのだ。「あ、あのこ、やったよ」 杏子が指差した向こうに小学校の低学年らしい子供がいた。ランドセルはすでになくB4ぐらいの大きさの手提げ袋だけを下げていた。彼女によると、その少年がパンを万引きしたという。「まだ子供なのに。根性座ってるな」 熊川は鼻先で笑った。しかしその子供は万引きのあと、下をむき明らかに自分の行為が犯罪であることを認識していた。保安員も体験したことのある彼にはすぐにわかった。 熊川は思った。あの子供はみつかって親を呼ばれ、自分に関心がむくのをきっと待っているのだ。きっとその親は共働きで、「塾へちゃんと行きなさい、忘れ物はないの?」という小言以外は子供とのコミュニケーションを持たないのだろう。 万引きするものはなんでもいいのだ、チョコレートでも女性用のファンデーションでも何でもよいのだ。保安員がとおく離れてしまった親を呼び戻してくれればいいのだ。彼は親が自分に振り向いてくれるその瞬間まで、万引きを続けるのだろう。 杏子は何を思ったのかその子供のところへ、早足でかけつけた。そしてその前に立ち止 まると少年を眼力で叱った。少年はとうとうその時がきたとばかりに下を向いて、その万引きしたパンを彼女に渡そうとした。 彼は彼女を店の従業員だと思ったのだ。だから自首した。杏子はそのパンをさっと取ると、自分のポケットへねじ込んだ。「君、万引きなんて十年早いよ。まだ子供でしょ」 そのままするりと方向転換をすると、入り口へ向かっていった。少年は茫然として見送っていた。 杏子のところに早足で追い付いてきた熊川は、そのままスピードを緩めることなくつかづいてきて、彼女の正面にぶつかった。「痛! ちょっと気をつけてよ!」 彼は杏子の怒声にもめげず、平然としている。熊川は杏子の犯行をとめることができなかった。依頼人が万引きをしたと保安員を呼ぶわけにもいかない。それでは大帝国警備の信用はなくなる。 不本意だが気付かなかったふりをして、しかたなく彼女のすぐ後をおとなしくついていくことにする。そしてそのまま二人は何も買わずにレジの横を抜けて、堂々と店を出た。「ほら、やっぱり見つからなかった。保安員なんかいなかったじゃない」 杏子は振り返って自信満々にほほえんだ。 熊川は腕を後ろで結んだまま、彼女を見すえていた。
2013.05.25
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こんにちは。 三閣僚が「幼児教育無償化合意」らしいけど、第三子以降が無償で、 第二子が半額で、第一子はゼロらしい。下層の一人っ子はやっぱりアホが決定? だいたい、親がのん気だと子ものん気だからね。奇跡でも起きないとカシコには ならない可能性が大。 四人キョウダイでも中高大ってお嬢様学校の人がいたけど。 キョウダイがいても金もちは金もち。一人っ子でも貧乏は貧乏なんですが(笑) だいたい第一子って、親に遠慮するから、やりたいとか買ってとか絶対に言わないのです。 (兄弟っていうの、男女混合の場合の漢字も考えて欲しい) 親の財布の中身まで計算をするのが、第一子。「パピヨンパピヨン7 (六) 二日目の朝は営業所には出勤せずに、熊川は直行で成田杏子のマンションに向かった。今日は私服ではなく、濃紺のスーツにした。これは会社から支給されたもう一つの制服だった。 警察のものに似た制服でストーカーを権勢したいところだが、どこに出かけるかわからない気紛な成田杏子の警護に、制服は適切ではない。 ちまたで流行の、サラリーマン風の空き巣に疑われないかと心配にはなった。 首を数回振って昨日の悪夢を振り払った。成田京子の変身と夢、その両方だ。女にとりつかれていると思った。それとも母親を含む、女たちにいい印象を持てないでいるせいだろうか。 クルマは持っていないので、社用車を借りたままだ。彼のアパートには駐車スペースがないし、クルマは保険や車検など経費がかかりすぎるので持たないことにしている。 収入も家族が養えるほどないので、当分は独身貴族でいるつもりだ。だが本当は女にいつもすぐに逃げられている。 プロとして約束の時間に遅れることはできない。契約ではガード時間は九時から十八時までだ。九時前には成田杏子の自宅前に立たなければならなかった。 渋滞に巻き込まれたので予定よりも十分ほど遅れた。急いでクルマを止め、エントランスに飛び込んだ。邪魔になるところへ止めたのか管理人が飛び出してきた。 遅刻しそうになっているので無視してエレベーターに乗り込む。迷わないように暗記していた記憶の地図に従って、成田杏子の自宅へたどりついた。 念のために何度もふりかえって、不審者がいないかどうか確かめる。 ホーンが三回鳴り響いた。 杏子が現われるのを待機して待つ。しかし物音ひとつしなかった。主人がいないかのように教室は沈黙している。 またホーンを鳴らした。今度は出てくるだろう。確かに九時に約束をしたはずだった。 それから五分おきに呼び出しホンを鳴らしたが、まったく反応がなかった。まさかストーカーに殺されてしまったのか? ノブを回してみたがカギはかかっていた。 いやな予感がした。念のために中へ入ってみたかった。元来た道程をダッシュして引き返していった。 わけがわからず抵抗する管理人を引きずっ て戻ってきた。ストーカーがどうのと説明していると、取り返しがつかなくなるかもしれない。「なんなんですか、あなたは? 成田さんとはどういう関係?」「ただの知り合いです。彼女が病気かもしれない。心配なので開けてください」「知り合い? あの人にこんなに親身になってくれる人がいたなんてね」「急いで、早くしてください」 熊川は保管してある予備のカギを握って、おろおろしている。待つことができずに、熊川が強引にカギを鍵穴にさしこんで開錠した。 ノブがゆるむと同時に引き開け、飛び込んだ。飛び込んだ瞬間に主人の許可を得ていないことに気づいて、念のために呼んでみた。「成田さん。成田さーん。いますか?」 薄暗い室内は時計のクオーツが振動する音だけが不気味にこだましている。「成田さーん? 入りますよ。いいですか?」 まるでどこかのお笑い番組のような気がして、思わず笑いがこぼれた。 反応がないのを確かめて、クツを脱いで大理石ばりの廊下にあがった。ストーカーがいたりしてはいけないので、一歩一歩と慎重に進んでゆく。 考えすぎだとも思った。しかしプロとしてはあらゆる可能性を考えて行動するように、上司からたたき込まれている。若いから未熟でしたでは済まされない。失業しないためにも、ここは慎重にやる。「成田さーん」 リヴィングまで入ってみたが電気もつけず、カーテンもひいたままで朝の生活のにおいがしなかった。 彼女の寝室はどこだったかと見当をつけ、かたく閉じているドアをたたいた。「成田さーん。いますか? あけますよ」 ノブを動くほうに動かして、隙間に飛び込んだ。間接照明だけが仕事をしていて、薄暗い。目が慣れるまで、網膜に届いている映像を脳が理解できないでいた。「あ」 絶句とい言葉はこういう時のためにあるのだろう。なんと成田杏子はまだ(寝ていた)「なに? うるさい?」「成田さん、おはようございます」 熊川は踵をつけて、敬礼した。「たしか九時にいきますといいましたね」「いったっけ? でもあたし急いでない。大丈夫だから外で待ってて、着替えるわ」 それから変身した女の身仕度は五十分もかかった。顔を洗ってから、プロ仕様のメイクを完璧にして眉を描きあげるのはシロウトだった女には骨が折れるだろう。 女としての身仕度には慣れていないと推理できた。 廊下に立ったまま待たされて、熊川の足はむくんできた。しばらく守衛のような業務ばかりで、立ったままの仕事はやっていなかったせいでかなりこたえた。 会社の割引で通っているジムで、足を重点的に鍛えようと決めた。 念入りに時間をかけて(女)になった成田杏子は、熊川のクルマでモーニングをとるために近くのレストランに乗りつけた。デパートで買い付けたダイヤモンドのリングと、一粒のペンダントが輝いている。 リングは左手の薬指にあった。〇・七カラットぐらいはありそうだ。恋人に付き合ってジュエリーショップに出入りしているうちに、かなり目利きになった。まるで婚約指輪だ。「婚約されたんですか?」「いいでしょ。そう見える?」「はぁ」「もらう前に買っちゃった。いいよね別に」「高いんでしょうね。本当に婚約するときは何を買ってもらうんですか?」「さぁ、あたしこれで満足よ。幸せ」 そういうと恍惚とした笑顔を浮かべ、リングを眺めた。よほどうれしいらしい。女はいつもこんな顔をする。家賃を踏み倒してまで買った三万五千円のリングをなめるように見ていた。別れたときも返ってこなかった。 ティファニーの店頭でゴールドのリングをシルバーにさせるために、えんえんと一時間説得した。 席につくと成田杏子はさっさとオーダーを決めると、正面に座っても潜望鏡のように首を振る熊川をみた。もちろん監視のためだ。「ねぇ、あなたもいる?」「もうすませました」 熊川は一緒に出てきた杏子をみて、目を白黒させていた管理人の顔を何度も思い出しては、吹き出しそうになるのを必死でこらえていた。「ストーカーがビデオに映っていたか聞かないんですか?」「きくわ。どうだったの?」「何度もうちの上司とチェックしましたが、ずっとつけているような不審な男はいませんでした」「そう、なんだ。でもきっと今日はみつかるんじゃない。プロにたのんだんだから大丈夫よね」 フフとアイラインがきれいに引かれた目が笑った。形のいい唇が大きく伸びた。 バターをたっぷりとつけたトーストの薫りが、鼻孔をくすぐって気分がいい。 こころなしか目の前にいる女が、ミスユニバースのように見えた。
2013.05.25
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こんにちは。 アマゾンのダイレクトパブリッシングへの投稿の仕方も覚えたので、 日常生活は順調です。問題はプレビューでしか確認できていないので、きちんと 表示されているかということです。どうも、自分買いでもしないかぎり、 確認はできないよう(笑) ロイヤリティは千円以上溜まらないともらえないし、通信料は 作者負担らしいし、アメリカと日本と両方で税金をひかれるしで、 爆発的にヒットしないと、社食(200円)にもならないかも(笑) ロイヤリティは高そうだけど、結局は引かれるものも多いってことね。 現実はかなり辛い。 SFファンタジーを書いたら、現代ものと違って、地の文が少なくて、 意外に短くなりました。地の文は心理描写とか行動を書くだけ。 未来について書くのは難しいですね。 キャラクターを書きたくて書いただけというモチベーションなので、 エンドマークをつけるだけで精一杯になります。 ま、「癒し系」を目指していたので、お気楽なレベルでいいかという感じです。 世界でグローバルな展開しているし(笑) 今度は、ミステリーにしようっと。 この世には、アマゾンしか存在しないことにしようっと。 ブログで公開していると、キンドルセレクトには入れてくれないらしい。 「パピヨンパピヨン」6 (四) 熊川が営業所に戻ったの頃は、すでに午後八時を過ぎていた。夕食は事務所でカップ麺でもすすることにする。「室井さん、ビデオの分析できましたか?」「おう、熊川、遅かったな。延長か? ごくろうさん。もうすぐ全部見終わるぞ」 熊川はテレビ画面を覗き込んだ。長い足を折ってかがんだ。よく映っていた。杏子と熊川のあとを追うように画面は動くが、周囲もプロのカメラマンのようにスムーズに映している。 上司の室井と武川が目を懲らして、監視していた。怪しげな人物をみつけるたびに、巻き戻している。デジタルカメラなのでスムーズだった。「この男はどうだ?」「いや、ただの通行人だ。レジにいったぞ」「この男はどうです。怪しいですよ」「女ってことはないだろうな。レズの関係になりたくて?」「いくらなんでもあのさえない成田京子相手じゃそんな気になれないでしょ」「それなら男だってそうだろう。元々あんな女にストーカーがつくことがおかしいんだ」「でも男からのメールが着てたんですよ」そうした問答を繰り返している間に、三時間後ビデオは終わった。「いやー、これといった男はいなかったな。もう一度見てみるか」 三人の男たちは、二度もビデオを見るはめになった。腕を組んだまま動かなくなった。「・・・・・・いなかったな 、ストーカー。容疑者は何人かいたが、決め手に欠ける。怪しいと思えば怪しいし、そうでないと思えばそう思える。こういうとき民間は困るんだ。警察みたいな権力がほしいぜ。こうなったら何日かとり続けて、それを見比べて共通して登場する容疑者にしぼろう」「いますよ、絶対に。あのあと彼女のところへメールが来ていました。今日のぼくたちの行動を逐一報告してきていました。百貨店内にも美容室の外にもストーカーはいたんです」「それなら絶対に映ってるはずなんだがな。俺はカメラ操作には自信がある」「たしかに周囲もよく映っていたし、不審者がいれば気付くはずだ。しかしな。・・・・・・それとも俺たちははめられたかな」「誰に?」「もちろんストーカーだよ。あいつが俺たちより上手でカメラの死角に巧みに移動しているとか?」 男たちは腕組みをして黙ってしまった。「そうだ、ストーカーのメールアドレスが手に入ったんです。これがメールのプリントしたものですから、すぐに調べましょう」 熊川は重い空気を払拭するように、弾んだ声をあげた。「ああ、俺が調べておいてやる。ストーカーもバカだよな。接続業者にきけばすぐに身元がわかるのに。手紙にでもしろよな」 室井が速答した。「おいおい、馬鹿なストーカーに感謝しろよ。早く終わるんだから。時間の問題だ。明日でこの仕事も終わりそうだ」「なんたって身辺警護は一時間一万円だからな。命がかかっていなければ、誰も払わんよ。依頼人が企業なら長引かせて儲けたいところだが、女性が相手だしさっさとすませよう」「でも、あの依頼者の成田杏子。妙な女だな。ここにはなんともいえないかっこうでやってきたのに、美容室、百貨店に行きながら美人になっていった。ストーカーにねらわれている女のやることじゃないよな。あれじゃストーカーをますます挑発することになるじゃないか」「俺も彼女に注意しようかと思ったんですけど、まさかああいう展開になるとは思わなかったんですよ。人込みを練り歩くなんて思いもよりませんでした。あんたところでストーカーが襲ってきたらと思うと生きた心地がしませんでしたよ」「目が点ってカンジだろ。わかる、わかる。ストーカーをまるで挑発しているようだったもんな。ま、とにかく変り者の依頼者の警護もあと一、二日で終わるよ。ストーカーを捕まえて、御灸をすえてやろう」 あれはストーカーと関係があるのか、それともただの心境の変化なのか? 奇妙な女、成田杏子。 こうして醜いパピヨンは変身を遂げた。 (五) 東京の夜はすべての悪を飲み込んで、犯罪者もストーカーもその懐に隠している。 自宅マンションで成田杏子は髪をといていた。高額なカリスマ美容師にカットされた髪だった。 メイクを落とすのが淋しくて、まだ鏡をみつめたまま顔を洗えずにいる。きれいに整えられた眉、形よく上がった睫毛。 アイラインはくっきりと、目蓋は流行のゴールドで飾られていた。 早く気づけばよかった。それなりにすれば、それなりな女になるということに。足首も太くはなかった。指先もネイルサロンで美しくなった。 シミもまだないし、鼻も低いほうではなかった。唇はピンクルージュで輝き、形のいい歯がのぞいている。 上質なワンピースのすそをひるがえし、ハイヒールで床をならして、プリマベーラのように踊った。 自分だけのボディガードを従えて、高級ブティックを練り歩く。上質の洋服を買うたびに、店員たちがみにくい女にかしずいた。 漁るように買い込んだジュエリーたちが、首元や指先で照明のなかキラキラと光輝を放って杏子を飾りたててくれた。 姿見に映した世界に初めて出会った綺麗な自身がいた。初めての贅沢。初めての至福。 変身してみると人格まで変身したような気がした。姫のように世界中にかしずかれると、仮想体験ではないような気になる。 ぴったりとしたワンピースを着て、ウインクでもしてみたら一人くらい恋人ができるだろうか?なんてことを想像してみたらちょっと恥ずかしい。人格まで変えるのはまだむずかしいようだ。 今までの自分は何だったのだろう。行動することで何かが変わった。これから天使が降りてくるかもしれない。 しかし妙な期待は、起こらなかった時のためにするべきではない。 捨て去ってきた過去に、期待が幸福に変わったことがあっただろうか? いつも期待して いて裏切られてきた。もうそれは二度としない。 キス。そして愛し合う。 それが女の究極のシアワセなのだろうか? 今は何も考えないでおこうか。(熊川真也) この今の思考を彼がのぞいたらなんというだろう。 初めて杏子が選んだ男だった。ホストのようにたくさんの男たちの中から、自分だけにかしずいてくれる男を選んで金で買った。 保証金三〇万は安くはないが、絶頂感は手に入れられた。みにくくさえない女は金を使うことで、手に入れなければならなかった。 若い男。杏子の中の何かがうずいていた。 もうすぐ何もかも終わる。思惑どおりラストはやってくる。 虹色の光が目まぐるしく回転していた。 視界のむこうにドロ色の虫がいた。 蠢くたびにその醜さはきわだっていく。 小さな多足の足を動かして、そのうち動かなくなった。 ぬめりとした糸を吐き続け、そうして自らの帝国を築いてゆく。 えんえんと、えんえんと帝国は作られていった。 繭はその虫と同じように醜い。 蛾だ。これは蛾の繭だった。 醜悪な巣窟だ。 どうしてここにあるのだ。 誰かを喰うために それとも? しばらくすると虫の帝国が噛み砕かれ それは現われた 七色の光輝にそれはあふれていた 蛾の繭から現われた パピヨン パピヨン パピヨン パピヨン 虹色の人形 まぶしくて熊川は顔をおおった。なめらかな細い指が顔の輪郭をなぞっている。首筋を通ってのどぼとけを触った。 つづいてか細いその指は筋肉で張り上がった肩を愛撫する。熊川は不覚にも感じてしまった。震えがきて、目をあけた。 女だ。女がいた。 熊川の真上に女がいた。 腹筋の上に馬乗りになった美しい亡霊がそこにいた。 白い顔の赤いくちが横に広がった。 白い顔が横たわっている熊川の顔に、近づいてきて体が重なった。白い肉体が熊川の上でとろりと溶け、身動きできない熊川を飲みこんでゆく。 女が男の前でその秘宮の鍵を解放し男を受け入れるように、熊川はその肉体を杏子に差し出したような潤んだ快感に酩酊していた。 女はアメーバのような単細胞生物となって、その滑らかな指でなぜはい昇ってくる。 腹筋が痙攣し意識は成層圏を突き抜けるような解放感で声をあげた。 単細胞生物からまた人形に戻った女の体が裂け、肉欲のような杏子の細胞の中へ男の体が挿入されてゆく。 男はその快感に身悶えした。それでも女は男を飲み込んでゆく。 喰われると思った。俺は犯されている、ありえないが女に俺は征服されていると思った。 彼の意識は男の快感と妙な羞恥心で浸された。 細胞が同化して、女は熊川のすべてを吸い取ってゆく。 溺れる! そう叫んで白い泥のなかで、手足を泳がせ何かにしがみつこうとしていた。それでも女は侵食をやめない。 ふいに意識が飛んで世界が変わった。魔女が微笑んでいた。呪文を唱える女が熊川の真上で馬乗りになって笑っている。 紅い口が大きく伸びていた。熊川は全裸で大地にはり付けられ、悶えている。若さにあふれた体躯は衰え、魔女にすべてを差し出していた。 魔女は熊川を征服し高らかに雄叫びをあげている。まわりにいる女たちも祝福の叫びを発していた。 鳥肌がたった。魔女の集会で悪魔に捧げられた供物。それが熊川だった。 身悶えして飛び起きると、まだ午前三時半だった。起床までは時間があった。 陽はまだ昇っておらず、夜は続いていた。パジャマの上から首筋や胸元を触るとすっかり湿っていた。冷汗なのかただの寝汗なのかそれは不明だ。 ただ今夜は怨霊と化した女が夢にまで現われ、魔女となり、悪夢の中で熊川を征服した。脳と内蔵がかき回され、合体したような気分だった。 なぜ魔女に支配される夢を見たのだろうか? あの魔女は成田杏子の化身のような気がした。 次々と 金を消費してゆく女に悪寒を覚えたからなのだろうか? あの夢の中での交尾の絶頂感は風俗での性欲の処理とは違った。獲物を征服したときの快感とはかなり違っていた。敗北したと思った。 どこかで誰かに征服されることを待ち望んでいたのだろうか? 魔女は子供の頃見た映画の白雪姫を毒殺しようとする王妃に似ていた。 次第に壊れてゆく自分と対峙して、今日もまた杏子に会う。
2013.05.25
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こんにちは。短編なのに、まだ続きます。もうちょっとでラスト。 アマゾンで長編を登録するのが、マイブームです。たかが、ローマ字くらいで、 何度もダメ出しをされて、殺意を覚えました(笑) ゲームをクリアしてゆくくらい疲れます。(ゲームはしませんが) 欧米はアルファベットしかないけど、こっちは三種類も文字があるからね。 切り替えるので、アルファベットの登録で意外にトラブルがあるのよ。 でも、これからは、原因がわかったので、スムーズに登録ができるでしょう。 電子書籍でも、検索したら、ドドンと本のタイトルが出る。なんか偉そう(笑) 世界中のアマゾンで売ってくれるらしい。オール日本語なので、売れないでしょうが、 グローバルに商売を展開することになりました(笑)ヒアリング力ないのに(笑) 儲かっても、社食(200円)レベル。ま、いいか。私もこれで世界に展開する商売人。 CEOですか(笑)出版業を起業するという夢がまず叶いました。次は、出版業で 食べれるようになる、ですね。これはない、と思う(笑) PDFにしてくれるし、便利。ついでに、校正や時代考証もしてほしい(笑)「パピヨンパピヨン」第一話。 (四) 杏子に指示されながら、彼女の自宅マンションに辿り着く。車を止めて杏子を自宅前まで送ってゆくことにした。 タクシーでさえ女の客の要望があれば玄関前まで送ってゆくサービスがあるくらいだから、金で雇われたボディガードであれば当たり前だと思った。 マンションのエントランスホールは豪華で、滝が流れ橋がかかっていた。奥にはホテルとみまごうばかりの家具がしつらえられている。 ここで来客と談笑するのだろうか。滝の流水の音が耳に心地よいが、人気のないホールでは鳥肌がたった。かなり高級だ。 あの「さえなかった」成田杏子の自宅をとしては意外だった。きっと管理費は高いはずだ。居心地とマンションの管理費、熊川は安いに限ると思った。 この空間で数えきれないほどの箱やデパートの紙袋を両手一杯にさげている、二人の男女はかなり浮いていた。熊川にいたってはどうみてもお付きの運転手兼荷物持ちである。 エレベーターに乗るときにも袋がつかえて、何度も入り直すはめになった。一度成田杏子が出て、そしてまた袋の持ち方を変えながら入った。そのあとを運転手の熊川が続いたが、やはりつかえたのでまた出た。袋を投げ込みようやく入った。乗ってからまた持ち方を変えた。 「上までこなくてもよかったのに」「仕事ですから」 エレベーターの中で杏子は言った。エレベーターでも杏子を奥にやり、ストーカーが途中階で乗り込んでこないかを監視していた。 男と女、二人きりのため、誤解を受けないように離れて立った。彼女の声は熊川の背中で反響している。「これも仕事ですから。ストーカーがマンションのどこかで待ち伏せているかもしれません。もしかするとピッキングでもして、侵入しているということもありえます。つきまとい行為をする奴はそのくらいはしてもおかしくありません」「そ、そこまでやるかしら。こ、こわい」 杏子は肩を震わせた。「油断は禁物です。俺たちは常にあらゆる危険の可能性を排除せずに行動します。4メートル以内に侵入されたらこちらの負けです」「そうなの。たいへんね」 杏子は他人ごとのように言った。 エレベーターはなめらかに昇って四階に着いた。このマンションは三棟が連なる建物なので複雑だ。帰りに迷わないように頭に正確な地図を描きながらついてゆく。一番奥に彼女の家があった。 持ちきれないほどの荷物が角や廊下の隅でひっかかるたびに、くるくると体を回しはずしていった。前をゆく杏子がひっかかると熊川も動けなくなる。 まるで養豚場から逃げ出した二匹の巨大な豚が、人間のワナにかかって悲鳴をあげているようである。見た目を想像してみて笑いそうになる。仕事中なので謹んだ。「もうちょっと左に動いたほうがいいんじゃない。そうそういいわよ」「だめよ、そっちは。エルメスの箱が傷つくでしょ。そのオレンジの箱はとっておくんだから」「成田さん、落としましたよ。その高そうな箱は早く拾った方がいい」「だって手が届かないんだもん。あなた後で拾いにきてちょうだい。高かったんだから!」「俺は荷物持ちじゃありません。身辺警護が仕事です。こんなことをしていたら仕事になりませんよ」「雇ったのはあたしよ。今はあたしの荷物を守ってよ」 お互いに譲り合い、アドバイスを与えながら抜け出しては進んでいった。もう少し想像力があればこうなることがわかったはずだ。先を読むことができなかったことを悔やんだ。 自宅のドアの前にくると 、杏子は立ち止 まった。廊下には人の気配は全くなく沈黙している。バタバタという紙の爆音をさせながら、片手づつ袋を手放す。成田杏子の戦利品が痛むことのないように、慎重に床に落としてゆく。杏子はともかく長身の熊川が荷物を離すと、高さがあるので騒音になる。沈黙は熊川によって乱された。 背後には夜の帳がせまり、コンクリートの重い床は、疲れた足を吸い込んでゆくようだった。成田杏子も荷物運びから解放されてため息をついている。こうなることを予想できていなかったらしい。想像力がないのは彼女も同じだった。 杏子からカギを預かった熊川が、慎重に鍵穴をみてカギを開ける。何度もノブを回して感触を確かめた。ピッキングはされていない。 これで部長からうけた危機管理のノウハウを生かせたはずだった。一人前のボディガードの顔をしてみた。「ご家族はお留守ですか?」「オヤはいないの。二年前に父親が。そして去年母親が死んだの」「そ、そうですか。ご兄弟は?」「いないわ。弟がいたけど、子供の頃に死んじゃったの。だから今は一人」 それで納得がいった。警護を依頼するというのに、誰も付き添ってこなかったので妙だと思っていた。 ストーカーに狙われている者が、一人でボディガードの依頼にくるわけはない。 カギを指すとすぐに開いた。「大丈夫のようですね。OKです。どうぞ」「先に入って」「ここで失礼します。一人暮らしの女性の部屋に入るわけにはいきません。カギもかかっていたようですし、ストーカーはいないようです」「あらゆる可能性を排除しないんじゃないの? もしかしたらあなたが気付かなかっただけで、カギがすでに開けられていたかもしれないじゃない? いまどき侵入しようとすれば、どんな手でもあるでしょう? 家の奥でストーカーが潜んでいたらどうするの? 片付けはちゃんとしてあるから、見てもいいわよ」「そ、そうですね。念のために一度ぼくが室内を見てみましょう」 誤解をうけてクレームをつけられたくなかったので、二人っきりにはなりたくなかった。 何かあったら田村に何をいわれるかわからない。熊川は靴を脱ぐと、玄関に杏子にいるように指示をした。 スイッチプレートを探って部屋の電気を一つずつつけながら、奥へと入ってゆく。廊下を抜け、途中の小部屋をあけた。 背後では成田杏子が戦利品を大事そうに部屋に入れている。落としてきたヴィトンの箱が気になるのか、何度も外を見ている。ストーカーよりもそっちの方が今は気になるらしい。 玄関はすぐに戦利品の山ができて、ドアの隙間の夜景は 見えなくなった。 ここは彼女の寝室なのか、ベッドスプレッドが目に入った。女が好みそうな花柄だ。カーテンも同じものだった。見た目にこだわる性格なのだろう。机とパソコンがあった。背後の本棚には週刊誌がずらりと並んでいる。 誰もいない。さすがにクローゼットをあける勇気はなかった。気配だけを探って部屋を出た。 今度は慎重にリビングへのドアをあけた。視線を天井から床まで、キッチンへと続く間仕切りへと視線をはわせる。誰もいなかった。 念のためにキッチンの死角も見ておく。トイレも風呂も湯槽の中まで確認した。どこもきちんと片付けられていた。 くたびれたトレーナーを着ていたわりには、女はきれい好きのようであった。「これを見て、熊川さん。やっぱりきたわ。ストーカーからのメールよ」 さっきの部屋でパソコンを立ち上げ、メールを確認していた杏子が報せてきた。顔を出して熊川に手を振った。 パソコンの画面をのぞくと、ストーカーからのメールが画面に出ている。若くて収入が多くない熊川はパソコンをまだ持っていない。 しかしいまどき知らないと女に馬鹿にされるので、パソコン教室には通った。声に出して読んだ。(こんにちはー© 杏子ちゃん© いやお帰りかな。今日はどうしてあんなとこいったの? ボディガードなんかつけちゃってさ。でも美容室で杏子ちゃんがきれいになって出てきたところ、ぼく見ちゃった。それから百貨店できれいな洋服、いっぱい買ったでしょう。それを着てイタリアンレストランでイタメシ食べてた君って、とっても素敵だったよ。君はぼくが思ってたよりも魅力的だったね。 でもずっとついてた男、あれが君のボディガード? あんな頼りないやつより、ぼくの 方が君を守れると思うよ。でも男を家に入れるなんてどうしてだよ? 俺は君の姿を見ているだけで我慢しているのに、あの男は君の家に入って、君の部屋で君のベッドがどんなものか知っている。許せない。絶対に許せない。可愛さあまって憎さ百倍っていうのかな。みてろよ。もっと恐がらせてやるからな、ベイビー©)「な、なんだ。このバカまるだしのメールは! 俺はあんなに監視していたのに、ストー カーらしいやつはいなかった。いったいどこで見ていたんだ! くそー!」 熊川はこぶしを壁に叩きつけた。元警察官とはいえ、プロのボディガードとしてはまだ未熟だったのかもしれないと思う。 杏子は耳をふさいでいた。熊川のパンチに驚いたらしい。熊川もプロらしくない言動をしたことに気付いて、慌てて腹筋に力を入れ敬礼をするように姿勢を正した。「どうしよう! もっと恐がらせてやるって ! 恐い、恐い」 杏子は両手で肩を抱いて硬直している。「大丈夫ですよ。明日にはきっとこいつをつかまえます。実はうちのスタッフ二人がずっと尾行していて、あなたの周囲をビデオに収めました。それを今分析中です。きっとその中にストーカーが映っていますよ。そしてちょっと警告をしてやれば、ストーキング行為をやめるでしょう」「やめなかったら?」「また次の手を打ちますよ。抜かりはありません。わたしたちプロにお任せください。ではまた明日八時にきます。予定をたてておいてください。必ず私たちが守りますよ」 熊川は敬礼すると、玄関を出た。杏子はまだ不安そうな顔をしている。しかし婦人警官ではないから、これ以上は無理だった。「すぐにドアを施錠してください。侵入されたと思ったら、躊躇せずにすぐ警察を呼ぶように。いいですね」「はい」 杏子は素直だった。熊川は顔の筋肉をゆるめた。「ねぇコーヒーでも飲んでかない?」「いえ、報告書を書かなければ今日の仕事は終わったことになりませんから」 かすかなコーヒーブレイクへの未練を残して、熊川真也は今日の仕事を終えた。
2013.05.25
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こんにちは。投稿したのは数年前なので、似たようなのが出ていても 気にしないでね。投稿者は似たようなのが出て終わりらしい。 ただ、個人のボディガードサービスを始めたという会社を知っただけで、 短編ように書き始めちゃっただけだからね。 PCって便利だね。音楽が聞きたくなったら、YouTUBEでお気に入りにしていた のをクリックするだけで、聞けちゃうもんね。 ただ、音声のダウンロードができなくなったので、聴きたくなったらPCを開くしかない(笑)いずれは、スマホでアプリを作るのが夢です。小説のね。 今書いているSF、登場人物が一人づつ消えていって、あの人はどこ?状態。 だって、沢山一度に行動させたら、○○が面倒くさそうに言ったとか、 そういうのがやたら増えて言って、セリフ周りがうざくなってくるんだよね。 知らず知らずのうちに、大長編(笑)になってしまうので、登場人物は最小がいい。「パピヨンパピヨン」4 「ありがとうございました。またおこしくださいませ」 店員と店長と思われる女二人が店先に出て、深々と頭を下げていた。これは今の高級店の売り方なのだろうか。 腰が折れるのではとこちらが心配するほど体を曲げている。それを至福の笑みを浮かべた杏子がみつめていた。 このわざとらしい見送りポーズで女の虚栄心を見たし、次の来店をうながし、購買意欲を刺激するのだ。熊川は(あっぱれ)と感心した。これが高級店の高級たるゆえんなのだろう。 店員たちは自分のブランドの服を、その完璧なボディで陳列している。ブランドにとっては店員の体も立派なショーケースなのだ。 着古したトレーナーを愛用するさえない女に、かしずく美女二人。奇妙な組合せだった。お客さまは神様、それを彼女たちは具現化していた。 腹の中を一度のぞいてみたいと熊川は思った。くたびれたトレーナーの女が店に入ってきたとき、「さえない女」「ダサイ女」きっとこんな形容詞が彼女たちの頭にはローストチキンの腹の香味野菜のように、はちきれんばかりにつまっていることだろう。 彼女を客として崇めながら、あんたにはうちの服はもったいないわと思っていたのだろうか? 次の店では店員にいって、服をそのまま着て帰ることにしたたらしい。ダサイトレーナーは袋のなかだ。やっとブランド物のハイヒールとレベルがそろう。なぜか安心した。もっと早く着替えていればよかったのだ。 すでに彼女は洋服の入った箱や袋を四つも持っていた。バッグ売場で最新のデザインのバッグなどを五つも買った。百貨店に出店しているブランドの、高価なバッグも三つもあった。 店で買物をするたびに杏子は、店員にかしずかれていた。そのたびに杏子は至福の笑みを浮かべた。女たちはこうしてストレスで空いた精神の穴を、埋めてゆくのだろうか? 「どう? 熊川さん」 「あ、いいですよ」 誉めることにした。それだけいって、すぐに監視に戻る。 店員たちのあいつは何者だ という冷ややかな視線に耐えていた。これは任務なのだから、胸を張ればいい。 全くこれがストーカーに狙われている女のすることだろうか? これは恐怖から逃れるための儀式なのだろうか? 男としての自分 が彼女に玩ばれているような気がして、どこかで何かが沸騰している。プロとしてのプライドが堰となって、辛うじて爆発を封じていた。 杏子はまたつまらなそうに、流行色のルージュで飾られた口を屁の地に曲げた。こんどの店はあまり流行に流されないのがコンセプトなのか、細すぎないシルエットのオーソドックスなスーツやワンピースが並んでいる。それくらいは熊川にもわかった。 材質や色がいいので、流行り物のデザインよりもワンランク上質に見える。上流階級ご用達といった風情だ。 杏子は羽を広げるように、戦利品を誇示するようにして、ワンピースの裾をひるがえしながら歩く。いまどきこんなにモデルきどりで歩く女もいない。 しかし熊川は彼女が変身してから、女がそれほど悪くないルックスであったことに気づいた。 やることをやればそれなり以上になる。プロのメイク、カリスマ美容師の手によるカット、ブランド物の衣裳、それらの見事な共鳴で彼女は変身していった。 どれかひとつでも欠けてはいけない。誰かがプロデュースしたわけでもない。指揮者はいない。これは奇跡的とも思えた。 杏子はパピヨンのようであった。蜜柑の木につくこぎたない幼虫、指で突くと反抗するように頭をもたげていた幼虫が、変態を繰り返すたびに美しくなる。 いま目の前にいる女はくたびれたトレーナー女ではない。何年も前からこうして高級店のはしごをしている気取った女のようだ。 サナギから何度も変態を繰り返し、変身してゆく醜いパピヨン。どうしてこの女は変身するのだろうか? ストーカーとの命の駆け引きを楽しんでいるようにも見えた。奇跡の女、成田杏子。 次はアクセサリー売場だった。走るように売場を移動する杏子を、大股で足早に追う。 警備員姿の熊川が、女性客ばかりの婦人服売場を女を追い掛けて移動する姿は注目の的だ。長身の彼は圧迫感があった。 すでに杏子は辿り着いていてフェイクのイヤリングやネックレスを身に付けている。一つ付けては鏡をのぞき、はずしてはまた次をつけていた。 そこで三つも買うと、次は宝飾品だ。若い女向けの高すぎない十八金などのアクセサリーがショウケースのなかに並んでいる。 そこでも彼女は店員にねだって、めぼしい商品を出してもらい指にはめていた。装飾を得たその指を眺めるたびに、杏子はうっとりとしていた。その艶かしい瞳はおぞましいほどだ。熊川はぞっとした。女の性をのぞき見た気がした。 何十万ものダイヤモンドやルビーを次から次へと試しているので、熊川まで胸がどきどきしていた。 恋人の誕生日にプレゼントをねだられ、どんな高額のものを買わされるかと心配になったことがあるからだ。三万円ものブランドのリングを買わされ、家賃を滞納しそうになったことがあった。今はそんな悲しい男の心境だ。 それ以来女に貢がれても貢ぐことはしまいと決めた。もちろん同じ女とは長く続かない。それでもよかった。エサを与えなくてもそばにいる女が結婚する女になるのだろう。そうした女と共に年をとることにしている。 魔女、女は魔女のようなものだ。男のものを何でもほしがる。男がすっかりミイラのように痩せ細り、食うものがなくなったら、女は次の獲物をみつけるだけだ。食い尽くされぬように俺は気をつけるのだと熊川は思った。 首を振ってすぐにプロのボディガードに戻る。眉を寄せて周囲をうかがった。不審者を探索する。 その頃になると、すでに成田杏子は十万円ほどの指輪を二本とブレスレット二本、そして十五万円のネックレスを買っていた。女の購買意欲は底無しだ。 戦利品の袋はすでに十以上に増えていて、彼女はいくつかを一つにまとめていた。それでもヒキガエルの頬のように膨らんだ七つの袋をよろけながら持っている。「二つぐらいならお持ちいたします。しかし身動きがとれないと保安上危険ですので、それ以上はお許し下さい」 その姿があまりにも痛ましいので、見かねて声をかけた。だが一人で警護しているので限度があった。「いいわ。ありがとう。一つだけ持って」 杏子はうれしそうに、一つだけ熊川に渡した。とうとう彼はボディガードからただの荷物持ちとなった。 これではちまたの弱すぎるアッシーと何ら変わりはない。VIPのためとはいえ、ボディガードの権威も落ちたものだと熊川は思った。「ねぇ、お腹すいたわね。何か食べましょうか?」 戦利品を振り回しながら、熊川など眼中にはいらぬといった歩みであった彼女は、ようやく振り向いた。「は、はあ。まだお帰りにならないんですか? ストーカーを突き止めるまでは、派手な行動は慎んだほうがいいですよ。プロとしてこのように衆人の中をうろうろされることはおすすめできません。できれば警護しやすい自宅の方で召し上がってください」「だってあなたがいればストーカーなんて恐くないでしょ。だから今のうちにたっぷり楽しんでおこうと思って。三十万円の保証金も払ってるんだしね。もったいないから」 熊川の返事もきかずにそういって、杏子はずんずんとエスカレーターを使いレストラン街に向かって行った。熊川はわがままな女だと口をへの字に曲げながら、見失わないように杏子を追跡した。 平日の昼間なので主婦グループが多い。ダンナたちが二百九十円の牛丼をかきこんでいる間に、彼女たちは三千円のランチをして、高級料亭の惣菜を並んで買ってゆく。 彼女はさっさと気に入ったレストランをみつけると、熊川など知らないとでもいうようにするりと入っていった。六つもパンパンに膨らんだ袋を下げているというのに、スムーズな身のこなしだった。女とはたいしたものだと思う。 熊川は防護壁のような主婦連をよけて、リストランテ「ビーナスの誕生」に入っていく。中央になんと噴水があった。 それに目を奪われていると、一斉に冷めたい視線を全身に浴びた。見た目には警察官の風体の彼は目立ちすぎた。 熊川はその視線を振り払うようにして、杏子の姿を探すためにフロアを見渡した。そしてまっすぐに彼女の前に歩いてゆき、ゆっくりと座った。 荷物は空いた席に分散して慎重に置いた。それでも周囲をうかがうことを忘れなかった。 メニューを見ていた杏子が顔を上げ、熊川をまっすぐに見た。笑った。流行色のルージュが大きく伸びた。きれいだった。「ほら、メニューよ。何にする?」「・・・・・・ミートスパゲティ」「それしかしらないんでしょ。バカね。ここはイタリアンレストランよ。カルボナーラやボンゴレ、イカスミのスパゲティだってあるんだから。あたしはゴルゴンゾーラソースのスパゲティにするの」 熊川は気恥ずかしくて腕を組んだ。女の買物と趣味嗜好は男には理解できない。いつもこじゃれた店に入るとミートスパゲティで押し通してきた。だいたいどこの店でもあるし、あまり高くない。 それに仕事中なので呑気にメニューを見ている暇などないのだ。隙を見せれば相手が何をしてくるかわからないし、なめられてはいけなかった。 夕方に彼女の行動をメールで、逐一報告してくるのだからどこかで見張っているに違いない。熊川はいかなる状況でもプロフェッショナルでいたかった。 ミートスパゲティとゴルゴンゾーラソースの皿が四十分後空になった。杏子はティラミスとパンナコッタを、目をきらきらさせながら味わっている。がっつくのではなくスプーンの一すくい一すくいを愛しげに眺め、口に運んでいた。「ああ、美味しい。ちょっと、ワタリガニのスパゲティください! あ、ピッツァマルガリータもください」 熊川は仰天した。よく食う女だと思った。何かにとり憑かれたように、どんどん平らげている。今日の服の買い方に似ていた。飢えている。何かに飢えていて、それを癒すように食っていた。 たしかにストーカーに怯えて、家に閉じこもっていればストレスもたまるだろう。そのことで身なりにかまわなくなったのもうなづける。「あ、熊川サンもピッツァ食べてください。ボディガードも疲れるでしょ」「いえ、わたしはこれで十分です」
2013.05.18
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先日、ある有料サイトに登録してみました。電子書籍として売るところです。 ま、いいとこ社食代くらいにかならないでしょうけど。(一食200円です) とにかく、参加することに意義があるのよね。とクーベルタン男爵が言った。 長編はあっちにして、楽天ブログは短編専用にしようっと。 スマホで小説アプリができるのを見つけたのですが、スマホがない(笑) ミステリーと軽いSFファンタジー、どっちがいいでしょうね。 どうしたら、ブログのアクセス数が増やせるかしらん。 一章づつアップするのがいいでしょうか。アメーバブログだと 文字数制限がゆるいのか、短編が一コマに入るのですけど。ここは不可デス。 おやきがマイブームですが、関西だと大阪の阪急にしか売っていないのよね。 手作り、かなりきつい。餅もち感は蒸すことで出るらしい。めんどくさい(笑) 冷凍を通販で買ってもいいけど、送料を入れるとそれなりのお値段に。 朝食にいいんですけど。もうすぐなくなります。グスン。「パピヨンパピヨン」3 (二)「今日はまっすぐお帰りになりますか?」 熊川は営業所の前の、駐車場まで成田杏子を案内して質問した。今日はとにかく車のない彼女を社有車で送ることにした。 社有車を使うことも別料金だが、企業からはとるが個人にはサービスだ。田村との話し合いで本格的なストーカー対策は明日からということになった。 熊川はストーカーを牽制するために、制服のまま出てきた。気合いは十分だ。当の杏子はシワのよったバッグを抱き締めて、空を見上げていた。くるくると一回転している。「ごめんなさい。ちょっと落ち着かなかっただけ。家に帰る前にちょとだけ寄りたいところがあるんだけど、いいですか?」「いいですよ、契約は今日からということになっていますが、お客さまの望むとおりにしますよ」 彼は彫刻のような顔をほころばせた。田村に依頼者の機嫌を損ねないようにと、出掛ける前に散々クギを刺された。 そして会社の信用のためにたとえ盾になってでも、守りぬけと言われた。労災はちゃんとかけてあるからなと、いい加減なことを言った。 いくら仕事でも死ぬのはまだ早い。本当にストーカーが刃物を振り回して襲いかかってきたら、まず依頼者を連れて逃げ一一〇番に報せるつもりだ。頑張りすぎると早死にする。警察手帳と手錠と拳銃のない仕事は恐いものなのだ。「じゃあ、まず美容室に行ってください」 熊川の初の身辺警護の依頼人、成田杏子は理解できない。 杏子が美容院に入っている間、熊川は車のなかから、美容室や外を観察していた。さすがに美容院にずかずかと分け入って、血走った目つきで嗅ぎ回ることはできない。 外にはストーカーらしい男などいなかった。五年間務めた警視庁をやめて、警備保障会社に入社して二年になる。 しかし警護課ではなく専門外だったので、入社後警視庁で警護一筋だった保安部長に、あらゆる警護の術をたたき込まれた。 そして個人の身辺警護は初めてだった。つまり実践経験がないということになる。「あの女、なんの心境の変化なんだ。何ヵ月も美容院なんかいってないくせに」 バカらしくなってきたが、仕事は仕事だ。 ストーカーを突き止めたら、彼女は多額の費用を払う。もちろん保証金はキャッシュで三十万円も預かっている。今日はまだ一日目だ。 それから二時間半後、美容室で今流行の髪型にし、髪を流行色に染めた杏子が出てきた。 熊川は目を見張った。髪が茶髪になっていたことではない。ファンデーションを塗りあのばさばさの眉を整え、マスカラで睫毛を見事にあげた杏子に仰天したのだ。アイラインもきれいにひかれている。 プロのメイクアップアーティストが選んだのであろうルージュもテレビで宣伝していた流行色だ。 そういえば外の料金表にはカット、ブローなどの定番に加えてメイク、着付けもあった。もちろん顔と髪以外は何も変わらず、首の下には着古したトレーナーがある。 熊川は後部座席のドアを開けた。「次はコトブキデパートに行ってちょうだい」 杏子はきつねにつままれたような顔をしている熊川など目に入らぬように、平然と車に乗り込んだ。くたびれたジーパンと変身した頭部を何度も見比べた。「デパートですか? そんな人込みの中にでるんですか? ストーカーが恐くないですか?」「だから身辺警護にあなたを雇ったんでしょ。あなたがいればどこに行っても大丈夫よね」「は、はぁ」 人込みの中での警護は選挙のときに経験があった。落選しそうな先生が演説をしている間、暴徒がでてきて危害を加えないように警護するのである。 駅前の改札口前で、出勤中のサラリーマンに迷惑がられながら、握手をしてゆくときも不審者が近づかないように目を光らせていた。 しかしデパートというのはボディガードが歩くと、客の気分をそこなう恐れがあった。できればおとなしく自宅にいてくれればいいのにと思った。 そうすればすぐ外で張りついているだけで警護がしやすい。思ったよりも今回はやりにくい仕事になりそうだ。 首から下はさえないままなのに、まるでプリティウーマンにでもなったように颯爽としている。 これではボディガードではなくただの運転手ではないかと、熊川は腹をたてていた。それでも彼女は我感ぜずと、助手席にすまして座わる。 その瞬間にファンデーションの芳香が鼻孔に飛び込んできた。くすぐったい。熊川は鼻をこすった。 杏子は長くない足を軽く組んだ。「シートベルトをして下さい」 動揺を隠すように、外に視線を固定させたまま言った。ちらっと見ると依頼人はベルトをしたあと、口をへの字に結んでいる。妙な女だ。 コトブキデパートの駐車場に止め、二人は店内に入っていった。今度はついて行くしかあるまい。 監視カメラがあるわけでないし、ボディガードが彼の仕事なのだから。ケビン・コスナーのようにかっこよくとはいかないが、彼はSPのように彼女の真横についた。 本当は前を歩きたいところだが、警察官のような制服で、百貨店内をのしのしと歩くわけにはいかない。それに彼女は、デパートの警備員にたのむほどのVIPでもない。 引き受けたのはうちだ。最初から最後まで任務は果たす。この律儀さは警察で身についたのだろうか。 身辺警護の鉄則は半径四メートル以内に犯人をいれないことだ。侵入された時点でボディガードの敗北となる。その前に不審者をとらえ防衛するのだ。これが保安部長直伝のボディガード術と危機管理のノウハウだった。つまり犯罪を未然に防ぐ危機管理が身辺警護ということになる。 熊川は制服のままでやってきたことを悔やんでいた。目立ちすぎだ。このほうがストーカーへの威圧になると思ったが、少なくとも気まぐれな成田杏子の警護には不向きだった。 しかし、彼女の運転手ぐらいならこのほうがいいと判断したが、完全に判断ミスだった。先の仕事では普段着だった。総会屋に狙われているという常務の護衛時はスーツであった。 彼女が美容室へ行くことも仰天したが、まさかトレーナー姿のさえない女が、デパートに行くと言い出すとは思わなかったのだ。 しかもストーカーを恐れ、大金をだしてボディガードを依頼してきたほどだ。大勢の人間のいるところを恐れていると思い込んでいた。 熊川が思っていたほど、杏子は弱い人間ではなかった。 彼女は熊川が推理するよりも豪気で目立ちたがりやだったのだ。「これと、これ、試着したいの。あ、熊川さんはそこにいてね」 杏子はくたびれたトレーナー姿だということを無自覚なのか、すました顔でブティックに入りこみ次々と服を取り出す。店員が応対する間など与えず、さっさと気に入ったものを持って試着室に飛び込んだ。 そして一着身に着けるたびに、外に出て鏡に姿を映した。女の買物は恐ろしい勢いで行なわれた。 さっそうと試着室から出てきた彼女は、カットしたばかりの髪とプロの手になるメイクの出来がいいのか、まるでモデルのように輝いていた。 あまり高くない身長にさえないプロポーションは相変わらずだが、あのトレーナー姿をずっと見てきたあとでは、まるで魔法にかかったように見違えて見えた。「どう、熊川さん?」「は、はあ、わたしはこういったことは苦手ですから」 そういって視線を移し、周囲を警戒しているというふうを装った。その仕事ゆえに誉めることもけなすこともできない。 依頼人に不快感を与えてはいけない。田村にたたかれた肩が、重圧を感じた。下手に誉めても、とってつけたように聞こえてはいけないのだ。女を誉めるという単純な行為が、熊川には東京大学に現役で合格するのと同じくらい難しく思えた。「つまんない人ね」 杏子は変身した鏡の中の自分の姿を、足の先からスライドさせるように、眺め回している。そして満足してはまた試着し、恍惚の目でもって観察したあと、また試着室に戻った。 それを五回繰り返して、二着買ったあとまた次のブティックに入った。最初の店で買った陳列してあったハイヒールの靴をはいている。まだトレーナー姿なので、少し違和感があった。 そこでやることはまた試着である。熊川はストーカー男の監視をしながら、ときどき変身した杏子を眺めた。 次々と服を交え、自らの着せ替えを楽しんでいる。まるで初めてデパートにやってきた子供だ。
2013.05.15
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「パピヨン」2「ストーカーですか?」 大帝国警備保障会社の警備主任の田村は息を飲んだ。応接室のその声に、数少ない女性事務員は顔を上げた。 社員たちのほとんどは派遣先に直行しているので、事務所は外から流れこんでくる喧騒だけで満たされていた。 この会社はそのきどった名に反して、業界では中堅の会社だった。いやどちらかといえば地域限定の弱小であるかもしれない。 創業者の高村仁平が名は体を表わすといって、思いっきり大げさなネーミングを考えついたのだ。 しかし中堅ゆえの難点は巨大テーマ博などの警備は、大手の下請けとしてやらざるを得ないことであった。 一向に大手に成長しないのは、その気取りすぎたネーミングで名前負けをしたのかもしれない。 そこで思いついたのが、個人の身辺警護である。最近は無秩序が蔓延し、真摯に生活をしている人間でも突然被害者となることがある。 強盗や通り魔殺人は防ぎようがないとしても、近ごろは若い女性がストーカーと呼ばれる男(中には女)に付きまとわれ、あらゆる嫌がらせをされ精神的苦痛を受けることがある。その行為をストーキング、その加害者をストーカーと呼ぶ。「ストーカー行為等の規制等に関する法律」が制定され警察に訴え出ることができたものの、警察は警告や禁止命令などの行政処分とさらに悪質な行為には刑事罰を課すだけで、個人の身辺警護をしてくれるわけではない。 だからボディガードサービスを始めたわけである。時代のニーズを先取りしたというのが、考えついた社長の自慢だった。 創業者がはりきっているので、誰も異議を唱えることができなかった。 さっそく規定を作り書類を整えて、ワイドショウなどで取り上げてくれるように働きかけた。大繁盛というわけにはいかなかったが、こうして「ボディガードサービス」は始まった。 そして第六号の依頼が、ストーカーに付きまとわれているという若い女だった。といっても田村の前に座っているのは、くたびれたトレーナーに、色むらのあるジーパンをはいたさえない女だ。ヒザには色とりどりの皮を継ぎ接ぎしたパッチワークのバッグを置いている。 靴も擦り切れて手入れがされてないし、足の幅が広いのかヒキガエルのようにだらしなく広がっている。髪もしばらく美容院でカットを受けていないように、毛先が痛んでいた。 眉もばさばさで目は上がり気味なのに、八の字のようにだらしなく下がっている。まるで痩せぎすの福笑いだ。 警備第二課の応接室のくたびれたソファに座っているくたびれた女は、フェロモンの欠片も持っていなかった。 女は成田杏子と名乗った。田村はこんな女につくストーカーは、ゾンビか悪霊に違いないと思った。 しかし太った女がストーカーに殺されたアメリカの事件をテレビで見たことがある。蓼食う虫も好き好きなのだろう。 そんな女でも零細企業の貴重な客だった。六番目の身辺警護の依頼者だ。バカにしたような意識はまったく顔にも出さず、ベテラン田村は完璧に対応した。「ストーカーは男ですか? 女ですか? 警察には行かれましたか?」「いいえ、警察には行っていません。ストーカーは男です。メールで毎日あたしの一日の行動を逐一報告してくるんです。きっとずっとつけてきてるんです。外出したときに私が何度トイレにいったとか、誰とすれ違ったとか正確に知っています。あたしのメールアドレスだってどこかでつきとめてきたんです」「まぁね、現代は金さえ出せばどんなことでも調べてくれる人間がいます。それにストーカーはゴミまで漁ります。もしかしてプロバイダーからの書類を見られたのでは?」「そうでしょうか」「一度警察に相談されてはいかがでしょう?ボディガードサービスは高いですよ。警備員一名で一週間以内の期間で二十万円一ヵ月以内で三十万円の保証金をお預かりします。そこから警護終了後に精算して残りを返金いたします。基本料金は一時間一万円です。一日では九時間で九万円です。警護が午後六時を越える場合は、一時間につき一万三千円です。その他早朝、深夜はさらに割り増し料金をいただきます」「わかっています。お電話でだいたいお聞きしました。でも命には代えられません」「今では法律ができて警察に行けば、ボディガードはしてくれませんが、恋愛や好意の感情からのつきまとい行為に関してなら警告や禁止命令などの行政処分をしてくれますよ。しつこい営業や勧誘などは対象ではありませんが」「いいえ勧誘なんかじゃありません。これは絶対に好意からのストーカーです。だから警察では頼りないんです。それに男が余計に凶悪になって、殺しにくるかもしれないと思うと恐ろしくて」「わかります、わかります。ストーカー撃退には我が社のボディガードサービスが一番効果的です。ガードがかたいとわかったらストーカーはあきらめます。絶対に効きますよ。なんでしたら、オフレコでストーカーを捕まえて、絞めあげることもできます。といっても暴力はつかえませんから、ちょっと大声で怒鳴るとかですが。もちろん警察にはご内密に」 田村は人差し指をたてて、唇を押さえた。「そ、そんなことまでしてくれるんですか?と、とにかく依頼します。あの、ボディガードは指名できるって書いてありましたけど、本当ですか?」「も、もちろんです。若くてたくましいのから柔道三段のベテランまで男女何人もそろえています」 田村はもみ手で速答した。これも社長の考 えたことである。ボディガードを依頼してくるのはたいがい女と決まっている。 ホストクラブのようにボディガードを指名できれば、客は喜ぶと考えたのである。いつもこんな突飛なアイディアを思いつくのは、社長取締役の高村であった。 手のひらをたたいてはアイディアを思いつくたびに、早朝でも会議を召集する。いつも振り回される社員たちは、すでにあきらめていた。「どうぞ、こちらがうちの生え抜きのボディガードです」 田村はもったいぶって、警備員の写真を入 れたファイルを見せた。まるでクラブののようだと思った。それでも臆することなく広げる。 成田杏子はおどおどとしながら、ファ イルに視線を向けた。一ページに二人の全 身写真と履歴書のような顔写真がある。詳細な経歴も書かれていた。 もちろん警察官出身もいれば、武道家からの転身組もいる。ルックスは問題にせず、能力で選んである。 子供の送り迎えは女性を選ぶ場合が多い。ボディガードは女性を選ぶ人も男性を選ぶ人も両方いる。 異性を意識しない年寄りや中高年の依頼者は、ベテランの方が安心といって、迷うことなく猛者を指名する。 このさえない女は誰を選ぶのだろう、田村は推理してみた。ベテランか若い男か?これがいつも楽しみでもあった。 女は念入りに一枚づつ最後まで見終わると また最初に戻って、眺めている。気になるページは何度もめくって見ている。 こんな奥手の女はきっと婦人警官出身者を選ぶだろう。男のボディガードでは居心地が悪いに違いない。しかしその割りには選り好みをしているように思えた。「この人にします」 意を決したように彼女はファイルを指差して、自らのボディガードを指名した。田村はファイルを自分の方へ向けて確認した。「熊川真也」 この男は元警察官だが、まだ入って間もない若造だ。元警察官という経歴だけで選んだ。 しかし凶悪なストーカー相手の護衛は、この男には荷が重過ぎるだろう。「こ、この男はまだ若くて、ストーカーの相手はまだ無理です。こちらの婦人警官出身者はどうでしょう? 彼女は柔道三段、空手二段、合気道二段のベテランです。女性ですが大丈夫ですよ」「いいえ、この人がいいです。この人がダメならやめます。指名できるからここにきたのに」「そ、そうですか、わかりました。 どうし ても熊川がいいとおっしゃるんですね。わかりました彼をつけましょう」 田村は仕方なく折れた。対ストーカーとしては心許ないが、依頼者の指名なのだから仕方がない。 この若い熊川は年寄ばかりのように思われると困るので、イメージ対策に紛れ込ませておいたのだ。 普段は展示会やJRのターミナル駅などの保安をやらせている。一番若手で一番軽薄そうなタイプなのにどうして選ばれたのか? 元警察官だからなのか? 強面のベテランばかりの中で、若くて甘めのマスクだからなのか? 未熟な熊川に任せてストーカーから依頼者を守り切れず、もしものことがあったらどうすればいいのだ? 殺されたりしたら? 自棄になったストーカーが通り魔殺人を起こしたりしたら? そんな最悪のシナリオが浮かんだ。 そうなればせっかくのこの新サービスが裏目に出てしまう。大帝国警備保障の信頼性が疑われ、細々とある下請けをはずされたら一大事だ。 田村はボディガードの指名制という思い付きのアイディアに酔っていた社長を恨んだ。異議を唱えることもしなかった重役達にも腹が立った。 会社の存亡を左右する選択をした成田杏子も恨んだ。しかし覚悟を決めた。「熊川君を呼んでくれ」「入ります」 間もなくしてノックもしないで、男は入ってきた。こいつは警察学校でなにを習ってきたのか?ベテランで思考を顔に出さないことに慣れている田村でも、眉間にシワを寄せて男を見た。 熊川真也、元警察官らしく姿勢も体格もいい。もちろん体格の良さは背が高いことと筋肉質であるということである。 ルックスとしては確かに若い女の好みであるかもしれないが、田村には軽そうに見え、信頼できるとは言えなかった。 警察に似せた制服に身を包むいまどきの若者を理解できるのは、息子がその年齢になってからであろう。いやオヤジとしては永遠にできないのかもしれない。「熊川です。仕事ですか?」「こちらの依頼者のご指名だ。ストーカーに付きまとわれているから、しばらくボディガードをしてほしいそうだ。我が社の名誉と誇りにかけて任務を果たしてくれ」 田村は依頼者を紹介した。「成田杏子です。よろしくお願いします」「わかりました。お任せください」 熊川はさらに姿勢をただし、踵で床をならした。若い男らしく成田杏子の頭の先から爪の先まで観察した。 そのさえない風貌にすぐに興味を失ったが、依頼者には営業スマイルで対応した。 田村は成田杏子に視線を移し言った。「まずストーカーについて詳しく教えてください。三人で対策をたてましょう。ストーカーがかなり悪質で刑事罰を望まれる場合は、警察の方に文書で告訴をしましょう。我々は状況によって、プロとしての適切な助言ができると思いますよ」 田村は胸を張った。
2013.05.11
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こんにちは。これが最初の熊川くんのドタバタボディガードもの、でした。 やっとみつかりました。あまりにもプロットだけのから完成品まで色々ありすぎて、 見ようと思っても探すのが大変です。 設定を考えて気に入ったら行け!と書き尽くすのが熱しやすくて冷めやすい私流です。 ま、結局キャラクターを気に入ったら書きたくなっちゃうだけですけど。 これも気に入ったので勢いで書きました。古くなっちゃうので、掲載します。 「パピヨンパピヨン」第一話。 女は買ってと言った。そして淋しいと言った 「愛してる?」ときいては安心していた 好きな男ができたと言った サヨウナラと言った そのすべてに答えるには男は疲れ果てていた 何人もの女が熊川にそういって去っていった 女は今もわからない。 そう感じるたびに、燃えがらとなった母親の映像が現われる ナゼダ? いつも男を苦しめる そうしてナゾがいつも男の前に置き去りにされ 解答は宇宙に捨てられた廃棄物のようにさまよう あの女、あの女だけは違ったのに 違っていたはずだ。きっと どうして俺が守るまえに、消えてしまったのか? いまも俺のそばにいれば、俺の運命も違ったはずだった 電車から吐き出された女子高校生たちが群れている。手入れされくっきりと描かれた眉がやたらと目立っていた。 弾けるように移動して、職場に向かう熊川を突き飛ばす。長身の彼でさえもよろめいた。 ホームの屋根と電車の隙間から差し込んでくる陽光に、目を細める。今朝は朝まで友人と呑んでいたので朝帰りになった。 アパートに戻って着替えたら、すぐに会社へ出勤することにする。 ストッキングとともに強くなった女たちを眺めながら、熊川はため息をついた。 成田杏子はとうとうやってきた。 何時間も電話帳をくってみつけた警備会社だった。広告の文字を何度も読み返して決めてきた。ここは警備員を依頼者が自由に選べることを売りにしていた。ここがいい。 いつでも相談に応じますと書かれていたので、電話をして今日の午後一時に約束をした。 一時間一万円以上かかりますと事務員に最初に言われた。費用にいとめをつけるつもりはない。 両親の残した家と保険金があるので、しばらく生きてゆくのにも困らない。百万くらい使う覚悟もある。 今日は意を決してやってきた。 待ちに待ったこの日がやってきたのだ。 成田杏子は口元を引き締めると、大帝国警備保障会社のドアを押した。
2013.05.11
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