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analog純文

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2011.10.01
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カテゴリ: 昭和期・後半男性

『枯れ葉の中の青い炎』辻原登(新潮文庫)

ネウリ部落のシャクに憑きものがしたといふ評判である。色々なものが此の男にのり移るのださうだ。鷹だの狼だのの霊が哀れなシャクにのり移つて、不思議な言葉を吐かせるといふことである。

 こんな文章で始まる短編小説を書いたのは中島敦で、タイトルは『狐憑』といいます。「狐つき」のことですね。
 原始時代の話、憑きもののしたシャクは次々と譫言のように物語を語り続け、それを彼の部落の若者たちが聞きたがるようになっていきます。ところが老人達、つまり村の中心人物達はその事がどうも気にくわない……、と話は進んでいきます。そして、作品の結語は、

ホメロスと呼ばれた盲人のマエオニデェスが、あの美しい歌どもを唱え出すよりずつと以前に、斯うして一人の詩人が喰はれて了つたことを、誰も知らない。

と結ばれています。これは、物語の魔に取り憑かれた男の話であります。

 さて、今回報告する小説ですが、辻原登という作家の作品で、私、この度初めて読みました。
 いやー、まだまだ私の知らない、凄いお話を紡ぎ出す方がいらっしゃるものですねー。びっくりしました。

 新潮文庫の裏表紙に内容紹介の文章が載っていますが、そこに「小説の愉しみを存分に味わえる」と書かれてあるのですが、本文を読む前に私はこれを読んで、失礼ながらあまり信用しなかったんですね。今までよく似た文言をいろんな紹介文なんかで読み、そして期待して本文を読んでがっかりした経験がとても多かったからです。

 そもそも短編集の総題の『枯れ葉の中の青い炎』というタイトルからして、何も知らなければ、なんか心境小説を延々と書き続けてきたこの道50年の老作家の、今回もまた老境の日々を淡々と描いた作品、みたいな感じ、しませんか?

 ところが、これがぜんっぜんっ! 全然違うんですねー。びっくりするんですねー。

 何気なさそうな新聞記事の紹介から始まって、プロ野球の今は無き球団トンボ・ユニオンズの話に進み、そこから往年の名投手スタルヒンの話と若い同僚選手相沢進の話に移動したかと思えば、ゴーゴリが出てくるわチェーホフが出てくるわ、そしてさらには南洋諸島にいる中島敦の話しに飛んでいく、そしてそしてその上……と、驚くべき連想力とそれを支える筆力とで、読者をぐいぐいと引っ張り回し振り回し仰け反らせはらはらとさせ、徹底的に凝りに凝ったストーリーで、まさに「小説の愉しみを存分に味わえる」作品となっています。

 この短編集には6つの話が収録されているんですが、そのうちの4つまでがこのタイプ、つまり「ジェットコースター小説」(今私が命名しました)であります。
 しかし6作品のどれもとってもおもしろいので、じゃ私のランキングを作ってみようと思って順に挙げていくと、

『ザーサイの甕』 『水いらず』 →……

 と、おやっ? 私が「ジェットコースター小説」じゃないだろうと判断した残りの2作品が、我がランキングの上位に入ってしまいました。

 上記に、抜群におもしろい「ジェットコースター小説」と自分で書いておきながらこうなってしまったのは、うーん、何故だろうかと考えたのですが、こんなのは微妙な好みの問題にすぎないとも思いつつ、あえてその理由を挙げてみますと、それはたぶん作品の終え方のせいかなと考え至りました。

 つまり、結局の所短編小説の難しさとは、作品の幕の降ろし方の難しさではないかと私は考えるわけですね。
 それが「奇談」になるのか、「人生の断面」になるのか、書き込みすぎてもいけないし書き足りないのもいけないという、まさに微妙な作品の着陸地点をどこに設定するかで、いわば作品の「高み」というものが決定されると考えるわけです。

 だから結局、私のランキングの不思議は、「ジェットコースター小説」であるか否かとはあまり関係がないようにも思いますし、ただひょっとすれば、「ジェットコースター小説」は、往々にして書き込みすぎるきらいがありはしないかと、少々、そんな感じが致します。

 しかしともあれ、この万華鏡のようにカラフルな小説を生み出していく作者の姿に、わたくしは、まさに冒頭にあげた中島敦の作品のように、

「ああここにも一人、物語を紡ぎ出す魔に取り憑かれた男がいる。」

と、ゾクゾクしながら感じたのでありました。


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Last updated  2011.10.01 06:46:10
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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