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2021.08.13
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カテゴリ: アート
図書館で『村上春樹翻訳ほとんど全仕事』という本を、手にしたのです。
めくってみると、村上さんが訳した本が、それぞれの表紙の画像と寸評が並んでいて・・・見るだけで楽しくなるビジュアル本でおます。


【村上春樹翻訳ほとんど全仕事】


村上春樹著、中央公論新社、2017年刊

<「BOOK」データベース>より
同時代作家を日本に紹介し、古典を訳し直す。音楽にまつわる文章を翻訳し、アンソロジーを編む。フィッツジェラルド、カーヴァー、カポーティ、サリンジャー、チャンドラー。小説、詩、ノンフィクション、絵本、訳詞集…。1981年刊行の『マイ・ロスト・シティー』を皮切りに、訳書の総数七十余点。小説執筆のかたわら、多大な時間を割いてきた訳業の全貌を明らかにする。

<大使寸評>
めくってみると、村上さんが訳した本が、それぞれの表紙の画像と寸評が並んでいて・・・見るだけで楽しくなるビジュアル本でおます。
個人的にはレイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』、『さようなら、愛しい人』やスコット・フィッツジェラルドの『マイ・ロスト・シティー』がお気に入りです。
rakuten 村上春樹翻訳ほとんど全仕事



村上春樹と翻訳家・柴田元幸さんとの対談を、見てみましょう。
p88~91
<翻訳家になれるなんて、思ったこともなかった>
村上: 僕は20代の半ばからずっとジャズのお店を経営していまして、とても忙しくてそっちで手一杯で、小説家になるということはまったく考えていなかったんです。というか、自分に小説を書く才能があるとは思ったことはありませんでした。本を読むことはとても好きだったですけどね。ただ、翻訳することには興味があって、ちょくちょく家で好きな英語の作品を訳していました。

 ノートにボールペンか鉛筆で書き連ねていくくらいの、まあただの個人的な楽しみとして、高校時代は、英文和訳のいろんな参考書を買ってきて、そればっかりやっていましたね。受験英語みたいなことはそっちのけで。だから学校の英語の成績はあまりよくなかった。とにかく英文和訳が好きで、そればっかりやってたから。

柴田: なるほど、そうだったんですね。

村上: でも、29歳のときにふとしたきっかけで突然小説を書いてしまって、それが群像新人文学賞を受賞して、いちおう小説家ということになりました。で、これは良い機会だから翻訳もやってみようかという気持ちになって、安原顕さんに「翻訳をやりたいんですけど」と言ったら「いいよ、やってくれ」ということになりました。

 安原さんはたまたま、僕が小説を書く前からうちの店のお客だったんです。それで訳したのがスコット・フィッツジェラルドの短篇でした。面白いもので、翻訳を自分でやっているときはノートにボールペンだったけど、小説を書こうと思ったときはちゃんと万年筆を買ってきて、原稿用紙に書きましたね。でも今でもね、翻訳といったら、ノートにやるという感じが強いですね。

柴田: といっても、実際の翻訳はパソコンを使ってなさるんですよね。

村上: 今はもちろんそうですね。ただ、旅行なんかのときにはよくノートでやってますよ。パソコンを持っていくのが面倒だから、英語の原書とノートと電子辞書だけ持って、旅先でコツコツとやるってことは多いですね。

柴田: 最初の翻訳がフィッツジェラルドの短篇だったんですね。

村上: 前々からやりたいと思っていたフィッツジェラルドの作品を訳したんです。今から思うと嘘みたいですが、当時はフィッツジェラルドの作品の多くは、日本では入手不可能になっていて、少しでも彼の作品を世に広めたいという気持ちが強かったんです。使命感というほどのものでもないですが、僕は個人的にフィッツジェラルドがとても好きだったから。

 そのとき安原さんが、翻訳者の飛田茂雄さんを紹介してくれて、いろいろと初歩的な手ほどきを受けたんです。飛田さんはもちろんベテランの立派な翻訳者で、翻訳者としての心構えみたいなものをとてもしっかり持っておられて、そういうところはずいぶん勉強になりました。

 柴田さんが訳文をチェックするときのような細かい指摘ではなかったけれど、考え方とか、ものの見方とか、そういうことを教わったような気がします。そのことを今でもよく覚えています。

柴田: 飛田さんが教えるときは、「村上君」という感じでしたか?

村上: いちおう「村上さん」でしたが(笑)、まだ僕も30歳くらいだったし、彼にとっては大学院生みたいな感じだったでしょうね。

柴田: 小説を書く前に趣味で翻訳をなさっていたころには、村上さんのお店に編集者なんかがお客として来ていたわけじゃないですか。それがなんかの拍子で、「僕ちょっと趣味で翻訳もやってるんですけど・・・」「え、じゃあ見せてよ」みたいな展開だってあり得たわけですよね。もしそれで訳書が出版されて、翻訳者になれそうだったら、小説家ではなく翻訳者になっていたという可能性はありますか。

村上: いや、それはないですね。とてもじゃないけどそんなこと、自分から口に出せないですよ。翻訳は本当に好きでやっていただけで、翻訳家になろうなんて、あるいはなれるなんて、思ったこともありません。うちの店のお客にはなぜか、作家とか編集者とか文壇関係者が多かったんですが、どちらかといえば隠れてこそこそそういうことをやっていたとという方が近いです。

柴田: なるほど、そういうものですか。

村上: 今でも覚えているのは、高校時代の英文和訳の参考書にカポーティの短篇小説“The Headless Hawk”(「無頭の鷹」)が例文として入っていて、それを読んで「おお、こんなにすばらしい文章が世の中にあるのか」と、高校生なりに感動したことです。参考書に載っていたのは出だしの数ページだけだったんですが、そこには美しい音楽を耳にしたときと同じような、素敵な感動がありました。世界の風景がこれまでとはちょっと違って見えてくるような、特別な間隔がありました。結局20年以上あとになって、「無頭の鷹」をきちんと翻訳する機会を得たわけですが、それは僕にとっては感無量というか、大きな喜びだったですね。やっぱり。英文和訳の参考書もちゃんと人生の役に立つんです(笑)。

 そういえば、柴田さんは前に、高校生の向けの英文和訳の本を出したいって言っていましたよね。

柴田: ええ。高校生にも読める易しさの、読んで面白い小説やエッセイが並んでいて、詳しい注釈があって文法的なこともひととおり学べて・・・という画期的な本を作って未来の村上春樹に読んでもらいたい(笑)。



村上春樹×柴田元幸の対談が『本当の翻訳の話をしよう』という本でも見られます。

【本当の翻訳の話をしよう】


村上春樹×柴田元幸著、スイッチ・パブリッシング、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
【目次】
帰れ、あの翻訳(村上春樹+柴田元幸)/翻訳の不思議(村上春樹+柴田元幸)/日本翻訳史 明治篇(柴田元幸)/小説に大事なのは礼儀正しさ(村上春樹+柴田元幸)/短篇小説のつくり方(村上春樹+柴田元幸)/共同体から受け継ぐナラティヴー『チャイナ・メン』(村上春樹+柴田元幸)/饒舌と自虐の極北へー『素晴らしいアメリカ野球』(村上春樹+柴田元幸)/翻訳講座 本当の翻訳の話をしよう(村上春樹+柴田元幸)

<読む前の大使寸評>
おお 村上春樹×柴田元幸の翻訳談義ってか・・・これは期待大である。

rakuten 本当の翻訳の話をしよう


『村上春樹翻訳ほとんど全仕事』2 :『さようなら、愛しい人』
『村上春樹翻訳ほとんど全仕事』1 :『マイ・ロスト・シティー』





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Last updated  2021.08.13 00:30:41
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