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2022.03.23
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『鳴かずのカッコウ』という本を、手にしたのです。
神戸を舞台にして国際諜報戦が繰り広げられる小説のようで・・・神戸市民としても興味深いのです。




手嶋龍一著、小学館、2021年刊

<「BOOK」データベース>より
最小で最弱の情報機関(ヒトなし、カネなし、武器もなし!)公安調査庁に迷いこんだマンガ大好きオタク青年、国際諜報戦争で大金星!?諜報後進国に現れた突然変異種のインテリジェンス・オフィサー。本邦初の脱力系インテリジェンス小説。

<読む前の大使寸評>
神戸を舞台にして国際諜報戦が繰り広げられる小説のようで・・・神戸市民としても興味深いのです。

rakuten 鳴かずのカッコウ


「エピローグ」の一部を、見てみましょう。
ロシアによるウクライナ侵略は2022年2月に始まったが、この本はその1年ほど前に発刊され、ウクライナ人の祖国愛を語っていたのでした。
p295~299
<エピローグ>
 ウクライナと日本の不思議なつながりに思いをはせながら、コヴァルチュックは三杯目のウォッカトニックを飲み干した。振り返ってみれば、つくづく数奇な旅を続けてきたものだ。30年以上も昔、黒海造船所デワリャーグの建造に関わり、中国で空母として蘇らせた。それだけでも大冒険だった。

 修復を終えれば、ただちに家族のもとに飛んで帰るつもりでいた。ところが思いがけないことに、神戸への赴任をもちかけられた。これも神が定めた運命と自分に言い聞かせ、シップブローカーという新しい仕事に打ち込んでみた。そこに、突如、驚くべき指令が降りかかってきた。アメリカの諜報当局と極秘裡に接触せよ――。だが、船のエンジンの設計と修理しかやったことしかない人間に容易に勤まる仕事ではない。

 北京はなぜ自分を選んだのだろう。その真意はいまだに判らない。船のエンジン屋と諜報要員。その意外ともいえる落差のゆえに敢えて選ばれたのか。それともリヴィウというウクライナ・ナショナリズムの揺籃の地にうまれたゆえなのか。ローマ・カトリックの流れを汲む宗教を心の拠り所とし、ウクライナ語と独自の民族文化を誇りとする。それこそが自分にとって自然な生き方だと信じてきた。

 ロシアがクリミア半島を実効支配したことで、ロシアに対する敵愾心はいっそう募っている。敵の敵は味方――。リヴィウに生を享けた者にとって、ロシアは仇敵。そのロシアと鋭く対峙するアメリカは味方とも言える。リヴィウ生まれの男なら、ワシントンが送り込んでくる接触相手ともウマが合う、そう北京は踏んだのかもしれない。

 だが実際に秘密と隣り合わせの暮らしを始めてみると、神経をすり減らす日々だった。通信が傍受されてはいないか。尾行されているのではないか。一日として心休まるときはなかった。
 絵本を閉じて窓の外を見ると、それまでタブレットで一心不乱に論文を読んでいた隣のブルネットの女性が、優しく微笑んで話しかけてきた。
「今読んでいらしたのは日本の童話かしら。日本語が読めるなんて羨ましい。私は学会で初めてあの国を訪れたのですが、京都の美しさにすっかり魅せられてしまって、次は仕事を離れてゆっくり過ごしてみたいわ」


 桃太郎と豆太郎の話をひとしきり披露するうち、すっかり打ち解けた。
「お仕事の資料とは知りながら、タブレットの画面をつい拝見してしまいました。肝臓のお医者様なのですか。じつは私の一人娘が肝臓病を患っていまして――」
「ええ、私は肝臓の専門医です。京都で開かれた国際肝移植学会で研究発表を終えてロンドンに帰るところです」


 コヴァルチュックはおずおずと切り出した。
「あの、もし差し支えなければ、相談に乗っていただきたいのですが」
「もちろん、私でよければ、それでお嬢さんのご容態は」
「娘は十年ほど前、ポーランドのワルシャワで肝臓の移植手術を受け、その後も経過はよかったのですが――。それが、ことし初めから肝機能の数値が急に悪くなりまして。免疫抑制剤も前ほど効きません。これからどんな治療を受けるべきか、担当医と相談するために、日本での仕事を一時切り上げてリヴィウに帰るところです」
「なるほど、ワルシャワで移植を」
 女医はそう呟くと一瞬顔を曇らせた。

「それはご心配ですね。こうしてお目にかかったのも何かの縁、どうぞ遠慮なくお話しください。私でできることならお力になりますから」
 彼女はそう言ってカードケースから名刺を取り出した。「キングス・カレッジ・ロンドン生命科学部教授」とあった。専門は移植免疫学だという。神様が相談相手として差し向けてくださったとしか思えない。
(中略)
 獲物はついに投網にかかった――。ブルネットの教授は赤いフレームのリーディンググラスを左手に持ち替えて、打ち合わせ通りに、窓の近くで小さく三度振ってみせた。

 消えかけている愛娘の命の炎を前に、救いの手を拒む親などいるはずがない。リヴィウの男はまもなくわが手に落ちる――。すぐ後ろの席に座るスティーブン・ブラッドレーは、心の中で快哉を叫んだ。だが、何食わぬ顔でグレアム・グリーンの名編『ヒューマン・ファクター』を読みふけっている。

 ダブル・エージェントに誘う側にとって、寝返りの動機ほど重要なものはない。カネは言うに及ばず、思想・信条も、相手を繋ぎとめておく決定的な拠り所にはならない。二重スパイを取り巻く状況が変われば、あっさりと裏切られるからだ。だが、愛する妻や子供のためなら、決心は容易に揺らがない。

『ヒューマン・ファクター』の主人公、モーリス・カッセルが英国秘密情報部を裏切ってソ連の二重スパイになったのも、愛する女性のためだった。彼が赴任していた南アフリカでは白人と黒人の恋愛はご法度だった。カッスルは恋人の黒人女性セイラを国外に逃がそうと試み、その手引きをしてもらう代償として、ソ連の秘密工作員になることを約束させられる。こうしてクレムリンのダブル・エージェントとなった。

 コヴァルチェックを落とし、中南海から引き剝がして、二重スパイとして運用するにはどうすればいいか。様々に思いをめぐらしているうち、『ヒューマン・ファクター』から啓示を得て、このオペレーションを思いついた。作戦名はカッスルの妻の名をとって「セイラ作戦」とした。
「われ奇襲に成功せり」
 通路を挟んでアイル側の座席に控えている松江の古美術商に手話でサインを送った。
「本作戦の完遂を祈念する」
 ほっそりとした指でサインが返ってきた。


『鳴かずのカッコウ』6 :コヴァルチュックを追う「鍛冶屋」作戦
『鳴かずのカッコウ』5 :サイバー戦
『鳴かずのカッコウ』4 :彷徨える空母
『鳴かずのカッコウ』3 :身分偽装のお話し
『鳴かずのカッコウ』2 :第2章 蜘蛛の巣
『鳴かずのカッコウ』1 :ジェームス山





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Last updated  2022.03.23 00:22:52
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