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2023.12.28
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『科学する心』という本を手にしたのです。
物理学を専攻した池澤さんが説く科学的エッセイってか・・・興味深いのでチョイスしたのです。





池澤夏樹著、集英社インターナショナル、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
大学で物理学科に籍を置いたこともある著者は、これまでも折に触れ、自らの作品に科学的題材を織り込んできた。いわば「科学する心」とでも呼ぶべきものを持ち続けた作家が、最先端の人工知能から、進化論、永遠と無限、失われつつある日常の科学などを、「文学的まなざし」を保ちつつ考察する科学エッセイ

<読む前の大使寸評>
物理学を専攻した池澤さんが説く科学的エッセイってか・・・興味深いのでチョイスしたのです。

rakuten 科学する心



「第5章 原子力、あるいは事象の一回性」の冒頭を、見てみましょう。
p97~101
<第5章 原子力、あるいは事象の一回性>
 2019年3月で東日本大震災から8年が過ぎた。
 地震ならびに津波の被害とフクシマの被害はまったくその性格が異なる。原子力あるいは核エネルギーについて改めてここで考えてみたい。自分の人生とこのケクノロジーの歩みを追って。

 1945年7月16日、ぼくが生まれて十日目に世界で初めて原爆の実験が行われた。それから1ヶ月もたたないうちに広島と長崎で実戦に使用された。高熱と爆風と放射線。数日のうちに約二十万人が死亡し、それからの5年間まで含めると総計34万に及ぶ人々が亡くなった。

 ここで犠牲と言う言葉を使っていいものかとためらう。牛篇でわかるとおり、犠牲というのは何かの目的のために神の祭壇で殺される動物のことである。無辜の人々の難死にそんな意味を与えることが許されるのか。ユダヤ教の燔祭(ホロコースト)ということばをジェノサイドの意味で使うのもどこか違う気がする。正しき神はそんなものは受けつけないはずではないか。

 1953年12月8日、ぼくが8歳の時、就任したばかりのアメリカ大統領ドワイト・D・アイゼンハワーは国連総会で「平和のための原子力」という演説を行い、核エネルギーは戦争のためだけでなく平和目的にも利用できると主張した。原爆の開発に手を貸した科学者たちはこれで少し良心の呵責を緩めることができると思った。しかし本当にそうだったのだろうか。
 翌年の3月、ビキニ環礁での水爆の実験で第5福竜丸の船員が被曝し、その半年後に久保山愛吉さんが亡くなった。

 1979年3月28日午前4時、ぼくが33歳の時、アメリカのペンシルベニア州スリーマイル島の原子力発電所二号炉の制御室で警報音が鳴り響き、百を超える警告灯が点灯した。冷却系の故障が次々に波及して、運転員は何が起こっているのか把握できなくなった。原因はパイロット操作逃がし弁(PORV)が閉じなくなる「開固着」だったが、多くの事象がたてつづきに起こる混乱の中でこれは見逃された。炉の中の冷却水が失われ(LOCAと呼ばれるタイプの事故)、燃料集合体の半分以上が露出してメルトダウンが始まった。

 核燃料のペレットはジルコニウムで被覆されている。冷却水喪失で高温になったジルコニウムは、水蒸気と直に接触すると二酸化ジルコニウムに変わり、水素が発生する。水素は空気中の酸素と混じって容易に爆発する。格納容器が破壊され、大気中に放射性物質が撒き散らされる。

 この時は半径24キロ圏内の20万人が避難した。
 最終的に水素爆発は起こらず、事態はやがて沈静化した。この二号炉は廃炉になり、無傷だった隣の一号炉も世論の反対で数年先まで再稼働されなかった。

■オッペンハイマーは「われは死なり」と呟いた
 1982年、37歳の時にぼくは『ヒロシマを壊滅させた男 オッペンハイマー』(白水社)という、イギリスBBCのジャーナリストが書いた本の翻訳を出した。

 話は1945年、ぼくの誕生の時に戻る。
 原子爆弾開発の主役だったオッペンハイマーはインテリだったから、ニューメキシコ州に作られた実験場にジョン・ダンの詩を引用して「トリニティー(三位一体)」という名をつけた。
 実験の前、マンハッタン計画に参加した科学者たちは自分らが開発した原子爆弾の威力について懐疑的だった。威力についてさまざまな数字が飛び交った。最も楽観的なのはエドワード・テラーが出したTNT火薬に換算して四万五千トンというもの。ハンス・ベーテは八千トン、公式の予測は五千トン、オッペンハイマーは指揮する立場なのに悲観的に三百トン。ゼロと言う者もいた。
(中略)

 7月16日、20億ドルを費やした爆弾はちゃんと爆発した。多くの予測を上回って威力はTNT火薬にして二万トン相当だった。
 オッペンハイマーは、ここでインドの古典『バガヴァッド・ギーター』の一節を思い出して「われは死なり。多くの世界の破壊者なり」と呟いた、と後に語っている。戦いを前にしてためらう王子を神クリシュナが激励する言葉だ。オッペンハイマーにはためらいがあったのだろう。

 なぜ原爆は完成してしまったのか?





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Last updated  2023.12.28 00:08:40
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