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「今度こそ誰にも渡さない」ーー婚約者に浮気され一方的に婚約破棄を言い渡されただけでなく、彼らの悪巧みで悪女に仕立て上げられた子爵令嬢エレーヌ。以来、周囲から白い目で見られる中、エレーヌは完璧と名高いサルヴェール公爵が育てたという特別なバラの苗を手に入れるため、バラの品評会に訪れた。しかし、そこでも元婚約者と遭遇し、いわれのない誹りを受けてしまう。公爵のバラも手に入りそうになく、諦めて帰ろうとしたそのときーー「八年八ヶ月と二十三日前に助けていただいたあなたの一番の愛玩なめくじもどきのダンズです。エレーヌ、私と結婚しましょう」大勢の前で、突然かの公爵に跪かれ、おかしな求婚をされたのですが!?
登場人物
エレーヌ=婚約破棄された
翌日に皇弟のルカから求婚された子爵令嬢。
ルカ=公爵位を持つ皇弟。
フェリックス=エレーヌの元婚約者。
レイラ=豪商の娘でエレーヌの従妹。
婚約者の母から厳しい淑女教育を受け、今では立派な淑女に成長したエレーヌ。だが、そんな彼女を婚約者・フェリックスは何の面白みも無い女と卑下し、剰えエレーヌの従妹のレイラと浮気。そのレイラが妊娠したから婚約破棄すると宣言。
この婚約自体、フェリックスの祖父の悲願でもあったため、孫が勝手に取りやめたら前伯爵はさぞ嘆いている事だろう。無駄かと思いつつ指摘してみたものの、故人の意向より今生きている者の意思だろうと尤もらしいことを言ってくる。
彼の横には勝ち誇った笑みを浮かべる従妹。現状、フェリックスから性悪だの嫉妬深いだのエレーヌが悪し様に罵られているのは、どうやらある事ない事レイラから吹き込まれたらしい。
それにしても婚約破棄するにしたって、帝国で一番人気のパティスリーでする会話ではない。
聞き耳を立てる令嬢方の多い事。おかげでエレーヌの悪評は数日のうちには社交界に出回ることだろう。どうでも良くなって婚約破棄について承諾すると、今度は本当に可愛気が無い女だと悪態をつかれる始末。
盛り上がっている本人達を他所に、この婚約破棄に関しては両家に波紋を呼んだ。
エレーヌの家族は激怒し、レイラの実家が営むアドラー商会へ抗議の末、援助も打ち切ると勧告。フェリックスのバーム伯爵家へは抗議と慰謝料を請求することになった。どちらも不服として子爵家に怒鳴り込んで来たが、常識を考えれば当然の措置である。
この騒動によりエレーヌは暫くは公の場には出ない方が賢明と、屋敷に引き籠るつもりだったのだが、天才肌故に友人が出来ず表に出たがらなくなっていた弟・ミケルからの頼みで、バラの品評会に出掛けることに。
ミケルによれば、皇弟・サルベール公爵が品種改良した三色のバラが展示されるらしく、その苗を購入して来て欲しいという。いや、そんなバラは高位貴族でないと分けてもらえないんじゃ、とも思ったけれど、可愛い弟の頼み。研究に使いたいらしいから頼むだけ頼んでみよう。
意気込んで出かけたのはいいものの、会場でデート中のフェリックスたちとバッタリ。
一人で参加したエレーヌを馬鹿にし難癖を付けて来る。いい加減腹が立って来た頃、会場の警備に参加していた兄・ジュストが現れると彼らは逃げて行った。
近衛騎士団副団長を務める兄に、ルカ・サルベール公爵とコンタクトを取りたいと頼み、例のバラを見に行くと美しさもさることながら見事な品種改良ぶりに生物オタクであるエレーヌは歓喜。
褒めちぎっていると公爵が現れ恐縮する彼女に彼は膝をつき、なんといきなりのプロポーズ。その口上によると公爵はエレーヌに大恩があるらしい。いや、でも私たち初対面ですよね?
しかし、8年8ヶ月と23日前ぶりの再会とはまた随分具体的な。それに彼はなめくじもどきのダンズと名乗っていた。
騒然とする場内を他所に、その日は早々に退散したが、あの求婚は嘘ではなく3日後になると屋敷にはあのバラの苗と共に正式な求婚状、エレーヌ宛に公爵邸への招待状が届けられた。
婚約破棄されたばかりなのもあり、両親はいくら皇族からでもこの結婚話に渋っていたが、エレーヌの方はダンズと名乗った彼が気になって仕方ない。
招待に応じ、公爵邸に赴くと出迎えてくれたルカに徐にあなたがダンズってどういうことかと尋ねた。ダンズとは正にルカが言っていた8年8ヶ月ほど前にエレーヌが保護して暫く子爵邸で世話していた不思議な生物だった。どの図鑑にも載っておらず全身黒くて紫の一つ目、腕のような触手がありナメクジのように移動する不可思議な生き物。強烈な悪臭を放つ口には参ったが、エレーヌはダンズと名付け可愛がっていた。だが、暫くするとダンズは異国の島に住む珍獣であり、輸送途中で逃げ出したと飼い主が引き取りに来て本来の居場所へと戻って行った。
ルカの話す状況はさも当事者のようで、彼女の記憶とも合致する。
でも、彼の珍しい紫色の瞳は確かにダンズと同じもの。間違いない、ルカは本当にダンズなのだ。
だが、彼は何故あんな姿だったんだろう。ルカの話によれば呪いに掛けられたのだという。帝位継承争いで兄の一派が魔術師を雇いルカに呪いをかけた。
当時8歳だった彼はあのなめくじもどきとなり、離宮に引き籠っていたものの、数年経っても戻る気配は無く誰もががその不気味な姿と放つ異臭を嫌い世話をしたがらなくなった。自暴自棄になったルカは馬車に張り付いて家出を決行するも、落ちた沼付近に遊びに来ていたエレーヌに拾われたのだった。
その後、子爵が妙な生き物を娘が飼っているとの話を聞きつけ、王家が探りを入れルカと判明。侍従長が飼い主と偽り彼を連れ帰ったのだそうだ。
しかし、すっかりエレーヌに惚れこんでいたルカは彼女に会いたくて堪らず泣き暮らしていた。するとある朝目覚めると本来の彼の姿に戻っていたのだと。
何故呪いが突然解けたのかは不明だけれど、これでエレーヌと恋ができる。
婚約者がいたので悩んでいたら、運良くあちらから破棄してくれたので、チャンスを逃してなるものかとプロポーズしたらしい。
身分差がどうこう言われるなら爵位を返上するとまで言われたのには驚いたが、あの可愛いダンズがルカだったってだけで好感度は爆上がりだった。
両親にも彼を信じているから結婚したいと伝えると渋々ながら許可を得て、晴れて二人は婚約。ルカは彼女の為にと貯めていた金を湯水のように使い貢いで来るには困ったけれど、生物観察が好きなエレーヌの為にあの沼へと連れて行き、泥んこになるまで遊んだりもした。
そんなある日、ルカと皇家主催の競馬大会に出掛けたエレーヌはまたもやフェリックスと遭遇。二人きりで話したいと請われ、嫌々ながら応じると、レイラと伯爵夫人の折り合いが悪い事。レイラにやる気が無いことなど愚痴を捲し立てると、エレーヌと復縁したいと言い出して・・・。
呪いに掛けられた第二皇子が自分を助けた令嬢に恩義と恋心を抱くのは至極当然。彼女が婚約破棄されたのは気の毒だけどこれで自分にもチャンスが。
当初、エレーヌは身分差で彼との結婚を悩んでいましたが、ルカがダンズと知ってからはその想いを受け入れる決心をします。
その矢先、あの最低男の復縁要請ですよ。どの面下げて。
おまけにエレーヌのお相手が皇族だって判って言ってるのか。それ以前に色々承知の上でレイラと婚約したくせに愚痴るとかさぁ。
そこを指摘されるとまたもや逆切れ。暴力を振るわれそうになった彼女を救ったのは勿論ルカ。この時の伯爵家は婚約破棄の時の慰謝料始め、伯爵の女遊びと借金のせいで火の車。
エレーヌとよりを戻し、慰謝料免除を目論んでいたようですが思惑通りに行くはずがない。大体、エレーヌと結婚してもレイラは愛人として囲うとかアホなこと言ってる時点でね。
予想通りに破滅の道を辿っていく伯爵家の様子にルカはほくそ笑んでいました。勿論、レイラの方も援助打ち切りで四苦八苦。大分駆け足でしたが見事にザマァされててスッキリ。
実はルーヴィエ子爵家の面々は代々多岐にわたる分野の天才を輩出しており、帝国を支えていました。ジュストは剣術、ミケルは知能が高く謀略に長け、エレーヌは生物学の天才。フェリックスの祖父も建前を付けて子爵家の者と縁を結びたかったのはこうした事情もあったようですが、ホント、逃した魚は大きいね。
エレーヌが結婚後に出すらしい生物学の本は凄いものになりそう。
評価:★★★★★
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