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2009年11月30日
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 夜明け。
 千尋の苦しげな息づかいがアシュヴィンの眠りを妨げた。

(どうしたんだ……)

 触れてみると、火のように熱かった。

(奥方?)

 アシュヴィンはどうしていいかわからなかった。いつもなら起きる時間だった。アシュヴィンはとりあえず、いつものように起きあがった。

「う…ん……」

 千尋が目を覚ました。アシュヴィンの顔に、一瞬安堵の色が浮かび、ついで心配そうな色になり、しかしそれはすぐに消えた。
 大儀そうながらも、千尋の顔が不満の色に変わった。

「起きちゃうの?」
「なぜ聞く。執務の時間だ。休めるか。」
「だって、私……」
「遠夜を呼んでおく。それでいいだろう。」

 天蓋をめくっていつも通り外へ出ていった。衣服を着る音、佩剣を身につける音、いつも通りの朝の音が一通り聞こえた後、扉が開いて、カツンカツンと響く長靴の音が遠ざかる。
 千尋は納得いかなかった。アシュヴィンが千尋の体調に気付いているのは明らかだったのに、どうしていつも通りに振る舞えるのだろう。

(風早だったら……)

 大げさに思えるほどにも手を尽くしてくれるだろうに。少しでも目を離すと千尋が黄泉の国の住人になってしまうとでも思っているみたいに。遠夜を呼んで、それで、終わり……?
 千尋は目の奥が痛くなった。じわりとあふれる物を我慢はしなかった。

(神子、泣いているのか?)

 いつの間にか遠夜が来ていた。千尋の額に手を当てた。

(大丈夫、すぐに良くなる。)

 持参した薬草から症状に合う物を選び、煎じて千尋に飲ませた。しばらくするとじんわりと汗ばんできて、千尋の気持ちも落ち着いてきた。

(アシュヴィンのことは気にしない方がいい。)

 千尋はうなずいた。優しく握る遠夜の手に癒されて、千尋は眠りに落ちていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 わざと足音高く寝室を後にしたものの、アシュヴィンの心が平静であるわけがなかった。
 平気な顔をしていつも通り執務しているように見せかけてはいたが、隠しきれない不安は不機嫌という形を取って表面に現れる。
 一番被害を被っていたのは、リブだった。

「リブ、茶だ。」
「は、ただいま。」

 何がアシュヴィンを不安定にしているのかリブには見当がつかなかったが、不安を落ち着ける茶をしきりに淹れては勧めていた。

(もうこれで10杯目のお茶です。殿下に何があったのでしょう?)

 何も言わないのは以前からのことだ。何も手に着かないのを無理に隠しているのを、リブは見抜いていた。
 そこへ、千尋付きの釆女が足早にやってきた。アシュヴィンの顔色がさっと変わった。

(ははん、お后様、ですか。)

 またケンカでもなさったのだろうかと思ったが、そんなことで釆女が来たことはない。

(お加減が悪くなられた……)

 リブの顔色も少なからず曇った。釆女の報告する声は小声でよく聞き取れないが、なにやらアシュヴィンに懇願する風だった。アシュヴィンの表情は動じることがない。釆女もついに根負けして、前を下がった。見かねてリブは口を開いた。

「殿下、おそばについて差し上げてくださいませんか。」
「何のことだ。」
「二ノ姫様の……お后様のお加減が悪いのでしょう?」
「余計なことを。お前には関係ない。」

 関係ないことはないでしょうという言葉をリブは飲み込んだ。言葉とは裏腹に、アシュヴィンの心が平静でないのがわかったから。

「寝ている者のそばにいたところで意味がないだろう。」

 執務机から一歩も立ち上がることなく、アシュヴィンは書類に目を通し、署名し、部下を呼びつけて指示を続ける。しかし、幾枚かそれを続けた後、アシュヴィンは急に立ち上がり、ドアへ向かった。

「殿下、どちらへ。」
「用足しだ。」

 リブは丁重に見送り、そしてそっと微笑んだ。長靴の足音は明らかに休憩室の反対側……後宮の方へ向かっている。

(まったく、もう少し素直になられればよいものを。)

 リブは、執務机の上の書類を片づけた。控えていた部下に、詰所へ戻るように言った。おそらく、アシュヴィンは戻らない。明日の朝……もしかすると、千尋の容態が安定するまで。





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最終更新日  2009年11月30日 19時28分54秒
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Re:【アシュ千】 発熱 その1(11/30)  
あやめのめ  さん
確かに、アシュが不機嫌になると一番の被害に遭うのは彼でしょうね。でも彼のことだから、うまくかわしていそう。頑張れリブ! (2009年11月30日 20時05分05秒)

Re[1]:【アシュ千】 発熱 その1(11/30)  
美歩鈴  さん
あやめのめさん

 あやめのめさんが思われた通りだったでしょうか?
 いえ、事態はもっと深刻なことに……

 うん、きっと大丈夫ですよ。 (2009年12月01日 20時07分58秒)

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