F&Bハーレクインパラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 9
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 8
天上の愛地上の恋 昼ドラ風時代パラレル二次創作小説:綾なして咲く華 2
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 0
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 0
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:最愛~僕を見つけて~ 1
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
腐滅の刃 平安風ファンタジーパラレル二次創作小説:鬼の花嫁~紅ノ絲~ 1
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 2
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 5
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 0
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 0
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 5
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 4
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 1
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 0
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 0
名探偵コナン×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 0
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「昔、君が怪我をして屯所で暫く暮らしたことがあったけど、風呂に一緒に入るなんてことはなかったなぁ。」嬉しそうに斎吾-“斎藤一”はそう言って髪を洗う華凛を見ていた。「同性の裸なんか見て面白くないでしょう?それに何がそんなに嬉しいんですか?」「嬉しいに決まってるよ。昔は君の裸なんか見る機会なんて全然なかったからねぇ。やっぱり屯所にいた連中がおかしくなったのが分かるなぁ。」斎吾は湯船から上がり、華凛の隣で髪を洗い始めた。髪を洗い終わった華凛は、ゆっくりと湯船に浸かった。「斎藤さん・・今は葛藤さんでしたね・・」「どっちでも君が呼びやすい方でいいよ。」「では斎藤さん、ひとつ聞きたいことがあるんですけれど、いいですか?」「何だい?」「あなたは彼の事を、どう思っていらっしゃったんですか?」束の間、2人の間に重苦しい沈黙が下りてきた。「言葉で説明するには複雑すぎるかな、あの時の彼に対する想いは。」斎吾はゆっくりと顔を上げて華凛を見た。「彼と初めて会った時、明るくて元気で可愛い子だと思ったよ。でも、只の部下として見ているだけだった。けど、君が彼と付き合いだしてから彼に対する気持ちが変わり始めたな・・でも彼は君の事に夢中だったから最後まで無関心を装ったよ。」「そうだったんですか・・」「彼は君の事を死ぬまで愛していた。君の死を会津で看取ってからもずっとね。わたしは君と彼の関係を知っているから、香奈枝の背中を素直に押せない。彼はきっといつか、君の事を思い出す。そう信じて彼を待ってあげればいい。」「ありがとうございます、斎藤さん。」涙が出そうなのを必死に堪えて、華凛は風呂から上がった。髪を乾かしながら、華凛は高史は今どうしているだろうかと思った。もし高史が真実を知ってしまったら、香奈枝と離婚するのだろうか?それとも、真実を知っても血の繋がらない子を我が子として育てるのだろうか?いずれにせよ、高史にはこの事は知らせたくない。高史が悲しむ顔は、見たくないから。「じゃあ、お休み。」「お休みなさい。」これからどうなるかわからないが、今はそんなことを考えるよりもゆっくりと休みたかった。同じ頃、斎吾は携帯で香奈枝と話していた。「あの子に真実を話したよ。」『どうしてそんなことをするのよ!?もしあの子が脅迫してきたらどうするつもり!?』「あの子はそんな事を考える子じゃないよ、君と違ってね。それにしても旦那と離婚するつもりなのかい?そんな訳ないよね。だって他の男の子を妊娠したのに、それを盾にして夫婦の仲を取り繕おうとしているんだから。」『あなたにわたしの何がわかるのよ。確かにわたしがしたことは許されないことよ。でもわたしにそういう行動を取らせたのはあの人が悪いのよ。わたしは決して悪くないわ!』「君はそうやっていつも人の所為にするんだね。昔からそうだった。君は全く変わってないね、そういう根性の悪さは。」うんざりした口調でそう言って、斎吾は通話ボタンを切った。「これからどうしようかねぇ・・」翌朝、華凛が目を覚めて布団から起き上がると、部屋の入り口には斎吾が立っていた。「おはよう、正村君。今日は君に合わせたい人がいるんだ。ちょっと茶室まで来てくれないかい?」「ええ、支度をしたらすぐに・・」突然の事で、華凛は少し面食らったが、素早く身支度を整えて茶室へと向かった。「失礼いたします。」「どうぞ。」ゆっくりと襖を開けると、そこには袴姿の健吾が座っていた。「どうして、あなたがこんな所に・・」「君と話がしたいからって言ったから、呼んだのさ。」「俺はこの人と話すことはありませんけど?」華凛の脳裏に茶会での忌まわしい記憶が蘇った。「あの時のことは本当にすまなかった。許してくれ。」健吾はそう言って華凛の手を取り、それに口づけた。「話とは一体何ですか?」怒りと警戒に満ちた藍色の瞳で、華凛は健吾を見た。「実は君に少し頼みたいことがあるんだ。」健吾は華凛の耳元で何かを囁いた。
2012年04月01日
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「ちょっと・・何処へ行くんですか?」華凛の問いには答えずに、男性は早足で街中を歩いてゆく。やがて2人は閑静な高級住宅街に入って行った。やっと男性は一軒の家の門前で止まった。(この家、見覚えがある・・確か、お茶の稽古受けた時に来た・・)表札を見ると、そこには「葛藤」と書かれてあった。(葛藤って、確かあの茶道の・・じゃあこの人は・・)「自己紹介が遅れたね。わたしは葛藤斎吾(かつらふじせいご)。君の恋人の元上司さ。」そう言って男性-かつての新撰組三番隊組長の“斎藤一”は華凛に向かって笑った。「どうして俺が、前世の記憶があるって気付いたんですか?」葛藤流の茶室で、華凛は茶をたてている斎吾を見た。「さっきさ。あれから百数十年経ったけど、君は全く変わってないね。いつも人を寄せ付けない氷の鎧に包んで、無表情で人を斬り殺していたあの頃の君は、わたしと同じ雰囲気を纏っていた・・」斎吾はゆっくりと顔を上げ、華凛を見つめた。華凛はその瞳の奥に、かつて狼と恐れられた男の姿が浮かんだような気がした。いつも迷いがなく、ただ己の道を貫く孤高の狼の姿が。「彼とは会えたのかい?」「はい、ですが・・」「その先は言わないでいいよ。君が厄介事に巻き込まれていることは知っているからね。香奈枝はとても嫉妬深いから、出産するまで彼と別れないつもりだよ。」「あの人と長い付き合いなんですか?」「ああ、彼女とは幼馴染でね。良くここに来ては相談しに来るんだよ、茶の稽古をかこつけてね。彼女とは疚しい関係は何もないよ。でも世間っていうものはそう捉えてくれないんだよねぇ、悲しいことに。」斎吾は溜息を吐きながら華凛に茶を出した。「頂きます。」華凛は斎吾の点てた茶を一口飲んだ。「結構なお手前でした。」「それはどうも。ねぇ正村君、香奈枝が本当に妊娠しているかどうか、知りたくない?」「別に。彼女の事は興味ありません。」「つれないねぇ・・じゃあここからは俺の勝手な独り言として聞いてくれよ。彼女は俺と一緒に産婦人科に行ってくれるよう頼まれたんだ、夫役としてね。お医者さんに診てもらった結果、彼女は妊娠していた。でもお腹の子は彼女の夫の子じゃない。じゃあ誰の子になるってことだよね?ま、わたしは相手の男を知っているから、いいけどね。」「本当ですか、それ!?」驚愕の表情を浮かべながら、華凛は身を乗り出した。「香奈枝の事に興味ないって言ってたじゃないか。どうしてそんなところに喰いつくのかなぁ。」「誰なんですか、香奈枝を妊娠させた男は?」「ちょっと耳を貸して。」華凛はそっと耳元を斎吾の口元に寄せた。「ここからはわたし達だけの秘密だよ。いいね?」斎吾はそう言って香奈枝を妊娠させた男の名を華凛に囁いた。「そんな・・まさか・・」その男は、華凛が良く知っている者の名だった。「もう一度念を押すけど、この事は決して口外してはならないよ。何故だかわかる?この事が露見したら、わたしや君、そして香奈枝だけの問題じゃなくなるからねぇ。」「・・お邪魔いたしました。」華凛はそう言って茶室を出ようとしたが、それを斎吾が阻んだ。「もうこんな時間だし、泊っていかないかい?お家には連絡しとくからさ。」「ご迷惑をおかけする訳には・・」「そんなこと言わないで。せっかく再会できたんだから。」斎吾はにこっと笑って華凛を見た。「では、お言葉に甘えさせていただきます。」「じゃ、わたしの部屋で一緒に寝ようか。お風呂も一緒に入ろうv」「それは、ちょっと・・」「なに、遠慮することないって、男同士だし。」こうして華凛は斎吾の家に泊まる事になった。「もしもし、父さん?今夜知り合いの家に泊まる事になったから。うん、わかった、じゃぁ。」華凛が受話器を置いた時、隣には笑顔を浮かべた斎吾が立っていた。「電話した?じゃ、一緒にお風呂入ろうか?」斎吾は華凛の腕を掴んで風呂場へと向かった。この“お泊り”が、後に大波乱を巻き起こすことになろうとは、誰も知る由もなかった。
2012年04月01日
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「さっき、夫に殴られてしまったわ。あなたが財産狙いの卑しい雄狐だと罵ったら、あなたを悪く言うなって。それに、嘘を吐いてまで復縁を迫ろうとするなって、すごい剣幕で怒られてしまったのよ。どう思う?」香奈枝はそう言って華凛を睨んだ。「どう思うって、おっしゃられても・・意味が、わかりません。」「わからない?じゃあわたくしが教えてあげるわ。夫は、わたくしではなくあなたを選んだのよ。夫の子を宿しているわたくしではなく、卑しい金髪の雄狐であるあなたをね!」香奈枝は怒りをぶつけるかのようにコーヒーカップをテーブルに荒々しく置いた。その音で喫茶店にいた客全員が彼らの方を振り向いた。「わたくしは旧華族の令嬢として、やがてはこの国を担う夫の妻として、今まで精一杯夫に尽くしてきたわ。貞淑な妻として、何処に出しても恥ずかしくないような振る舞いをいつもしてきた・・それなのに、夫はわたくしを見てくださらない。それどころか離婚しようとしているわ。あなたが悪いのよ、あのパーティーの夜にあなたが夫と会い、ダンスを踊ったから!」自分への呪詛の言葉を吐く香奈枝の顔は、憎悪で醜く歪んでいた。彼女の顔を見た瞬間、華凛は彼女が夫の事を深く愛していることに気付いた。「日本舞踊の家元が何よ、所詮花街上がりの卑しい踊り子じゃないの。わたくしねぇ、自分よりも低い地位の人間に好き勝手に振舞われるのは大嫌いなのよ!だからさっさと夫の前から姿を消して頂戴!」「・・今、何とおっしゃいました?」「あら、聞こえなかったかしら?あなたのご実家は所詮花街上がりの卑しい踊りでしょうって言ったのよ。」「訂正してください、その言葉。」そう言ってゆっくりと顔を上げた華凛の顔には、憤怒の表情が浮かんでいた。「俺の事は勝手に罵ってくださって結構です。ですが父や先人達が築き上げてきた正英流を侮辱することは許しません。謝ってください、今ここで。」「嫌よ!何故わたくしが謝らなければならないの?わたくしは本当の事を言っただけじゃないの!?」「謝ってください!」華凛の脳裏に、幼い頃父から初めて舞の稽古を受けた時の事が浮かんだ。舞の世界に入れば、父は弟子として決して息子を甘やかさず、厳しく稽古をつけた。“芸の道は厳しい。親子の情など無いと思え。情などあったら、正英流はお前の代で終わりだ。”踊りを深く愛し、その心を次の世代に受け継がせようとする父の姿は、華凛にとって誇りだった。だが目の前の女はその父を侮辱した。たとえ彼女が自分の非を詫びようとしなくても、華凛は彼女を一生許すことはないだろう。この女は、自分と父、そして先人達が築き上げてきた舞の道を穢したのだから。「あなたは今、正英流の名を穢すような発言をなさったのですよ。それすらわからないのですか?」「うるさいわね、さっきから聞いていると生意気なことばかり言って・・わたくしから夫を奪おうとする卑しい踊り子風情が!」華凛の堪忍袋の緒が切れた。彼は手をつけていないコーヒーが入ったカップを握ると、中の液体を香奈枝に向かってぶちまけた。「何するのよ、火傷でもしたらどうしてくれるのよ!?」「その時はクリーニング代と治療費はこちらで支払います。ですが俺はあなたに謝るつもりは決してございません。その事だけは覚えておいてください。」華凛は自分のコーヒー代だけをテーブルに置いて荷物を持って喫茶店を立ち去った。背後からは香奈枝の怒声と店員の慌てふためく声が聞こえた。あの女にコーヒーをかけたのは、少しやり過ぎだったかもしれない。だがああでもしなければ、正英流を侮辱された怒りが治まらなかったのだ。当てもなく雨に打たれ、荷物を引き摺りながら歩いていると、徐々に怒りの波がひいてゆき、自分はなんて馬鹿な事をしてしまったのだろうと思いながら華凛はひたすら歩き続けた。このまま家に戻ろうと思っても、タクシー代がない。一体どうしようかと思いながら歩いていると、紺色の着流しと同系色の羽織を着た男性がこちらに歩いてくるところだった。「もしかして、正村君かい?」見知らぬ男性は馴れ馴れしくそう言って華凛に声を掛けてきた。「あの、あなたは・・?」「もうわたしの事は忘れてしまったのかな?まぁここじゃなんだから、ちょっと話そうか。」男性は華凛の手を急に掴むとさっさと歩きだした。「え、ちょっと待ってください・・」
2012年04月01日
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高史が舞踊会館を出た時、スーツのポケットにしまっていた携帯が激しく震動した。液晶画面を開いて見ると、香奈枝からだった。離婚の手続きは両方の弁護士を通して進んでいるし、香奈枝も離婚に同意している筈だ。今更、話すことなどあるだろうか・・そう思いながら高史は通話ボタンを押した。「もしもし?」『あなた、赤坂にいらっしゃるんでしょう?わたしもね、今友達とランチをしているのよ。良かったら来て下さらない?話したいことがあるの。』「君が話したいことがあっても、俺には君と話したいことなどない。」冷たい口調でそう言って電話を切ろうとした時、香奈枝の乾いた笑い声が電波を通して聞こえた。『あなたそんなことおっしゃったら、あの子がどうなるかわからないわよ?早く来て下さらないこと?』「おい待て、華凛さんに一体何を・・」ダイヤルトーンの音を聞いた高史は舌打ちして携帯を閉じ、それを握り締めて香奈枝が友達とランチをしているカフェへと向かった。「あなた、本当に来て下さったのね。」屋外のオープンテラス席で、香奈枝は高史を見るなりそう言って立ち上がり、彼に向かって微笑んだ。「さっきのは何だ?一体お前は何をしようとして・・」「あなた、最近わたくし胃の調子がおかしくて、食欲がなかったの・・最初はストレスの所為かと思っていたんだけど、かかりつけのお医者様に行って診てもらったらおめでたですって。」険しい表情を浮かべる夫を前に、香奈枝はそう言って笑った。「何だって・・それは、確かなのか?」「ええ、6週目ですって。嬉しいわぁ、今まで頑張っても授からなかった赤ちゃんが今になって授かってくれたんですもの。お父様もきっとお喜びになるわ。」まだ膨らんでいない下腹部を優しく擦りながら香奈枝は口元に笑みを浮かべながら夫を見た。「6週間前、俺はお前に指一本触れたことはない。お前は何か勘違いをしている。もう一度病院に行って診て貰ったらどうだ?」「喜んで・・下さらないのね?」今まで嬉しさに満ちていた香奈枝の声のトーンが、急に下がった。「あなた、わたくしに赤ちゃんが出来たと言うのに、ちっとも喜んでくださらないのね。そんなにあの子の方が大事?旧華族の令嬢であるわたくしよりも、あんな踊り子の方が大事だと言うの?愛していると言うの!?どうせあの子は財産目当てであなたに近づいてきたに決まってますわ!いいパトロンを見つけてあなたからお金を搾り取ろうとしている悪党なんですわ!フランス人形のような綺麗な顔をしていらっしゃるけれど、狡賢い雄狐なのよ、あの子は!」乾いた音がカフェ中に響いた。「それ以上華凛さんを悪く言うな。俺をこんな所に呼び出して、嘘を吐いて復縁を迫ろうとしても無駄だ。」高史は吐き捨てるような口調で香奈枝にそう言い放つと、彼女に背を向けて歩き出した。「待って、あなた待ってよ!嫌よ、行かないで!」香奈枝がいくら叫んでも、高史の足は止まる事はなかった。やがて空が曇り始め、冷たい雨が彼女の身体を打ち始めた。「ほんまにみんなとお昼食べんでええの、華凛ちゃん?疲れてるんやさかい、少し休んだらどうえ?」「いえ、このまま帰ります。お気づかいありがとうございます、伯母様。」「ほな、またな。」温習会の帰り道、伯母の淑子の誘いを断り、華凛はキャリーケースを引きながら曇り空の下を歩いた。あと少しで赤坂駅に着くと言う時に、急に雨が降り出してきて華凛は近くのビルの下に避難した。(傘持ってきてないなぁ、どうしよう・・)早く雨が止んでくれないかと思いながら雨宿りしていると、雑踏の中に香奈枝の姿を見つけた。慌ててフードを下ろし華凛は顔を隠したが、香奈枝は真っ直ぐに彼に近づいてきた。「やっと会えたわ。ちょっとあなたにお話があるの、来て下さる?」香奈枝はそう言って口元に笑みを浮かべたが、目は笑っていなかった。彼女に連れられて、華凛は駅前の喫茶店の窓際の席に腰を下ろした。「お話って、何でしょうか?」「わたしね、夫の子を妊娠したの。だからもう二度と夫と会わないでくださらない?」「今、なんて・・」「あら、あなたお若いのに耳が悪いようね?わたしはあなたが大好きなわたしの夫の子どもを、妊娠していると言ったのよ。」香奈枝は店員にコーヒーを注文した後、勝ち誇ったような笑みを華凛に浮かべた。
2012年04月01日
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温習会当日。 坂にある正英流舞踊会館には、政財界の大物や伝統芸能の関係者、そして全国に60万人もいる門下生達が集まっていた。正英流一門と脩平の今は亡き妻・百合子の実家である京舞・篠華流一門の関係者も勢揃いし、温習会が行われる予定の大ホール内はほぼ満席だった。大ホールからほぼ近い控室では、華凛が鏡の前で最終チェックをしていた。(髪も飾りも乱れてないし、着物も大丈夫・・)念入りにチェックした後、鏡台の前に置いてあった扇入れがなくなっているのに気付いた華凛は、扇入れを必死で探した。会館に入る前に持ってきたスポーツバッグとキャリーケースの中を引っ掻き回したが、何処にもない。自分の出番はもうすぐだというのに・・。「どうしたんだよ、慌てちゃって。」ドアの向こうから声がして振り向くと、そこには扇入れを持った従兄の穣(みのる)が立っていた。華凛は無言で穣から扇入れを奪い取った。「何だよ、それ見つけたのは俺だぜ?礼ひとつも言わねぇのかよ。相変わらず無愛想な奴。」「退け。」華凛はそう言って穣を突き飛ばした。「ババアどもに気に入られてるからって良い気になってんじゃねぇぞっ!」背後から穣の罵詈雑言が聞こえたが、華凛はそれを無視してさっさと舞台袖へと向かった。同じ頃客席では、高史がプログラムを見ながら華凛の出番を今か今かと待っていた。あのパーティーで少女だと思っていた彼が男で、その上正英流の次期家元候補だと分かった時は驚いたが、性別など関係ないと思っている。日本舞踊の次期家元候補と、政治家の息子。華凛とは生まれ育った環境が全く違うにも関わらず、あのパーティーの夜に出逢って彼の人柄に惹かれた。今日ここにいるのも偶然ではないと高史は思っていた。急に辺りが暗くなり、舞台を覆っていた真紅の緞帳がゆっくりと上がっていった。眩いほどの照明の中では、舞台化粧を施し、美しい衣装を纏った華凛の姿があった。観客達は彼の美しさに目を奪われ、しばし言葉を失った。やがてお囃子方の伴奏と歌に乗って華凛は静かに舞い始めた。静かだが指先まで美しさを感じさせる、凛とした舞だった。舞を舞っている時の華凛は、パーティーで会った時よりも美しく感じた。何処か艶やかでありながら、凛とした美しさを持つ華凛に、ますます高史は惹かれていった。2時間余りの正英流温習会はあっという間に終わり、華凛はほっと溜息をついて控室で寛いでいた。衣装から会館に入る前に来ていたジーンズとフード付きのトレーナーに着替えていると、スポーツバッグの中に入れていた携帯が鳴った。携帯を開くと、メールの着信が1通あった。(誰からだろ?)メールを開くと、それは高史からだった。『舞台お疲れ様。今ホールにいる。』(来てくれたんだ・・)高史には一応チケットを渡したが、新しい人生を踏み出したばかりで何かと忙しい彼が来る筈がないと思っていたので、華凛は嬉しくなってメールを何度も読み直した。高史のメールを保存して携帯をスポーツバッグの中にしまい、キャリーケースを引きながら控室を出た華凛は、真っ直ぐにホールへと向かった。そこにはホールの隅にある喫煙所で煙草を吸っている高史の姿があった。「高史さん!」華凛が手を振ると、彼は嬉しそうに手を振り返し、華凛に駆け寄って来た。「舞台、良かったよ。君の舞はとても美しかった。」「ありがとうございます。」「また会おう。その時は連絡する。」高史はそう言って華凛に微笑んで、ホールから去って行った。華凛は彼の背中が見えなくなるまで、いつまでもそこに佇んでいた。
2012年04月01日
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「父さん、一体これはどういうことなんですか!?」華凛はそう言って、会合先から帰って来た父親に写真と書類を突き付けた。「華凛、どうしたんだ?そんなに怖い顔をして・・」脩平は初めて見る愛息子の夜叉のような顔を見て言った。「先ほど、父さんに会いたいという方がお見えになりました。その方は中学生くらいのお嬢さんをお連れになってました。そのお嬢さんは自分の姪で、俺の腹違いの妹だとその方がおっしゃって、写真と書類を見せてくれました。」居間で華凛は机の上に写真と書類を置きながらあの女性と少女の事を話した。「この写真に写っている男性は、父さんですよね?隣にいらっしゃる女性はどなたなんですか?」「それは、今は言えない。だが確かに言えるのは、お前が会ったお嬢さんは、わたしの娘だ。」「父さんに隠し子がいることを知っていたから、母さんは自殺したんですか?」華凛の言葉を聞いた父は、恐ろしい形相で息子を睨んだ。「あの事とこの子については何も関係がない!あの子の事はわたしが責任を持って預かる。それまでお前はこの事を表に出さないようにしろ。」「ですが父さん・・」「これ以上何も言うな。この話は終わりだ、分かったか?」半ば強制的に話を終了され、華凛は不満そうな顔をしながらも父の言葉に頷いた。「坊ちゃま、そろそろ学校にお行きになるお時間ではありませんか?」居間から出ると、菊が心配そうな顔をして華凛を見た。「温習会が近いのに学校なんて・・それに今それどころじゃないのに・・」華凛が通う聖ステファノ学院では3月の第3週に毎年、外部から来た中学生と学院生の親睦を深める茶会がある。花見をしながら茶を飲むというこの風流な催しは開校以来続いている伝統行事だが、華凛にとって今はそんなものどうでもよかった。「先ほど学校の方からお電話がありまして、今年の茶会には高等部の方も参加なさるそうです。」「休む。」「気分転換にお行きになってはいかがでしょう?あのお嬢さんの事は旦那様が何とかしてくださいますし、それに家に閉じ籠っていると気分が晴れませんよ。」菊はそう言って華凛の肩を叩いた。彼女は先ほどの脩平と華凛の遣り取りを聞いていたから、華凛の事を自分のことのように心配してくれているのだ。「わかった。茶会が終わったらすぐ戻って来る。」華凛はそう言って部屋に入り、制服に着替えて自転車で学校へと向かった。自宅を出て数分ほどで学校に着き、華凛は駐輪場で自転車を停め、茶会が行われている校庭へと向かった。そこには既に今年の4月に公立中学を卒業し高等部に入学予定の外部生や、高等部の生徒が集まり賑わっていた。華凛は空いている席を見つけ、桜を見ながら抹茶を飲んだ。「誰かと思ったら、Kじゃないか。」余りすることもないのでお茶を飲んだ後席を立とうとした時、背後から声がした。振り向くと、そこにはあのパーティーで会った健吾が立っていた。「会えて嬉しいよ、K。」優雅な仕草で前髪を掻き上げながら、健吾はそう言って華凛の顎を持ちあげ、その唇を塞いだ。一瞬、華凛は何をされているのかがわからなかったが、少年の舌が口腔内に侵入する前に彼の頬を打った。「いきなり何をするんですか!失礼します!」校庭を後にしようと彼に背を向けると、彼は華凛の手首を掴んで無理矢理振り向かせた。「さっきは無礼なことをしてすまなかった。君に惚れてしまったから、我慢できなかったんだ。」彼はそう言って華凛を抱き締めようとしたが、華凛はそれを拒絶し、彼を押しのけて校庭から立ち去った。(男にキスされるなんて気色悪い・・あ~、嫌だ!)華凛はさっさと茶会での出来事を忘れようと、稽古に打ち込んだ。あんな男とこれから毎日顔を合わせるのかと思うと吐き気がするが、相手はあと1年で卒業するのだから気にしない方がいい。(あんまり関わらない方が良いな・・トラブルに巻き込まれるのは御免だ。)突然現れた脩平の娘と名乗る少女のことが頭から離れないが、今は温習会の事に集中しよう―華凛はそう思いながら夕方まで稽古に打ち込んだ。 彼は健吾の所為で要らぬトラブルに巻き込まれてしまうことを、まだこの時は知る由もなかった。
2012年04月01日
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華凛が部屋で眠る姿を、外から1人の男が見ていた。 冬は終わり春が訪れたとはいえ、男が纏っているのは白い狩衣という、見るからに寒そうな服装をしていた。「やっと見つけたぞ、“正人”。」男はそう言ってすうっと闇の中へと消えていった。カーテン越しに射し込む朝日を受け、華凛はゆっくりと目を開けた。ベッドから起き上がり、着替えようとした時、机の上にメモが置いてあるのを見つけた。(何だろ・・?)メモには、乾いた血のような文字で呪いの言葉が書かれてあった。華凛は気味が悪くなり、そのメモを捨てた。「おはようございます、坊ちゃま。」「父さんは?」「旦那様は先ほどお出かけになりました。会合があるとかで。」「そう・・」父・脩平は何かと多忙な人間で、平日は朝から晩に掛けて組合の仕事や会合に追われ、休日は接待のゴルフなどがあり、華凛と顔を合わせるのは数える程しかない。それでも華凛にとって脩平は尊敬できる父親でもあり、師でもあった。「坊ちゃま、旦那様にお客様が来てますが・・どういたしましょう?」「父さんに客?」仕事関係でよく来客があるが、こんな時間帯に客が来るのは初めてだった。「旦那様はお留守ですと申しましたのに、なら帰るまで待たして貰うとおっしゃって・・先ほど客間にお通しいたしました。」「そう・・じゃあ俺が行って、話でも聞いてくるよ。」華凛は朝食を食べ終えると、手早く着替えて客間へと向かった。「失礼いたします。」襖の前に正座して中へと声を掛けると、「どうぞ」と答えが返って来た。襖を開けて中へと入ると、そこには40代と思しき女性と、10代後半のセーラー服を着た少女が華凛に向かって頭を下げた。「突然そちらのご都合も考えずに、訪ねてしまって申し訳ございません。ですがこの子がどうしても自分の父親に会いたいと言って聞かないものですから・・」「おばさん、止めてよ。」2人の遣り取りを聞きながら、彼らが何故ここに来たのかが華凛は理解できた。「父は只今外出中でして・・お話でしたらわたしが聞きますが。」「あなた、華凛さんよね?あたしの腹違いの兄さんの。」少女はそう言って身を乗り出し、華凛の顔をじろじろと見た。「優菜、そんなに人の顔を見るんじゃありません、失礼でしょう。」「だっていままで腹違いの兄さんと会っていないからどんな顔なのか分からなかったんだもの。きっと狐みたいな細い目をした嫌な奴なんだろうなって想像していたんだけど、想像と違って良かったわ。」「あの・・あなた方は、どちら様ですか?」少女の言葉に面食らった華凛は、目を丸くしながら女性と少女を交互に見つめた。「わたしは織山静代と申します。こちらは姪の菱華優菜(ひしはなゆうな)です。優菜は自分の父親があなたのお父様である正英脩平様だと申しまして、こうして訪ねに来てしましまいました次第でございます。」女性はそう言って少女の頭を押さえて華凛に向かって下げさせた。「痛いわよ、おばさん。何するの。」「失礼な事をして、申し訳ありませんでしたとちゃんと謝りなさい。」「・・すいませんでした。」少女はブスッとした顔をして華凛に向かって頭を下げた。「この子が、父の娘で、俺の異母妹だとおっしゃりたいんですか?」「ええ・・証拠はちゃんとございます。」そう言って女性はバッグの中から1枚の写真と封筒を机の上に置いた。写真には父と見知らぬ若い女性が写っており、女性の腕には可愛らしい赤ん坊が抱かれていた。華凛は封筒から1枚の書類を取り出した。それは、目の前に座っている少女の認知届のコピーだった。父親の欄には、「正英脩平」と書かれていた。突然の出来事に、華凛は戸惑うことしかできなかった。「少しこの写真と書類をお預かりしてよろしいでしょうか?父が戻り次第この事を話し合いたいと思いますので・・」「ええ、どうぞ。突然押し掛けて来てしまって、申し訳ございませんでした。では、これで失礼いたします。」女性は少女の手を引っ張り、客間を出て行った。2人が去った後も、華凛は暫く座ったまま動くことが出来なかった。(父さんに隠し子がいたから、母さんは自殺したんだろうか?)外の方で車のエンジン音がしたので、写真と書類を握り締めて華凛は客間を出て行った。
2012年04月01日
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昨夜の香奈枝の生き霊と、今朝の彼女の常軌を逸した嫌がらせに遭い、華凛は食欲が失せそうになった。「坊ちゃま、目玉焼きとスクランブルエッグ、どちらになさいますか?」「目玉焼きでいいよ。」「かしこまりました。」華凛は椅子から立ち上がり、冷蔵庫からライ麦の食パンを取り出してトースターに入れた。「坊ちゃま、昨夜怒鳴っていらっしゃった方はどなたなんです?」「ある政治家の方の、ご子息の奥様だよ。実家は旧華族らしいけど・・」「教養がおありになられるご良家の奥様があんな風に坊ちゃまを口汚く罵られる姿を、わたくし初めて見ましたよ。あの方は一体何をお考えなんでしょう・・」「それは俺にも分からないよ・・」程良く焼き上がったライ麦のトーストを皿に載せた後、冷蔵庫から寝る前にマッシュしてボウルに入れていたアボガドを塗り、オリーブオイルを付けてそれをテーブルの上に載せて席に着いた。「温習会まであと数週間しかないというのに・・なんだか嫌な予感がいたしますねぇ。」菊は目玉焼きが載った皿を華凛の前に置きながら、キッチンを出て行った。トーストを一口かじると、少しだけ食欲が出てきた。香奈枝が自分の事をどう思っているのかは分からないが、彼女にはあまり関わらないようにしようと華凛は決めた。今は温習会の事に集中しよう―華凛は朝食を食べると着替えを済ませて稽古場へと向かった。温習会が近いので、稽古場には聡と桂檎を含む20名余りの門下生達で溢れかえっていた。「では只今から稽古を始めます。」「宜しくお願いいたします。」温習会に向けての稽古は、昼休憩を挟んで夕方までかかった。「皆さん、お疲れさまでした。ではまた水曜に。」「先生、さようなら。」門下生達は1人1人華凛に向かって頭を下げながら稽古場を後にした。残っているのは聡と桂檎、そして2人と何かを話しこんでいる1人の少女だけだった。「もう稽古は終わりましたよ。一体何を話しているんですか?」華凛が3人の方に近づくと、桂檎と少女が同時に彼を見た。「華凛さん、彼女の事はご存知ですか?」「さぁ・・お弟子さんの数が多いから、1人1人の顔と名前を覚えているのは、ちょっと・・」華凛の言葉を聞いた少女はクスリと笑った。「やっぱりそう言うと思ったわ。あたしはあなたのことが気になって仕方がないのに、あなたにとってあたしはあなたのお弟子さんの1人にしか過ぎないのよね。」敵意に満ちた言葉と視線を投げつけられ、華凛は少し狼狽えた。「あなたは一体、誰ですか?」「あたしは永嶌千冬(ながしまちふゆ)、あなたのことが大嫌いな女子高生よ。」少女はそう言うと、さっさと稽古場を出て行った。「あの子・・千冬さんっておっしゃいましたっけ・・俺の事嫌ってるようですけど、俺何か彼女に恨まれているんでしょうか?」華凛が首を傾げながらそう言って桂檎を見ると、彼は肩を震わせて笑っていた。「何が可笑しいんですか?」「お前は本当に彼女の事を覚えていないんだねぇ。良い事を教えてあげるよ、耳貸して。」彼に言われるがまま、華凛はそっと桂檎の口元に耳を寄せた。「彼女は“菊千代”・・お前をさんざん嫌っていた女の生まれ変わりさ。これで納得がいっただろう?」桂檎の言葉を聞いた華凛の脳裏に、あの憎たらしい生意気で厭味な性格の舞妓の顔が浮かんだ。「あの子が、“菊千代”の・・でも俺を嫌っているのにどうして俺に日舞なんかを教わる気がしたんでしょうね?」「さぁね。彼女の心の中は誰も覗けないよ。唯一人を覗いてはね。」桂檎は謎めいた言葉を残し、聡とともに稽古場を出て行った。(あの人の嫌がらせに、“菊千代”の生まれ変わりの出現・・何だかややこしいことになりそうな気がする・・)湯船に浸かりながら、華凛はふうっと溜息を吐いた。温習会の事に集中しなければならない大切な時に、厄介事が向こうから飛び込んでくるとは、全く迷惑な話だ。風呂からあがって華凛はゆっくりと目を閉じ、眠りに就いた。その姿を外の茂みからそっと見ていた者がいた。
2012年04月01日
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華凛は自宅の稽古場で、数週間後に控えた温習会に向けての稽古をしていた。 毎年春と冬に行われる正英流の温習会には、政財界の大物や、伝統芸能の関係者などが招待される大切な舞台でもあるから、失敗は許されない。それに今度の温習会には、華凛が頑張らなければならないもうひとつの事情があった。高史と別れ帰宅した華凛は、その足で父と共に行きつけの料亭で親族と会食をした。会食とは表向きで、実は正英流次期家元を誰にするかを話し合う親族会議だった。「ねぇ脩平さん、次期家元にはやっぱり華凛ちゃんがなるんでしょう?華凛ちゃんなら筋がいいし、品行方正だし、家元としての資格は充分にあるんだから、こんなこと今更話しても仕方がないわよぉ。」日頃華凛のことを可愛がっている叔母の吉枝は、そう言って脩平を見た。「まだそのことについては決めてはいない。華凛の外に、次期家元候補が何人かいるんだからな。」脩平はしかめっ面でそう言いながら冷めた日本茶を飲んだ。「次期家元候補って、あの子の事?」吉枝が眉を顰めながら、ひとつだけ空いている席を見ながら言った。「あの子が次期家元になるやなんて、そんなことうちが許しまへん。あの子が次期家元にならはったら、正英流の名が汚されるようなもんや。」正英流の傍流で、京舞・篠華流(しのはなりゅう)家元である母方の伯母・淑子がそう言って脩平を見た。「淑子さん、あなたのおっしゃりたいことはわかる。だがわたしはあの子にも次期家元になる機会があると思っている。そこで数週間後に行われる温習会で、次期家元候補を絞りたいと思う。」正英流現家元・脩平の言葉を聞き、同席していた親戚一同がざわついた。「それは本気なの、脩平さん?本気でそうおっしゃってるの?」「ああ。わたしは本気だ。」その後会食はお開きとなった。華凛が部屋を出たとき、淑子が肩を叩いた。「今度の温習会、楽しみにしてるさかい、おきばりやす。」伯母の言葉の裏には、“絶対にあの子に負けるんやないで。”という意味が込められていた。「はい、精一杯頑張ります。」「そうか、数週間後が待ち遠しいな。」華凛の返事に満足した伯母はニッコリと笑って料亭を出て行った。それから華凛は少しダークチョコレートを1枚だけ摘んで、食事をするのも忘れて5時間も稽古に励んでいた。「坊ちゃま、もう遅いですよ。その辺にしておいた方がよろしいのでは・・」心配した菊がそう言って稽古場に入って来た。「もうこんな時間か・・風呂にでも入って休むよ。」華凛はタオルで汗を拭い、稽古場を出て浴室へと向かおうとした。その時、玄関からインターホンの音がした。(こんな時間に誰だろう?)画面を覗くと、そこには香奈枝の姿が写っていた。『ねぇ、聞こえているんでしょう?』憎しみに滾った瞳で画面を見つめる彼女の姿は、まるで鬼女のようだった。『わたしはあの人とは別れないわよ・・あなたがどんな手を使おうが、わたしはあの人を一生束縛してやるんだから。あなたみたいなやつに、渡して堪るものですか!』華凛は怨嗟の言葉を叫ぶ香奈枝が恐ろしくなって画面のスイッチを切った。その夜、ベッドに入ってもなかなか寝付けない華凛は、窓の外から視線を感じた。ベッドサイドに置かれた目覚まし時計を見ると、深夜の3時ちょうどだった。視線が気になった華凛は、カーテンを開けて窓の外を見た。そこには恐ろしい形相で自分を睨みつける香奈枝の生き霊が立っていた。「お前なんか死ねばいい・・死んでしまえ!」華凛はカーテンを閉め、頭から布団を被って目を瞑った。翌朝ベッドから起き出して居間へと向かう途中、玄関の方で凄まじい悲鳴を聞いた。「菊さん、どうしたの?」「ひぃぃ・・」菊が震えた指先で指し示した方向には、鶏の生首が鮮血を滴らせながらアスファルトの地面に転がっていた。「警察に連絡して来ます。一体だれがこんなことを・・」菊は吐き気を堪えながら居間へと向かった。華凛は家の中に入ろうとした時、曲がり角の向こうで香奈枝が自分に向かってほくそ笑むのを見た。
2012年04月01日
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「運転手さん、来た道を戻って頂けないかしら?」「ですが、ホテルはもうすぐそこですよ?」「お願いいたします。」「わかりました。」香奈枝を乗せたタクシーは、信号が変わったのと同時に来た道をUターンした。自宅に戻るまで、身体の震えが止まらなかった。(あなた、隠れてあの子に会っておられたのね・・離婚したいと言い出したのも、あの子と幸せになる為なのね!)香奈枝は夫への怒りに震えながら、帰宅した。「若奥様、お帰りなさいませ。」「ただいま。」「お顔の色がよろしくありませんよ?少し休まれたらいかがですか?」「上で休むわ。」ぶっきらぼうに家政婦に言って、香奈枝は乱暴に寝室のドアを閉めた。ベッドに大の字となって横たわると、堪えていた涙が一気に溢れ出てきた。華凛はカフェを出て行く高史の背中を見送りながら、彼にまだハンカチを返していないことに気づき、慌てて追いかけた。「鈴久さん、待って下さい!」横断歩道を歩く高史にやっと追い付いた華凛は、そう叫んで走った。「どうしたんだ?そんなに急いで・・」「あの、ハンカチをお返しするのを忘れてしまって・・どうぞ。」そう言って華凛は、アイロンをかけたハンカチを高史に差し出した。「そんなことで追いかけてきたのか、可愛いなぁ。」高史は華凛に微笑んで、ハンカチを受け取った。その光景を妻に見られているとも知らずに・・華凛と別れた高史は、その足でアパートの部屋へと向かった。「これからお世話になります、どうぞ宜しくお願いいたします。」高史はそう言って大家に頭を下げた。「こちらこそ宜しくね。早速部屋に案内するよ。」高史が借りた部屋は2階の中央部分に位置していた。「これが部屋の鍵。失くさないようにね。」「わかりました。」大家が去り、高史は新居で寛いだ。家電製品は後で揃えるとして、まずは実家にある荷物を持ってこなければ。実家に戻ると香奈枝と顔を合わせるのが嫌だが、それは仕方のないことだ。これから彼女と顔を合わさなくて済むと思うと、高史の胸は少し弾んだ。「ただいま。」残りの荷物を詰める為に実家に戻った高史は、玄関ホールで険しい表情を浮かべた高生と目が合った。「高史、お前家を出るそうだな?本気なのか?」「それは前に話した通りです。彼女とは離婚の手続きを今後進めていきたいと思っています。」「香奈枝さんはお前に未練があるぞ。それでも彼女と別れるというのか?」「俺は人生にひと区切りつけたいんですよ。彼女と仮面夫婦を演じれば演じるほど、毎日が虚しく感じてしまいますからね。」冷たい口調でそう言うと、高史は父親から目を逸らして階段を上がった。(高史、お前は香奈枝さんの気持ちを全く分かっていない・・彼女がまだお前を愛していることを、お前は知ろうともしない・・)自分より逞しくなった息子の背中を見ながら、高生は溜息を吐いて居間へと戻った。高史は自分の部屋で予め用意していた段ボール箱に次々と自分の荷物を詰め始めた。後少しで詰め終わるという時、ふと高史の目に結婚式の時の写真が入った。銀のフレームに入った写真には、結婚式を挙げたばかりの幸せに満ちた香奈枝と自分の笑顔が写っていた。たとえ政略結婚でも、これから幸せな家庭を築けばいい・・そう思っていた頃の気持ちはあっという間に消え失せ、2人の間には気まずい沈黙と時間だけが残った。高史は暫くその写真を眺めた後、ごみ箱に投げ捨てた。荷物を詰め終わり、書斎を出て階段を下りようとした時、寝室の中で啜り泣く声が聞こえた。「香奈枝、俺はもう行くから。」ドア越しに妻に声をかけ、高史はゆっくりと階下へと下りていった。その数分後、寝室のドアがゆっくりと開き、泣き腫らした目をした香奈枝が姿を現した。彼女はまっすぐに、階下に降りて玄関ホールを出て、自宅前でタクシーを拾った。「ここに書いてある住所まで、お願いいたします。」 そう言って彼女が運転手に差し出したのは、パーティーの時に華凛が高史に渡した連絡先が書かれたメモだった。
2012年04月01日
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「待ったかな?」「いいえ、5分前に来たところですから。」今日の華凛は、水色に菜の花の柄の訪問着を着ていた。「今日はお仕事に行かれるんですか?」「職場には有給取るって連絡したし、上司も承諾してくれた。今日はアパートを探すつもりなんだ。」注文したコーヒーを飲みながら、高史はそう言ってこめかみを押さえた。「どうしました?」「いや、ちょっと最近睡眠不足でね・・家庭の事もあるし。」「そう・・ですか・・」コーヒーカップを持つ手が、少し震えた。今高史の妻が自分と夫が親しげに話しているのを目撃したら、何と思うだろうか。「妻とはいずれ別れるつもりだ。君にそのことで煩わせるつもりはない。」高史はそう言って華凛に微笑んだ。「あの、お弁当を作って来たんですけれど、よろしかったらどうぞ・・」華凛はおずおずと、弁当箱が入った紙袋を高史の前に出した。「ありがとう、いただくよ。」高史は紙袋をぎゅっと握った。「いいお部屋が見つかるとよいですね。」「ああ、頑張るよ。今日はわざわざありがとう。」「いいえ。ではまた。」華凛は優雅に高史にお辞儀をし、タクシーに乗って去っていった。(彼と出逢うのは遅かったのかもしれない・・彼がもし女として生まれて俺と会ったのなら、幸せになれたかもしれないのに・・)高史は溜息を吐き、華凛が作ってくれた弁当を入れた紙袋を持ってカフェを出た。その日は昼まで部屋を探したが、なかなかいい物件は見つからなかった。諦めかけたところで、駅前に近いアパートを見つけ、すぐに契約した。夫婦名義で所有するマンションの部屋よりは狭かったが、広さは今の自分には関係がなかった。それよりも、やっと妻から自由になれるのだという解放感で胸が一杯になっていた。荷物を纏めてロビーでチェックアウトをしようとした時、携帯が鳴った。画面を見ると、香奈枝からの着信だった。「もしもし?」『あなた、今どちらにいらっしゃるの?』「これからホテルをチェックアウトするところだ。もう家には戻らない。離婚届は後で送る。」『嫌よあなた、何処にも行かないで。わたくしのところへ戻って来て!』「俺はもう決めたんだ、君と別れると。」高史は携帯の通話ボタンを押し、携帯の電源を切った。「あなた?あなた聞いているの、ねぇったら!」田園調布の鈴久邸の居間では、香奈枝が受話器を持ったままダイヤルトーンに向かって叫んでいた。「どうしたんだ、大声を出してみっともない。」朝刊を読んでいた義父が訝しげに自分の方を見て、香奈枝は恥ずかしくなって俯いた。「申し訳ありません、お義父様・・高史さんがわたくしに何も言わずに離婚届にサインしたって聞いたものですから、わたくし思わず取り乱してしまいまして・・」「あいつのことは放っておけ。それよりも香奈枝さん、最近葛藤流の次期家元と親しいようだが、それは本当なのか?」義父の言葉を聞き、香奈枝の頬が少し赤くなった。「斎吾さんとは、いいご友人としてお付き合いしておりますわ。お義父様が心配されるような間柄ではございません。」「本当にそうか?もしかしたら高史はそのことに気づいて離婚を決意したのかもしれんのだぞ?それでもそんな関係ではないと言い切れるのか?」義父の獲物を狙う猛禽類のような鋭い目が、香奈枝を睨めつけた。「わたくしは高史さんの貞淑な妻です。高史さん以外に心を許した方は1人もおりません。」「そうか・・なら君を信じよう。」(わたくしの所為で、高史さんが家を出たのだとお義父様は思っていらっしゃる・・わたくしは何も疚しいことなどしていないのに、どうして・・)高史の宿泊先へと向かうタクシーの中、香奈枝はどうすれば高史と復縁できるのかを考えていた。交差点の前で信号待ちをしていた時、高史が横断歩道を渡って行くのを香奈枝は見掛けた。降りて声をかけようと思った時、彼の背後に美しい金髪を結いあげた少女が駆けてきた。(あの子・・確か・・)あのパーティーの夜、夫と踊っていた少女だった。高史が少女に気付き、彼女に笑いかけた。その光景を見た瞬間、香奈枝の中で何かが音を立てて崩れていった。
2012年04月01日
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華凛が自分の部屋で今日の稽古のおさらいをしている頃、高史はシャワーを浴びてバスローブ姿でベッドに大の字になって倒れ込むようにして寝転がった。目を閉じると、今朝の妻とのやり取りが脳裏に浮かんだ。「暫く別居したいですって?どういうことですの、あなた?」「言葉通りだ。」夫婦の寝室で荷物を纏め始めた時、ヒステリックな妻の声が背後から聞こえて高史はうんざりとした顔で振り向いた。「あなた、まさかわたくしと別れるつもりじゃありませんわよね?別れて、あのパーティーの女と・・」「妙な勘繰りは止してくれ。あの子は男だ。同性同士で結婚できる筈がないだろう。俺は君と距離を置きたいと言っているんだ。」一度も妻の方を振り返らず、高史は衣類と身の回りの物をスーツケースに詰め、それを持って寝室を出た。「わたくしのことを愛していらっしゃらないの、あなた?どうなんですの!?」「君のことは一度も愛したことがない。」高史はそこで妻の方を振り向いて、彼女にそう言い放った。「わたくしと別れたいのですね、あなた。でもわたくしは別れませんからね。だってわたくしはあなたの妻ですもの!」妻はそう自分に言い放ち、書斎へと閉じ籠ってしまった。「どうかしましたか、高史さん?今香奈枝さんと言い争うような声がしましたけど・・」継母が心配そうな顔で2階へと上がって来た。「心配要りません、お義母さん。暫くホテルで暮らします。香奈枝とは準備が出来次第、離婚しようと思っています。」「それは、お父様には・・」「時が来たら、ちゃんとお話しします。」驚愕の表情を浮かばせ、立ちつくす継母を階段に残して、高史は自宅を出た。あれからまだ半時間ほど経っていないが、日頃妙な勘繰りをしては激しいヒステリーの発作を起こす妻と離れてみて、高史は漸く自由になったと感じた。妻は美しく、教養がある女性だが、実際は気位が高く傲慢で、とてつもなく嫉妬深い性格で、たとえ同僚の女性と話をしていてもヒステリックとなり、彼女は自分とどのような関係にあるのか、何処でどう知り合ったのか、彼女とは付き合っているのかなどと矢継ぎ早に質問し、自分の満足のいく答えが返ってくるまで納得しない。こんな厄介な女と結婚するんじゃなかったと、今更ながら後悔している。香奈枝との縁談をあの時断っていれば、こんなに彼女の事で煩わされることもなかっただろうに。だが時の針を戻るすべはない。過去を変えられないのなら、香奈枝と過ごす時間を少しでも減らし、離婚に向けての準備をしよう。ホテル暮らしは金がかかるから、明日は不動産屋にでも行っていい物件を探しに行こう。目を閉じて眠りに落ちた高史は、寝ているのが高級羽毛のシーツの上ではなく、誰かの柔らかい膝の上だとわかった。ゆっくりと身を起こすと、隣に人の気配がした。「やっと起きたのか。」そう言って自分を見つめる少年は、華凛にそっくりだった。「君は・・誰だ?」その言葉を聞いた華凛に似た少年は、藍色の瞳に悲しみの光を宿らせながら自分に呟いた。「お前は忘れてしまったんだな・・」少年の白魚のような手が自分の頭を優しく撫でた。その心地よさを感じた途端、夢から覚めた。ナイトテーブルの上に置かれた時計を見ると、深夜の2時を回っていた。溜息を吐きながら浴室に入り、グラスに水を注いでそれを飲みほした。あの夢を見るのは今夜でもう10回目だ。意味も分からず同じ夢を見て、朝までその事について考えてしまって疲れが取れない悪循環に今夜もまた苦しむことになるのか。それだけは嫌だ。睡眠薬でも飲もうかと浴室を出て隣のベッドに置いてあったバッグのジッパーを下げ、睡眠薬を探していると、ふと携帯が目に入り、高史は急に華凛にメールしたくなり、いつの間にか指を動かしていた。『明日9時、あのカフェで会おう。』ただ何も考えはせずに、高史はそうメールを打って華凛に送信した。翌朝、高史はベッドを出てシャワーを浴び、バスローブからスーツへと着替えて行きつけのカフェへと向かった。この前華凛と座った窓際の2人掛けの席に、華凛が静かに座って自分を待っていた。高史は笑顔を浮かべ、華凛の前の席に腰を下ろした。
2012年04月01日
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稽古場では2人の青年が師匠である華凛が来るのを待っていた。 1人は色素の薄い亜麻色の髪と、アメジストのような美しい紫の瞳をもった青年で、その隣では黒髪に黒曜石のような瞳を持つ青年が座っている。「桂檎、稽古に出るの久しぶりだな。」桂檎と呼ばれた黒髪の青年は隣の青年に振り向いた。「そうだな。華凛に会うのも久しぶりだ・・冬休みに入ってから一度も会っていなかったから・・」「お前はいつも正英のことばかりだな。中等部にお前が正英のクラスの担任になった時は大変だったな・・いつも正英の後をついてまわって、まるでストーカーみたいだったぞ。」「心配で堪らないからだよ、可愛い生徒のことが。」「ホントかなぁ・・」紫の瞳を細めながら、青年はそう言って笑った。「何だかお前が特定の生徒に過保護になっている教師に見えるぜ。よく保護者からクレーム来ないのが不思議だ。」「クレームが来ない程度に正英のことを気に掛けているからね。」「何でそんなに正英の事を気に掛けているんだ?お前と正英が恋人同士だって噂が広まっているほどだぞ?」「・・彼は、特別なんだ、色々な意味でね。」桂檎はそう言って遠い昔の記憶に思いを馳せた。幕末に生きていた頃、桂檎は萩の町の路地裏で1人の少年を見つけた。両親を何者かに殺されて家を失い、男娼館から足抜けしてきた彼の全身は汗と泥に塗れていた。美しい藍色の双眸と目が合った時、桂檎は彼に心を奪われ、彼を引き取り、育てた。やがて少年は美しく、逞しく成長し、桂檎とは強い絆で結ばれていた。その絆が永遠に続くと思っていた。あの夏、江戸から1人の少年がやって来て、彼と出逢うまでは・・「桂檎、どうした?」「・・いや、なんでもない。」桂檎が我に返ると、ちょうど稽古場に華凛が入って来るところだった。「お待たせして申し訳ありませんでした。早速稽古を始めましょう。」2時間余りの稽古が終わり、華凛はほっと溜息を吐いた。中学を卒業してから父の代わりに何度か稽古を受け持ったことがあるが、自分よりも年上の門下生を指導するのはいつも気疲れがして、終わった後はストレスで肩が凝ってしまう。いずれは家元となるのだからこれくらいのことで神経を擦り減らさないようにしようと思っているのだが、いつまでたっても慣れない。「久しぶりだね、華凛。」背後から玲瓏とした声が聞こえて振り返ると、今会いたくない人物がそこに立っていた。「お久しぶりです、橘先生。」「他人行儀な言い方は止してくれ。桂檎さんと呼んでくれっていつも言ってるじゃないか。まぁ僕は、昔みたいに“桂さん”って呼んで欲しいけど。」桂檎はそう言って笑いながら華凛を見た。「そんな・・先生が・・まさか・・」「久しぶりだね、“英人”。今度こそお前を離さないよ、永遠にね・・」桂檎は華凛を抱き寄せてその唇を塞ぐと、稽古場を出て行った。その日の夕方、華凛は浴室でシャワーを浴びながら、桂檎のことを思っていた。彼と初めて会ったのは、聖ステファノ学院中等部の入学式だった。背後から執拗な視線を感じて振り向くと、そこには自分を見つめている桂檎がいた。 式の後で自分のクラス担任として自己紹介した時も、彼の視線が自分に注がれていることに気付いたが、その時は何故自分の事ばかり見るのかがわからなかった。暫く経って桂檎は華凛によく話しかけられた。内容は成績の事や友人関係の事など、当たり障りのないものだったが、何故かいつも彼は自分を観察しているように感じていた。次第に桂檎は自分に付き纏うようになり、放課後喫茶店やファミレスでお茶でもしないかと何度も誘われるようになったが、気味が悪かったので誘いは全て断った。 3年になっても桂檎の、自分に対する執拗な執着ぶりはエスカレートする一方だったが、受験生である華凛は桂檎と次第に距離を置くようになり、自然と彼とは疎遠になっていった。しかし桂檎が正英流の門下生となり、華凛が高等部に入学する以上、桂檎と顔を合わせるのを避けることは不可能に近かった。(まさか、橘先生が桂さんだったなんて・・これから俺はどうすればいいんだ?)今にも背後に立って桂檎が自分を見つめているような気がして、華凛は鳥肌が立った。
2012年04月01日
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翌朝、華凛が起きると、部屋にはもう高史の姿は何処にもなかった。 華凛は着替えが入っているスーツケースを開け、中から桜色の着物と藍色の帯を取り出した。パーティーの翌日は舞の稽古があるので、予め稽古着を入れていたのだ。浴衣から襦袢に着替え、手早く華凛は着物を着た。6歳の時に父から稽古を受け始めた時、まず着物の着付けから教えられた。初めは周囲の大人達が何かとサポートしてくれていたが、「1人で着られるようになるまで誰にも甘えるな」と父から言われ、それからは必死で毎日他の稽古事とともに寝る間を惜しんで着付けの練習をした。今では着付けをするのに5分もかからないようになった。それもこれも、父の厳しい指導があったからだと、華凛は思っている。化粧ポーチと髪飾りが入った袋を持って浴室に入った。手早く薄化粧をし、髪を結い上げた華凛は、真珠の櫛を挿して浴室を出た。「起きたのか。」高史がソファに座り、テレビを見ていた。「お帰りになられたんじゃ、なかったんですか?」「実は当分、この部屋に泊まることになった。部屋を空けたのは家から着替えを持ってきたからだ。」そう言って彼は一流ブランドのモノグラムが入ったスーツケースを華凛に見せた。「昨日は、大変お世話になりました。」華凛は高史に頭を下げて、部屋を出ようとした。「朝食、まだかな?もし君が良ければ、ご馳走するけど、どうかな?」「悪いですよ・・」「君と色々話したいことがあるし。」稽古までまだ時間がある。少しコーヒーを飲むだけならいいだろう。「では、お言葉に甘えて。」「それじゃあ、行こうか。」高史に連れられて入ったのは、ラスクと手作りパンが美味しいと評判のカフェだった。「ここはツナサンドとスクランブルエッグが絶品なんですよ。」「そうなんですか?」「ええ、ここは俺が大学時代からの行きつけの店でね。最近忙しくて行っていないから、行きたかったんだよ、君と。」「奥様とは、行かれないんですか?」「あいつは和食派でね。朝食は行きつけの料亭でしか食べないんだ。君は和食派、洋食派?」「どちらかというと和食派です。でも洋食もいいかなって今思いました。」華凛はそう言ってコーヒーを飲んだ。「今日は舞の稽古があるの?」「はい。父が所用で留守にするので、代わりに俺が。」「そうか。君の踊りを機会があれば是非一度見てみたいな。」バッグから華凛は1枚のパンフレットを取り出して高史に手渡した。「今月末、温習会がございます。是非、お越し下さい。」「その日は予定を入れないでおくよ。」高史との楽しい時間はあっという間に過ぎて、カフェを出た華凛はスーツケースを引いてホテルを出ようとした。「待ってくれ!」背後から声がして、高史が息を切らしながら華凛の隣を歩いた。「どうしました?」「携帯持ってきたから、赤外線で番号とアドレス、交換してくれるかな?」「ええ、喜んで。」バッグから携帯を取り出して、赤外線通信でアドレスと番号を交換した。「タクシーはさっき、フロントに頼んである。」「ありがとうございます。」高史に深々と頭を下げ、華凛はホテルの前に停まっているタクシーに乗り込んだ。「音羽まで、お願いいたします。」タクシーがゆっくりとホテルを出てゆくのを、高史はじっと見ていた。道は余り混雑していなかったので、音羽の自宅には稽古まで余裕を持って帰宅できた。「お帰りなさいませ、華凛様。」家政婦の菊がそう言って華凛の手からスーツケースを受け取った。「ただいま、菊。お弟子さん達はもう来ている?」「ええ、珠洲城様と橘様が来られております。」菊の言葉を聞いた途端、華凛の表情が曇った。(なんだか嫌な予感がする・・)愛用の扇子を帯に挟み、華凛は部屋を出て稽古場へと向かった。その頃稽古場では、2人の青年が師匠の到着を今か今かと待っていた。
2012年04月01日
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高史はベッドの端に腰かけ、溜息を吐いた。何故同性の裸を見ただけであんなに慌ててしまったのだろうか?見てはいけないものを見てしまったような気がして、高史は落ち着かなかった。部屋の中を右往左往していると、浴室から少年が出てきた。「お風呂、お借りいたしました。」濡れた髪をタオルで拭きながら、彼はそう言って高史に微笑んだ。「気分はどう?よくなった?」「ええ。わざわざお部屋に泊めてくださってありがとうございます。」「困った時はお互い様だよ。それよりも、その痣は?」「ああ、これですか。ちょっと化粧室で奥様と色々とありまして・・」「すまないね、妻は嫉妬深い性格で・・ただハンカチを渡しただけなのに、変な勘繰りをして・・彼女の悋気にはほとほと嫌気がさしてしまうよ。」「あの・・ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」華凛は今、高史に前世の話をしようかどうか迷っていた。「何だい?」「あの・・奥様とは離婚されるんですか?」「それは、まだわからないな・・でも、離婚届にサインしたし、向こうが同意してくれるなら、そうするつもりだ。何故そんなことを?」「いえ、別に・・化粧室で噂話を聞いてしまったものですから・・不愉快な思いをさせてしまったのなら、謝ります。」華凛は高史に頭を下げながら言った。「色々と言われるのはもう慣れたよ。香奈枝と俺はお互い親同士で決められた許嫁同士で、俺達の結婚は親の閨閥作りの手段に過ぎない。妻はあの性格だし、結婚しても仮面夫婦を何年か演じて限界が来たら別れようと決めていたんだ。」「お子さんは、いらっしゃらないんですか?」「妻は欲しがっていたが、俺は欲しくなかった。子どもは好きだけど、俺達が別れて一番傷つくのは子どもだからね。」そう言った高史の瞳は、少し憂いを帯びていた。「すいません、色々と聞いてしまって・・」「別に隠すことじゃないし、全部話してしまえば楽になる。君は確か、正英流の家元さんのご子息だったよね?お兄様が跡を継ぐのかい?」「兄は数年前に父に勘当され、今は会社員として働いています。家は俺が跡を継ぎます。その為に幼い頃から色々と父に厳しく仕込まれましたから・・」「遊びたい盛りの年頃なのに、苦痛じゃないのかい?」「いいえ、ちっとも。」6歳の頃から父から舞の稽古や茶道、華道や三味線などの習い事に打ち込んできた華凛にとって、正英流の次期家元となることは当然だと思っていた。父や親戚をはじめとする周囲の大人達もそう思っていたし、何より華凛は家を継ぐこと以外の道は何も考えられなかった。「高史さんは、お仕事は何をされていらっしゃるんですか?」「普通の会社員だよ。父は自分の跡を継いで国会議員になって欲しいと思っているようだけど、政治には余り関心はないし、親が敷いたレールの上を歩くのは真っ平だからね・・別に、君の事を批判しているつもりは・・」「大丈夫です、気にしていませんから。今日のお礼をいずれか改めてしたいんですけれど、いつが宜しいでしょうか?」「礼なんていいよ。俺は当たり前のことをしただけだから。」「ですが、それでは俺の気持ちがおさまりませんし・・」高史はナイトテーブルに置いてあったメモ用紙を一枚破り、ペンで携帯の番号とメールアドレスを書いた。「これ、俺の連絡先。会いたくなったら電話して。時々忙しくて繋がらないこともあるけど。」「携帯、持ってますか?」「今は持ってないけど、どうして?」「赤外線でお互いの番号やアドレスを交換した方が、手間が省けると思いまして・・」「その手があったか。俺、古いタイプの人間だからそういうの苦手なんだ。」高史の言葉に、華凛はクスリと笑った。「後で登録しておきますね、これ。」華凛は高史から渡されたメモを大事そうにバッグにしまった。「じゃ、俺はソファで寝るから。」「おやすみなさい。」「おやすみなさい。」華凛はベッドの中で眠ろうと何度か寝返りを打ったが、高史の笑顔を思い出すたびに胸の鼓動が早まり、なかなか眠れなかった。
2012年04月01日
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気がつくとあの河原に来ていた。あの夏の夜、“彼”と蛍を見たあの河原に。どんなに時が流れても、川の流れは少しも変わっていない。人の世はこの百数十年であんなにも変わったというのに・・。「鈴・・」愛しい人の名前を、ボソリと呟いて辺りを見渡した。“彼”の姿は何処にもない。いつまで待っても“彼”が来ないことは分かっていた。もう昔の恋を引き摺るよりも、潔く諦めてしまった方が良い―そう思いながら河原を立ち去ろうとしたその時、誰かが駆けてくる足音と、風になびく美しい赤い髪が遠くから見えた。「ごめんな、すぐ行くって言ったのに。ちょっと副長に色々とコキ使われてさ・・」そう言って“彼”は、両手を顔の前で合わせた。「・・いいよ、別に少ししか待ってなかったし。」本当はずっとお前が来るまで待ってようと思ってたんだ、と言うのを止めて、“彼”にそっぽを向いた。「機嫌直せよ、葛切り奢ってやるからさぁ~」食べ物で釣ろうとして、機嫌が直るとでも思っているのだろうか。こういうところはちょっと理解できないが、自分に惚れていて何とか自分の機嫌を直そうと必死になっている“彼”の姿を見るのは嬉しかったし、楽しかった。「・・わかったよ。もう行こうか。」「ああ。」“彼”と共に河原を後にしようとした時、突然誰かが自分の左手首を強い力で掴んだ。「行かせないわ・・」手首を掴んでいた女は、香奈枝だった。「あなたにわたしの大切な人を奪われて堪るものですか!」周囲の景色が突然暗転し、奈落の底へと真っ逆様に落ちて行った。そこで目が覚めた。「変な夢・・」ゆっくりと上半身を起こして周囲を見渡すと、そこにはホテルに持ってきた着替えが入っているスーツケースが置いてあった。浴衣を着ているということは、意識を失っている間に誰かがドレスを脱がしてくれたのだろう。華凛はゆっくりとベッドから出て、浴室に入った。浴槽に湯を溜めている間、華凛はスーツケースの中からクレンジングオイルを取り出し、化粧をゆっくりと落とした。化粧を落とした後、浴衣を脱いで浴槽にゆっくりと浸かると、温かい湯が強張った筋肉を解してくれるようで、気持ちよかった。左手首を見ると、まだ香奈枝がこの手首を掴んだ時に出来た痣が残っていた。夢にも出てくるなんて、怖い女を高史は妻に持ったものだ。化粧室で聞いた噂がもし本当だとしたら、華凛は高史が気の毒に思えた。もし自分が女として生まれてきたら、迷わず彼の妻になるのに。何故また男として生まれてきてしまったのだろうか。前世では結ばれず、今世でも決して結ばれない関係にあるなんて、なんて残酷な事だろう。高史がもし“彼”の記憶を取り戻しても、彼には香奈枝という妻がいる限り、自分とは一緒になれない。こんなに辛い思いをするのなら、転生した意味がない。浴槽に身を沈め、静かに華凛は目を閉じた。その頃、父に呼び出された高史は、ホテル内にあるバーラウンジにいた。「お話とは、何でしょうか?」タキシードから濃紺のスーツに着替えた高史は、そう言って隣のスツールに座る父を見た。「お前は香奈枝さんと別れるつもりなのか?」「その質問には答えるつもりはありません。俺達夫婦は結婚してから互いに擦れ違ってばかりいました。子どももいないし、仮面夫婦を演じるのは最早限界です。離婚届にはもうサインしましたから。」「考え直せ、高史。香奈枝さんはお前の事を心から愛している。亀裂を修復するのはまだ遅くは・・」高史はスツールから荒々しく立ち上がった。「これ以上夫婦の問題に突っ込まないでください、父上。もう俺は10の子どもではありません。」そう高生に言い放った高史の翡翠の双眸は、まるで氷のように冷たかった。部屋に戻ると、少年の姿が何処にもなかった。シャワーを浴びようと浴室に入ると、微かな水音がしていた。シャワーカーテンを開けると、そこには身体を洗っている少年がいた。「すまんっ!」高史は咄嗟に浴室のドアを勢いよく閉めた。
2012年04月01日
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高史のリードに合わせ、ワルツを踊りながら、華凛は遠い昔の事を思い出していた。互いの正体を知らず強く惹かれ合い、愛し合った日々。 2人で過ごすうちに、“彼”と結ばれたいと思う気持ちと、自分を拾って愛してくれた人への恩返しの為に使命を果たさなければならないという気持ちが交錯して、いつも苦しかった。だが戦乱の渦が京や日本中を包む中、“彼”との恋は儚く散った。“彼”や、あの戦争で戦った多くの者達と命と心を深く傷つけて。肉親や仲間に看取られずに、“彼”は1人で寂しく死んでいった。“彼”と再び出逢えたのなら、あの悲しい結末となった恋をもう一度やり直したいと思っていた。だが目の前にいる“彼”は、前世の記憶を失くしていた。自分が“彼”の恋人であったことも何もかも忘れてしまっていた。「どうしました、気分が悪いのですか?」ふと我に返ると、高史が心配そうな顔をして自分を見ていた。「ええ・・少し酔ったようです・・それに、このような場所は久しぶりなので疲れてしまって・・」さっきからこめかみ辺りがズキズキと痛む。「部屋を取ってますが、パーティーが終わった後そこで休んでは?」「そんな、悪いです・・それに、ご迷惑かけられませんし・・」華凛はこめかみを押さえながら携帯を取り出し、兄嫁に電話した。『華凛ちゃん、どうしたの?何かあった?』「ちょっと気分が悪くなって、このままホテルに泊まるかもしれない・・」『そう・・着替えは持ってきたんでしょ?なら無理しないで泊っていらっしゃいよ。』「ドレス、明日返しに行くから・・」そう言って携帯を閉じてバッグに戻そうとした時、激しい眩暈が襲い、倒れそうになった。「大丈夫ですか?」「はい、何とか・・」華凛は高史の腕の中で、意識を失った。目の前で、少女の華奢な身体が大理石の床に崩れ落ちそうになっているのを、高史は慌てて抱きよせた。少女は腕の中で意識を失った。「華凛、どうした!」今まで他の招待客と話をしていた少女の兄が、血相を変えてこちらにやって来た。「気絶しているだけです。頭が痛いと言っているようですし・・俺、部屋を取っていますから、そちらで休ませた方がいいと思います。」「・・荷物を、持ってきます。」彼はそう言ってクロークへと向かった。高史はゆっくりと少女を抱きあげ、会場を出て部屋へと向かった。少女の兄は荷物を持って先にエレベーターで待っていた。「部屋は何階ですか?」「29階です。」エレベーターの扉が閉まり、ゆっくりと上昇する時間が、高史にとっては長く感じられた。やっと部屋がある29階に到着すると、素早くカードキーを挿し込んで高史はベッドに少女を横たわらせた。「ドレスを早く脱がしてしまわないと。」そう言って少女の兄はドレスのチャックに手を伸ばした。「俺は向こうに行っています。」慌てて目を逸らした高史に、少女の兄はクスリと笑った。「この子は俺の弟です。だからここに居ても構いませんよ。」「そうだったんですか・・」暫く経って、ドレスから浴衣に着替えさせられた少女と自分が思い込んでいた少年は、ベッドの上で静かに寝息を立て始めていた。両手を胸の前で組み、美しい金色の睫毛を閉じるその姿は、まるで眠り姫のようだった。高史はじっと少年を見ていた。やがて彼は少し呻いて誰かの名を呟き、左手で何かを掴もうとした。高史は咄嗟にその手を握って彼を見た。彼は、泣いていた。多分悲しい夢を見ているに違いない。「大丈夫。俺がいるから安心してお休み。」少年の両目から、一筋の涙が流れた。ふと彼の左手首に赤紫色に鬱血した痕を見つけた。それは女の手形のようなものだった。少年の手を優しく握っていると、突然コートのポケットから携帯のバイブが聞こえてきた。高史は慌てて携帯を開くと、液晶画面には“父”と表示されていた。部屋を出た高史は、携帯の通話ボタンを押した。「もしもし、父上?」
2012年04月01日
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春山財閥の御曹司、春山健吾は目の前で談笑している1人の少女を凝視していた。 淡いプラチナブロンドの髪はシャンデリアの光によって美しく輝き、華奢な身体を包みこむ幻想的なデザインの蒼いドレスは彼女の美しい象牙色の肌に良く似合っていた。今までこうした場所で美しい女性を何度も見てきたが、彼女のような美しさを持った者に会うのは初めてだった。「若、どうなさいました?」隣に控えていた秘書の山田がそう言って健吾を見た。「あの子は?今シャンパンを飲みながら笑っている子。」「あの方は正英華凛様です。あの正英流家元・脩平様のご子息で、次期家元候補でいらっしゃいます。」「男なのか・・学校は何処だ?」「聖ステファノ学院高等部でございます、若。」「奇遇だな、同じ学校とは・・4月に会うのが楽しみだ。」健吾はそう言って、静かに華凛の方へと忍び寄った。「そう・・弟さんでしたの。てっきり妹さんかと思いましたわ。」「良く女の子と間違われるんですよ。迷惑以外の何物でもないのですが。」華凛は香奈枝の妹で世界的に有名なデザイナー・桝村麗華と話をしていた。麗華は上品なワインレッドのドレスを纏い、艶やかな黒髪を結い上げ、ルビーのイヤリングを両耳からぶら下げていた。「そのドレス、とても素敵だわ。あなたのかしら?」「まさか。これはパーティーの為に義姉が貸してくれたものです。」「とてもよくお似合いだわ。ブレスレットもドレスとよく合ってるし。今度店にいらっしゃいな、お義姉様と一緒に。」「ぜひ、そうさせていただきます。」そう言って華凛が微笑を浮かべた時、誰かが彼の肩を叩いた。「初めまして、正英華凛さん。」振り返ると、先ほど自分を見ていた少年が立っていた。「あなたはどなたですか?さっきから俺の方をじっと見てましたけど・・」華凛は少年を警戒しながら、彼から一歩ずつ後ずさった。「失礼、自己紹介が遅れました。僕は春山健吾。聖ステファノ学院高等部3年です。4月に会うのを楽しみにしていますよ。」「どうも、こちらこそ宜しくお願いします・・」「お父様に僕から宜しく伝えておいてくれ。君が女だったら迷わずに妻として娶るのにな・・男だとは残念だ。」健吾は華凛の耳元でそう囁いてパーティー会場から去っていった。「あなた、あの方とお知り合い?」「いいえ、さっき初めて会ったばかりです。」「春山財閥の御曹司に気に入られたようだけど・・少し厄介な事になるわね。あの御曹司を狙っている女の子、多いから。」「そうなんですか・・」「それプラス男の子もね。あの子、噂だと両刀使いらしいから。あんまり関わらない方が身のためだと思うわ。」麗華はドレスの裾を翻しながら、義兄の所へと向かった。慌てて華凛もその後を追った。「麗華、久しぶりだね。婚約したと聞いたよ、おめでとう。」高史はそう言って義妹に微笑んだ。その笑顔を見た華凛は、脳裏に“彼”の笑顔が浮かんだ。(やめろ、この人は“彼”じゃない・・)「ありがとう、義兄さん。姉さんはまだ戻ってこないの?」「ああ・・今はまだ公にしていないが、香奈枝とは近々別れようと思っている。」「そう・・それが義兄さん達の為になるかもしれないわね・・」少し3人の間に気まずい雰囲気が流れた時、楽団がシュトラウスのワルツを演奏し始めた。「もしお嫌でなければ、踊っていただけませんか?」「喜んで。」華凛は高史の手を取り、踊りの輪に加わった。「ワルツを踊るのは初めてですか?」「何度か踊ったことがあります、パーティーとかで色々と。」「ステップが完璧ですね、それに俺のリードに合わせられるとはね。」「お褒めいただきありがとうございます。」華凛はしばし高史と向き合いながら束の間の幸福を味わった。「あなた・・」化粧室から戻って来た香奈枝は、華凛と高史が踊っているのを見て入口に呆然と立ちつくした。暫く周囲の視線を感じた香奈枝は、会場に背を向け、クロークに預けていた黒貂のコートを羽織り、逃げるようにホテルから出て行った。
2012年04月01日
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第1部―鈴が泣いている。俺に死ぬなと叫びながら、泣いている。―ごめんな、鈴。ずっと一緒に居たかったのに、俺だけ先に逝ってごめんな・・必ずお前を、迎えに行くから・・鈴久高史は突然自分の前で泣き出した少年を心配そうに見た。「大丈夫・・ですか?」高史はハンカチを少年に手渡した。「すいません、ちょっと嫌な事・・思い出しちゃって・・」少年は高史の手からハンカチを受け取りながらそう言ってパーティー会場の外へと出て行った。「あなた、お父様があなたとお話したいって。行きましょうよ。」「けど・・」「あの子の事はお兄様が居るから心配要らないわ。さ、早く。」妻はぐいっと夫の手を引っ張りながら、父親の元へと向かった。その頃会場から少し遠い婦人用の化粧室で、華凛は涙を流していた。あの人が、“彼”である筈がない。もし“彼”だったとしても、記憶がなかったらどうする?(鈴・・会いたい・・)高史から借りたハンカチで、華凛は何度も泣き腫らした目から溢れる涙を拭った。気分が落ち着いて化粧室を出ようとした時、遠くから数人分の笑い声が聞こえてきたので、華凛は慌てて個室の中に入って鍵を締めた。「ねぇ、高史様今夜もいつにもまして格好良かったわね?」「タキシード姿を初めて見たけれど、高史様の美しさの前ではわたくしたち、霞んで見えるわ。」「美しいと言えば、さっき突然高史様の前で泣き出した方いらっしゃったわね?どこのお嬢さんなのかしら?高史様からハンカチを渡されたようだけど・・羨ましいわ・・」「何処かで見たようなお顔でしたわね、あのお嬢さん。どなただったか思い出せないけど。それよりも聞きまして、香奈枝様のこと?」「ええ、聞きましてよ。何でも通っていらっしゃる茶道教室の先生と仲良くされてるってお噂が・・」「まぁ、香奈枝様と高史様は政略結婚で結ばれたカップルでしたから・・夫婦仲が冷めてしまわれるのも仕方がないことですわ。寧ろ別れてしまわれた方がよろしいのではないかしら?」「そうね、お子様もいらっしゃらないし・・お互い自由になられた方がご本人達にとってよろしいでしょうね。」口さがないご婦人がたはそそくさと化粧室から去って行った。華凛はドア越しに物音がしないのを確認してから、個室を出た。鏡を見ると、目元の腫れは少しひいており、目立たなくなっている。化粧品ポーチの中から愛用のウォータープルーフのマスカラを取り出し、睫毛に塗っていると、1人の女性が化粧室に入って来た。「あら、あなたはさっきの・・」それはパーティー会場で会った高史の妻・香奈枝だった。会場で紹介された時より、少し顔色が悪い。あのご婦人方の陰口を化粧室に入る前に聞いてしまったからだろうか。華凛は香奈枝に会釈して化粧室を出ようとしたが、ドアに辿りつく前に彼女に腕を掴まれた。「夫に少し優しくしてくれたからって良い気にならないでね。彼はわたしのものなんだから。」そう言った時の香奈枝の顔は、まるで般若のようだった。華凛は香奈枝の手を振りほどき、震えながらパーティー会場へと戻って行った。彼女に掴まれた方の腕を見ると、そこには手形が真っ赤に残っていた。華凛はバッグの中から兄嫁から借りたダイヤと18金のブレスレットを取り出し、それを嵌めて会場の中へと入った。「遅かったな、華凛。」「ちょっと、トイレが混んでて・・」「そうか・・そのブレスレット、似合ってるぞ。祥愛(さちえ)のセンスを信じてよかったな。」「後で義姉さんに礼を言わないと。」そう言って華凛がボーイからシャンパンを取った時、強烈な視線を背後から感じた。振り向くと、白いタキシードを着た自分よりも2,3歳年上と思われる少年がじっと自分を見ていた。「どうした、華凛?」「いや、何でもない。」慌てて華凛は少年から目を逸らした。
2012年04月01日
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鈴久高史(すずひさ たかし)本編の主人公。衆議院議員・鈴久高生(たかお)の継嗣。父の誕生祝いのパーティーで、華凛と出逢う。“鈴”の転生者だが、前世の記憶を持っていない。鈴久香奈枝(すずひさ かなえ)高史の妻で、実家は旧華族。高史とは政略結婚で結ばれ、彼とは仮面夫婦を演じている。気位が高く、傲慢で嫉妬深い性格。鈴久高生(すずひさ たかお)衆議院議員。香奈枝の父親・頼亘とは少年時代からの親友同士。桝村頼亘(ますむら よりのぶ)香奈枝の父親で、桝村財閥総帥。高生とは少年時代の親友同士で、政財界への閨閥作りの為に娘・香奈枝を鈴久家に嫁がせる。会社を大きくするためには、どんな手段も厭わない策略家。桝村紋(ますむら あや)頼亘の妻。仕事人間の夫を陰で支えながらも、夫との離婚を考えている。桝村麗華(ますむら れいか)頼亘と紋の次女。デザイナーを目指してパリへ留学していたが、服飾専門学校を首席で卒業し婚約者とともに帰国する。竹を割ったような性格で、言いたいことをハッキリ言う所為か、敵が多い。新條綾女(しんじょう あやめ)桝村家の家政婦。新條尊(しんじょう たける)綾女の1人息子。桝村家の使用人として母と共に働いている。正英脩平(まさひで しゅうへい)日本舞踊・正英流15代家元。伝統と誇りを大事にし、踊りを純粋に愛する。長男・寿輝(ひさき)とは仲が悪い。正英寿輝(まさひで ひさき)脩平の長男で、一流企業に勤めるサラリーマン。伝統を押し付け、世間体を気にする父と対立し、勘当される。弟・華凛のことを溺愛している。正英祥愛(まさひで さちえ)寿輝の妻。朗らかで優しく、陽気な性格。華凛を実の弟のように思っており、彼の一番の理解者。正英華凛(まさひで かりん)本編の主人公。日舞・正英流の後継者として幼い頃から脩平に厳しく育てられる。“英人”の転生者で、前世の記憶を持っている。椛花愛華(かばはな あいか)華凛が通う私立中高一貫男子校・聖ステファノ学院に隣接する名門女子校・聖薔薇(セイント・ローズ)女学院の生徒で、椛花コンツェルン社長令嬢。幼い頃から周囲の大人達によって甘やかされ大切に育てられた所為か、自己中心的で思いやりのない性格の持ち主。健吾とは親が決めた許嫁同士。水嶋洋輔(みずしま ようすけ)剣道部主将。華凛にとっては頼れる先輩でもある。久岡修祐(ひさおか しゅうすけ)華凛の同級生。橘 桂檎(たちばな けいご)橘剣術道場師範で、高史の大学時代の友人。聖ステファノ学院剣道部顧問で、社会科教師。“桂小五郎”の転生者で、前世の記憶を持っている。何かと華凛を付け回す。篠原修悟(しのはら しゅうご)華凛の同級生で、剣道部員。華凛に敵意を抱いている。珠洲城聡(すずしろ あきら)桂檎の友人で、聖ステファノ学院数学教師。正英流の門下生でもある。桂檎の恋を応援している。沖原総太(おきはら そうた)聖ステファノ学院古典教師。“沖田総司”の転生者で、前世の記憶を持っている。華凛に興味を示す。土原歳介(つちはら さいすけ)聖ステファノ学院英語教師。“土方歳三”の転生者で、前世の記憶を持っている。永嶌千冬(ながしま ちふゆ)正英流の門下生で、“菊千代”の転生者。修悟の恋人。山下慎哉(やました しんや)高史の同僚で、“柵原真也”の転生者。下山勝哉(しもやま かつや)フリージャーナリスト。ある事件の真相を追っている。正英百合子(まさひで ゆりこ)故人脩平の妻。7年前、首つり自殺したが、その死の真相は謎に包まれている。葛藤斎吾(かつらふじ せいご)裏千家の茶道・葛藤流次期家元で、香奈枝が通う茶道教室の教師。“斎藤一”の転生者。菱華優菜(ひしはな ゆうな)正英家に突然やって来た少女。脩平の娘だというが・・春山健吾(はるやま けんご)聖ステファノ学院高等部生徒会長。虫を殺さぬような顔をしているが、権謀術数に長けた策略家。パーティー会場で華凛と出逢い、一目惚れする。篠華淑子(しのはな よしこ)京舞・篠華流家元。華凛のことを溺愛しており、華凛が女として生まれていたら自分の跡を継がせるつもりでいた。篠華和美(しのはな かずみ)淑子の1人娘。母親とは折り合いが悪く、家を継ぎたくないと思っている。秀岡吉枝(ひでおか よしえ)華凛の叔母。出来が悪い実子・穣(みのる)よりも、華凛を溺愛している。華道・秀岡流家元夫人。秀岡穣(ひでおか みのる)吉枝の1人息子。何回か警察沙汰を起こしている非行少年で、“恥曝し”と母親や親族からは毛嫌いされている。
2012年04月01日
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