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大崎梢『だいじな本のみつけ方』 ~光文社文庫、2017年~ 中学2年生の中井野々香さんが、まだ発売されていないはずの小説を学校で発見するところから始まる、長編小説です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 放課後の校舎で、お気に入りの作家、新木真琴の新作を見つけ、急いで本屋に行くものの、馴染みの店員さんから、その小説はまだ刊行がされていないと教えられる野々香。彼女は、目立ちたがりで、苦手意識も抱いているけれど本には詳しい同級生の高峯秀臣に、新作の話を打ち明ける。すると彼は、あらゆるネットワークを駆使して、その本の持ち主候補の同級生を捜し出してきた。ここから、二人で聞き取りをしていくが…。 ――― わくわくするような冒頭で、この謎が解けたあとも、野々香さんの前には色々な謎が現れます(たとえば、秀臣さんが、野々香さんにとっては大切な思い出である読み聞かせを悪く言うのはなぜ?などなど)。関連して、イベントを企画・実行しながら、色々な人とのつながりを持っていくことになります。 本書は大きく2部構成ですが、第一部は、もともと「朝日中学生ウイークリー」に連載されていた作品とのこと。第2部が書き下ろしで追加されたかっこうになっています。そういう経緯もあってか、とても読みやすく、またあたたかみのある物語でした。(2020.07.24読了)・あ行の作家一覧へ
2020.12.27
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米澤穂信『いまさら翼といわれても』 ~角川文庫、2019年~ 折木奉太郎さんの所属する古典部のメンバーが活躍する、古典部シリーズ第6弾。今回は、折木さんの過去のエピソードなどが語られる短編集です。6編の短編が収録されています。 それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と、感想を。 ――― 「箱の中の欠落」福部里志が手伝った生徒会長の選挙後、各クラスから集まった票は、在校生の人数分よりも多かった。どうしてそんなことが起こったのか、里志は折木を散歩に誘い、相談をもちかける。 「鏡には映らない」旧友に出会った伊原摩耶花は、中学生の頃の嫌な記憶を思い出す。卒業制作で作った鏡のフレームで、折木の班は完全にデザインを無視した、手抜きのようなパーツを提出した。彼(の班)は、なぜ手抜きをしたのか。 「連峰は晴れているか」中学生の頃の先生がヘリコプターが好きだと言っていたエピソードを語る折木に、伊原と福部はそれを否定するエピソードを語る。先生がヘリコプター好きと言っていた理由とは。 「わたしたちの伝説の一冊」伊原が掛け持ちで入っている漫画研究部は、読むだけ派と描く派で対立していた。描く派の友人が、伊原に同人誌への参加をもちかける。しかし、同人誌のための漫画を準備している中で、伊原は何者かにノートを盗まれてしまい…。 「長い休日」千反田えるに、「やらなくていいことならやらない」のモットーはいつから言っているのか聞かれた折木は、小学生の頃のエピソードを披露する。 「いまさら翼といわれても」合唱祭に出るはずの千反田えるが、会場の待合室からいなくなってしまった。手伝いに行っていた伊原から連絡を受けた折木は、彼女がどこに行ってしまったのか、推理を進めるが…。 ――― これは面白かったです。特に印象に残ったのは「鏡には映らない」。伊原さんの一人称で語られるのも新鮮で、また真相も辛さとともに折木さんのかっこよさが感じられる作品です。 同じく「長い休日」も、折木さんの過去のエピソードを描きます。珍しく折木さんが自分のことを多く語ります。 文庫背表紙の紹介のとおり、古典部の「メンバーの新たな一面に出会」える短編集です。(2020.07.23読了)・や・ら・わ行の作家一覧へ
2020.12.24
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乾くるみ『嫉妬事件』 ~文春文庫、2011年~ タロウ・シリーズの1冊。表題作の中編と、ボーナストラックの短編の2編が収録されています。 城林大学ミステリ研究会の部室で、本棚の本の上にあるものが置かれていた…。背表紙に「尾籠系ミステリ」とあり、あるものの正体がなんとなく察しが付き、読み進めると、竹本健治『ウロボロスの基礎論』(20年以上前に読んだきりで、ブログ記事は書いていません)で紹介される現実の事件がモチーフにされている作品と気づきました。(その事件への一つの回答の提示でしょうか。) というんで、表題作についてはいつものような内容紹介が書きにくいので省略しますが、乾さんの作風の広さにあらためて驚かされます。 ボーナストラック「三つの質疑」は、表題作中で登場人物が書いた犯人あてミステリという体裁のようです。こちらは安心して読めました。(2020.07.17読了)・あ行の作家一覧へ
2020.12.22
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乾くるみ『リピート』 ~文春文庫、2007年~ タロウ・シリーズの1冊。 10ヶ月前の自分に戻れる不思議な世界観の中で、しかし鮮やかな謎の解明がなされるミステリーです。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 僕―毛利圭介のもとに、地震を予告する電話がかかってくる。そして、その予言は的中。後日、僕は風間と名乗る電話の相手に、「リピート」のゲストとして招かれる。 ゲストは9名。風間を含め10名で、10ヶ月前の自分に戻るという。 リピートした世界では、元の世界では起こらなかったはずの事件が起こり、ゲストたちが次々と謎の死をとげていく。 僕は天童たちとともに、事件の解明を目指すが…。 ――― SF風の世界観と、その設定を見事に活かした作品です。 文庫で約500ページと、やや長めの作品ですが、リピート前の緊迫感や、リピート後の複数の事件の謎と、飽きずにわくわくしながら読み進められました。 タイムトラベルを扱った数々のSFやミステリーを紹介する大森望さんの解説も、興味深く読みました。 (2020.07.17読了) ・あ行の作家一覧へ
2020.12.11
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Penny J. Cole, The Preaching of the Crusades to the Holy Land, 1095-1270, The Medieval Academy of America, Cambridge, 1991 1990年代以降本格化する十字軍説教研究の先陣を切る研究です。 本書は1985年のトロント大学での博士論文がもととなっています。 まず、本書の構成は次のとおりです。(拙訳) ―――序論文献略号 第1章 ウルバヌス2世とクレルモンでの説教第2章 第二回十字軍と幻滅第3章 伝統の終焉第4章 インノケンティウス3世第5章 新しい方向性第6章 悔悛としての十字軍第7章 敗北と刷新結論 付録A.アブヴィルのヨハネスの説教B.ソールズベリのロジャーに帰される説教C.エルストウ説教(1283年)D.ウード・ド・シャトルーによる2つの説教 引用写本参考文献目録索引――― 本書の目的は、中世説教活動の発展と、中東での政治的・軍事的変化という2つの背景を考慮しつつ、イスラームに対する十字軍への説教活動などを研究することとされます。 第1章は、有名な1095年のクレルモン教会会議でのウルバヌス2世の説教を分析します。これは、史料により様々な描き方がなされており、本書は主要史料について、その著者の経歴などもふまえながら、叙述を分析します。 第2章は第2回十字軍(の失敗)とそれに関係する説教などを分析します。面白いのは、この十字軍が失敗に終わったのは説教師の責任とする声もあった、という指摘です。また、教会側からは、失敗に対する弁明もなされ、有名なクレルヴォーのベルナルドゥスは、失敗の原因を十字軍士が救済への招待を拒否したからだ、としているそうです。 第3章は、12末頃に活躍したアルバノの司教枢機卿アンリと、カンタベリ大司教ボールドウィンを主に取り上げ、説教におけるパーソナリティなどの重要性が終焉し、転換期を迎えることを示します。 第4章は、教皇インノケンティウス3世が役割を論じます。特に、従来の十字軍説教が霊的改心に重点を置いていたところ、1198年の教皇勅書「ポスト・ミゼラブレ」以降、資金集めも重視され、霊的改心+集まった資金が説教の成功の尺度となるという指摘が興味深いです。 第5章は、インノケンティウス3世が活躍した時代に説教活動を行った人々の説教を主に分析します。この時代、パリ大学での倫理神学への強調や民衆への説教の重要性の認識により、ますます説教活動の重要性が増していきます。 第6章は、教皇と王の対立といった時代背景を描きつつ、説教において十字軍の悔悛としての性格が強調されていくことが示されます。 第7章では、とりわけ2人の托鉢修道士、フランシスコ会士ギベール・ド・トゥルネーの十字軍士向け説教と、ドミニコ会士ロマンのフンベルトゥスの『十字軍説教について』という手引きの丹念な分析がなされており、両者の説教活動に関心を持っている私は特に興味深く読みました。 以上、簡単なメモとなりましたが、さいごに、本書の概要と意義を簡潔に記した文献として、次の書評を紹介しておきます。(別文献についての書評ですが、前提として本書の重要性にふれているものです。)・櫻井康人「書評 Christoph T. Maire, Preaching the Crusades, Mendicant Friars & The Cross in the Thirteenth Century, 1994」『西洋史学』192、1998年、70-74頁(コールの著作については70頁参照。)(2020.01.12読了) ・西洋史関連(欧語文献)一覧へ
2020.12.05
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