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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第263話です。潜水ポッドによって飛行石の含まれている岩石が回収された。岩石は原子炉室の隣にあるラボに運ばれ、結晶化のためのデータを収拾する実験が行なわる。橘一郎と女性は3人の研究スタッフとともにラボに入った。潜水艦は日本海のどこかにいる。北朝鮮の沿岸に近いようだ。天皇は若い士官に何やら指示を与えている。太平洋側に出ようとしているらしい。キムジョンナムとキム“教授”、そして加藤の3人は特にすることもないので再び士官食堂に戻った。「それにしても驚きですね」 と、加藤がコーヒーメーカーの前でコーヒーを入れながら口を開いた。「ミスター・キムジョンナムはこの潜水艦のことを知っていましたか?」「ええ、飛行石を動力に利用する実験をしていると聞かされていました。が、天皇自らが艦長を務めているとは知らなかった。正直、驚いています」 首を振りながらキムジョンナムもコーヒーカップをとった。それを見ながら加藤が、「しかし、こうしてあなたと潜水艦の狭い食堂で一緒にコーヒーを飲むことになろうとは思いませんでした」 と、いった。キムジョンナムもうなずく。「加藤さんに朝鮮半島で祖国を統一するための結社作りに参加してもらおうとした結果がこれです。まあ、あの橘という男に一杯食わされました。飛行石の結晶を作成する方法が完成すれば、私たちはどうやら空中都市にいくことになりそうだ。新しい世界を築くためにね。今度はどの様な世界になりますかね」「歴史は繰り返すと言っているでしょう」 と、今度はキム“教授”がいった。テーブルの上に置いてあったカンの蓋をあけて、中からピーナッツをとって口に放り込んでいる。「同じですよ、繰り返しだ。平和、そして戦争。それが人類の運命なんですよ。地殻変動が起きて新しい形になった朝鮮半島で文明の種がまかれ、世界のあちらこちらで、また争いが起きて、いつかはその新しい文明にも終わりがくる。それは人類が地球が病気になったときの薬だからです。文明が排出するエネルギーが温暖化をもたらし、それによって地球を治療するわけだ。地球の発熱ですよ。その運命から逃れることはどうしてもできないのだ」「それにしても面白いことを天皇はいっていた」 と、キムジョンナムがいった。「空中都市の一部が宇宙空間に飛び出すと、確かにそういったでしょう」「覚えています。飛行石にによって人類の一部が宇宙旅行に出て行くということですかね」 と、加藤がコーヒーをすすりながらいった。「ぜひとも、その様子をこの目で見てみたい」 キムジョンナムはそういうとすーっとコーヒーを一気に飲み干した。続く。
2008年01月31日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第262話です。橘一郎はかつて自分自身が潜水艦の艦長をしていたが、この船では全くそのような役割を担ってはいなかった。乗組員が通路ですれ違っても誰も彼に敬礼をしない。情報解析の仕事に専念しているようだった。橘は例の日本人の女性と飛行石の結晶が入っている原子炉の前で何やら話している。加藤はその二人の側に寄っていった。二人は会話をやめようとせず続けている。「……日本海溝にいけばより分かると思う」「この潜水艦ではそんな深海に潜ることはできないわ」「だが潜水ポッドを改良すれば何とか対応できるだろう」「あなたの仮説では飛行石の結晶が日本海溝の底で作ることができるというのね」「そうだ。原子炉を改造した飛行石の反応炉がヒントになる。磁気エネルギーの変化の様子を見ればさらに強い圧力が必要だが、それは深海が最適だろう」「反応炉の中の圧力は確かに相当高い、温度もかなりの高温よ。だけども核融合を行なえるほどの値にはなっていないわ」「いいかい、海溝にはおそらくマグマの吹き出し口がある。その中の条件は飛行石の結晶化を促すのに最適だと思う。私の計算では結晶が30キロもあれば核融合反応は可能だと思う」「お取り込み中申し訳ないが……」 と、加藤が橘と女性の会話に割り込んだ。「この潜水艦の飛行石をどうやって反応炉にセットできたんだ? 原子力の代わりに飛行石のエネルギーで潜航しているのだろう、いきなり実用化できるなんてすごいじゃあないか、橘君」「実は偶然です。チョンジンの核爆発の後、たまたま発見された飛行石の結晶が人を浮かせたのを解析しているうちに、方法が見つかったのです。それで上海海軍にあった1隻の原子力潜水艦を改造することになりました。丁度、ウラジオストックで講和会議がはじまったころです」「本当に君はいつでも水面下で活動するのが好きだな」 加藤はあきれた思いで橘の話をきいていた。続く。
2008年01月30日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第261話です。「飛行石が核融合を解決する鍵になるのですか」 と、加藤が天皇にたずねた。「そう思います。原子炉のコントロール室に案内しましょう」 そいうと、天皇は出口に向かって歩いていった。加藤は出て行くとき、もう一度振り返ってガラス張りの部屋から外の海底を見た。潜水ポッドが照明のあたっている岩石をマジックハンドをガシガシと動かしながら削っていた。狭い通路を通って「原子炉」と漢字で表示されたドアの前に立った。下に「放射能注意」と記入されている。不安な気持ちにさせる表示である。「心配いりません」 と、加藤らの心配を察してか橘一郎がいった。「飛行石の結晶に入れ替えてから、放射能は全く出ていません」 加藤は信じるしかないと思った。それにしても、何と都合の良い石なのだろう、飛行石というのは。加藤は感心していた。橘一郎がドアの前についているハンドルを回した。ドアの周りについているストッパーがガチャッという音と共に外れた。そしてドアがゆっくり開けられた。天皇が先頭になって中に入って行く。加藤らもその後に続いた。狭い部屋だが正面に貯蔵タンクのような物があった。元原子炉だ。その前にコントロールパネルがある。さらにその横に構造図が掲げられていた。図の中央に結晶という文字が見える。「結晶をある特殊な電離質の液体に浸しています。そこに制御棒をいれて反応を起こすのです」 と、天皇が説明した。「しかし、この炉ではまだ原子力のときの半分程度のエネルギーしか発生させられません。それでも調査目的の潜水艦としては充分な量です。最終的には結晶を利用して核融合反応を起こすことができると思っています。そうなれば理想の動力源を得る。潜水艦は海の中だけではなく空も飛べるようになるでしょう」夢のような話だと加藤は改めて思った。「悪夢にならなければいいが」 と、加藤はつい独り言を漏らした。続く。
2008年01月29日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第260話です。「飛行石を結晶化する技術は伝承されていないのですか?」 と、加藤は天皇にたずねた。天皇はうなずいた。「ある程度の伝承はされていますが、きちんとした科学的な記述はありません。確かにチョンジンでの核爆発による瞬間的なエネルギーの変換で飛行石の原石が結晶になりましたが、だからといっていちいち100メガトンの核爆発を起こすわけにはいかないでしょう。もっと安全な方法がないか研究中です」「やはり核エネルギーがポイントになるのでしょうか?」 と、キムジョンナムがきいた。「原子炉を使えばいいのですか」「そうだと思いますが」 と、橘一郎がいった。「核分裂ではなく核融合が必要だと思います」「核融合?」 キムジョンナムが首を傾げた。すると、「ああ、水素爆弾ですか」 と、傍らのキム“教授”がいった。そして、「核融合でもっとも実用性が高いのは水素を利用したやつです。水素原子の同位体、すなわち中性子の数が違う重水素と三重水素であるトリチウムを核融合させてヘリウムをつくる、その過程で莫大なエネルギーを生み出すわけです。だが、実用化のめどは全く立っていません」 と、元知識人らしく語った。橘一郎が軽くうなずくと、「いわば地球上に太陽を再現しようという話ですからね。とてつもない高温と完璧な真空状態が必要なのですが、そんな容器を作ること自体が大変難しい。だから強力な磁気閉じ込め方式が考えられています。が、技術的課題が山積しており正直行き詰まっています。ですが、わずかですが光明が見えてきたと思います」 と、いった。「光明とは何ですか」 と、すかさず加藤がきいた。「今まさに核爆発で偶然できた1キログラムの飛行石の結晶のことです。この潜水艦の動力源にも使っています。もともと潜水艦に搭載されていた原子炉を改造し飛行石の結晶を利用した反応炉を作りました。わずか600グラムの結晶で、すさまじいエネルギーを放出しています」 と、橘一郎がいった。「つまり……」 と、天皇がいった。「飛行石が核融合の技術的問題をついに解決するかもしれないのです」続く。
2008年01月28日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第259話です。「ある意味、キリスト教の進化論否定は正しい」 と、天皇はいう。「チンパンジーと人間の遺伝子情報は97パーセントまで同じだといわれている。だが、有史以来チンパンジーが何かの拍子で変異して人間になったことはないし、現在もその兆しすらない。最新の科学的知識をもって遺伝子操作をしてもチンパンジーを人間にすることはできないのです。生物というのはもっと人智を超えた神秘的な存在であり、遺伝子も一つの結果にすぎない。遺伝子が生物を作っているのではありません。遺伝子そのものは単なるタンパク質を合成するための情報の組み合わせにすぎないのです。命そのものは地球の分身なのです。地球から細胞分裂のように分かれてできあがったのです。神が土をもって自分と似た姿形のアダムを作り、アダムのあばら骨からイブを生んだと言う人類誕生のいきさつもあながち嘘ではない。つまり地球しか命を創造することはできないのです」「では地球こそ神でしょう。なぜわれわれが神になるのか?」 と、加藤がたずねた。「“サトヤマ”システムは人間をいわば地球に返す役割があります。つまり炭素エネルギー文明に頼らなくても生きて行ける文化を築くわけです。それは自然の風水のエネルギー循環による文化です。加藤さんもご存知のように衣食住の糧を滞りなく得ることができるので、地球が生き続ける限り人類も存続することができる」「だからなぜ私たちが神になるのです? 陛下はそれについてまだ答えておられない」 加藤は少しイライラしてきた。天皇は少し黙った。やがて、「このままだと地上の人々は数十年で言語をほとんど失います」 と、いった。「言語を失う?」 加藤が驚いた。「そのとおり」 と、天皇がいった。「“サトヤマ”システムによって人の生活は地球のエネルギー循環に完全に同化するために、言語能力を失ってしまうのです。衣食住に不自由しなくなるので喋らなくても十分生きて行けるからです。やがて言語的思考も必要なくなる。言語よりも直感的な行動の方が効果的なのです。腹が減れば食べるし、眠くなれば眠る、そして子どもが作りたくなったら作る、体のシグナルに忠実になるだけでいい。死の恐怖すらなくなります。あたかも前頭葉を失った無人格のような人間になります。そして地上の人の生活は全くの理想郷、天国になるのです。エデンの園といってもいい。だが、永遠ではない。生き続けている地球はやがて自己治癒の時代に入る、つまりふたたび炭素エネルギー放出の時代が来るのです。そのときに神が地上に降り立たないと、文明を効果的に復活出来ません。いわゆる地球の薬の役割は得られないのです」「つまり、人類が言葉を失い文明を失い平和なエデンの園で暮らしているのを止めさせる役割が神だというのですね」 と、加藤がいった。天皇はうなずいた。そのとき沈黙を保って部屋の入り口あたりでじっとしていた橘一郎が、前に進み出た。そして、「旧約聖書や神話などの古代からの言い伝えや民話、神話、伝説の類いは、ほとんどは事実なのです。ただ、長い間の“サトヤマ”システムによる生活で人々は言葉を失っています。それを地上に降り立った神とのやり取りの中で思い出して行く。だから伝説はつたない言語で書かれていることが多いのです」 と、いった。「つまり」 と、加藤がいった。「遠い将来、再び石油や石炭を燃やす文明が必要な時のガイド役をわれわれがしようというわけだ。つまり炭素エネルギー文明のガイド役こそ神様というわけだな」「そうです」 と、橘がいった。「どの文明も東からはじまり西で完成します。太陽を追いかけるからです。そして、その発祥の地は実は常に朝鮮半島付近なのです。もっとも地形は毎回違います。二つに別れていた島が合体して日本列島できたように、新しい文明が始まるたびに地殻変動が起きて新しい陸地の形になりますが」「では、私たちは飛行石の力で空に上がるわけか」 と、加藤が橘にきいた。「そうです」 と、橘が答えた。「飛行石の結晶により、一つの都市が空中に浮き上がります。そこで炭素エネルギー時代と同じような生活を継承して行くのです。言語も継承されます。そして人口が増えれば都市は分裂しいくつかの都市は別の太陽系を目指して一部が地球を離れる。それはあたかも羽のついたタンポポの種が遠くを目指して旅をするがごとくです」信じ難い荒唐無稽な話である。だが、さすがに同じような説明を何回か聞いて加藤は理解してきた。「人類の文明は何回も繰り返されてきたのだね。そして、その知恵は飛行石の結晶によって空中都市に保たれ、時期がくれば再び類人猿と変わらない生活をしていた地上の人々に空から降りてまた繰り返し文明を築き、地球を治療するために温暖化を招くのだ」「そのとおりです」 と、橘がうなずいた。続く。
2008年01月25日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第258話です。「地球がガイアと呼ばれ、そこに生きるものたちとの相互作用で環境はつくられていると聞いたことがあります」 と、加藤がいった。「そのような側面はあります。もっといえば、生物の進化という事実はないのです」 と、天皇は驚くべきことを言い出した。「実際、今地球に生きている生物が進化したことはなかったでしょう。例えばねずみに羽根が生えたり、魚に足が生えて陸地に上がったりすることはなかったでしょう」「そりゃあそうでしょう」 と、キムジョンナムが笑った。「確かめようがないですよ、我々の短い人生では。何億何十億の間に起こるゆっくりした変化など」「ゆっくりした変化などない、ガイアの変化は突然に堰を切ったようにどっと起きるのです。つまりは突然変異です。あの恐竜も突然現れて突然消え去った。人類もそうです、突然現れたのです。恐竜も人類もガイアが自然治癒するために生み出した薬なのです。つまり、恐竜や人類などの突出した生命体は、地球が自らの新陳代謝を活性化させるための存在なのです。地球の老廃物を資源として消費し地球の掃除をしているのです。フンを食べて有機物に分解する微生物のような役割にも似ています。人類の文明によって炭素ガスが充満し地球が温暖化することは、まったく自然なことです。地球が熱を出しているのです。その熱で自分の病気と戦っているわけです。今の地球は温暖化を必要としているのです」 天皇はそういうと、部屋を歩き出した。「だから、温暖化を人類が止めることはできない。地球がそれを望んでいるからです。だが、いずれは薬としての人類の役割は終わります。そのときが肝心です。人類は新人類として進化しなければならない。それが“サトヤマ”システムの真の目的です。もちろん現在の文明は必要なくなります。むしろ類人猿に近い生活スタイルになっていくでしょう。それが“サトヤマ”システムの目指すところなのです」「自動車や携帯電話が無くなるということですか」 天皇の説明にキムジョンナムがたずねた。「そうです。自動車がなくても携帯電話がなくても十分生活出来るような変化が人類の肉体に生じます。特に脳においてです。人が地球という生命体の一部になり地球とともに生きていくのです。そして、地球はまた老廃物を溜め込んで行く。その老廃物の種類によって次の薬たる特異な生命体が生み出されるのです」 と、話しながら歩いていた天皇は室内の天井からつり下げられているモニターの前に立った。「見てください」 と、天皇がいった。加藤らが集まって、いわれるままにモニターを見た。「“サトヤマ”システムは全世界に広がりつつある。これがある程度広がると人類に変化が起きます。より自然に近づく。一方、ヨーロッパで発生した産業革命以降育んできた炭素エネルギー文明は飛行石の技術が完成するとともに地上から飛び上がり、次の機会を待つのです。これを旨く成し遂げれば人類は恐竜のように滅びはしません。生きながらえることができ、また地球の薬としてやがてくるであろう次の治療時代に文明を築くのです」 と、天皇はいった。「それをわれわれが行なうわけですか?」 と、加藤がたずねた。「そう、そのとおりです。われわれがいわゆる伝説の神々になるのです」 天皇は大真面目な顔をしていった。続く。
2008年01月24日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第257話です。突如、金属を叩くような音が響いた。直後に大きな影がガラス張りの室内に映った。丸い物体のようだ。「作業用の海底ポッドです」 と、天皇が話を中断して状況を説明した。「今から飛行石の採掘作業を始めます。海底にむき出しになっているのを削り取るわけです」「あそこにある飛行石は飛ぶ力はまだないのでしょう?」 と、加藤がたずねた。「そうです、ありません。原石です。どうやったら安全に結晶化できるか研究します」 と、天皇が答えた。「飛行石の完全な結晶化が成功すれば、人類の文明は全く新しくなる。動力エネルギーがほとんど無限なのだから」 と、キムジョンナムははしゃぐようにいった。「そうすれば悲願の朝鮮民族統一が成し遂げられる」「いやいや」 と、天皇はかぶりをふった。「飛行石文明によって人類は地上から追いやられてしまいます。高い山や空中で暮らすようになるのです。それはそれで大変快適な生活ですが、その間に地上は大変動に見舞われます。つまり、中国大陸でロシア軍を撃退した“メガ・ストーム”のような大規模な水の循環と大陸移動のような大規模な地殻変動が発生します。そして地球全体の大陸の様子が変わってしまうのです。国境が変わるなどといったレベルを超えてしまいます。全く新しいコミュニティが誕生するのです」「そのような言い伝えが天皇家にはあるんですね」 と、加藤がたずねた。天皇はうなずいた。「例えば日本です。古代日本の記録は魏志倭人伝にしかない。しかもその中に出てくる国、邪馬台国というのは書かれている通りの場所では、海です。だから邪馬台国の場所に関する論争はなかなか決着がつかなかった。実は魏志倭人伝に書かれた頃の日本と現在の日本とでは列島の在り方が全く違っていました。日本はいわゆるフォッサマグナ、つまり、糸魚川静岡構造線で二つに割れており、しかも、その先端はずっと南にあったのです。だから魏志倭人伝の記述はあれで正しいのです。邪馬台国は現在の奈良県にありました。その当時、奈良県は大体現在の沖縄くらいの緯度にあった。邪馬台国は南国だったのです。それが地殻変動で大地ごとぐんぐん北へ押し上げられ、もう一つの島と合体して今の日本列島が形成されました。あたかも神が海をかき混ぜたがごとく大陸がぐるぐると動いたのです」「にわかに信じ難い」 と、キム“教授”がいった。「しかし、あなたも“メガ・ストーム”の威力を見たでしょう。地殻変動は突然ガタガタ揺れる地震のようなもので瞬発的なエネルギーの発散で行なわれます。大陸移動というものは年に1ミリとか1センチとかそんな悠長なものではないのです。ある日に一気におこなわれるのです」 と、天皇はいった。「つまり地球が生きているからですか?」 と、加藤がきいた。「そのとおりです」 と、天皇はしっかりとうなずいた。続く。
2008年01月23日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第256話です。「“サトヤマ”システムが飛行石文明と密接な関係があるとはどういうことですか」 と、加藤がたずねた。天皇はガラスの前に立つとじっと海底を眺めている。そのままの姿勢で話し始めた。「地球は一個の生命体です。生きています。生きているから老廃物が貯まる。その老廃物を資源という形で取り出すのが人類の役割なのです」「人類の役割?」 まるで大学教授かなにかのような雰囲気を漂わせている天皇の話に加藤はどんどん引き込まれて行く。天皇は海底を見続けながら話す。「人類の築く文明と言うのは、地球にとっては薬のようなものです。地球はときどき病にかかる。原因は地球上に溜まった老廃物です。例えば石炭や石油です。生命体の残骸である石炭や石油は地球にとってはそのまま放置すれば毒素になる。つまり地球にとっては不必要なゴミなのです。限界を超えて溜まれば地球は磁性体の力が弱まり公転周期が乱れ死ぬ。死ねばばらばらの岩石となってまるで土星の輪のように軌道上にちりばめられてしまいます。そうなる前に人類の文明による消費活動が老廃物を分解し取り除くのです。その分解作用がいわゆる文明そのものの働きなのです。地球は自分の体内に貯まった老廃物を人類の文明によって排出しているのです。地球に存在する人類以外の生命体は地球の生命体活動そのものです。原生林の植物やサバンナの動物や海の生き物は地球の命そのものです。地球上にある生命体の中で人類だけが違うのです。人類は文明をもってその老廃物を処理するための薬なのです。だから地球が病を克服すれば人類は用済みです。そこで飛行石が登場する。今度は人類が浄化されてしまいます」「まるでSFですな」 と、キムジョンナムがいった。そして、「映画好きの父、キムジョンイルが聞いたら喜びそうな話です」 と、いって笑った。天皇は振り返った。そして、「確かに空想的な話ですが、事実です。東アジア大戦によって、われわれ人類の文明は次のフェーズに入りつつある。ここで文明の舵取りを間違えると薬でいうところの副作用のようなものが発生し、地球もろとも人類は滅ぶ。いわば人類が地球にとっての癌になってしまうのです。癌はおろかだ。自分の命を支えるはずの宿主を滅ぼし自らも死滅します」 と、いって目をつぶった。「なるほど」 と、今度はキム“教授”がうなずいた。「そこで“サトヤマ”システムの登場となるわけですね」「おっしゃる通りです」 と、天皇が微笑んだ。「“サトヤマ”システムは文明という毒を中和します。人類が地球と共存するためです」加藤は天皇があたかも神の使いのように思えてきた。全面ガラス張りの部屋には神秘的な景色が広がっている。加藤はそこから神の声が聞こえてきそうな錯覚を覚えた。続く。
2008年01月22日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第255話です。加藤は今自分がこうして潜水艦に乗っていることが不思議に思えてきた。見渡せば最新式の潜水艦とはたたずまいが違う。装備が一世代前の旧式のものだ。潜望鏡もでかい。最新式はビデオカメラの映像をコンピュータ処理するのでずいぶんスリムにできている。が、この潜水艦のは昔ながらの光の屈折を利用するプリズム式らしくずいぶん太い。光をレンズで増幅するためだ。それでもデジタル式のと比べると見えにくい。だが、一方で飛行石を探知するための装置が積み込まれている。海底にその飛行石の鉱脈をみつけ、秘密を守るために海底に密かに採掘基地を作るらしい。そして世界を圧倒するような飛行石による強力な文明を築くつもりなのだろう。天皇が説明を続ける。「飛行石の原石はほとんど朝鮮半島を中心にあります。いわゆるSFに出てくるような現代の科学を超えた古代文明の発祥の地は実は朝鮮半島なのです。それがどんどん西へ広がって、そして各地に様々な伝説を残した。飛行石は文字通り物体を空中浮遊させるので高いところ都市を築くことが楽になる。高い場所というのはエネルギーさえふんだんに使えれば大変快適です。なにしろ見晴らしがいいですからね。そのエネルギーを飛行石から得ていたのです」「飛行石の空中浮遊のエネルギーは無限なのですか?」 と、加藤がたずねた。「わかりません。が、磁石の力が衰えないくらいに飛行石の結晶の力も減りはしないでしょう。不思議な石です。この潜水艦の動力も飛行石の結晶を活用した動力システムを搭載しています。飛行石は原子力より遥かに安全で扱いやすく、このような旧式の潜水艦にも関わらず贅沢にエネルギーを使っています。海底における採掘作業にも十分耐えられるはずです。もっと面白い部屋があるので今から案内します」天皇はそう言うと潜望鏡のすぐ側の柵で囲まれているところに加藤らを案内した。スイッチを押すとカラカラというチェーンの回る音がして立っている床が下がった。エレベーターになっているのだ。そのまま下へ下がるとやがてガラス張りの部屋に降りた。天皇が何かのスイッチを押すと室内の照明が落ち暗くなった。そして次の瞬間、ガラス一面に海底の様子が映し出された。「コンピュータ画像じゃあありません。この潜水艦の照明で照らしているのです」加藤は目を凝らしながらガラスに近づいた。太陽が降りたのかと見まごうほどに深さ200メートルの海底が照らし出されている。水の屈折があるにもかかわらず遠くまで見える。「飛行石の光には何か磁力のようなものがあるのか屈折率が下がり水中でもかなりものがはっきり見えるのです」なんと言う都合のいい石なのだろう、と天皇の説明を聞きながら加藤は感心した。「しかし」 と、天皇は言う。「この飛行石による文明もやはり環境を破壊して滅んでしまいました。我が天皇家の“サトヤマ”システムもこの飛行石文明の興亡と密接な関係があります」天皇は海底の景色をバックに話を続けていた。続く。
2008年01月21日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第254話です。「1万年前?」 加藤がききかえした。「そんな空飛ぶ文明があったのですか?」天皇はしっかりうなずいた。「それなりに伝説が残っています。ナスカの地上絵とかね。もっともあれは飛行石とは関係ありませんが……ナスカの民族に空を飛ぶ神の伝承が伝わっていた。つまり飛行石文明です。その伝承が空からしか眺めるとこのできない模様を描く文明を育んだのです」「ところで……」 それまで黙っていたキムジョンナムが急に口を開いた。「海底の飛行石をどうやって採掘するんです? 潜水艇につるはしを持たせて掘るんですか」 確かにそれは問題である。石油や天然ガスなら海上に油田基地を建設し穴を掘って吸い上げれば良いが、鉱石となるとなかなか難しい。天皇は笑った。「まあ本当に潜水艇につるはしを持たせるようなことをして採掘することになるでしょうね。が、飛行石は油やガスとは違う。少しの塊でも十分エネルギーを放出できるのです」 と、天皇がいった。「地上にも飛行石はあるでしょう?」 と、今度はキム“教授”がいった。「地上でならもう少し簡単に採掘できませんか」「簡単に採掘されてしまえば主導権を失います」 と、天皇がいった。そして、「まず、飛行石の結晶をつくるための失われた技術を取り戻します。キム“教授”らが持っている飛行石はチョンジンの核爆発で偶然結晶になったものです。飛行石の結晶は大変な力があると予想されます。この力は宇宙にも進出できるほどのものなのです。運用を間違えば、核戦争以上の悲惨な状況を生んでしまいます。実際、我々の伝説でも飛行石によるものと思われる古代戦争に関するものがあります。旧約聖書に出てくるソドムとゴモラの話も実話として考えると破壊のエネルギーはどうやら飛行石によるものらしい」 と、いった。それを聞いて加藤は自分が若い頃に見たアニメーションを思い出していた。空を漂う巨大な遺跡をめぐる冒険活劇だったと思う。その遺跡にはまさに飛行石と呼ばれるものが埋め込まれ、音声認識システムでロボットたちが飛び回り、結晶からは核兵器にも匹敵するほどの光線が放たれていた。だが、それほどの科学力をもった文明もこつ然と消えてしまうのである。「それにしても」 と、今度は加藤がいった。「なぜ、私たちはここにいるのです?」「それはですね」 と、天皇はモニターのスイッチをカチカチといじりながら、「政(まつりごと)を行なうためのチームをつくるためですよ」 と、いった。加藤は、そういわれてあらためてこの場にいるメンバーを思い浮かべた。万世一系の天皇がいて、日本国総理だった加藤がいて、最後の総書記だったキムジョンナムがいる。それなりに政治の中枢にいた人物である。「我々が政治の表舞台にいれば、必ず東アジアは分裂し争いが起きます。だが、一つのチームにまとまって裏から支えれば効果的な支援が可能なのです」加藤はやはり驚かざるを得ない。でも、なぜ潜水艦に乗っているのだろう。続く。
2008年01月18日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第253話です。艦長である天皇に従って加藤らは食堂を出た。潜水艦らしい狭い通路で天井にはパイプが何本も走っている。見上げると青白い蛍光灯が光っていた。きゅうっと目にしみる。通路が狭いので長く歩いたような気になったが、すぐに行き止まりになり、その先に分厚い扉が開けられている。どうやらその先がこの潜水艦のコントロールルームらしい。号令が聞こえる。天皇の後に続いて中に入った。まず目についたのが潜望鏡である。加藤が総理大臣のときに乗った潜水艦のそれと比べるとずいぶん大きい。「艦長」 と、声がした。加藤らの視線がその声の方へ集中した。青い襟が特徴の上海海軍の制服を着た士官だ。副長らしい。若くてハンサムな青年だ。「現在深度130メートル、機関停止、計測を始めています」 彼が報告する。「ご苦労」 と、天皇は軽くうなずいた。それから加藤らの方を向いた。「今、海底の地形をスキャンし資源探査と深海の海流調査をしています。新しい世界のための資源管理のためです」 と、天皇が説明する。「資源管理? 潜水艦でですか」 と、加藤がたずねた。「そうです」 と、天皇はうなずいた。加藤はある程度察しがついた。調査は例の「サトヤマ」システムの海洋版なのではないだろうか。それにしても、と加藤はため息をしながらいった。「秘密にやることがお好きなようですね。政府管轄の海洋資源探査の船では情報漏洩があるからですね」 が、なぜ、天皇自身が艦長を務めているのだろう。そこは聞きたいが、まず真実の話はしてくれないだろう。今までも事が起きてから後で説明することが常だった。皆被害者が死んでしまってからトリックの謎を解く金田一耕助のようなものである。要するに聞いたときにはもう遅いのだ。状況に順応するしかない。この潜水艦に乗った時点ですでに何かが決定されているのだろう。だが、何が決められたのだろうか。それはわからない。「見てください」 と、天皇が加藤らをモニターの前に案内した。海底の地形がワイヤーフレーム状に再現されている。そこに赤や緑などのパターンが漢字テキストとともに表示されていた。「飛行石の鉱脈です」 と、天皇がいった。「今後の文明を左右する資源だ。石炭や石油などのいわゆる炭素エネルギーの時代が終わり、今度は磁力と超伝導による文明がはじまります。飛行石です。燃料は太陽エネルギーでほぼ無限、飛行石は光エネルギーを吸収してこの超伝導を常温で行なう性質があります。あなたが放送局でみた空中浮遊です」キム“教授”がうなずくと、「炭素エネルギー文明の没落とともに欧米は沈んだ。今度は東アジアが文明の中心になるんですね、飛行石で」 と、天皇にいった。「そのとおり、だが、前の時よりはもう少しうまくやりたいと考えています」 天皇は腕を組みながらいった。「前の時? いったいいつの事です?」 加藤がたずねた。「およそ1万年以上前の事です」 と、天皇が答えた。続く。
2008年01月17日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第252話です。「今の彼女はもう憎悪の地獄から抜け出ています」 と、天皇はコーヒーをすすりながらいった。女性はじっとうつむいている。そして全員黙りこくっていた。天皇にはオーラがある。抗うことのできない雰囲気を漂わせていた。天皇は自分に語るように一人で話を続けた。「彼女は私たちの描く新しい世界に興味を持ったからです。まあ、新しいといっても天皇家に昔から伝わる文明の毒に対する一つの解決法ですがね。風と水、まさに風水の流れを読み切ることで文明の終わりを感じることです。彼女の復讐は文明社会が生み出した複合的な害毒の結果によるものです。日本で育ち、北朝鮮に無理矢理連れて行かれ、整形して名前を変え工作員となって世界中を飛び回りで非合法な活動に従事した。そして、その情報をアメリカに流すことで北朝鮮をテロ支援国家に仕立て上げ国際的に孤立させた。まさにこれが彼女の復讐です。北朝鮮は追い込まれ、悪事から足を洗えなくなってしまった。いや、足を洗えなくさせられてしまったといった方が正しいでしょう。アメリカや日本によってね。麻薬、偽札、核、いずれも現代文明の暗部が生み出した毒です。麻薬は人の精神を破壊し、偽札は経済を破壊し、核は世界そのものを破壊する。彼女はそれを一人で調合し国際社会を中毒にしてしまいました。が、それこそが地球自身にとって必要なことだったのです。地球は文明の毒によって疲れていました。その地球が彼女の毒によって息を吹き返すチャンスを得たのです。そのことを彼女は理解しました。だから彼女は憎悪の地獄から抜け出すことができたのです」“艦長、もうすぐ測定ポイントに到着します” 突然、ラウドスピーカーから声が響いた。「みなさんにお見せしたものがある。どうぞコントロールルームの方へおいで下さい」 天皇はそういってコーヒーカップを机の上に置いた。続く。
2008年01月16日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第251話です。天皇は近くの椅子に腰掛けた。「どうぞ」 と、一同に座るように促した。各々促されるままに自分の近くの席に着いた。天皇は軽く握った両手をテーブルの上に置いた。それからゆっくりした口調で語り始めた。「彼女の両親は絶望と悲しみの中で死んで行きました。娘を北朝鮮から取り戻すことが出来なかったからです。血の涙を流して死んで行きました。マスコミでそれが報道された時の彼女の辛さはそのような目にあった者でなければ到底理解出来ないでしょう。復讐のエネルギーは苦しみです。彼女の味わった苦しみとは、愛別離苦です。愛する者との別れによる苦しみです。もう二度と会えない、という絶望感。自分は何もできなかったという無力感。一切の肉体的な苦しみはないですがその分心のダメージは計り知れない。彼女の心は壊れた。そして無限の憎しみのエネルギーが放出された、あたかも放射能のようにね。それがこのような復讐劇を生み出したのです。今回の東アジア大戦は13歳でたった一人、北朝鮮に拉致されてしまった少女の復讐心が原因です。彼女自身が説明した通り、彼女は意を決し工作員になり国の中枢に関わる仕事に従事する、その裏でアメリカに情報を流す。そして祖国を追いつめる。復讐です。その動きを私の機関が察知し、東アジアの再編への動きに利用しました。政(まつりごと)に必要なのは人の憎悪です。愛ではない。憎しみという感情そのものが政(まつりごと)の風になる。彼女のたった一人の、しかし、底なしであった無限の憎悪の風が、今回の大嵐のもとになったのです。何億と言う人々がその憎悪の嵐に飲み込まれました。典型的な回天(かいてん)です。天をぐるりと回したのです。このように、たった一人の強い思いから世の中が劇的に変わるということはよくあります。人間は悲しいかな、憎悪によって前に進むべき生き物なのです。これが天皇家の裏側で伝わる人心の真の姿なのです。善政などと言うのは実はまやかしです。善政をしているときは実は裏で何かが腐敗している。いや腐敗させているのです。だから酒のようにのように時にうまく醗酵してよい味と香りを出す。これが文化と呼ばれるものです。だが、結局は腐敗する。善政の後の、その反動による憎悪はすさまじい。世の中が変わるときのきっかけは誰かの底なしの憎悪にあります。その憎悪をかき立てるもの、それが愛別離苦なのです。愛するものを奪い取る。これにまさる政治はありません。これで回天の風が起きる。後はその風にうまく策略・陰謀の帆を張り、新しい大陸を目指して航海する。これが政(まつりごと)です。朝鮮半島は有史以前からその地理的な条件により最も憎しみの風を起こしやすい土地、すなわち政の要地だったのです。選ばれし土地です」 天皇はそこまでいうと立ち上がり近くのコーヒーサーバーのところまで行って自分でコーヒーを入れた。その様子を見て加藤は不覚にも涙が出た。総理大臣と言えども操り人形に過ぎない、という自覚はもともとあった。だが、自分を操っているのは世間であり、まさか、こうまで天皇家に操られていたとは正直情けなかった。総理の時のさまざまな記憶が今の天皇の話で繋がったような気がした。全てが天皇家のしでかした悪巧みのように思う。だが、それは違うのだ。天皇家はその知恵によって、風の動きを良く知っている老練な政(まつりごと)という船の船頭に過ぎないのである。続く。
2008年01月15日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第250話です。「私から家族を人生を奪っておいて共和国を立て直すなんてさせるものかと思っていました。私はその思いを主体(チェチェ)に染み込ませて確固とした信念に育て上げました」 と、女性はいう。「主体(チェチェ)とは主体(チェチェ)思想のそれだろう? 君にとって主体(チェチェ)とはなにかね?」 と、加藤がたずねた。「チェチェとは最高の自分と理解しています。全ての個人が最高の自分を作り上げ、それを信じ切れば、集団の力は最高潮に達する、その社会は確実に繁栄します。素晴らしい理想です。しかし、共和国において残念ながら、その高邁な思想はゆがめられました。全ての人々が最高であるなら、指導者こそ最高の中の最高である、と言う理屈にすり替えられ、その裏で搾取の構造ががっちりと組まれた。そして、無垢な民衆を虐げてきたのです。思想を裏切った犯人はもちろん欲に溺れた高級軍人や官僚、そのトップであったキムジョンイル同志であり、跡を継いだ、あなたキムジョンナム同志です」 と、女性は表情を引き締めて答えた。一切の妥協など受け入れる余地のないたたずまいである。加藤は深くため息をついた。そして、「皮肉だな、建国の父の思想を完璧に理解したものに滅ぼされるとは」 と、いってうつむいた。「ちがう、私は現実を直視していた。共和国の指導者という立場を越え、朝鮮民族の平和的統一と将来の発展を目指していたのだ。私は最も犠牲の少ない方法を選んだはずだ」 と、キムジョンナムは反論した。女性を指差して、「君は結局何百万人という同胞の将来と幸せを叩きつぶし、1億同胞の民族統一を、夢の彼方へと押しやったのだ」 と、わめくようにいった。女性は落ち着いている。そして、「私が生きて返還されてもどのみち中国は攻めて来ました。祖国崩壊の真の原因はキム同志、あなたです。日本の力を利用しようというあなたの甘えた考え方こそ主体(チェチェ)に対する裏切りだったのです。私たち共和国はむしろ中国を主敵として敢然と立ち向かうべきでした。そうすれば日本人も朝鮮民族を一目おいたでしょう。それこそが朝鮮民族の唯一の正しい統一の道だったのです。思想を研究すればそれは気がついたはずです。キムイルソン同志は真の敵を見抜いていた。それが中国です。彼らの覇権主義に対抗するために高い志を思想に織り交ぜた。南朝鮮との領土争いや反日思想でごまかしている場合じゃなかったのです」 と、決然としていった。「原理主義者だな、君こそテロリストと何ら変わりない」 と、キムジョンナムはうなった。「だが、今は違う」 と、それまで温和な表情で二人を見つめいていた天皇が口を開いた。天皇は自分の考えを話そうと咳払いをし、食堂にいる一同を見渡した。続く。
2008年01月11日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第249話です。「あなたは自殺をし、私の計画をぶちこわした」「その代わり私の身代わりの女性を差し出したでしょう」「……え? あの日本に返還させた女性は君が絡んでいたのか」 キムジョンナムは絶句した。彼は女性が自分の計画に協力すると言いながら自殺してしまったことに衝撃を受けた。だが、自殺した女性の身代わりを立てることにした。それは一人の側近からの進言があったからだ。側近が連れてきた身代わりの女性は自殺した本人とは似ても似つかなかったが、美人だった。「美人であればそれだけで効果的です。当たりがやわらかくなる。実際に自殺した本人の方も整形していますし」 と、側近はいった。むしろDNA鑑定の方をどうやってごまかすかが問題である。これさえクリアになれば先方も納得せざるを得ないだろう。キムジョンナムはそのためのすごい技術と策略があるとだけ聞かされていた。実際その女性を返還したが、日本で行なわれた本人確認のための厳しい検査をすべてパスし、日本の信用を得ることに成功した。「DNA照合は遺伝子治療の要領でDNAの簡易検査を乗り切り、また本格的な検査は私のチームのものが研究所に忍び込んで工作を行ない、データをすり替えうまくいった。だが、あなたの幼い頃の記憶はどうしたんだ」 と、キムジョンナムがたずねた。女性は、「私自身が覚えている記憶を元に彼女を教育したのです。そして私の脳波と彼女の脳波の同期をとりながら催眠療法の要領で脳に刺激を与え刷り込ませました。あたかも自分の記憶のように感じるわけです。だからほぼ完璧に仕上がったのです」 と、答えた。「画期的な技術だ。しかし、ものすごく危険な技術でもある」 と、横で聞いていた加藤が割り込んだ。女性はうなずくと、「偽装自殺した後、それで共和国ががたがたになるはずだと身を隠していたとき橘一郎の接触を受けて、私の身代わりの女性を返還させるプランが浮上してきたのです」 と、いった。「つまり、北朝鮮を日本にすり寄らせ、中国と距離をとる。これで中国を怒らせようという計画になったわけです。中国が本気で怒れば軍事介入です」 と、橘一郎がいった。「より積極的に共和国崩壊をおこさせようというわけだな」 と、加藤はようやく橘たちの悪意に満ちた意図が分かったような気がした。幽閉されたキムジョンナムは結局自身が雇っていたチームの傭兵に救出された。逃亡したと発表されたが、そのまま表舞台から消えた。これは女性の陰謀だった。わざと逃がしてそれを口実に裁判なしで殺してしまおうというのだ。実際、工作員と傭兵の間で熾烈な戦闘が繰り広げられた。「このときに私はコンバット・スキルを実地で身に付けた。家族を守りたい一心だった」 と、キムジョンナムはいった。だから放送局から逃げるとき彼の動きはスムースで隙がなかったのだ。銃の構え方が玄人張りだった。加藤は合点がいった。「最初からあなたは私の家族を狙っていたんだな」 と、キムジョンナムは目を怒らせながらいった。女性は平然とうなずいた。「自分の死は甘受できます。ですが、自分の愛するものが目の前で死んでいくのを見るつらさは想像を絶する。あなたにその苦しみを、これが私の復讐でした」北朝鮮の工作員たちは、とんでもない女性を拉致してしまったのだった。続く。
2008年01月10日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第248話です。キムジョンイルの長男キムジョンナムは後継者となった後も凡庸なフリを続けていた。つまりは側近の言いなりになっていた。官僚や軍人たちを油断させるためである。その陰で自分の集めたエキスパートたちを使って情報を操作し、主導権をつかむチャンスをうかがっていた。彼の戦略は日本と友好関係を結び、その経済力を頼って朝鮮半島を平和的に統一することだった。これは中国との決別を意味する。キムジョンナムは覇権主義の中国が嫌いだった。日本と朝鮮の国家連合によって難局を乗り切ろうと考えたのだ。その手始めとして、父親の引き起こした拉致問題の解決を決意する。ある日、彼は共和国の政治機構を革新し、首相にイギリス人の学者を起用した。青天の霹靂である。そのイギリス人は朝鮮問題の専門家だった。新首相は矢継ぎ早に改革を進めて行く。裏ではキムジョンナムのエキスパートたちが官僚や軍人たちの先手を打つべく情報工作を行なっていた。あの北朝鮮の首相がインテリ風の白人に変わったことの効果はすぐに表れた。アメリカを始め日本の態度がころりと変わる。テロ支援国家の指定解除が本格的に検討され、それに伴って経済援助が本格化した。その目玉が日本人拉致被害者の全面的解決である。生存者は即刻返還され、問題解決の遅れを謝罪し、賠償金まで払うことになった。どうせ、後で取り戻せる。国交正常化されれば日本からの援助がたんまり流れてくるはずだ。それと比べれば今の賠償金の負担は知れている。謝罪の言葉を述べるのは首相である。インテリ風の外国人なのでテレビ映像も様になっている。謝罪による心理的負担も軽いように思われた。が、結局これが中国の逆鱗に触れた。あらゆる陰謀がめぐらされ、北朝鮮は追いつめられた。その仕上げはクーデターである。中国の後押しを受けた軍人と官僚の一部が決起した。キムジョンナムは幽閉されてしまったのだ。「実はクーデターを裏で糸を引いていたのは私自身です」 と、女性はいった。「あなたが失脚すれば共和国は大混乱になる。中国に治安のために軍を動かす口実を与えることが出来ます。私の復讐は成就すると思いました。そして、あなたに血のつながりのある人を根絶やしにすることも行なったのです」「それで私の家族を殺したな」「殺しました。私から家族を奪った報いです。最後はあなたの命も奪うつもりでした。が、途中で気が変わりました」「私の脱出を手伝ったと言ったな」女性はうなずいた。「この方からのコンタクトがあったからです」 彼女は、艦長である天皇に手を差し伸べた。「復讐であっても殺すのはいけない、といったのです」 と、天皇は言う。「私たちの情報機関の働きによって、彼女を誘拐することに成功したのです」加藤は目の回るような思いで話を聞いていた。この当時はまだ日本の皇室は皇室そのものであった。天皇は憲法が定める日本国民の総意に基づく象徴だったのだ。そのようなダーティーな活動をすることなどありえない。一体この天皇は何者なのだろう。続く。
2008年01月09日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第247話です。その女性は死んだはずの日本人拉致被害者の少女だった。が、もう事件から半世紀近く経っている。彼女は初老の婦人となっていた。しかし、加藤たちが見ていた写真と顔が全く違った。身を隠すために整形手術をしたからだ。その顔をキムジョンナムは知っていた。彼女の本当の消息に関する情報をつかんだからである。彼は外国で雇ったエキスパートのプロフェッショナルに彼女を苦労して探させた。日本と劇的な関係改善に役立てようと考えたからだ。あの少女を日本に生還させる。これで拉致問題は解決に向かって大きく前進するだろう。中国に対抗するために日本の力を得て祖国を立て直し、悲願の民族統一を成し遂げるのだ。キムジョンナムは彼女を自宅に密かに招き直接詫びた。その上で協力してくれるよう頼んだ。彼女は承諾した。だが、それは彼女の復讐のクライマックスの始まりとなった。彼女は同じ拉致被害者の韓国人の男性と結婚して家族があったが、自殺を偽装して工作員になっていた。しかも幹部にまで出世した。彼女はキムジョンナムの祖父、金日成(キムイルソン)が打ち立てた主体(チェチェ)思想を自らに叩き込んだ。多感な年頃だったこともあって、彼女は純粋な思想の体現者となった。だが、彼女は思想が生み出す全エネルギーを北朝鮮に対する復讐に費やした。彼女は日本の家族と引き裂かれた恨みを忘れていなかったのだ。復讐の方法自体は単純だ。真面目に工作活動をしているだけで良かった。誰も彼女の意図を見抜くことは出来なかった。彼女は工作員として麻薬や偽ドル札、不正送金などに積極的に関わった。そして、密かにその情報を敵であるはずのアメリカ合衆国の情報機関にも送っていたのだ。アメリカはその情報をもとに北朝鮮をならず者国家としてテロ支援国家に指定し、様々な圧力を加えつつ、北朝鮮を追いつめた。彼女の復讐は確実に成功しつつあった。まさか優秀な工作員が祖国をそんな形で裏切っているとは誰も気がつかない。「あなたは死んだはずじゃあなかったのか」 と、キムジョンナムがうめくようにいった。「死ぬフリをするのは慣れていますから」 と、彼女は笑顔で答えた。そして、「北朝鮮が中国に攻められたあの時、あなたの脱出を陰で助けたのは私です」 と、いって真相を語り出した。続く。
2008年01月08日
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↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!東アジア大戦。その246。愛別離苦 その41大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第246話です。加藤たちは乗組員たちに助けられながら艦内に入った。加藤が潜水艦に乗るのは初めてではない。総理大臣のときにも一度観閲のために乗艦していた。そのときは緊急浮上の訓練を体験している。加藤らはコントロールルームではなく士官食堂に案内された。乗組員が入り口をガードしている。が、表情はやわらかく、雑談に応じていた。昨夜の荒れた天気のことである。潜望鏡深度で海面すれすれに潜航していたのでそれなりに揺れたそうである。「船酔いしたやつもいました」 と、陽気に話している。やがて、艦長と表記されたキャップ帽をかぶった人物ともう一人胸の膨らんだ乗組員、つまり女性が入室してきた。加藤は艦長の顔を見てあっと声を上げた。「陛下……」「久しぶりだね」 陛下は笑顔で手を挙げた。日本の若き天皇で誘拐され行方不明になり、天皇家直伝の奇跡の技を道々で披露して人気を得、南京で新中華連邦の天王として即位、結局ウラジオストック講和会議の結果、退位して白水党の党首となり名を聖徳太子にちなんで豊聡耳と変え、統一選挙で大勝利をおさめた。上海を拠点とし、政治の主導権を握っている。選挙以降は滅多に姿を見せなくなったといわれていたが、まさか潜水艦の艦長をしているとは思わなかった。「一体どういうことが起きたのです」 加藤は聞かずにおれなかった。天皇が黒幕ならわざわざこんな手の込んだ誘拐などせずとも上海に招待状でも出せばいくらでも出向いただろう。そこで拉致でも誘拐でもすれば簡単だったはずだ。「東アジアの新秩序のためです」 と、天皇は言った。「キムジョンナム氏が持参した奇跡の石、飛行石が要になります。今私の研究機関でこの石に関してある程度解析が進み、この潜水艦の動力源に試験的に使っています」 加藤はあごを引いた。24時間前にはキム“教授”を空中に浮かせただけの石が既に潜水艦の動力源になっているのだ。「軍事関連の技術は常に進歩が速い。それより……」 と、天皇は傍らの女性を見た。「皆さんに紹介したい」「似ている……」 キムジョンナムがつぶやいた。「誰にです?」 と、加藤がきいた。だが、キムジョンナムは首を振った。「まさか、死んだはずだ」その言葉に加藤はもう一度その女性の顔を見た。が、見覚えはない。そのとき女性が口を開いた。「私はソン・ナヨンです」キムジョンナムはほとんど悲鳴を上げそうな顔をした。そしてつぶやいた。「横田めぐみ……」加藤は目をむいた。続く。あけましておめでとうございます。再開いたします。今度こそ終盤にもっていきたい。ついに渦中の実在の人物の名を出しました。もちろんフィクションです。ですが、私は横田めぐみさんの生存を信じています。同時に真相にかなり不安がある。それを小説にしています。不条理なのは世の常です。そこからいかに希望を見出し形に出来るかが大切だとマジで考えています。今年もよろしくお願いします。
2008年01月07日
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