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2019.04.22
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​​​​​​ 遠藤豊吉編「日本の詩」(全10巻)小峰書店

 夏休みの午後。5年がかりで片づけてきた職場の図書館の書庫。 ​​

​​ ​カビだらけの汚い本は捨てる! ​​​

​​ と腹を決めた仕事が終わりに差し掛かっていました。汗まみれになって段ボール箱に廃棄する本を詰めながら、目の前の棚にあった薄汚くよごれた小冊子のシリーズが、ふと目に入りました。ビニールカバーをカッターナイフで切り裂き、茶ばんだ表紙カバーもひきはがしてみると、なかなかしゃれた詩集が出てきました。​​
「日本の詩(全10巻)」 ​(小峰書店)​ 、1970年代の終わりころ ​小峰書店​ という出版社から出された現代詩のアンソロジーです。
 一冊に二十篇ほどの詩が紹介されていて、 全10巻 ​遠藤豊吉​ という小学校の先生だった人の個人編集です。
 「へー」と思いながら、中の一冊の詩集 ​「たび」​ を読み始めて、やめられなくなりました。​​​​
​​​

​​​ ​ 出さない絵葉書  新川和江​
  遠く
  来てしまいました
  春は
  たけなわですけれど・・・・・・・

  このさびしさには
  もう
  散りしく 花びらがない
  つかまる 手摺りがない
  通す 袖がない
  まぶす 粉砂糖がない
  梳く 櫛がない
  まわす ノッブが
  つき刺す フォークが
  いれる袋が ない

  遠く
  来てしまいました
  もう、帰らないでしょう
  帰れないでしょう ​​
​​詩の解説のようにして、編者 ​遠藤豊吉​ のことばが添えられています。​ ​​
​​ 〔編者の言葉〕
  
特別攻撃隊員になって一か月ほどたったある日、二泊三日の帰郷が許された。​

 梅雨でぬれた故郷の町はなつかしかったが、特別攻撃隊員として〈死〉の世界にあゆみはじめている心には、もはや無縁、という思いのほうが強かった。
 二夜とも、父と継母とわたしと三人で、一つの部屋に寝た。町は無縁の風景と見えても、両親はやはり無縁ではなかった。父はほとんど何もしゃべらなかったが、継母は夜半すぎても、私にむかってしゃべることをやめなかった。
 わたしは、自分が特別攻撃隊員になったことを告げずに故郷を去るのだが、ふたりともわたしの身の上に重大な変化がおこったことを感じとったにちがいない。
​​ 故郷を去る日、継母は駅まで送ってくれた。目にいっぱい涙をため、彼女は車窓に手をつきだし、せいいっぱいわたしの手を握ってくれたが、その手は雨にしとどにぬれて、つめたかった。 ​​ ​​
​​ その日の午後、ぼくは、一編一編の詩と、その詩の後ろに書きつけられている ​​​ ​遠藤豊吉​ 「編者の言葉」 ​​​ を蒸し風呂のような書庫で、汗だくになって読みながら過ごしました。​
​​​  遠藤豊吉 1924年生まれ 。幼年時代に生母を亡くし継母に育てられたが、師範学校卒業と同時に出征し、特攻隊員となったそうです。出撃の機会なく生き延びて敗戦。戦後、小学校の教員として生き、のちに数学者の ​遠山啓​ とともに ​「ひと」​ という雑誌を主宰した人です。​​​
 実は、この方の教育実践を読んだことはありました。しかし、こんなふうに詩を語る手法と、経歴、そして、その人柄にあらためて心が動きました。
 紹介されている詩はどれも子供向けなどではなく日本の近現代詩の傑作です。詩を読むということの原点に帰らせてくれる名アンソロジーといえるでしょう。こんな出版が可能だった時代があったのだと、一人でため息をつきました。
​ のちに、調べてみると 昨年(2017) シリーズ が復刊されていることがわかりました。今が最悪というわけでもなさそうだと、ちょっと嬉しくなりました。​
 最近出会っている大学生の皆さんが、単なる教養としてではなく、こんなアンソロジーの中の一つ一つの詩を受け止めてくれると嬉しいと思いました。2018/06/09

​​​追記 2019・04・22​ ​​
 今となっては、数年前の出来事になっていまいましたが、高校に入学したばかりの一年生の少女が、文字通り埃まみれの図書館再生作業を手伝ってくれたことがありました。彼女が何故、図書館のじーさんのところに通うようになったのか、それは今でもわかりません。
 百人近い職員の中で、たった一人、 ​​
​​ 生徒が本を借りる図書館にしたい。 ​​
​​  と意地になって、放課後、勤務時間もとうに過ぎた図書館の、薄暗がりでうろついていると、運動部のマネージャーの仕事をおえた彼女がやってきて雑巾がけ手伝ってくれた日々を、徘徊しながら思い浮かべることがあります。人は何に励まされ、何を励ましているかなんて、その時にはわからないものですね。
 この春、大学を卒業した彼女が市内の公立中学に教員として採用されたと報告してくれました。新採用の気遣いと不安に涙をこぼす日もあるようです。高校生だった彼女が、定年を迎えんとしていた老教員を、三年間にわたって励まして続けてくれたことを思い返しながら、心の中でエールを送り続けています。 ​​​​
​「あなたなら大丈夫ですよ、心配しなさんな。」
追記 2019・08・02​
 中学校の教員になった、新卒の一学期はどうも大変だったようです。学校現場の労働時間に対する無頓着な 「異常さ」 は、ぼくらの頃からありました。夕刻の7時、8時を過ぎた職員室で、昼の2時、3時のように働いている教員が一人や二人ではなかったりするのです。毎日の疲労が積み重なっていく結果は目に見えません。そのうえ、土・日には、若い教員にはクラブ活動の付き添い・引率が、必ずあります。
 で、「若さ」が終わるころ、ようやく気付くんです。
​​ 「これはおかしい。」 ​​
​ ​ って。そういう仕事ぶりが、かえってルーティーンに枠づけられた、狭い思考しか育てないってことに。そんな、教員に育てられる子供たちはやはり不幸です。
 思い切って、自由にふるまうことには勇気がいりますが、せめて6時くらいには帰宅して、家族とおしゃべりしたり、仕事とは離れた本の一つも読むことを選ぶ勇気を持ってほしいと、いまさらながらに思います。なんか説教臭いですね。うまくいえません。
​​
追記2020・04・27
 中学校の教員になって一年がたった彼女から久しぶりの便りがありました。 ​「図書室」​ の係になったそうです。
「中学校の図書室に置く、いい本はありますか?」
 なんというか、聞かれそうなことが書いてあります。答えは簡単ですね。
「これがいい!なんていいきれる本なんてありません。」
 こう書くと、困ってしまうかもしれませんね。いい本は図書の係の人が自分で探すよりほかに方法はないと思います。一冊一冊の本には、結局良いも悪いもないのです。ぼくが 「いい」 と思った本があるだけです。だから、学校の図書館の仕事を始めた人に言えることは、たった一つです。
「『これは面白いよ!』あなたがそう言える本を、一冊づつ探し出してください。」
 簡単そうですが、思いのほか大変ですよ。よく一年間に何冊とか、目標にして本を読む人がいますが、何かを調べる参考に読む場合は少し違いますが、純粋に本を読むという作業は結構手間がかかります。
 ぼくは読んだ本の感想をノートに書いていたことがあって気付きましたが、仕事をしながら、好きな本を読んで、一年間、何冊くらいかと調べてみるとせいぜい150冊くらいなものです。150冊を30年続けると4500冊です。あなたの卒業した高校の、あの頃ぼくがいた、あの小さな図書館でも、うろ覚えですが、3万冊くらいは並んでいましたからね。
 150冊とか、4500冊とか、大した数ではないのです。でも、一年間に100冊くらい読むと、これは面白いよといえる本に何冊か出会えることは確かです。それを紹介すればいいのです。
 あなたが面白かったり好きだった理由は何でもいいのです。そのうち、真っ当そうな理由も見つかりますよ。さあ、本を読んでください。あっという間に60歳を越えてしまいますよ(笑)。​


​​​  追記
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最終更新日  2024.08.06 11:12:39
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