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2019.06.28
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​​​​​ ​長田弘 「奇跡-ミラクル」(みすず書房)​

​​

​​  ​​​ぼくは 長田弘 の良い読者ではありませんでした。詩も読もうとはしませんでした。最近読み終えた、ある小説に引用されていた詩が気になって、詩集 「奇跡 ― ミラクル」(みすず書房) を手にとりました。天使がリュートをひいている絵が、白い表紙を飾っている美しい本でした。​​
 ​​巻頭に 「幼い子は微笑む」 という詩があります。つまらない講釈をする前に、読んでいただくのがよいだろうと思いました。​
     ​幼い子は微笑む​
 声を上げて、泣くことを覚えた。
 泣き続けて、黙ることを覚えた。
 両の掌をしっかりと握りしめ、
 まぶたを静かに閉じることを覚えた。
 穏やかに眠ることを覚えた。
 ふっと目を開けて、人の顔を
 じーっと見つめることを覚えた。
 そして、幼い子は微笑んだ。
 この世で人が最初に覚える
 ことばではないことばが、微笑だ。
 人を人たらしめる、古い古い原初のことば。
 人がほんとうに幸福でいられるのは、おそらくは、
 何かを覚えることがただ微笑だけをもたらす、
 幼いときの、何一つ覚えてもいない、
 ほんのわずかなあいだだけなのだと思う。
 立つこと。歩くこと。立ちどまること。
 ここからそこへ、一人でゆくこと。
 できなかったことが、できるようになること。
 何かを覚えることは、何かを得るということだろうか。
 違う。覚えることは、覚えて得るものよりも、
 もっとずっと、多くのものを失うことだ。
 人は、ことばを覚えて、幸福を失う。
 そして、覚えたことばと
 おなじだけの悲しみを知る者になる。
 まだことばを知らないので、幼い子は微笑む。
 微笑むことしか知らないので、幼い子は微笑む。
 もう微笑むことをしない人たちを見て、
 幼い子は微笑む。なぜ、長じて、人は、
 質さなくなるのか。たとえ幸福を失っても、
​  人生はなお微笑するに足るだろうかと。​
​​   詩集を読み終わって、 長田弘 が2015年に亡くなったことを知り、詩人自身の死の二年前、東北震災の二年後に出版されたこの詩集の巻頭に、なぜ、この詩が置かれ、 「奇跡」 という詩が最後に置かれているのかわかるような気がしました。​​
​ 詩集の二つ目の詩は 「ベルリンはささやいた ― ベルリン詩篇」 という詩のですが、その最後の数行をお読みください。​​
​​​     ベルリンのユダヤ人を運んだ
  アウシュヴィッツ行きの
  ドイツ帝国鉄道の始発ホーム。
  出て行った列車の数とおなじ数の
  鉄板を敷き詰めた、
  それは、いまは、どこへも行かない
  人影のないホームだった。
  一九四四年十二月七日、
  アウシュヴィッツへ三十人輸送。
  ただそうとだけ刻まれた
  雨にぬれた鉄板の一枚の上に
  置かれていた、三本の紅いガーベラ。
  死よ、死よ、おまえはどこなの ―
  ベルリンはささやいた。おまえの足の下だよ ― ​​​
​  この詩集には、このように、読み手に死を強く喚起させるベルリンを舞台にした詩が、いくつか載っています。
​​ 「幼い子は微笑む」 にしても、最後の二行は死の側からつぶやかれた箴言めいたところがないわけではありません。しかし、最後に置かれた 「奇跡」 まで読み終えると、「死」をじっと見つめている詩人が、もう一度「生」へと、生きることを肯定する方向へと、視線を戻しながら、呼びかけていることに気付くのではないでしょうか。​​
​奇跡 ―ミラクル​
  庭の小さな白梅のつぼみが
  ゆっくりと静かにふくらむと、
  日の光が春の影をやどしはじめる。

  冬のあいだじゅうずっと、
  緑濃い葉のあいだに鮮やかに
  ぼつぼつと咲きついできたのは
  真っ白なカンツバキだったが、
  不意に、終日、春一番が
  カンツバキの花弁をぜんぶ、
  きれいに吹き散らしていった。

  翌朝には、こんどは、
  ボケの赤い花々が点々と
  細い枝々の先まで
  撒いたようにひろがっていた。

  朝起きて、空を見上げて、
  空が天の湖水に思えるような
  薄青く晴れた朝がきていたら、
  もうすぐ春彼岸だ。

  心に親しい死者たちが
  足音も立てずに帰ってくる。

  ハクモクレンの大きな花びらが、
  頭上の、途方もない青空に向かって、
  握り拳をパッとほどいたように
  いっせいに咲いている。

  ただここにあるだけで、
  じぶんのすべてを、
  損なうことなく、
  誇ることなく、みずから
  みごとに生きられるということの、
  なんという、
  花の木たちの奇跡。

  きみはまず風景を慈しめよ。
  すべては、それからだ。

  アウシュヴィッツに送られた人の数を記した黒い鉄の銘板の上の紅いガーベラの花。

  それぞれ、生きているものの仕業であり、生きているもののあかしであることを、まず慈しめと。まず生きることだと詩人は言い残して逝ったようです。静かに生を肯定し続けてきた詩人の絶唱とも言うべき詩集でした。
 この詩を知ったのは、以前、案内した 「空にみずうみ」 でした。 佐伯一麦 は作品の題名をこの詩の詩句から引用しているのですが、やはり、生の肯定と死者たちへの鎮魂が作家のこころを支えていたに違いないと思うのです。​​感想は題名をクリックしてみてください。
詩集に連分けはありません。読みやすいように少し分けて記載しました。 (S)

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最終更新日  2020.10.24 03:00:27
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