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世間では三連休の初日です。来るはずの台風は、怪しげな風だけ残して北を目指しているようで、ぼくは昼過ぎに パルシネマ
にやってきました。
ここのいいところは、若い?おに―サンが映画の前に、すこし講釈をすることです。ぼくは、このおしゃべりが、結構好きです。
映画は ミヒャレビンスキー
という監督の 「まともな男」
です。出ている俳優は、主人公の トーマス
が デービト・シュトリーゾフ
、その 妻
が マレン・エッゲルト
。どの人も初めて見る人。
邦題があんまりなので、チラシを見ていると 「Nichts passiert」
というのは、どうもドイツ語らしいですが、その場では、よくわからないままに暗くなりました。
実直そうで、まともそうな男と、その家族がスキー旅行に出発します。乗っている車は赤いBMWのハッチバック。スイスが舞台の映画らしいので、当然出てくる自動車もそうなるわけでしょうね。
映画を観ているあいだ、ずっとこの車が気になって、ヨーロッパの 「まともな車」
というイメージで、乗り合わせているのも、男の家族と、上役の娘の計4人という、実にまともなスキー旅行のようです。
でも、車の中に雰囲気は、最初から、あんまり、まともじゃないんですよね。男は、まず、妻に気を遣っているのが明らかで、やたら気まずい。中学生の娘二人のムードも、うっとうしい。でようやく気付きました。
「シマッタ、こりゃ暗い映画なんだ。」
最初の、十数分で気づいたのですが、まあ、見始めたものはしようがありません。まあ、それにしても、夫が、妻に気を遣って、妙に、卑屈というか、隠し事というか、嘘というか、そういうシーンがまず疲れます。家庭の事情を反映しているらしい、少女たちのふるまい方もヤレヤレという感じで、チョット、うんざりです。。
「まともな男」
、 主人公トーマス
は、美しく、聡明な 妻
、何しろ作家だ、に対して 「事実」
を 「ありのまま」
に伝えられないのですね。 過度な気遣いの結果、「ありのままの」の「事実」というものが、ふたりの間には、成り立たっていないのです
。別に 妻
の側から、同じことが起こっているわけではないのですが、普通の生活の中の 「事実」
の意味を共有できないこの二人は夫婦としては、終わってるんだということもできるかもしれません。アー疲れます。
もう少し広げていえば、家庭であれ、職場であれ、人と人の間にはそんなもの=客観的な事実は、あり得ないんだというのが、 ミヒャレビンスキー
という監督の意図なのかもしれませんが、それが、なんとなくな悪意で描かれているニュアンスの映画、見ていて楽しいか?という気がするんですよね。
もっとも、実際の世の中では、家族はもちろん他者から見ての 「まともな男」
であり続けることに、さほどの苦痛も感じないまま、本当は嘘のふるまいを続けているという人もいたくさんいそうだし、自分がやっていることが、そっち、あいてからどう見えるなんて考えたこともなさそうな、子供っぽい人も案外いるものだから、映画として成り立つのかもしれません。
しかし、 「まともな男」
であり続けること、相手に合わせた事実を作り続けている生活には、「虚構の事実」を作り続ける自分しか存在しないわけだから、やがて破滅するしかありません。 「まともな男」
の皮をかぶった 「破滅した男」
が家族を載せてスキーリゾートから帰ってゆくわけですがどうなるんでしょうね。結果的には、 「まともな男」
から 妻
に語られた事実をきっかけに 妻の愛
まで取り戻した素晴らしい休暇が終わったというわけなのですが、これって何なんですかね。
とても疲れた映画鑑賞でしたが、スイスでは、かなり高く評価された映画であるらしいんですね。あっちの人は、こういうのが好きなのかなあ、そう思いながら、劇場の前で、煙草をくわえて、空を見上げると、深い青い空でした。
「秋になったなあ…」
湊川公園
まで坂を登って西の空を見ると、真っ黒い雨雲が北の空に向かって流れていました。台風は日本海を北に向かっているそうです。
帰宅してしらべてみると 「Nichts passiert」
は 「何も起こらなかった」
という意味だそうです。 「そして、何も起こらなかった」
というわけです。もう、こっちの方が、この映画の題としてはいいんじゃないでしょうかね。イヤ、ホント、どうせえいうねん!でした。
監督・脚本 ミヒャ・レビンスキー
撮影 ピエール・メネル
編集 ジョン=レト・キラス
音楽 マルセル・ブラッティ
キャスト
デービト・シュトリーゾフ(トーマス)
マレン・エッゲルト(マルティナ)
ロッテ・ベッカー(ジェニー)
アニーナ・バルト(ザラ)
2015年・92分・G・スイス
原題「Nichts passiert」
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