PR
カレンダー
カテゴリ
コメント新着
キーワードサーチ
「おっ、珍しくお客さんもいるじゃないか。」 水の中から浮上していってカメラが空をとらえる。始まりは期待どおりだった。しかし、そこからがくだくだしい。
「うーん、なかなか海に行かんなあ。大丈夫かな、このおっちゃん。だいたい老けすぎてへんか。」 イギリスを出発してアフリカの南端、喜望峰を回って、オーストラリアの南を通って、アルゼンチンの南端ね、マゼラン海峡とかある、を回って大西洋に戻り、イギリスに帰ってくる。無寄港世界一周するっていうわけ。
「うーん、喜望峰とか、いったの?すさまじい嵐の海とかあったのか?氷河とか、鯨とかは?この人、世界地図の何処にいたの?全然、海洋アドヴェンチャーちゃうやん。」 というわけで、喜望峰からの風は最後まで吹かなかった。ところが、ぼくは結構参っちゃったんですよね。最初の水中の映像の意味は終わりの頃にわかりますが、印象的なのは、待ち続けていた妻を演じていた レイチェル・ワイズ の二つのシーン。
「昨日までは大げさに称え、今日は愚か者だと笑う。どこに真実があるのでしょう。」 夫が行方を絶った後も、子どもたちを連れて、毎日港に出迎えに行く、その時、娘に向かって言う。
「パパが、実際、帰ってくるかどうかじゃないの。待っているかぎり迎えに行くの。」 それぞれの言葉を口にする彼女の表情のすばらしさ。ぼくは、この映画を「 おもしろいよ。」 といって誰にもすすめない。でも、このシーンはいい。
「行ってくるっていって、帰れないことって、あるよな。」 吉田秋生 の 「行ってくる」 という題の付け方にとても感心して、マンガの内容は端折るけれど、「行ってくる」に対して、「待っている」人や場所がある。マンガはそこがいい。それで覚えているのだけれど、この映画では「待っている」けれど、「帰れない」。
「子どもの頃にあった、そういうの。今、思えば、おかーちゃんは待っててくれるんだけど、だから、よけい帰れない。」 原題は 「The Mercy」 。たぶん 「神の慈悲」 とか、 「許し」 とかいう意味だろう。
「帰れない」男と「待っている」女を撮りたかった。 まあ、そう納得できれば、この映画は心に残る。決してバカバカしい映画じゃなかった。
オリバー・ハーマナス「生きる」パルシネ… 2023.07.07
デビッド・バーナード「Eric Clapton Acr… 2023.07.02 コメント(2)
ルイ=ジュリアン・プティ「ウィ、シェフ!… 2023.05.13