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2020.01.09
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​​ 友部正人「誰もぼくの絵を描けないだろう」(SONYレコード)


「誰もぼくの絵を描けないだろう」 友部正人

誰もぼくの絵を描けないだろう
あの娘はついにやっては来ないだろう
ぼくの失敗は ぼくのひき出しの中にしかない
この砂のような夜を君に見せてあげたいんだ
だからもう5時間もこの丸テーブルの前に座り込んでる

心臓をかすめて通るはビルディングの直線

直線の嵐の中で人は気が狂うだろう
女のスカートに男が丸呑みされるのを見たんだ
女は最後まで男を愛せないだろう
ぼくは死ぬまで道路になれないだろう​

ぼくは北国からやって来た

南国育ちの君のからだに歯形を付けるために
長い長い旅暮らし
夜には寝袋に潜り込み
ボーッボーッて寂しい息をする​

うんとうんと 重たい靴をはくんだ

歩いているのが ぼくにもよくわかるように
一度始まれば もう終わりはない
地球の胸板に 顔を埋め
ゆうべ ロバになった夢を見た…

扉を開けばそこは北国 

ぼくの吹雪の中を彷徨うのは誰だ
またいつか君のところへ 
帰って行く日が来たらぼくが渡った川や 
もぎとった取った季節の名前を
地図のように広げて 君に見せてあげるよ

大きな飛行機に乗っている夢でも見てるのかな

記憶と酒を取り替えたまま
地下街でまたひとり労務者が死んだ
法律よりも死の方が慈悲深いこの国で
​​死んで殺人者たちと愉快な船旅に出る​​

​西灘の岸地通りにあった六畳一間のアパートに住んでいたことがあります。鍵なんてかけたこともない暮らしでしたが、部屋に帰ると、灯もつけない部屋で、勝手に上がり込んで、いつもこのLPを聞いていたK君という友達がいました。今でも彼の姿が浮かぶと聞くのがこの曲です。​

​​ 作家の 諏訪哲史 「紋章と時間」(国書刊行会) という評論集を読んでいて、懐かしいこの歌を「詩」として評価するこんな文章を見つけました。

 世に「歌詞」と呼ばれているもの、それは音楽の付属物ではなく、音楽そのものだと僕は思います。詞、そしてすべての言語芸術は、一面、文字という空間的要素を持つものの、その本質は、折口の言語情調論を引くまでもなく、節や拍子の連なりから成る「持続」、つまり時間芸術であって、言葉を用いたあらゆる芸術は、極端な話、ドローイングや書道をも含め、まずは音楽に等しいものだと僕は考えます。


​ すべての言葉が音楽であるからには、そうした音楽らしい音楽を破壊する音楽もまた音楽で、とすれば、言葉もを毀す言葉もまた言葉であり、僕はこうした自壊と内破の力を孕んだ「言葉の正統から避けられた鬼子としての言葉」の中に、言葉の「美」もまたあるように思います。今回取り上げた言葉、本来リリカルな旋律を伴った詞であるこの作品は、ぼくにとってその意味で、まさに美しい日本語です。​

​  この作家の言葉は、K君のように、この曲を繰り返し聴いた人の言葉だと思いました。そして、ぼくより十幾つか若いはずの作家が、そんなふうに、この曲を聞いていたということに、何だかドキドキするものを感じました。
うんとうんと重たい靴をはくんだ
​歩いているのが ぼくにもよくわかるように​​ ​​

 K君が神戸を去って 40 年たちます。ぼくは相変わらず神戸の街を歩いています。

​​  友部正人 の「詩」は単独の詩集もありますが、 現代詩文庫(思潮社) 「友部正人詩集」 としてまとめられています。

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最終更新日  2020.10.31 11:33:05
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