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僕の下宿先の隣は、岡田という学生の部屋でした。
岡田はちょっとしたきっかけで、無縁坂に住むお玉と知り合いました。お玉は高利貸しに囲われる妾でした。
岡田への思いが募ったお玉は、旦那が泊まりがけで外出した日に、岡田に近づこうと決心したのですが…。

上野公園内 帝立博物館総長を勤めた鷗外の部屋跡
森鴎外の『雁』です。
お玉は、正妻がありながら、前妻が亡くなって独り身であると偽られ、職業も高利貸しと知らずに末造の妾になります。
真実を知って「悔しい」と思いながら人を恨む気持ちの薄いお玉です。不幸が続いてきた境遇からか、いつも〝あきらめ〟が〝油をさした機関のように〟その方向に働くのでした。
ですが、お玉の心境や行動に暗さは感じられません。末造やお玉を恨み、感情を爆発させる正妻のお常とは対照的です。
お玉が岡田に近づこうと準備をしていた日、たまたま下宿の昼食が「鯖の味噌煮」で、食べられない僕に岡田がつきあって外出することになりました。この日の献立が「鯖の味噌煮」でなかったら、岡田はひとりで出かけ、お玉は声をかけるはずだったのですが。
不忍池で石原に会い、雁に向かって石投げなどしていると、一羽の雁にまともに当たってしまいました。ぐったりした雁を外套の下に隠して持ち帰る僕と岡田と石原。
帰りもひとりでなかった岡田に、お玉は声をかけられずに終わりました。
そして、岡田は卒業を待たず洋行することが決まっており、下宿を引き払ってしまったので、お玉が思いを告げることはなかったのです。

無縁坂 旧岩崎邸の塀
お昼の献立だとか、たまたま石が雁を直撃してしかったとかの些細なきっかけが、お玉の運命を左右します。
末造が、妻子ある高利貸しだと知ってからも、お玉は彼を軽蔑することなく、感謝の心を持ち、愛情をもって接しようとします。ひとしきり「悔しい」思いをした後はさらっと切り替え、女中の気持ちを思いやることもします。このピュアで強い気持ちが、不幸な境遇の話を暗さで終わらせません。
お玉にとってはバッドエンドの話なのに、読後感は悪くありません。
参照元:森鷗外『雁』新潮文庫
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