ユーカリの木陰で里の行
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子どもたちの通うモンテッソーリ・スクールの「Parents Day」だった。保護者が子どもたちの学校での様子を見ることができる、授業参観である。私が子どものころのそれとは違い、朝9時から12時までの間であればいつでも、と案内されている。ダディンは子どもを送ったその足で見に行くと言うので、私の方は午前中に一仕事を終えてから行くことにした。まずは息子のいるサイクル1のクラスから。サイクル1では小学1年生から3年生にあたる子どもたちが一緒に勉強している。教室に入ると、知った顔の子どもたちが「ムゥ、お母さん来たよ~!」と出迎えてくれた。息子は奥のテーブルに5、6人の子どもたちと座っていた。彼と同じ1年生にあたる男の子たちである。オーストラリアの小学校では教壇や黒板を正面に整然と机を並べているような教室は少ない。たいていは4~6卓の机を大きなテーブル式にまとめてグループを作っている。近寄って息子の手元をのぞき込めば、地図を作成しているとこだった。オーストラリア大陸を模写した地図に山脈や河川、都市の名前を書き込んでいる。隣で算数をしていたブレ君が自分の勉強に退屈したのか、一緒に都市名を上げながら私たちの間に入ってきた。モンテッソーリの教室では、同じテーブルを囲んでいても、それぞれ学んでいることは様々である。息子は地理の勉強をしているけれど、隣のブレ君は算数、正面に座った子は英語の書き取りを、その隣でアキ君は作文をしていた。ここでは子どもたちの自主性を養うことを教育理念の一つに掲げているため、基本的に、子どもたちがその日の学習内容を自分で決めることになっている。集団で一緒に学ぶのは、イタリア語やスポーツ、音楽、アート、ドラマとか。英語や算数、社会、理科なんて科目は、それぞれの子たちが自分に合ったペースで勉強してゆくのだ。だから毎朝、学校に行くと子どもたちは今日は何を学ぶかを自分で考えてから勉強に取り掛かるんだそうだ。それを先生が基本的なカリキュラムを指針に、科目が偏らないようバランスを取るべく指導してくれる。オーストラリアの地図作りを一区切り終えたムゥは、それを地図が収められた棚に戻すと、今度は自分の名まえが記されたキャビネットからノートを一冊取り出してきた。教材やノートは、特別なプロジェクト以外生徒ごとに整理され引き出しに収められていて、子どもたちは勉強科目に合わせて選んでくることになっている。ムゥが選んだ次なる科目は算数だった。彼お得意の科目である。モンテッソーリスクールは3歳から始まるのだが(いわゆる幼稚園ね)、思い返せば入学当時、家でののんきな生活から離されての集団生活になかなか馴染めなかった息子の様子を当時の担任の先生が話してくれたことがあったっけ。授業中、息子は時折思い出したように席を立つと、戸口で2、3分さめざめと泣いてから席に戻ってきたのだそうだ。それを一時間おきくらいに繰り返していた、と。「なにかもう一種の儀式みたいな、息子さんの習慣になっていますね」という先生の言葉に、青ざめた私を励ますように補足してくれた。「ですが息子さん、数字見ていると心が落ち着くみたいなんですよね。数を数えるのが一種のセラピー効果になってるっていうか」入学当時、数を数えることで精神安定を図っていたという彼は、今では算数好きな子に成長していた。この日は、シンプルな数字だったけど、6-8とか11-18とかマイナスの計算をしてくれて、私を驚かせた。学校で習ったのかと聞けば、お姉ちゃんとぬいぐるみで学校ごっこをしているときに教わったのだそうで。先生に聞いたところ、本人その概念を理解しているし、興味を持っているのでせっかくだから掛け算や割り算と一緒にやらせているのだそうで。子どもが興味をもてば小1でマイナス計算も進めてくれる、とにかくファジーな学習環境なのではあった。そうこうする間に30分は経ち、「もう行っちゃうの~?」の息子の声を背に、娘の教室へ向かった。6年生のメェはサイクル3(4~6年生の子どもたち)の教室で勉強している。娘のクラスの生徒数は20人ほどだったけど、メェは中央のテーブルに3人の女の子たちと一緒に座って、アイパッドでダライラマ法王のリサーチをしていた。来週に控えた「Notable Night」の準備をしているらしい。「Notable Night―著名人の集う夜」とは、歴史上の著名人たちを学ぶためのサイクル3のイベントである。子どもたちは自分が選んだ有名人について学習し、それぞれが学んだことを発表して皆で学び合う。その人の人生をリサーチをしてレポートを書き、プレゼンするのだが、楽しく学ぶため、その人に扮してしまうのだ。その夜は、それぞれに割り当てられたブースをその人物が成し遂げた業績をアピールするポスターや作品、資料で飾り、その人の仮装をして、その人が食べていたであろう食べ物を振る舞い、ゲスト(私たち保護者ね)をもてなしてくれる。毎年、会場にはクレオパトラやナポレオン、ビル・ゲイツやハリーポッターのJKローリングなんかが集う楽しい夜となる。ちなみに去年はエルビス・プレスリーが二人もいて、ドッペルゲンガーかと思った。(^^;子どもたちが扮した著名人の名前当てクイズも楽しく、それぞれに工夫を凝らしたパフォーマンスも楽しめるし、いろんな国の食べ物も食べられて、お腹いっぱ~いになる楽しい企画なのである。反面、その準備が大変だ。今年メェはダライラマ法王を選んだ。私的にはナイス!なチョイスだと思うのだけれど、それにしても、チベット食って、何を振舞うつもりなんだろーか?それにコスチュームの法衣は??なによりも髪型は??? メェ、坊主頭になるのかっ????おっといけない、話が逸れてしまった…。娘はリサーチを止めると、アイパッドを棚に戻し、せっかく来てくれたのだからと教室の案内を始めた。小さな学校なので、他校のようにコンピュータルームはないのだけれど、教室に数台パソコンやアイパッドは用意されている。必要なときに立ち上げて、いつでも使っていいことになっているのだそう。それから奥のキッチンのコーナーへ。流し、オーブン、電子レンジなんかがそろっている。自由に使っていいことになっているので、娘も時々お弁当に夕食の残りやピザやパスタなんかを持っていって、レンジでチンして食べている。ちなみにオーストラリアの学校では給食がないのよ(涙)。代わりにカフェテリアのある小学校も多いようだけど。キッチンは、料理の学習にも活用される。あかじめ料理の計画を立てて先生からOKをもらえば、授業の一環として料理も楽しめるというわけで、娘も友達2、3人と一緒にタコスやピザを作っていたっけ。そうして完成したものは皆でランチのときに試食するのだそうで、なかなか美味しい学習ですね。さて、2階のメゾンネンに続く階段の下は、読書コーナー。隠れ家的な小狭い空間に大ぶりのビーンバッグ・クッションが数個置かれていた。本が読みたくなったら、ここで一人ひっそりと本の世界にひたるんだそうで、く~、素敵っ!上のメゾンネンには、デスクの他に、本や資料や、様々なモンテッソーリ特有の道具が置かれていた。モンテでは、サイクル1から様々な道具を使って学ぶ。たとえば算数で使う、数の概念をより視覚化して考えるための、ちょっとソロバンを彷彿とさせる、ビーズをつなげたような道具とか。おっと、奥にチェス・デスクを発見!けれどさすがにこれは授業中は使っちゃいけないことなっているんだそうで。(^^;それから娘は教室の外へと案内してくれた。サイクル3では教室に専用の庭、クラス・ガーデンが付いている。そこで子どもたちは菜園を作り、トマトやほうれん草なんかを栽培していた。採れた野菜は、クラスペットのギニーピッグにあげたり、自分たちで食べたり、放課後に学園内でお迎えに来た保護者に売って、クラス費にしたりするのだそう。そう、娘のクラスでは庭でギニーピッグを飼っている。顔が白と黒のツートンカラーなので、ツーフェイス。係と当番制で、クラス全員で世話をしているんだそう。週末は希望者が交代で家に連れて帰って面倒を見ることになっている。娘もツーフェイス君の我が家へのお泊りを切望していたけれど、うちにはギャンギャンこうるさいワンころが2匹いるので、招待できた試しがない。なんでもギニーピッグはデリケートで、犬から吠えまくられたらショック死してしまうかもしれないんだそうで…。あ、でも、サイクル1に通っていた息子のクラスペットの方は週末お泊りに来てくれたことがあったっけ。蚕100匹、あんま嬉しくはなかったけれど…。(詳しくは2011年10月の日記デス)「ママも抱いてみる?」と、ツーフェイスを膝に抱き、菜園の葉っぱを食べさせていた娘が尋ねた。私も菜園のベンチに腰を下ろして、ツーフェイスを膝に抱き、そうっとその背を撫でてみる。ふかふか、ふわふわの体がかわいくて、心が和む。あったかな癒し系。晩冬の穏やかな陽光がぽかぽかと気持ちいい。菜園の野菜の葉がそよそよと風に揺れ、なんて気持ちいいんだろう。子どもたちは授業中、勉強に疲れたり、気分転換をしたくなったら、いつでも庭に出て、いいのだそうだ。菜園に水をあげたり、ツーフェイスの世話をしたり、だっこしたり、新鮮な空気を吸って寛いで、リフレッシュする。授業中、庭に出ていいのは15分以内となっているのだそうだけど、それだけあればかなりのリフレッシュが望めそうである。サイクル3ともなると、やはりかなりの自由が許されているんだナ~と改めて感心した。勉強に疲れたら、ふらりと庭に出て外の空気を吸えるなんて、恵まれた学習環境だと思う。娘に教室内を案内してもらっているうちにあっという間に参観時間は終わってしまった。この後Graduate(6年生のことをモンテッソーリではこう呼ぶ)だけのミーティングがあるというので、娘はそちらに参加した。先生が見て行ってもいいと言ってくれたので、こちらも覗くことに。モンテッソーリ小学校教育の最終学年、クラジュエイトには学校活動において様々な役割が与えられる。たとえば隔週で開かれる全校集会や学期ごとに実施されるファンドレイジングも6年生全員(といっても2クラス合わせて14人だけど)で執り行う。全員が州のリーダーシップセミナーにも参加しているそうで。ひょんなご縁から子どもたちがお世話になることになったモンテッソーリ・スクール。元々はモンテッソーリ教育にとりたてて関心があったわけではなく、単に娘が地元の公立幼稚園の3歳キンダーの入園に抽選で落ちてしまったことが切っ掛けだった(オーストラリアでは国の権利教育の恩恵にあずかれるのは4歳からなので)。それで慌てて私立の施設を探し、たまたま受け入れてくれたのがここだったのだ。今はこの学校に巡り合えてラッキーだったと思う。娘にとっては残り少なくなってしまったモンテッソーリ生活―卒業はすぐ目の前だ。残された日々を楽しんで、笑顔で卒業してくれればいいな。今日は、普段見ることのできない子どもたちの学校生活を覗き見れて良かった。写真は、娘に抱っこされてるツーフェイスです。
2013.09.04
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