ユーカリの木陰で里の行
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先月、日本に帰ったときこんな本を見つけた。『だいだい四国八十八ヶ所』宮田珠己著四国巡礼の旅は、私も一度してみたいと思っていた。表題の「だいたい」というアバウト感もいいし、表紙ののほほ~んとしたのびのび感もいい。ゆうらり黙々とお遍路さん願望をあおる表紙である。生活の場では周囲に不信感を与えてしまいそうであまり公にはできないけれど、生来私はいわゆるスピ系が好きである。巡礼の旅とかリトリートとか聞くと、心がうきうき弾んでしまう。仏教に限らず寺院めぐりも教会めぐりも大好き。聖地とかパワースポットとか聞けば、赴いて瞑想なんかをしたくなってしまう。歩き旅をしながら自分の内面と向き合うなんて、う~ん、なんて贅沢、なんて素晴らしいんだろう。などと、スピ系なお気軽さを胸に手に取った一冊であったが、著者の宮田さんは山岳ライターだった。既に出発の段階から、「さらに杖も大切で、四国遍路に同行二人という有名な言葉がありますが、それはつまり弘法大師とふたりという意味なのです、そしてこの杖がお大師さんと言われているのです。おお、そうなのか、杖の正体は弘法大師であったか、ぶあははは、見破ったか才蔵! ってそんな話じゃないと思うが、とにかく、橋の上でこの杖を突いてはいけないとか、宿では上座に置いて寝るとか、いろいろと杖にも作法があって面倒くさそうなので、弘法大師は置いていくことにした。だいだい山道はともかく、平地で杖など邪魔である。実はそれを見越して平常時はコンパクトに折りたためるスキー・ストックを一本持ってきてあった」四国遍路に同行二人―そういうことなら、私であれば、その前提におおいにのっかって、道中は弘法大師の化身であるという杖に話しかけつつ遍路歩きを楽しみ、宿では添い寝もしたいところであるけれど、宮田さんは「面倒くさそうなので、弘法大師(の化身である金剛杖)は置いて」ゆき、プラクティカルな「スキー・ストックを」手に、歩き遍路に挑戦してしまうのだった。ご本人、「信仰心からではなく、・一周してみたい(四国)。・全部まわってみたい(八十八ヶ所)。・いっぱい歩きたい。という三点をお遍路する理由」に挙げてらっしゃるだけあって、神秘体験スピ体験満載の巡礼記には遠く、これは淡々と、軽快に楽しく笑えるロード記録なのだった。実際、お寺の記述より、道路や土地に関する記述の方が多かった。そのぶん実用的で、私もけっこうリアルに四国八十八カ所歩き遍路の旅をバーチャル体験させてもらった、気がする。あなたにとって四国巡礼の旅とは?と聞かれたら、「マメです」と即答するというだけあって、足のマメ問題との飽くなき戦いはリアルにしてドラマチックである。その対応策の数々はかなり役に立ちそうだ。それまで私は、お遍路さんといえば、白衣と菅笠を纏って、金剛杖を突きつつ、数珠を手に一人黙々と山道やら海沿いの道を歩いてゆく、というイメージを抱いていたのだけれど、この本よれば四国巡礼道のほとんど「9割以上が舗装道路」であるという。歩道がない道も多いとか、トンネルも多いとか…。そんな道状況って、怖すぎる…。宮田さんがガードレールもないトンネルの中を後ろから追い越してゆく、もしくは前から迫ってくる車を警戒しつつ歩いてゆく場面では、こんなことなら物の怪にでも遭ってしまう方がよっぽど風情があって、まだしも心安らぐだろうナと思わされた。山や建物で先が見通せないカーブの道をトラックとすれ違うたび、もしもの場合いかに難を逃れるか、自らをジャッキー・チェンよろしく横っ飛びするイメージをシミュレーションしながら歩くくだりでは、もう私が実際に四国巡礼の旅に出ることはなかろう、と思った。それでも、お遍路歩きですれ違う人々との出会いのエピソードは心温まる。ときおり描かれる寺はそれぞれに魅力的で、太平洋岸でのキャンプをしながらのシュノーケリングや四万十川のカヌー下りなんかの冒険では、自分はすることはあるまいと思いつつも面白そうで、なにより四国の雄大な自然に惹かれ、四国八十八カ所巡り―やはり一度はしてみたい~!本書を読み終えるころには、四国巡礼の旅への憧れを強くしつつも、でも私に一周は無理だろうから、宮田さんが「素晴らしい道」だと他のお遍路さんから教えられ、かつご自身も「素晴らしかった」と感想を述べてらした香川県の五色台辺りを歩いてみようと心に決めた。本を閉じ、「いいな~、四国八十八カ所巡り。巡礼したいな~、歩きたいな~」と呟いていたら、「じゃあ、ブッシュ・ウォークでも行く?」と、ダディンが提案してくれた。雑木林歩き…ってのは、それはちょっと違うだろ。とは思ったものの、ベター・ザン・ナッシング自然崇拝ウォークでもしてくるか、と家族で出かけることにした。車でグレートオーシャンロード沿いの街、ローンに向かった。グレートオーシャンロードはその名の通り海沿いを走るので景観も美しく、メルボルン旅行ではペンギンのフィリップ島と並び、観光スポットとされる土地である。ダディンによれば、ローン近郊に滝の美しいハイキングコースがあるという。車から降りて山道を登り始めるや子どもたちは早速『ベア・グリルズBEAR GRYLLS』ごっこを始めてしまった。冒険家Bear Gryllsが毎回とてつもなく辺鄙な無人島みたいな場所に繰り出してはサバイバルを繰り返すというテレビ番組(本にもなってるけど)である。ダディンが(多少くたびれてはいるが)そのベア・グリルズ、娘のメェはディレクター、息子のムゥはAD、デジカメを持っていた私はカメラクルーというキャスティングである。息子はこのために、ダディンがカード会社のポイント集めでもらったサバイバルバッグまで持ってきていた。中には方位磁石や水筒、双眼鏡やスナック菓子(乾パンという設定ね)が入っている。子どもたちに頼まれ、あくまでも冒険心と緊張感に徹しつつ雑木林へと分け入ってゆく。途中すれ違う人たちは、正体不明の獰猛な動物である。だが山登りでは皆さんフレンドリーに「ハロー」とか声をかけてくれるので、こちらも笑顔で挨拶を返すことになる。そのたび私は「しっ!」とか子どもたちに睨まれ、即座に木の陰に隠れるようにとか機敏な動作を要求されてしまった。スピ系ウォークを胸にやってきた身には、鬱陶しい感は否めなかった。。。そうこうするうち、小川のせせらぎが聞こえてくる。「水の音がするぞっ」と、ムゥ。「ありがたい、食糧にありつけるかもしれないぞっ」と、メェ。「しっ、向こうから何かが来る!」などとダディンまでハマっている。熱い3人からは故意に一人後れを取りつつ、そのうち滝壺へ到着した。華厳の滝のある県出身の身には、なんだかかわいらしい滝壺であったが、それでも、景観。弾ける水流も、岩肌も、木々の緑も美しく、小鳥のさえずりも、水の音も心に響く。サバイバルな輪につかまってしまう前にと、一人岩陰を見つけ、岩の上に腰を下ろして瞑想をした。小鳥や虫、木々の息吹きについブレッシングをしたくなってしまう。ああ、長閑な自然に囲まれていると唱えるマントラの響きもほとんど鼻歌になってくるな~。ふっと人の気配がした。子どもたちがサバイバルしに来たのかと振り返れば、若いカップルである。二人のどこか怪しげなものでも見るような視線とかち合ってしまい、一瞬焦った。マズイ、マントラを唱えていたのが聞こえてしまっただろうか?いや、大丈夫だろう、単に鼻歌を口ずさんでいるのだと思われたに違いない。いや、いずれにしろ、おばさんが一人お歌を歌っている図というのは、怪しいだろ、それ…。とにもかくにも二人の目が「そろそろそこどいてくんな~い」と語っている。なんとなく気まずいお愛想笑いを交わしつつ、その場を離れた。子どもたちとダディンは、巨大な河を対岸へ渡らねばならない、という設定で、小狭い川の間を転々と並ぶ2、3個の岩に飛び乗っていた。掛け声と動作がいちいち派手である。傍目にはこちらも相当怪しげな動きではあったが、寄らば大樹の影、一人より四人の怪しげ感の方が、やっぱ安心感ありますねぇ。いやぁ、人口密度の低いオーストラリアにあっても、けっこー人は来マス。それから滝の上流まで登り(といっても大した距離ではないのだけれど)、見晴らし台でAD役のムゥが運んできてくれたスナック菓子と水を飲んで休憩した。もちろん、チョコ菓子は乾パン、ミミズの形のグミは、乾燥させたミミズってことで。こんなものじゃ腹の足しにはならん!とメェのお腹が本気で減ってきたので、街へ戻ることにした。お腹が減ると超不機嫌になる、ティーンエイジャー一歩手前の娘は、帰り道サバイバルゲームも忘れてぷんぷんしていたけれど、8歳の息子の方は楽しかった~~~!を連発していた。ローンで遅いランチを取って、それからビーチに出た。明日から暦上は春、とはいえ8月―まだまだ冷たい水に子どもたちは水着もないのに潜ってゆこうとする。押し問答の果てに、靴は脱いで、ズボンのすそをめくって、足だけ!ということで子どもたちは波の中へ駆けていった。そうしてその一時間後、帰ろうと駐車場の方に戻りかけたとき、ムゥは波にのまれ、転んで、びしょ濡れになってしまったのだった。。。着替えもないのに…この、あたかも狙ったかのようなオチに、今月のブログは先週末に行ったレイクマウンテンでのちびた雪遊びを書こうと思っていたのだけれど、ローンのハイキングに変更しました。写真は、くだんの滝壺デス。メルボルンにいらしてもし時間が湯水のようにおありになられたら、ぜひ一度いらしてください。ついでに雪の消えかけたレイクマウンテンで子どもたちが今年初めてつくった雪だるまの写真も。とぼけた感があまりにかわいかったので、アップできるかトライしてみます。でもって、『だいだい四国八十八ヶ所』表紙の写真も、アップできるかな?
2014.08.31
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