PR
Free Space
Comments
Category
Freepage List
Keyword Search
Calendar
さらに時は流れ、アンドレスがアパサの元に来て、はや半年が過ぎていた。
最近では、アパサは自らも棍棒を手に、アンドレスの相手をするようになっていた。
アパサの攻撃は常に、アンドレスにとって、単にその技術的な未熟さを突きつけるに留まらず、むしろ心理的に突き崩してくる種類のものだった。
アパサは、アンドレスに対して、己の攻めが利く部分は敢えて攻撃してこなかった。
そのかわりに、アンドレスが最も得意とする技や、最も強い部分、そして、アパサにとっては切り込みにくいであろう部分を、逆に狙って攻めてくるのだった。
アンドレスにしてみれば、常に自分の自信のあるところを攻め立てられ続けるため、逆に、心を攻め込まれた状態になってくる。
そのようなアンドレスの心の恐れや惑いをアパサは瞬時に読み、後は軽く裁いてあっさり勝利した。
アパサは冷ややかな眼差しで、アンドレスを見下ろした。
「単にやれと言われたことを言われた通りにやっているだけでは、強くなどなれないぞ。
常に、頭を使え。
技の問題だけではない。
敵の心を攻め切って、勝て。」
アンドレスは、幾度となく聞かされてきたアパサの言葉に、苦々しい思いで「はい。」と答える。
「これは単に戦場だけのことではない。
どのように強大に見える敵でも、常に隙が無いなどということは絶対に無い。
相手の心を読み、相手の嫌がることをしろ。」
アンドレスはアパサを、改めて見上げた。
アパサの目は不遜ではあったが、ひどくまじめでもあった。
「敵を切るには、何が必要か。
それは、敵を崩すこと。
では、どうすれば崩れるのか?
常にそれを考えろ。
いいか。
これは、戦場だけのことではない。」
そして、少し言葉を区切って、再び続けた。
「おまえもだが…、トゥパク・アマルも、俺から見れば、あまりに真っ向からクソまじめにいきすぎる。
時に、廉潔は命取りになる。
それだけではない。
味方さえ危険に晒しかねないのだ。」
そして、アンドレスを改めて見据えて言う。
「アンドレス、おまえはもっとずるくなれ。」
アンドレスは返事に詰まった。
が、何か、アパサは重要なことを言おうとしているのだ。
武器を手にしたまま、アパサは空を見上げた。
「そろそろ、また冬がくる。
トゥパク・アマルはいつ動くのか…。」
アパサは独り言のように呟いた。
アンドレスも、つられるように空を見上げる。
乾いたこの土地の秋空は、まるで吸い込まれそうに高く、眩暈を誘うほどに澄んでいた。
コンドルの系譜 第三話(90) 反乱前夜 2006.05.04 コメント(10)
コンドルの系譜 第三話(89) 反乱前夜 2006.05.03 コメント(10)
コンドルの系譜 第三話(88) 反乱前夜 2006.05.02 コメント(10)