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やがてアンドレスが口火を切った。
「アリスメンディ殿、あなたが英国から運んできて我々に供与してくださった武器は、先日のアレキパ砦戦でとても助けになりました。
本当にありがとうございました」
「役にたったのならばよかった。
ところで、今、戦況はどのようになっている?
私も情報は集めているが、実際に戦ったそなたたちから聞くのが一番であろうからな」
アリスメンディの問いにアンドレスは頷き、最近の戦いの様子について以下のように説明していく。
洋上での海戦は英国艦隊がスペイン艦隊に圧勝。
しかし、勢いに乗って陸に攻め寄せた英国艦隊は、アレキパの砦に布陣したアレッチェ率いるスペイン陸軍による凄まじい砲火を浴び、英国艦隊が壊滅的な打撃を受けることに。
あわや英国艦隊は全艦撃沈かと思われた最中、トゥパク・アマル率いるインカ軍がスペイン砦に猛攻撃をかけ、スペイン陸軍の力を削(そ)いだ。
その結果、スペイン陸軍の英国艦隊への攻撃に隙が生まれ、英国艦隊は全艦撃沈を免れ、生き残った艦は沖合の洋上へ退避した。
また、陸上での決戦では、副王ハウレギの嫡男アラゴン率いるスペイン王党軍とトゥパク・アマル軍との苛烈な戦いが行われたが、きわどいところでアパサ率いる援軍の加勢によってインカ側が優勢となりスペイン砦の占拠に成功。
惜しくも副王の嫡男アラゴンには逃走されてしまったが、砦内で負傷したアレッチェは捕らわれてトゥパク・アマルの元で治療を受けている──。
そこまで一気に話しきってから、アンドレスは小さく息をついた。
「そういうわけで、アレキパのスペイン砦はインカ軍が制覇しましたが、以前から戦闘の続いているクスコや副王の本拠地であるリマは全く決着がついていません。
沖合に退避した英国艦隊の現況も分からない状態です。
インカ軍にとっても、スペイン軍にとっても、厳しい戦況が続いていて、どちらに勝機があるのか未だ見えない……そんな状況です」
それら一連の話にじっと耳を傾けていたアリスメンディであったが、やがてゆっくりと頷いて口を開いた。
「なるほど、戦況は膠着しているようだな。
とはいえ、インカ軍のおかげで、英国艦隊はなんとか生き延びることができたというわけか」
それぞれが記憶を辿ったり、思い耽ったりしているためか、しばし地下室に静寂が訪れる。
卓上の燭台の灯りがジジジ…と小さな音を立てて震え、壁に掛けられた十字架の影をゆらゆらと揺らめかせている。
やがて、アンドレスが遠慮がちに問いかける。
「アリスメンディ殿、立ち入ったことを聞くようですが、この場所を拠点にしていらっしゃるのは、何か理由があるのですか?」
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。
≪ジェロニモ≫(インカ軍)
義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。
スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。
スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。
身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。
これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。
≪ペドロ≫(インカ軍)
インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。
此度のアンドレスの旅の同行者の一人。
20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。
≪ヨハン≫(スペイン軍)
スペイン軍の歩兵。20代半ば。
偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。
スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。
≪マリオ≫(インカ側) アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。
≪リリアーナ≫(インカ側) 聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。
≪アリスメンディ≫(インカ側)
イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。
かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。
英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。
上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。
≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)
植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。
単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。
キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。
◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆
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