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三度目の巡り合い権八の居所を突き止め、稲田兄弟は、見守っていてくれればよいと蔵屋敷の侍達と権八の帰りを真葛ガ原で待ち伏せています。比呂恵を送り、真葛ガ原のはずれにある世話になっている寺へ帰る途中、権八は殺気を覚え足を止めます。 暗闇から姿を現し、稲田兄弟達は権八を囲みます。権八 「貴公ら、なにか拙者に誤解を」と言う権八に、つかさず富士馬が言います。富士馬「いうな紅権八、姫路において貴様の剣に倒れた稲田辰之進の弟富士馬だ」権八がはっと驚きます。そして、もう一人の方に目を向けます。辰馬 「富士馬の兄、辰馬だ」 富士馬が続けて言います。富士馬「兄辰之進、並びに棟方鉄心先生の恨みをはらしてくれる。さ、抜け」権八 「なに、棟方先生を私が・・」 「とぼけるな、尋常に勝負せい」と言われた権八は権八 「あのときの手ごたえの一刀が、棟方先生であったとは・・」と悲しみにむせびます。斬りこんできた富士馬の剣をよけ、刀を抜こうとしましたが思い留まり権八 「待て・・待ってくれ」卑怯だ抜けといわれます。 権八 「貴公の兄は、拙者を闇討ちにしようとしたのだ、拙者が仕掛けた決闘では ない」と釈明しますが、事の起こりは知らないが、兄は権八のその刀で殺された、と富士馬が言い権八に斬りこみ、つぎに辰馬が斬りこみますが、手ごわいと見た蔵屋敷の侍達が加担してきます。こうなっては権八も刀を抜きます。 しかし、無益な殺生は好まない権八は、彼らから逃れるより術がなかったのです。富士馬達が血眼になって探し行き過ぎたのを確かめた権八。権八 「あの一刀が、棟方先生を・・」 苦しい悲しみが込み上げ権八は男泣きをするのです。 江戸へ向かっている権八を比呂恵達も追います。その道中、富士馬と辰馬兄弟はそれぞれに比呂恵を愛し始めていました。二人の言い争いが自分のことが原因と知った比呂恵は、夜中宿をひとり飛び出していきます。比呂恵さん・・比呂恵さん・・」と呼びながら夜道を探し、水車小屋の前を通り過ぎていく稲田兄弟がいます。その様子を何事かと水車小屋から出て来たのは、紅権八でした。「比呂恵さん」と探す二人の侍は権八を仇と狙ってきた者達だと・・何かが心にかかります。行くてもなく宿を出た比呂恵は水車小屋のところにやって来ていました。外に出ていた権八が、後ろを振り返った時、目に入ってきたのは、比呂恵の姿でした。権八に思いを寄せ始めていた比呂恵は、思いがけないところでの三度目の巡りあいになります。権八もあった時から愛おしく思った比呂恵との再会に嬉しさが顔に出ています。しかし・・・その二人の嬉しさは・・・。 続きます。
2019年01月28日
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あなたがお美しいからでしょう父を切られた比呂恵と兄を切られた稲田辰馬と富士馬の三人は紅権八を追って京へ向かって仇討の旅へ出ます。峠を越えたあたりで水を汲みに谷川に降りた比呂恵は、渓谷の中人目を意識せず、着物の裾をからげて流れに入ります。水を汲もうとする比呂恵に向かって、一匹の蛇が寄って来ます。比呂恵が呆然としていると、小石が飛んできて蛇は逃げていきます。その小石を投げたのは、紺絣を着て編み笠をもった紅権八です。権八から声をかけます。権八 「驚いたでしょう」 比呂恵は、はしたない姿をしているのに気がつき慌てて着物の裾を下ろします。権八もそれを見て目のやり場に困った様子を見せます。 権八 「山道での油断は、禁物ですよ」 水から上がった比呂恵が権八に何か言おうとしたとき、比呂恵を呼ぶ声が聞こえ、権八 「おお、お連れがお待ちのようですな、じゃ」 と言い立ち去る途中で、「比呂恵さ~ん」「比呂恵さ~ん」と連れが呼ぶ声を聞きながら、後ろ髪を引かれるように数回比呂恵の方に目をやりますが、そのまま去って行きます。比呂恵は権八に声をかけようとしますが、待っている連れの声に諦めます。(この場面は、権八の一秒ごとに動く目線がものを言います。目の動きを見ているだけで、初めて会った比呂恵に対する一介の渡り武芸者という権八の切なさが分かります。・・・さすが目千両の橋蔵さま) 場所は京都に移ります。辰馬、富士馬、比呂恵達は京に入りました。祇園祭の夜、富士馬が権八の居所が分かったと宿で待つ辰馬に知らせます。京の町に出ていた比呂恵が酔った侍達にからまれているのを助けたのは権八でした。権八 「またお目にかかりましたねえ」比呂恵「そして、またお助け下さいました」権八 「いやあ、蛇や酔いどれに絡まれるのも・・・」比呂恵「何です?」権八 「あなたがお美しいからでしょう」恥じらう比呂恵。 行こうとする権八に「あの・・」と比呂恵が恥ずかしそうに声をかけると、権八 「お住まいはどちらです、お送りしましょうか」比呂恵は嬉しそうに・・二人は歩きだします。 しばらく黙って歩いていた権八が比呂恵に聞きます。権八 「京見物ですか?」比呂恵は足を止め暗い顔で「いいえ」と答えます。権八が振返ると比呂恵は権八と共に歩きだしますが、「そのように見えましょうか」と足を止めます。権八は比呂恵のほうを見て、権八 「何がです」比呂恵「京見物に参ったように」権八 「悪かったですか、そんなことをお聞きして」比呂恵「いいえ、・・・敵討ちの旅なのです」 比呂恵は権八にそんなことを言った自分が恥ずかしくなり「ごめん下さいませ」と急ぎ足で先へ行きますが、少し行ったところで後ろを振り返り、何故か権八にひかれるものがあり権八のところに戻り、権八は比呂恵をそっと引き寄せ・・・二人は無言で肩を寄せ合って歩いていきます。 掘割を歩いて橋を渡ったところで、「あのう、あのう、宿に連れが待っているので、ここで失礼します」と比呂恵が権八に言うと、権八は別れがたい気持ちがあるが、何も言わず比呂恵を見送ります。比呂恵も別れがたくうつむく振りをして何度も後ろを振り返ります。権八も立ち去りかねて、比呂恵の姿をずっと追い、宿の前まで比呂恵が行ったところで、二人は笑顔を交わし分かれます。 (権八と比呂恵が再び会ったこの場面、2分40秒は、言葉は少なく、一つ一つがわずかな動きと二人の目の動きだけでの場面になります。権八は様々な思いを目にこめて初々しい比呂恵を求めるのです・・・橋蔵さまの、何と言えばよいでしょうか、憂いに満ちた流し目が、立ち去りがたい気持ちを表現していきます。比呂恵にも熱いものが・・・) 権八が去るのを見送った比呂恵に、宿の者が稲田からの手紙を渡します。そこには、真葛ガ原に出かけると書いてありました。(権八の居場所が分かったのです) 続きます。
2019年01月24日
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「濡れ燕 くれない権八」・・・(1)の前書きをお読みになってから、本筋に入っていただきたいと思います。(載せる画像はVHSの古いものになります。暗い場面が多いのと、露出の具合でそのまま載せますと画像がはっきりしないところが多いので、露出などを私の感覚で調整して掲載していくようになります。ご了承下さい)第41作品目 1958年10月封切 「濡れ燕 くれない権八」 紅権八 大川橋蔵小夕 長谷川裕見子比呂恵 大川恵子稲田富士馬 尾上鯉之助稲田辰馬 堀雄二相良平太夫 沢村宗之助佐七 徳大寺伸棟方鉄心 市川小太夫戸梶喬四郎 加賀邦男稲田辰之進 中村時之助和尚 水野浩花川戸子分勘太 時田一男花川戸長兵衛 市川右太衛門姫路城での御前試合で、棟方鉄心と対決して相打ちの判定を受けて引き上げた長州の浪人・くれない権八は、鉄心の雪辱を晴らさんとする門弟たちの闇討ちにあいます。 やむなく応戦した権八は闇討ちを止めに来た鉄心と、首謀者の稲田辰之進を斬ってしまいます。 鉄心の娘比呂惠と辰之進の弟二人が仇討ちのため権八を追い京に向います。 ふとしたことで山中の川べりで会った権八と比呂恵は京の町で再会をし、互いに惹かれるものを感じはじめますが、その時は仇同志ということには気付かなかったのです。 ある夜、比呂惠は仇の相手が権八と知り愛憎に苦しみ、権八もあの時斬ったのが比呂恵の父鉄心と知り、討たれようとするがそれもままならず、自分のために好きな女性が苦しむことになすすべも無く江戸へ向かいます。いつか比呂恵に打たれるためにだけ生きていく権八なのです。剣の秘密などあるわけがないここは、姫路藩剣道指南役、棟方鉄心の屋敷。お茶を持って来た娘の比呂恵は、月が雲に隠れている庭で剣を振る父の異様な姿を目にします。周囲の様子を窺いながら縁側に出ましたが誰もいません。鉄心は構えをやめると「わからん」と一言いい剣を鞘におさめます。お茶を一気に飲みほす父に、比呂恵がどうしたのかと聞きます。すると、鉄心は試合をしていたというのです・・・庭に誰もいません。誰と?・・昼に御前試合をした青年剣士「紅権八とだ」と言います。比呂恵が庭を見渡し誰もいないというように「でも・・」と、それに対し鉄心は「居る、いまでも、昼、わしを圧倒し去った、あの青年の秘剣の切っ先が、まだ目の前にある」と言うのです。試合の判定は相討ちとされたが、鉄心は「わしの負けだ」と言うのです。比呂恵が名もない若いものに敗れて悔しくないのかと言いますと、「なかなかいい青年だった。ああいう青年が、わしの門下から出てくれたらと思った」と権八を気に入った様子で比呂恵に言います。そんな話をしているところに、老僕の治助が慌ただしく駆け込んで来てきます。稲田、坂下以下三名の門弟が、紅権八の剣には秘密がある、破ったのは腕ではなくその剣の秘密だ、それを暴いてやると、鉄心の名をかたり紅権八を地蔵河岸へ呼び出したというのです。鉄心は「無用だ」と地蔵河岸へ急ぎます。ちょうどその頃、紅権八は、棟方鉄心からの呼び出しと信じ、世話になっている寺の和尚に見送られて出かけるところです。和尚「一雨来そうじゃ、傘をお持ちなされ」権八「はっ、・・行ってまいります」 和尚「今夜は遅くなりますな」権八「いやあ、多分、棟方先生の話を聞くのは、われわれ若輩の渡り武芸者にとっ てはこの上もない話・・御免」 鉄心の話を聞けると楽しみに出かける権八を和尚もにこやかに見送ります。(権八のこのような笑顔はこのあと見ることができなくなります) 鉄心の門弟達が権八を闇討ちするために地蔵河岸で待っています。門弟のひとりが権八がやって来たことを告げると物陰に潜んで権八を待ちます。権八が小川に架かった橋を中程まで渡って来たとき、雨が降り出します。 傘を開こうとし、ふと殺気を覚えた権八は飛んできた手裏剣を傘で受け止めます。(この場面は、権八の下駄の音だけが響きます→そして雨の降り出した音から→手裏剣が傘に刺さる音だけ) (さあ、ここから暗闇の中での立回りですから、橋蔵さまの目の動きが物を言います)権八が闇のなか、目を凝らします。 鉄心の門弟達が姿を現します。権八「誰だ、名乗れ」「棟方鉄心一門、稲田辰之進」「坂下三郎太だ」権八「棟方先生のお指図か」 稲田は、我々門下の意志だといいます。渡り武芸者の怪しき剣の秘密を暴いて、先生の雪辱を期すというのです。権八「お止めなさい、剣の秘密などあるわけがない」 返答無用、で門弟達が権八を囲みかかっていきます。 囲まれてはいたし方ない、権八は雨の中、下駄を脱ぎ棄て刀をかまえ応戦します。(雨の中の立回り途中で、制止姿勢からから次の動作に移るとき、橋蔵さま左袖が雨でくっついてしまっているので、何気なく左袖をはらうのですよ。普通ならここでカット、撮り直しになるか、途中からやり直しになると思いますが、橋蔵さまはこの何気なく修正が上手い。若さま侍の時などでも袖を何気なく直すところがあります。私、橋蔵さまの何気なくのそうした仕草が大好きです) 権八は無用なことはしたくないため、燈籠の灯りを消します。周りは全くの闇に・・斬りかかってきたものをやむなく払った権八の刀に稲田辰之進が倒れます。 ちょうど坂下三郎太が権八めがけ斬りこもうとするのを、駆けつけた鉄心が止めに入ったとは気がつかず、権八は鉄心を斬ると、闇の中をかけていきました。(鉄心とはわからず刀をはらうところ画像が流れてしまっています。あまりにも早い動きなので仕方ないですが・・・その勢い感じてください) 残った門弟が権八を追って行きます。比呂恵が老僕の治助と地蔵河岸にやって来ます。傷を負った鉄心を見つけ駆け寄ります。鉄心は「武道の試合に・・恨みはない。権八は、わしと知らずに・・・恨んではならぬ・・権八を恨むな」と比呂恵に言い残して息をひきとります。 続きます。
2019年01月19日
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皆様は、浄瑠璃や歌舞伎で白井権八という名はお聞きになったことがあるでしょう。歌舞伎狂言の主人公白井権八。武家の嫡男であったが,父の同役を殺害して国元を出奔し,江戸で渡りかち奉公をしているうちに吉原三浦屋の太夫小紫と深いなじみになり,金に詰って強盗殺人を重ねて処刑され、小紫もあとを追って自害する。この実説から美しい若衆の白井権八として浄瑠璃では脚色され、歌舞伎では幡随院長兵衛一件が加えられて、種々の趣向によって多くの作品を生んでいます。その白井権八を橋蔵さまにあった脚色でやろうという作品がこの「濡れ燕 くれない権八」になります。「くれない権八」は橋蔵さまが前からやりたいものの一つでした。橋蔵さまとしては、従来の東映調とはよい意味で違ったもの・・・自分の意志に反した事件のため、次から次へと皮肉な運命に操られる男女が、純粋なまま死んでいく、と言った美しいラブ・ロマンスにしあげることを希望したのですが、会社側からは余り暗いものや汚れるものはダメ・・・と、ラストはハッピーエンドとの注文が入りました。出来上がってきた脚本も定められた長さの制約があり、結局従来の白井権八のカテゴリーを出ないばかりでなく、甘くしたものになってしまったようです。橋蔵さまが提案した純粋なラブ・ロマンスが、興行的、営業的にもっとロマンチックなものに改変されてしまいました。 権八の役は橋蔵さまの今までの演技歴からすると新しい分野になりますし、権八の悲劇的な青春は、まさに橋蔵さまにうってつけの役柄です。武芸一筋にかけ愛してはならない女性を愛したがゆえにたどる悲劇。ひたすら愛情に生き抜いた情熱の青年剣士・・・橋蔵さまはあくまでも人間権八の心理の模様を描きだすといったキメの細かい芸を見せ、主人公の悲劇的イメージと一体になり、際立ってすぐれた出来上がりになりました。仇と狙う者と狙われる者が、ふとしたことから愛し合うようになるが、お互いの身分を知ったときには二人は離れられなくなっていました。愛と憎しみの分かれ道に立って悩む権八の悲恋の人生模様は強烈な感動と涙を誘います。 市川右太衛門御大自ら買って出てくれた花川戸長兵衛。作品を引き立ててくださっています。右太衛門御大が共演というので映画に出るのは珍しいことでした。やはり、御大との共演場面は素晴らしいものを感じます。この「濡れ燕 くれない権八」は、散文詩的な映画であるといわれます。水の流れに乗せて悲しい物語が動いていきます。言葉が静かに流れ、大声?をあげるのは大体殺陣の場面だけですが、その場面も出来るだけ声を殺しています。セリフが少なく、新しい型の歌舞伎を観ているような感じがします。言葉の代わりに動作、それもわずかな動きで微妙な雰囲気を出しています。その一番ものを言わせているのは・・・目がものを言いい、目が語るのです。比呂恵を求める権八は、さまざまな想いを流し目に込めます。(橋蔵さまならではの目の演技がものを言います。ここをどのように文字で説明しようか私は悩んでしまいます)大きく見開かれた権八の目が、ゆるやかな水の流れのように比呂恵を追うのです。橋蔵さまの歌舞伎仕込みの演技で、ややねっとりとした水の流れを見せるのに対し、大川恵子さんの演技はさらりとした小川の流れです。 内出監督の演出は水・・・水車、雨、雷鳴、川・・・、そして橋。権八が帰り道、橋のところで闇討ちに出会うところから、鉄心が権八に切られる場面が雨で始まり、権八が比呂恵と初めて会う山中には谷川が流れています。二度目に会った京の町で、宿まで送る時の小さな掘割に満々と水が流れています。比呂恵が敵と狙っているのが自分と分かるのは水車小屋、杵の音が響きます。花川戸長兵衛との出会いが川の中・・・と、出来るだけ言葉を押えて、水車、雷鳴、水の流れ、など音響効果を使っています。権八が小夕に謀られ材木河岸へ行くときの水割り・・・そこはこれから起こることで権八の涙になることを暗示した演出です。ラストは、恋を得た者と恋を失った者の別れの場を”橋と水”に表わしています。”橋”は惜別の場に使われています。 ということで、今回の「濡れ燕 くれない権八」は言葉が少なく、描写と橋蔵さまの目の動きに重点を置いたものなので、書く方としては非常に困難なことになります。そのため、いつもより画像を多く入れますので、少しでも作品の内容が分かってもらえたらと思っています。本当にこの作品は見ていただかないと良さが伝わらないかもしれません。しかし、DVDには現在なっていない作品。私が載せる画像も古いものになりますし、夜の場面が多いので、画像にしてそのまま載せますと暗くてわかりませんので、露出などは調整して掲載していくようになります。橋蔵さまの権八の苦悩に満ちた表情といい、一挙手一投足に目がいってしまうほどに、うっとりと切なく美しい作品です。前書きが長くなり、字数が多くなりましたので、本筋は「濡れ燕 くれない権八」・・・(2)より始めます。
2019年01月17日
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俺だって江戸の空が恋しいやい阿波屋万右衛門は、書付が上手く取り戻せるか気が気ではありません。手を打って人を呼んでも誰も来ないので、立ち上がり障子を開けようとした時、新三が入ってきます。険しい顔をした新三を見るなり阿波屋は「証文は」と・・・新三は盗って来た証文を畳に投げ捨てます。 中をあらためた阿波屋が「この証文さえあれば」と大喜びをしているところへ、新三 「旦那、お約束の百両、お渡し願えるでしょうね」すると、阿波屋は「百両なんて大金を・・そんな約束した覚えはない」と言うのです。 その言葉を聞いて新三は鼻掛けを取り新三 「何ですって」 その時、鉄蔵と町方が阿波屋の店を取り囲んでいます。戸をたたく音がすると、阿波屋は強気になり、阿波屋「ほれ、聞こえるやろ、お奉行所のお出まりや。けったいな真似したら承知 せえへんで」と言うと、新三は今まで押えていた怒りが抑えることが出来ず、座り込みもろ肌脱いで啖呵をきります。 (新三が仕方がないともろ肌脱いで、お待たせいたしました!!ここからがクライマックスでしょう。不知火小僧新三が胸がスカッとする啖呵を切ります。さすが橋蔵さま、声の調子といい啖呵のキレといい、歌舞伎を観ているようです) 新三 「おう、万右衛門、やさ、まんてき見そこなうねえ。俺を誰だと思ってやん でい。花のお江戸は八百八町、義賊と噂高札に誰不知火の新三さんだあ、 野暮な荒事はでいの嫌れえだが、あまりあこぎな真似をしやがると、首っ 玉引っこ抜いてやるからそう思え!」 新三 「ちぇっ、大方こんなことだろうと思って、そこの小箪笥から先に三百両ほ ど貰っておいたい」阿波屋「三百」と驚きます。新三 「そうよ」 阿波屋「そんな・・」慌てて小箪笥の中を確かめに行き、ないのを確認して、阿波屋が「おのれは」と新三に向って言いますと、新三 「うぬのような奴にお夏坊をまかしておいたら、これから先どうなるかし れるもんじぁねえ。あの子が一生食うに困らねえよう持たして国へけえ すのだい」 新三は阿波屋をねじ伏せ、さっき渡した証文を取り返し破り捨てますが、その時庭のほうに気配を感じます。 庭の方には捕り方が入ってきていました。静かに様子を窺っていると雨戸と一緒に阿波屋が・・そして不知火小僧が姿を現します。 「神妙にしろ」という言葉に新三は「おう、三下、見事とらえて見ろい」と言い、阿波藩の三人の侍には、「てめえらには、彦七さんのおけいしをもらうぜ」と言い、立回りになります。 阿波藩の侍を切ると、屋根へ上がり屋根伝いに走り、捕り方が追いかけ不知火小僧を追って屋根の上と地上からの大捕物になります。(最後の立回りの長さは約3分、そのうち屋根での走りながらの立回り約2分・・飽きさせません) 屋根から地上に降りたところで猪之や弥太が新三が船着場に行けるようにと援護をします。追っ手を掻い潜り途中までやってきた時、舟の出る合図のどらの音が聞こえ新三は急がなくては・・と。お六の助けで捕り方たちから何とか逃げることができ、船着き場へ急ぎます。新三を追っていた鉄蔵もそれを聞いて、新三を追うのをやめ船着場に向います。 新三を待っているお豊とお夏の前に、鉄蔵がやって来ます。不知火小僧を逃がす気でいるなとお豊に言うと、お夏は不知火小僧を捕まえる大事なおとりだと連れて行こうとするのを阻止し、お夏に早く船に乗るよう促します。船に乗ったお夏が、縄を置く大きな音がしたので振り向くと、「おじちゃん」と言います。新三が来ていたのです。 鉄蔵が新三を捕まえようと船に上って行こうとしたとき、新三が渡り板を引いたので海に落ちてしまいます。船の帆が上がり、出港です。お豊 「新三さん」新三 「お豊さん」 お豊 「あたしゃ、帰ってくるのを待ってるからね。今度こそ、容赦はしないよ」新三 「ごでんには及ばねえ。俺だって江戸の空が恋しいやい・・お豊さん・・」二人の心には同じ思いが込み上げていたようです。 お夏が新三の手をとり振るように顔をみます。新三とお夏はにこやかに手を振ります。手を振ってこたえるお豊。その様子を陰で見ていたお六は新三を追いかけるのは諦めたようです。 (完)
2019年01月11日
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出船までにはきっと駆けつける 「後ほど参上 しらぬ火」と書かれた張り紙があったので、阿波藩の大阪蔵屋敷の警備が厳重になっています。この中をどのようにしてお豊とお夏を救い出し、書付を取ろうというのでしょう。その厳しい中を一丁の駕籠が堂々と門の前に止まります。同心が駕籠の中をあらためるということで、駕籠のたれを上げますと商人姿の男が駕籠から出てきました。同心が何処のものかと聞きますと、その男は「はい、北鍋屋町の河内屋の店の者でございます」と。(関西弁で商人の物腰なのですが、どこかで聞いたような声ですよ・・??・・その声は・・不知火新三ですよ。器用に関西弁ですらすらと、物腰も低く、本当に商人らしいです)新三「主人が、阿波様のお屋敷へ来てはりまんやけど、ちょっと急用がございます よってに、へえ」通ることを許されると、新三「そうでっか、おおきに」というと、二人の駕籠かきに向かって新三「駕籠屋はん、通用門のところで待ってておくんなはれ」「へえ、よろしゅうおま」と返事をした駕籠かきは弥太と猪之です。 屋敷内に入ってしまえば、あとは不知火新三のおてのもの。中へ案内してくれる侍に、「あのう、もしもし」と声をかけ、侍が振り向いたところで当身をくらわし、「ちょっとご免よ」と言い木陰に入れると、新三は不知火小僧の黒ずくめ鼻掛け姿になり、二人を探しに庭奥に入っていきます・・・すると、お夏の歌声が聞こえてきたのです。 歌声の方に行くと、見回りが行き過ぎたのを見図り、蔵を開け閉じ込められていた二人を助け、お豊に通用門の方に行くと駕籠が待っているから、それに乗って一足先に安治川橋の船着場に行くように言います。六つになると阿波へ行く船が出る。その船にお夏坊を乗せてやりたいというのです。「お夏ちゃんを一人で?」と言うお豊に、「あの阿波屋に任せてはおけないんだ」と新三が言います。 外へ出て別れる時に新三は懐から風呂敷に包んだものを出しお夏に新三「この金な、阿波へ帰ったら、おじいちゃんやおばあさんに渡すんだぜ。いい な、しっかり持って落とすんじゃねえぜ」と言い、しっかりと背に括りつけます。それを見て、お豊が盗んだ金ではないかと思っているので、新三「これは怪しい金じゃねえ。真の通った金なんだ」とお豊に言います。 お夏が新三に「一緒に行ってくれないの」と言ってきます。新三「一緒に行ってやりてえが、そうはいかなくなったんだ。お夏坊、お利口だか ら、お姉ちゃんに乗せてもらえば、一人でお家へけえれるだろう」 「おじちゃんと一緒に帰りたい」とぐずるお夏を抱きしめ新三は言うのです。新三「聞き分けのねえ子は、このおじちゃん、きれいだと言ったろう」その様子を見ていたお豊は新三にこう言うのです。お豊「新三さん、一緒に行っておやりな」新三「だっておらぁ、お前さんとの約束どおり」 お豊「約束は約束だよ、ただ、お夏ちゃんへのはなむけに、お前さんが阿波へ送り 届けて帰るまで、もう一度だけ待ってあげるよ」新三「お豊さん」お豊「恩に切られちゃ迷惑だよ。約束はきっと守ってもらうんだから」新三「よし、分かった。それじゃ、残りの用件を片付けたら、出船までにはきっと 駆けつけるから、待っててくんな」 通用門から駕籠が行ったのを鉄蔵が見て警護の一人に聞くと、河内屋の者で表門前で確認していると聞き納得をしたのですが、表門の方へまわった時、変わったことがないかと聞かれ、河内屋が帰っただけで他には・・と言うと、河内屋はまだ帰ってはいないと言われます。その頃、新三は床下から入り込んでいました。中条藤十郎、真木三之助、河内屋が酒盛りをしているところへ、町方から屋敷付近に怪しいものを見たので気をつけるようにと、耳打ちされた中条と真木は席を立ち、書付をしまって置いた部屋へ急いで行ってみると、畳みが剥され、書付けはなくなっていました。「不知火参上 失礼御免」と襖に書き残されて・・。まだ遠くには行っていない、探せと屋敷中大騒ぎ。新三は天井裏から涼しい顔で逃げるようです。書付を阿波屋に持っていき、六つまでに船着場へ行かなければならない新三です。間に合うでしょうか。 続きます。
2019年01月04日
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